こっから二人の梓の行動理念はまるきり違っていきます。その結末はどうなることか。
あとここで言っておきますが、第三部では、今まで通り結構な数の差異と偏見とオリ設定が入ってますゆえ、それ見て気分を害した時のために先に謝罪しときます。
まあそんな感じで、行ってらっしゃい。
視点:外
現在、梓は山を下り、白く光る雪原を走っていた。
周囲に見えるのは、森の木々と、一面に広がる雪。そして、同じく白く光る太陽と、青く澄んだ空。そんな空間を、青く光る着物をなびかせ、走っていた。
……
…………
………………
それは、ハジメとカナエの二人と別れたすぐ後のこと。
「さて、早速だが君には龍を狩りにいってもらおう」
山を下りながら、梓の後ろを歩くレイヴンが提案した。
「ようやくか。で、居場所は分かっているのだろうな?」
「もちろんだ」
レイヴンは返事をしながら、左手をかざす。そこに集まった光は形を成した後、どこかへと飛び去っていった。
「あの光を追うと良い。そこに君が狩るべき、第一の龍が待っている」
「第一の龍……名前は確か……」
……
…………
………………
「ブリューナク……」
レイヴンに言われた通り、レイヴンの手から伸びた光を辿り、その先へと走っていく。随分と長い距離を走ったように感じるが、龍の姿は見えてはこない。
そもそも、龍と呼ぶからにはおそらく体も大きいはず。アズサいわく、ブリューナクは三匹の中では最も弱く、体も小さいと言っていたが、それはあくまで龍の中での話し。人間に比べたとしたら、その大きさも歴然のはず。
だが、龍の姿は全く見えない。まだまだ距離が遠過ぎるのか、それともまさか、単に見えないだけなのか……
「待て……」
そう呟きながら、梓は足を止めた。
(気付かなかったが、よく見れば目の前の光景、先程から全く変わっていない……)
今梓が走っている場所、森や山の木々に囲まれた、太陽の見える雪原。
(目の前には森も見えているというのに、一向にその距離が縮まらないのはどういうわけだ……)
「……」
刀を取り出し、構える。
ズバアッ
バキバキバキ……
斬撃が地面の上を走るのと同時に、その跡には氷の柱が生まれていく。それはやがて、遠くまで走り、見えなくなった。
「……」
……バキバキッ
その音が聞こえたと同時に、上へと跳び上がる。先程地面を走っていた、氷を纏う斬撃。それが梓の真下を通り、梓の立っていた場所に建つ、氷の柱とぶつかった。
「やはりな」
納得しながら、目を閉じる。
「……」
感覚を研ぎ澄ませ、今自分の立つ場所の真実を探り、真の姿を、目以外で見極める。
そして、
カッ
目を開きながら刀に手を添え、真上に登る、太陽へ向かって跳んだ。
キンッ
ズバアッ
遥か彼方で光るはずの太陽が、刀によって真っ二つになった、その瞬間、
パキパキパキ……
そこを中心に、空間全体がヒビ割れていく。
「思った通り、ここは、同じ場所を往復させられる牢獄ということか。そして、その牢獄を作りだしたのが……」
ヒビ割れは更に広がっていき、代わりにその割れ目から、空間本来の姿を見せ始める。
太陽の見えた真っ青な空は、途端に雪を降らせる灰色の雲に変わり、遠くに見えていた森の木々は、雪と氷に覆われた谷の岸壁によって見えなくなり、地面に積もっていた純白の雪は、いくつもの足跡の着いた無残な姿へと変わっていく。
そして、上でずっと伸びていた光は、今いる場所で途切れている。
パラァ……
空間が完全に砕けた瞬間現れた、そんな白い谷の、谷間に隠れるように納まっている青い体。
「貴様がブリューナク」
『……』
ブリューナクと呼ばれた龍は体を動かしながら、背中の翼を広げた。
雪の結晶のような形をした頭と、鋭い爪を携えた腕。そんな腕の着いた体は蛇のように長く、氷のように青く透明な鱗に包まれている。後ろへ向かって伸びる長い尾には、腕と同じく鋭い爪の光る後ろが見える。
『グォオオオオオオオオオ』
梓に顔を近づけ、威嚇するように咆哮を上げる。大きさは、頭の縦幅が梓の身長より少々長いくらい。そう言えば、おのずとその全体の大きさも想像できよう。
「私を閉じ込めてどうする気だったのかは知らんが、その程度で、私を殺せるものか」
『グオオオオオオオオ』
梓の言葉も無視し、威嚇を続ける。だがどちらにせよ、梓は全くこたえてはいない。
「貴様は私が殺す。そして、貴様を私のものにする」
そう言葉を掛けながら、刀を構え、ブリューナクの前へと歩いていった。
『グオオオオオオオオオオオオオオオ』
ブリューナクは咆哮を上げると、翼を広げ、上に飛び上がった。そして、
ビュウッ
翼を大きく羽ばたかせた瞬間、冷たい突風が梓に降りかかった。その強風は雪を巻き上げ、谷の氷と岩を抉り、大気を揺らす。
そんな突風を受けながら、梓は仁王立ちでブリューナクを見つめるのみ。全くこたえてはいない。
『グオオオオオオオオオオオオオオオオ』
今度は白い息を吐いた。梓はそれが当たる瞬間、後ろへ跳び身をかわす。その息が地面にぶつかった瞬間、地面は凍りつき、上へ伸びる氷柱が生まれた。
「……」
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオ』
「……」
空を浮遊するブリューナクを見つめる梓の目には、何の感情も見受けられない。今にも光が消えるほど、感情も、心すらも無い。
「……これが、お前の力か……」
『グオオオオオオオオオオオオ』
「……話しにならん」
呟いた瞬間、また白い息が飛んでくる。
だが梓はそれを横に飛んでかわすと同時に、懐に右手を入れ、手裏剣をブリューナクへ投げた。
キン
『グオオオオオオオオオオオオオ!!』
手裏剣がぶつかると同時に、またブリューナクは咆哮を上げた。
「これが、伝説の龍の力か。魔轟神の方がまだ手応えがあった」
それが聞こえたのかは分からない。ブリューナクは梓に背中を向け、逆方向へと飛んでいった。
「逃がすか」
ズブッ
走ろうとした梓の体に、そんな生々しい音と、衝撃が走った。
「な……に……?」
下を向くと、そこには太く大きく、だが鋭い爪が、胸から現れていた。
そして、振り向いた時、巨大な腕、巨大な体、巨大な頭、巨大な姿。
「まさか……また……幻……だと……」
ズブ
今度はその爪を強引に引き抜かれ、梓の体は一度後ろへ引っ張られ、その直後にまた前へと押し出された。
そして、光を失い、何も見つめることの無くなった瞳は、ゆっくりと地面に近づいていき……
パリィン
『ッ!!』
梓の体が地面へ倒れ込んだ瞬間、そんな音と共に、梓の体は砕けた。
「愚かな」
そして、また梓の声。声のした上を向いた時、刀を抜いた梓がブリューナクに向かう。そして、
ズバァ
『グオオオオオオオオオオオッ』
先程手裏剣を投げられた時と同じ、痛みによる悲鳴。だが、先程のものに比べれば、それは明らかな生を感じさせる悲鳴。
そしてその悲鳴の直後、梓もまた地面に降り立った。
「私が二度も、貴様の作りだした下らない幻に囚われると思ったか?」
『~~~~ッ!!』
ブリューナクは再び、いやこの場合は初めてと言うべきだろう。梓に背中を向けた。そして、翼を広げ、空高くへと舞い上がり、谷から飛んでいく。
「逃がしはしない……」
梓も刀を納めながら、飛んでいくブリューナクを走って追いかけた。
空を浮遊し、前へと進みながら、ブリューナクは攻撃を続けた。
明確な殺意を向けながら自分を追いかけてくる、人間という小さな生き物。
今まで数え切れないほどの人間を殺してきた。凍らせて。切り裂いて。幻を見せて。
それどころか、ほとんどの人間は、その幻のせいで自分に近づくことさえできなかった。仮に近づくことができても、今度はそれによって殺すことができた。
だというのに、今自分を追いかけてくる人間は、それら全てが通用しなかった。凍らせることができない。切り裂くことができない。そして、幻を見せても意味が無い。
そんな人間は、いや、悪魔さえそんな存在はいなかったというのに、まるで自分のそんな力をあざ笑うかのように、自分という存在の全てを否定するように、何もかも無に帰してしまう。
勝てない。
人間に対して、そんな思いを抱くは初めてだった。
それでも、何もしなければ死ぬのは変わらない。だから攻撃をした。それが万に一つ以下の可能性だとしても、あの人間を殺す可能性があるのなら。
視点:梓
まったく。逃げるか戦うか、どちらかにすれば良い物を。
「背中を見せながら戦う。正に弱者だな」
だがどの道、このままでは埒が明かない。飛び道具も、あれだけ高ければあまり意味も成すまい。
ならば……
「試してみるか。虎将の力」
この先は道が無くなっている。ちょうど良い
ブリューナクが谷の端を超えた時、私もそこから跳んだ。
視点:外
あってはならない光景だった。
人間は空を飛ぶことはできない。そんなことはブリューナクでも知っている。なのに、その人間は浮いていた。空を飛んでいる、というより、空を、走っていた。
「ちょうど良い」
梓の足下、そして、その後ろには、いくつもの透明な長方形の物体。それは梓が虎将の試練で戦った時、ライホウが作りだした結界だった。
「これで貴様を捕らえられる」
ブリューナクはその場で止まり、梓と真っ直ぐに向かい合った。そして、また翼を振り、突風を巻き起こす。
「無駄だ」
その突風が届く瞬間、梓は足下の結界を消した。そのまま真下へ落ちていくが、途中また結界を作り出し、同時に結界を出現させ、それを飛び乗っていく。
「さあ、これで終わりだ!」
『ッ!!』
気が付いた時、ブリューナクの翼には傷が着けられていた。それは、それ以上の浮遊を不可能にするだけの傷。
何もできず、地面へと落下していく。
梓はその光景を、結界の上からジッと見つめていた。
地面に落下し、飛ぶことができなくなりながら、ブリューナクはどうにか体を起こす。
だが、目を開いた時、
『ッ!!』
目の前には既に、先程と同じ人間が立ち、こちらを見つめていた。
『グオオオオオオオオオオオ』
このまま無様に死ぬくらいなら。
そう決意し、最後の攻撃を加えるため、口を開く。
キン
だが、その痛みは前からでは無く、後ろから、自分の上から来た。
だが、その事実を確かめる前に、ブリューナクは、体を地面へと落とした。
視点:梓
さて、まずは一体目だ。
「梓さん?」
この声……
そちらを向くと、
「……もう一人の、私……」
私はこちらを無言で見つめているだけ。
「……そこで見ていろ」
私はその存在を無視し、ブリューナクに右手を添える。貴様の力を私のものとする。そのために、ブリューナクの力、存在、全てを奪う。
ブリューナクの体から生まれた光が、右手に吸い込まれていく。
やがて、ブリューナクの体が単なる抜け殻と化したところで、地面へと降り立った。
「……」
「……」
今更、この男と交わす言葉は持ち合わせていない。だが、
「戻る気は、ありませんか?」
「……」
答える代わりに、雪の結晶の髪飾りを外し、目の前にかざす。長年愛用してきたものだが、別段未練はない。
バキッ
それを握り潰し、破片が地面へと落ちる光景を眺めながら、どうやら理解したらしい。
「……分かりました」
目を閉じながら、背中を向ける。
「これだけは言っておきます」
背中を向けた状態で、私に語り掛けてきた。
「彼女は私が守る。彼女を狙うのなら、例え相手があなたであろうと、絶対に許しはしない」
「……」
そんなこと、今更言われるまでも無い。
「貴様に私が殺せるか?」
「……」
その質問に対する返事は無かった。そして、そのまま歩いていった。
今更、あんな女に興味はない。あの女を狙っているのは、レイヴンだけなのだから。
残る龍は二体。そして、それを確実に手に入れるための力を得るためには……
お疲れ~。
梓の行動理念はあくまで力です。
三匹の龍を手に入れて、その力を手に入れて、それで目的を果たすために動いております。
その結果がどうなろうと何にも気にしておりません。全ては目的を果たすためだけの必要な行動です。
まあそげな当たり前のことここで言ってても仕方ないけどね。
んじゃ、次話も待ってて。