戦国†恋姫~とある外史と無双の転生者~   作:鉄夜

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一夜城編
第一話


戦国時代。

 

そう呼ばれている時代。

 

数多の戦が起き、数多の者達が己が正義をなさんとする時代。

 

そんな時代の、正しく戦場と呼ばれる・・・否、()()()()()()場所に二人の少女がいた。

 

1人は短く白い髪に、青い瞳、低めの身長でとても細い体の作りをしていた。

とても可愛らしい顔の作りをしており、一見すると無害な美少女のように見える。

 

しかし、その少女は、山のように積まれた死体の上に座り、退屈そうにしていた。

 

「・・・つまんない。」

 

「急にどうした、姉貴。」

 

退屈そうにそう漏らした少女にもう1人の少女が問う。

 

この少女は、今愚痴を漏らしている少女とそっくりな容姿をしている。

 

しかし瞳は赤く、気の強そうなツリ目をしている。

 

腰にはとても華奢な少女が使うとは思えない長さの日本刀が差してある。

 

退屈そうにしている少女、颯馬白(そうまはく)は自身の妹であるもう一人の少女に言う。

 

疾風(はやて)よ、我が妹よ、

あの日のことを覚えてる?」

 

「あの日のこと?」

 

「私達が死んで、その後自分のことを神様って名乗る奴にあった時のこと。」

 

「あぁ、よく覚えてるよ。」

 

疾風と呼ばれた少女がそう言うと、白は再びため息を吐く。

 

「あの時はさ、正直テンション上がってたんだ。

戦国無双シリーズの世界に行けて、なおかつ好きな能力か物を与えてくれるっていうから。」

 

「あぁ、だから姉貴は『複製術』を貰ったんだよな。」

 

「うん、でもさ・・・なんで流浪演武の世界だよ・・・。」

 

白が不満そうにそういうと、疾風は溜息を吐いて言う。

 

「ノリノリであっちこっち歩き回ってんだろうが、何が不満なんだよ。」

 

「武将列伝書き終わってやることがないんだよ。

私としては大きな戦に乱入して大暴れしたかったのに。」

 

「今まで以上に大暴れって・・・。」

 

白はひとしきり愚痴ると再び退屈そうに頬杖をつく。

 

「・・・本当に退屈。」

 

#####

 

そんな白の様子を、天上から水晶玉を通してみているの者がいた。

 

その者は、愚痴をこぼす白を楽しそうに見ていた。

 

「そう、・・・もはやその世界は汝らには退屈すぎる。」

 

彼の者・・・神は、歪に顔を歪める。

 

「汝らは、現し世に生きるには強すぎた。

だから一度命を終わらせ、今世へ、汝らが生きるべき世界へと生まれ変わらせた。

そして、汝らは数多の戦場をかけ、

無双の英傑たちと絆を結び、より強く、より苛烈になった。」

 

神は高笑いをすると楽しそうにいう。

 

「そして今、汝らは新たな物語を紡ぐべき役者へと成長を遂げた!

故に与えよう!新たな戦場を!

故に与えよう!新たな友を!」

 

神は水晶玉に手をかざす。

 

「さぁ、開演だ!」

 

#####

 

「しょうがない、秀吉様のところに行って清正と正則からかって遊ぼう。」

 

「あのなぁ・・・ん?」

 

疾風が空を見上げる。

 

「なんだか急に天気が怪しくなってきたね。」

 

二人が見つめる空では雲がゴロゴロと稲光が起こしていた。

 

そして、

 

ピシャン!という激しい音とともに稲妻が二人目掛けて降り注ぐ。

 

「な!?」

 

反応が間に合わず、2人は稲妻の直撃を受けた。

 

#####

 

桶狭間。

 

山道に、兵を従える少女の姿があった。

 

少女は暗い道の先をただまっすぐ見据えていた。

 

少女は偵察へ出かけた兵の帰還を待っていた。

 

「信長様ー!」

 

と、道の先から三人の少女が駆け寄って来た。

 

「三若、報告せい。」

 

黒髪の少女の傍らにいた女性に3人は報告を始める。

 

「壬月様!アイツらボク達のこと完全に舐めてます!」

 

「本陣で馬鹿みたいにお酒飲んで騒いでましたー!」

 

「完全に油断してますし〜、動くなら今が好機だって(ひな)は思いますけどね〜。」

 

「・・・デアルカ。

和奏、犬子、雛、苦労、下がって良いぞ。」

 

「「「はっ!」」」

 

少女がいうと三人は後ろに下がる。

 

壬月と呼ばれた女性が少女に言う。

 

「殿、動くにしても、足音でバレるやもしれませぬ。」

 

「・・・ふむ。」

 

壬月の言葉に少女が少し考え込んでいると、ポツポツと雨が降ってきた。

 

雨は激しくなり瞬く間に土砂降りとなった。

 

「天は、この信長に味方するか・・・」

 

少女は微笑みながらつぶやく。

 

壬月は、怒りを含んだ言葉を口にする。

 

「それにしても、戦の最中に宴とは、

舐められたものだな。」

 

その壬月にそばにいたお淑やかな女性は諭すように言う。

 

「まぁ常識的に考えて、これだけ数の差がある所に奇襲を仕掛けるなんて考えられませんから。

勝った気でいるのではないですか?」

 

その女性に、少女は笑みをつくっていう。

 

「常識なんぞに囚われていては、大業をなすことは出来んよ。」

 

「しかし殿!」

 

「説教は後で聞く、義元の首を取ったあとでな。」

 

と、少女達が話していると空の雲が稲光を放ち、激しい音を立てて目の前に雷が落ちてきた。

 

「な!?」

 

少女達はまさかの出来事に驚いた。

 

そして、雷が起こした土煙の中から、声が聞こえてきた。

 

「死んだー、あー死んだー、どうせ死ぬなら戦死して誇り高く死にたかったぜ、

まさかの死因が感電死とかカッコ悪すぎだろ。」

 

「・・・」

 

声はどうやら若い少女のものであった。

 

土煙が晴れるとその姿がはっきり見て取れる。

 

一人は白髪、青い瞳に華奢な体であった。

 

もう一人は先程の少女と一見するとそっくりな容姿をしている。

 

一見無害そうに見える彼女達──白と疾風。

 

(こいつらは・・・)

 

だが、歴戦の強者たる壬月は2人から血の匂いを感じ取っていた。

 

「疾風、落ち着いて、私達生きてる。」

 

「・・・え?」

 

白の声で疾風が落ち着いて周りを見渡す。

 

「・・・どこだ・・・ここ。」

 

「どこかはわからない・・・ただ・・・。」

 

白は無表情に壬月に目をやる。

 

壬月は反射的に武器を構えた。

 

「歓迎ムードじゃないことは確か。」

 

「・・・みてぇだな。」

 

こちらに気づいたらしい2人に、壬月が問う。

 

「何者だ!貴様ら!」

 

「私達は、怪しいものじゃない。」

 

そう言って白が歩み寄ると、壬月は武器である巨大な斧を白の鼻先に向ける。

 

「それ以上近寄るな!」

 

白はその斧の刃先をそっと手で掴む。

 

「・・・いけないなぁ、相手のことをあまり知らずにこういう事をするのは。

命がいくつあっても足りないよ?」

 

壬月は、斧を振るおうとする、だが。

 

(!!っ、動かん。)

 

白に掴まれた斧はビクともしなかった。

 

(こいつ・・・一体・・・!)

 

「おけい!」

 

と、ここで、後ろから少女の声が響くと、白は掴んでいた斧を離した。

 

「殿・・・。」

 

「大事な戦を前に、お前に怪我をされては困る。」

 

少女はそう言うと、白の方をむく。

 

「すまなかったな、戦を前にこいつも気がたっているんだ。」

 

「別に気にしない。」

 

「それにしてもあんたその旗印、織田家中のもんか?」

 

疾風の言葉に、少女はフッと笑う。

 

「なにを言う、織田とは我で、我こそが織田よ。」

 

「あんた・・・一体だれだ。」

 

疾風の問に、少女は答える。

 

「我が名は信長、織田上総介久遠信長(おだかづさのすけくおんのぶなが)である。」

 

「な!?」

 

驚いて声を発した疾風を白が目で制す。

 

「彼の信長公とは知らず失礼した。

私は颯馬白、こっちは妹の疾風。

二人で浪人をしてる。」

 

白がそう言うと久遠は笑みを作って言った。

 

「昨今の浪人は雷とともに降ってくるのか?」

 

「最先端でしょ?」

 

「いやちげぇだろ姉貴。

・・・信長公、そこら辺は俺たちもわかってねぇんだよ。

雷に撃たれて気がづいたらここに居たんだ。」

 

「・・・デアルカ。

まぁ貴様らがどこから来たのかは今はどうでもいい。

先程の様子だと、相当に腕が立つようだな。

どうだ、我に仕えてみる気はないか?」

 

「殿!」

 

「よく考えろ壬月、敵との戦力差は歴然、少しでも戦力は底上げしておいた方がいいと思わないか?」

 

「・・・確かにそうですね。」

 

「麦穂まで!」

 

麦穂と呼ばれた女性が壬月を諭す。

 

「この2人が味方に加わってくれれば、力強いと思いませんか?壬月様。」

 

「むぅ・・・。」

 

「それで、どうする?白よ。」

 

久遠に問われて白は答える。

 

「今すぐ返事はできない。

・・・ただ。」

 

白は青い瞳で真っ直ぐに久遠の方を見る。

 

「今すぐ力が必要なら、手伝うことは出来る。」

 

「当然、褒美はもらうがな。」

 

そう言った2人に久遠は小さく笑う。

 

「デアルカ。

ならば隊列に加われい!」

 

「「応!」」

 

返事をした後、白が思い出したようにいう。

 

「そう言えば、ここはどこで、今どういう状況?」

 

「うむ、まずそれを説明せねばな。」

 

白たちはここか桶狭間であること。

そして、敵は今川軍であり、今からこの山道を通って敵本陣に奇襲する旨を聞いた。

 

それを聞いた白は、少し考え込む。

 

「すぐ戻る、ちょっと待ってて。」

 

そういうと白は音もなく消える。

 

「・・・疾風、お前の姉は武器を持っていないようだが、草か? 」

 

「まぁ草でもあり、剣士であり、槍兵であり、弓兵・・・だな。」

 

「はぁ?何だそれは。」

 

「まぁそのうち分かる。」

 

久遠と疾風の会話が終わると同時に白が戻ってきた。

 

「報告。」

 

「許す。」

 

「この先で松平の兵が待ち構えてる、数はおよそ千。」

 

「なに!?どういう事だ三馬鹿!」

 

壬月が報告してきた3人に怒鳴る。

 

「犬子たちは悪くないわん!」

 

「だってさっき見た時はいなかったもん!」

 

「きっとそこの二人と話してる間に来ちゃったんじゃないですかね~。」

 

「うん、三若は悪くない。

戦場は生き物、いつ、何が起きるか分からない。

今回の場合、相手に目ざとい人がいたってだけ。」

 

白はそういうと久遠たちの前に立つ。

 

「何か策があるのか?」

 

「策と言えるものじゃない。

私と疾風が先行して道を開く。

信長達はついてくるだけでいい。」

 

「・・・急に出てきた貴様らを、信頼するに値する証拠はあるか?」

 

「ある。」

 

白は久遠の目をまっすぐ見て言う。

 

「私は・・・強い。」

 

「・・・クッ・・・ハハハハハ!」

 

久遠はひとしきり笑うと白と目を合わす。

 

「デアルカ、いいだろうならばそれを、貴様の力でもって証明して見せよ。」

 

「御意。

任せて信長。」

 

「久遠でいい・・・任せたぞ、白。」

 

白は無言でうなづいた。

 

「とは言え、相手は千だ、俺達だけでも余裕だが時間がかかる。

だからアンタのところの母衣衆達、借りてくぜ?」

 

「許す。

好きに使え。」

 

「応!

・・・佐々!前田!滝川!

てめぇらも兵隊連れて俺達についてこい!」

 

「なんだよ!新参者の癖に偉そうに命令すんなよな!」

 

「でもこれって手柄を立てるチャンスだよね!! 」

 

「んー、じゃあちょっと頑張っちゃおうかな〜。」

 

三人の返事を聞いた白は前を向く。

 

「よし、行くよ。」

 

そう言って白は、疾風と三若達母衣衆をつれて山道を進んでいった。

 

「殿、本当によろしかったのですか?」

 

「わからん・・・だが。」

 

久遠はふっと笑うと言う。

 

「なかなか面白いやつだ。」

 

#####

 

山道の途中で、千を超える松平軍の兵が、待機していた。

 

兵士のひとりが、離れた場所から聞こえてくるたくさんの足音に気づく。

 

すこしすると敵である織田の家紋がついた旗が見えて来た。

 

「お・・・織田軍d」

 

叫ぼうとした兵士の言葉は、

 

ザシュ!

 

先陣を切って飛びかかってきた疾風に首を撥ねられ途切れた。

 

「ひとぉーつ!」

 

疾風の気迫に敵は一瞬怯むが、すぐに立て直し切りかかる。

 

疾風は、正面から向かってきて刀を振り上げた兵の腕ごと首を撥ねる。

 

「ふたぁーつ!」

 

続いて、一人の兵士が疾風に向かって降った刀を弾いた所で、横からもう一人の兵士が切りかかってきていることを確認した疾風は、

一人目の胴体を斜めに切り上げるように両断し、そのまま二人目の首を撥ねる。

 

「これで・・・三つ!」

 

疾風は1人1人を一撃の元で切り伏せていく。

 

「な・・・なんだ貴様は!」

 

そう言った大層な鎧を着た兵士を、疾風は頬についた返り血を舌で舐めとると睨みつける。

 

「大将首だ・・・」

 

疾風はその兵を指さすと、荒々しく叫ぶ。

 

「大将首だろお前!なぁ!首おいてけぇ・・・首おいてけぇ!」

 

大将は背後に控える兵に叫ぶ。

 

「伝令兵!本陣に向かい、このことを義元様に伝えるのだ!」

 

「御意!」

 

そういった兵の命は、

 

ヒュンという音と共に頭に矢が刺さって終わった。

 

「行かせないよ。」

 

そこには弓を構えてている白がいた。

 

「なに!?いつの間に回り込んだ!?」

 

兵の驚きをよそに、白は弓とは思えない連射速度で1人、また1人と、的確に頭を撃ち抜いていく。

 

「クソ!大勢でかかれ!そうすれば抜けるはずだ!」

 

大将がそういうと、五十ほどの兵士が白に殺到する。

 

白はそれを確認すると、手元から火縄を消した。

 

REPRODUCTION(複製、開始。)

 

そう唱えると手元に巨大な槍、

戦国最強、本多忠勝が愛槍、蜻蛉切が出現した。

 

「兵士諸君、任務ご苦労、さようなら。」

 

そう言って蜻蛉切を横に大きく振るうと巨大な斬撃が飛んでいき、群がっていた敵が切り飛ばされる。

 

返り血が白の顔に大量にかかるが白は動じず、裾で拭う。

 

そして、蜻蛉切を消し、日本刀を出現させると、惨劇を目撃して怯えている敵の群れに突っ込んでいく。

 

「おー、すごいね〜」

 

「わ・・・犬子達だってあれくらい出来るもん!」

 

「そ・・・そうだ!新参者に負けてたまるか!」

 

三若が、後ろに控えている部下に指示を出す。

 

「赤母衣衆!突撃するよー!」

 

「黒母衣もいくぞ!ボクについて来い!」

 

「滝川衆もいくよー。」

 

二人に感化され、三若達母衣衆も動き出す。

 

「母衣衆、逃げようとしてる敵も絶対逃がさないで。

本陣に逃げ込まれでもしたらこちらの存在を知らせることになる。

残さず、全員、皆殺しにして。」

 

「み・・・皆殺し!?

別にそこまでしなくても。」

 

「殺・る・の。」

 

「きゅ・・・きゅーん・・・」

 

白の言葉に犬子が怯え、子犬のように鳴く。

 

「クソ!なんだこれは!どうすればいいのだ!」

 

「大将が狼狽えてんじゃねぇぞ!」

 

疾風は慌てている敵大将目掛けて飛びかかり、刀を振り下ろす。

 

それを大将は自らの刀で受け止める

 

「なんだ貴様らは!織田に貴様らのような将がいるなど聞いたことがない!」

 

「俺がどこの誰なんてどうでもいいだろ!

いいからとっとと首級(しるし)になりやがれ。」

 

そう言って疾風が力を込めると、相手の刀に切れ込みが入り疾風の刀が食い込んでいく。

 

「ヒィ!ば・・・化物がああああ!」

 

その言葉を最後に敵大将は刀ごと首を切り飛ばされた。

 

疾風はその首を掴むと天高く掲げる。

 

「颯馬疾風!敵将!討ち取ったりぃ!」

 

その様子を後方で見ていた久遠、壬月、麦穂は、唖然としていた。

 

「なんとも苛烈な・・・」

 

「久遠様、あヤツらもしや妖の類なのでは。」

 

「そんなことは・・・あるかも知れませんね。」

 

その様子を見て、もう1人の、後ろで顔を青くしている少女がいた。

 

「ひ・・・人がゴミみたいに・・・」

 

「あぁ、サルには刺激が強いかもしれんな。」

 

久遠が苦笑いを浮かべて少女に同情する。

 

「さすがにあれを見たあと飯を食えとは言えんな。」

 

「さっき争わなくてよかったですね、壬月様。」

 

「・・・ああ。」

 

「なんの話?」

 

「「うおっ!?」」

 

急にそばに現れた白に、久遠と壬月が驚いて声を上げる。

 

「音もなく現れるな!草かお前は!」

 

「驚いた?ねぇねぇ驚いた?」

 

「無邪気か!なんの用だ一体!」

 

「だいぶ道が開けたから本隊は先に行ってくれていい。

あとの掃除は私達でやる。」

 

「デアルカ。

よし!皆のもの続け!

新たな友と母衣衆が開いた道を無駄にするな!

・・・サルはあまり足元を見るなよ」

 

「は・・・はい!」

 

久遠の号令と共に、本隊が動き出した。

 

そのまま本隊は戦っている兵士達のそばを通過し、敵本陣へと向かった。

 

#####

 

その後、少しして。

 

ザシュ!

 

「ぐっ!」

 

白は、兵士の腹を刀で突き刺した。

 

「み・・・三河武士を・・・なめるなぁぁぁ!っが!」

 

叫ぶ兵士から刀を抜いて袈裟斬りにし、とどめを刺す。

 

返り血を浴びた白は周りを見渡し、こっそり逃げ出そうとした兵士の頭を火縄で撃ち抜く。

 

「・・・今ので最後か。」

 

白の周りには、物言わぬ屍となった兵士達の姿があった。

 

「・・・本当に皆殺しなんだもんなぁ。」

 

和奏が顔を青ざめてつぶやく。

 

「逃げようとした敵も容赦なしだもん、えげつないね~」

 

「うぅ、犬子今日ご飯食べれないかも。」

 

三若は、一斉に白のほうを見た。

 

「はぁ、結構汚れたなぁ。

また洗濯しないと。」

 

白は返り血で染まった衣服を見て呟いた。

 

「おい!三若!」

 

疾風は三若に近づいていく。

 

「ヒィ!妖怪首おいてけだぁ!」

 

「誰が妖怪だゴラァ!

・・・それより。」

 

疾風は犬子と和奏の頭をワシワシと撫でる。

 

「おめぇらいい動きすんじゃねぇか、

気に入ったぜ!」

 

まさかの行動に一瞬戸惑うが犬子と和奏は胸をはる。

 

「ふ・・・ふん!これぐらい僕達なら当然だっての。」

 

「うん!これくらい出来なきゃ赤母衣衆筆頭なんてやってないもん!」

 

「え〜疾風ちゃん、雛はなでてくれないのぉ〜?」

 

「おう、お前もなかなかだったぞ。」

 

そう言って疾風は雛の頭も撫でる。

 

「むふ〜、満足満足〜。

それにしても安心したよ〜。

疾風ちゃんはお姉さんと違ってまだまともで。」

 

「あんなキ印と一緒にすんな。」

 

「実の姉を捕まえてキ印とは失礼な妹だな。」

 

白が近寄ってきた。

 

「なんでいつも首にこだわるの。」

 

「首級とれば手柄になるし、なにより首とか胴体ならぶった切って両断しちまえば急所なんて狙わなくても確実に殺せんだろ。

手っ取り早くていいじゃねぇか。」

 

「この物臭め。」

 

「もの・・・ぐさ?」

 

白の言葉に和奏が首を傾げる。

 

「で?姉貴、これからどうすんだよ。」

 

「うん、とりあえず本隊に合流・・・」

 

と、白は空を見あげてかたまる。

 

その場にいるほかの面子もつられて空を見上げる。

 

空からは、光の玉が降ってきていた。

 

「なに・・・これ。」

 

雛が声を漏らす。

 

暫くすると、光の玉は消えた。

 

「何だったんだ・・・今の。」

 

「わからない。」

 

白と疾風が話していると、

 

「ねぇみんな・・・あれ・・・なんだろう。」

 

犬子が空を指さす。

 

その方向を見ると、何かが空から降ってきていた。

 

「人?・・・それも男だ。」

 

「あっちって、敵本陣の方角だよな!」

 

和奏がそう言うと、白は駆け出す。

 

「みんな走って、とりあえず本隊に合流する。」

 

白がそう言うと、その場にいる全員が走りだした。

 

そしてしばらく走ると敵本陣に到着した。

 

「久遠!」

 

白が久遠に駆け寄る。

 

「白、疾風!無事っだったか。」

 

「うん、それより敵は?」

 

「こちらが義元の首をとったあと、撤退して行った。」

 

「・・・そう。」

 

白は、すぐ側でひよが一人の男に寄り添ってるのが見えた。

 

「その男、もしかしてさっきの?」

 

「あぁ、やはりお前達にも見えていたか。」

 

「・・・連れて帰るの?」

 

「あぁ、放っておくわけにも行くまい。

・・・こやつが何者なのかも知りたいしな。」

 

「・・・そうだね。」

 

白と疾風が、他の者達に悟られないように小声で話す。

 

(姉貴、こいつの服装・・・)

 

(うん、現代のものだ。)

 

久遠が全員に言う。

 

「何はともあれ、まずは撤退だ。

敵が取って返してくるやもしれん。

白、疾風、そこらに乗り捨てられてる馬を使え。」

 

「うん。」

 

白と疾風は馬に乗って久遠の隣に行く。

 

「ねぇ久遠、さっきの話、まだ生きてる?」

 

「仕官の件か?」

 

「うん、もし良ければ乗ろうと思って。」

 

「急にどうした?」

 

白は、ひよの馬に乗せられている男に目をやる。

 

「面白そうだしね。」

 

「・・・デアルカ。

歓迎しよう、白、疾風。

と言ってもまずはお前達にも聞きたいことがあるからな、清洲についたら話してもらうぞ。」

 

「うん。」

 

そうして白たちは清洲へと馬を進めた。

 

#####

 

「ふむ、よく似合っているな。」

 

白と疾風は白い着物を着せられ、評定の間に通された。

 

「よかったの?着物借りちゃって。」

 

白が聞くと、壬月が答える。

 

「替えの服が無いのだろう?

血塗れのまま評定の間に通すわけには行かんのでな。」

 

「そう、ありがとう。」

 

「うむ・・・さて。」

 

久遠は真剣な目で白に言う。

 

「改めて名乗らせてもらおう、

我が名は織田上総介久遠信長、久遠と呼んでくれれば良い。」

 

「いいの?敬語使わなくて。」

 

「構わん、そういう質でもあるまい。」

 

久遠に続き、ほかの面々も自己紹介をする。

 

「柴田権六壬月勝家。

通称は壬月だ。」

 

「丹羽五郎左衛門之尉長秀。

通称は麦穂と申します。」

 

「前田又左衛門犬子利家!

犬子でいいよ!」

 

「佐々内蔵助和奏成政。

通称は和奏だ。」

 

「雛は滝川彦右衛門一益って言うの。

よろしくね〜」

 

「颯馬白、そっちは妖怪首おいてけ。」

 

「殺すぞクソ姉貴。

颯馬疾風だ、まぁ、これから宜しく。」

 

全員の自己紹介が終わると、久遠が二人に聞く

 

「それで?貴様たちは何者なのだ?」

 

「浪人。」

 

「それはもう聞いた。」

 

「て言ってもなぁ、嘘はついてねぇよ。」

 

「ただの浪人が雷とともに落ちてくるものか。」

 

「私達も、どうして自分たちかここにいるのかはわかってない。」

 

「いつもどうり戦が終わって、次はどこいこうかって時に雷が落ちてきて、気が付いたら田楽狭間にいたんだよ。」

 

「あの男は仲間ではないのか?」

 

白と疾風は顔を見合わせる。

 

「繋がりはない、けど、同郷の人間だと思う。」

 

「・・・デアルカ。

ではもう一つ聞きたい。

白、お前の技は御家流(おいえりゅう)か?

何も無いところから武器を出したり消したりしていたが。」

 

「御家流?」

 

「分からないのか?それぞれの家に代々伝わる秘技みたいなものだ。」

 

「あー、うん、多分そうだと思う。」

 

「なんだか返事が適当だね~。」

 

雛が指摘した後、壬月が聞く。

 

「それで?あれは一体どういう仕組みだ?」

 

「一度目で見て、分析したものをそっくりそのまま複製する、ただそれだけ。」

 

白はそういうと、手元に壬月の斧を出す。

 

「なに!?」

 

「犬子や若菜の武器だって、ほれこの通り。」

 

そう言って白は、犬子と和奏の武器を出す。

 

「ね?簡単でしょう?」

 

「おー!すごい!」

 

「すげー便利!」

 

「消す時も一瞬だよ。」

 

言葉通りに白は出した武器をすべて消した。

 

「なんとも面妖な・・・」

 

「御家流と言うことは、疾風も使えるのか?」

 

「いや、俺は姉貴と違ってそういう才能なくてな。

刀しか取り柄がない。」

 

「そういえばあの刀、何回折り返してるんだ?」

 

「さぁな、そのへんは分かんねぇ。

知り合いが紹介してくれた刀匠が作ってくれたもんだからな。」

 

「敵の体鎧ごと斬ってたよな。」

 

「おうよ、頑丈さと切れ味が自慢だからな。」

 

一通り話し終えたところで白が聞く。

 

「ところで、私達はどこの部隊の預かりになるの?」

 

「それについては明日伝える。

今日はとりあえず滝川衆の長屋に泊まるといい。」

 

「わかった。」

 

「以上を持って、評定を終了とする。

皆、此度の戦、大儀であった。

これからも励めい。」

 

「「「「「「「はっ!」」」」」」」

 

#####

 

「壬月、麦穂、例の新たな部隊の件だが、

我は白に任せようと思う。」

 

「・・・そうですな、適役でありましょう。」

 

「反対しないのか?」

 

「あの実力を目の当たりにして反対する者はおりますまい。

おおよそ、白獅子隊の件は疾風に任せるおつもりでしょう?」

 

「流石壬月だ、聡いな。」

 

「白狼隊に白獅子隊、ぴったりの方が来ましたね。」

 

「あぁ、・・・さて後は」

 

久遠は腕を組んで考える。

 

「あの男だけだな。」

 

#####

 

滝川衆の長屋。

 

寝所から出た白と疾風は、縁側で月を見上げる。

 

疾風が、白に聞く。

 

「なぁ、姉貴、どう思う?」

 

「・・・」

 

疾風の質問に白は少し間を置いて答える。

 

「ノッブがいい人で草。」

 

「草生やすな。

ってかそうじゃなくて!」

 

疾風は文句を言おうと白を見るが、楽しそうな笑顔を浮かべているのを見てため息をついた。

 

「そうだよなぁ、姉貴には関係ないよな。」

 

疾風の言葉に白は小さく笑って言う。

 

「ここがどこで、どんな世界かなんてどうでもいい。

大事なのはこの世界は楽しいかって事。」

 

「で?どうなんだ?第一印象は。」

 

その問に、白は何も答えず、疾風に無言で笑顔を向けた。








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