遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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第四話です~。
タイトル通りのお話しですのでそれ以上は言わない。
じゃ、行ってらっしゃい。



第四話 邪心経典

視点:梓

 夜は暗いのが常だ。暗い時間だから夜なのか、夜という時間だから暗いのか、それは誰にも分からない。

 だが、この場所は昼だろうが朝だろうが、夜ほどでなくとも暗い場所だ。

 当然だ。ここは見た目に反して光に包まれるような光景は無い。ただ陰鬱で、空気も重く、私も含めた、負の想念ばかりが漂う場所だ。

 ここに住まう魔轟神は光の神々だったらしいが、その神々のほとんどが死に絶え、何よりそれが邪悪に染まっている今、本当の意味での光など、こんな場所では望むべくも無いだろう。

 

 そして、そんな場所で私は、コウと共に明朝の準備を済ませた。

「これで良い」

 コウに命令し、攫っておいたハジメとカナエの二人。その二人を十字架に鎖で繋ぎ、磔にする。短い間とは言え、共に暮らし、家族と呼ばれた存在。それが、こんな形で幕を下ろそうとは、皮肉なことだ。

 どの道二人には術を掛けてある。明日の朝まで目を覚ますことは無い。それまで精々、今だけは良い夢を見ておくことだ。

 その二人を眺めた後、視線を上に向け、それ(・・)に目を向ける。

「……」

 嫌な見様(みざま)だ。いつまでも眺めていたくない。だが、あそこにある以上、この場所にいる限り、見ないという選択肢は難しいだろうな。

 それでも見たくないから目を背け、別の方向を見る。

「コウ」

 名前を呼ぶと、コウはいつも通り私の元へ。

 ふと気になった。コウは私と、もう一人の私、どちらを選んで私達の物になったのだろうな。私の力か、それとも、もう一人の私の……

 だが、今はこうして、私に従い私と共にある。今はそれが答えだ。

 

 コウの上に乗り、レイヴンの元へと戻った。

「準備はできたか」

「ああ。後は、貴様のやりたいようにやれ。私も、私のやりたいようにやる」

 レイヴンは相変わらず、笑うだけ。

 この男の思考は本当に分からない。結界を破り、魔轟神を森まで先導する。レイヴンに言われ、私がしたのはそれだけだ。

「だが、おそらく大勢の人間が生き残るぞ」

 魔轟神の数は圧倒的。武器を持ち、術も使える。だが所詮は命無き亡者。少し戦える人間ならば簡単に倒せる。そして、予想以上にあの里には戦える人間達がいた。そこへグリムロと、もう一人の私が戻った以上、全滅は望めまい。

「これだけやればもう十分だ。ここまで来れば、もはや人間への復讐などどうでも良いのだよ」

 どうでも良い?

「確かに、未だ人間への憎しみはある。だが、それも何千年も前のこと。周囲の魔轟神達がしつこく抱いていただけに過ぎない。私はとうの昔に、そんな感情は忘れてしまったのでね。人間が死のうが生きようが、どうでも良いことだ」

「どうでも良いのならなぜここまでの手の込んだことをする? レヴュアタンを殺した時点で、貴様ももはやここにいる理由は無いだろう」

「その理由は二つ。第一の理由は、蘇った魔轟神達を、本当の意味で葬るため」

 それが第一の理由?

「君も知っての通りだ。彼らは例え死んでも、その死体が朽ちない限り永遠に騎士として戦うこととなる。私達魔轟神は、生まれついての騎士なのだ。生も死も、全てを戦いに捧げるために生まれてきた。だからせめて最後は、彼らの憎むべき人間達と戦い、殺した後でその命を終わらせれば良い。それだけのことだ」

 随分と同族思いのことだ。だが、

「それが真の目的では無いのだろう」

「ああ。真の理由は、グリムロだ」

 やはり、そうか。

「グリムロだけは、どうしても私の元へ取り戻したい。そのために、彼女の舞姫としての居場所を奪ったのだ」

「貴様のような男がそこまで魔轟神一人に固執するとはな。理由は何だ?」

「君も、分かっているのではないか?」

「……ふん」

 下らない。

「まあ良い。とにかく、君には感謝しているよ。いつ終わるとも知れない、人間達への復讐などという愚望に協力してくれた。そして、君の目的が前提でもあるが、こうして私の目的のためにも動いてくれた。既に亡くした命だが、それでここまでの充足感に満たされるとは思っていなかったぞ」

「……」

 いつもと変わらない、笑みの表情だが、その笑みにはなぜか、偽りは見えない。

 真に感謝していると言うのか? この男が、私に。

「さて、朝が来るのを待つとしようか」

「そこで、貴様の望みは……そして、私の望みは叶うのか?」

「信じろ。今はそれしか言えない」

「……」

 

 ……

 …………

 ………………

 

「……来たか」

 白く光る朝日の中、それ(・・)の下に立ち、二人の気配を感じた。何度も近くで感じてきた気配を。その二人は、私達の前に現れた。

「梓さん……レイヴン……」

「ハジメとカナエは!?」

 アズサの姿をしたグリムロの質問に対し、私は指を刺して答える。

 廃屋と化した高層ビルの屋上。そこに、十字架に鎖で四肢を縛り上げ、磔にしてある。

「二人を返して!!」

「心配せずとも返してやる。そしてそれは、私を倒すことができれば、だ」

「あんたを、倒せば?」

 レイヴンはよほど嬉しいらしい。随分と楽しそうに話し掛けている。

「そうだ。グリムロ」

「グリムロ……」

「グリムロよ、いつまでそんな所にいる気だ? お前は魔轟神だ。人間という愚かな存在に変わったところで滑稽なだけだろう。こちらへ戻れ。舞姫から、巫女へと」

「……」

 初め動揺していたグリムロだが、一度下げて再び上げたその顔には、真の決意が籠っていた。

「僕は……私は決めた。私はもう、お前達の側には戻らない。お前達が人間に抱いた感情なんて、それを知らずに生まれた私にとっては、結局は無意味な感情でしかない。そんな私が僕に変わって、人間の感情と、心と、温かさと、弱さを知った。そして、そんな私を、僕として必要としてくれる人達がいて、私としても受け入れてくれる人がいた」

「だから決めた。僕はもう、お前が望んでいるような存在にはならない。僕も私も、自分のために、そして、こんな自分を愛してくれる人達のために生きる!!」

「……」

 ん? レイヴンの表情が、変わった?

「愛する、か……それは、私ではダメなのか……」

「ダメだね。お前みたいな、私利私欲と尉楽(いらく)のためだけに動いて、僕のことまでそうするために生かした奴に、私は、自分を委ねたいなんて思わないね」

 そして、その委ねる相手というのが、奴、か……

「……なぜだ」

 ……まさか、レイヴンのこんな姿を見ることになるとはな。

「なぜ、そんなことを言う……我が、娘よ……」

 かつて、人間に神として祀られた自分達を、突然否定された。そして今、実の娘にまでその存在を否定される。それも、自分の最も忌み嫌っていた人間に魅入られて、だ。

 何という皮肉だ。ここまで否定された以上、その相手にはもはや、心の拠り所など無いだろう。

「決めた! お前は私が、そして、僕が倒す! そして、ハジメとカナエ、二人の家族を取り戻させて貰う! 良いよね、梓」

「ええ」

「……」

 レイヴンは無言で左手をかざした。そこが光りに包まれ、そしてその光は形を成した。

「……」

 アズサも無言で承知したらしい。左手をかざし、そこから氷が生まれる。それが広がりながら形を成し、決闘ディスクへと姿を変える。

 普通に戦ったところで、霊体であるレイヴンとは決着は着かないからな。

「おい」

 私は、ビルの二人に視線を送るもう一人の私に話し掛けた。

 二人の勝負に興味は無い。が、水を差すわけにもいかない。

「つまらないことは考えない方がいい。二人のすぐ後ろには、コウがいる」

「コウが……」

「何よりも、貴様の行動を誰よりも理解している者がこちら側にいるのは、分かっているな?」

「……」

 私を見ながら、理解したようだ。そう、私がいる限り、貴様の考えは無意味だ。

 

「ルールは負けた者が消える、闇のゲームだ」

「お前が一番得意な儀式だったよね。戦っても勝てない相手には、似たような儀式で相手を消すっていうやり方」

「……」

「いくよ」

 

『決闘!!』

 

 

アズサ

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

レイヴン

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

「先行は僕、ドロー!」

 

アズサ

手札:5→6

 

「『E・HERO エアーマン』召喚!」

 

『E・HERO エアーマン』

 レベル4

 攻撃力1800

 

「エアーマンの効果! このカードの召喚、特殊召喚に成功した時、二つの内一つの効果を選ぶ。僕は第二の効果で、デッキの『HERO』と名の付くモンスターを一体、手札に加える。『E・HERO オーシャン』だよ!」

 

アズサ

手札:5→6

 

「カードを二枚伏せる。ターンエンド!」

 

 

アズサ

LP:4000

手札:4枚

場 :モンスター

   『E・HERO エアーマン』攻撃力1800

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

「……お前に決闘を教えたのは、私だった……」

「あいにく、僕も元々決闘が大好きでね」

「……私のターン」

 

レイヴン

手札:5→6

 

「フィールド魔法『暗黒界の門』を発動……」

 レイヴンのカード発動と同時に、暗い都市だった空間は一変、レイヴンの前に巨大な門が現れ、周囲の景色も暗黒の空間へと姿を変えた。唯一変わらないのは、変わらず上に見えるあれと、磔にされた二人だけ。

「このカードが場にある限り、全ての悪魔族は攻撃力が300ポイントアップする。更に魔法カード『手札抹殺』」

「うわ……」

「互いのプレイヤーは手札を全て捨て、捨てた枚数分カードをドローする」

「……そうやって、目の前の今をとことん否定して、すぐに新しい方法に逃げる。昔から変わらない。頭良いくせに、変なところが臆病で、理屈と方法ばかり考えて真実を見ようとしない」

 言いながら、グリムロの捨てたカードは、モンスターの『E・HERO オーシャン』、『E・HERO ザ・ヒート』、魔法カードの『増援』、『ヒーローアライブ』か。

「……捨てられた三枚のモンスターの効果を発動する。まずは『暗黒界の龍神 グラファ』。このカードがカード効果により手札から捨てられた時、相手の場のカード一枚を破壊する。お前の場の、エアーマンを破壊だ」

「……」

「続いて、『暗黒界の狩人 ブラウ』。手札から墓地に捨てられた時、カードを一枚ドローする」

 

レイヴン

手札:4→5

 

「最後に『暗黒界の尖兵 ベージ』。手札から捨てられた時、特殊召喚できる」

 

『暗黒界の尖兵 ベージ』

 レベル4

 攻撃力1600+300

 

「やば、レイヴンの墓地には……」

 そうだ。確かあのカードの効果は……

「墓地に眠る『暗黒界の龍神 グラファ』は、自分の場の『暗黒界』と名の付くモンスターをお手札に戻すことで墓地より特殊召喚することができる。ベージを手札に戻し、グラファを特殊召喚」

 

レイヴン

手札:5→6

 

『暗黒界の龍神 グラファ』

 レベル8

 攻撃力2700+300

 

「どうでも良いけど、この見た目で悪魔族か……」

 確かにどうでも良い。……もっともな疑問だがな。

「『暗黒界の門』の効果を発動する。一ターンに一度、墓地の悪魔族を一枚ゲームから除外することで、手札の悪魔族を墓地へ捨て、カードを一枚ドローできる。私は墓地からブラウを除外し、手札の『暗黒界の術師 スノウ』を捨て、カードを一枚ドローする」

「更にスノウの効果。このカードが手札から捨てられた時、デッキから暗黒界と名の付くカードを手札に加える。加えるのは二枚目のグラファだ」

 

レイヴン

手札:6→7

 

「バトルだ。グラファでグリムロにダイレクトアタック。魔龍の息吹 ヘルズブレス!」

 レイヴンの宣言と共に、グリムロに黒い塊を飛ばすグラファ。だがグリムロの見せる表情は、余裕。

「罠発動『和睦の使者』! このターン、僕が受ける戦闘ダメージは全てゼロだ!」

 グリムロの前に修道女のような女達が現れ、その攻撃を受け止める。だが、

「うぅ……」

「くっ……」

 ダメージがゼロにも関わらず、その衝撃はグリムロに、そして、その後ろにいるもう一人の私に伝わった。

「闇の決闘だと言ったはずだ。負けた者は消え、ダメージも実体化する。知らないわけではないだろう」

「……ええ。よく知っています」

 だろうな。

「……私は二枚のカードをセットし、ターンを終了する」

 

 

レイヴン

LP:4000

手札:5枚

場 :モンスター

   『暗黒界の龍神 グラファ』攻撃力2700+300

   魔法・罠

    セット

    セット

    フィールド魔法『暗黒界の門』

 

アズサ

LP:4000

手札:4枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

アズサ

手札:4→5

 

「……よし、僕は魔法カードを発動! 『融合』!」

「ほう……」

(シャイニングを呼びたいけど、相手の手札にはグラファがいるし……ここは)

「手札の光属性、フラッシュと、水属性のアイスエッジを融合。来い! 僕のエース、『E・HERO アブソルートZero』!!」

 

『E・HERO アブソルートZero』

 レベル8

 攻撃力2500

 

「それがエースか。だが、それではグラファには勝てない」

「分かってるよ。ちゃんと考えてる」

「む?」

「手札の『E・HERO キャプテン・ゴールド』を墓地に送って、デッキからフィールド魔法『摩天楼 -スカイスクレイパー-』を手札に加える!」

 

アズサ

手札:1→2

 

「フィールド魔法だと?」

「そう。そしてそのまま発動!」

 直前まで現れていた巨大な門が破壊され、周囲は巨大な都市へと変貌する。門を発動する以前の光景とさほど変化は無いが、こちらは本来あったはずの光が、眩しいほどに発せられている。

「門が消えたことで、グラファの攻撃力も元に戻る!」

 

『暗黒界の龍神 グラファ』

 攻撃力2700

 

「だが、それでもZeroの攻撃力ではグラファは倒せない」

「スカイスクレイパーの発動中、E・HEROが自身より攻撃力の高いモンスターと戦闘する時、ダメージステップ中攻撃力を1000上げる!」

「そういうことか……」

「バトル! アブソルートZeroでグラファを攻撃! 瞬間氷結(フリージング・アット・モーメント)!!」

 

『E・HERO アブソルートZero』

 攻撃力2500+1000

 

 グラファは氷つき、破壊された。

 

レイヴン

LP:4000→3200

 

「これでターンエンド」

 

 

アズサ

LP:4000

手札:1枚

場 :モンスター

   『E・HERO アブソルートZero』攻撃力2500

   魔法・罠

    セット

    フィールド魔法『摩天楼 -スカイスクレイパー-』

 

レイヴン

LP:3200

手札:5枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

 あの二体なら、グラファよりも攻撃力の高いシャイニングを呼べた。そこであえてZeroを選んだのは、手札に加わったグラファを警戒してのことか。同時に門も破壊することができたからな。

「……私のターン、ドロー」

 

レイヴン

手札:5→6

 

 ……

 

 何だ? 今奴がドローしたカードから、妙な力が……

「……?」

 どうやらもう一人の私も気付いたらしい。

「……ベージを召喚」

 

『暗黒界の尖兵 ベージ』

 レベル4

 攻撃力1600

 

「ベージを手札に戻し、グラファを特殊召喚」

 

レイヴン

手札:5→6

 

『暗黒界の龍神 グラファ』

 レベル8

 攻撃力2700

 

「……一枚伏せ、魔法カードを発動する」

 その妙なカードを、ディスクへ。

「……永続魔法『邪心経典』発動」

 

 

 

 




お疲れ~。
まだ決闘は続きます。
ちよつと待っててね。

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