暗殺なんて面倒な教室   作:東風吹かば

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赤の登場

 「体育、かぁ。苦手だな〜」

 

 殺せんせーのSINOBIやSAMURAIしかできないような体育もどうかと思ってたけど、烏間先生に代わっても十分に厳しそうだなぁ。

 

 体力テストが終われば普通の体育の授業が始まる。本校舎では男女別だった体育も、E組では基本的に男女一緒だった。別にいいのだけれど、運動神経のいい男子を見ると羨ましくなってくる。

 

 しかし五時間目、お昼ご飯の後というのも嫌だ。食後、しかも太陽が強く照りつける時間帯。グラウンドへと行く足はゆっくりとしか進めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 烏間先生の体育ではやはり暗殺技術を学んだ。

 

 今日はナイフの使い方や切りつけ方の練習。勿論普段ナイフを使うなどいうことは一切無かったので中々面白かった、けど……やっぱり体育は苦手のようで、あまりうまくはできなかった。今後の伸び代に期待しよう、うん。これからは銃とかも使うらしいし。

 

 でも必修科目(柔道やダンス)とかは大丈夫なのかなぁ?

 

 

 

 「6時間目小テストか〜」

 

 ゆきちゃんに片思いしてる関係上、よく私に話を聞きに来る杉野の声がした。

 

 あー、小テストの勉強しとかないと。早めに着替えよう。

 

 

 

 

 

 

 さて、ゆきちゃんから聞いた話だが、先に女子更衣室で私が着替えていた間に赤羽(カルマ)君が復活して来たらしい。道理でみんな来るのが遅いと思った。

 

 で、経緯はよく知らないけど殺せんせーの触手の破壊に成功したと。一本だけだけど。

 

 すごいなぁとは思うけど、残念ながら今は殺せんせーの触手や赤羽君より小テスト。

 

 殺せんせーは一人一人に合わせた問題を作ってくるのだから難しい。更に生徒が向上していけるような問題。言い換えれば、生徒が毎回必ず考えて解いていかなくてはいけない。暗記だけでいける先生とはひと味もふた味も違うのだ。

 

 む、ムズイ……しかも何か殺せんせーの壁ブニョンがうるさくて集中しづらいし。寺坂君たちもさっきからうるさい。

 

 

 「ごめんごめん、殺せんせー。俺もう終わったからさ。ジェラート食って静かにしてるわ」

 

 え、もう終わったの……? まあそっか。赤羽君って五英傑ばりに頭がいいらしいし、当然っちゃ当然かぁ。

 

 ってかジェラート!? やめて、隣で食べないで。羨ましくなる。

 

 「ダメですよ、授業中に食べるなんて。まったくどこで買ってきたので……にゅやっ!? そっ、それは昨日先生がイタリアに行って買ったやつじゃないですか!!」

 

 先生こそダメじゃないですか……

 

 本校舎でやってたら絶対、理事長にクビにされる行為ですよ。

 

 「あ、ごめんごめん。教員室で大事そうに冷やしてあったからつい」

 

 「ごめんじゃすみません! 溶けないように苦労して寒い成層圏を飛んで来たのに……!!」

 

 苦労するところはそこではありません、先生……というか殺せんせーなら成層圏を飛ぶのもへっちゃらだったでしょうに。

 

 「で、どーすんの? 殴る?」

 

 「殴りませんよ! 残りを先生が取り返して舐めるだけです!!」

 

 舐める? 先生、いくら性別が同じとはいえ流石にどうかと……そういうのは異性間でやれば萌えるものですよ。

 

 そういえば殺せんせーは好きな人とかいるのかなぁ、私の勘では昔に悲恋とかしてそうなんだけど。

 

 「あっはは、まぁた引っかかった!」

 

 パンパンパンと立て続けに三発の銃声。

 

 突然の射撃。殺せんせーは赤羽君がいつの間にか床に散らばせていた対先生弾で少しだけどダメージを受けていた。汚い。

 

 手段も、他の人の小テストを邪魔してもいいと思ってるその精神も。特に君の横の人なんてむっちゃビビってテストに集中できてないからね!? 私のことだけど。

 

 「何度でもこーいう手、使うよ。授業の邪魔とか関係ないし。それが嫌なら…………俺でも俺の親でも殺せばいい」

 

 「……」

 

 珍しく押し黙る殺せんせーの服に、赤羽君がぐちょりとジェラートを付けた。殺せんせーは人間と同じように食べ物を口から消化してるのかな。皮膚からでも吸収できたりするんだろうか。あと鼻がないっぽいけど匂いを何で感知できるんだろう。隠れてるんだろうか。

 

 「でもさ、その瞬間から。もうだーれもあんたを先生としては見てくれない。ただの人殺しのモンスターさ。あんたという『先生』は、俺に殺された事になる」

 

 殺せんせーへじゃない。『先生』に対する憎悪。それが、痛いほどに伝わってきた。

 

 「はいテスト。多分全問正解」

 

 軽々と言ってるけど……もう、すごいなぁ、ホントに。浅野君にも匹敵する学力かもしれない。

 

 殺せんせーも問題の難易度に対して解答スピードと正確さ、あと多分戦略性に驚いていた。プラスして大切なジェラートが見るも無残な姿になったダメージもあるんだろうなぁ。

 

 「じゃね、『先生』〜。

 明日も遊ぼうね!」

 

 遊ぶ、という言葉の意味が。どうしようもないほどに、この場の全員が理解できただろう。

 

 少なくとも私には。『殺せる』という赤羽君の絶対の自信とともに、理解できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤羽君も去り、小テストも出し終わってゆきちゃんと帰れる、と思ったけど。赤羽君の散らばした対先生弾を片してからか。

 

 「ごめんねゆきちゃん、手伝わせて」

 

 「大丈夫、私が手伝いたかっただけだから」

 

 このE組用校舎では基本的な掃除はそこまでやらず、暗殺のためにこうして対先生弾が床に散らばってる時なんかに自主的に掃除する。

 

 一応隣の人がやったことだし私が掃除するかと思ったはいいけど、ゆきちゃんまで手伝わせちゃったのは悪いなぁ。

 

 まあそこまで弾数は無かったし軽く掃いて集めて終わりだ。

 

 「よし、終わり。じゃあ今日は帰る?」

 

 「うん、帰りましょ」

 

 

 

 てくてくともう歩き慣れた山道を歩けば、潮田君と杉野と三村君がいた。よく一緒に帰ってる面子だ。

 

 しかし運がいいな、杉野。愛するゆきちゃんと会えるとは。ゆきちゃんと一緒に帰れる機会をあげた私に感謝して欲しい。

 

 「やあやあ杉野君、渚君、三村君。奇遇だね」

 

 「あ、富森さんと神崎さんも。ごめんね、カルマ君の後始末してもらっちゃって」

 

 「いいよ、自分たちからやったしね。どうせ誰かが掃除しなけりゃいけんのだから」

 

 ゆきちゃんもコクリと首肯したのを見て渚君は安心したようだった。いい子じゃのう。かわええ。

 

 赤羽君と渚君は友達なのかな? そういえば本校舎でも同じクラスだったな。

 

 「ありがとう。カルマ君も普段はあそこまでじゃないんだけど……停学前のことが尾を引いてるのかな」

 

 「うーん、赤羽君のことはよくは知らんけど随分と余裕がないように見えたな」

 

 「僕もあんまり詳しくは知らないんだけど、どうも僕たちの担任だった先生と一悶着あったらしくて」

 

 「へー、そうだったのか。初耳だぜ」

 

 まあこれ以上他人(赤羽君)の話を聞くのも悪いだろう。

 

『赤羽(カルマ)のことなら調べつくしてンが、情報いるカ?』

 

 「赤羽君のことは置いといてさ、渚君的には最近の暗殺はどういう感じかな?」

 

 マキナの言葉を完膚に無視すれば、ヘッドホンからすすり泣く声がしたと思うとプツンと音が途切れた。まあマキナはいつも私のことを見てくれてるし、必要になったらまた話しかけてくるから大丈夫だな。うん。

 

 「うーん、やっぱり僕達は暗殺については素人だからまだまだ全然ダメだけど。でも、できればE組の皆で殺れればいいと思うな」

 

 「そうだね。みんなで、か。それが理想的だよね。……賞金は減っちゃうけど。三村君はわりと暗殺に積極的だけど、どう?」

 

 「うーん、どうせただの暗殺じゃ無理だし、協力してやっていきたいな。ほら、俺だったら映像編集とかちょっと得意だし。どうにか暗殺に役立てられないかな。渚の言う通りみんなでできることを合わせていけばいけると思うんだよな~」

 

 杉野の為を思ってそのまま渚君と三村君とばかり話していたが、どうやらあのヘタレはゆきちゃんと上手く話せないようだ。

 

 流石に話すぐらい頑張ろうぜ。杉野ォ…………

 

 

 

 

 「じゃ、じゃあね、神崎さん。また明日!

 ……渚と三村と富森もじゃあな」

 

 「うん、また明日。杉野君」

 

 杉野に私と渚君がむっちゃおまけ扱いされたが、まあ恋は盲目と言うしそれだろうか。だがそれで流してやるほど大人ではないので今度嫌がらせでもしてやろう。

 

 「バイバイ、杉野。

 僕さ、神崎さんと富森さんも教室でよく話すことなかったから、今日は話せてよかったよ。じゃあ、三村も、また明日」

 

 「おう、じゃあな、渚。杉野もまたな。神崎さん、富森さんもさよなら」

 

 「グッバイ、三村君、杉野、渚君」

 

 「ありがとう、渚君。さようなら」

 

 渚君だけ改札に向かってる。あれ、杉野たちもゲーセン? ま、いいや。

 

 「さてゆきちゃん、ゲーセン行こうぜ!」

 

 「はいはい。ふふ、私も久しぶりに行きたかったの」

 

 渚君が神崎さんってゲーセンとか行くんだ……とボソッと言ったのが聞こえた。まあ私はいつでもヘッドホンしてるし、ゲーセンに行ってても全然違和感ないのだろう。

 

 言っておくが私はせいぜい携帯ゲーム機でちょっと遊ぶくらいだからね。ゆきちゃんに言われてもネトゲとかは怖くて手を出しにくいし。いや、ゲーマーではあると思ってるけどゆきちゃんに比べるとだいぶライトだわな。

 

 「ははっ、渚のやつ、すっかりE組に馴染んでるな」

 

 「これはもう戻ってこれないかな〜」

 

 本校舎の男二人組が何かごちゃごちゃ言っている。渚君の元クラスメイトだろうな。しかし器の小ささが伺える。

 

 「しかも聞いたか? ゲーセンだってよ、ゲーセン。流石E組! ゲーセンに行くような余裕があるなんて」

 

 じゃあ聞くがお前らはゲーセンに一回も行かんというのか。A組のようにずっと塾通いなのか? 違うよな。だったらこんな駅でのんびりしてないでさっさと塾通い行ってるよなぁ!

 

 E組が馬鹿にされるのはいつものことだが、自分はともかく他の人が、特に友人がけなされるのはどうにも苛つく。渚君も萎縮して言い返せてない分、余計に。

 

 乗り込んで私が言い返そうか、と思ったけど不要っぽい。赤羽君が悠々と渚君たちに近づいて行ってる。暴力沙汰で停学になったって噂だし腕っぷしに自身があるんだろうな。明らかにインテリヤンキーの風格を漂わせている。当事者たちは気づいてないけど。

 

 「まあともかく、死んでも行きたくねぇよな、エンドのE組なんて」

 

 「じゃあ死ぬ?」

 

 ガシャンと響いた音はびんが壊れた音。

 

 赤羽君がやったようだ。まったく、片付けはどうするのだか。

 

 間近でびんが叩きつけられた二人組はさっきまでの馬鹿にした様子から一転、酷く怯えているようだった。

 

 「騒ぎになるとめんどくさそうだね。まあ赤羽君が居れば大丈夫でしょ」

 

 あまり根拠のない言葉だけど、まあ何か起きても本人の責任だし。頑張れ、絡まれた男子二人。ちょっぴりだけ同情するわ。

 

 「行こ、ゆきちゃん」

 

 「う、うん……」

 

 

 

 

 ゆきちゃんはその天使の様な風貌とは裏腹に、ゲームでは鬼神のごとく強い。

 

 ……結論から言おう。全敗しました。

 

 楽しかったからいいけどね!

 


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