戦国†恋姫~とある外史と無双の転生者~   作:鉄夜

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第二話

「スゥー、スゥー。」

 

滝川衆の長屋で、疾風は静かに寝息を立てていた。

 

「おー、なかなかやるねぇ、白ちゃん。」

 

「いやいや、そういう雛もなかなか。 」

 

疾風の意識を、周りから聞こえる声と肌をくすぐる感触が覚醒させていく。

 

「よし、このまま服剥いで体全体に描いちゃおう。」

 

「おー、いいねぇ。」

 

そして、目を覚ますと。

 

「・・・何やってんだ、てめぇら。」

 

疾風の目の前には、筆を持った雛と、

同じく筆を持ち、今まさに、疾風の服を脱がせようとしている白の姿があった。

 

2人は、疾風と目が合うと、スーッと視線をそらす。

 

疾風は上体を起こすと、お腹を見る。

 

そこには「首おいてけぇ!」と、大きく書かれていた。

 

疾風が視線を向けると、2人はごまかすように口笛を吹いていた。

 

疾風は続いて庭に出ると、井戸から水をすくい、水面に顔を映す。

 

疾風の顔には、見事な歌舞伎メイクが施されていた。

 

疾風はもう1度二人の方を見た。

 

「白ちゃんが犯人だよ。」

「雛がやった。」

 

「てめぇら同罪だゴラァァァ!」

 

朝から疾風の怒号が響き渡った。

 

#####

 

らくがきを洗い流した疾風は、2人に怒鳴る。

 

「ったく!朝から何してくれんだてめぇらは!」

 

「いやぁ、雛は普通に起こそうと思ったんだけどねぇ。

白ちゃんがそれじゃあ面白くないって言ってね?

それで雛も悪乗りしちゃってさぁ〜。」

 

「しょうがないよね。」

 

「しょうがなくねぇ!

つうか昨日の今日で仲良くなりすぎだろ!」

 

「いやぁ、なんだか白ちゃんと雛通じ合う部分があってさぁ。」

 

「主にイタズラ方面で。」

 

「「(*´・ω・)(・ω・`*)ネー」」

 

仲良く話す2人に、疾風は頭を抱えた。

 

「おーい!雛ー!」

 

外から、雛を呼ぶ声が聞こえる。

 

「あ、和奏ちんだ。」

 

雛が玄関に行くと、和奏と犬子がいた。。

 

「二人共、おはよ~。」

 

「おはよう雛。」

 

「雛ちゃん!おはよう!

ねぇ!これから一発屋に朝ごはん食べに行こうよ!」

 

「うん、いいよ。

あ、じゃあ、白ちゃん達呼んでくるね。」

 

「あぁ、そういえばあの2人いるんだっけ。」

 

和奏と犬子が、複雑そうな顔をする。

 

「どうしたの?和奏ちん。」

 

「いや、疾風は良いんだけど・・・もう一人がその・・・こわい。」

 

「私が?何で。」

 

「返り血めちゃくちゃ浴びてるのに無反応なところとか。

一撃で50人くらい殺したところとか。

あと容赦のなさとかすごく怖かったわん。」

 

「酷いなぁ、2人とも、人を冷血人間みたいに。」

 

「「・・・え?」」

 

2人が後ろから話しかけてくる声にやっと気づき、振り返ると。

 

「やぁ。」

 

そこにはニッコリと笑顔を浮かべた白がいた。

 

突然の事に、二人は固まってしまう。

 

「どうしたのかね?緊急事態だよ?」

 

白がそう言うと2人は、うしろに飛び退いて驚く。

 

「い・・・いつの間に後ろにいたんだよ。」

 

「ついさっき。

いやぁ、二人はいい反応してくれるねぇ。」

 

「ビックリするだろ!」

 

「ビックリさせようとしたんだから当然じゃん。」

 

「あ、だめだよ和奏!この子雛ちゃんと同じタイプだ!」

 

と、そんなふうに騒いでいると疾風が来た。

 

「お前ら朝から元気だな。」

 

「あ!疾風!おはよう。」

 

「おう、おはよう、犬子、和奏。

で、何騒いでんだ?」

 

「ちょっと、犬子達からかって遊んでた。」

 

「やめてやれよ。」

 

「まぁ丁度いいや、疾風も一緒に朝ごはん食べに行こうぜ。」

 

「飯か・・・うーん。」

 

疾風は少し考えて。

 

「誘ってくれたのは嬉しいけどまた今度だな。」

 

「「「「えー?」」」」

 

「いや、なんで姉貴も一緒になって文句言ってんだよ。

朝イチで壬月さんくるって言ってたろ。」

 

「あぁ、そういえば。」

 

「思い出したか?」

 

「うん、じゃ私は雛達と朝ごはん食べてくる。」

 

「待てこら。」

 

疾風は、白の襟首を掴んで持ち上げる。

 

「・・・ニャー」

 

「ここは行くのをやめる流れだろ。」

 

「刑部みたいな事を言うね。

でも私の流れは私が決めるさ。」

 

「いいから大人しくしとけ!

仕官したばっかなんだし言うこと聞いとけ!」

 

「むぅ・・・。」

 

疾風は白を降ろすと三若に言う。

 

「てなわけで悪いな、また今度誘ってくれよ。」

 

「うん、まぁ壬月様相手じゃ仕方ないよねぇ。」

 

「じゃあまた後でなー、白、疾風。」

 

「バイバーイ!」

 

三若は朝食に出かけていった。

 

「・・・お腹減った。」

 

「壬月さんの話が終わるまで待ってろ。」

 

その後、少しして壬月が訪ねてきた。

 

「二人共、いるな・・・なぜ白は不機嫌そうなんだ。」

 

「朝食おあずけにされてご機嫌斜めなんだよ。」

 

「そうか、ならなるべく手早く終わらせよう。」

 

壬月は二人の前にあぐらをかいて座る。

 

「壬月。」

 

「なんだ?白。」

 

「年頃の娘の座り方とは思えない。」

 

「放っておけ・・・さて。」

 

壬月は真剣な顔付きになる。

 

「話というのは、お前達が配属される部隊のことだ。

まず白、お前には新たな部隊、白狼隊の隊長を任せたい。」

 

「・・・いきなり?」

 

「昨日入ったばっかのヤツにそんなん任せていいのかよ。」

 

「殿が昨日の戦いぶりを見て、お前に任せると決めたらしい。

頼めるか?」

 

「・・・うん、分かった。」

 

「案外あっさりだな。」

 

「どんな立場になっても、私のやることは変わらないから。」

 

「・・・そうか、ならよろしく頼む。

そして次は疾風だが、お前にはある隊の隊長になって貰いたい。

それと同時に、ある任務に就いてもらいたい。」

 

「就任直後に任務か、いいぜ。

で?内容は?」

 

疾風が聞くと間を置いて壬月が答える。

 

「隊の名前は白獅子隊。

お前にはそこの隊長として、森一家との関係修復を頼みたい。」

 

「お断りします。」

 

疾風は間を置かず回答する。

 

「疾風、即答はないと思う。」

 

「いや姉貴、森一家はまずいって。

棟梁も含めてヒャッハーしかいない集団だぞ?」

 

疾風は三月に向き直って聞く。

 

「大体なんだ!関係修復って!

白獅子隊と森一家の間に何があったんだよ。」

 

「もともと、森一家と白獅子隊は戦場で手柄を奪い合って仲は険悪だった。

それの溝が深まったのは戦場でいつもどうり暴れていた森一家の前にしゃしゃり出た白獅子隊の者が殺されたのが原因だ。」

 

壬月は静かに語り続ける。

 

「白獅子隊は元来、仲間意識が強い奴らでな。

このことに怒り狂った奴らは、森一家の人間を闇討ちして怪我を負わせたんだ。

そのせいで一時期は殺し合いになりそうになってな。

私が間に入って一応仲裁はしたのだが、

それでもしょっちゅう街中で殴り合いをする始末でな。

正直手に負えんのだ。」

 

「それで疾風を隊長にねぇ・・・ってどうしたの疾風。」

 

白の隣で疾風は頭を抱えていた。

 

「どうしたもこうしたも・・・どう考えても非はこっちにしかねぇじゃねぇか!

手柄横取りしようとしたらそりゃ斬るだろ!

相手は森一家だぞ!?

それを逆恨みして闇討ちって・・・頭沸いてんじゃねぇのか?」

 

疾風は俯いていた顔をあげる。

 

「だいたいそういうの落ち着かせんのは隊長の役目だろ!」

 

「それがそうもいかんのだ。」

 

「あぁ?なんで?」

 

「その現隊長が率先して森一家との臨戦態勢を取らせているんだ。」

 

白がその言葉に反応する。

 

「ふむ、取っているではなく、()()()()()()・・・か。」

 

「・・・どういうことだ?」

 

「実際、白獅子隊の隊士達は、もう殆ど森一家との戦闘を望んでいない。

それなのに命令に従っているのは現隊長の有馬(ありま)という大男が、

『言うことを聞かなければ一族郎党皆殺しにする』と脅しているかららしい。」

 

「もしかして、さっき言った闇討ちもその男が支持したのか?」

 

「・・・あぁ、そうだ。

隊を取り潰してしまおうという意見も出たが、そんなことをすればたくさんの兵士が路頭に迷ってしまう。

だから、取り潰さずにどうにかしたいんだ。」

 

「・・・はぁ。

めんどくせぇ。」

 

疾風はゆっくり立ち上がる

 

「何をしに行くんだ。」

 

「決まってんだろ、任された以上は隊長としてけじめをつけに行くんだよ。

地図よこせ。」

 

「あぁ、助かる。

・・・任せたぞ。」

 

「おう。」

 

「白はこれから私と白狼隊の長屋まで来てくれ。」

 

「うん分かった・・・でもその前に。」

 

「あぁ、分かっている、朝飯だろ?」

 

白はにぃと笑って立ち上がった。

 

#####

 

食事を終えて、疾風は二人と分かれて地図に書いてある建物へと向かった。

 

「ここが白獅子隊の長屋か・・・」

 

目の前には長屋に続く小さな門があった。

 

疾風は挨拶もせずにヅカヅカと入っていく。

 

「おい、有馬はいるか?」

 

「あぁ!?」

 

一人のいかつそうな男が疾風に近寄る。

 

「なんだ嬢ちゃん、隊長になんか用か?」

 

「殿からの指名で、今日からここの新しい隊長になった颯馬疾風だ、有馬と話がしたい、通せ。」

 

その瞬間、周りから笑いが起きる。

 

「嬢ちゃんみたいな細いのが新隊長?

バカ言ってんじゃねぇよ。

白獅子隊の隊長は有馬さんにしか務まらねぇ。

さっさと帰りな。」

 

疾風が周りを見ると、皆なにかの準備をしているようだった。

 

中には憔悴しきった顔で荷造りしている者もいる。

 

「随分と忙しそうだな。

なんの準備してんだ?」

 

「決まってんだろ?戦の準備だよ。」

 

「戦?それならとっくに終わったぞ?」

 

「ちげぇよ、森一家との戦だ。」

 

「・・・なに?」

 

男は下卑だ笑いを浮かべて言う。

 

「邪魔なあいつらをぶっ潰せば、白獅子隊の名も知れ渡るってもんよ。

イッヒッヒ。」

 

「・・・そうか。」

 

疾風は男を鋭く睨みつける。

 

「だったら尚更、退くわけにはいかねぇな。

さっさとそこどけ!チンピラァ!」

 

「この餓鬼!調子に乗ってんじゃねぇぞ!」

 

その声とともに、周りの男達数名も寄って来る。

 

(こいつら、有馬派の連中か?

ならこいつらぶっ倒していくしかねぇか。)

 

疾風は拳を鳴らしてニヤッと笑う。

 

「さぁ、始めるか!」

 

#####

 

「~♪」

 

朝食後、機嫌を取り戻した白は、壬月に案内され、白狼の長屋に向かっていた。

 

その白に壬月が尋ねる。

 

「・・・心配ではないのか?」

 

「なにが?」

 

「疾風のことだ。」

 

「心配?なんで?」

 

「さっきの話を聞いただろ?

白獅子隊は今は危険だ。

平和に事が済むとは思えん。」

 

「まぁ、流血沙汰にはなるだろうね。

きっと有馬に付き従ってる有馬派の連中は、確実に殺しに来るでしょ。

・・・でもね?」

 

白はニコッと笑顔を壬月に向ける。

 

「私の可愛い妹が、そんなチンピラ共に負けるわけないでしょ。」

 

「・・・そうか。」

 

暫く歩くと、壬月は1軒の長屋の前で止まり、白も立ち止まる。

 

「ここ?」

 

「ああ、ここがお前が率いることになる白狼隊の長屋だ。」

 

壬月はそう言うと、白を奥の部屋まで案内する。

 

「ここでしばらく待っていろ。

お前の部下になる副官のふたりが来る。」

 

「副官?」

 

「あぁ、1人は()()草だが、どちらも腕の立つ者だ。」

 

「・・・ふーん。

ねぇ壬月。」

 

「なんだ?」

 

「その2人ってさ・・・喰っていいの?」

 

その質問に、壬月はため息を吐く。

 

「・・・壊すなよ?」

 

「うん、分かってる。」

 

白はそう言って壬月に笑顔を返す。

 

「では私は出るぞ?

用事があるのでな。」

 

「うん、いろいろありがとう、壬月。」

 

「あぁ、それでわな。」

 

そう言って壬月は隊舎を出ていった。

 

#####

 

壬月が出て言ってしばらくして、長屋の廊下を二人の少女が歩いていた。

 

1人は腰に日本刀を差し、綺麗な黒髪をポニーテールに結んでいた。

 

そしてもう1人はショートカットの髪に忍装束を着ているとても小さな少女だった。

 

2人は、話しながら歩いていた。

 

「ねぇねぇ彩華(さやか)!どんな人かな!

(りん)達の主人になる人!」

 

「凜少し落ち着きなさい。」

 

「だってだって!なんかこういうのってワクワクするじゃん!」

 

凛とよばれた少女に、彩華と呼ばれた少女はため息を吐いて言う。

 

「先の戦では大変ご活躍なされたそうですよ。

何でも、千の兵を妹と共に殲滅したとか。」

 

「何それ人間なの?」

 

「のはずですが?」

 

「ふーん、でもこれで凛達も堂々と戦場で暴れ回れるねぇ!」

 

「暴れるって・・・貴方は忍でしょうに。」

 

「うん、そうだよ?それがなにか?」

 

彩華はため息を吐く。

 

「前線で暴れる忍など、貴方くらいですよ。」

 

「フフフ、この猿飛凛佐助(さるとびりんさすけ)、忍なれども忍ばない!」

 

「威張って言うことではありません、少しは忍びなさい。」

 

そんな話をしている間に、白の待つ部屋の前へとたどり着いた。

 

「では入りま・・・っ!」

 

彩華は後方にある庭まで飛び退き、刀を抜く。

 

「彩華?どったの?」

 

「凛!気をつけなさい!」

 

彩華がそういうと共に部屋の襖を開けて白が出てきた。

 

片手には抜き身の刀を持っている。

 

「・・・やぁ。」

 

「・・・殺気で斬るなんて、随分なご挨拶ですね。」

 

「それを避ける君もなかなかだけどね。」

 

彩華は刀を構える。

 

明智左馬助秀満(あけちさまのすけひでみつ)、通称を彩華と申します。」

 

「私は、颯馬白。」

 

白も刀を構える。

 

「さぁ、始めようか!」

 

#####

 

白獅子隊、兵舎。

 

疾風の周りには殴り飛ばされた男達がいた。

 

「な・・・なんだこの女・・・」

 

疾風は一人の男に近寄ると、胸ぐらを掴む。

 

「おい、有馬はどこだ。」

 

「・・・」

 

「どこだって聞いてんだよ!」

 

「ヒィ!か・・・頭なら今出掛けてます!」

 

「そうか・・・おい!てめぇら!」

 

疾風は男を放すと周りで見ていた他の兵士たちへ叫ぶ。

 

「ここに倒れてるヤツら!全員ふん縛っとけ!

そうだな・・・死なねぇ程度になら痛めつけてもいい。」

 

その言葉とともに、兵士達は顔を見合わせるが続々と倒れている男達へ近寄って行く。

 

「この野郎、有馬の腰巾着が。

散々いたぶってくれやがって!」

 

「覚悟できてんだろうなこらぁ!」

 

「ま・・・待てお前ら!

俺たちに手を出すのか!?

有馬さんに殺されるぞ!」

 

「知るかボケェ!」

 

哀れな男達は袋叩きにされた。

 

「お前ら・・・そんなに勢いがあるならさっさと有馬ぶっ倒せばよかったじゃねぇか。」

 

疾風の言葉に兵士の一人が答える。

 

「白獅子隊は、一番強いやつが筆頭になるって掟があるんです。

だから、俺たちじゃ歯が立たなくて。」

 

「壬月さんにでも頼めばよかったじゃねぇか。」

 

「いえ、これは身内で片をつけなきゃいけねぇ問題です。

他所の人に迷惑かける理由には行きません。」

 

「なるほどな・・・難儀な性格してんなお前ら。

気に入った、てめぇらの面倒俺が見てやるよ。」

 

「ウス!」

 

「まぁ、とりあえずは有馬捕まえねぇとな。」

 

と、疾風が言うと。

 

「なんの騒ぎだこりゃあ!」

門の前に、身長が180はありそうな男が鬼の形相が立っていた。

 

「あ・・・有馬さん!

この女が殴り込んできやがったんです!」

 

縛られている男がそう叫ぶと有馬は疾風の体を上から下まで舐めるように見る。

 

「・・・ほぅ。」

 

有馬は疾風に寄っていく。

 

「なぁ嬢ちゃん、今なら見逃してやってもいいぜ?

もちろん、詫びはしてもらうがなぁ」

 

と言って有馬が舌なめずりをすると、疾風は大きくため息を吐く。

 

「俺、今までいろんなヤツ相手にしてきたけど、てめぇみてぇなゲス野郎なら、躊躇なく殴れるから楽だわ。」

 

「なんだとてめぇ!」

 

有馬が掴みかかると疾風はその手を正面から掴み、力比べの状態になる。

 

声を上げて力を込める有馬とは対照的に疾風は退屈そうにしている。

 

「嘘だろ?よっわ。

こんなんで今まで威張ってたのかよ。」

 

「このアマぁぁぁぁ!!」

 

有馬はさらに力を込める。

 

「おいおい、そんなに力むとあぶねぇぞ?

ほれ。」

 

「うお!?」

 

疾風が両手を放すと、有馬の体が前のめりに倒れる。

 

ガンッ!

 

「がっ!?」

 

倒れてきた有馬の顎に疾風は蹴りを入れる。

 

「は・・・歯がぁ・・・。」

 

口から血を流しながら踞っている有馬に疾風は近寄る。

 

「ちょ・・・ちょっとまぶべっ!」

 

許しを乞う仮間の側頭部を疾風は容赦なく蹴飛ばす。

 

蹴飛ばされた有馬は地面は倒れ、痛みに悶え苦しむ。

 

疾風は有馬に馬乗りになる。

 

「よう、上に乗って欲しかったんだろ?

・・・喜べよ。」

 

「ま・・・待っtぐぎゃ!」

 

馬乗りになった状態で疾風は有馬の顔面に拳を叩き込む。

 

ガッ!

 

ゴッ!

 

バキッ!

 

そんな音がしばらく続き、やがて止んだ。

 

「よし、天誅完了。

おーい、こいつも縛っといてくれー。」

 

「へ・・・へい!」

 

兵士達は背伸びしている疾風の後ろで、

 

「お・・・おっかねぇ・・・。」

 

そう呟いた。

 

#####

 

鉄と鉄がぶつかり合う音が、庭に響き渡っていた。

 

接近して戦っていた白と彩華は一旦距離を取った。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「・・・」

 

彩華と違い、白は汗すらかいていなかった。

 

(この私が・・・遊ばれている。)

 

白は楽しそうに微笑みながら彩華を見ていた。

 

「ねぇ、二人共ー。」

 

白と彩華が声の方向を向くと、凛が退屈そうにあぐらをかいていた。

 

「いつまで続けるのー?

凛もう飽きちゃったー。 」

 

「退屈なら君も混ざれば?」

 

「いやぁ、私が混ざっちゃったら辺り一帯吹き飛ばしちゃうからねぇ。」

 

「本当に草らしくないですね。」

 

「でも確かに飽きてきたかな。」

 

白はそういうと刀で彩華を指して言う。

 

「ねぇ、そろそろ本気出してくれないかなぁ。

君の本当の剣を私見たいんだけどなぁ。」

 

「・・・まったく、貴方という人は。」

 

彩華は腰から鞘を抜き、手に持った状態になるとそこに刀を納め、構えをとる。

 

「居合か・・・。」

 

彩華は一瞬でその場から消えたかと思うと、白の間合いに詰め寄った。

 

「おぉ。」

 

白が楽しそうに簡単の声を上げると同時に、彩華は剣を振るった。

 

居合の構えから、目にも止まらぬ早さで白に何十回、何百回と刀を打ち込む。

 

「あははは!速い速い!」

 

しかし白はそれを全て刀で弾く。

 

「うわぁ・・・本気の彩華の攻撃防いでるよ・・・ひくわぁ・・・。」

 

そういう凛の言葉をよそに、白と彩華は再び距離をとる。

 

「・・・本当に人間ですか。」

 

その言葉に白はハハハと笑ってから言う。

 

「酷いなぁ、人をバケモノみたいに。

そっちだって人外じみてるよ。

一瞬で5回斬ってるよね。

しかもまだ全力じゃないでしょ。」

 

「ご名答、しかし貴方なら私が本気の速度で斬っても防ぐのでしょう?」

 

その問に白は笑みを返すのみであった

 

「しかし、こちらも出来ることなら勝ちたいですし・・・御家流にてお相手しましょう。」

 

そう言うと彩華は居合の構えをとったかと思えばと一瞬でその場から違う。

 

「ふむ。」

 

白は周りを見渡してつぶやく。

 

(消えたんじゃない、目視できないくらいの速度で周りを飛び回ってるんだ。

・・・うん、ますます気に入った。)

 

と、白が心の中でそう呟いた瞬間、白の背後に、音もなく彩華が現れ襲いかかる。

 

(これで!)

 

と、刀を振るった瞬間。

 

ガン!

 

彩華の刀は白の振るった刀に弾き飛ばされ、地面に突き刺さる。

 

(なに!?)

 

呆然とする彩華に、白は刀の先を向ける。

 

「本当にビックリするくらい早いね。

()()()()()()()()やられてたかもね。」

 

白は刀を消して彩華に手を伸ばす。

 

「これから宜しくね、彩華。」

 

彩華は少し戸惑うが、その手を掴む。

 

「宜しくお願いします、白様。」

 

白は彩華を立たすとこちらを見ていた凛に目を向ける。

 

「で?君はどうする?やる?」

 

凛は首を横に降る。

 

「本当ならやりたいところだけど、白様相手だと本気出さなきゃダメっぽいからいいや。」

 

「そういえば君名前は?」

 

「おー!そう言えばまだ名乗ってなかった!」

 

凛は元気よく立ち上がる。

 

「凛は猿飛凛佐助って言うの!」

 

凛が名乗ると、白は首を傾げる。

 

「猿飛佐助って武田の?

なんで織田にいるの?」

 

「おぉ!物知りだね白様!

確かに凛は昔武田の武藤昌幸様に仕えてたんだけどね。

でもあっちの仕事って隠密仕事ばっかで暴れられないんだもん。

だから書き置きだけ残して出てきた!」

 

「なるほど。」

 

白が凛と握手をする。

 

「君とは気が合いそうだ!」

 

「うん!凛もそう思う!これから宜しくね!

白様」

 

そう言って謎の友情を深める2人を。

 

「なんでしょう、悪寒が・・・。」

 

彩華は不安そうに見ていた。

 

#####

 

「たのもー!」

 

疾風は白獅子隊の兵士が数名を連れて、森一家の屋敷に来ていた。

 

屋敷ら出てきた兵士の1人が疾風を鋭く睨みつける。

 

「白獅子隊がなんの用だ!?あぁ!?」

 

「小生、颯馬疾風と申すもの。

本日より白獅子隊の新隊長を務めることになった。

森一家当主、森可成殿にお目通り願いたい。」

 

「お頭は今忙しいんでなぁ。

白獅子隊なんぞに構ってる暇はねぇんだ。

とっとと消えな!」

 

「おいテメェ!

姐さんが当主出せって言ってんだ!

三下は引っ込んでろ!」

 

「なんだとこらぁ!

白獅子隊風情が生言ってんじゃねぇぞ!」

 

口喧嘩を始めた両者を見て疾風は懐かしいものを見る目で見つめる。

 

(懐かしいなぁ、転生する前、組の若いもんもこんなふうに喧嘩してたっけ。)

 

疾風が喧嘩を止めようと口を開きかけた時。

 

「喧しいぞ!お前ら!」

 

屋敷の方から気の強そうな金髪の女性が歩いてきた。

 

「朝っぱらからギャアギャアと、一体なんの騒ぎだ!」

 

「お頭!それが白獅子隊の奴らが頭に会わせろって乗り込んできやがって!」

 

「・・・ほう。」

 

女性は疾風の前に歩み寄る。

 

「お前が壬月の言っていた雷神の使いか。

おい小娘、名は何という。」

 

「・・・白獅子隊隊長、颯馬疾風。

アンタが森可成か?」

 

「左様、ワシが森一家棟梁、

森桐琴可成(もりとうこよしなり)じゃ。」

 

桐琴は疾風を鋭い目で見下ろす。

 

「それで小娘、一体何用だ?

とうとう戦でもふっかけに来たか?」

 

「その逆だ、一連の件で悪化したウチとそっちの関係を修復しに来た。

連れてこい!」

 

疾風が後方に向かって叫ぶと、兵士達が縛られている有馬とその一派を連れてきた。

 

全員、ボコボコに殴られ、顔中怪我だらけである。

 

「このとおり、ことの元凶である有馬とその一派はケジメをつけた。

今回の件、これで手打ちとしてもらいたい。」

 

「手打ち・・・なぁ。

こちらとしてはその馬鹿どもをこっちに引き渡してくれれば嬉しいんだがなぁ。」

 

桐琴が睨みつけると有馬は「ひぃ!」と悲鳴をあげる。

 

「それは勘弁してくれ。

こいつらも反省してるんだ。」

 

「反省して許されりゃあ閻魔は要らねぇんだよ。」

 

「・・・それなら。」

 

疾風は桐琴の目をまっすぐ見て言う。

 

「俺を好きにするといい。」

 

「・・・ほう。」

 

「元はといえば俺の部下のやらかしたことだ、それなら頭としてそれぐらいは当たり前だ。」

 

「面白い・・・おい!ガキ!」

 

桐琴が呼ぶと、金髪の気の強そうな少女が歩いてくる。

 

「呼んだか?母。」

 

「おう、お前、今からこいつと立ち会え。」

 

「はぁ?、ちょっと待てよ母、なんで俺が白獅子隊の奴なんかと戦わなきゃなんねぇんだよ。」

 

「そういうな、こいつは噂の雷神の使いだぞ?」

 

「・・・へぇ。」

 

少女が獰猛な瞳で疾風を見つめる。

 

「どうだ小娘、お前がこのガキ、小夜叉に勝てれば一連の事は水に流してやる。」

 

「ならこっちも勝った時の条件付け足していいか?」

 

「なんだ?」

 

「桐琴さん、アンタの娘に俺が勝ったら、

アンタには、俺と盃を交わしてもらう。

そして、以降森一家と白獅子隊は、対等な親戚関係になってもらう。」

 

「盃・・・ねぇ。

お前の故郷の流儀か?

いいだろう、お前が勝てば親戚にでも何でもなってやろうじゃねぇか。」

 

疾風がその言葉を聞いて、ニィと笑う。

 

「その言葉・・・忘れんなよ。」

 

疾風はそういうと刀を抜く。

 

「おい誰か!俺の得物もってこい!」

 

小夜叉が叫ぶと、森一家の兵士の一人が一本の槍を持ってくる。

 

「それが噂の『人間無骨』か。

なるほど、人の体が簡単にぶった斬られるわけだ。」

 

「へぇ、こいつの名前を知ってるなんて通じゃねぇか。

田楽狭間じゃ暴れたそうだがここでそれが通用すると思うなよ!」

 

「上等だ、森長可の槍、見せてもらおうじゃねぇか!」

 

そういって2人はぶつかり合った。

 

#####

 

「ここがあの女のハウスね。」

 

白は、彩華と凛を引き連れて、久遠の家の前に来ていた。

 

「あの、白様。

久遠様に一体何の用が?」

 

「友達の家に遊びに行くのに理由がいるかい?」

 

「友達って・・・あ!」

 

白は彩華をよそに玄関に歩み寄っていく。

 

「くーおんちゃーん!

あーそびましょー!」

 

「ちょ・・・ちょっと白様!」

 

焦る彩華を無視して、白は続ける。

 

「くーおんちゃーん!あーそびましょー!

くーおんちゃーん!あーそびましょー!

くぅぅぅおんちゃあああん!あぁぁぁそびましょおおおおおお!」

 

「うるさぁぁぁぁい!」

 

玄関を開けて、怒鳴りながら女性が出てきた。

 

「・・・どちら様?」

 

「それはこっちのセリフよ!

なんなのよあんた一体!」

 

「も・・・申し訳ありません結菜様!

止めたのですが言うことを聞かないもので!」

 

「結菜様?」

 

首を傾げる白に、凛が答える。

 

「この人は久遠様の奥さんの帰蝶様。

結菜って言うのは通称ね。」

 

「奥さん・・・へぇ、そうなんだ。」

 

「で?あなた誰よ一体。」

 

結菜が聞くと白は答える。

 

「私は白、颯馬白。

よろしくね、結菜。」

 

「ちょ・・・ちょっと白様!久遠様の奥方様をいきなり呼び捨てなんて!」

 

「堅苦しいのは嫌いなんだよね、私。」

 

「だからって!」

 

「あぁ、いいのよ彩華。

そう、あなたが例の・・・。

久遠から聞いてるわ、身分をわきまえない無礼な奴だがなぜだか許してしまうって。」

 

「いやぁ、それほどでも。」

 

「言っとくけど褒めてないからね。」

 

「知ってる。

それで久遠はいる?」

 

「えぇ、ちょっと待ってて。

久遠、お客様よー。 」

 

少しすると、奥から久遠が出てきた。

 

「なんだ、誰かと思えば白か。」

 

「おはよう、久遠。」

 

普通に挨拶をする白の後ろで彩華は跪く。

 

「おはようございます、久遠様。」

 

「何やってるの?彩華?」

 

「久遠様の前ですので、跪いて当然です。」

 

「窮屈な性格してるねぇ。」

 

「いやぁ白様が奔放すぎるだけだよぉ。」

 

「うーん、そうかなぁ。」

 

久遠は跪いて頭を下げている二人に言う。

 

「彩華、凛、おもてをあげよ。

そう畏まらなくても良い。」

 

「あ、そうなの?こんにちはー!久遠様!」

 

「ちょ・・・ちょっと凛!」

 

「おけい。

それで白、一体何用だ?」

 

「いやぁ、あの男の子どうなったかなと思って。」

 

「あぁ、それならこっちだ。」

 

久遠はそう言って、白達を屋敷の一室へ案内する。

 

そこには昨日空から降ってきた少年が、眠っていた。

 

「昨日から一向に目を覚まさん。」

 

「昨日から?」

 

「あぁ、時々うわ言を言っているから問題はなさそうだが。」

 

「そう。」

 

そんな話をしていると。

 

パァン!という音が響いた。

 

白達がそちらを向くと、頬が赤くなっている少年の上に凛が跨っていた。

 

「ふむ、起きないか・・・よし、もう1発。」

 

凛が再び腕を振り上げたところで、彩華が急いで取り押さえる。

 

「何をやってるんですかあなたは!」

 

「いや、寝てる人を起こすにはこの手に限るっしょ。」

 

「だからってやる人がいますか!」

 

「彩華見て見て!」

 

白が声をかけてきたので顔を向けると、

白が少年の鼻をつまみ、口を抑えていた。

 

「見る見るうちに顔が青くなってる!なにこれ面白い!」

 

久遠が急いで取り押さえる。

 

「何をやってるんだお前は!

目覚めなくなったらどうする!」

 

「大丈夫だよ、これやったら確実に目を覚ますから、きっとすぐにでも・・・起きろこの野郎(パンパンパァン)」

 

往復ビンタで3回頬を叩いた白を、久遠は少年から引き離す。

 

「お前気でも狂ってるのか?!?」

 

「失礼な、私は正気だよ?」

 

「狂気の間違いではないですか?」

 

「うまい!座布団1枚!」

 

「何もうまくない!」

 

そうやって騒ぐ4人に

 

「貴方達・・・少し静かにしなさーい!」

 

結菜の雷が落ちるのであった。

 

#####

 

「「オラァ!」」

 

疾風の刀と小夜叉の槍がぶつかり合い、けたたましい音をたてる。

 

「すげぇ、あの女、お嬢と互角に張り合ってやがる。」

 

森一家の兵が、ポツリと漏らした。

 

「互角?阿呆、アレはガキがあの小娘に遊ばれてんだろうが。」

 

「え!?」

 

戦っているふたりが距離をとった。

 

「てめぇ、なんのつもりだ!」

 

小夜叉が牙を向いて疾風を睨んで叫ぶ。

 

「なにがだよ。」

 

「さっきから手ぇ抜きやがって!舐めてんのか!?」

 

「だってよぉ・・・。」

 

疾風は退屈そうに言う。

 

「そっちが本気出してないのにこっちがマジになってもしょうがねぇだろ。」

 

「・・・上等」

 

小夜叉は槍を持ち上げ穂先を天に向ける。

すると、穂先が光り始める。

 

「殿のお気に入りだからってもう容赦しねぇ。

死んでも化けてでんじゃねぇぞ!」

 

槍の先から光の線が天高く伸びる。

 

「喰らいやがれ!刎頸二十七宿(ふんけいにじゅうななしゅく)!」

 

そう言って疾風に向かって槍を振り下ろす。

 

それに対して疾風は刀をしたに向けて構える。

 

そして刀が炎を纏うと。

 

火竜閃(かりゅうせん)!」

 

そう言って思い切り振り上げる。

 

激しい音を立てて疾風の刀と小夜叉の槍がぶつかり合い、鍔迫り合いになる。

 

「オォォォォラァァァァ!」

 

疾風は雄叫びをあげると小夜叉の槍を弾いた。

 

「なっ!?」

 

小夜叉が体勢を崩し、隙ができると一気に駆け出し、小夜叉の首に刀を振り下ろし、寸止めする。

 

「勝負あり・・・だな。」

 

疾風はそう言うと刀を納めた。

 

「お前・・・なにもんだよ。」

 

「あ?さっき言ったろ?」

 

疾風は小夜叉に笑いかけ、拳を突き出す。

 

「俺は疾風、颯馬疾風だ。」

 

「・・・そうかよ。」

 

小夜叉は疾風の拳に自分の拳を軽くぶつける。

 

「疾風、次は俺が勝つからな!」

 

「おう、いつでもかかってこい。」

 

2人が友情を芽生えさせていると。

 

「おい小娘!」

 

桐琴が疾風の肩に腕を回す。

 

「お前なかなかやるじゃねぇか、気に入ったぜ!」

 

「そりゃあ嬉しいけど、忘れてねぇよな?」

 

「おう、でも盃だけじゃ味気ねぇだろ。

おい野郎ども!今宵は宴だ!さっさと準備しやがれ!」

 

「応!」

 

桐琴の号令とともに宴の準備が始まった。

 

#####

 

「ふぅー。」

 

彩華達を帰し久遠の家に残った白は、縁側に座り、寛いでいた。

 

「いやぁ、満腹満腹。」

 

「まったく、居座ったうえに夕餉まで食いおって。

普通なら無礼討ちされてるところだぞ。」

 

隣に座った久遠が、ため息混じりに言う。

 

「結菜って料理上手だね、疾風あげるから頂戴よ。」

 

「ぬかせ、誰がやるか。」

 

「ちぇ、残念。」

 

そう言って月を眺める白を見つめ、久遠は思う。

 

(いつぶりだろうな、こうやって対等に人と話したのは。)

 

久遠には、対等な友と呼べる者はいなかった。

 

壬月や麦穂、そして三若は、自分を慕ってくれている仲間であり、友である存在である。

 

だが、そこには主と配下とという身分の壁があり、決して対等ではなかった。

 

(だが・・・もしかしたら、こやつなら。

身分にも何にも囚われぬこやつならば・・・。)

 

心の中で呟いて見つめていると、視線に気づいたのか、白が久遠の方を見る。

 

「どうしたの?久遠。」

 

「え!?あ、いや、その・・・白。」

 

「ん?」

 

久遠は真剣な顔で伯を正面から見据える。

 

「お前とは昨日会ったばかりで、こ・・・こんなことを言うのは変だとは思うが!

その・・・えっと//////」

 

久遠の顔が見る見るうちに赤くなる。

 

「わ・・・我の友になってくれないだろうか!//////」

 

その言葉に白は目をぱちくりとさせ。

 

「プッ・・・ふふ・・・あはははははは!」

 

吹き出した。

 

「な・・・なんだ!?何がおかしい!?」

 

「いや、だって久遠、そんな真剣な目で、

顔真っ赤にして何いうかと思ったら・・・

ふふ、あはははは!、お腹・・・お腹が、

もうだめぇ、ははははははは!」

 

「わ・・・笑うなぁぁぁぁぁぁ!」

 

「ちょ!ごめん久遠!謝るから叩かないで!」

 

久遠は顔を耳まで真っ赤にしながら白をポカポカと叩く。

 

「・・・それで?」

 

「ん?なにが?」

 

「返事を聞かせろ。」

 

「なんの?」

 

「貴様斬るぞ!」

 

「あはははは、ごめんごめん。

でも久遠、それって今更じゃない?」

 

「え?」

 

「今日一日、一緒にはしゃいで怒られてご飯食べたじゃん。

それってもう、友達でしょ?」

 

「そう・・・なのか・・・。」

 

「うん、だから久遠。」

 

白は右手を差し出す。

 

「これからもよろしくね。」

 

久遠は差し出された右手を、握ると。

 

「あぁ、よろしく頼む。」

 

そう言った。

 

「久遠!お風呂湧いたわよー!」

 

奥から結菜の声が響くと、白は握ったままの久遠の手を引いて立ち上がる。

 

「よし久遠、友達同士裸の付き合いと行こうか!」

 

「え!?いや、流石にそれは。」

 

「あ、そうか、仲間はずれは可哀想だもんね。

よし、結菜と一緒に三人で入ろう。」

 

「違う!そうじゃない!

っておい!待て!」

 

#####

 

こちらを振り向いて手を振りさっていく白を結菜と久遠は見送っていた。

 

「なんて言うか嵐みたいな子だったわね。」

 

「ああ、全くだ。」

 

「で?結局どんな子なの?」

 

「さぁな、どこまでと自由なやつとしか言えん。

背筋も凍る様な目をしたかと思うと赤んぼみたいに無邪気に笑ったり。

子供なのか大人なのか、善人なのか大悪党なのか、修羅なのかそうでないのか、サッパリだ。

ただ・・・。」

 

久遠は手に残る温もりを感じながら言う。

 

「それが、颯馬白なのだろうな。」

 

#####

 

「・・・ただいま。」

 

滝川衆の長屋の扉を、疾風は重々しく開ける。

 

「あれー?疾風ちゃん。

どうしたの?」

 

雛が奥から出てきた。

 

「雛・・・助けて。」

 

「どうしたの?顔色悪いよ?、てか酒臭いよ?」

 

「ちゃんと説明するから・・・水くれ。」

 

疾風を奥に入れると雛は水を持ってくる。

 

疾風は水を一気飲みして、ことの次第を簡単に説明する。

 

「へぇ、森一家と和平かー。」

 

雛は、疾風を膝枕して頭を撫でながら言う。

 

「で、宴で飲みすぎて酔って気持ち悪くなっちゃったってこと?

疾風ちゃんお酒弱いんだねぇ。」

 

「いや、姉貴ほどじゃねぇけど結構強い方なんだけどな。

でもあのババァ俺の何が気に入ったのかジャンジャン酒飲ましやがって。

うぅ、気持ち悪い。」

 

「あはは、大変だったねぇ。

でも疾風ちゃん、なんで家に帰ってきたの?」

 

「あー、それなんだけどよ。

白獅子隊の長屋は野郎共でいっぱいいっぱいらしくてな。

それで寝泊まりはここでさせて貰いたいだけど・・・ダメか?」

 

「あぁ、なるほど。

男の人ばっかりでむさ苦しいもんね。

うん、いいよ。」

 

「悪ぃな、その代わり家事とかは手伝うから。」

 

「うん、わかった。

でも、ということは疾風ちゃんに悪戯し放題ってことだね。」

 

「やめろ。」

 

雛は楽しそうに笑った。

 

#####

 

白は、長屋の扉を開けようとして手を止めた。

 

(そう言えば、誰かのいる家に帰ってくるなんて久しぶりだな。)

 

白は扉を開ける。

 

「ただいまー。」

 

「あ!おかえり!白様!」

 

「おかえりなさいませ、白様。」

 

「・・・」

 

「ん?どうしたの?」

 

「ううん、なんでもない。」

 

「そっかー、ねぇ白様!今から三人でお風呂入ろうよ!

裸の付き合いってやつ!」

 

「ちょ・・・ちょっと!凛!」

 

「お、いいねぇ。」

 

「ここだけの話、彩華はええ体してまっせ、旦那。」

 

「・・・ほう。」

 

「変なことしたら斬りますからね。」

 

白は、凛に手を引かれながら。

 

(なんか、いいなぁ、こういうの。)

 

そう思った。

 

#####

 

美濃、稲葉山城。

 

城門で兵士達が談笑していると、一人の少女が近づいていく。

 

「ろくにしごともせず雑談とはいい身分だな。」

 

「ひ・・・飛弾殿・・・。」

 

少女、斎藤飛騨(さいとうひだ)はフン、と鼻を鳴らすと兵士達の横を通り過ぎていく。

 

遠くに行ったのを見計らい、兵士が悪態をつく。

 

「けっ、エラそうに、龍興様の腰巾着のくせしやがって。」

 

「ホントだよ、斎藤をダメにしてる原因の一つのくせによぉ。」

 

兵士達は飛騨の姿が完全に消えるまで、悪態をつき続けた。

 

#####

 

自分の屋敷に着いた飛騨は、扉をあけて中に入り、居間へと歩いて行く。

 

そして畳の上にうつ伏せで倒れ込む。

 

「まったく、うつけのフリをするのは疲れる。」

 

兵士達の悪態は聞こえていた。

 

別にそれで怒ってはいない。

 

むしろ、それでいいのだ。

 

飛騨をうつけと思わせ、斎藤を内部から崩す。

 

それが彼女と、()の策なのだ。

 

飛騨は仰向けになり天井を見つめ。

 

「一体我らの戦は、いつまで続くんだろうな。

・・・龍海(たつみ)

 

そうつぶやいた。




パチスロ版の飛騨のサンプルボイスに撃ち抜かれたやつこの指とーまれ。

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