今回、メインキャラが一人増えます。
誰かはまあ、タイトル見りゃピンと来る人もいるのではなかろうか。
そんです。あの人です。ちなみにこの小説向けに若干キャラ改変してますゆえ、そういうのが不快って人は注意してくんなさい。
じゃあ、行ってらっしゃい。
視点:外
『それではこれより、毎年恒例、ミス決闘アカデミアコンテストを開催致しまーす!』
『わあああああああああああああああああああ!!』
会場の中央に立つ、そんな司会の生徒の言葉で、集まった生徒達は一気に歓声を上げる。
これから起こること、現れる人々に期待を寄せ、胸躍らせる。祭りを前にすれば、誰もが始まりに期待を寄せ、最後まで楽しむことを願うもの。
もちろん、中には例外もまた然り。
「なあ、去年もやってたけど、結局何なんだ? このイベント」
そう、隣に座る翔や万丈目に尋ねる十代の顔には、疑問と、退屈が浮かんでいた。
「何って、ミス決闘アカデミアだよ。ずっとアカデミアのホームページで投票募集してたのに、知らなかったの?」
「だって俺、パソコン触らねーし」
「十代貴様、俺達生徒全員の投票で一位が決まるのだぞ。俺達が天上院君に票を入れずして、どうするというのだ?」
「興味ねー……」
十代が不満の声を出した時、隣の席から、肩を組まれた。
「まあそう言うなよ。共に我が愛する妹の活躍を見ようじゃあないか。十代君」
「吹雪さん……」
満面の笑みでの言葉だったが、それは、笑みという名の脅迫のようにも思える、そんな笑顔だった。
「しかし残念だなぁ。十代君が明日香に票を入れたなら、明日香も喜んだかもしれないのに」
「え? 何でそれで明日香が喜ぶんだよ?」
「さあね」
と、吹雪が悪戯な微笑みを浮かべた時、
「ちなみに……」
と、翔の逆隣から、別の声が上がった。
「翔君は、誰に票を入れたのでしょう?」
「僕?」
尋ねてきたももえに対して、翔は、若干言い辛そうに視線を逸らしながら、
「僕は……一応、ももえさんに……」
「きゃー!」
消え入りそうな声にも関わらず、ももえは感動に瞳を滲ませ、翔に抱き着いた。
「嬉しいです翔君! 最上の誉れですわー!!」
「そ、それはよかった……」
『翔さん! どうして私に入れてくれないんですか!?』
「いや、どうしてって……投票できるのはアカデミアの生徒だけだよ……」
『がーん……』
「つまり、お情けで入れてあげたってことね」
「む?」
と、今度はその後ろから、カミューラの声。
「カミューラ、いつの間に後ろの席に……」
「気配を消して近づくことくらい、ヴァンパイア一族にとっては造作もないことよ」
「レッド寮のお仕事は?」
「無論、完璧に全部済ませてきたわ」
「へー……」
と、カミューラの登場と共に、ももえ、そして、普通なら見えないはずが、なぜか二人には見え、声さえ聞こえているマナの、三人分の視線が、再び翔を中心にぶつかり合った。
(暑苦しい……)
そんな、暑さと闘う翔の隣で、十代達は、会場に視線を戻していた。
『それでは早速、全校生徒からの投票で決まった、上位五名の生徒の皆さんに、下位から順にご登場願いましょう』
司会からの登場の宣言。そして、ミスコンにも関わらず、「上位五名の『女子生徒』」と言わなかったその司会に、疑問を持った者は果たしていただろうか。
そして、それも構わず、司会の男子生徒が手を振り、会場出入口を指さした。
『まずは、第五位……』
こうして、第五位、第四位という、選ばれただけあって美しい容姿を備えた女子生徒が、司会からの簡単な挨拶と共に現れては、集まった生徒達からの歓声と拍手が轟き、それに包まれながら会場の中心に並び立っていく。
『第三位。二年生女子の中で、そしてアカデミア全体でも屈指の実力を誇り、昨年度のミス決闘アカデミアでは、見事得票数二位を獲得した、二年生、アカデミアの
「天上院くーん!!」
「輝いているよー! 我が愛しき
気だるげな表情を見せる明日香の登場と共に、万丈目と、ビデオ片手の吹雪が叫び、更には他の生徒達も大いに声を上げ、盛り上がる。
その後、二位の女子生徒も登場した所で、最後に、
『さあ皆様、お待たせしました。いよいよ、得票数第一位の生徒……』
そして再び、会場を沈黙が包む。
『その美貌は、あらゆる宝石を霞ませるかの如く。その姿は、我ら大和民族全ての象徴の如く。そして、その存在は、全ての美の原点にして頂点。それではご登場願いましょう! 全校生徒から過半数の票を獲得した、第一位! 二年生、凶王、水瀬梓さん!!』
『きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!』
『わあああああああああああああああああああああああああああ!!』
男子からも、女子からも、割れんばかりの歓声の声と、拍手の音が上がった。
(何と大仰な紹介だ……)
……
…………
………………
視点:梓
時間は少々遡ります。
「なるほど話は分かりました。要するに、この決闘アカデミアで最も美しい女子生徒が誰なのかを選ぶ。これがその、み、『みす決闘アカデミア』という催しなのですね」
「その通りです。言わば決闘アカデミア限定の『ミスユニバース』ですね」
「……みすゆにっとばす?」
「エッ? あ、いや、ミスユニバースです」
「みす……失敗のミスですか?」
「エッッ? あ、いや、美容を競うコンテストです」
「病気を競う?」
「エエッッ? いや、美しさを競うコンテストです」
「ああ、最初にそう言っておりましたね。すみません」
「いえいえ、こちらこそ。はは……」
「ふっふっふっふっはっひっふっへっほっ」
(なにそれ……)
「まあ、冗談はここから……いえここまでとして」
(……よかった。ここまでか……)
「一つどうしても解せないのですが」
「何でしょう?」
「……なぜそのような催しに、男子である私が選出されているのでしょう?」
現在私は、オベリスクブルー専用決闘場前にある、控室におります。
この控室、個人の決闘の際はあまり使われることの無い部屋なのですが、今のようの大勢の人達が待つ場面では重宝される場所なのだそうです。
それで、私がここにいる理由が、今言った通り。
私以外には、今話していた、『みすこん実行委員会』なる、マイクを持ち、眼鏡を掛けているイエローの男子生徒と、その他男子生徒が数人。そして、明日香さんと、後は女子生徒が三人おります。
「このミス決闘アカデミアでは、全校生徒達の投票で人気が競われます。その得票数で、あなたが上位五名に選ばれましたのでここに」
「上位五名って……男子の私が、女子の催しでですか……?」
ポン……
と、色々言いたいことがある中、肩に手が置かれました。
「諦めなさい、梓。このコンテスト、票が入ったら出たくないって言っても無理やり出されるものだから」
「そんな……というか、去年はありませんでしたよね? このような催しは」
「去年はあなた、いなかったでしょう?」
「ああ……」
記憶に無いと思っていたら、私がちょうど消えていた時期ですか。
「ですが、それでも女子の催しでしょう。何度も言いますが、私はこれでも男子ですよ」
「分かってるわよ。みんな、そのこと承知であなたに票を入れたんでしょう」
「えー……」
そう、声を出しところで、明日香さんは去っていきました。
そりゃあ、顔や見た目に関して今更とやかく言う気はありません。
ありませんが、女子限定の催しにですよ。一男子の私が選ばれるというのは……
『……』
(どうしました? アズサ)
なにやら、怪訝な表情を浮かべているアズサを見ながら、そう問い掛けます。ちなみに声を出さず語り合う手段を、つい最近覚えたところです。
『……ムカつく』
(なにが?)
『このアカデミアの女子生徒達は、普段なに食ってるのさ……』
(なにくってる?)
聞き返すと、明日香さんを含む、四人の女子生徒を、ビシッという音と共に指差し、
『どいつもこいつも、全員なに食ったらこんなおっぱいになるんだよ!!』
(はあ……おっぱい……)
確かに四人とも、大小の差はあれど、細めなお腹とは裏腹に胸元が突き出ておりますが。
『ムカつく……こちとら元が小っさい上に精霊になったもんで永遠に成長が無くなったってのに……』
まあ確かに、膨らんで見えるのは服装の問題で、実際には密着されてようやく分かるくらいの大きさしかありませんが。服を脱げば……はっきり言って、ほとんど平らですし。
『だぁーれがまな板だ! どぅぁーれが貧乳だぁ!』
そこまで言っておりません。あと平然と心を読まないで。
(ふむ……ここは決闘アカデミアですし、よほど運動不足と不摂生が祟ったのでしょうね)
『……へ? どういうこと?』
聞き返してくるアズサに、答えます。
(乳房とは要するに、脂肪の塊でしょう?)
『……まあ、そうだね。身も蓋もないけど……』
(だからきっと、この決闘アカデミアの食事は、食べて脂肪になったお肉と栄養が、普通ならお腹回りに溜まるところを、何かしらの作用で胸元に溜まっているのですよ、きっと。それに加えて、決闘ばかりで運動をしないせいで、結果ああなったのでしょうね)
『何それ、食べたいんだけど、僕も』
(羨むことはありませんよあんなもの。見るからに邪魔で動き辛そうですし)
『……いや、そら邪魔って言っちゃえばそうなんだろうけど……』
(要するに四人とも、お腹回りの代わりに胸元が肥満体になってしまった悲劇の人達です。そんな人達を、羨むなど酷なだけですよ)
『そ、そうかな……』
(そうですよ。運動していれば痩せられるお腹まわりとは違って、乳房となった胸元の脂肪を燃焼する手段というものは存在しません。敢えて言うなら、外科手術を行えば脂肪を取り除くことは可能ですが、乳房に傷を残さないよう形を形成することは非常に困難だと聞きます。それだけの苦難と不便を強いられる乳房に、あなたは羨望を懐くのですか?)
『……そう言われると、平らでよかったかも。それに、何だか四人とも気の毒に思えてきた……』
(でしょう)
『……』
「あれ? 明日香さんに女子の皆さん、どうかしましたか?」
「……なんだか今、誰かにすごく、余計なお世話なことを言われた気が……」
「望まぬ同情というか……それも、ものすごく、失礼なことを……」
「胸がずきずき痛む……胸元が苦しい……大きくて、ごめんなさい、みたいな……」
「……?」
『……あれ? けどさ……』
(はい?)
『その考えでいくと、あずさちゃんは、このアカデミアで一番デブってことになるよね?』
……
(ああ)
『ああって……今気付いたの?』
(そっかー。あずささんは、俗に言うぽっちゃり系の女性だったのか~////)
『ちょ、梓?』
(胸元以外が引き締まっている上に、とても身軽で力強く動くものだから気が付きませんでした~//// 服の上からでは分かり辛いですが、確かに、昨年に比べても胸元の辺りが太っていってますし、比較しても他の女子生徒以上に太っていますものね~////)
『梓ー』
(確かにあの人、私と違って食べることが好きそうですし~//// 生涯に一度でいいから、彼女に私の手料理を……きゃー!//// )
『……』
「クシュ……」
『どうしたあずさ? 風邪か?』
「いやぁ、多分違うと思うけど……」
「では、そろそろ出番なので、皆さん会場前へ移動願います」
と、先程のイエローの方の声が聞こえたので、移動を始めました。
……て、結局私、男子なのに女子の催しに出ることになるのですか。
はぁ……
……
…………
………………
視点:外
そして現在に至り、明日香以上に乗り気でない中、取り敢えずの笑顔を浮かべて歩き、会場の中心に立った。
『それではこれより、こちらに並ぶ得票数上位五名の皆さんには、ミス決闘アカデミアを決定するための様々なイベントをこなして頂きます!』
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
(え、票数だけで決まるのではないのですか?)
(ええ。これから色々あるの。かなり面倒だから、覚悟した方がいいわよ)
梓と明日香の耳打ちが終わった直後、司会が再び叫ぶ。
『それではまず、こちらの五名によるデモンストレーションを行って頂きます』
「で、でもん、でもん、す……?」
(つまり、何でも良いから得意なことを一つやって見せろってことよ)
(ああ、隠し芸……)
(……ええ、そう。それ)
『ではまず、得票数第一位、水瀬梓さんから、前に出てきて下さい』
その言葉で、梓は四人の前に出て、観客達を見据える。
(ここにいる人達の半分以上が、私に票を入れた、と、いうことですか……)
『それでは、お願いします!』
梓が頭痛を感じる中、また司会の声が響き、同時にまた、観客達が盛り上がりを見せる。
「いや、お願いしますて……隠し芸を期待されても……」
シャキン……
「私にできることなど……」
ズバババ……
「精々が……」
バコ……
「この程度しか……」
ズバババババ……
「ありませんよ」
ガンッ
「キャーッチ!!」
(よし)
「この程度でアカデミア一など、おこがましいことです」
『……』
『(ポッカーン……)』
「……ごめんなさい。わたくし、今回辞退致しますわ」
「私も。勝てる気がしない……」
「私は元々興味が無かったけど、以下同文……」
『ちょ、ちょっと、皆さーん!!』
明日香を含む、去っていく三人の女子生徒に対し、司会は悲鳴を上げる。
だが、会場の鉄製の床を、刀でブロック状に削りだし、それを、瞬く間に『梓』という形に掘り出し、それを観客席へ、ゴルフの如く鞘で打ち飛ばした。
そんな梓の姿を見れば、対抗心を燃やせという方が無理だろう。
『いや、違うから、このコンテストそういうイベントじゃないから、ちょっと……!』
「あ~あぁ……みんな帰っちゃったね……」
「そりゃあ、目の前であんなリアルマ○ンクラフト見せられちゃなぁ……」
「天上院君……」
「水瀬梓君……相変わらずパワフルだなぁ……」
「ちょっと、梓さんの掘った文字、私にも持たせなさいよ……」
「へ?」
飛んできた文字を上手いことキャッチした、あずさに、女子生徒の一人が小さく叫んだ。
だが、あずさが聞き返すと、途端に恐怖から視線を逸らしている。
周囲を見ると、ほとんどの女子生徒が同じような表情を浮かべていた。
「え? 持ちたいの?」
そう聞き返しても、返事は無い。ただ、チラチラとあずさを見る視線が、答えだった。
「持ちたいなら、持ってもいいけど……」
そう答えながら、あずさは『梓』の『立』の部分を持って左手にぶら下げ、近くにいた女子生徒に差し出した。
「……」
女子生徒は、怪訝な顔を見せながらも、その文字を愛おしげに見つめ、両手に触れた、その瞬間、
「ぬお……!」
あずさの力が緩んだ瞬間、両手に一気に重量感が伝わってくる。それに驚愕し、手を離してしまった。
「ほらー。これ見た目と違って重さが二十キロくらいあるからさぁ」
『二十キロ!?』
「うん。わたしじゃなきゃキャッチできなかったよ。梓くんもそのこと分かっててわたしの方へ飛ばしたんだろうし」
(二十キロの鉄の文字を片手で……)
(ちょ、上下にポンポン投げないで、危ない……)
『そもそもどうして床なんか削るんですか!?』
「そこに床があるから……?」
『全然理由になってないし!!』
想定外の事態に、司会は先程までの態度を一変、叫んでいた。そんな司会に、梓は刀を両手に、困惑の表情を浮かべるばかり……
「それより、この状態でどうやって病気を競えば良いのでしょう?」
『美容だっつってんだろうが!! 病気の競い方なんざ知るか!! 勝手に風邪でもエボラ出血熱でも鳥インフルエンザでも女子妄想症候群でも発症しとけーゃ!!』
(最後のは病気ではなく、少女漫画の題名……)
口調からは完全に礼儀が消えつつ、それでもひとしきり叫んだことで落ち着いたのか、息を整えながら、観客席を見渡した。
『とは言え、確かに、彼以外が辞退したということで、これ以上コンテストを続ける意味は無くなってしまいました』
その言葉で、梓を含む、会場の生徒全員の表情に陰りが生まれた。
『ですので、誠に……誠に遺憾ではありますが、今ミス決闘アカデミアは、水瀬梓さんのものと……』
「待て」
その、静かながら、威圧的、且つ、会場中に響く声が、それ以上の司会の言葉を遮った。
「まだ一人、残っているぞ」
そして、その声に、全員の視線が一点に集まる。
『あ、あなたは、得票数二位の『
「星華さん?」
梓の疑問の声に、『小日向星華』と呼ばれた、黒髪のセミロング、梓よりも十センチは上背のある女子生徒は、梓に視線を向けた。
「直接話すのはこれが初めてか? 三年の、小日向星華だ」
「あ、はい、始めまして……」
名乗られたので、挨拶を返し、会釈をする。すると、司会が口を挟んできた。
『彼女は一昨年、そして昨年のミス決闘アカデミアにおいて、共に一位の二連覇を成し遂げた女子生徒です』
「ほぉ……ということは、現段階で一番の女子生徒、ということですか」
「の、ようだな。私はこんな祭りに興味は無いのだが、周りが勝手にそう決めているから、そのようにしている。大した意味も無い称号だ」
そう、自嘲気味に言ったものの、その目はすぐに、真剣なものへと変わった。
「だが単純に、何事にも敗けたくない、という気持ちは、興味以上に強い」
それだけ言って、先程梓がそうしたように、前に出る。
「次は私だな」
『え? ……あの、こう言っては何ですが、梓さん以上のことが、何かできるのですか……?』
「そうだな……おい、水瀬梓」
不遜な態度で、梓に呼び掛ける。梓が返事を返したのを見て、
「私にも一つ、先程のように床を削り取ってもらえるか?」
「は……?」
「私にはとてもあそこまではできんのでな」
「……分かりました」
しようとしていることが理解できないまま、言われた通り、
シャキン……
刀を取り出し、
ズバババ……
刀を振り、鉄製の床をブロック状に削り出し、
バコ……
刀に突き刺して持ち上げる。
「これでよろしいでしょうか?」
「ああ。そのまま動くなよ」
そう、言うが早いか、星華は両手を、腰の辺りに触れ、触れたと思った瞬間、両手を前に突き出す。そして、
ダダダダダダダダダンッ
ダダダダダダダダダンッ
空になったそれを、中身を取り出しながら空中に放り投げ、再び腰から黒い長方形を取り出し、それらの持ち手にセットし、
ダダダダダダダダンッ
ダダダダダダダダンッ
カランカラン……
「まあ、こんなものか」
『……』
『(ポッカーン……)』
全員が黙り込んでいる中、
『あのー……』
と、司会の男子生徒が、星華に近づいた。
「なんだ?」
『その、両手に持ってるのって、本物……』
「改造空気銃だ」
『……いや、だって、実際に銃声してますし……』
「改造空気銃だ」
『
「改造空気銃だ」
『硝煙臭が……』
「改造空気銃だ」
『マズルフラッシュ……』
「改造空気銃だ」
『マガジンもリロードして……』
「改造空気銃だ」
『……』
「改造空気銃だ」
『……分かりました』
納得できないながらも、そう返事を返した。
「……ふむ。これは中々……」
だが、言葉を失う者達を尻目に、梓は一人、刀に突き刺した石を見つめる。
「名前の字数と
「……それでも、計三十四発でここまでできるとは、素晴らしい力です」
刀に刺さる、不恰好ながらもはっきり『セイカ』と読める三文字を見ながら、梓はそう星華を称えた。
「さて、これだけやったんだ。私もまだ敗退というわけではあるまい?」
星華はそう、司会の男に話し掛ける。
『……いや、だから、これそういうコンテストではなくてですね……』
「どの道残ったのは二人だけだ。どちらがアカデミア最強の女か、はっきりさせようではないか」
「いや……だから私は、男子だと……」
「性別などこの際どうでもいい。ここで決めるべきは、どちらがより強いか、ということだ。違うか? 水瀬梓」
「……」
『え、ちょっと……』
ブンッ
「キャーッチ!!」
「……男子である私は、こんな催しなどどうでもいいと思っている。しかし、このまま黙ってその座を明け渡したところで、納得はしないのでしょうね」
「無論だ。むしろ興味が無いと点で言えば意見は一致している。差し出されたところで突き返すし、はっきりした形で決めるまではとことん付きまとうぞ」
「……仕方がありませんね……」
『お二人とも……!』
司会の言葉を無視しながら、二人は互いに、後ろへ下がり、その間合いを計る。
互いの持つ距離、大よそ十メートル弱。
(この距離……)
(この距離は……)
(『外しようが無い……!』)
それを確信しながら、互いに構えを取る。
星華は腰に手を据え、足は肩幅に広げ、いつでも抜き、同時に撃てる体制に。
梓は左手に刀を持ち、右手を柄の前に、そして、姿勢はいつでも走り出せるよう、爪先に体重を乗せて。
『いや、だから!! このコンテストはそういうのじゃなくて!! ちょっと……!?』
そんな声も、今の二人には聞こえていない。
互いに、動けば間違いなく相手を仕留められる、絶対の間合い。
その中で、相対する敵の動きの、一挙種一頭側、髪の揺れ、表情筋の痙攣すら見逃すまいと、視線をぶつけ合う。
(奴は刀を抜くと同時に、0.1秒以内に間合いを詰めて私に斬りかかるだろう。勝つためには、それよりも早く銃を抜き、かわす暇さえ与えず当てる他ない……)
(単純な抜き身の速度なら私の方が早い。とは言え、撃たれてからでは既に手遅れ。引き金を引く
互いに思案の方向は真逆ながら、望む結論は同じ。
相手を倒すために。自分が勝利するために。
そのためには、相手よりも、より早く……
「……」
「……」
『……』
そんな二人の空気に圧されたか、直前まで騒いでいた司会も、歓声を上げていた観客席の生徒達も、誰も、一言の声も上げることができなくなってしまった。
何か一つでも声を、息遣いさえしてしまった瞬間、一気に爆発してしまいそうな、そんな緊張感に包まれ、圧されて、沈黙を強いられる。
目の前で膠着し、睨み合う二人の姿に、会場全体が選択、或いは、強制された行動が、沈黙、という停滞。
そして、そんな中で、
(ちょっとあずさ、どうにかしなさい!)
(ええ!? わたしが!?)
観客席まで歩いてきていた明日香から、あずさは耳打ちされていた。
(他に止められる人いないでしょう! 何とかして二人を止めて!)
(う~……)
「……」
「……」
キッカケは、
ツー……
ピト
誰かが流し、床に落ちた、あるかないかの汗の音。
それが、引き金となり、
……ダッ
ガチャッ
梓が走り、星華が抜く。
星華が構え、引き金に指を伸ばし、梓が踏み込み、刀の柄に手を掛けた……
その、瞬間だった。
「ストーップ!!」
「っ!!」
「っ!!」
ガキッ
ガンッ
抜かれた刃と、構えられた銃。それを、声を上げ、手甲で受け止めながら、向かい合う二人の中心に立ったのは、
「あずささん……」
「貴様……」
ジャキ……
ガチャリ……
梓は刀を、星華は銃を、それぞれあずさの首元、米神に当てる。
「なぜ邪魔をした?」
「理由によっては、いかにあずささんと言えども……」
「~~~……」
もちろん、あずさとて武人の端くれとして、真剣勝負の邪魔をすることと、邪魔をされること、その両方の失敬は理解できる。まして、あれほどの緊張感の籠もった勝負に水を差した以上、それ相応の報いは覚悟しなければならない。
だが、いかなることにおいても、時と場合、というものは存在する。
ガンッ
ガンッ
「っ!」
「が!」
あずさは二人に(手甲を外した)拳を一発ずつお見舞いし、
「あのね! これは命を懸けるような戦いじゃないでしょうが!」
そう、叱りつけた。
「いや、現に私達は命を……」
「だーかーら!! ちょっと二人ともそこに正座!!」
「なぜだ!?」
「いいから座って!!」
叫びながら、二人の頭を押さえつけ、そのまま無理やり地面に正座させた。
「あのね! これはミスコンであってねぇ……ミスコンていうのは可愛い女の子を決めるコンテストのことでね……」
と、正座する梓と星華を前に、あずさは延々、言葉を浴びせ続けた。
これはミスコンであって戦争ではないこと。
競い合うのは強さでなく可愛さであること。
ちょっと血が騒いだからって簡単に命を粗末にしちゃダメ。
そんなことを、大勢の生徒が見ている中で、問い質し、説き伏せる。
彼女の仲間以外に普段、『統焦』平家あずさを恐れる生徒達は、そのほとんどが強い二人を圧倒するあずさの姿に、変わらぬ恐怖を浮かべていた。
しかし、あずさの友人を含む一部の生徒には、「いやぁ、よく言ってくれた……」と、頷く者もままいる。
こうして、延々小一時間に渡り、二人を説き伏せたところで、
「分かった?」
「はい……」
「……」
「星華さんは?」
「……分かった」
「じゃあ、二人ともごめんなさいして」
「……ごめんなさい」
「済まなかった……」
「よろしい」
そして、満足したのか、あずさは再び観客席まで戻っていった。
『ふぁ……ではこうしましょう。どちらが強いか、決闘で決定する、ということにしましょう』
欠伸をしながら、ほとんど投げやりな口調での司会からの提案。それに、
「……ふむ」
「そうですね」
二人とも、納得と賛成を示した。
そして、互いに決闘ディスクを構える。
「この決闘に勝った方が、アカデミア最強の女子だ」
「私は男子です。ただ……決闘となれば、性別がどうあれ敗けるわけにはいかない」
そんな二人の闘志と、決定した決闘に、あずさの長いお説教にげんなりと冷め切っていた会場の空気が、再び熱を取り戻していく。
「星華さーん! 頑張って下さーい!」
「星華お姉さまー!」
「頑張れー!! 梓さーん!!」
「梓さーん!!」
互いに、会場全体からの声援を受けながら、二人とも、武人としてではなく、それ以上の本質、決闘者として。
その言葉を、叫んだ。
『決闘!!』
お疲れ~。
……真面目な話し、胸に溜まった脂肪って燃焼する手段はないものか?
脂肪が溜まった方が喜ぶ人が多数派なのは分かってるけど、大海的には下手なぽっちゃりより生活に支障ありそうで気の毒に見えるんだ。
まあそう見えるのは大海だけかも分かんないけど。
……とまあそんなところで、決闘は次話だから、ちょっと待ってて。