turnEX「一方」
ここはクロノス市、その中央区にあるデュエルスクール。
そこの廊下を1人の少年が走っていた。
窓から見える太陽は、山に入りかかっていた。
やがてドアの前に立ち、勢いよくあける?
「はぁ…はぁ…」
「ん?冨樫、お前なにしてんだ?」
冨樫と呼ばれた走って来た少年は、声を大きくして聞いた。
「グラッツ、刃の反応が消えたって本当なの!?」
グラッツと呼ばれた青年が答える。
「あ、あぁ。数日前から反応がないんだ。」
「精霊世界を探してみたんだけど…結果は同じだった。」
椅子を反転させてオペレーターの女性も答える。
「そんな…」
「施設に負担はかかるけど…他の世界にもアクセスをかけてみる。」
「ま、俺としては関係無いがな。むしろ清々する。」
ソファーから白髪の少年が起き上がる。
「シュン、てめぇ!」
シュンと呼ばれた少年が声を無視してあくびをかく。
「落ち着けって。とにかく、刃の行方はこっちが探す。」
「リーダー、もしかしてどっかで油売ってんじゃないのぉ?」
栗色の毛の少女が気軽い声で聞く。
「レナ。いや、今はリナか。それは無い。」
「どーしてぇ?」
「電源を切っているなら切っているなりの返答がある。切ってても通信は受けとるからだ。」
「今回のケースは、そもそも受け取れてないケース。こっちが厄介なんだ。」
「ふぅーん?」
「刃は生きているはずさ、今までだってそうじゃないか。精霊世界のヴェルズ軍勢を退けた俺たちのエースだろ?」
「そりゃ…そうだけど…。」
「レイジを失った痛みも、仲間を心配する心も分かる。だけど、俺たちには今がある。今があるってことは次もある!だから…だから今は、揉め事を起こさないでくれ。」
「はぁ…分かった…。ただしだ、そこまで言ったんだ。見つけ出せよ。」
「分かってる。全力で見つけ出す。」
「…」
冨樫は右側面のポケットから2枚のカードを取り出した。
そのカードのは赤い二刀流のペンデュラムモンスターと、拘束具に繋がれた拳闘士が描かれた黒枠のカードがあった。
その2枚のカードを握った右手を、彼は額に押し当てた。
「無事でいてくれよ…頼むからさ…。」
「刃…。」
リナと呼ばれた少女からは気軽さが消えていた。
「レナ…。大丈夫だ。アイツのことだ、ケロッと帰ってくるさ。」
リナと呼ばれた少女の主人格、レナはうつむく。
グラッツは体をかがませ、レナの頭に手を乗せた。
「義父さん…。うん、そうだよね。きっと大丈夫だよ。」
グラッツは立ち上がって、モニターの方を向く。
(お前なら大丈夫だよな?そうじゃなかったら…ただじゃおかないぞ…!)
グラッツは誰にも気づかれないように、険しい顔をした。
シュン以外は、その表情に気がつかなかった。