遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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さ~い。
さて、今回はお待ちかね、あいつらのエピソードだ。
なに? 別に待ってない? 気にするな。大海の趣味だ。
てなわけで、行ってらっしゃい。



第七話 求愛、そして仇愛

視点:アズサ

 結局、梓があのまましばらく泣いた後、そのまま普通に解散になった。梓の過去をカミングアウトしたり、それがキッカケで大泣きしたり色々あったけど、それでも梓は特に変わることなく、何事もなく普通にしてる。

 まあ強いて言えば、泣き止んだ後、涙とは別の理由で顔を真っ赤にしながらあずさちゃんに謝ってたのが面白かったけど。

 後は、そういうことがあったせいで、梓が好きな人が誰か、星華姉さんにばれちゃったことくらいかな……

 

 ただ、その代わりってのも変だけど、十代の様子がおかしくなった。

 どうしてかは分からない。何でも、エドとの決闘が終わった後、全部のカードが白紙にしか見えなくなっちゃったらしい。それで決闘ができなくなって、すっかり落ち込んじゃったってわけ。

 その後、準がレッド寮に住むために改築してた部屋が完成して、そこに、明日香ちゃんが住むことになった。理由は、教頭と臨時校長の二人が変なクラスを作って、そこでアイドル決闘者にされるのを嫌がったかららしい。お兄さんの吹雪さんは賛成して、明日香ちゃんとユニットを組もうとしたから余計に嫌がったらしいし。

 ちなみに、同じブルー寮で、ミス決闘アカデミアの梓や星華姉さんも、吹雪さんは誘った。まあ、あの星華姉さんがそんなの受けるわけないし、梓も断ったけどね。その時のやり取りが、ちょっと面白かったよ……

 

 

「はあ……アイドル要請クラス……?」

「そう。ちなみにアイドルというのが何かは分かるかい?」

「そのくらいは私にも分かります。要するにゴ○エや慎○ママのような、歌って踊る人達のことでしょう?」

「そうなんだけど……」

 相変わらず梓のチョイスは渋いな……

 それで、本人は嫌だって言ってるのに、適正を調べるとかで、せっかくだからって梓に歌わせてたんだけど……

 

「うぅー やまざきアウト エンジェ~……」

「まーどーのーそーとー きらきらきらりー なーがーれーぼーしーがー……」

「コォ~ンにぃ~ うまぁ~れた~ このいぃ~のち~……」

「きみが~ のぞむなら~ (梓!) Haaaaaaa!!」

「先生 花子の水着、凄いっすね? だいじなとこだけ えのぐでぬってたああああ!!」

「ガーナの サッカー かいちょーのなはー ニャホ ニャホ タマクロー」

「あんなぁ~たぁ~んのぉ~ たんめぇ~に~ まも~り~ とおしぃたぁ~ん……」

「あ~あ よーせよ アミーゴ テロテアリイーナ きみさーえ わーすれーて……」

「ためいきが でーるほど おしりをけーえってー」

 

「……」

『……』

 

 梓の好きな歌のセンスを垣間見て、考え直したみたい。

 どういうわけかこういう、マニアックで、色んな意味で変わった曲ばっか好きになって覚えちゃうんだよなぁ昔っから。歌唱力は抜群なんだけど……吹雪さんは全部分かったかな……?

 

 で、結局その後で、明日香ちゃんが吹雪さんと決闘して、勝った。

 勝ったのは良かったけど、そのすぐ後で、十代がいなくなっちゃった。

 おまけに、それを探してた準の様子までおかしくなっちゃって。

 どうおかしくなったかっていうと……

 

「……これが、今話題の、美白、というやつですか……」

『美白ってこういうことだっけ?』

「多分違うよ……」

 僕と梓のやり取りに、翔君からそう言われた。

 どういうわけか、昨日まで黒い制服着てたのが、真っ白に変わってたんだ。

 美白じゃなきゃ、何でこんなことになったのか。

 態度とかも変になってるし、さっぱり分からない。

「準さん……」

 梓も、尊敬してた準の急変に、そう、呆然としただけだった。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:外

 時刻は深夜。ほとんどの人間は寝静まっているであろう時刻。

 それは、決闘アカデミアでも同じ。

 生徒の中には、寝る間も惜しんで勉学に励む者もいるかもしれない。教師の中には、寝る間も惜しんで仕事に忙殺されている者もいるかもしれない。

 だが少なくとも今確実に言えることは、今この部屋に住む生徒は眠っている。そして、そんな部屋を前にしている者は、眠ってはいなかった。

 彼は窓に手を掛けると、何かを細工し始めた。そして、それを終えたらしく、手を止めると、閉じていたはずの窓の鍵が、カチリ、という音と共に開かれた。

 その後は、なるべく音を出さないよう、ゆっくりと、窓を開く。

 そこから更に、音を立てないよう、部屋の中へ、ゆっくりと入っていく。

 そのまま、この部屋の主の元へ、ゆっくり、ゆっくりと、忍び足で近づいていく。

 分かっていた通り、部屋の主は寝息を立てていた。そして、彼の目的である、主のデッキも、枕元に置いてある。

 ニヤリ、と、彼の口元に笑みが浮かんだ。そして、その笑みが消えないまま、そのデッキに手を伸ばし……

 

「ドロボおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 ガンッ!!

「はんっ!!」

 

 そんな絶叫によって、この部屋の主である、丸藤翔は目を覚ました。

 慌てて体を起こし、眼鏡を掛けた時、そこには、自身の精霊であり、決闘のパートナーであるマナが拳骨を握り、そして、自身のデッキに手を伸ばしながら、頭頂部を膨らませて気絶する男の姿があった。

 

 

 

視点:翔

「丸藤翔君……今月だけで、あなたのお部屋に生徒が忍び込んだのは、何人目ですか?」

「四人目です……」

 朝になった後、目の前に座ってるイエロー寮の担任教師の、樺山先生にそう答える。

 あの後部屋を調べたら、窓ガラスがガムテープを張った状態で割られてて、そこから鍵を開けて中に入ってきたらしい。

 入ってきたのは、ブルー寮の男子生徒だった。それで、手足とか縛ったところで、目を覚ました時……

 

 ―「何でお前なんかが、ブラマジガールのカードを持ってるんだよ!!」

 ―「何でって言われても……」

 ―「イエローで、元レッドのお前なんかより、ブルーのエリートである俺の方がブラマジガールにふさわしいんだ!! 今すぐ俺によこせ!!」

 ―「えぇー、ダメだよ。大事なカードなんだからー」

 ―「ふざけんな!! イエローな上に、元レッドなんかのお前より、ブルーのエリートな俺の方がブラマジガールにふさわしいに決まってるだろう!!」

 ―「いや、ふさわしいって言われても……」

 ―「お前なんか、元レッドのただの落ちこぼれのくせに、お前なんかが!!」

 ―「落ち着いてって。さっきから同じ台詞しか言ってないし……」

 ―「うるせー!! 俺はブルーだぞ!! お前はイエローの元落ちこぼれだ!! それ以上に言うことあるのかよ!! いいから早くブラマジガールのカードをよこせ!!」

 ―「いや、だからさ……」

 ―「黙れ!! 聞きたくない!! よこせ!! この落ちこぼれ野郎!!」

 ―「……」

 ―「よこせえええええええええええええ!!」

 

 そんな感じで喚くことしかしなくて、結局途中で怒ったマナがまた気絶させちゃって、その後先生達に来てもらって、連れていってもらった。

 この人の前の三人も、同じ理由で僕の部屋に忍び込んだ人達だったりする。まあ、全員マナが撃退してくれたんだけどね。

 マナが持てるのは知ってるけど、いくらレアカードだからってここまでやるかな……?

 

「しかし、正直私も不思議に思っていました……」

 と、話してると、樺山先生の声色が変わった。

「はい?」

「ご存知の通り、『ブラック・マジシャン・ガール』のカードは、デザイン性の高さとは引き換えに、そのあまりの汎用性の低さから生産数が非常に少なかった希少なレアカード。現存している枚数がゼロではないでしょうが、少なくとも現段階で存在が確認されているのは、伝説の決闘者、武藤遊戯のデッキに入っているものが唯一だと言われています」

「……」

「そんな幻のカードを、一体どこで入手したのか。ずっと機械族デッキを使っていたのに、突然『ブラック・マジシャン』を主体にしたデッキに切り替えたのも、それがキッカケなのでは……?」

「……」

 影は薄いけど、こういうところは何気に鋭いんだよねこの人。

 けど、どう説明したものかな?

 ブラマジガールの精霊が僕を選んでくれてやってきた。そんなこと、普通の人が信じるわけないものな……

「……まあ、それは聞かないでおきましょう」

 しつこく追及はしないんだ。そこはありがたいけどね。

「しかし、それだけ希少でデザイン性の高いカードだけに、数あるカードの中でもトップクラスに人気のあるカード。それを欲しがる生徒は多い。特に、ブルー寮の生徒は、今までの生徒達のように、我の強い生徒も大勢おります。そんな人達の前で、ブラマジガールのカードを持っている限り、同じことは何度でも起きるかもしれません」

「ですね……」

 

『翔さん……』

 

 ……

 …………

 ………………

 

「そんなわけで、しばらくこっちに住まわせてほしいんだけど……」

 今、僕がいるのはレッド寮の、兄貴の部屋。そして今は、剣山君の一人部屋だ。

「はぁ……丸藤先輩も、苦労してるザウルス」

「うん。本当は、この部屋の家主である、兄貴にも言うべきなんだろうけど……」

 その兄貴は今、行方不明だからな……

「俺は全然構わないけど……でも、どうしてレッド寮ザウルス? どう見てもセキュリティとかはイエロー寮の方が充実してるドン」

 まあ、それは確かにそうなんだけど……

「イエロー寮より、ここの方がブルー寮から遠いし、セキュリティは確かに甘いけど、この部屋は二階だから侵入は難しいだろうしね。それに……」

「それに?」

「その……この寮には、心強い味方もいることだし……」

「ドン?」

 と、剣山君の質問に答えた直後だった。

 

 コンコン……

 

 ドアを叩く音がした。

「はーい」

「僕が出るよ」

 剣山君が返事した後、そう言いながら立ち上がって、玄関まで歩く。

「……」

 何ていうか、既に見知った気配がするんだよね。

 まあ、それを踏まえつつ、ドアを開けると……

 

 ムニュリ……

 

「翔ー!!」

 うわー、やっぱりかー……

「ドン……!」

「もぉ~、来てくれたんなら会いに来なさいよ~」

「ご、ごめん。ちょっとわけあって、しばらくこの部屋に寝泊まりさせてもらうことになったんだ……」

「マジで!? だったら今夜はご馳走しなきゃね」

「だ、ダメだよ、僕が来たからって、食事を依怙贔屓(えこひいき)しちゃ……」

「いいのいいの。理由がどうあれどうせ豪華な方がみんな喜ぶんだから」

「そ、そう……じゃあせめて、久しぶりに僕も手伝おうかな……」

「本当? 嬉し~!!」

「あー……」

 何か、もう慣れちゃったけど、やっぱカミューラの胸、柔らかい……////

 

『……』

 

 マナ、お願いだからそんな顔で見ないで。怖いから……

 

「心強い味方……なるほど……」

 

 剣山君も、呆れてるのか憐れんでるのか分からないけど、そんな目で見ないで……

 

 バタンッ

 

「翔君がここにいると聞いて!!」

 て、またドアがいきなり開く音がして、底に立ってるのは……言わなくても分かるよね。

「あ、ももえさん……」

「翔君。お住まいにお困りでしたら、ぜひ私のお部屋に来て下さいまし」

 ……え?

「いや、それはちょっと……」

「あんたねぇ、いくらなんでも、性別の壁ってやつを考えなさいよ」

 カミューラはさすがに常識的な発言をしてる。

「ご心配なく。翔君なら、女子の制服を着ればばれませんわ!」

 そう言って取り出したのは、ももえさんの制服より、ちょっとサイズが小さな……

「て、嫌だよ!! 女装とか!!」

「大丈夫です!! 学園祭の時にもエクスのコスプレの似合っていた翔君なら、この制服も必ず似合いますわ!!」

「なるほど、それは同意ね」

「カミューラ!?」

「翔さんの女装と聞いて」

「マナまでなに実体化してるのさ!!」

「けど、だからと言って翔を渡すわけにはいかないわね。翔はレッド寮で、私と一緒に暮らすんだから」

「剣山君とですけど……」

「ダメです! この女子制服を着た翔君を私のお部屋にご招待して、その後で色んな服を着せ替えして頂くのです!」

「なに、いろんな服って……?」

「色々とご用意しております。梓さーん」

「はーい」

 と、なぜだかももえさんの呼び掛けに、梓さんが現れた。

「な、なんで梓さんがここに?」

「ももえさんからご依頼を受けまして、こ、こ……仮装衣装をご用意させていただきました」

「コスプレ、ね」

 と、言ったところで、梓さんは、手に持ってた衣装を広げ始めた。

「まず、こちらが『白魔導師ピケル』、こちらが『黒魔導師クラン』、こちらが『サイレント・マジシャンLv4』、こちらが『ファイヤー・ソーサラー』、こちらが『踊る妖精(ダンシングフェアリー)』、こちらが『ダンシング・エルフ』、こちらが『氷結界の舞姫』、こちらが……」

「多いよ!! エクスだけでも十分なのになにその種類の豊富さ!?」

「ご安心下さい。『カードエクスクルーダー』の衣装も忘れず用意しました」

「そういう意味で言ったんじゃないから!!」

「渋い所で『炎の暗殺者』、色気をお望みなら『ハーピィ・ガール』もありますよ」

「色気出し過ぎだよ!! 露出度の高さまで忠実過ぎるし! ほとんど裸だし!」

「翔の、『ハーピィ・ガール』……////」

「ブッ……あれを、翔さんが……////」

「マナは鼻血を流さないで! 着ないから! ていうかエクスの時も思ったけどその衣装どこから持ってきたの!?」

「どこからって、全て夜鍋しました」

「手作り!? それ全部梓さんの手作り!?」

「ええ。ももえさんからご依頼を受けまして……」

「依頼を受けたからって全部作ってあげたの!?」

「もちろん、タダではありません。報酬はあずささんの生写真三十枚です」

「ちょ、ももえさん、それは内緒のお約束のはず……////」

「あ、すみません、つい。うふふ……」

「うふふじゃなくて!! あずささんの写真をいつ録ってたのかも気になるけど、梓さんもそんなので釣られちゃダメだから!!」

「そんなの……だと!!」

「うわー!! ごめんなさい!! あずささんのこと悪く言ったわけじゃなくて!! この場合のあずささんは平家あずささんのことだけど!! その平家あずささんの写真を貰ったからって水瀬梓さんは簡単にそういうことしちゃいけないって意味で!!」

「ならば良いです」

「良かった……いや良くないからちっとも!!」

「どれも翔さんに似合いそうですー////」

「翔……萌え////」

「マナもカミューラも釣られるんじゃなーい!!」

「どうですか? 翔君をこちらに渡してもらえば、翔君のコスプレが見放題ですわ!!」

「誰がそんな格好するかー!! 勝手に決めるんじゃなーい!!」

「く……う、む……い、いや、でも……いや、やっぱり翔は渡せないわ!」

 カミューラ……そう言ってくれるのは嬉しいけど、凄く悩んだよね、今……

「翔と一つ屋根の下……それだけは譲れないわ!」

「ぐぬ……既にイエロー寮でご一緒しているというのに、これ以上を求めるとは贅沢な!」

「わ、私も……」

『普段からベタベタくっつける精霊は黙ってなさい!!』

「うぅ……」

 あ、マナが引いた……

「翔を渡すわけにはいかないわ。どうしても連れていきたきゃ、私に決闘で勝つことね」

「望むところですわ。この決闘で勝った方が、翔君のお住まいを提供致します」

「いいわよ。この際だから、私が翔の嫁だってことはっきりさせてあげるわ」

「ぐぬぬ……翔君の恋人は私なのに……」

「翔さんのパートナーは私です!」

『だから精霊はだぁーっとれ!!』

「くぅ~……」

 

『……』

「もう、なにこれ……ていうか、僕の意思は……?」

「丸藤先輩、大変ですドン……」

「お二人……いえ、三人とも、翔さんを思うお気持ちは同じです。悪気は無いのですよ」

「それは、分かってるけど……」

『ただ、コスプレ衣装を大量に夜鍋した梓は、悪意の塊だよね……』

「おや? そういうアズサこそ、似合いそうだと自身の舞姫の装束や、『ハーピィ・ガール』を提案したのではありませんでしたか?」

「君かアズサ……」

『さ、さあ、何のことやら……?』

「二人とも、誰と話してるドン?」

 

 そう言えばもう一つ、気になることがあった。

「梓さん」

「はい」

「その、聞き辛いんだけど……カミューラを、刺したことって……」

「……あの後、誠心誠意謝って、どうにか許していただけました」

「そっか。よかった……」

 それ以上は、何も聞かないでおくことにした……

 

 

 とまあ、そんなこんなで、レッド寮前に移動して、二人が向かい合って立った。

 ちなみに僕の両隣には、剣山君と梓さん、あと、透明な状態で、マナとアズサもいる。

 

「あんたのデッキは聞いてるわよ。可愛らしい獣族を多用するデッキなんだって? そんな聞くからに弱っちそうなデッキ、私の新デッキで片付けてあげるわ」

「お生憎様、こちらもデッキは大幅に改良積みですので、吠え面掻かせてあげますわ」

「いいわよ。じゃあ翔、合図」

 

「え? 僕? えっと、じゃあ……決闘開始ぃぃぃいいい!」

 

『決闘!!』

 

 

 

 




お疲れ~。
梓の好きな曲、読んだ人にも好きな人はいるのだろうか?
まあいいや。今回は長くなったのでひっさびさに分割させました。
決闘は次だから。
それまでちょっと待ってて。

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