戦国†恋姫~とある外史と無双の転生者~   作:鉄夜

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今回からしばらく幕間と番外編が続きます。


幕間三《白、疾風》

朝、朝食を食べに一発屋にやってきた白は店の前で違和感に気づいた。

 

「この時間に開いてないなんて珍しいな。」

 

スルーしてもよかったのだが、不思議と胸騒ぎがした白は入口の引き戸をノックしてみる。

 

「きよ?大将?居る?」

 

返事はない。

 

「入るよ?」

 

白が中に入ると、

 

「きよ!?大将!?」

 

中ではきよが床に横たわっており、その前で大将が腰を抑え膝をついていた。

 

白は真っ先にきよに駆け寄りしゃがむと、横たわっている体を抱き起こす。

 

「きよ!大丈夫!?」

 

「は・・・く・・・」

 

見るときよの頬は赤く紅潮しており、息も絶え絶えであった。

 

白は手のひらをきよの額に当てる。

 

「すごい熱・・・大将、奥の部屋借りるよ。」

 

一発屋の奥は、きよと大将の居住スペースになっており、白はそこに布団を敷くときよと大将をはこんで寝させる。

 

続いて桶に冷たい井戸水を組んでくると、手ぬぐいを濡らし、きよの額に乗せる。

 

そうして一息つくと大将に事情を聞く。

 

聞けば今朝、体調が悪いにも関わらず働こうとしたきよが目の前で倒れ、それを助けようとした大将が腰を痛めたという事だった。

 

それを聞いた白は溜息をつく。

 

「無茶するねぇ、この子も。」

 

「それくらいきよちゃんは、この仕事が気に入ってくれてるんだ。

毎朝ここの飯を食って、お客さんが美味しいって笑ってくれるのが好きなんだとよ。」

 

「・・・そっか。」

 

白はきよの頭を優しく撫でる。

 

「だが今回ばかりはお手上げだ・・・。

きっと落ち込むだろうな、きよちゃん。」

 

それを聞いた白は少し思考したあと、なにか思いついた顔をして大将に言う。

 

「大将、あのさ──。」

 

#####

 

「一発屋・・・ですか。」

 

剣丞はひよ子と転子、そして新たに剣丞隊に加わった詩乃を連れて、朝食を食べに一発屋に向かっていた。

 

「うん!私達がしょっちゅう行く食事処なんだけど、とってもご飯が美味しいの!」

 

「特にお魚料理が美味しいんだよ!」

 

「魚料理・・・ですか。」

 

転子の言葉に一瞬目が輝いたのを剣丞は見逃さなかった。

 

「詩乃、魚料理が好きなのか?」

 

「そ・・・それなりに・・・ですが。」

 

(好物なんだなぁ。)

 

((好物なんだねぇ。))

 

詩乃の様子にほっこりしていると、一発屋の前についた。

 

剣丞がいつものように引き戸を開けると。

 

「いらっしゃいませー。」

 

笑顔の白がそこにいた。

 

ピシャン!

 

突然の事に驚いた剣丞は戸を閉めてしまった。

 

「・・・」

 

「お・・・お頭?なんで閉めちゃったんですか?」

 

「いや・・・その、びっくりして。」

 

「私たちも驚きましたけど、とりあえず入って話聞きませんか?」

 

「そ・・・そうだな。」

 

剣丞は再び戸に手をかけ、止まる。

 

「ど・・・どうしたんですか?」

 

ひよ子の言葉に剣丞は冷や汗をかいて言う。

 

「いや、この先に鬼の形相を浮かべた白がいると思うと、怖くて。」

 

「そ・・・そんなことで・・・」

 

「そんなことって言うけどな!怒った時のアイツ滅茶苦茶おっかないんだぞ!?」

 

「そんな事言ったって戸を閉めちゃったのお頭じゃないですか!?」

 

「だから余計に怖いの!」

 

「あの・・・」

 

詩乃がゆっくりと手を上げる。

 

「このまま店の中に入っても入らなくても、

すぐ死ぬかあとで死ぬかですしあまり変わりはないのでは?」

 

「ですよね!」

 

その直後後ろの戸が開き、伸びてきた白の手が剣丞の襟首を掴み、店内にひきずりこんだ。

 

そして剣丞を床に投げ倒すと、上半身を足で軽く踏みつけ、押さえつける。

 

「人の顔見て逃げ出すなんていい度胸じゃない剣丞。

選ばせてやる、どこの関節()()外してほしい?」

 

()()って何ですかねぇ!?

それって最終的には全部外すって事ですよね!

すいませんでした!突然のことだったんでちょっとびっくりしただけなんです!」

 

「しょうがないなぁ、じゃあ小指の第一第二関節だけで許してあげるよ。」

 

「どっちにしろ外すんっすね!」

 

そんなふうに騒いでいると、厨房の方から呆れた声が聞こえる。

 

「お前ら、店の中ではしゃぐんじゃねぇよ。」

 

疾風は呆れた様子でそう言った。

 

「え?疾風までいるのか?

大将ときよちゃんは?」

 

白から解放され、席についた剣丞の疑問に、白は今朝の一部始終を話す。

 

「え!?きよちゃん大丈夫なの!?」

 

心配するひよ子を安心させるように白は言う。

 

「医者の話だときよの熱は疲労から来たものらしい。

大将はちょっと腰痛めただけだから2人とも明日には治るだろうって。」

 

「よかったぁ。」

 

白の言葉に、転子は胸をなで下ろす。

 

「それで白と疾風が代わりに店番してたって訳か。」

 

「うん、こういう事してみたかったしね。」

 

「楽しそうだなぁ、服まで着替えて。

どうしたんだよそれ。」

 

白の服装は、いつもきよが着ている服と似ているが色だけが違い、白色であった。

 

「能力で出した。」

 

「便利だなおい。」

 

剣丞のツッコミに微笑むと、白は笑顔で言う。

 

「それでお客様、ご注文はいかが致しますか?

今日のおすすめは焼き魚定食だよ。」

 

「じゃあそれで。」

 

「私もそれで。」

 

「私もー。」

 

「では私もそれでお願いします。」

 

「了解。

疾風ー、焼き魚定食4つ!」

 

「おう。」

 

返事をした疾風は、手際よく調理をしていた。

 

「こう言っちゃ失礼だけど、疾風が料理得意なのは意外だよな。」

 

「あれでも最初は全然だったんだよ。

でも教えてる内に私よりうまくなっちゃってさ。」

 

「へぇ。」

 

「なんなら近くで見てみる?」

 

「いいの?じゃあ遠慮なく。」

 

剣丞は厨房に入ると、それに気づいた疾風が振り向く

 

「ん?なんだ剣丞。」

 

「いや、疾風の料理してる姿なんて滅多に見れないから見学しようと思って。」

 

「別におもしれぇもんなんてねぇぞ。

あ、そうだ剣丞、味噌汁の味見てくれよ。」

 

「味噌汁?なんで?」

 

「大将、仕込む前に倒れちまったらしくてさ、一から俺が作ったんだけど、客観的な意見が聞きたくてな。」

 

「普通にうまそうだけど?」

 

「まぁ、美味いは美味いんだけどな・・・。」

 

疾風は小皿に味噌汁をよそうと、剣丞に差し出す。

 

剣丞はそれを受け取り口にする。

 

「ん!美味い!!」

 

剣丞は驚いて声を上げた。

 

美味いのは当然だが、剣丞が驚いたのにはもう一つ理由があった。

 

「ちゃんと一発屋の味になってる・・・。」

 

剣丞がそう言うと、疾風は花のような笑顔を咲かせる。

 

「そっか!剣丞が言うなら安心だな。

自分だけじゃちゃんと再現できてるか不安でさ、常連の意見が聞きたかったんだ。」

 

よほど嬉しかったのだろうか、笑顔で鼻唄を歌いながら調理をする疾風に、剣丞は言葉を漏らす。

 

「・・・いい奥さんになるなぁ。」

 

「・・・え?」

 

「・・・あ。」

 

本当につい漏れてしまった言葉のようで、剣丞はしまったという顔をするが時既に遅く、疾風の顔はみるみる赤く染まる。

 

「くぁw背drftgyふじこlp!!」

 

「お!落ち着け疾風!言語能力が崩壊してるぞ!」

 

疾風は一度深呼吸をする。

 

「ききききき急に何を言い出してんだお前は!////////」

 

「ごめん!なんかつい言葉に出ちゃって!

だって本気でそう思ったんだもん!」

 

「ありがとよテメェぶん殴るぞ!////」

 

「どういう感情だそれ!」

 

「も・・・もういいから出でけよ!//////」

 

疾風は剣丞を厨房から追い出した。

 

「お頭、何かあったんですか?

疾風ちゃん顔真っ赤でしたけど。」

 

ひよ子の質問に剣丞は苦笑いで答える。

 

「まぁその、ちょっとな。 」

 

一方白は顔を真っ赤にしている妹をニヤニヤと見ていた。

 

「な・・・なんだよ姉貴。」

 

「べっつにー。

妹の成長に喜んでるだけだよ、お姉ちゃんは。」

 

「ま・・・待ってくれ姉貴!

これはそう言うんじゃなくて!//////」

 

「うんうん、わかってるわかってる。」

 

「姉ちゃあああああん!」

 

そんな二人を見て剣丞は思う。

 

(ああやってじゃれあってるのを見ると、

普通の姉妹なんだけどな。)

 

剣丞は、戦場での二人の姿を思い浮かべながら見ていた。

 

#####

 

「はい、焼き魚定食お待たせ。」

 

剣丞達の前に焼き魚定食定食が四人分用意された。

 

「これが、清州の魚・・・。」

 

言葉こそ淡々としたものだが詩乃の目は輝いていた。

 

「それじゃあ、いただきます。」

 

「「「いただきます。」」」

 

剣丞に続いてほかの3人も手を合わせ、食事を始める。

 

詩乃は、焼き魚を箸でつまんで口に運ぶ。

 

「ん!んー!」

 

そして声にならない声を上げながら笑顔になる。

 

「美味しい?詩乃。」

 

剣丞の言葉に、詩乃はコクコクと頷く。

 

((((なんだこの可愛い生き物。))))

 

その様子を見た剣丞とひよころ、そして横から見ていた白は同じ感想を抱いた。

 

詩乃の笑顔を堪能したあと、剣丞も魚を口に運ぶ。

 

「ん!うめぇ!」

 

「凄い!いつもの一発屋の味だ!」

 

「美味しい!」

 

黙々と食べている詩乃以外の三人の感想に、厨房の疾風は少し照れて顔を染める。

 

剣丞達が食事をしていると、入口の戸の向こうから三若の声が聞こえてきた

 

「あー、お腹減った!」

 

「もう、うっさいぞ犬子。」

 

「しょうがないよ和奏ちん、犬子は食いしん坊だもんねぇ。」

 

そんな会話とともに戸が開き。

 

「いらっしゃいませー。」

 

ピシャン!

 

そして勢いよく閉められた。

 

「わ・・・和奏!なんで閉めちゃうの!?」

 

「しょうがないだろ!びっくりしたんだから。

扉開けたら白が笑顔で立ってるとか怖すぎんだろ!」

 

「確かになんかされそうで怖いけど!

だからってこんな事したらお仕置きされちゃうよ!?」

 

「あのさぁ、2人とも、そんな大声で話したら白ちゃんに聞こえちゃうよ?」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

雛の言葉に、犬子と和奏は沈黙する。

 

「と、とにかく逃げるぞ犬子!ここにいるとまずい!」

 

「わん!」

 

そう言って和奏と犬子が踵を返して逃げようとすると。

 

スコンスコン!

 

二人の足元にクナイが2本突き刺さった。

 

二人は冷や汗を流しながら後ろを振り向く。

 

「2人とも・・・ちょっとお・は・な・ししようか」

 

そこにはニッコリと笑顔を浮かべた白がいた。

 

#####

 

「へぇ、それで白ちゃんと疾風ちゃんが店番やってたんだぁ。」

 

「うん、ごめんね、大事な隊長借りちゃって。」

 

「別に大丈夫だよ、疾風ちゃんなら他の子達にちゃんと伝えることは伝えてるだろうしねぇ。」

 

雛と白はのんびりと会話をしている

 

「あのさ二人共、のんびり会話するのはいいけど・・・あれ、どうするんだ?」

 

そう言って剣丞が視線を移すとそこには。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

「ガクガクブルブルガクガクブルブルガクガクブルブルガクガクブルブルガクガクブルブルガクガクブルブルガクガクブルブルガクガクブルブルガクガクブルブルガクガクブルブル」

 

震えている和奏と犬子が居た。

 

「あ、忘れてた。」

 

白はそういうと手を鳴らす。

 

パンッ!

 

「「殺さないで!」」

 

二人は体を大きく震わせると揃ってそう叫んだ。

 

「なんて目覚め方だ・・・。

一体裏で何したんだよ白。」

 

「失礼だなぁ、剣丞。

ニッコリ笑顔でお話しただけだよ?(ニッコリ)」

 

「その笑顔が怖いんだよ。」

 

未だに少し怯えながらも、和奏は白に尋ねる。

 

「それで、なんで白が店番やってたんだよ。」

 

「きよ、熱、倒れた。

大将、腰、痛めた。

私と疾風、代理。」

 

「大体わかった。」

 

「いや、説明適当すぎだろ白。」

 

「だっていちいち説明するの面倒くさいんだもん。

それで三若、何食べる?」

 

「いつもの調子で頼んでいいのかよ。」

 

「うん、そのへんは安心していいよ、和奏。」

 

「本当!?ええと、じゃあねぇ・・・。」

 

白の言葉に、犬子は目を輝かせて注文をする。

 

#####

 

「( ゚д゚)ポカーン」

 

「・・・oh」

 

目の前の光景に、剣丞はあんぐりと口を開け、

白もついつい声を漏らす。

 

もっきゅもっきゅと可愛らしい咀嚼音を出しながら食べる犬子の前には、既に空の皿が大量に積まれている。

 

さらに恐ろしいのが、それでも食べたりないのか何度も何度もおかわりを注文してくることだ。

 

それも並の速さではなく、早食い+大食いの様を呈していた。

 

「これ疾風大丈夫か?

ちゃんと対応できてるか?」

 

「さっきから厨房で凄い動きしてるから大丈夫でしょ。

涙目だけど。」

 

「全然大丈夫じゃないじゃない!

疾風ちゃん!私も手伝う!」

 

「あ!私も!」

 

「すまん、ひよ、ころ・・・助かる。」

 

白は腰に手を当ててため息を吐く。

 

「こりゃ食料庫から食材持ってこなきゃかもね。

・・・大量に食材があるのはこの為か。」

 

「対犬子シフトってか。」

 

白の言葉に剣丞は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

#####

 

最終的に、対犬子シフトに剣丞も加わることになり、元凶が腹を膨らませ、

お昼ご飯も食べに来るね(死ぬがよい)。」と満面の笑みで死の宣告をして帰った頃には白と詩乃以外の面々はバテバテだった。

 

それ故に、一発屋は準備中の看板を下げることを余儀なくされた。

 

「これが・・・昼にも来るのか。」

 

「キッツイなぁ。」

 

息を切らしている剣丞と、今にも燃え尽きそうな表情をした疾風が口々にそういう。

 

「白ちゃん、大丈夫?これ。」

 

「昼もこの勢いで来られたら疾風ちゃん死ぬんじゃない?」

 

「ほんとそれな。

良くもまぁ毎日これをさばいてるなぁ大将。」

 

同じくバテているひよ子と転子に白も苦笑いで答えた。

 

「白、昼も様子見に来ようか?」

 

剣丞の言葉に、白は少し悩んだが、申し訳なさそうにはにかんで言う。

 

「うん、そうしてくれると助かる。

ごめんね、お客さんなのに。」

 

「気にすんなって、白にはいつも助けられてばかりだからさ、これくらい恩返しさ。」

 

「そう思うならあんまり馬鹿な真似してくれない方が私としては嬉しいんだけどね。」

 

「それはその・・・ごめんなさい。」

 

素直に謝る剣丞に白は声を出して笑った。

 

#####

 

昼、剣丞達は約束通り一発屋に出向き、昼食を楽しんでいた。

 

「頭!白姐さん!」

 

そこに、白獅子隊の兵士が複数名現れた。

 

「あれ、白獅子隊の皆、どうしたの?」

 

「仕事がひと段落ついたんで顔出しに来たんスよ。

あ、これ御見舞の桃っす、きよちゃんにあげてください!」

 

「ありがとう、いただくよ。 」

 

そんな会話をしていると、

 

「おや、白獅子隊の方々も来ていたんですか。」

 

白獅子隊の後ろから、白狼隊の兵士達が現れる。

 

「あ!白狼隊の兄さん方!お疲れ様っす。」

 

「いえいえ、そちらこそお勤めご苦労様です。

もしや皆様もきよ嬢の御見舞ですか。」

 

「うっす、今桃を届けたところっす。」

 

「おや、そうですか。

被ってしまいましたね。」

 

白狼隊の兵士は白に歩み寄ると、手に持っていた荷物を渡す。

 

「白様、我々からも桃でございます。

きよ嬢にお大事にとお伝えください。」

 

「うん、わかった。

わざわざありがとう、加藤。」

 

「それでは我々は職務がありますので、失礼致します。」

 

「そんじゃあ俺らも帰ります!

失礼します!」

 

兵士達は頭を下げると、帰っていった。

 

「疾風、この桃・・・ってどうしたの?」

 

疾風は、何故か虚しそうな目で白をみていた。

 

「いや、白狼隊とならぶと、ウチの柄の悪さが目立つなぁって。」

 

「大将が柄悪いから仕方ないんじゃない?」

 

「なにこの。」

 

そんな会話を聞きながら剣丞はいう。

 

「それにしてもさっきから御見舞が沢山くるなぁ。」

 

「うん、しかも全部桃、一つぐらいくすねてもバレないかもね(モシャモシャ)。」

 

「そう言いながら食ってんじゃねぇよ、仕事中だぞ。」

 

「とはいっても、お客さんもきよがいないって聞いたら店はいらずに帰っちゃって今いるの剣丞達だけじゃん。」

 

「そりゃそうだけど・・・。」

 

「でもなんでみんな帰っちゃうんだろ。」

 

首を傾げるひよ子に、白は微笑んで答える。

 

「私じゃ役不足ってことだよ。」

 

「でも、白ちゃんだって綺麗なのに・・・。」

 

「それでも、きよにしか出来ないことがあるってことさ。」

 

白はそういうと、剣丞に視線を向ける。

 

「剣丞なら分かるでしょ?」

 

「・・・まぁね。」

 

そんな会話をした矢先。

 

ガラガラ!

 

「白ちゃん!疾風ちゃん!ご飯食べに来たよ!」

 

「来たか犬子!かかって来い!」

 

第2次対犬子シフトが発動した。

 

#####

 

一発屋を閉めた後、白と疾風は休んでいるきよのところにいた。

 

きよは普段結んでいる髪を下ろし、布団の上で上体を起こして二人の話を聞いている。

 

「あはは、そりゃ大変だったね、二人共。」

 

「本当だよ、よくもまぁあんなの相手できるよね。」

 

「慣れだよ慣れ、私も最初は死ぬかと思ったけどねぇ。」

 

「あれに慣れるって時点ですげぇよ。」

 

きよは一通り話を聞くと二人に向かって頭を下げる。

 

「二人のおかげて助かったよ、ありがとう。」

 

「別にいいよ、いつも美味しいご飯食べさせてもらってるお礼のつもりだから。」

 

「もう体は大丈夫なのか?」

 

「うん!もう完全復活!

明日からまた頑張っちゃうよ!」

 

きよは力こぶを作って笑顔で答えるが、

白はそれを笑顔でたしなめる。

 

「頑張りすぎてまた倒れないようにね。」

 

「う・・・うん、今回の件は流石に身にしみたわ。

でも2人が店番したってことは今日は客の入り凄かったんじゃない。」

 

その言葉に白は首を横に振る。

 

「それがガラッガラでさ。」

 

「え?2人みたいな綺麗所が店番してるのに?」

 

「そりゃそうだよ、だってお客さんは食事だけじゃない・・・きよの笑顔を見に来てるんだか。」

 

「私の・・・笑顔?」

 

訳が分からないという顔をしているきよに、

疾風は言う。

 

「俺達はさ、仕事柄いつ死ぬかわかんねぇだろ。

どんなに強くても人間死ぬ時は一瞬だ、特に・・・俺たち兵士はな。」

 

疾風は、恥ずかしそうに頬を掻きながら続ける。

 

「そんな中でさ、きよの笑顔を見るとホッとするんだよ。

あぁ、帰ってこれたんだ、生き残れたんだって。」

 

疾風の言葉に続いて、白が言う。

 

「兵士だけじゃない、この街の人たちはきよの笑顔をみて、今日も頑張って生きよう、明日も頑張ろう・・・そう思えるんだ。」

 

白はきよにニッコリと微笑みかける。

 

「皆、きよに救われてるんだよ。」

 

きよは顔を赤くして目を伏せる。

 

「そ・・・そんな事言われたら恥ずかしいじゃん////」

 

そんなきよを見て白と疾風はクスクスと笑う。

 

「きよ、私たちから君に贈り物があるんだ。」

 

そう言うと白と疾風はそれぞれ、

『四葉のクローバー』をきよに差し出した。

 

「これって・・・」

 

「私達の住んでた国で、幸運の象徴と呼ばれてる草さ。

苦労したんだよ?1枚見つけるのも大変なのに二枚も探したんだから。

こういうのって絶対物欲センサー働いてるよね。」

 

「姉貴、きよはそういうのわかんねぇから。」

 

疾風の指摘に、白は一度咳払いをすると、きよに微笑んでいう。

 

「きよ、いつもありがとう。」

 

その言葉にきよは目尻に涙を浮かべ、顔を伏せる。

 

「もう・・・こんな時に泣かせないでよ。」

 

そんなきよの頭を、白は優しく撫でるのであった。

 

#####

 

数日後、白、凛、彩華の3人は疾風と剣丞隊の3人と一発屋の前で鉢合わせになる。

 

少し会話をしたあと、店内へ入っていく。

 

「いらっしゃい!」

 

いつもの笑顔が、そこに咲いていた。


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