俺たちは一層でボス攻略を達成した。その次の日に体術スキルを取りに行ったら
こぶしで岩を割るクエストに2日もかかった。
てか、βテストのときも思ったけどあのヒゲが原因だろ。アルゴのヒゲって。
あとクエストが終わって帰ろうとしたらキリトとアルゴとすれ違った。キリトのヒゲ姿は傑作だったな。マジでキリエもんだった。
で、それから一週間程経ち俺は今…レベリングをしている。
俺はあれからも着々とレベルを上げて金は情報を売って稼いでいる。
そこらの情報屋が持ってる未攻略のクエスト情報を安く買って、自慢の速さで攻略する。で、その情報を高く売りさばく。簡単に言うと戦闘クエストを扱う情報屋だ。そのおかげか俺の金は回復薬をふんだんに使っても増えていく。まあアルゴはそれよりはるかに多く稼いでいるが。
さあ、今日もかなり狩ったし帰るか。
町に向かい歩いているとモンスターがやってくるが体術スキルで蹴り上げ剣で切り裂く。これが結構効率がいいのだ。そんなことを考えている間にも町にたどり着く。
ん?突如斜め後ろの方向に違和感を感じる。索敵ではない。ボッチで鍛えられた視線でも本能に訴えかける殺気でもない。ただの違和感。平和な日本では感じることの少ない危機感。
反射的に後ろを振り返ると路地の陰に二人の男が入っていくのが見える。
隠蔽を最大にしてゆっくりと路地に近づき、耳を傾ける。
ひ弱そうな青年?と、黒いポンチョを被った男。動きからして若くはないな。
というより何かを話している。
チームの為、クイックチェンジ?よくわからん…やばっ
俺は黒ポンチョが出てきたことに気づき慌てて身を隠す。
ニヤッ
俺の横を通る瞬間黒ポンチョは不敵にほほ笑む。
一瞬にして背筋が凍る。黒ポンチョと目が合った気がした。隠蔽は破られていない。
そして、そいつの目は腐っていた。俺とは似てて違う腐り方
まるで…
殺人鬼のような。
「It's show time♪」
男はそんなことを呟きながら立ち去った。
俺はぼーっとその男を眺めながらもハッとする。
あいつは絶対におかしい。あと情報を得たらアルゴに売れる。
俺は再び隠蔽を気にしながら歩きだした。
今更ではあるが俺の隠蔽を破れる奴はほとんどいない。さらに言うと俺の索敵から逃げられる奴もほとんどいない。一応俺の師匠の鼠以外は、って話だが。
もちろん目の前の怪しい男が隠蔽をフルに使っても普通に…頑張ればついていけるレベルだ。こいつキリトより隠蔽高いぞ。
怪しい男は誰にも見られることなく堂々と道の真ん中を歩いていきそのまま圏外へと出て近くの林へと向かっていった。
あれから10分ほど歩いただろうか。上を見るものの周りはすべて木に覆われ薄暗い。
ほんとにあの黒ポンチョはどこへ向かってんだ。俺は視線を下げ黒ポンチョの方を向く。
「っ‼」
目の前には複数のナイフ。すべてがこちらに向けられている。俺は反射的に顔を傾けナイフを躱す。適当に放たれた5本のナイフは4本はよける必要もないところを通ったが1本が俺の頬を撫でた。
頬に赤い線状のエフェクトが起き、発動していた隠蔽が消え去る。
「ほぉー、ほんとにいたのか。俺の索敵で破れねえとはすげえな…ん?その腐った目。おぉこれはこれは、かの有名なグリムさんかなぁ。」
黒ポンチョはニタァと笑いながら俺の顔を眺める。
ちっ、こいつ俺の名前を知ってたか。
「さあな。俺は街中で隠蔽をフルで使いながら殺気を巻き散らかしている不審者がいたからつけてきただけだ。」
「話だと不審者撃退を掲げるヒーローみたいな奴ではなさそうだったはずだけど。あぁ情報屋だったか。戦闘系中心の情報屋だったな。あの情報、ほんと助かってるぜ。」
「確かに情報を集めに来ただけだ。で、戯言はいい。名前はなんだ?」
「おっと、こいつは失礼。俺はPohだ。よろしくな。ハチ。で、ものは相談だ。おまえ、俺の仲間にならないか?俺は『笑う棺桶』ってギルドを作ろうと考えてる。お前みたいな狂気に満ちた腐った目の奴が欲しい。」
「済まんが俺はお前と仲良くするつもりはねえよ。第一俺はアルゴの弟子だ。もちろんアルゴが死んでもお前の仲間にはなんねえけどな。で、こちらも本題だ。Poh俺が今仕入れたお前の情報を俺が売らないための金を積んでもらっても構わないが。もちろんその場合は俺の名誉に従ってしゃべらない。どうだ?」
「言わないと誓わねぇとここで殺すっつったら?」
Pohはその場で2本のナイフを握る。
「その場合はグリムとしてお前を斬るが。」
俺も右手に片手直剣。左手にナイフを持つ。
そのまま左手を前に突き出し、右手は下に下ろしたまま剣を固く握る。
「これがグリムのスタイルか俺には少し勝てなさそうだな。いいよ。金は積まねえ。俺はいつでも待ってるぜ。誰かを殺したくなったら来いよ。歓迎してやる。と話を聞いてもらったお礼だ。何故ステータスで劣る俺がお前の隠蔽を破ったか。」
「どういうことだ?」
「観察眼に優れてる奴は勘でわかるんだよ。フィールドとモンスターやプレイヤーにはわずかだがロードに時間差が出る。それで大体どこら辺にいるかはわかるんだよなぁ。じゃあ俺はいくぜ。また会おうぜグリムさんよ。」
Pohは薄気味悪い笑みを浮かべながら森の奥のほうに立ち去る。
そこに現れたモンスターを無駄のない動きで首を斬る。片手直剣を使わない戦闘スタイルは明らかに俺のレベルを上回っていた。
「対人戦でも鍛えるかな。」
俺はそんなことを呟きながら町の方に歩き始める。
出てくるモンスターは意識してスキルを使わないで倒す。
敵の急所を刃先で撫でる。俺はPohの魅せるような剣にスタイルを変え始めた。