遊戯王~デュエルキングを目指す少女の物語   作:魔法使い?

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第5話 『夜のデュエル』

「さぁ夜のデュエルの始まりだ!!」

「んんっ……」

 

 二段ベットの上で私は捕らえられた。布団の上に汗臭いにおいが充満している。

 堀内先輩に私はがっちりと口や手を押さえられて、暴れることができなくなっている。

 女である私は体育体系のがっちりと肉が付いている先輩に抵抗することができない。

 ただ、私は先輩にこの後、体を差し出すことしかできないのか、そう最悪なことを考えてしまう。

 

「ハァハァ。乱れている奈々川君可愛いよ。ハァハァ……」

「……んんんん」

「揺れるお尻が可愛いなぁ……」

 

 先輩は興奮しているのか、顔がにやついている。

 私の小さな抵抗が逆に先輩を興奮させているようにみえる。

 

「……や、やめろ……」

 

 まだ好きな人すらできていないのにこんな所で変なのをされるなんて死んでも嫌だ……。

 男の人に恐怖を抱いてしまった私は、これ以上動いても無駄だと思った私は自然に抵抗する気力もなくなり素直に受け入れる態勢になっていた。

 

「そうだ…。これでいい」

 

 思うがままに先輩にズボンを下ろされてしまう。そして神崎さんにも見られたものと同じ女性物の下着があらわになった。

 入学当初にこれは見られてはいけないものだと思っていたのに。簡単に見られてしまうなんて……。今日で2回目だ……。

 

「何で君は女物の下着をしているんだい?」

 

 羞恥と恐ろしさで私は言葉は出ない。

 

「教えないともっと酷いことをするよ……ハァハァ」

「………」

 

 怖いと思っても言わなければならない。本当の真実を言わなければ確実に変なことをされてしまう。

 先輩は男が好きなんだ。だったらここは私の真実を言って逃げなければと思った。

 

「僕は実は女なんだ……。だからもうやめてくれよ…」

「ほう…。君は女の子なんだね!! 私は女の子は本当は好きなんだけど、モテないから男の方が好きなんだよ」

 

 終わった…。こんな形で人生を幕を閉じるなんて…。

 でもこれ以上なんかされるよりはマシな気がする。怖い思いだけはもうしたくない。

 

 

 

 

「可愛い顔をして女装が趣味なんて私の好みじゃないか!!ますます君のことを気に入ったよ…ハァハァ。女装プレイいいね……!!」

 

 

 

「え…っ!?」

 

 変態だ。キモイ。キモイ……。

 こいつ…。確実に私のことを男だと信じきっている……。

 さっき初対面で先輩に告白されたときも、真実を言っても私のことはスルーされた。

 どうやら先輩には私が言っても言葉は通じないようだ。

 

 

 私がこのまま襲われてしまうなんて目に見えている。どうすればいい…。私は考える。

 

 

 

 

 必死に堀内先輩から逃げる隙を探った。

 私のヒップを狙おうとしている堀内先輩は、さっきから同じ姿勢だ。

 少し前に先輩が口にしていたけど、柔道が強い先輩に力で勝つことなんてできない。

 だから、男の人はこうやって攻撃すれば……。あんな巨漢に力で倒すなんて無理だけどこうすればよかったんだよね。

 

 

「ウヴォアアアアアアアアアアア」

 

 私が先輩の下半身の柔らかいところを力任せに思いっきり蹴りあげると悲鳴を上げる。

 するとその痛みからか不幸なことにもベッドの上から落ちた。

 2階から落ちたこともあって、生生しい床に落ちた痛そうな音が部屋に広がる。

 先輩は両手で股間を抑えながら痛みに苦しんでいる。

 

「ぎゃあああああああああ」

 

 先輩はたった一発の蹴りでうずくまり、倒れて起き上がれなくなる。

 背中から落ちたのもあるがすごく痛そうな顔をしている。

 

「ど、どうだ!」

「よ、よくも……。この私を……」

 

 それにしても蹴りを一発かましただけで、大げさすぎではないかと私は思った。

 手は今だに下半身を押さえている。

 よく、私が幼かった頃は同じようにお父さんやお兄ちゃんが、男の人の物が事故で軽く当たっただけですごい反応をした。

 痛い、痛いって何度も言ってたけどあんなに痛いものなのか? 女の私にはわからない。

 

「先輩。夜のデュエルだ!!!」

 

 私はベッドの上から降りて、先輩の机の近くに飾ってあったデュエルディスクを倒れている先輩のところへ投げる。

 金属が地面に落ちた音が静かな狭い部屋になり響く。

 

「よ、夜のデュエルだと……?」

「そう。僕とデュエルだ!!」

「ついにその気になったんだね……。ハァハァハァ……、ふぅ」

 

 私が夜のデュエルと言ったら先輩は苦しみながらも嬉しそうな顔をしている。夜のデュエルの意味違ったのか?

 なんか、宮城も夜のデュエルって笑いながら言ってたけど、あれってどういう意味だったんだろう。

 

「今から先輩を潰してあげますよ。僕をもう襲わないって思わせるほどボコボコにしてやる!!」

 

 私もバックにしまってあったデュエルディスクを取り出して、今すぐにでもデュエルができるように準備をした。

 だが、痛みにこらえている先輩はデュエルと聞いた途端に、自信気な表情へと変わる。

 

「…。そっちのデュエルか……。でも君が私に勝てるっていう根拠はどこにある?」

「もちろんあるよ」

「ハハハ。奈々川君は正直だな。君が一年生の中でも強いっていう噂は知っているよ。でも君も知っているよね。私は君の上を遥かにゆく。この学校は全国デュエル甲子園2位の冥界学園高校。その中でも私は高校生の中でも4位のつわものだって、さっき親切に言ったのに忘れたのかい? 君の愛の攻撃でアソコは痛んでも決して負けることはないのだよ」」

 

 先輩の言っていることは嘘ではないようだ。

 この学校の部活はかなり強いって知っている。それに、私がここの部屋に来たときにも、たくさんの賞状やトロフィーが飾ってあるのを見た。

 これ全部先輩が実績を上げて取ったものだろう。デュエルも強いし、力もあることから、デュエルに関係ない柔道ももちろん強い。

 先輩は気持ち悪い性格とは裏腹に、このトロフィーの存在が、先輩が強いというオーラーを作り上げる。

 堀内先輩は私が負けたあのプロデュエリストの神埼さんよりも強いかも知れない。でも、私は、

 

「試してみないとわからないさ…。それに今の僕は負ける気がしない!!」

 

 今の私は強気だ。こんな最低の野郎に負けるなんてありえない。

 

「ほう。面白い。私とやるつもりなのかね? 楽しいことをはじめよう」

 

 引き締まった顔で格好つけた台詞を言っているいるが、それでもなお床から起き上がろうとしない。

 下半身の痛みは引いていないようで、このままの格好で先輩は落ちているデュエルディスクを拾ってデュエルをはじめる。

 

 

 

 

「決闘!!」

 

 

 ユウヤ LP4000

 堀内 LP4000

 

 

 デュエルが始まった。私はデッキの上から5枚を引いて、それを最初の初期手札とした。

 

 

「先行は僕から貰うよ。どうやら先輩は起き上がれないようだからね。速攻で終わらせてあげるよ」

「い、いいだろう。先輩が後輩を譲るのは基本はそうだからな」

 

 先輩は苦しみながら譲ってあげた。なんだか、まともにデュエルができなさそうなのは気のせいか?

 

「まずは『X-セイバー エアベルン』を通常召喚!!」 

 

 召喚の掛け声と共に手始めに猫背気味のスタイルに爪型の武器のモンスターを出現させる。

 このカードは戦闘ダメージを与えたら相手の手札をハンデスする効果を持っているけど、まぁ、先行1ターン目だから関係ないか。

 

「さらに手札の『XX-セイバー フォルトロール』を墓地に送って『ワン・フォー・ワン』を発動。効果でレベル1のモンスターをデッキから特殊召喚できる。カモン!『XX-セイバー レイジグラ』!」

 

 魔法カードを使い、すぐにデュエルディスクの中のデッキの中を広げて、一枚のカードを取り出す。

 そしてそれを差し込んで指を鳴らす。すると爬虫類の顔をした獣戦士を呼び寄せる。これもXセイバーの仲間。

 

「ほ、ほう…。君のデッキはXセイバーデッキか…。奈々川君は可愛い顔をしてそんなデッキを使うんだな」

 

 声が段々余裕がなくなってきている。デュエルよりも堀内先輩の体は大丈夫なのだろうか…?

 

「『レイジグラ』の効果により、今『ワン・フォー・ワン』で捨てた墓地の『フォルトロール』を手札に戻す。そして『フォルトロール』を特殊召喚!!」

 

 Xセイバーが2体以上いるのでこのモンスターを呼び寄せる。

 このカードはXセイバーの展開を支える強力効果を持っているんだ。

 

「そして僕はレベル6の『XX-セイバー フォルトロール』にレベル3の『X-セイバー エアベルン』をチューニング!! 」

「……先行1ターン目にシンクロ召喚…。中々やるね……」

 

 2体のモンスターは光へと変わる。そしてその2体のモンスターが混じ合う。これがシンクロ召喚。

 

「剣の主の王よ。我が元に降臨して巨大な剣を抜け!シンクロ召喚!現れろ『XX-セイバー ガトムズ』!!」

 

 巨大な剣豪であるXセイバーの指令菅を呼び寄せる。攻撃力は私のデッキの中の最強の3100。

 だが、切り札を見せただけでは私の展開は終わらない。相手が最強ならさらに、私の強力な布陣を作るのみ。

 

「僕は2体目の『フォルトロール』を特殊召喚!!」

「なんだと…」

 

 初手にもう1枚あったカードを堀内先輩に見せる。

 すると先輩は驚いた顔へと変わる。1ターンでモンスターを並べるだけでは終わらない。

 なぜならここから先輩が見るものは地獄だから。

 

「『フォルトロール』の効果で墓地の『レイジグラ』を特殊召喚!」

 

 再び爬虫類の戦士を呼び寄せる。

 

「さらに『レイジグラ』が特殊召喚に成功したことでもう1体の『フォルトロール』を墓地から手札に加えるよ。そして加えた『フォルトロール』も特殊召喚」

「モンスターが4体……。何をするつもりだ…」

「Xセイバー達のコンボを見せてやる!!」

 

 手札を一気に4枚使ってフィールドを先行1ターンで埋めた。

 まだ痛そうに倒れているけど、私を襲い掛かったことを後悔させてやる……。これがXセイバーの展開だ!!

 

「『ガドムズ』の効果によりフィールドのXセイバーを墓地に送ることで相手の手札のカードをランダムに捨てさせることができる!!『レイジグラ』をリリースして効果発動!!」

「…」

「ちょっと失礼」

 

 倒れている先輩の手札を勝手に1枚奪い、それを私の手で先輩の墓地ゾーンへと移動させる。

 でもこの1枚では終わりではないよ。何故なら、私の切り札の『カドムズ』は1ターンに1度の制限がないのさ。

 

「さらにハンデスをしてやる!!効果使用済みの『フォルトロール』をリリースして『ガドムズ』の効果!!そして使ってないほうの『フォルトロール』の効果を使用して『レイジグラ』を蘇生!効果で再びもう1枚の『フォルトロール』を回収!再び『フォルトロール』を特殊召喚!」

 

 再び、横になっている先輩の元へいき、2枚目の手札のカードを奪う。

 

「まだだ!! 『フォルトロール』の効果で『レイジグラ』を蘇生!! そして『レイジグラ』のよみがえったときの効果だ!! さっき『ガドムズ』で墓地へ送った『フォルトロール』を回収!!」

「ま、まさか!! こ、これは…。私の手札を全てなくす……」

 

 先輩は辛そうな顔で言った。

 

「そう。そのまさかだよ!! これは無限ループコンボ。」

 

 『フォルトロール』2枚で『ガドムズ』のコストである『レイジグラ』を使いまわし、相手にハンデスをする無限コンボ。

 このコンボは、デュエル開始時にすぐに考えてそれを私は、堀内先輩に実践した。

 ループを駆使して私はこの流れを繰り返し、先輩の手札を全て吹き飛ばしてやった。これで相手の戦意は喪失してしまっただろう。

 手札が0枚になったってことはこの状況はたとえ天才でも逆転することなんて不可能だ。

 デュエリストは手札が命だ。何故なら、手札が何もできない。何かをするにあたっても、大量な手札が必要だからだ。

 たとえ、デュエルが強いプロデュエリストや、デュエルキングでも手札がなければ何もできない。

 それは私の学校の中でもデュエルが超強いとされる堀内先輩も同じことだ。

 先行1ターン目で手札を全てなくし、何もできるはずがない。これは即死と同じ意味だ!!

 

 ループを決め、下半身を押さえながらも、大事に先輩が握っている最後の手札の1枚を私は手に取った。

 

「これで先輩の手札はゼロですね」

「ふふふふ。君は勘違いしていないか?」

「勘違い? もう先輩の手札はなくなった!! 先輩は次のターンは1枚のカードでしか行動しなければならない!! これのどこが勘違いなのかい?」

 

 挑発をして最後の足掻きのように見えるが、それはハッタリだと思った。

 私はゆっくりと先輩のカードを持って、それを墓地ゾーンに送ろうとする。だが、そのときに見えた先輩のカードを見て手が止まった。

 これは……。

 

「君が送ったのは『ラヴァル炎火山の侍女』だ!!」

「『ラヴァル炎火山の侍女』!?」

 

 まずい……。このカードは確か……。

 私はとっさに先輩の墓地ゾーンのカードからさっき送ったカードを抜き取り、効果を確認する。

 

「奈々川君は効果を知らないようだね。説明するよ。このカードが墓地に送られたとき、同盟カード以外のラヴァルが存在するときにデッキからラヴァルと名のついたカードを墓地に送ることができるんだよ!! ハァハァ」

「………。まさか他のラヴァルって……」

「そうさ。君がさっきまでハンデスしたカードの中に存在する!!」

「何っ!!」

「そうだ!! 『ラヴァルのマグマ砲兵』だ!!」

 

 ハンデスしたのが裏目に出てしまったのか!! 私のプレイングは間違っていなかったはずだ。

 相手を詰めようとしたのに、ここにきて利用されてしまったのか。油断した。

 

「『侍女』の効果で2枚目の『侍女』を墓地へ送る」

「くっ……」

「そして2枚目の『侍女』の効果で3枚目も墓地へと送ろうか。さらに3枚目で『ラヴァル炎湖畔の淑女』を墓地へと送る!!」

 

 さっきまで動けなかった先輩が急に動きだす。デッキのカードを動かし、次々とカードを墓地へと送っていく。

 相手の墓地肥やしを手助けしてしまったのか。だけど……。

 

「でも、先輩は手札はもうない。次のドローに神頼みしなければ僕には勝てないよ」

「それはどうかな? 奈々川君?」

「……っ?」

 

 何で堀内先輩は強気なんだ。床に沈んでいるのに目が死んでいない。手札がないのにデュエルにまだあきらめていないんだ。

 

「くっ……。僕はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

 もしものことがあるかも知れないので念には念をリバースカードを伏せて守りを固める。

 私は『激流葬』と『リビングデッドの呼び声』を伏せる。

 相手がもし次のターン奇跡が起きたとしてもフィールド上のカードを全て破壊できる『激流葬』がある。

 これで先輩の展開を止めることができる。

 これで返しのターンにこれを覆すことをしてきても『リビングデッドの呼び声』で展開して勝利さ!

 

「私のターンドロー」

 

 何も持っていない状態で先輩はデッキからカードを引く。

 一体先輩はこのターン何をするつもりだ。言葉の重みと先輩の飾ってあったトロフィーを思い出し、プレッシャーで、緊張が走る。

 

 

 

 

 

ユウヤ

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

    XX-セイバー フォルトロール×2

    XX-セイバー ガトムズ

    X-セイバー エアベルン

   魔法・罠

    伏せ2枚 (激流葬とリビングデッドの呼び声)

 

堀内

LP:4000

手札:0枚→1枚

場 :モンスター

    なし

   魔法・罠

    なし

 

 

 

 

「ふははははは」

「……っ!?」

 

 先輩が笑う。

 そして私のターン中ずっと、カーペットの上で倒れていたのに急に立ち上がってきた。

 まさか、この状況を覆すことのできるカードでも引いたのか? もしかして禁止カード?

 

 

 だが、次の瞬間。先輩はドミノが倒れるように、勢いよく前から倒れる。巨漢が倒れたことで、生生しい音が響く。

 

 

 

「うっ……」

「せ、先輩……?」

 

 起き上がってこれから私に反撃をすると、思ったが違った。

 先輩は再び倒れてしまったようだ。デュエルは中断になったのか? これでは先輩とデュエルができない。

 

「気絶している……」

 

 やっぱり気絶している。目を閉じて反応が一切ない。

 痛みは直ったと思ったのに、再び下半身を先輩は抑えている。どうやら、私が食らわせた一撃がここに来て効いたって感じかな?

 力を抜いたはずだったのに……。男の人の急所ってあんなに効くものだったのか?

 

「うっ……」

 

 私は大丈夫かと確認する為に倒れている堀内先輩の近くに近づく。

 カードを持っている手と反対の手でパジャマのズボンの中に手を突っ込んでいるのを発見すると、私は体を引いた。

 倒れているのにどうして手はこっちに……? わけがわからないよ。

 

「逃げられるじゃん……」

 

 倒れているならチャンスだと思った。逃げるという選択肢を考えた私。こうすることでもう怖い思いをしなくてすむ。

 

「最後の手札って何だったんだろう……」

 

 汚いところに突っ込んでいるのとは反対の手に持っていたカードを私は確認する。

 

「こ、このカードは……」

 

 最後にドローしたのは『真炎の爆発』……。

 炎属性で守備が200のモンスターを墓地から可能な限り特殊召喚できるカードだ。

 私は先輩のデュエルディスクの墓地のカードを全て抜き取って確認する。

 

「………」 

 

 先輩の墓地には私が無限ハンデスで送ったカードが存在していた。

 『爆発』の効果で特殊召喚できるのはラヴァルのレベル4の『砲兵』とチューナーであるレベル1の『侍女』3枚と、レベル3の『淑女』。

 このカード1枚で5枚のカードを一気に展開することができたんだ。これでシンクロ召喚を一気に決める予定だったんだな。

 このカードの存在があるから強気だったのか。

 いや、でも先輩の手札のカードはなかったんだ。次のドローでこのカードを引けるとは限らない。でもどうして余裕そうな雰囲気だったのか…。

 このカードを引けると思ってたからだったのか……。

 

 

 私はもう一度、先輩のカードをよく確認する。

 私が『ガドムズ』の効果で捨てさせたカードは『サンダーボルト』『炎熱伝道場』『ラヴァル炎火山の侍女』『ラヴァル砲兵』『焔征竜-ブラスター』。

 

「……。化け物だよ。先輩は……」

 

 墓地に送ったカードを確認しなかったけど、改めて確認すると初手良すぎだろと私は思った。

 相手のモンスターを全て破壊できる禁止カードの『サンダーボルト』。

 デッキからラヴァルを2枚墓地へと送る『炎熱伝道場』。

 私がハンデスをしたことによって、墓地を肥やして逆効果と思ったが、ハンデスしなくてもこのカードの存在で結局意味なかったか。

 手札から炎族性とこのカードを捨てることで相手の好きなカードを破壊できる効果を持つ『焔征竜-ブラスター』。

 

 私がハンデスをしなかったら、私のモンスターは全て破壊され、『真炎の爆発』でやられていた。

 

 しかも墓地の炎族性を2枚除外することで墓地から特殊召喚できる攻撃力2800の『ブラスター』と、墓地にラヴァルが3種類以上あるときにこのカードともう1枚のラヴァルを除外することで相手のセットされたカードを破壊できる『淑女』。

 このカードの存在も忘れていた。

 2分の1の確立だが、このターンで『淑女』で私の『激流葬』を破壊され、『ブラスター』と『真炎の爆発』で作ったシンクロモンスターで私の布陣を突破するつもりだったんだ。

 いや、『激流葬』を使ったとしても、『ブラスター』の存在が……。

 ハンデスしても勝負はついたわけではない。自惚れるべきではなかったんだ。

 堀内先輩……。恐ろしかった。もしかしたら私がデュエルで負けていたかもしれない。流石はこの学校の最強ともいえる強敵デュエリストだ……。

 性格や、体格は気持ち悪いが……。人は発言や行動で決め付けるのはよくないのかも知れない。

 

「あっ……」

 

 倒れている先輩を見ていたら、机と机の間に写真を発見する。

 部室のような場所で、デュエル部と書いてある鉢巻をつけながら、3人が腕を組みながら高校デュエル甲子園第2位と書かれたトロフィーを飾ってある。

 2人は誰だか全くわからなかったが、一人はここに気絶している堀内先輩のものだとわかった。

 なぜなら焼けている肌色がここで寝ている先輩と全く同じなのだ。

 しかもおかしいことに、堀内先輩はすごく痩せていた。太っている今とは想像できないほど、痩せていてさわやかな表情をしている。

 女の私が一瞬だがカッコいいとか思っちゃうくらいに、綺麗な顔つきと運動活発そうな体系がすごかった。これはモテると思う。

 1年前の写真のようだったが、どうしてこうなってしまったんだろう。

 今ここにいる堀内先輩は気持ち悪いという感情しか持てない。たった1年で人はこんなに変わってしまうのだろうか……。

 

 

 こんなところに長居する意味はないと思った私はしたくをする。

 私はデュエルディスクをバッグの中にしまい、荷物を持って倒れている先輩を放置してこの部屋を後にした。

 3年間もここにいると女である私は流石に耐え切れないと思った。

 私は夜を過ごすために場所を探した。外で寝るなんて考えられないけど、男の人と寝るなんて怖すぎるからしょうがないよね。

 もう嫌だよ……。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 次の日。高校生活2日目。

 

 

「はっくしょん!!」

 

 私は無意識のうちにくしゃみをする。

 学校が終わって放課後になっても、寮に帰る勇気がなく、じっと空を見上げている私。

 

 

「お前、大丈夫か? 風邪か? すっげぇ不細工な顔してんぞ?」

 

 私は何かを考えながらぼーっとしながら一日を過ごした。

 すると、宮城が話しかけてきた。

 近くの公園で夜を過ごしたため、寝不足だった。

 お風呂を入らなかったため、体中がベトベトして変な感じがする。

 本当は、朝早くに誰もいない男風呂に入って済ませようと思ったが、昨日のトラウマを思い出すと怖くて行動できなかった。

 

 顔についてはしょうがない。無理やり起きているからだろう。

 昨日できなかった睡眠を取り戻すために、昼寝をしようと考えたが、女子にモテモテの私は休憩もできやしないよ。

 あの子達、どこでも「キャーキャー」言ってくるんだから、休む暇もない。

 

 

 

「昨日、お前は風呂場で暴走してたよな。俺を急に殴るなんてびっくりしたぜ。そんなに堀内先輩と一緒の部屋って怖かったのか?」

「………」

「まさか、お前、中古になったのか? 彼女より先に堀内先輩と夜のデュエルしてしまったのか……。可愛そうに……」

 

 唖然とした表情で私を心配している宮城。中古とか夜のデュエルってどういう意味なんだろう……?

 

「じゃあな。奈々川。俺先に帰るから!!」

 

 宮城はそのまま姿を消していった。宮城は私を励まそうとしていたけど言葉を返すことはできなかった。

 堀内先輩の悪夢。これのせいで私は男に信頼することができなくなってしまったのか?

 どうしよう……。今日も寮に帰らないといけないのに……。私は今日も野宿をしなければならないのか?

 

 

 

 

「ダーーーリーーン!!!」

「っ!?」 

 

 後ろから女の人の声が聞こえた。

 すると次の瞬間、誰かが不意内をするように私へ抱きついて来たのだ。

 このふわふわとした柔らかいコンニャクゼリーのような胸の感覚と私以上に色っぽいピンク色のロングヘアーの女の子から大体誰なのか想像付く。

 神埼さんの仕業だ。

  

「い、いきなり抱きつくのは止めてくれよ」

 

 やわらかい部分を押し付けてくる神崎さんの行為に、私は顔を真っ赤にしてしまう。

 教室には誰にもいないとはいえ、こういう行為は女の私でも恥ずかしい。

 

「あなたは私の所有物なんだから別にいいじゃない!!」

「……」

 

 落ち込んでいる私に比べて、神崎さんは明るく振舞ってくれたけど、どうしても私は元気が出てこない。

 

「なんか調子悪いみたいね」

「嫌なことがあって……。昨日は一睡もしてないんだ」

「あんたって寮生活になったんじゃないの?」

「そうだけど……」

「不安なら全部私に言ってみなよ」

「………っ」

 

 私が今、信用できる人物は私と同姓の神崎さんしかいない気がする。それほどこの学校生活は希望がありそうにない…。

 だから精神不安定な私は神崎さんに頼ることにしたら素直に聞き入ってくれた。

 

 

「まさか、本当に掘られたわけじゃないよね!!」

「……。無事だったさ……。でも……。もう……私には居場所がない……」

 

 宮城に冗談で言われた通りに起こってしまったことが本当に起こるなんて怖かった。だから同じ女の子の神崎さんと話すと安心する。

 本当は私は男の格好をしているから自分の弱弱しい心を晒せないのが辛いんだ…。今の自分に居場所はないから…。

 

「でも、よかったわ。ちょうど欲しいと思っていたのよね」

「はっ?」

 

 意味がわからないことを言うと神埼さんは顔を近づけてくる。

 彼女独特の甘い香水のにおいがして、その行為に緊張してしまう。

 

「だったら私の家に来なさいよ!!」

 

 

 

 

「い、一緒にって……!?」

 

 いきなりのことだったんで言ってることが意味わかんなかった。

 神埼さんと一緒に暮らすって……。女の子と一緒に暮らすって意味だよね。

 

「だから、居場所がないなら私と一緒に暮らしなさいよ!! それに1人暮らしだといろいろと怖いのよ…。狙われてると怖いし……」

 

 神崎さんはちょっと顔を膨らめて言っていたので恥ずかしそうにしているようだ。

 いつも上から目線だったけど、緊張することあるんだ。神崎さんは…。冗談かと思ったら本気のようだ。

 

「で、でも…」

 

 迷っている私…。一緒に暮らすという選択肢の以上、神崎さんと暮らすってことは私が女の子だと隠しきれるもんではない。

 彼女と一緒にいるってことは不意の事故で私が女だとバレてしまうという確立が上がってしまう。

 

 

 まして神崎さんと同棲して暮らすってことはエッチなこともされる可能性もあるんだぞ……。堀内先輩の昨日のように……。

 神埼さんは確か、私のことを「スレイプ」とか「契約」とか何とかって言っていたな。

 何されるか、想像すると怖いよ……。こんな危険な状況を365日も隠し通せるのか…。

 

「あ、そういえばあんたって契約中だったよね。ってわけであんたには拒否権なんかありませーん!!」

「はっ?」

「いいからついてきなさいよ! あんたの秘密ばらしてもいいのよ」

「ちょっ…」

 

 回答する権利すら与えずに私は神崎さんに手を引っ張られて連れて行かれる。

 顔が楽しげな笑みをしていたので、私に対して変態なことを考えているのではないかと思った。

 

「それに、一度、私ってペット買ってみたかったのよねーー。私に忠実なペットちゃん。それってあんたくらいしかいないもんね。うふふふ」

 

 ピンクの長い後ろ髪を揺らしながら神崎さんは私の前を歩く。この子、やっぱ変態だよ。普通じゃないよ。

 もちろん弱みを握られている私には言いなりになるしか選択はなく……。


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