タイトル通りのお話しですのでそれ以上は言わない。
じゃ、行ってらっしゃい。
視点:梓
夜は暗いのが常だ。暗い時間だから夜なのか、夜という時間だから暗いのか、それは誰にも分からない。
だが、この場所は昼だろうが朝だろうが、夜ほどでなくとも暗い場所だ。
当然だ。ここは見た目に反して光に包まれるような光景は無い。ただ陰鬱で、空気も重く、私も含めた、負の想念ばかりが漂う場所だ。
ここに住まう魔轟神は光の神々だったらしいが、その神々のほとんどが死に絶え、何よりそれが邪悪に染まっている今、本当の意味での光など、こんな場所では望むべくも無いだろう。
そして、そんな場所で私は、コウと共に明朝の準備を済ませた。
「これで良い」
コウに命令し、攫っておいたハジメとカナエの二人。その二人を十字架に鎖で繋ぎ、磔にする。短い間とは言え、共に暮らし、家族と呼ばれた存在。それが、こんな形で幕を下ろそうとは、皮肉なことだ。
どの道二人には術を掛けてある。明日の朝まで目を覚ますことは無い。それまで精々、今だけは良い夢を見ておくことだ。
その二人を眺めた後、視線を上に向け、
「……」
嫌な
それでも見たくないから目を背け、別の方向を見る。
「コウ」
名前を呼ぶと、コウはいつも通り私の元へ。
ふと気になった。コウは私と、もう一人の私、どちらを選んで私達の物になったのだろうな。私の力か、それとも、もう一人の私の……
だが、今はこうして、私に従い私と共にある。今はそれが答えだ。
コウの上に乗り、レイヴンの元へと戻った。
「準備はできたか」
「ああ。後は、貴様のやりたいようにやれ。私も、私のやりたいようにやる」
レイヴンは相変わらず、笑うだけ。
この男の思考は本当に分からない。結界を破り、魔轟神を森まで先導する。レイヴンに言われ、私がしたのはそれだけだ。
「だが、おそらく大勢の人間が生き残るぞ」
魔轟神の数は圧倒的。武器を持ち、術も使える。だが所詮は命無き亡者。少し戦える人間ならば簡単に倒せる。そして、予想以上にあの里には戦える人間達がいた。そこへグリムロと、もう一人の私が戻った以上、全滅は望めまい。
「これだけやればもう十分だ。ここまで来れば、もはや人間への復讐などどうでも良いのだよ」
どうでも良い?
「確かに、未だ人間への憎しみはある。だが、それも何千年も前のこと。周囲の魔轟神達がしつこく抱いていただけに過ぎない。私はとうの昔に、そんな感情は忘れてしまったのでね。人間が死のうが生きようが、どうでも良いことだ」
「どうでも良いのならなぜここまでの手の込んだことをする? レヴュアタンを殺した時点で、貴様ももはやここにいる理由は無いだろう」
「その理由は二つ。第一の理由は、蘇った魔轟神達を、本当の意味で葬るため」
それが第一の理由?
「君も知っての通りだ。彼らは例え死んでも、その死体が朽ちない限り永遠に騎士として戦うこととなる。私達魔轟神は、生まれついての騎士なのだ。生も死も、全てを戦いに捧げるために生まれてきた。だからせめて最後は、彼らの憎むべき人間達と戦い、殺した後でその命を終わらせれば良い。それだけのことだ」
随分と同族思いのことだ。だが、
「それが真の目的では無いのだろう」
「ああ。真の理由は、グリムロだ」
やはり、そうか。
「グリムロだけは、どうしても私の元へ取り戻したい。そのために、彼女の舞姫としての居場所を奪ったのだ」
「貴様のような男がそこまで魔轟神一人に固執するとはな。理由は何だ?」
「君も、分かっているのではないか?」
「……ふん」
下らない。
「まあ良い。とにかく、君には感謝しているよ。いつ終わるとも知れない、人間達への復讐などという愚望に協力してくれた。そして、君の目的が前提でもあるが、こうして私の目的のためにも動いてくれた。既に亡くした命だが、それでここまでの充足感に満たされるとは思っていなかったぞ」
「……」
いつもと変わらない、笑みの表情だが、その笑みにはなぜか、偽りは見えない。
真に感謝していると言うのか? この男が、私に。
「さて、朝が来るのを待つとしようか」
「そこで、貴様の望みは……そして、私の望みは叶うのか?」
「信じろ。今はそれしか言えない」
「……」
……
…………
………………
「……来たか」
白く光る朝日の中、
「梓さん……レイヴン……」
「ハジメとカナエは!?」
アズサの姿をしたグリムロの質問に対し、私は指を刺して答える。
廃屋と化した高層ビルの屋上。そこに、十字架に鎖で四肢を縛り上げ、磔にしてある。
「二人を返して!!」
「心配せずとも返してやる。そしてそれは、私を倒すことができれば、だ」
「あんたを、倒せば?」
レイヴンはよほど嬉しいらしい。随分と楽しそうに話し掛けている。
「そうだ。グリムロ」
「グリムロ……」
「グリムロよ、いつまでそんな所にいる気だ? お前は魔轟神だ。人間という愚かな存在に変わったところで滑稽なだけだろう。こちらへ戻れ。舞姫から、巫女へと」
「……」
初め動揺していたグリムロだが、一度下げて再び上げたその顔には、真の決意が籠っていた。
「僕は……私は決めた。私はもう、お前達の側には戻らない。お前達が人間に抱いた感情なんて、それを知らずに生まれた私にとっては、結局は無意味な感情でしかない。そんな私が僕に変わって、人間の感情と、心と、温かさと、弱さを知った。そして、そんな私を、僕として必要としてくれる人達がいて、私としても受け入れてくれる人がいた」
「だから決めた。僕はもう、お前が望んでいるような存在にはならない。僕も私も、自分のために、そして、こんな自分を愛してくれる人達のために生きる!!」
「……」
ん? レイヴンの表情が、変わった?
「愛する、か……それは、私ではダメなのか……」
「ダメだね。お前みたいな、私利私欲と
そして、その委ねる相手というのが、奴、か……
「……なぜだ」
……まさか、レイヴンのこんな姿を見ることになるとはな。
「なぜ、そんなことを言う……我が、娘よ……」
かつて、人間に神として祀られた自分達を、突然否定された。そして今、実の娘にまでその存在を否定される。それも、自分の最も忌み嫌っていた人間に魅入られて、だ。
何という皮肉だ。ここまで否定された以上、その相手にはもはや、心の拠り所など無いだろう。
「決めた! お前は私が、そして、僕が倒す! そして、ハジメとカナエ、二人の家族を取り戻させて貰う! 良いよね、梓」
「ええ」
「……」
レイヴンは無言で左手をかざした。そこが光りに包まれ、そしてその光は形を成した。
「……」
アズサも無言で承知したらしい。左手をかざし、そこから氷が生まれる。それが広がりながら形を成し、決闘ディスクへと姿を変える。
普通に戦ったところで、霊体であるレイヴンとは決着は着かないからな。
「おい」
私は、ビルの二人に視線を送るもう一人の私に話し掛けた。
二人の勝負に興味は無い。が、水を差すわけにもいかない。
「つまらないことは考えない方がいい。二人のすぐ後ろには、コウがいる」
「コウが……」
「何よりも、貴様の行動を誰よりも理解している者がこちら側にいるのは、分かっているな?」
「……」
私を見ながら、理解したようだ。そう、私がいる限り、貴様の考えは無意味だ。
「ルールは負けた者が消える、闇のゲームだ」
「お前が一番得意な儀式だったよね。戦っても勝てない相手には、似たような儀式で相手を消すっていうやり方」
「……」
「いくよ」
『決闘!!』
アズサ
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
レイヴン
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
「先行は僕、ドロー!」
アズサ
手札:5→6
「『E・HERO エアーマン』召喚!」
『E・HERO エアーマン』
レベル4
攻撃力1800
「エアーマンの効果! このカードの召喚、特殊召喚に成功した時、二つの内一つの効果を選ぶ。僕は第二の効果で、デッキの『HERO』と名の付くモンスターを一体、手札に加える。『E・HERO オーシャン』だよ!」
アズサ
手札:5→6
「カードを二枚伏せる。ターンエンド!」
アズサ
LP:4000
手札:4枚
場 :モンスター
『E・HERO エアーマン』攻撃力1800
魔法・罠
セット
セット
「……お前に決闘を教えたのは、私だった……」
「あいにく、僕も元々決闘が大好きでね」
「……私のターン」
レイヴン
手札:5→6
「フィールド魔法『暗黒界の門』を発動……」
レイヴンのカード発動と同時に、暗い都市だった空間は一変、レイヴンの前に巨大な門が現れ、周囲の景色も暗黒の空間へと姿を変えた。唯一変わらないのは、変わらず上に見えるあれと、磔にされた二人だけ。
「このカードが場にある限り、全ての悪魔族は攻撃力が300ポイントアップする。更に魔法カード『手札抹殺』」
「うわ……」
「互いのプレイヤーは手札を全て捨て、捨てた枚数分カードをドローする」
「……そうやって、目の前の今をとことん否定して、すぐに新しい方法に逃げる。昔から変わらない。頭良いくせに、変なところが臆病で、理屈と方法ばかり考えて真実を見ようとしない」
言いながら、グリムロの捨てたカードは、モンスターの『E・HERO オーシャン』、『E・HERO ザ・ヒート』、魔法カードの『増援』、『ヒーローアライブ』か。
「……捨てられた三枚のモンスターの効果を発動する。まずは『暗黒界の龍神 グラファ』。このカードがカード効果により手札から捨てられた時、相手の場のカード一枚を破壊する。お前の場の、エアーマンを破壊だ」
「……」
「続いて、『暗黒界の狩人 ブラウ』。手札から墓地に捨てられた時、カードを一枚ドローする」
レイヴン
手札:4→5
「最後に『暗黒界の尖兵 ベージ』。手札から捨てられた時、特殊召喚できる」
『暗黒界の尖兵 ベージ』
レベル4
攻撃力1600+300
「やば、レイヴンの墓地には……」
そうだ。確かあのカードの効果は……
「墓地に眠る『暗黒界の龍神 グラファ』は、自分の場の『暗黒界』と名の付くモンスターをお手札に戻すことで墓地より特殊召喚することができる。ベージを手札に戻し、グラファを特殊召喚」
レイヴン
手札:5→6
『暗黒界の龍神 グラファ』
レベル8
攻撃力2700+300
「どうでも良いけど、この見た目で悪魔族か……」
確かにどうでも良い。……もっともな疑問だがな。
「『暗黒界の門』の効果を発動する。一ターンに一度、墓地の悪魔族を一枚ゲームから除外することで、手札の悪魔族を墓地へ捨て、カードを一枚ドローできる。私は墓地からブラウを除外し、手札の『暗黒界の術師 スノウ』を捨て、カードを一枚ドローする」
「更にスノウの効果。このカードが手札から捨てられた時、デッキから暗黒界と名の付くカードを手札に加える。加えるのは二枚目のグラファだ」
レイヴン
手札:6→7
「バトルだ。グラファでグリムロにダイレクトアタック。魔龍の息吹 ヘルズブレス!」
レイヴンの宣言と共に、グリムロに黒い塊を飛ばすグラファ。だがグリムロの見せる表情は、余裕。
「罠発動『和睦の使者』! このターン、僕が受ける戦闘ダメージは全てゼロだ!」
グリムロの前に修道女のような女達が現れ、その攻撃を受け止める。だが、
「うぅ……」
「くっ……」
ダメージがゼロにも関わらず、その衝撃はグリムロに、そして、その後ろにいるもう一人の私に伝わった。
「闇の決闘だと言ったはずだ。負けた者は消え、ダメージも実体化する。知らないわけではないだろう」
「……ええ。よく知っています」
だろうな。
「……私は二枚のカードをセットし、ターンを終了する」
レイヴン
LP:4000
手札:5枚
場 :モンスター
『暗黒界の龍神 グラファ』攻撃力2700+300
魔法・罠
セット
セット
フィールド魔法『暗黒界の門』
アズサ
LP:4000
手札:4枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
セット
「僕のターン、ドロー!」
アズサ
手札:4→5
「……よし、僕は魔法カードを発動! 『融合』!」
「ほう……」
(シャイニングを呼びたいけど、相手の手札にはグラファがいるし……ここは)
「手札の光属性、フラッシュと、水属性のアイスエッジを融合。来い! 僕のエース、『E・HERO アブソルートZero』!!」
『E・HERO アブソルートZero』
レベル8
攻撃力2500
「それがエースか。だが、それではグラファには勝てない」
「分かってるよ。ちゃんと考えてる」
「む?」
「手札の『E・HERO キャプテン・ゴールド』を墓地に送って、デッキからフィールド魔法『摩天楼 -スカイスクレイパー-』を手札に加える!」
アズサ
手札:1→2
「フィールド魔法だと?」
「そう。そしてそのまま発動!」
直前まで現れていた巨大な門が破壊され、周囲は巨大な都市へと変貌する。門を発動する以前の光景とさほど変化は無いが、こちらは本来あったはずの光が、眩しいほどに発せられている。
「門が消えたことで、グラファの攻撃力も元に戻る!」
『暗黒界の龍神 グラファ』
攻撃力2700
「だが、それでもZeroの攻撃力ではグラファは倒せない」
「スカイスクレイパーの発動中、E・HEROが自身より攻撃力の高いモンスターと戦闘する時、ダメージステップ中攻撃力を1000上げる!」
「そういうことか……」
「バトル! アブソルートZeroでグラファを攻撃!
『E・HERO アブソルートZero』
攻撃力2500+1000
グラファは氷つき、破壊された。
レイヴン
LP:4000→3200
「これでターンエンド」
アズサ
LP:4000
手札:1枚
場 :モンスター
『E・HERO アブソルートZero』攻撃力2500
魔法・罠
セット
フィールド魔法『摩天楼 -スカイスクレイパー-』
レイヴン
LP:3200
手札:5枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
セット
セット
あの二体なら、グラファよりも攻撃力の高いシャイニングを呼べた。そこであえてZeroを選んだのは、手札に加わったグラファを警戒してのことか。同時に門も破壊することができたからな。
「……私のターン、ドロー」
レイヴン
手札:5→6
……
何だ? 今奴がドローしたカードから、妙な力が……
「……?」
どうやらもう一人の私も気付いたらしい。
「……ベージを召喚」
『暗黒界の尖兵 ベージ』
レベル4
攻撃力1600
「ベージを手札に戻し、グラファを特殊召喚」
レイヴン
手札:5→6
『暗黒界の龍神 グラファ』
レベル8
攻撃力2700
「……一枚伏せ、魔法カードを発動する」
その妙なカードを、ディスクへ。
「……永続魔法『邪心経典』発動」
お疲れ~。
まだ決闘は続きます。
ちよつと待っててね。