リリカル異世界決闘録   作:鹿島 雄太郎

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できた!


turn15「休息」

あたしはドクターに言われて、師匠を探していた。

「~♪」

ふとあの角あたりから鼻歌が聞こえてきた。

あの角は…師匠の部屋あたりか

もう少し近づくか…

「~♪」

鼻歌が大きくなってくる。

部屋のドアは…開いてるか…

もう少し…もう少し…

カツン

しまった!

「誰かいるのか?」

あたしは観念して身をさらす。

「ノーヴェか…」

「…すまん、鼻歌が気になって…」

師匠はこっちを背にして、ベッドに腰かけていた。

「…聞くか?」

師匠はそう言って、片方のイヤホンを差し出した。

あたしは隣に座ってからそれを受け取り、耳に嵌める。

「I don't want to die while young.

There are many things I'd like still to do.

I'd like to laugh with you.

I'd like to feel your warmth forever.」

歌が聞こえる。鼻歌の正体だ。

「この曲は?」

「シンガーデュエリストのマーフィー・ヴェイキンスの最期の曲だ。曲名は"I don't want to die while young."」

「何て意味なんだ?」

「若くして死にたくないって意味、俺にはぴったりだ。」

「…気に入ってるのか?」

「あぁ。」

そう言った師匠の目は、何かを懐かしんでいるようだった。

「これを歌ったマーフィー・ヴェイキンスはな、10年も経たないうちに病で死んだ。42歳だった」

「若くして死にたくないって言ってるやつが若いうちに死ぬなんて思ってなかっただろうな。」

あたしは肩をすくめて言った。

「思っていなかった。本人を除いて…」

「…そうか…」

「そういえば、何か伝えることでもあったんじゃないか?」

「あーそうだ、ドクターが呼んでたよ。カード開発室で待ってるってさ。」

「そうか、わざわざ悪いな。」

「いいっていいって。」

そう言って師匠にイヤホンを返した。

端末にイヤホンを巻き付け、ポケットにしまって走って行った師匠を横目で見て、あたしはベットから立ち上がった。

部屋を出てから、ふと歌詞を口ずさんだ。

 

「I don't want to die while young.」

─若くして死にたくないよ

「There are many things I'd like still to do.」

─まだやりたいことがいくつもあるんだ

「I'd like to laugh with you.」

─君と笑っていたい

「I'd like to feel your warmth forever.」

─君の温もりをいつまでも感じたいよ

 

口ずさんだ旋律は、自分に跳ね返って聴覚を刺激する。

何故だかあたしには、この曲が師匠の本心だと思えた。

真っ当な人間の体でもないのに、心を感じた。


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