戦国†恋姫~とある外史と無双の転生者~   作:鉄夜

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第四話

白と疾風がこの世界に来て七日がたった。

 

少し小高い丘の上に、白は陣を敷いていた。

 

白狼隊だけでなく、犬子が率いる赤母衣衆、

和奏が率いる黒母衣衆、雛が率いる滝川衆がいた。

 

「白様ー!」

 

凛が白の側に現れる。

 

「凛、どうだった?」

 

「連中呑気に酒飲んてますぜ!

殺るなら今しかないと思うよ?」

 

「そう、ありがとう、凛。」

 

白は凛の頭を撫でると、後ろで控えている兵たちの方を向く。

 

「えー、みんなー、注目ー。」

 

兵士達が一斉に白の方を向く。

 

「もう何回も話したと思うけど、

つい先日、清洲に物資を運んでいた荷馬車が、500人くらいの盗賊団に襲われましたー。

今日の任務は、盗賊共を皆殺しにするだけの簡単なお仕事でーす。

命乞いも、降伏も無視して、ジャンジャン殺しちゃってくださーい。」

 

「あ・・・あのさ、白。」

 

「んー?どうしたの?和奏。」

 

「別にそこまでする必要はないんじゃないか?

降伏を受け入れて、何なら部下に加えてm」

 

「和奏。」

 

自分の言葉を止めたその冷たい声に、和奏はついビクッ!と体を震わす。

 

「荷箱には、木瓜紋が彫ってあった。

なのに連中は襲撃してこれを奪った。

これがどういうことか・・・分かるよね。」

 

冷や汗をかいている和奏に、白は続ける。

 

「舐められてるんだよ。

兵が弱卒だからとか総大将がうつけだからとか、理由はともかく盗賊風情に織田が舐められてる。

それが私は我慢ならない。」

 

「たしかに・・・そうだけど。」

 

「それにね、和奏。

盗賊団は今アジトにしている村を占拠するために住んでいた人を皆殺しにしたんだよ?

そんなヤツら、滅ぼすのが道理ってもんでしょ?

この世に正と邪があるなら、これは正だよ。」

 

その言葉に和奏は何も返せなかった。

 

「それともう一つの目標として、奪われた資材の奪還と囚われている子供の保護もお忘れなく。

それじゃあ行こうか。」

 

白が馬に乗って先を歩く。

 

和奏は、膝から崩れ落ちる。

 

その和奏を雛と犬子が支える。

 

「大丈夫?和奏ちん。」

 

「なんだよ・・・何であいつ今日あんなに機嫌悪いんだよ・・・。」

 

「ここに来てから、ずっとああだよねぇ。

そんなに気に食わないのかなぁ。」

 

「わからないけど、今は従っといた方がいいと思うよ?」

 

「うん、確かにそうだよね、怖いし。」

 

「うぅ・・・。」

 

三若も馬に乗り、それぞれの兵を率いて白の後を追った。

 

#####

 

白は白狼隊や、他の母衣衆を率いて、先頭で馬を走らせていた。

 

その後から、三若も続いている。

 

「白狼隊!」

今日が初陣だけど、盗賊なんぞにやられる情けない奴に作ってやる墓はないと思っといてね!」

 

「応!」

 

「あと彩華!好きなだけ暴れていいよ!!」

 

「御意!」

 

「三若も頼んだよ!」

 

「任せろ!」「わん!」「りょうか〜い。」

 

「さて、それじゃあ。」

 

白が右手を広げると、加藤清正の武器である、

鎌槍、槍刃鋼牙が現れた。

 

「狩りを始めよう・・・。」

 

白はそういうと一気に馬を、敵のアジト付近までは知らせる。

 

山賊達がそれに気付き、武器を構えると、

 

白は、馬から飛び降りて、盗賊の一人に飛びかかり、鎌をふるう。

 

「ヒィ!」

 

哀れな賊は、縦に真っ二つに切り裂かれる。

 

「突撃ぃぃ!」

 

後ろに控えていた彩華が叫ぶと、兵士達が一斉になだれ込む。

 

「チクショー!」

 

白は斬りかかってきた賊の体を鎌槍の先で突き刺した。

 

「ぎゃっ!?」

 

そしてそのまま、賊が突き刺さったままの鎌槍を回転させながら進み、10人ほどを切り捨て、突き刺さっていた賊を向かってきていた賊の集団へ投げ捨てた。

 

「な!?」

 

賊が慌てている間に急接近し、5人をいっぺんに切り捨てる。

 

続いて鎌を大きく横に振るうと、振るった場所の地面が爆発し燃え上がり、一気に五十人ほどを仕留めた。

 

「まったく、大暴れですね。」

 

そう言って呑気に白の方を眺めていた、彩華に賊が斬りかかるが、その攻撃を彩華が横に避けると同時に、ズバッ!という音と共に鮮血を吹き出し倒れる。

 

「な・・・なんだ今のは!抜いたのか!刀を!」

 

「ええ、抜きましたよ。

まぁ、今のが見えないようでは貴方達には一生見切れないでしょうね。」

 

そう言って彩華は、ゆっくりと近寄っていく。

 

「ま・・・待て!降参する!助けてくれぇ!」

 

「申し訳ありませんが、皆殺しにせよとの命ですので・・・それに。」

 

彩華は一瞬で消えたと思うと、刀を抜いた状態で、賊たちの後ろに移動していた。

 

血の付いた刀をゆっくりと鞘に納めていき、

カチンという音がするとともに、賊達が鮮血を吹き出し、一斉に倒れる。

 

「私も、個人的に貴様らが気に入りませんので。」

 

#####

 

(あー、完全に孤立しちゃったなー。)

 

雛は一人、複数の敵に囲まれていた。

 

(こうなったらいっそ・・・いや、()()は使いたくないなぁ。)

 

その時一人の賊が、雛に斬りかかった。

 

雛はそれを容易く避けて背中を小太刀で突き刺す。

 

賊はそのまま、一件の家に引き戸を壊して倒れ込む。

 

(・・・・!)

 

その家の中には、自分達が守るはずだった領民の、無残な死体がまるでゴミのように転がっていた。

 

(あぁ・・・だめ・・・抑えなきゃ。

抑え・・・なきゃ・・・。)

 

自分の体を抱きしめて固まった雛に、一人の賊が斬りかかる。

 

「くたばりやがれぇ!」

 

ズバッ!

 

その胴体を、雛の細腕が貫いていた。

 

「・・・え?・・・ゴボっ!」

 

賊は、何も分からないまま血を吐き出した。

 

雛が賊から腕を抜き取ると、手にまだ脈打っている心臓が握られていた。

 

雛は、それを地面に投げ捨てる。

 

(あー、やっちゃった。)

 

#####

 

たしかあれは・・・そう。

 

御家流を身につけた時、好奇心旺盛な少女は、

この御家流を応用して、手刀に速さを乗せるとどうなるのかと思った。

 

そうして振るったそれは、一本の木を斬り倒した。

 

それを足で、指先でと試しているウチに、

少女の周りには、木の残骸であふれていた。

 

これがもし人だったら・・・そう思うと少女はとたんに恐ろしくなり、この技を封印した。

 

それでも、もしもの時を思って、密かに鍛錬は続けていた、そんな日が来ない事を願って。

 

#####

 

雛の周りには、先程まで息をしていた賊たちの骸が倒れていた。

 

両の手は血に染まり、顔にも返り血がべっとりと付着していた。

 

雛が赤く染まった自分の両手を悲しそうに見つめていると、誰がが近づいてくる音がした。

 

雛が音がした方を向くと、彩華が唖然とした表情をしていた。

 

「雛・・・これは。」

 

「嫌!見ないで!」

 

雛は頭を抱えて、怯えるようにしゃがみこむ。

 

「雛!?どうしたんですか!?」

 

「だって・・・こんなの雛じゃないもん!

こんな雛・・・誰にも・・・見られたくない・・・。」

 

「雛・・・。」

 

彩華が戸惑っていると、横を白が通過していく。

 

白はそのまま雛の隣りにしゃがむと、肩に手を置いて言う。

 

「雛、この先に小さな川がある。

手と顔だけでも洗っておいで。」

 

「で・・・でも白ちゃん・・・」

 

「和奏達に見られたくないんでしょ?

大丈夫、滝川衆は私が面倒見とくから。

戻って来る頃には全部終わってるよ。」

 

「うん・・・ありがとう、白ちゃん。」

 

そういうと雛はとぼとぼと歩いていった。

 

「白様・・・私には理解出来ません。」

 

白は彩華の方を向いて静かに耳を傾ける。

 

「強い力を持っているなら、使うべきです。

それなのに・・・どうしてあんな・・・。」

 

「確かに強い力は使えば便利だよ。

でも、強すぎる力は同時に、孤独を生む。

そんなの、雛に耐えれると思う?」

 

「ですが・・・いつかは受け入れなければならないのではないですか?」

 

「それは私達がどうこう言っていいことじゃないよ、彩華。

それは、雛が自分でやることだ。」

 

白はそういうと、彩華に近づく。

 

「ところで、今どれぐらい制圧した?」

 

「あらかた敵は殲滅しましたが、一部の敵は白様の予想どうり、森の方へ逃げたようですね。」

 

「・・・そう、まあ、そっちは凛がなんとかしてくれるでしょう。

いこうか、彩華。」

 

「はっ。」

 

#####

 

深い森の中、賊たちの死体がたくさん転がっていた。

 

「ヒィ!た・・・たすけ、ふぎゃ!」

 

3本の忍者刀を指の間に挟んだ凛が、男の腹を突き刺す。

 

後ろには、白い装束の忍びたちが控えている。

 

「まったく、殺される覚悟もないのに馬鹿なことやるからこうなるんだよ?」

 

そう言って、こちらを怯えた表情で見ている男に近寄っていく。

 

「た・・・たのむ!殺さないでくれ!」

 

「ダメダメェ、忍に命乞いしても無駄だよ?

忍にとって主の命令は絶対なんだから。

じゃ、おやすみ。」

 

凛の冷たい刃が、振り下ろされる。

 

#####

 

「白様ー!」

 

凛は、無邪気な笑顔を浮かべて、白に抱きついた。

 

「凛ね!凛ね!いっぱい殺したよ!

褒めて褒めて!」

 

「うんうん、よく殺ったね。

えらいえらい。」

 

「ほら凛、顔に返り血がついていますよ?

拭いてあげますからこっちに来なさい。」

 

「えへへ、ありがとう彩華。」

 

その様子を和奏と犬子が少し引き気味に見ている。

 

「おかしいな・・・ほんわかする筈の光景なのに・・・。」

 

「話してる事が物騒すぎて殺伐としてるわん。」

と、そこに雛が歩いてきた。

 

「あ!雛!」

 

「雛ちゃん!」

 

犬子と和奏が雛に駆け寄る。

 

「まったく、滝川衆ほっぽり出してどこいってたんだよ。」

 

「心配したよ!」

 

「あはは、ごめんね、二人共。

ちょっと迷子になっちゃって。」

 

どうやら落ち着いた様子の雛に、彩華は安堵した。

 

「白様!」

 

白狼隊の兵士の1人が、白の前に跪き、頭を垂れる。

 

「隠れていた盗賊団の頭領を捕縛しました。」

 

「ご苦労さま、ここに連れてきて。」

 

「はっ!」

 

少しすると、一人の男が兵士達に連行されてこられ、白の前に放り出される。

 

「た・・・たのむ!殺さないでくれ!

命だけは助けてくれ!」

 

白は命乞いをする男に冷たい視線で問う。

 

「奪った資材と、子供達はどこ?」

 

「こ・・・この先の一番大きな屋敷に資材もあるしガキも閉じ込めてある!」

 

「そう、ありがとう。

・・・殺せ。」

 

そう言い放った白に、男がすがりついて助けを乞う。

 

「ま・・・待ってくれよ!俺ができることならなんでもして罪を償う!だから・・・。」

 

白は男を振り払う。

 

「今、なんでもすると言ったな?

なら話は早い。」

 

白は、男を冷たい目で見下して言い放つ。

 

「死ね。

散々この村で殺戮の限りを尽くした癖に、

自分達の番になったらこれ?

そうやって罪を償うとか言えば助けてくれると思った?

君たちが罪を償う方法は一つだけだ。

体を玉薬にされないだけでもありがたいと思いなよ。

()く死ね。

死んで骸になれ。」

 

そういって白は男のそばから離れて言った。

 

背後から聞こえる断末魔に、白は一切振り返ることは無かった。

 

#####

 

「白様、どうやらこの家のようですね。」

 

「うん。」

 

白達は、一件の大きな家の前に来ていた。

 

白は錠前を壊して扉を開いた。

 

中には年若い子供たちが9人ほどいた。

 

「思ったより少ないね。」

 

「もともと若い人が少ない村だったのかもしれませんね。」

 

入ってきた白を見るなり怯えて震えている。

 

白は、子供のうちの一人に近寄ると、優しく頭を撫でていう。

 

「待たせてごめんね、君たちを助けに来た。

大丈夫、悪い奴らはもういないよ?」

 

白がそう言うと子供達は大声で泣きながら白に抱きついてくる。

 

「よく頑張ったね。

もう大丈夫だよ。」

 

白は、子供達1人1人に優しく語りかける。

 

「さっきまであんな冷たい目してたのに・・・」

 

「白ちゃんってよくわからないよねぇ。」

 

和奏と雛は、戸惑いながらも微笑んで言った。

 

#####

 

「白ちゃん!資材と子供達、荷台に積み終わったよ!」

 

「うん、ありがとう、ひよ。」

 

白は、小荷駄隊として付いてきた木下藤吉郎(きのしたとうきちろう)ひよ子秀吉に礼を言う。

 

「これくらいお安い御用だよ!」

 

そう言ってひよは去っていった。

 

「白様、連れて帰るのはいいですが、その後はどうするのですか?」

 

「うーん、やっぱりうちで面倒見るしかないかな。

9人くらいならなんとかなるでしょ。」

 

「やはりそうなりますか。」

 

「それに、ただ飯食らいにはさせないつもりだよ?

落ち着いてからだけど、大きい子達には家事とか手伝ってもらうつもり。」

 

「この村はどうします?」

 

「定期的に整備して、最終的には子供たちが大人になったら帰ってこられるようにしたいね。

畑を耕したりするのもアリかも。

でもまずはやっぱり、子供たちを癒してあげないとね。

いろいろ辛い思いしてるだろうし、親を失った子は特にね。」

 

「・・・」

 

「ん?どうしたの?彩華。」

 

「いえ、正直驚いたもので。」

 

「え?なにが?」

 

白が聞くと、彩華は真顔で答える。

 

「白様にも、人の心があったんですね。」

 

「はいぶっ殺ー。」

 

「いや、正直言われても仕方ないよ、白ちゃん。」

 

雛が白に近づいて言うと、犬子が続いて言う。

 

「躊躇せず皆殺しを命令する人に優しい一面があるなんて思わないもんね。」

 

「面白い冗談だな犬子、気に入った、殺すのは最後にしてやる。」

 

「なんで!?」

 

「そう言えば、今日は白、なんで不機嫌だったんだ?」

 

「あ、それ雛も気になってた。」

 

「犬子も犬子も!」

 

白は何を思い出したのか不機嫌そうな顔をして言う。

 

「アイツらのせいで・・・昼飯食べ損ねた。」

 

「「「・・・え?」」」

 

三若は、白の言葉に唖然とする。

 

「あー・・・急な呼び出しだったもんねぇ。」

 

「つまり今回の大暴れの理由って・・・。」

 

「白の八つ当たり・・・。」

 

3人はそれぞれ思ったことを言った後、口を揃えて言う。

 

「「「やっぱりキ印だ!」」」

 

「失礼な、言っとくけど、理由の4割だからね。」

 

「「「それでも充分やばいよ!」」」

 

三若の息の合ったツッコミが響き渡った。

 

#####

 

山の中を5匹の生き物が駆けていた。

 

それは、人間と同じく、二本足で歩いてはいるが、それ以外は人とは言えない異形の化物であった。

 

4匹の化け物は、何かから逃げるように走りまわっている。

 

「逃げてんじゃねぇぞこらぁ!」

 

と、木の上から降ってきた疾風が一匹の化け物を仕留めた。

 

そのまま、背後にいたもう1匹を一撃で両断する。

 

残った3匹は踵を返して疾風から逃げようとする。

 

「小夜叉!そっち行ったぞ!」

 

「おうよ疾風!」

 

鬼たちが逃げた先にいる小夜叉が返事をする。

 

「オラオラオラァ!逃がさねぇよ!」

 

狂った笑顔を浮かべながら2匹のバケモノを仕留めるが、1匹が脇をすり抜け逃げてしまう。

 

「あ!待ちやがれ!!」

 

桐琴が呆れたように言う。

 

「気ぃ抜きすぎだクソガキ。

油断すんなっていつも言ってんだろうが。

それとなぁ・・・。」

 

桐琴が逃げた一匹を追う。

 

「戦いの途中で背中を向ける奴ァ!

死、あるのみだぁ!」

 

そう言って化物の体を槍で貫いた。

 

「ったく、いいとこ取りしてんじゃねぇよ、母。」

 

「はっ、言っとけクソガキ。」

 

そのやり取りを見て苦笑いしてから疾風がいう。

 

「それにしても、鬼なんていやがるのか、この国は。」

 

「出てくるようになったのは最近だけどな。」

 

「山にこもっているだけならまだいいが、時折街にも降りてくるから始末が悪い。」

 

「へぇ。」

 

疾風は消えていく鬼の死体を見つめていた。

 

「でも物足りねぇなぁ。

なぁ母このまま鬼の巣潰しに行かねぇか?」

 

「そうだな、おい疾風、お前も来るだろ?」

 

「あー、悪ぃ。

そろそろ雛が帰ってくるから帰って飯の準備しねぇと。

手土産の下ごしらえもしなきゃだしな。」

 

疾風は、側にある猪の死体を見て言った。

 

「そうか、嫁の世話も大変だなぁ。」

 

「そんなんじゃねぇよ。

わがまま行って住まわせてもらってるしな。

これぐらいしねぇと。」

 

「なら仕方ねぇな。」

 

「また今度誘ってくれよ、桐琴姐さん。」

 

「わかった。」

 

「じゃあな、疾風。」

 

桐琴と小夜叉は、山の中に消えて言った。

 

「さてと、帰るか。」

 

疾風は山を下って行った。

 

#####

 

清洲に戻ったころには、日はすっかり暮れていた。

 

久遠への報告も終え、雛は長屋への帰路を歩いていた。

 

「・・・」

 

その脳裏に浮かぶのは、朱に染まった自らの両手。

それをなんとか振り払おうと頭を振る。

 

「今日は・・・疲れたなぁ。」

 

そう呟いて歩いていると長屋に着いた。

雛は、扉を開いて中に入る。

 

「ただいまー。」

 

「おかえりー。」

 

返ってきた返事とともに、疾風な奥から出てくる。

 

「雛、今日はしし鍋だぞ・・・ってなにかあったのか?」

 

「疾風ちゃん・・・。」

 

雛は、疾風の腰に手を回して抱きついた。

 

そんな雛を、疾風は優しく抱きしめて頭を撫でる。

 

「どうした?雛がこんなになるなんて珍しいな。」

 

「疾風ちゃんは・・・」

 

雛は、微かに震える声で言う。

 

「雛がどんなに変わっても・・・傍に居てくれる?」

 

「・・・さぁな。」

 

疾風は雛の頭を撫でながら言う。

 

「俺だって人間だ、お前が外道に落ちたりしたら、傍に居てやれるかどうかわからねぇ。」

 

雛の腕にこもる力が強くなる。

 

「でも、そうならねぇ様にそばにいてやることは出来る。」

 

「・・・え?」

 

「お前が間違った道に進みそうになったら、

ゴボウで頭引っぱたいてこっちに引っ張り戻してやる。

だから、安心して俺の傍にいろ。」

 

「・・・うん。」

 

雛が笑顔を向けると、疾風は照れくさそうに頬を掻く。

 

「そんじゃあ飯食おうぜ。」

 

「うん、でも疾風ちゃん。

なんでゴボウなの?」

 

「結構効くんだぞ?」

 

そんな会話をしながら2人は今へと歩いて行った。

 

#####

 

白狼隊の長屋、夕食を終えた子供達が、布団にくるまり寝息を立てていた。

彩華と白は、その光景を優しく見つめていた。

 

「ご飯を食べ終えたらすぐに寝てしまいましたね。」

 

「うん、よっぽど疲れたんでしょ。

まだ小さいのに怖い思いしただろうし。

・・・さてと。」

 

白は立ち上がる。

 

「ちょっと夜の散歩に行ってくるよ。」

 

「あまり出歩くのはお薦め致しませんが・・・。」

 

「例の『鬼』の事?」

 

「はい。」

 

「むしろ出てきてくれると嬉しいんだけどなぁ。

どれくらい強いか見てみたい。」

 

「ですが、いくら白様でももしもの場合がございます。

お気をつけください。」

 

「うん、ありがとう、彩華。」

 

そう言って白は夜の街に出かけていった。

 

#####

 

街の治安維持は白獅子隊の役目である。

 

その中には、当然夜の警らも含まれる。

 

「こっちも問題なし・・・か。」

 

疾風は周りを見渡す。

 

(そう言えば、鬼は街にも出てくるって言ってたなぁ。

・・・もう一巡するか。)

 

と、その時。

 

「いやあああああ!」

 

「グアアアアアア!!」

 

女の悲鳴と、鬼の咆哮が聞こえた。

 

「あっちか!」

 

疾風が急いで現場に駆けつけると、腰を抜かして倒れている女性と、複数の鬼が居た。

 

「あ・・・いや・・・・。」

 

「グルルルル・・・。」

 

「オラアアアアア!」

 

疾風が女性の前に割り込んで鬼の体を両断する。

 

「おいアンタ!立てるか!」

 

「は・・・はい!」

 

「ならさっさと逃げろ!

振り返らずに突っ走れ!」

 

「はい!」

 

女性は急いで逃げて行った。

 

「畜生が・・・。

人のシマの住民襲いやがって・・・テメェらの首はいらねぇ!

命だけ置いてけ! 」

 

襲いかかってくる鬼を、疾風は斬り伏せていく。

 

「ったく、どんだけ湧いてやがんだ!」

 

斬っても斬っても減らない鬼たちに、疾風が吐き捨てるように言うと、疾風の隣に一人の少年が立った。

 

「助太刀するぞ!」

 

疾風は少年の顔を見る。

 

「お前は・・・いや、今はそんな場合じゃねぇな!

お前名前は!?」

 

「俺は新田剣丞(にったけんすけ)

君は?」

 

「颯馬疾風だ!

剣丞!くたばんじゃねぇぞ!

テメェには聞きてぇことが山ほどあんだ!」

 

「あはは、そりゃ楽しみだ。

なら意地でも生き延びないとね。」

 

剣丞と疾風は、お互いを守るように戦う。

 

「お前なかなかやるじゃねぇか。」

 

「疾風ほどじゃないよ、これは助太刀なんていらなかったかな。」

 

「一体誰に戦い方を教わったんだ!?」

 

「実家に鬼みたいに強い姉ちゃんがいてね、

すごく厳しかったけど、お陰でこれくらいは出来るようになった!」

 

「厳しい姉貴か・・・ウチと同じだな。」

 

「あれ?俺達って気が合う?」

 

「かもな!」

 

会話を交えながら戦うが、鬼達の数は一向に減る様子はない。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「ちぃ!キリがねぇな。」

 

と、どこからか歌声が聞こえてきた。

 

「かーごめかーごーめー、かーごのなーかのとーりーはー、いーつーいーつーでーやーるー」

 

声は疾風たちの正面、鬼たちの背後から聞こえる

 

「よーあーけーのーばーんーにー

つーるとかーめがすーべったー。

後ろの正面・・・」

 

そこで歌が途絶え、鬼たちが周りを見渡していると、

 

「わーたし♪」

 

空から降ってきた白が、狂った笑顔を浮かべて十文字槍を鬼に突き刺した。

 

それをきっかけに、鬼たちが一斉に白へ襲いかかった。

 

その鬼たちを白は次々と斬り伏せていく。

 

「えーっと、疾風、アレってもしかして噂のお姉さん?」

 

「シラナイ、オレ、アンナキチガイ、シラナイ。」

 

「急にカタコトになってるし・・・。」

 

剣丞は白の方を見る

 

鬼の顎を蹴りあげ空中高く打ち上げて、腹に火縄を打ち込む。

 

鎌を振り回して鬼を縦横無尽に斬りきざんでいく。

 

大槌を出現させ、鬼を叩き潰す。

 

火縄をで鬼の頭を撃ち抜き、弾が無くなったそれを捨て、次の火縄を出現させを、繰り返し、躍るように戦う。

 

その後も白は、斬り、砕き、叩き潰しを繰り返し、暫くするとあれだけ居た鬼の姿は消え失せていた。

 

「疾風、お前の姉ちゃん、おっかねぇな。」

 

「安心しろ、すぐ慣れる。

てか慣れろ。」

 

白は周りをきょろきょろと見渡し、剣丞と目が合うと、優しく微笑む。

 

見惚れるような笑顔に、一瞬剣丞は心を奪われる。

 

「へぇ、目、覚めたんだ。

良かったね。」

 

「目の前で大暴れしといて第一声がそれかよ。

ってかなんでここがわかったんだよ姉貴。」

 

「疾風さっき女の人助けたでしょ?

その人とすれ違って、泣いてたから話聞いた。」

 

「あー、なるほど。」

 

白は剣丞に近寄ると手を差し出す。

 

「織田家中、白狼隊筆頭、颯馬白。

よろしく。」

 

「えっと・・・新田剣丞。

よろしく。」

 

2人は握手を交わす。

 

「君とはいろいろと話したいことがあるけど・・・その前にそこの2人、隠れてないで出てきなよ。」

 

白が呼ぶと物陰から麦穂と壬月が出てくる。

 

「ど・・・どうも。」

 

「まさかお前まで来るとはな、白。」

 

「あんた達は・・・。」

 

剣丞が言葉を漏らすと、2人は返事を返す。

 

「丹羽五郎左衛門長秀、通称は麦穂と申します。

以後お見知り置きくださいませ。」

 

「柴田権六勝家、通称は壬月だ。」

 

「新田剣丞、さっきはどうも。」

 

「ん?剣丞は二人に会ったことがあるのか?」

 

「ちょっと昼間に襲いかかられてね。」

 

「お前ら・・・。」

 

壬月は豪快に笑っていう。

 

「許せ小僧。

少しお前の実力を試したまでだ。」

 

「物陰から高みの見物してたのも?」

 

「まぁ、そう怒るな。

危なくなれば助太刀するつもりだった。」

 

「その前に、白さんが来てしまいましたがね。」

 

壬月は腕を組むと、疾風に尋ねる。

 

「まぁ丁度いい、疾風。

お前から見てそいつはどうだ?」

 

疾風は横目で剣丞を見つめる。

 

「ま、あれだけ戦えりゃ及第点だろ。

まだまだ鍛えがいはありそうだけどな。」

 

「お・・・お手柔らかにお願いします。」

 

剣丞が言うと、周囲に笑いが起きた。

 

「それにしても、ここに来て初めて見たけど、

あれが鬼?」

 

白が聞くと壬月が真剣な面持ちで答える。

 

「あぁ、突如現れては人を食らっていく。

まったくもって厄介だ。」

 

「そう・・・でもあんまり強くないね。

今後に期待って感じかな。」

 

「できれば出てきて欲しくはないですけどね。」

 

「鬼に対してそんなふうに言えるのは、お前達双子や森の親子くらいだろうよ。」

 

壬月と麦穂はどうしたものかと言いたげにため息を吐いた。

 

「とりあえず剣丞は私と疾風が送っていくよ。」

 

「だな、まだ鬼が居ないとも限らねぇし。」

 

「うん、それに。」

 

白は剣丞に笑顔を向ける。

 

剣丞は首を傾げる。

 

「色々と話したいこともあるしね。」

 

#####

 

「え!?二人も現代から!?」

 

「うん。」

 

久遠の家へと向かっている最中、白は剣丞に自分達の身の上を話した。

 

「戦国無双の世界にいたのか・・・どうりで強いはずだよ。

でも良かったのか?俺にそんな話をして。」

 

「剣丞はこの世界に来たばっかりだし、

同じような境遇の人がいれば少しは安心できるでしょ?」

 

「そっか、優しいんだな、白は。」

 

「キチガイだけどな。」

 

「余計なこと言うな愚妹。」

 

二人のやり取りに、剣丞は苦笑いになる。

 

「で?剣丞は?どうしてこの世界に飛ばされたの。」

 

「俺もよくわからないんだ、家の倉庫でこの刀を見つけて、気がついたら久遠の屋敷にいたんだよ。」

 

剣丞腰に下げている刀を指さす。

 

「ちょっと見せてもらっていい?」

 

「ああ、いいぞ。」

 

剣丞から刀を預かり、鞘から抜いてじーっと見つめる。

 

「妖力を感じる。」

 

「え?そういうの分かんの?」

 

「まぁ私はプロじゃないからほんの少ししか感じないけどね。

もしかしたら、この刀が引き金になってるのかもね。」

 

「そう言えばさっき、突然光り出したと思ったら、鬼の鳴き声が聞こえて、それで聞こえた方角へ行ってみたら疾風が鬼と戦ってたんだよ。」

 

「ふーん。」

 

「どうだ?姉貴。」

 

「仮説はいくらかたてられるけど。

でも、もしこの刀が鬼と関係があるなら、

剣丞はもしかして、この世界に来るべくしてきたのかもしれない。」

 

白は、刀を剣丞に返す。

 

「とりあえず、その刀は出来るだけ肌身離さず持っていた方がいい。」

 

「分かった、ありがとう、白。」

 

剣丞は刀を受け取ると、自らの腰に戻す。

 

「でもよかったよ、目が覚めて。

剣丞私が何しても全然起きないから、心配してたんだよね。」

 

「なにしてもって・・・具体的には?。」

 

「口と鼻塞いだり、ひっぱたいたり・・・。

あと起きたとき驚かせようと思って添い寝したり。」

 

「おい。」

 

「あとは・・・」

 

白は意地悪な笑顔を浮かべて剣丞に言う。

 

「体触ったり。」

 

「・・・え。」

 

剣丞の顔が微かに赤くなる。

 

「鍛えてるっぽかったから服の上から腕をね。」

 

「え?あー!うん!そうだよな!ははは!」

 

白は剣丞の顔をのぞき込む。

 

「んー?君は何を想像したのかなぁ?」

 

「いや・・・あの・・・えっと。」

 

剣丞が目を背けて気まずそうにしていると、

白は無邪気に笑って言う。

 

「あははは、君はおもしろいね、剣丞。」

 

「あれ?今俺からかわれた?」

 

白は答えず、先に歩いていく。

 

「気をつけろよ、お前姉貴に気に入られたぞ。」

 

「そこは普通よかったなって言うところじゃないのか?

まぁ確かに不安だけど。

でも不思議だな。」

 

「なにがだ?」

 

「さっきまで暴れていた子とは思えないほど無邪気に笑ってさ、つい見とれちゃったよ。」

 

「・・・惚れたか?」

 

「いや、そういう訳じゃないけどさ。」

 

「ふーん、まぁしょうがねぇんじゃねぇの。

俺とは違って姉貴は美人だしな。」

 

「え?俺は疾風も充分可愛いと思うけど? 」

 

「なっ!?////」

 

顔を赤くしている疾風に構わず剣丞は続ける。

 

「戦ってる時と違って雰囲気優しいし、

そういうギャップも男としてはたまんなぐふぅ!?」

 

言い終える前に疾風のボディーブローが炸裂した。

 

「か・・・可愛いとかいうな!殴るぞ!////」

 

「殴った後に・・・言うな・・・。」

 

いつの間にかこちらを見ていた白が疾風に言う。

 

「疾風よ、色を知る歳かッ!!」

 

「よーし!そこ動くなクソ姉貴!その首ぶった斬ってやる!」

 

追いかけっこを始めた二人に、剣丞は苦笑いを浮かべてついて行った。

 

#####

 

「あはははは!!」

 

「笑い過ぎだろ!」

 

久遠の家に着いた白と疾風は剣丞が寝た後、

久遠と結菜を交えて話をしていた。

 

「剣丞を旦那にって・・・随分と思い切ったな、殿。」

 

「そりゃどこの馬の骨かも知れない男を旦那にってなったら、結菜も拗ねるに決まってるじゃない。

ねぇ。」

 

「別に拗ねてないわよ!

ただ私はそんなにすぐ信頼していいのかって思っただけで。」

 

「そうだね、拗ねてないよね、嫉妬だよね。」

 

「・・・」バチバチ

 

「ちょ、ごめん、謝るから雷閃胡蝶は勘弁。」

 

白が謝ると、結菜の周りの電気が収まる。

 

「それで、お前らから見てどう思う?」

 

「まぁ、悪いやつじゃねぇんじゃねぇか?」

 

「だね、弄ったら面白そうだし。」

 

「・・・あまりからかってやるなよ?」

 

「うん、それ無理。」

 

「・・・まったく、お前という奴は。」

 

久遠は溜息を吐いた。

 

「そんじゃあ俺はもう帰るわ、

あんまり遅くなると雛が心配するしな。」

 

「そうか・・・すまんが白は残ってくれるか?

二人きりで話したいことがある。」

 

「うん、わかった。」

 

#####

 

疾風が帰ったあと、白は久遠に外へと連れ出される。

 

白は、悲しげに月を見上げる久遠に問う。

 

「久遠、話って何?」

 

「・・・義元の首を取った今、

次なる標的は美濃の斎藤・・・結菜の実家だ。」

 

久遠は声を震わして続ける。

 

「これから何をすべきかは分かっている、

それでも・・・結菜を傷つけるかもしれない。

そう考えると怖くて仕方が無いんだ。」

 

「久遠・・・。」

 

白は久遠の顔を両手で包み、自分と目が合うように動かす。

 

「久遠、私は兵を動かそう。

歩兵に刀を、槍を持たせて斬り殺せと命じよう。

弓を、鉄砲を持たせて、手を振り下ろして放てと命じよう。

そして時には君のために死ねとも命じよう。」

 

「・・・。」

 

白は、久遠の目をまっすぐ見て言う。

 

「でも、私に下知を下すのは、君だ。

織田上総介久遠信長。

総大将の君がここで迷ってどうする。

たとえ誰を傷つけることになっても迷うな、

これは君が始めた戦だ。」

 

「白・・・。」

 

「白の言う通りよ、久遠。」

 

物陰から、結菜が出てきた。

 

「私も、織田に嫁いだ時から覚悟は出来てるわ。

あんまり見くびらないで。」

 

「結菜・・・。」

 

白は、厳しい口調で久遠に問う。

 

「優しいところは君の美徳だ、

それでも・・・流れ出した水は止まらない。」

 

白は久遠の目をまっすぐ見る。

 

「君はどうする、織田久遠信長。」

 

久遠は、決意を込めた目を白に向ける。

 

「白狼隊、颯馬白よ。」

 

「はっ。」

 

白は久遠の前に跪く。

 

「お前に命令することは一つだ。

貴様の知と武、全てを尽くし、敵を殲滅せよ!」

 

「御意に。」

 

月の光が、白と久遠を照らしていた。


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