向こうはまだロンドン軍縮条約すら締結されてないという…。私は基本スマホのフリックで書いてるので少し遅いですがのんびり見守って頂けるとありがたいです。
昭和17年5月28日 横須賀
「ミッドウェー島攻略船団は十一航戦千歳、15駆親潮・黒潮と共にサイパンを出発したようです!」
「間もなく二水戦と合流予定です」
相次ぐ報告が司令部に届く。
「ついにか」
「今回は何ハイ沈めるかな」
「まだ始まってませんぞ」
「そうでしたな」
士官の中にはすでに結果の事を話している者もいる。それを諌める士官も言葉に棘がない。誰も勝ちを疑っていないのだ。
司令部の中心にある大部屋には太平洋とインド洋の地図が広げられている。そのあちこちに赤青の旗が建てられ、いつくも駒が置いてある。西太平洋は赤い旗ばかりであった。
艦娘の登場により連合艦隊司令部は陸に上がった。艦娘とは特殊な電波でやりとりしているため、わざわざ艦上にある必要を失ったからだ。各戦隊や艦隊司令部などは艦娘と接続されているが、そのトップである
盤上では各地にあった駒がある地点へ集中し始めている。
「
「なんとか間に合ったか」
「クェぜリンではなく本土から直接向かわせて正解でしたね」
連合艦隊司令長官山本五十六のつぶやきに戦務参謀渡辺安次が応じる。二人共目線を上げずに会話している。二人は将棋を差しているのだ。
日本史上最大の作戦は和やかな緊張感のない雰囲気のまま進んで行った。
同年6月5日07時50分 横須賀
「報告します!
「なんだと!?」
「馬鹿な」
機動部隊の護衛艦利根からの入電で司令部は突如大混乱に陥った。開戦から常に無敵だった南雲機動部隊の主力が一気に壊滅したのだ。そうなるのも当然だ。
先任参謀の黒島亀人などは涙を浮かべて机を叩いている。
しかし、山本五十六は「そうか」とだけ言って将棋の盤から目を話さなかった。
対戦相手の渡辺はその落ち着きぶりに言葉を失った。この緊急時にどうして平静でいられるのだろうか。だが次の一手を差した手が少し震えているのを見て、長官としての器の大きさと人間味を感じたのだった。
同時刻 ミッドウェー島北西部
「司令官。電文を送ったぞ」
重巡利根は辺りを見渡した。
数時間前までは意気揚々としていた艦隊は今やズタボロであった。
加賀と蒼龍の全身が炎に包まれており、手に持っているはずの飛行甲板は無くなっている。4駆、10駆が懸命な消火活動を続けているが火は収まりそうも無かった。
赤城は飛行甲板と機関部が燃えているだけだが、発艦作業中に攻撃を受けて弓をふっ飛ばされていた。
「翔鶴と瑞鶴がいれば…」
と、つぶやくのみで航空戦の指揮を取れそうもない。
(……利根、二航戦に敵空母攻撃を命じてくれ。俺らは司令部が長良に移乗し終えたら北方に退避だ)
「よし、分かった」
第八戦隊の阿部司令官は利根に命ずる。
赤城の被弾で一航艦司令部が機能していないため、第八戦隊が指揮を取っている。
利根から命令を受けた飛龍だが、実はその前から飛龍は敵空母との距離をつめていた。
(……我今より航空戦の指揮をとる!飛龍、行くぞ)
「うん。多聞丸、攻撃隊を発艦させるよ」
飛龍はそう言うと零戦8、九九艦爆18を飛ばす。
「小林隊…仇を取って来て!」
飛龍が攻撃隊を放っている間、筑摩5番機から米空母の報告が入る。
「筑摩!5番機に攻撃隊を誘導させるのじゃ」
「わかりました」
水偵の捨て身の誘導のお陰で
攻撃隊を誘導した筑摩5番機はヨークタウン直掩機に追われて逃げる内に第16任務部隊も発見。
さらに駆逐艦嵐が拾い上げた雷撃機の妖精から米艦隊の規模やハワイには修理中の戦艦しかいない事を聞き出して4駆司令有賀幸作に報告。
敵の陣容は徐々に明らかとなった。
同日10時15分
利根は周辺にいた筑摩、長良、霧島、榛名を呼び寄せて索敵機を出させた。
飛龍も第二次攻撃隊(零戦6、九七艦攻10)を放つ。その中には尾翼が黄色の九七艦攻の姿もあった。
「友永隊、頼んだわよ」
(……飛龍、第一次攻撃隊が帰って来た。収容してくれ)
「うん」
第二次攻撃隊と入れ替わるように第一次攻撃隊が帰還する。
数機が撃墜されているが他の空母の艦載機も増えている。
同11時30分 飛龍第二次攻撃隊
「機長。敵空母発見です」
「あれは小林隊が攻撃したヨークタウンじゃないか?」
「しかし煙も上がってません」
「いや、甲板が穴だらけだ。さっきのヨークタウンに違いない。もう少し探そう」
「分かりました」
操縦士は不満そうである。しかし友永はよく見ていた。健在なならば直掩機を上げるはずだが対空砲火のみだ。表に現れない何かが起きていると考えたのだ。
実際ヨークタウンはそれどころでは無かった。発電機に被害が出ており、航空戦を飛ばすどころでは無かったのだ。もし直撃したのが
やがて友永隊は別の輪形陣を見つける。今度は無傷の二空母を抱えており、もう一つの機動部隊と分かる。
「手前の一隻に攻撃を集中させる」
「分かりました」
友永は風防をずらして手を伸ばすと信号弾を放つ。
零戦二一型は速度を上げて攻撃隊を追い抜き直掩機を足止めする。その間に攻撃隊は二つに分かれて手前のホーネットを挟む形になる。直掩機と対空砲火をくぐり抜け、4発の魚雷を投下した。
左舷に2発が命中し、大爆発を起こした。
その煙は空戦中の戦闘機まで届くほどだった。
投弾した友永は上昇に移っていたが爆音に思わず振り返る。上を見上げていたホーネットはくるりと反転すると水底に沈んでいった。
「機長。突入しなくてよかったのですか」
「うむ。今回は飛龍に生きて帰って来いと言われてな」
「そうでしたか。では今回は恥を晒して海に不時着しますよ。燃料ぎりぎりなので」
「すまんな」
たった2発の魚雷で沈んだホーネットだが、実は数日前に三潜戦の魚雷攻撃を受けていた。その後すぐに猛烈な爆雷攻撃を受けて伊号潜水艦は全滅したのできちんとした報告が出来ず、日本側は失敗したものと考えていた。だが、その影響を受けて見えない所にダメージが入っていたのだ。
同13時50分 第二航空戦隊
飛龍は第二次攻撃隊を収容した。撃墜されたり、収容出来ても再攻撃は不可能な機体も多かった。
「これで一対一だ。これで勝てるし、悪くても相討ちだ」
「だが飛行機が少なすぎる…」
二航戦司令部は意見が割れていた。
猛将として知られる山口多聞も攻撃を躊躇している。その原因は搭載機の少なさだ。
零戦6
九九艦爆5
九七艦攻4
十三試艦爆1
これだけで空母を沈められるかどうか。しかも第一次攻撃隊の艦爆は修理が必要ですぐには出せない。
「赤城さん。無事な機体は残ってない?」
「ごめんなさい。全て誘爆してしまって…」
「そう…」
巻雲が海上に不時着した友永機を拾い上げ、飛龍も飛行甲板に友永機を護衛していた加賀隊の零戦を着艦させた時、米艦載機が攻撃を仕掛けて来た。
「
エンタープライズのドーントレス艦爆は急降下すると擲弾した。飛龍は難なく回避するが次の隊は太陽を背にして飛び込んで来たので対応が遅れ、飛行甲板に被弾してしまう。木張りの甲板は瞬く間に炎に包まれる。
しかし機関は無事であり30ノットを出せるようだ。機関科の妖精も無事と分かった。これが実際の船だったら連絡が行かずに全滅したと思われたかも知れない。
榛名も爆撃を受けたが小破止まり。第二次攻撃隊のデバステーター艦攻が利根・筑摩を狙うも全て回避した。
同16時 第一航空艦隊
三空母の炎上は続いていた。
特に加賀と蒼龍はひどく、何度も爆発が起きている。
「飛行甲板の火、消えないね」
蒼龍は飛龍の方角を見ながら脇にいる野分に言う。
「赤城さん。あなたは諦めないで。まだ大丈夫よ」
「加賀さん…」
加賀は悟ったような目で赤城を見た。
赤城は現状を受け止められずに加賀を励ます事は出来なかった。
二人が生還する可能性はすでに無いに等しかった。
三人の消火活動をしていた第四駆逐隊もそれが分かっており、ただ作業をし続けるだけだった。
同時刻 横須賀
「報告します!蒼龍が爆沈しました」
「加賀が沈没しました…」
「飛龍が炎上中!」
次々に入ってくる報告に再び沈痛な表情を浮かべる参謀達。先程の飛龍の戦果も轟沈報告でかき消される。
「そうか。またやられたか」
「一航艦の司令部が長良に移りました!」
「長官。どうされます」
「南雲は帰って来るだろう」
「そうではなく、作戦です」
MI作戦は中止か継続か。その決断を求められた山本はそれには答えず、こう言った。
「赤城と飛龍を見捨てるな」
「え?」
「なるべく持ち帰るんだ。
「は!」
山本自身もこれは負け戦であると分かっていた。しかし、赤城と飛龍の状態、AL作戦部隊の状況によっては逆転の可能性もあるかも知れない。博打好きの山本はそう考えていた。
同18時頃 第二航空戦隊
攻撃が収まった頃、第八戦隊の利根・筑摩、第10駆逐隊による消火活動が行われる。もう日が暮れようとしており、片道攻撃を考えなければ空襲が来る事はない。
そう思っていた矢先、1機の航空機が近付いて来た。敵機かと身構えるが音が軽い。よく見ると旧式の九六式艦爆だった。
鳳翔の搭載機である。飛龍は笑顔を作って手を振る。
艦爆はバンクすると引き返して行った。
「私、沈むのかな」
(……うむ、どうだろうな。だが俺は最期までお前と一緒にいるから心配するな)
「ありがとう多聞丸」
こうして長い一日が終わろうとしていた。
少しずつ歴史は変わっていく。この夜に各司令部は作戦の判断を下す事になる。
日本の運命を変えたミッドウェー海戦からです。大分駆け足ですが、きちんと書くとそれだけで一つ小説が出来ますからね。
基本的には史実通りですが、少しずつ違う所があります。具体的には傍点の部分などです。
この少しずつの違いが効いてきます。
島風はまだ建造中で進水すらしていません。
でも日本が勝った世界と簡単に言うのもどうかなぁと思いまして。