死の支配者と英雄の王の邂逅   作:霞梳卯狩

15 / 16
もう誰も見てないと思うので…


四人の冒険者

「初めまして、私が『漆黒の剣』のリーダー、ペテル・モークです。」

そう先ほどの戦士風の男が代表として声を上げた。

「俺は野伏、ルクルット・ボルブ」

皮鎧をまとった金髪の男が、軽く頭を下げる。茶色の瞳がおどけるように細まっていた。

全体的に痩せ気味で、やけに手足が長く、蜘蛛を彷彿とさせるフォルムだ、だがその細い体は無駄なものを可能な限り削った結果のようだ。

「そして魔法詠唱者(マジックキャスター)であり、チームの頭脳。ニニャ【術師】(スペルキャスター)

「よろしく」

この中では最年少だろう。大人というには若々しすぎる笑顔を浮かべ、軽くお辞儀をしてくるのは濃い茶色の髪に青い瞳の持ち主だ。

他のメンバーよりも肌が白く、顔立ちも中性的な美形で声もやや甲高い。

ただ、浮かべる微笑は仮面でも作り笑顔でもない何かだった。

服装も他のメンバーが鎧などを着ているのに対して革の服程度しか着ていない。

「……しかし、ペテル。その恥ずかしい二つ名やめません?」

「え?いいじゃないですか」

「二つ名持ちですか?」

それがどの程度のことか分からず不思議そうなアインズに、注釈を入れるようにルクルットが口を出す。

生まれながらの異能(タレント)を持っていて、天才といわれる有名な魔法詠唱者(マジックキャスター)なんだよ、こいつ」

「ほう」「へぇ」

アインズとギル君は声を上げる。生まれながらの異能(タレント)は陽光聖典の者を三人つぶしてまで引き出した情報だ。その実例が目の前にいることに喜びを感じてしまった。

対してナーベラルからは微かに嘲笑の鼻息が聞こえるが、相手には気が付かれなかったことにアインズは安堵する。取引先で駄目な部下が変なことをしでかした上司の気分で、一瞬だけ軽く腹を立てたりもするが、この場でもめ事を起こすのは不味いとすぐに冷静さを取り戻す。

「別にすごいことじゃないですよ、たまたま持っていた生まれながらの異能(タレント)がそっち系統だったというだけで」

「ほほう」

アインズたちが得られた生まれながらの異能(タレント)についての情報は、その人物との嚙み合いや内容によってはあってもなくても変わらない。

だが、戦闘に使える生まれながらの異能(タレント)持ちは冒険者に多いらしい。そんな中、目の前の人物は見事に嚙み合った幸運の結晶とも言えた。

「魔法適正とかいう生まれながらの異能(タレント)で習熟に八年とかかかるのを四年だっけ?まぁ俺は魔法詠唱者(マジックキャスター)じゃないからそれがどれくらいすごいのかいまいちピンと来ないんだけどな」

アインズは同じ魔法職としての好奇心とグッズコレクターとしての欲望にかられる。

そんなアインズに気付かず、二人は会話を続けている。

「……この能力を持って生まれたのは幸運でした。夢をかなえる第一歩を踏み出せたのですから。これがなければ最低な村人で終わってましたよ」

ぼそりと呟いた声は低く暗く重い。それを払拭する目的で上げたペテルの声は当然、正反対だ。

「何はともあれこの都市では有名な生まれながらの異能(タレント)持ちだということです」

「まぁ、わたしよりもっと有名な人がいますけれどね」

「青の薔薇のリーダーか?」

「その方も有名ですけど、この街にいる方の中でですよ」

「バレアレ氏であるな!」

まだ名を聞いていない最後の一人が重々しく、かつ大声で人の名前を口にした。それに興味を引かれ、アインズは問いかける。

「……その方はどんな生まれながらの異能(タレント)をお持ちなんですか?」

すると四人が驚いた表情を浮かべた。どうやら知っていて当然な情報だったらしい。

「なるほど、それだけの立派な鎧を纏い、噂になってもおかしくない美女を連れていながら、全然私たちが知らなかったのはこのあたりの人ではないからですか」

渡りに船とアインズは頷いた。

「まさにその通りです。実は昨日来たばかりなんですよ」

「ああ。じゃ、知らないですかね?この都市の有名人なんですが、さすがに遠くの都市までは広がってないかな?」

「ええ、聞いたことがありませんでした。よろしければ教えてくれませんか?」

「名前はンフィーレア・バレアレ。名の知れた薬師の孫にあたる人物で、彼が持つ生まれながらの異能(タレント)はありとあらゆるマジックアイテムが使用可能という力です。」

「……ほう」「……へぇ」

アインズとギルは自分たちの声に警戒感を匂わせないように、苦心して声を出す。

その生まれながらの異能(タレント)はどこまで使用できるのか、ギルド武器であるスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンやワールドキング専用ワールドアイテムである乖離剣エアですら使用可能なのか。はたまた限界があるのか。

警戒すべき存在。しかし利用価値はある。

ナーベラルも感じ取ったのだろう。ヘルムの下に耳があればここだろうという個所に口を近づけると、警戒色の強い声を投じてくる。

「その人物、危険かと思われます」

「……わかっている。やはりこの都市にきて正解だったな」

「モモンさん、どうかされましたか?」

「ああ、いえ。お気になされずに。それよりも最後の方の紹介をお願いしてもよろしいですか?」

「はい、彼は森司祭(ドルイド)ダイン・ウッドワンダー。治癒魔法や自然を操る魔法を使い、薬草知識に長けていますので、何かあったら直ぐに相談してください。腹痛などにもよく効く薬とかもありますから」

「よろしくお願いする!」

口周りにぼさぼさと生えた髭と、かなりがっしりした体格が野蛮人じみた印象を抱かせる男が重々しく口を開いた。とはいってもアインズの外見よりも若いのだが。

「では次に私たちの番ですね。こちらがナーベ。彼はギルで彼女がハクノ、そして私がモモンです。よろしくお願いします。」

「よろしくお願いします」「よろしくお願いしますね」「よろしくお願いします」

「はい、こちらもよろしくお願いします。それではモモンさん方が私たちを呼ぶ際は名のほうで呼んでいただいて結構ですよ。さて早速で申し訳ないのですが、仕事の話に移りたいと思います。えっと、実のところ仕事というわけでもないんですよ」

「それは……」

「この街周辺に出没するモンスターを狩るのが今回の目的です」

「モンスター討伐ですか……?」

それは十分に仕事という範疇に入ると思われた。それとも何か冒険者的な理由があって、仕事はないというのだろうか。アインズはそのあたりの疑問を投げかけたくなるが、それが一般的な常識であった場合、あまりに知識が欠乏していると思われるのもまずい。だからこそ当たり障りのない範疇で、ボールを投げてみた。

「なんというモンスターですか?」

「あ、いえ。そっちじゃなくて、モモンさんの国では何というのでしょう?モンスターを狩るとそのモンスターの強さに応じた報奨金が組合を通してでますよね、それです」

なるほど。

そこからその報奨金についての会話が続き国の王女やニニャの貴族嫌いに話が変わっていくのはダインが軌道修正するまで続いた。

「まぁ、そんなわけでこの周辺を探索することになります。文明圏に近いためさほど強いモンスターは出ないでしょうから……モモンさんたちには少しばかり不満でしょうか?」

そういいながらペテルは羊皮紙の地図を開く。

「基本的に南下してこの辺りを探索します。」

羊皮紙の中央から南方の森の近辺を指で指し示す。

「スレイン法国国境の森林から出てきたモンスター狩るのがメインですね。後衛まで攻撃を飛ばしてくるような道具を使ってくるのはせいぜい小鬼(ゴブリン)ぐらいですか」

「まぁ、弱いから、ぶっ殺しても報奨金はやっすいけどな」

一行の余裕に、アインズとギルは微かな疑問を感じた。

アインズ達の知るユグドラシルの小鬼(ゴブリン)はレベル帯が広く、決して小鬼(ゴブリン)と一括りで考えていい相手ではない。下手をすれば痛い目を見る可能性もある。

彼らの態度は高レベル小鬼(ゴブリン)が出ないと確信しているためか、もしくはこの世界では小鬼(ゴブリン)はその程度の力しか持っていないのだろうか。

「強い小鬼(ゴブリン)というのはいないのですか?」

「確かに強い小鬼(ゴブリン)はいます。ですが我々が向かう森からは出てきません。というのも強い小鬼(ゴブリン)は部族を支配する立場です。部族すべてを上げて動くということは考えにくいんですよ」

そこからは出没する可能性が高いモンスターの種類などの情報を教えてもらい、協力することを決めて歓談の場となっていく。

「はい!」

「あなた方はどのような関係なんでしょうか!」

アインズとギルはその意図を計りかねて。ペテル達一行はルクルットの意図を鋭敏に理解して。

「仲間です」「そうですね」

アインズの返答に対して続いたルクルットの発言に、場の空気は大きく乱れた。

「惚れました!一目惚れです!付き合ってください!」

冗談によるコミュニケーションでないことは一行の顔を見ればわかった。

そして視線を送られたナーベの返答は。

「黙れ、下等生物(ナメクジ)。身の程をわきまえてから声をかけなさい。舌を引き抜きますよ?」

「あ、え……」

「厳しいお断りの言葉ありがとうございました!では友達から始めてください!」

「死ね、下等生物(ウジムシ)。私がお前の友人になどなるはずがないでしょ。目をスプーンでくりぬかれたいの?

?」

マゾとサドのやり取りから目を離し、ペテルとアインズは互いに頭を下げあう

「……仲間がご迷惑を」

「いえこちらこそ申し訳ありません」

「ハクノさんはああいう方はどう思いますか?」

「どうして私に振るのギル君。私はギル君だけの従者だから、ほかの人からの好意ってよくわからないんだよね」

「ハクノ氏はギル氏の従者ということは、ギル氏は貴族であるか?」

「いえ、僕は貴族とかそういうのじゃないですよ。ただハクノがこうやってついてきてくれてるだけです」

「お二人は仲がよろしいのですね」

「どうだろう」「どうでしょう」

そんな他愛ない会話をしていると受付嬢の一人が入ってくる。

「ご指名の依頼が入っております」

その一言に様々な疑問が湧くが、とりあえずは確認をしなければならない。

「一体、どなたが?」

「はい、ンフィーレア・バレアレさんです」

アインズは、やはりと思った。受付嬢の後ろから少年が顔を覗かしている。

しかし、先にペテル達と仕事を共にすると約束した身で直ぐに引き受けるというのも気が引ける。

そんな矢先にギルが助け船を出す。

「その依頼は僕達だけでなければいけない依頼ですか?」

「いえ、そちらの方たちがよろしければご一緒していただいてもかまいませんよ」

「御高名な薬師のお孫さんからの依頼となると薬草採取かその護衛、違いますか?」

「すごいですね。そうです、これから近場の森まで薬草を採取するのに護衛を依頼したかったんです」

そこまで来たところでアインズが声を上げる

「なぜ我々を?我々はつい最近、この街に馬車に乗ってやってきました。ですのでこの街に親しい友人もおりませんし、知名度だってありません。にも関わらずなぜ、私を?」

「今まで雇っていた方々がエ・ランテルを出られて、別の街に行かれたようなんです。それで新しい方を探していたところにあなた方の話が耳に入りまして」

「我々の話?」

「はい、宿屋で一つ上のランクの冒険者を吹っ飛ばしたという話を聞きまして、それに銅のプレートの方でしたらお安いので、長くお付き合いしていただければなと」

「なるほど」

そういうことならば納得がいく。

それから以来の細かな内容や報酬について相談を行った。その最中、終始マゾとサドのやり取りやハクノの膝に座るギル君をみて和んだりと和気あいあいと時間を過ごし

「では、準備を整えて出発しましょう!」

 

モモンとギルの異世界転移後初めての依頼がスタートした

 

____________________________________________

 

 

夜闇の中、フードを被った人影が滑るようにエ・ランテルの巨大な墓地を進んでいた。

不気味なその様は亡霊のような何かを彷彿とさせる。霊廟までたどり着いたその影はフードを外し中へと入っていく

「ちわー。カジッちゃんに会いに来たんだけどいるー?」

 

 




戦闘シーンとか物語が急に動くシーンって全体でみると結構少ないですよね

また、少しずつ続きます…

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。