戦国†恋姫~とある外史と無双の転生者~   作:鉄夜

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幕間一《白》

墨俣築城から数日後の早朝、白は剣丞隊の長屋に来ていた。

 

庭にひよところの姿を見つけて声をかける。

 

「おーい、ひよ、ころ。」

 

「あ、白ちゃん!」

 

2人が白のと傍に走ってくる。

 

「ころ、仕官おめでとう、はいこれお祝い。」

 

「わぁ、ありがとう!白ちゃん!」

 

「これって中身は何?」

 

「熊の肉だよ。」

 

「く・・・熊の!?」

 

「昨日森の中に散歩してたら偶然遭遇してさ。

せっかくだから狩って捌いた。」

 

「狩った!?」

 

「うん、はいどうぞ。」

 

白は熊肉が入った包をころに渡した。

 

「それより、剣丞はまだ寝てる?」

 

「う・・・うん、用があるなら起こしてこようか?」

 

「ううん、私が起こすよ。」

 

白はそう言って歩いていった。

 

ひよところは手元の熊肉を呆然としながら見ていた。

 

#####

 

剣丞は布団の中でスヤスヤと寝ていた。

 

白はそーっと襖を開ける。

 

「よし、寝てるな。

・・・さてと。」

 

白は部屋に入ると、装束の一部を脱いで、

上着とスパッツのような下着だけの姿になり、

するりと剣丞の布団の中に潜り込んだ。

 

「・・・可愛い寝顔だなぁ。」

 

そう言って白が剣丞の頬を指でつつく。

 

「うーん・・・。」

 

剣丞がゆっくりと瞳を開き。

 

「・・・」

 

「おはよう、剣丞。」

 

目の前の光景に硬直する。

 

「な・・・なんで白が俺の布団に?」

 

白は可愛らしく頬を膨らませる。

 

「ひどいなぁ、剣丞、私にあんなことしといて。」

 

「・・・え?」

 

「まぁしょうがないか、剣丞酔っ払ってたし。」

 

「ちょ・・・ちょっとまって!

全然記憶が無いんだけど!俺酔っ払って何したの!?」

 

「・・・剣丞。」

 

白はニッコリと笑ってトドメの一言を放つ。

 

「昨夜はお楽しみでしたね。」

 

剣丞は顔を真っ青にして起き上がり、土下座をする。

 

「ごめん白!俺・・・ちゃんと責任取るから!」

 

そう言って必死に謝る剣丞を見て白は、

 

「フフ、あはははははははははは!!」

 

腹を抱えて笑い出した。

 

「・・・ひょっとして俺、からかわれた?」

 

「いやぁ、剣丞はいいリアクションするね。

昔幸村に同じことやった時も面白かったけど今のも最高。」

 

「日本を代表する武将に何やってんだよ!

ていうかそう言うのやめろよ!心臓に悪いだろ!」

 

「でも目は覚めたでしょ?」

 

「お陰様でな!」

 

白は楽しそうに笑うと脱いでいた服を着る。

 

「それで?一体何の用だよ。」

 

「剣丞とデートしに来たんだよ。」

 

「デート?」

 

「うん、せっかくだし散歩に付き合ってよ。」

 

「・・・まぁ、いいけど。」

 

「よし、じゃあまず一発屋で朝ごはん食べよっか。」

 

剣丞は準備を終えると白とともに部屋を出た。

 

途中ひよころを見つけると、白が声をかける。

 

「ひよ、ころ、ちょっと剣丞借りるよ。」

 

「え?剣丞様、白ちゃんとどこに行くんですか?」

 

ころの質問に白は笑顔で答える。

 

「逢い引き♪」

 

「えぇ!?」

 

「剣丞様!?」

 

ひよところが驚きの声をあげる。

 

「違う!白!誤解を招くような言い方はやめろよ!」

 

「早く行こ、剣丞。」

 

白は悪戯に剣丞の引いて行く。

 

「ちょっ!ちょっとまって!せめて弁解してから・・・ひよ、ころ!違うからな!さっきのは白の冗談だからな!」

 

白に手を引かれながら、剣丞は2人に向かって叫んだ。

 

#####

 

街に出ると、町人の話し声が聞こえてくる。

 

「おい、あれ颯馬白じゃねぇか?」

 

「え!?あれがあの今奉先!?」

 

「あぁ、なんでもこの間の墨俣の戦で200人をたった1人でぶち殺しちまったらしい。」

 

「あんな娘がなぁ、おっかねぇ・・・。」

 

剣丞はその言葉に白への尊敬の他に恐れが混ざっているような気がした。

 

「・・・白、平気?」

 

「うん、慣れてるし。」

 

「・・・そっか。」

 

「それに、悪いことだけじゃないよ。」

 

白がそう言った直後。

 

「おーい、白姐さーん。」

 

丁半をしている男達が、白に声をかける。

 

「山崎、またサボって博打?

また疾風に殴られるよ?」

 

「ははは、今はただの休憩時間っすよ。

それより姐さん、また今度一緒にやりましょうや。」

 

「うん、また搾り取ってあげるよ。」

 

白はそういうと再び歩き出した。

 

すると今度は老婆とすれ違った。

 

「おや白ちゃん、おはよう。」

 

「おはようお婆ちゃん、腰はもう大丈夫?」

 

「お前さんが揉んでくれたおかげですっかり良くなったよ。

これはお礼の桃だ、もらっておくれ。」

 

「ありがとう、お婆ちゃん。」

 

「そっちの坊やもどうだい?」

 

「ありがとうございます、頂きます。」

 

白と剣丞は貰った桃を頬張りながら歩く。

 

「あ!白様だー!」

 

子供達が白の元へ駆け寄って来る。

 

「白様!今度またかくれんぼしようよ!」

 

「私あやとり教えて欲しい!」

 

「うん、また今度ね。」

 

白が頭を撫でてやると、子供たちは駆けて行った。

 

その後も白は様々な人達に声をかけられ、にこやかに応対していた。

 

目の前の少女が、先日墨俣で大暴れした人物と同一とはとても見えなかった。

 

剣丞はふと、あの時の白の言葉を思い出す。

 

『人を殺すのは慣れてるから。』

 

剣丞はその言葉の意味が気になった。

 

しかし口にすることはなく、一発屋についた。

 

二人はのれんを潜り、店内に入る。

 

「おやおや二人さん、いらっしゃい。」

 

看板娘のきよが笑顔で出迎える。

 

「おはようきよちゃん」

 

「おはよう。」

 

「すっかり人気者だねぇ、今奉先様。」

 

「きよちゃんまでやめてよ。

あ、私焼き魚定食ね。」

 

「あ、俺もそれで。」

 

「あはは、はいよー。」

 

二人が席についてしばらくすると、焼き魚定食が二つ運ばれてくる。

 

二人は両手を合わせる。

 

「「いただきます。」」

 

二人は食事を始めた。

 

ふと剣丞は、白の方を見る。

 

白はとても綺麗な所作で魚を食べていた。

 

「・・・なに?」

 

視線に気づいた白が剣丞に尋ねる。

 

「いや、やけに上品に食べるなぁと思って。」

 

「こういうことに詳しいメガネがいたんだよ。

『お嬢様はもう少し作法を覚えるべきです。』って頼んでもいないのにしごかれてさ、

癖になっちゃったんだよ。」

 

「へぇ、他にはなにか教わったりしたのか?」

 

「うん、半兵衛と官兵衛には簡単な軍略を教えてもらったし、

半蔵やくのいち、小太郎には忍びの技や身のこなしを教えてもらった。」

 

「なるほど、そりゃ強いわけだ。

当然色々な武将と戦ってきたんだろ?」

 

「うん、みんな強かったけどやっぱりダントツはあの人だね。」

 

「・・・戦国最強?」

 

「うん、私があの世界に心残りがあるとすればあの人と決着つけられなかったことだもん。」

 

「やっぱりすごく強いんだな。」

 

「私が言うのもなんだけど、化物だよあの人。」

 

そんな会話をしていると、

 

「ちょっと!やめてよ!」

 

きよの叫び声が聞こえ、振り返ると柄の悪そうな男がきよの手首を掴んでいた。

近くにもう1人男仲間がいる。

 

「いいじゃねぇか、遊んでくれよ姉ちゃん。」

 

「俺達は今奉先率いる白狼隊だぜ?

逆らってもいい事ねぇって。」

 

男達は嫌がるきよにしつこく絡んでいた。

 

「アイツら。」

 

剣丞が立ち上がろうとすると、

 

「剣丞。」

 

白が呼び止める。

 

「ちょっと待ってて。」

 

白が席を立つと、別の席にいた男2人も立ち上がる。

 

どうやら白狼隊の兵士のようだ。

 

白は、兵士の2人と共に男達に近寄る。

 

「あぁ?なんだてめぇらは。」

 

「俺らの後ろには今奉先がいるんだぞ!

文句あんのかこらぁ!」

 

白は後ろの兵士に聞く。

 

「麻生、新藤、この2人知ってる?」

 

「いいえ、知りませぬ。」

 

「初めて見る顔ですなぁ。

そもそも白様の顔を知らぬという時点でおかしな話です。」

 

「は・・・白って。」

 

「もしかして・・・。」

 

顔を青くする男に白はニッコリと笑って言うの。

 

「オッス、オラ今奉先。」

 

「クソ!」

 

男が刀を抜こうとすると、

鞘に収まっている刀の底を足で踏んずける。

 

「ダメだよ、こんな所で暴れちゃあ。

それに・・・それ抜いちゃったらもう怪我じゃすまなくなるよ?」

 

そう言って白が睨むと、男達は腰を抜かしてへたれこむ。

 

「2人とも、こいつらどうする?」

 

「名を騙るほど入りたいなら、入隊させてはいかがでしょうか。」

 

「話を聞けば彩華様もさぞお喜びになるでしょう。

気安く白狼隊を騙ったことを後悔するほどにね。」

 

「そう、それじゃあ私が推薦したってことでいいよ。

後は任せた。」

 

「はっ!」

 

白狼隊の兵士達は男達を連行して行った。

 

「ありがとう、助かったよ白ちゃん。」

 

「気にしないできよ。

さてと、私はご飯の続き続き♪ 」

 

白は席に戻り、何事も無かったかのように食事を再開する。

 

(白って不思議だなぁ・・・)

 

剣丞は目の前で美味しそうに焼き魚を食べる少女を見て思った。

 

#####

 

食事を終え、白は外に出て背伸びをするを

 

「次はどこに行こうか、剣丞。」

 

「白、遊ぶのもいいけど隊の仕事は放っといていいのか?」

 

「彩華に全部押し付けてきたから大丈夫。」

 

「・・・一応聞くけど、彩華はそれを了承したの? 」

 

「ううん、置き手紙だけ置いてきた。」

 

「・・・それって全然大丈夫じゃないよな!」

 

そんな会話をしていると、

 

「白様発見!」

 

凛が二人の前に、シュタッと降りてきた。

 

「おいっス凛、どうしたの?」

 

「どうしたのじゃないよ!

白様が仕事放り出したせいで彩華ってば超不機嫌なんだから!」

 

「そうか頑張れ。」

 

「頑張れじゃないよ!白様連れて帰らないと凛が怒られるんだからね!」

 

「ほう、私を捕まえるか。」

 

「うん!引きづってでも連れていく!」

 

凛は白に向かって突っ込んでくる。

 

それに対して白はどこからかかりんとうを取り出し、

 

「取ってこーい!」

 

と、放り投げた。

 

凛はかりんとうが投げられた方向に全力で走り。

飛び上がって口でキャッチした。

 

「よし。」

 

「凛・・・。」

 

剣丞は完全に犬扱いされている凛を憐れむ視線で見る。

 

「剣丞、今の内。」

 

白は剣丞の手を引いて走り出した。

 

「え!?白、隊に戻らなくていいの!?」

 

「そんなのあとあと!にっげろー!」

 

楽しそうに自分の手を引いて走る白を見て、

剣丞は自然と笑顔になった。

 

#####

 

剣丞は白に手を引かれ、川までやってきた。

 

「ここまでくれば大丈夫でしょ。」

 

「そう・・・だな・・・ハァハァ。」

 

「あはは、これくらいでバテるなんて情けないなぁ剣丞。

はい、これ。」

 

「あ・・・ありがとう。」

 

白は息を切らしている剣丞に、水筒を渡す。

 

剣丞は水を飲むとそれを白へ渡した。

 

白はその水筒を躊躇なく口につけて、中の水を飲む。

 

「・・・////」

 

「剣丞。」

 

白は剣丞の顔を横から覗き込むように見上げると、

 

「意識した?」

 

そう言って意地の悪い笑顔を浮かべた。

 

「・・・うん、意識した。」

 

その言葉に意表を突かれたのか、白は驚いて少し顔を赤らめるがすぐにいつもの調子に戻る。

 

「むぅ、今のは卑怯だよ剣丞。」

 

「朝の仕返しだよ。」

 

「食えないなぁ、もう。」

 

そう言って白は川を眺める。

 

「綺麗な川だね。」

 

「・・・あぁ。」

 

白はおもむろに足袋を脱ぐと岸に腰掛け、

川に両足をつけると交互に静かに揺らす。

 

その横に、剣丞も腰をおろす。

 

川が流れる静かな音に耳を傾けて心を落ち着かせていると、白が歌を口ずさむ。

 

「〜流れゆく遠い雲が白き花と踊り、

君想う沫雪へとたなびく小夜千鳥〜」

 

川の流れと風の音に、白の透き通る様な歌声が合わさり、とても心地が良い。

 

「〜月の光満ちるように、この身満たし溢れ、

奏で謳う鳥のように、ひとつの恋ノ唄〜」

 

白が歌い終わると、剣丞は拍手をする。

 

「アンコール。」

 

「10両。」

 

「金とるのかよ。」

 

剣丞が言うと、白はクスクスと笑う。

 

その白の笑顔を見て剣丞は、やはりあの言葉が気になった。

 

『人を殺すのは慣れてるから。』

 

目の前で無邪気に笑っている少女のものとは思えないその言葉を剣丞は頭の中で反芻する。

 

「剣丞。」

 

白に呼ばれて剣丞は顔を向ける。

 

「何か私に聞きたいことがあるんじゃないの?」

 

剣丞は、少し悩んだが、やがて口にする。

 

「白、この間言ってたよな。

人を殺すのは慣れてるって、

あれってどういう意味なんだ?」

 

「・・・」

 

「あ、話したくないならいいんだ、ごめん。」

 

「・・・剣丞には話しておいた方がいいかな、私達のこと。」

 

白は静かに語り出す。

 

「私達はさ、昔はヤクザだったんだよ。」

 

「え?」

 

「大きな組の構成員でさ、主な仕事は2人で敵組織に殴り込む、いわゆる鉄砲玉だったんだよ。

それでたくさんの人を殺した、それが答え。」

 

「辛くなかったのか?そんな役目。」

 

「それしか生き方知らなかったからね。

・・・それに私達を受け入れてくれる親父と仲間がいた。

とても大切な時間だった。

・・・それも、あの日終わった。」

 

白は少し俯いて話す。

 

「あの日私たちは、親父の護衛をするために同じ車に乗ったんだ。

そして運転手がエンジンをかけた瞬間ドカン。

まぁ、映画でよくあるあれだね。」

 

「それで、どうなったんだ。」

 

「私達を転生させた神によれば、親父も含め車内にいた奴らは全員即死。

私と疾風はまだ若いから転生で、

ほかの奴らは地獄行きって言われた。」

 

白は懐かしむように空を眺める。

 

「それから私達は、村の百姓の娘として転生してさ。

それからしばらくは平和だったよ。

毎日家族と畑を耕して、ごはんを食べて、寝る。

貧しかったけど、村のみんなと過ごす日々は

とても楽しかった

・・・でも、それも長くは続かなかった。」

 

「・・・なにがあったんだ?」

 

「山に散歩に行って帰ってきた私達が見たのは、村をあらす盗賊と、皆殺しにされた村の皆だった。」

 

白は俯いて話す。

 

「それから2人で盗賊を皆殺しにしてる時に思った。

私達には、やっぱりこの道しかないんだって。

それから二人で浪人になって、雇われた戦で家康に目をつけられてね、武将列伝を書く旅に出掛けた。

そこでいろんな人と出会って、友達になった。

そして、この世界に来て、皆に出会った。」

 

白は剣丞の顔を真っ直ぐと意志の強い目で見て言った。

 

「剣丞、これだけは言っておく

私はもう何も失いたくない。

大切な皆を守るためなら何人だって殺す。

たとえ・・・化物と恐れられても。」

 

「・・・白。」

 

普段人をからかってばかりいる白の本音を聞いた気がした剣丞は、

 

「なら俺は白を守るよ。」

 

そう言って笑ってみせた。

 

「私を?」

 

「白がみんなを守りたいって言うのはわかった。

でも俺は、そこに白もいなきゃ嫌だよ。」

 

「・・・剣丞って女たらしって言われたことない?」

 

「ね・・・ねぇよ!」

 

「フフフ、まぁいいや。」

 

白は剣丞の正面にたって微笑んで言う。

 

「やれるもんならやってみな。」

 

「・・・あぁ、何かあったら俺が白を守るよ」

 

挑発的な白の言葉に、剣丞ははっきりと返事をした。

 

「まぁそれはそれとして・・・とりゃ!」

 

「うわ!?」

 

白は水面を蹴りあげて剣丞に水をかけた。

 

「このままイイハナシダナーで終わると思ったか馬鹿め!」

 

「この野郎!」

 

剣丞は立ち上がって川の中に入ると、白に水をかける。

 

「やったなこの!」

 

「先にやってきたのはそっちだろ!」

 

今日1日で、白のいろんな顔を見た気がする。

 

どれが本当の白なのか、それの答えが、ようやく見えた気がした。

 

(きっと全部ひっくるめて、白なんだろうな。)

 

白と水を掛け合いながら、剣丞は思った。

 

#####

 

「お待ちなさい!白様!剣丞様!」

 

「剣丞逃げて!捕まったら何されるかわかんないよ!?」

 

「なんで俺まで逃げなきゃいけないんだよ!」

 

町に帰ってきた二人は、彩華に追いかけ回されたのであった。


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