ハイスクールD×D ~それは現か幻か~ 作:DDX
朧の戦闘技術・・・・どうかその目をお確かめください。
それでは本編どうぞ。
「イッセー。幻術使いの戦い方ってのを見せてやる。よく見てなよ」
朧が私の方を振り返りながら、ニコリと微笑みを浮かべて言ってきた。その表情は、到底これから戦おうという者ではなかったけれど・・・・・なぜかとても頼もしく感じる。
朧はきっとレイナーレに勝つ。だから私は今後のために朧の戦いをしっかりと見ていようと思ったその瞬間・・・・朧の身体を光の槍が突き刺さった。
「がっ・・・・はっ」
あまりにも呆気なかった。光の槍はいとも容易く朧の胸を貫通し、傷口からは血が溢れ出す。
「ふふふふ・・・・あははははははっ!馬鹿じゃないの!戦闘中に敵から目をそらすからそうなるのよ!」
朧を見ながら高笑いをあげるレイナーレ。
確かに朧の行動は軽率であった。戦闘中によそ見をするだなんて戦闘経験ほぼ皆無である私でも愚かだと思う。
だけど・・・・なぜだろう?
部長達は朧が槍に貫かれるのを見てすぐに臨戦態勢に入ったというのに・・・・私も何もする気にならなかった。
それは悲しみに暮れているからではなく・・・・・なんというか・・・・なぜだかはよくわからないけれど朧は無事だと直感的に私にはわかっていたからだ。
そしてそれは案の定であった。
「随分と嬉しそうに笑うじゃないかレイナーレ」
朧がそうレイナーレに告げると同時に・・・・スゥーとその体が透けていく。
そして朧の体が完全に消えると同時に、別の場所から朧が姿を現した。
「俺は・・・・このとおり無傷でピンピンしてるぞ?」
「なっ!?馬鹿な・・・・どうなってるの!?」
朧が消えたことにか、それとも朧が突然現れたことにか、あるいはその両方にか・・・・レイナーレの表情は驚きに染まっていた。
「どうなってるもなにも、俺は幻術使いだぞ?バカ正直に敵の目の前に居続けるわけがない」
「まさか・・・・さっきのあれは幻?」
「イグザクトリー。さっきのは俺が作り出した幻だ。すごくリアルだっただろ?本物の俺はこっちさ。気持ちのいいくらい綺麗に騙されてくれたねレイナーレ」
よほど自分の策に嵌ったレイナーレが滑稽に思えたのか、くくっと愉快そうに朧は笑う。
「くっ・・・・馬鹿にするな!」
そんな朧に、怒りを顕にしたレイナーレが光の槍を両手に掴んで朧に向かって投擲する。
だが、その槍が朧の体に触れたその瞬間・・・・・またしても朧の身体は消えてしまい、別の場所から朧が出現した。
「ごめんさっきの嘘。本当の俺はこっち。いや、あっち?そっち?あれかな?それかな?一体どれかな?」
朧が指差す場所に、朧がどんどん出現していく。
一人、二人、三人、四人、五人・・・・・私の視界に数えるのが億劫になるほどの数の朧が現れる。
「さて問題。本物の俺はどこにいるでしょうか?」
「ッ!?このぉぉぉぉぉ!!」
もはや理性など吹き飛んでしまったのだろう、レイナーレはめちゃくちゃに槍を投げまくる。
狙いもなにもあったものではないけれど、それでもいくつかは何人もの朧の身体を貫く。
先程と違って、今度は槍に貫かれても朧の身体は消えたりはしなかった。しかし、槍に貫かれても傷一つないことからその全てが幻であることが容易にわかった。
「残念、どれも幻だ。本物はこの中にはいないよ。だって本物は姿をくらませてるから・・・・さて、もう十分槍は投げただろう?今度は・・・・・こっちの番だ」
幻の朧達は一斉に銃を構え、レイナーレに向ける。
「ははは・・・・・あはははははは!撃ってみなさいよ!どうせ全部偽物なんでしょ!だったら撃ったて無駄よ!」
どうせ全部幻なんだからと、狂ったように笑うレイナーレは余裕そうに挑発してみせた。
・・・・正直よくはわからないけど、レイナーレのその余裕は愚かだと思った。
「それじゃあ遠慮なく・・・・・ごめんなレイナーレ」
朧達は銃の引き金を引いた。
バン、という炸裂音が響くと同時に・・・・・レイナーレに体中に無数の傷が生じた。
「ッ~!!」
声にならない悲鳴をあげ、その場に崩れ落ちるようにして倒れるレイナーレ。
「嘘・・・・なん・・・で?全部・・・・偽物の・・・・はず」
痛みのせいか、言葉がたどたどしくなりながらも、どうにか絞り出すように言い切ったレイナーレ。
そんなレイナーレに、いつの間にか一人になっていた朧が近づきながら告げる。
「偽物だから攻撃は当たらない・・・・その考えは愚かだとしか言えないね。そもそも俺のこの銃、そこから放たれる弾丸は全て幻なんだぞ?すべての攻撃が本物でも偽物でもあるんだからな」
すべての攻撃が本物でも偽物でもある・・・・・正直あまり頭のできに自信のない私は朧の言っていることはよく理解できなかった。なんだか複雑というか・・・・ややこしいし。
だけど・・・・これだけは確信をもって言える。
朧は・・・・・敵に回すと絶対に厄介だ。
「俺の攻撃に対処しようというなら直接体に当たらないようにするしかない。それに気がつけなかった時点でジ・エンドなんだよ。やはりお前は・・・・・幻術使いの恐ろしさをわかっていなかったようだな」
倒れるレイナーレのすぐ傍に朧は腰を下ろす。
そして・・・・・片手でレイナーレの身体を起こし、その頭部に銃口を突きつけた。
「チェックメイトだ」
レイナーレの頭に銃口を突きつけながら俺は告げる。できる限り冷酷に聞こえるように、残酷に聞こえるように・・・・酷く冷めた声色で。
「い・・・や。しにたく・・・ない。しにたくないよぉ・・・・・ゆるしてよぉ」
まるで小さな子供のように涙を流しながら、俺に許しを請うレイナーレ。
そんな姿にさえ・・・・俺は劣情を催しそうになってしまう。
だけど・・・・・それでもやめるわけにはいかない。
「すまないなレイナーレ。君のことは本当に好みだ。だけそ・・・・それでもイッセーを殺し、苦しめた君を許しておくことはできない。だから俺は・・・・君を殺す」
「う・・・・あ・・・・」
恐怖からか、とうとうまともに口を聞けなくなってしまっている。
そんな姿にも愛おしさを感じると同時に・・・・いたましさと、心苦しさも感じてしまう。
だけど・・・・・
「・・・・・気休めにもならないかもしれないけれど大丈夫だよレイナーレ」
俺はイッセー達には聞こえないよう、レイナーレにだけ囁く。
「君を殺すのをやめることはできない。だけど・・・・・後でちゃんと生き返らせてあげるからね」
「・・・・え?」
俺の言葉に疑問の声を上げるレイナーレ。
それとほぼ同時に俺は・・・・・引き金を引き、レイナーレの頭に幻の弾丸を撃ち込んだ。
一瞬ビクリと体を震わせた後、レイナーレは一動きを止めてしまう。
レイナーレの命の灯火が・・・・・消えた瞬間だった。
「・・・・・終わったよイッセー。レイナーレは死んだ」
レイナーレの体を極力優しく地面に横たえさせながら、俺はイッセーにそう告げた。
「本当に・・・・死んでのか?」
「ああ、死んだよ。間違いなくね」
「でも・・・・・今撃ったのって幻の銃弾なんだよな?それで死ぬことってあるのか?」
どうやらイッセーは幻の弾丸で本当に死ぬのかどうか疑問を抱いているらしい。そしてそれはグレモリーとその眷属達も同じらしく、俺を怪訝な表情で見つめている。
「疑い深いなぁ・・・・・確かに打ち込んだのは幻の弾丸だ。実際にはレイナーレは脳天を撃ち抜かれたわけではない。それ以外の傷だって存在しないものだ」
俺はパチンと指を鳴らす。それと同時に幻術を解除した。
先程までレイナーレの全身にあった銃で撃たれた傷は、全て跡形もなく消え去った。
「だからこのとおりレイナーレは無傷さ。だけどな、それでもレイナーレ自身が幻だと理解していながらも、本当に撃たれたと脳が錯覚してしまっているんだ。だから頭を撃ち抜かれたから死ぬと錯覚してしまい・・・・そのとおり死んだんだよ」
たとえ幻だろうと、脳が錯覚してしまえばそれは本当になってしまう。それが俺の幻術において恐ろしく、悍ましいところだろう。
「信じられないなら自分達で確認するといい・・・・いや、その必要はないか。これがその証拠だ」
レイナーレの体から、淡い緑色に光が出てきた。それはレイナーレがシスターから奪った神器であった。
俺はその光を手に取り、イッセーに渡す。
「こいつはレイナーレがそのシスターから奪った神器だ。レイナーレが死んだことで開放されたんだろう。ほら、これを彼女に返してやりな」
「で、でもアーシアはもう・・・・」
イッセーはシスター、アーシアを見やる・・・・・神器を抜き取られたことによって息絶え、固く目を閉じるいる彼女を。
「・・・・確かにその子は死んだ。だけどなイッセー・・・・お前だって一度死んだんだ。それなのにここにこうして生きているのはどういう事なんだ?」
「え?」
「・・・・あなた、
「ええ。回復能力を備えているその子には
俺はグレモリーに頭を下げて頼み込んだ。
イッセーのことを思っての事はもちろんだが・・・・・俺は彼女をみすみす見殺しにしてしまった。だから・・・・・彼女には生き返ってもらいたい。
外傷がないから俺がやりたいところだが・・・・・今の俺ではレイナーレを生き返らせるのが精一杯。だからグレモリーに頼るしかなかった。
「・・・・いいわ。もともとそのつもりだったもの」
グレモリーは紅のチェスの駒・・・・僧侶の駒を取り出し、アーシアの胸に置いた。
「部長、それは?」
「これは僧侶の駒よ。あなたに説明するのが遅れたけれど、爵位持ちの悪魔が手にすることができる駒の数は
「それで・・・・・私と同じようにアーシアを生き返らせるんですか?」
「そうよ。僧侶の力は眷属の悪魔をフォローすること。回復能力を持ったこの子はうってつけだわ。前代未聞だけどこのシスターを悪魔に転生させてみる」
そう言うと、グレモリーの体が紅の魔力で覆われる。
そしてグレモリーが呪文を唱えると駒はアーシアに取り込まれ、同時にイッセーの手にあった神器もアーシアの体に入る。
程なくして・・・・アーシアの顔に生気が戻り、静かだが確かな寝息が聞こえてくる。
「これで彼女は生き返った。しばらくすれば目を覚ますでしょうね」
「アーシア・・・・良かった」
アーシアが生き返ったことに喜ぶイッセーは、涙を流しながらギュッとアーシアの体を抱きしめた。
「これにて一見落着・・・・だな。めでたしめでたし」
「ええ、そうね・・・・・それじゃあ、そろそろ色々と聞かせてもらおうかしら?」
グレモリーの刺すような視線が俺を射抜く。イッセーを除く他の眷属達も俺を見ている・・・・木場に至っては剣を構えていた。
「・・・・怪しいのはわかるし警戒されるのも当然だとは思いますけどそこまで露骨だと俺悲しくて泣いちゃいますよ~。シクシク」
「「「しらじらしい」」」
全員にジト目を向けられた。しかもイッセーにまで。解せぬな。
「解せぬな・・・・・まあ、わざとだけどさ」
「・・・・ねえイッセー、彼はあなたの親友なのよね?いつもああなの?」
「イッセーくんも苦労してるのね」
「・・・・・同情しますイッセー先輩」
「あはははは」
グレモリーとその眷属全員がイッセーに同情の視線を贈る。
「重ねて解せぬな。それはないですよ皆さん・・・・じゃあ、そういうことで」
「待ちなさい。まだ質問に答えてもらってないわよ?」
おう。やっぱりダメか。まあわかってたけどさ。
「・・・・仕方がない、か。わかりましたよ。ちゃんと包み隠さずお教えします」
まあ、嘘だけどな。
「だけど・・・・それは明日の放課後、オカ研の部室でってわけにはいきませんか?ただの人間である俺には夜更しは辛いんですよ・・・・・さっきのレイナーレとの戦闘でくたびれてしまいましたし。幻術をあそこまで使い続けるのって疲れるんですよねぇ」
これも嘘だけど。実際そこまで疲れてないし。それに現在進行形で幻術使ってるし。
「・・・・明日ちゃんと話してくれるのね?」
「約束しましょう」
話はする。嘘は交えるけどね。
「・・・わかったわ。なら明日の放課後、部室に来て頂戴」
「了解。それじゃあ俺はこれで・・・・っと、そうだ。グレモリー先輩、一つお願いがあるんですけどいいですか?」
「なにかしら?」
「レイナーレの死体・・・・・あなたの力で消してください」
俺はそれを指差しながら言う。
「どうしてかしら?」
「・・・・どうにも殺しただけでは憎しみが収まらないんですよ。死体とはいえこのままここに彼女がいたら・・・・俺が何をしでかすかわからないんです」
もっともらしい理由をつけてグレモリーにそう頼む俺。もちろんそれも嘘だ。
本当の理由は・・・・・カモフラージュのため。
「死者を冒涜するようなことをするのは気が引けるんですよ・・・・だからお願いします」
「・・・・仕方ないわね。イッセー、あなたはそれでいい?」
「私・・・ですか?」
「一応とはいえ、彼女はあなたの恋人だったのでしょう?」
・・・・まあ、イッセーにそれを聞くのは当然のことか。さて、どうするイッセー?
「・・・・お願いします部長」
数秒考えた後、イッセーはグレモリーに言う。
「わかったわ」
グレモリーの魔力がそれに放たれる。強力なその一撃によって、跡形もなく消し飛ばされてしまった。
まあ、正確には跡形もなく消し飛ばされてしまったように見えると言ったほうがいいのだが。
「・・・・ありがとうございますグレモリー先輩。それでは今度こそ俺は失礼します。また明日な、イッセー」
俺はその場にいる一同に踵を返して、引いとまずその場をあとにした。
さて、ここまではほとんど計画通り
本番はこれからだ・・・・
レイナーレ・・・・すぐに生き返らせてあげるよ
朧の計画は彼の思惑通りに進んでおります
あとはレイナーレを生き返らせて・・・・・
果たしてレイナーレがどんな反応を示すか
それでは次回もまたお楽しみに!