戦国†恋姫~とある外史と無双の転生者~   作:鉄夜

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第五話

白狼隊の長屋、白の部屋。

 

「それでどう?白獅子隊の方は。」

 

白は茶を啜りながら、目の前に座っている疾風に聞く。

 

「まぁ、特に問題はねえよ。

むしろ最近巷で起こってる若い娘ばかり狙ってる人攫い、それの下手人のアジトが判明して絶好調だ。」

 

「へえ、どうやったの?」

 

「監察の山崎が忍び込んで見つけたらしい。

もう少し調べたら踏み込むつもりだ。」

 

「山崎ねぇ。

大丈夫?サボってミントンとかしない?」

 

「しねぇよ・・・博打はするけど。」

 

「あはは、大変だね、隊長殿。」

「うるせぇよ。」

 

「しかも監察って何新選組みたいなことしてるの?」

 

「それを言うなら姉貴、後ろの張り紙なんだ?」

 

白の背後の壁には大きな張り紙がはられており。

 

そこには以下の文章が書かれていた。

 

一.士道に背きまじきこと

二.勝手に金策いたしべからず

三.勝手に訴訟取り扱うべからず

四.私情での殺生を許さず

右の条々あい背き候者は切腹申しつくべき候なり。

 

「なにって・・・法度?」

 

「そっちの方が新選組じゃねぇか!」

 

「言っとくけど、私が作ったんじゃないからね。

彩華が『部隊を統率するには規律が必要です。』ってクソ真面目なこと言うから任せたらこんなことになった。」

 

「でもなんかあと二つたりなくねぇか?

見たことねぇやつもあるし」

 

「局を脱するを許さず、私の闘争を許さず、ね。

今の時代それを入れると毎日切腹祭だから。

一つは外させて、もう一つは少し変えさせた」

 

「あぁ、元々はまんまだったのか。」

 

「いい子なんだよ?ちょっと頭硬いけど。」

 

白がそう言った時。

 

「失礼します。」

 

部屋の襖を彩華が開けた。

 

「おや、そちらはもしや妹君ですか?」

 

「うん、妹の疾風、白獅子隊の隊長をやってる。」

 

彩華は疾風に深々と頭を下げる。

 

「お初にお目にかかります。

私、明智左馬助秀満、通称を彩華と申します。

以後、お見知り置きを。」

 

「颯馬疾風だ。

姉貴から話は聞いてる。

結構優秀なんだってな。」

 

「滅相も御座いません。」

 

「謙遜すんなって、色々めちゃくちゃな姉貴だけど、これからもよろしくな。」

 

「・・・」

 

「どうしたの?彩華。」

 

「いえ、白様の妹君と聞いて警戒していたのですが、案外まともな方なのですね。」

 

「おや?今何気に喧嘩売られた?」

 

「事実でしょう?」

 

「私だってまともだよ?」

 

「寝言は寝て言えよ。」

 

「貴方のようなキ印がまともなわけが無いでしょ。」

 

「よし、わかった。

表出ろお前ら。」

 

そう言って白は立ち上がる素振りをするが、

すぐに座って彩華に聞く。

 

「まぁ、今はいいや。

それで彩華何か用があったんじゃないの?」

 

「はい、壬月さまがいらっしゃっています。

お通ししてもよろしいですか?」

 

「壬月が?

何の用だろう・・・。」

 

「またなんかやらかしたんじゃねぇか?」

 

「失礼だな、まだ何もしてないよ。」

 

「まだって言うな。」

 

「うーん、まぁ本人から聞けばいいか。

通していいよ、彩華。」

 

「はっ。」

 

そう言って彩華が離れて行くと、疾風は白に真剣な面持ちで聞く。

 

「なぁ、姉貴。

彩華の事だが、大丈夫なのか?」

 

「なにが?」

 

「明智秀満っつったら、光秀の部下じゃねぇか。

そんな奴をそばに置いとけば、

裏切った時責を問われるのは姉貴だぞ?」

 

「まぁ、私に仕えているうちは大丈夫でしょ。

それに裏切ったら裏切ったで・・・。」

 

白は、無邪気な笑顔を浮かべる。

 

「その時は彩華と本気の殺し合いができるし、

私にとってはいい事しかないよ。」

 

「・・・やっぱり姉貴キチガイだよ。」

 

「人間五十年だよ、疾風。

楽しまないと。」

 

白と疾風がそんな会話をしていると。

 

「白、入るぞ。」

 

襖を開けて壬月が入ってきた。

手には大きな箱を持っている。

 

「お、疾風もいたのか。」

 

「おっす、壬月さん。」

 

「それでどうしたの、壬月。

評定まではまだ時間があるはずだけど。」

 

「あぁ、お前に殿から届け物だ。」

 

そう言って壬月は箱を下ろし蓋を開ける。

 

「これって・・・戦装束?」

 

「あぁ、そうだ。

疾風はまだいいが、お前の装束はかなり傷んでいるからな。

殿が手配して作らせたのだ。」

 

「・・・別にいいのに。」

 

「そのような格好で評定に出すわけにも行かん。

とりあえず着替えろ。」

 

白は箱を持って隣の部屋に移動した。

 

そして着替え終わると、自らの服装を見ておもった。

 

「神喰の鎌衣装(白)だこれ。」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「白、どうした?」

 

「あぁ、うん。

今行く。」

 

白は壬月と疾風が待つ部屋に戻ってきた。

 

「おぉ、なかなか似合うではないか。」

 

壬月が賛美している中。

 

「・・・」

 

服装に見覚えのある疾風は、なんとも言えない顔をしていた。

 

「それでどうだ、着心地は。」

 

「・・・」

 

白は、庭に出ると鎌槍を出して適当に飛び回りながら振り回した。

それを少しの間繰り返すと、武器を消して戻ってくる。

 

「うん、動きやすくていいね。

気に入った。」

 

「それは良かった。

大事に使えよ、殿直々の注文の品など普通はもらえんのだからな。」

 

「うん、分かった。」

 

「さて、スマンが私はもういく。

評定までにやっておかねばならぬ仕事があるからな。」

 

「わざわざありがとう、壬月。」

 

壬月が部屋から出ていくと、それを見計らっていたように疾風が言う。

 

「一体なんだよその格好は。

神でも喰らいに行くのか?」

 

「うん、私も思った。

でもかっこいいでしょ?」

 

「まぁな。

死神っぽくて姉貴にはピッタリだな。」

 

「ふふっ、ありがと。

褒め言葉として受け取っておくよ。

それでさ、疾風。」

 

白は、日本刀を出して疾風に向ける。

 

「久しぶりに、ヤろっか。」

 

疾風は、そんな姉の質問ににやりと笑って答える。

 

「・・・上等!」

 

疾風はそう叫ぶと腰に差していた刀を抜き、伯に切りかかる。

 

白はそれを防ぐが、衝撃で庭の外に飛び出てしまい、宙返りをして着地する。

 

そこに疾風はすかさず近づき、連撃を打ち込む。

 

だが容易く弾かれてしまい一度距離をとる。

 

白は続いて刀身を前に突き出して疾風に突進する、

 

しかし疾風はそれを容易く横に避ける。

 

(なんだ?姉貴らしくもねえこんな安い手うお!?)

 

疾風が体を後ろに反らすと、顔の上を刀の刃が通過する。

 

疾風は横に転がるように距離を取り、白を睨む。

 

白が手に持っている刀は鞘の底からもう一つの刀身が飛び出していた。

 

先ほどの攻撃は、刀を回転させ、もう一つの刀身で攻撃したのである。

 

「それ・・・信兄ぃの刀か?

全然見た目違うじゃねぇか。」

 

「信之の刀の構造は分かってるからね、頭の中でオリジナルのものを()()()それを複製した。」

 

「それもうほとんど複製じゃなくて創造じゃねえか。」

 

白は、持っていた武器を消すと、

真田信之の武器である双刻陰陽刀を出現させた。

 

そして疾風に接近すると、武器の特性を生かし上下左右から縦横無尽に切り込んでいく。

 

疾風はそれに素早く対応し、件で弾いていく。

 

そして、スキができたところで距離を取り、今度は疾風が連撃を叩きつける。

 

しかし、またも白の技によって受けられ、弾かれる。

 

「ったく!めんどくせぇな!」

 

疾風が悪態をつくと、白は口を開く。

 

「ねぇ疾風。

信之の無双奥義・皆伝ってどんなのか知ってるよね?」

 

その言葉とともに、白の気が一気に膨れ上がる。

 

「ま・・・待て姉貴!こんな所でそんなもんぶっぱなしたらどうなるか分かってんのか!?

全部吹き飛ぶぞ!」

 

「・・・おかしなことを言うね、疾風。

ここは私の家、そして私の庭。

どうなろうと、私の自由。」

 

「くそ!」

 

疾風は白との距離を一気に詰める。

 

発動させる前に一撃当てれば止まる、そう思って疾風は駆け出し、接近する。

 

そして、間近まで迫ったとき。

 

「なーんちゃって。」

 

「・・・え?」

 

ガンッ!

 

疾風の体が、衝撃とともに吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。

 

「くっ!」

 

疾風が顔を上げると、白がもう片方の手で大槌を持っていた。

 

「卑怯な手使うなぁ、おい。」

 

「疾風って本当に変に真っ直ぐだよね。

そこ直さないと、そのうち本当に死ぬよ?」

 

「うるせぇ、余計なお世話だ。」

 

白は倒れてる疾風に手を差し出し、疾風はそれに捕まり立ち上がる。

 

「流石ですね、お二人共。」

 

白と疾風が振り返ると、そこには彩華がいた。

 

「見てたんだ、彩華。」

 

「申し訳有りません、覗き見するつもりは無かったのですが、二人の立ち会いに割り込むことができませんでした。

それより白様、お時間です。」

 

「あれ?もうそんな時間?」

 

「はい、そろそろ登城しておいた方がよろしいかと。」

 

「そっか、じゃあ凛拾って行こうか。

疾風も早く準備して。」

 

「ちょっとまてよ、こちとら誰かさんのせいでついた服の埃払ってんだから。」

 

疾風が埃を払い終わると3人は庭の裏手へと向かった。

 

そこでは、凛が子供たちと蹴鞠で遊んでいた。

 

「いくよー!それ!」

 

「もー!凛姉ちゃんもうちょい優しく蹴ってよ!」

 

「ふははは!子供とて手加減できぬぅ!」

 

その様子をみて、彩華が溜息を吐く。

 

「全く、子供たちと一緒になって遊んでますね。」

 

「まぁ子供だし、仕方ないんじゃない?」

 

「あぁ?あいつ歳いくつだよ。」

 

「確か12歳のはずですが?」

 

「・・・本当にガキじゃねぇか。」

 

「まぁ、こんな時代だしね使えるものはなんでも使うって感じなんでしょ。」

 

そんな会話をしていると凛がこっちに気づき駆け寄って来る。

 

「白様!一緒に遊びに来たの?」

 

「ううん、凛に用事があってね。」

 

「ふーん、そうなんだー。

ん?そっちの人は? 」

 

凛は、疾風の方を向いて聞く。

 

「会うのは初めてだな。

俺は颯馬疾風。

宜しくな。 」

 

「凛は猿飛凛佐助!凛でいいよ!

よろしくね!疾風様!」

 

「おう、なかなか威勢がいいじゃねえか。」

 

疾風が頭を撫でてやると、凛は気持ち良さそうに目を細める。

 

「凛、私達はこれから登城して評定に出るから。」

 

「あ、そうなの?

いってらっしゃい。」

 

「何を言ってるんですか、あなたも出るんですよ。」

 

彩華の言葉に凛は目をパチクリとさせる。

 

「いやいや、凛は草だよ?

草が評定に出るのはおかしいでしょ。」

 

「確かに凛は草だけど、ウチの将の1人でもあるんだから、出るのは別に変じゃないよ。」

 

「いやでも・・・。」

 

「うるさい、いいから行くの。

久遠にもう許可は取ってあるから。

黙ってついてこい。」

 

「アッハイ。」

 

凛は渋々と言った様子で返事をする。

 

「それでは白様、行きましょうか。」

 

「そうだね。」

 

凛を加えた白たちは、清洲城へと向った。

 

#####

 

清洲城への道中、凛が不満そうに言う。

 

「評定かぁ。

凛、堅苦しいの嫌いなんだよね。」

 

「凛は堅苦しさとは無縁だもんね。」

 

「誰にでもブレないのはいいかどうか分かりませんけどね。」

 

「確かに人懐っこそうだな。」

 

「実際人懐っこいよ。

久遠や麦穂にも可愛がられてるし。」

 

「久遠様、薄荷のいい匂いがするから凛好き!

麦穂様もお母さんみたいで大好き!」

 

「壬月は?」

 

白の質問に凛はしばらく腕を組んで悩んでから言う。

 

「・・・お父さん?」

 

凛の言葉に、他の3人が吹き出した。

 

「凛、それ本人に言うなよ?」

 

「あはは、言わないよ、怒られるもん。」

 

そんな会話をしながら城の前に行くと、丁度壬月が登城する所であった。

 

「あ!壬月さま!おはようございます!」

 

「うむ、今日も元気がいいな、凛。」

 

壬月が凛の頭をワシワシと撫でる。

 

「ん?なんだ白、その哀れみに満ちた目は。」

 

壬月が訝しげに白を睨みながら言うと、白は壬月肩を叩いて通り過ぎる。

 

「なんだか分からんが無性に腹が立つんだが。」

 

「まぁあれだ、壬月さんは知らない方がいいと思う。」

 

「ん?」

 

壬月は不思議そうに首を傾げる。

 

#####

 

白は評定の間に着くと、扉を開いて中に入る。

 

「お、来たか。」

 

部屋に入ると、久遠が笑顔で迎えてくれた。

 

「おーい、凛ちゃーん、こっちだよー。」

 

声をかけられた方を見ると、雛が自分の隣の床をポンポンと叩いていた。

 

ここに座れということだろう。

 

「うぅ・・・やっぱり凛は外で・・・」

 

「この後に及んで何を言っているんですか、行きますよ。」

 

彩華が渋る凛の手を引いていく。

 

凛をひなの隣に座らせ、その隣に彩華も座る。

 

「うぅ、落ち着かない・・・。」

 

「フフフ、似合ってるよ、凛。」

 

「やめてよ白様!」

 

凛をからかった後、白と疾風が座ろうとすると、久遠が呼び止める。

 

「待て、二人の座る場所はそこだ。」

 

久遠が示したのは下座だか上座のすぐ側、その右端と左端であった。

 

「・・・何故に?」

 

「狛犬のようで見栄えがいいだろ。」

 

「なんだそりゃ。」

 

2人は言われるがままに座る。

 

凛がニヤニヤしながら白に言う。

 

「似合ってるよ、白様。」

 

「ひっぱたくよ、凛。」

 

そんな会話をしていると、部屋の襖を開く音がする。

 

そこには、剣丞を連れた麦穂がいた。

 

剣丞は目の前の光景に戸惑っているようだ。

 

「剣丞、何をしている、早くこっちに来い。」

 

久遠は、剣丞に自分の隣に座るように促す。

 

剣丞が座ると、久遠は家中全員に向かっていう。

 

「皆の者、この男が我の夫となる、新田剣丞だ。」

 

#####

 

「どうしてこうなった。」

 

そう言った疾風の目の前では、剣丞にのされた三若が気絶し、麦穂が恥ずかしそうに顔を赤らめていた。

 

その麦穂の目の前で、剣丞は綺麗な土下座をし、その様子をみて白は腹を抱えて爆笑していた。

 

久遠の爆弾発言に、三若を初めとした家中の面々が待ったをかけ、

 

文句があるなら試合で決着をつけろと言う久遠の言葉で、久遠の家の庭で家中と剣丞が立ち会うことになった。

 

剣丞は、三若達を倒し、続いて麦穂と立ち会った。

 

結果、苦戦するも一瞬のスキを突いて麦穂の胸を鷲掴みするというまさかの方法で勝利を収めた。

 

「剣丞・・・君って奴は・・・くっ・・・あはははははははは!!」

 

白は、大爆笑している。

 

「本当に!本当にすいませんでした!」

 

謝る剣丞に麦穂は顔を赤らめて睨みながら言う。

 

「責任・・・とってくださいね。」

 

そんな会話をしているそばで、やっと笑いが収まったのか、白が目に浮かんだ涙を拭いながら起き上がる。

 

「あー、笑い死ぬかと思った。」

 

「笑いすぎだっての。」

 

「剣丞ドサクサに紛れてえっちぃなー。」

 

「しょうがないだろ!そうするしか勝ち目なかったんだから!」

 

「まぁ、小僧が助平なのはどうでもいいとして、お主らは立ち会わなくていいのか?」

 

壬月が白達に話を降る。

 

「私は別にいいかな、疾風はどうする?」

 

「俺も別に・・・彩華は?」

 

「私もこれまで立ち会いをみてある程度実力は計れましたので・・・問題は。」

 

彩華の視線に釣られるように白と疾風もそちらを向くと、凛が目を輝かせ、ソワソワとしながら剣丞を見ていた。

 

「・・・凛、遊んでおいで。」

 

「いいの!?白様!」

 

「うん、でも殺しちゃダメだよ。」

 

「うん!気をつける!」

 

凛は飛び上がると宙返りをして健介の目の前に着地する。

 

そして、腕を交差させて勢いよく広げると、それぞれの指の間に3本ずつ、計6本の刀を挟んで持っていた。

 

「アレがアイツの武器か。」

 

「仮のね〜」

 

疾風が呟くと、いつの間にか移動して来ていた雛が、疾風の膝を枕にして寝転がりながら言う。

 

「雛、仮ってのはどういう事だ。」

 

「なんとなくわかるんだけど〜、多分凛ちゃんって雛と同じタイプだよ〜。」

 

「ん?本気の時は素手ってことか?」

 

「あー、やっぱり疾風ちゃんは雛の事気づいてたか〜。」

 

「まぁ、動きを見てりゃあ自然にな。」

 

そう言って疾風は、剣丞と凛の方を見る。

 

剣丞は、凛を見るなり後頭部を掻く。

 

「子供相手ってやりにくいなぁ。」

 

「おーい、剣丞ー。」

 

白に呼ばれて剣丞がそちらを向く。

 

「子供って純粋で手加減ってあんまり知らないから、下手したら死ぬよー。」

 

「・・・気をつけよう。」

 

剣丞は顔を引き締めた。

 

「それじゃあ行っくよー!」

 

凛は一気に近づくと、軽快な動きで縦横無尽に攻撃する。

 

しかし、剣丞も負けじと攻撃を防いでいく。

 

「なかなかにきついけど・・・これくらいなら何とか。」

 

その様子をみて、彩華が感心したようにいう。

 

「あの男、なかなかやりますね。」

 

「多分師匠がいいんじゃないかなぁ、初めてであそこまで凛の動きについてくるなんてねぇ。」

 

凛は距離をとると、何かを懇願するように白を見つめる。

 

白はため息を吐くと、微笑んでいう。

 

「しょうがないなぁ、ちょっとだけだよ?」

 

白が言うと、凛は花のように笑顔を咲かせ、

持っていた刀を地面に捨てる。

 

「え?なに?」

 

剣丞が困惑していると、凛の腕が、赤い光に包まれる。

 

「アレは・・・気?」

 

凛は飛び上がると空中で拳を構え、急降下しながら剣丞に殴りかかる。

 

「やば!」

 

剣丞が急いで避けると、その場所に凛の拳が叩きつけられ、地面に大穴が飽き土煙が起きた。

 

「あ・・・あんなの食らったら・・・本当に死んじゃうってうお!?」

 

土煙の中から満面の笑み出てきた凛が剣丞の顔面に拳を繰り出す、剣丞はそれをなんとか避ける。

 

続いて凛は剣丞の前から姿を消すと、背後に回り込み、回し蹴りを繰り出す。

 

「うお!?」

 

剣丞はそれをしゃがんでよけ、そのまま前転をして距離を取ろうとした、しかし、前転して前方を確認すると、凛の拳が目の前にあった。

 

「なっ!しまっ!」

 

剣丞の顔に拳が当たる寸前で、

 

「そこまで。」

 

白の言葉で、凛の動きが止まる。

 

「凛やりすぎ。

ちょっとだけって言ったでしょ?」

 

「ご・・・ごめんなさい!白様!」

 

凛はとてとてと白のところへ戻っていく。

 

(し・・・死ぬかと思った・・・。)

 

剣丞がホッとしたのもつかの間。

 

「では最後は私が出よう。

猿!獲物をよこせ!」

 

「は、はい!」

 

ひよは巨大な斧を持ってくると、壬月に渡したな。

 

壬月はそれを軽く振り回すと、

 

「よし。」

 

と言って構えた。

 

(あ、俺死んだかも。)

 

剣丞は、ひとり静かに覚悟を決めた。

 

「なぁ、姉貴、あれ剣丞やばいんじゃね?」

 

「大丈夫でしょ、壬月もちゃんと手加減するだろうし。」

 

「いや手加減してるにしてもヤバいって。

何か気も溢れてきてるし。」

 

「まぁ、上手いこと避けるでしょ。

それに死んじゃったら死んじゃったで。」

 

白は妖しく笑って言う。

 

「運も実力のウチってね。」

 

#####

 

目の前の光景に、凛と彩華は呆気に取られ、

疾風は「うわぁ・・・。」と言ってドン引きしていた。

 

地面がえぐれ、その先で吹き飛んだ剣丞が伸びていた。

 

「一撃で伸びてしまうとは、情けない。」

 

壬月の御家流「五臓六腑」が炸裂し、剣丞は吹き飛んでしまったのだ。

 

「いやぁ、壬月はやることが派手だね。」

 

白は剣丞に近寄る。

 

「おーい、剣丞。

大丈夫?

ねぇ、剣丞ってば。

大丈夫かって聞いてんだろ。」

 

パァン!

 

白が剣丞の頬を思いっきり叩くが、反応がない。

 

「あ、完全に伸びてるわこれ。」

 

「は・・・白ちゃんなにやってるの!」

 

ひよが白に駆け寄っていう。

 

「ひっぱたいたら起きるかなぁって。」

 

「だからって気絶してる人叩いちゃダメだよ!」

 

「大丈夫だよ、上手いこと避けてたし。

怪我は大したことないよ。」

 

「だからって叩いていいわけないでしょ!」

 

「ひよ、常識に囚われちゃだめだよ?」

 

「ーーーーーっ!」

 

ひよが頬をふくらませて白をポカポカと叩く。

 

「ちょ、ごめん!ごめんって!

怒んないでよひよ。」

 

白が怒っているひよをなだめる。

 

「白、お前から見て剣丞はどうだ。」

 

久遠が聞くと、白は答える。

 

「うん、いいんじゃないかな。

そこそこ戦えるみたいだし。

凛はどう?」

 

「凛もいいと思う!

剣丞様優しい人だし!」

 

「うん!犬子もそう思う!」

 

凛の意見に、犬子も同調する。

 

「なんだよ二人共、なんで優しいなんてわかるんだ?」

 

和奏が聞くと、凛は少し考えていう。

 

「なんて言うんだろう、戦ってみた感じと、あとは匂いかなぁ。」

 

「うんうん!剣丞様いい匂いするもんね!」

 

「なんだよ、犬の嗅覚かよ。

まぁ、僕も別にいいけどさ。」

 

「雛も意義なーし。」

 

三若に続いて他の者達も賛同する。

 

「結菜もいいか?」

 

久遠が聞くと結菜はまだ納得していない様子でいう。

 

「まだ認めてあげない。」

 

その様子を見て、白が笑う。

 

「大人気ないなぁ、結菜は。

別に久遠を取られたりしないって。」

 

「う・・・煩いわよ!白!

そんなんじゃないわよ!」

 

「あはは、ごめんごめん。

でさ、久遠みんなが認めたのはいいとして、これから剣丞どうするの?」

白の言葉に麦穂が続く。

 

「そうですね、働かざるもの食うべからずと言いますし、いかが致しますか?」

 

「ふむ・・・こやつはなかなか頭も回るようだし隊を一つ任せようと思う。」

 

「あ、それなら。」

 

白が思いついたように、隣にいるひよの肩に手を伸ばす。

 

「その剣丞隊の隊員第一号に、

私はこの木下藤吉郎秀吉を推薦するよ。」

 

「えー!?ちょっと白ちゃん!?」

 

白の言葉に久遠は小さく笑う。

 

「貴様の推薦がなくとも、もとよりそのつもりだ。

猿、貴様もそろそろ武士として名乗りをあげてもいい頃合いであろう。

剣丞の下につき、功をあげよ。」

 

「えっ!?あ、あの、じゃあ私・・・。」

 

「うむ。小人頭を免じ、今日より武士となれ」

 

「あ、あ、ありがとうございましゅ!」

 

「うむ。剣丞隊第一号として励むが良い。まずは剣丞を介抱せい。目覚め次第、二人で城に来い。沙汰を与える。」

 

「はいっ!」

 

「これにて剣丞の検分を終える!

皆は評定の間に場を移し、墨俣よりの報せを聞け」

 

「「「御意!」」」

 

白はその様子をニコニコと笑いながら見ていた。

 

「どうしたよ、姉貴。」

 

「・・・疾風。」

 

白は疾風の方を向く。

 

「楽しくなってきたね。」

 

#####

 

ひよが剣丞を運んでいったのを見届けると、

和奏が口を開く。

 

「あのー、久遠様。

本当に大丈夫ですか?」

 

「ん?何がだ?」

 

「いや、いくら言い寄ってくる男を払う口実のためだからって、

もし間違いがあったら・・・。」

 

「あの男に我の相手が務まるとは思えんが?」

 

「仮の夫婦とはいえ、若い男女、

何があるか分からないという訳ですね。」

 

「そう!流石彩華!」

 

久遠は小さく笑みを浮かべる。

 

「その時は、剣丞を正式に婿にしてやってもいい。

その覚悟はできている。」

 

「な!?」

 

結菜が驚いて目を見開く。

 

「あー、ダメだよ久遠。

結菜が嫉妬のあまり癇癪起こして御家流乱発したらどうするの?」

 

「白、アンタから黒焦げにしてあげましょうか?」

 

「ちょ、マジ勘弁。」

 

白は結菜を窘めると、続けて言う。

 

「でも、何があるかわからないって言うなら

ここに居る全員他人事じゃないかもよ?」

 

「え?」

 

「どういう事だよ、姉貴。」

 

首を傾げる和奏と疾風に、白は笑顔で言う。

 

「数ヵ月後にはここに居る全員、揃いも揃って剣丞の嫁御になってたりしてね。」

 

「は!?////」

 

「な!?////」

 

白の言葉に和奏と疾風が顔を赤くして反応する。

 

「な・・・何言ってんだよ白!

そんなことあるわけないだろ!?。」

 

「そうだぞ姉貴!ぜったいありえねぇって!」

 

「だって男が1人なのに周りは女の子だらけ。

よりどりみどりだよ?

ありえない話でもないと思うけどなぁー。」

 

白がそう言うと、2人は顔を赤くする。

 

「嫁・・・嫁って////」

 

「嫁御って・・・俺が?有り得ないだろ////」

 

「ぷ、あはははははは!」

 

そんな二人の様子を見て白が爆笑する。

 

「冗談で言ったのに、なに顔赤くしてんの?

二人とも可愛いなぁ。

あはははははは!」

 

「和奏、挟み撃ちにするぞ、このバカ姉貴ぶっ殺してやる。」

 

「よし、任せろ疾風。」

 

「ごめんごめん、怒んないでよ二人とも。」

 

白は二人をなだめた。

 

「さて、そろそろ城に戻って評定を開かなければ。」

 

久遠がそういって、先に行こうとするが、

 

「あ、ちょっと待って久遠。」

 

白が呼び止める。

 

「ねぇ三若、私、君たちと立ち会ったことなかったよね?」

 

「「「・・・え?」」」

 

白はニコニコと笑いながら言う。

 

「さっきの見てたら私も体動かしたくなっちゃった。

ちょっと付き合ってよ。」

 

三若が助けを乞うように壬月を見つめるが、

壬月は笑って言う。

 

「いい機会だ、しっかり絞られてこい三若。」

 

「「「そ・・・そんなー!」」」

 

白は、無邪気な笑顔を浮かべる。

 

「それじゃあ三若、(あそぼ)うか。」

 

晴れ渡る空に、三人分の悲鳴がこだましたのは、言うまでもない。

 

#####

 

美濃、稲葉山城。

 

飛騨は部下からの報告を聞いていた。

 

「そうか、織田の墨俣の築城を阻止したか。

苦労、これからも龍興様のために励め。」

 

飛騨がそう言うと、部下は部屋から出て行った。

 

(稲葉山を落とすために、墨俣に城を建てるつもりか。

なるほど、確かに確実な手だ。

だが、実現するのは難しいぞ。)

 

飛騨はため息を吐く。

 

「さぁ、どう出る、織田信長。」

 

#####

 

「どうしようか、この状況。」

 

先程、墨俣で築城をしていた部隊が壊滅、敗走したという知らせが届き、評定ではその件について揉めに揉めていた。

 

「殿!他に手はないのですか!?」

 

「ない、稲葉山を落とすには墨俣での築城は必要不可欠だ。」

 

「ですが、もう築城の知識があるものなど・・・。」

 

久遠は白に視線をやる。

 

「白、博識なお前なら築城の知識もあるのでわないか?」

 

「あるにはある。

だからこそ言えるけど、無謀だね。

このままだと、同じ事を繰り返して無駄に兵を死なせるだけだよ。」

 

「・・・であるか。」

 

全員が沈黙する。

 

「はぁ、埒があかん。

剣丞が来てからもう一度話し合うことにしよう。

和奏、スマンが剣丞を呼んできてくれ。」

 

「分かりました。」

 

「剣丞が来るまで、しばし休息とする。」

 

久遠がそう言うと、疾風は白に近づいて耳元で囁く。

 

「なぁ、姉貴。

どうするよ、手っ取り早く策を教えた方がいいんじゃねぇか?。」

 

「それは私たちの役目じゃないでしょ?」

 

「確かにそうだけどよ、

ひよは俺達が知ってる秀吉様ほど利口とは思えねぇぞ?」

 

「そこなんだよねぇ。

まぁ、もしもの時は私から言うよ。」

 

少しすると、和奏が戻ってきた。

 

「久遠様、剣丞が猿も評定に参加させてほしいらしいです。」

 

和奏が言うと、久遠は少し考えこむ。

 

「ふむ、ちょうどいいか。

よかろう、猿も評定に参加するように伝えよ。」

 

「分かりました!」

 

和奏再び出ていき、少ししてひよと剣丞を連れてきた。

 

それを見て、疾風も自分と席に戻る。

 

ひよが、緊張しているのか、少し震えながら彩華の隣に座る。

 

「ほ・・・本当にいいんでしょうか。」

 

「久遠様がお認めになったのですからいいのですよ。

胸を張りなさい。」

 

「そうだよ!あ、なんなら凛と代わる?」

 

「あなたも慣れなさい、凛。」

 

「フフッ。」

 

凛と彩華の掛け合いに、ひよから笑みがこぼれる。

 

「これからいろいろと大変でしょうが、お互い頑張りましょう、ひよ。」

 

「うん!よろしくね!彩華ちゃん!凛ちゃん!」

 

「おうともさー!」

 

ひよが彩華や凛と楽しげに会話する一方。

 

「どうした剣丞、早くこちらへ来い。」

 

久遠が自分の隣に座るように剣丞に言うが、

剣丞は戸惑っていた。

 

「俺は別にみんなと同じ様に下でもいいんだけど。」

 

「いいから座れ、問答の時間が惜しい。」

 

剣丞が渋々座ると、状況を整理するために、

麦穂が墨俣の件の話をする。

 

しかし案が出ず、再びみんなが沈黙していると、剣丞が口を開いた。

 

「あのさ、その墨俣の件、俺に任せてもらえないかな。」

 

そう言った剣丞に、壬月が少し怒りを混じらせて言う。

 

「ふざけるな、知識もない素人に何が出来る!」

 

「そうだそうだ!

ちょっと腕が立つ・・・じゃない、

ちょっと調子に乗れるからって、調子に乗るなよ!」

 

「いや和奏ちん、それ意味わかんないから。」

 

三人の意見に、疾風も同調する。

 

「剣丞、この件は素人が手を出していいもんじゃねぇ、それをわかって言ってんのか?」

 

「俺だって自信もないのに言っているわけじゃない。

それに織田家中の人達か続けて失敗するより、

ほぼ無名で素人の俺の方がもしもの時被害は少ないだろ。」

 

「てめぇ、自分の立場が分かってんのか!?

仮にもお前は殿の旦那だぞ!

そんなお前にもしものことがあったr」

 

「剣丞。」

 

疾風の言葉を遮った白の方を剣丞が見ると、

その瞳は、昨日の年相応の少女のものとは違い、氷のように冷たいものだった。

 

背筋が凍るような視線に、剣丞が息を呑むと、白は静かに口を開く。

 

「私は、無闇に命を捨てる奴が嫌いだ。

武士の誇りだとか、主の為だとか、それならまだいい。

でも、自分なら死んでも大丈夫とか、そんな理由で戦う奴は反吐が出る。

だから・・・私の前では言葉を選べよ?」

 

「・・・ごめん、言い方を間違えた。」

 

剣丞は白の目をまっすぐ見ると、強い意志のこもった瞳でいう。

 

「成功する自信はあるし、絶対に死なない。

約束する。」

 

剣丞がそう言うと、白の瞳は優しくなる。

 

「・・・だそうだよ、久遠。」

 

白が久遠に言うと、久遠は少しの間瞳を閉じる。

 

そして静かに瞳を開くと剣丞に言う。

 

「剣丞・・・やってくれるか?」

 

「逆に聞くけど、俺に出来ると本気で思ってる?」

 

「分からん、だが我らと違う考えを持っているお前なら、成し遂げるかもしれん。」

 

久遠がそう言うと、彩華も口を開く。

 

「白様、白狼隊も剣丞隊の手助けをしてはいかがでしょう。」

 

「ウチが?」

 

「あ、そっか!」

 

凛がポンと手を打って言う。

 

「無名って言うならウチもだし、丁度いいかもね!」

 

「なるほど、確かにそうだね。」

 

「それなら白獅子隊も出るぜ。」

 

「それはダメ。」

 

「なんでだよ姉貴!

無名って言うならウチだって」

 

「白狼隊が欠けるのに白獅子隊までいなくなってどうするの。

剣丞が心配なのは分かるけど、疾風は疾風の仕事をしなよ。」

 

「・・・分かったよ。」

 

剣丞が、拗ねている疾風に言う。

 

「ごめんな疾風、心配かけて。」

 

「別にいいよ・・・死ぬんじゃねぇぞ。」

 

「分かってる。

白もありがとう。

白達が手伝ってくれるなら百人力だ。」

 

「こちらこそよろしくね、まぁ失敗したら大先輩の和奏が助けてくれるから。」

 

「先輩って・・・ふふん、しょうがないなぁ、もしもの時は僕に任せろー!」

 

「和奏、ちょろすぎだよ。」

 

「なんだと犬子!」

 

最後に久遠は、剣丞と白のふたりに言う。

 

「剣丞隊、そして白狼隊。

双方に、墨俣での築城を命じる。」

 

「おまかせあれ」

 

剣丞に続いて、白も返事をする。

 

「御意に。」

 

その横顔が楽しそうに笑っているのを、疾風は見逃さなかった。


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