遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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三部第二話いくよ~。
こっから二人の梓の行動理念はまるきり違っていきます。その結末はどうなることか。
あとここで言っておきますが、第三部では、今まで通り結構な数の差異と偏見とオリ設定が入ってますゆえ、それ見て気分を害した時のために先に謝罪しときます。
まあそんな感じで、行ってらっしゃい。



第二話 ブリューナク

視点:外

 現在、梓は山を下り、白く光る雪原を走っていた。

 周囲に見えるのは、森の木々と、一面に広がる雪。そして、同じく白く光る太陽と、青く澄んだ空。そんな空間を、青く光る着物をなびかせ、走っていた。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 それは、ハジメとカナエの二人と別れたすぐ後のこと。

「さて、早速だが君には龍を狩りにいってもらおう」

 山を下りながら、梓の後ろを歩くレイヴンが提案した。

「ようやくか。で、居場所は分かっているのだろうな?」

「もちろんだ」

 レイヴンは返事をしながら、左手をかざす。そこに集まった光は形を成した後、どこかへと飛び去っていった。

「あの光を追うと良い。そこに君が狩るべき、第一の龍が待っている」

「第一の龍……名前は確か……」

 

 ……

 …………

 ………………

 

「ブリューナク……」

 レイヴンに言われた通り、レイヴンの手から伸びた光を辿り、その先へと走っていく。随分と長い距離を走ったように感じるが、龍の姿は見えてはこない。

 そもそも、龍と呼ぶからにはおそらく体も大きいはず。アズサいわく、ブリューナクは三匹の中では最も弱く、体も小さいと言っていたが、それはあくまで龍の中での話し。人間に比べたとしたら、その大きさも歴然のはず。

 だが、龍の姿は全く見えない。まだまだ距離が遠過ぎるのか、それともまさか、単に見えないだけなのか……

 

「待て……」

 そう呟きながら、梓は足を止めた。

(気付かなかったが、よく見れば目の前の光景、先程から全く変わっていない……)

 今梓が走っている場所、森や山の木々に囲まれた、太陽の見える雪原。

(目の前には森も見えているというのに、一向にその距離が縮まらないのはどういうわけだ……)

「……」

 刀を取り出し、構える。

 

 ズバアッ

 バキバキバキ……

 

 斬撃が地面の上を走るのと同時に、その跡には氷の柱が生まれていく。それはやがて、遠くまで走り、見えなくなった。

「……」

 

 ……バキバキッ

 

 その音が聞こえたと同時に、上へと跳び上がる。先程地面を走っていた、氷を纏う斬撃。それが梓の真下を通り、梓の立っていた場所に建つ、氷の柱とぶつかった。

「やはりな」

 納得しながら、目を閉じる。

 

「……」

 

 感覚を研ぎ澄ませ、今自分の立つ場所の真実を探り、真の姿を、目以外で見極める。

 そして、

 

 カッ

 

 目を開きながら刀に手を添え、真上に登る、太陽へ向かって跳んだ。

 

 キンッ

 ズバアッ

 

 遥か彼方で光るはずの太陽が、刀によって真っ二つになった、その瞬間、

 

 パキパキパキ……

 

 そこを中心に、空間全体がヒビ割れていく。

「思った通り、ここは、同じ場所を往復させられる牢獄ということか。そして、その牢獄を作りだしたのが……」

 ヒビ割れは更に広がっていき、代わりにその割れ目から、空間本来の姿を見せ始める。

 太陽の見えた真っ青な空は、途端に雪を降らせる灰色の雲に変わり、遠くに見えていた森の木々は、雪と氷に覆われた谷の岸壁によって見えなくなり、地面に積もっていた純白の雪は、いくつもの足跡の着いた無残な姿へと変わっていく。

 そして、上でずっと伸びていた光は、今いる場所で途切れている。

 

 パラァ……

 

 空間が完全に砕けた瞬間現れた、そんな白い谷の、谷間に隠れるように納まっている青い体。

「貴様がブリューナク」

 

『……』

 

 ブリューナクと呼ばれた龍は体を動かしながら、背中の翼を広げた。

 雪の結晶のような形をした頭と、鋭い爪を携えた腕。そんな腕の着いた体は蛇のように長く、氷のように青く透明な鱗に包まれている。後ろへ向かって伸びる長い尾には、腕と同じく鋭い爪の光る後ろが見える。

 

『グォオオオオオオオオオ』

 

 梓に顔を近づけ、威嚇するように咆哮を上げる。大きさは、頭の縦幅が梓の身長より少々長いくらい。そう言えば、おのずとその全体の大きさも想像できよう。

「私を閉じ込めてどうする気だったのかは知らんが、その程度で、私を殺せるものか」

 

『グオオオオオオオオ』

 

 梓の言葉も無視し、威嚇を続ける。だがどちらにせよ、梓は全くこたえてはいない。

「貴様は私が殺す。そして、貴様を私のものにする」

 そう言葉を掛けながら、刀を構え、ブリューナクの前へと歩いていった。

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオ』

 

 ブリューナクは咆哮を上げると、翼を広げ、上に飛び上がった。そして、

 

 ビュウッ

 

 翼を大きく羽ばたかせた瞬間、冷たい突風が梓に降りかかった。その強風は雪を巻き上げ、谷の氷と岩を抉り、大気を揺らす。

 そんな突風を受けながら、梓は仁王立ちでブリューナクを見つめるのみ。全くこたえてはいない。

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオオ』

 

 今度は白い息を吐いた。梓はそれが当たる瞬間、後ろへ跳び身をかわす。その息が地面にぶつかった瞬間、地面は凍りつき、上へ伸びる氷柱が生まれた。

「……」

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオ』

 

「……」

 空を浮遊するブリューナクを見つめる梓の目には、何の感情も見受けられない。今にも光が消えるほど、感情も、心すらも無い。

「……これが、お前の力か……」

 

『グオオオオオオオオオオオオ』

 

「……話しにならん」

 呟いた瞬間、また白い息が飛んでくる。

 だが梓はそれを横に飛んでかわすと同時に、懐に右手を入れ、手裏剣をブリューナクへ投げた。

 

 キン

『グオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 手裏剣がぶつかると同時に、またブリューナクは咆哮を上げた。

「これが、伝説の龍の力か。魔轟神の方がまだ手応えがあった」

 それが聞こえたのかは分からない。ブリューナクは梓に背中を向け、逆方向へと飛んでいった。

「逃がすか」

 

 ズブッ

 

 走ろうとした梓の体に、そんな生々しい音と、衝撃が走った。

「な……に……?」

 下を向くと、そこには太く大きく、だが鋭い爪が、胸から現れていた。

 そして、振り向いた時、巨大な腕、巨大な体、巨大な頭、巨大な姿。

「まさか……また……幻……だと……」

 

 ズブ

 

 今度はその爪を強引に引き抜かれ、梓の体は一度後ろへ引っ張られ、その直後にまた前へと押し出された。

 そして、光を失い、何も見つめることの無くなった瞳は、ゆっくりと地面に近づいていき……

 

 パリィン

 

『ッ!!』

 梓の体が地面へ倒れ込んだ瞬間、そんな音と共に、梓の体は砕けた。

 

「愚かな」

 

 そして、また梓の声。声のした上を向いた時、刀を抜いた梓がブリューナクに向かう。そして、

 

 ズバァ

 

『グオオオオオオオオオオオッ』

 先程手裏剣を投げられた時と同じ、痛みによる悲鳴。だが、先程のものに比べれば、それは明らかな生を感じさせる悲鳴。

 そしてその悲鳴の直後、梓もまた地面に降り立った。

「私が二度も、貴様の作りだした下らない幻に囚われると思ったか?」

『~~~~ッ!!』

 ブリューナクは再び、いやこの場合は初めてと言うべきだろう。梓に背中を向けた。そして、翼を広げ、空高くへと舞い上がり、谷から飛んでいく。

「逃がしはしない……」

 梓も刀を納めながら、飛んでいくブリューナクを走って追いかけた。

 

 

 空を浮遊し、前へと進みながら、ブリューナクは攻撃を続けた。

 明確な殺意を向けながら自分を追いかけてくる、人間という小さな生き物。

 今まで数え切れないほどの人間を殺してきた。凍らせて。切り裂いて。幻を見せて。

 それどころか、ほとんどの人間は、その幻のせいで自分に近づくことさえできなかった。仮に近づくことができても、今度はそれによって殺すことができた。

 だというのに、今自分を追いかけてくる人間は、それら全てが通用しなかった。凍らせることができない。切り裂くことができない。そして、幻を見せても意味が無い。

 そんな人間は、いや、悪魔さえそんな存在はいなかったというのに、まるで自分のそんな力をあざ笑うかのように、自分という存在の全てを否定するように、何もかも無に帰してしまう。

 

 勝てない。

 人間に対して、そんな思いを抱くは初めてだった。

 それでも、何もしなければ死ぬのは変わらない。だから攻撃をした。それが万に一つ以下の可能性だとしても、あの人間を殺す可能性があるのなら。

 

 

 

視点:梓

 まったく。逃げるか戦うか、どちらかにすれば良い物を。

「背中を見せながら戦う。正に弱者だな」

 だがどの道、このままでは埒が明かない。飛び道具も、あれだけ高ければあまり意味も成すまい。

 ならば……

「試してみるか。虎将の力」

 この先は道が無くなっている。ちょうど良い

 ブリューナクが谷の端を超えた時、私もそこから跳んだ。

 

 

 

視点:外

 あってはならない光景だった。

 人間は空を飛ぶことはできない。そんなことはブリューナクでも知っている。なのに、その人間は浮いていた。空を飛んでいる、というより、空を、走っていた。

 

「ちょうど良い」

 梓の足下、そして、その後ろには、いくつもの透明な長方形の物体。それは梓が虎将の試練で戦った時、ライホウが作りだした結界だった。

「これで貴様を捕らえられる」

 

 ブリューナクはその場で止まり、梓と真っ直ぐに向かい合った。そして、また翼を振り、突風を巻き起こす。

「無駄だ」

 その突風が届く瞬間、梓は足下の結界を消した。そのまま真下へ落ちていくが、途中また結界を作り出し、同時に結界を出現させ、それを飛び乗っていく。

「さあ、これで終わりだ!」

『ッ!!』

 気が付いた時、ブリューナクの翼には傷が着けられていた。それは、それ以上の浮遊を不可能にするだけの傷。

 何もできず、地面へと落下していく。

 梓はその光景を、結界の上からジッと見つめていた。

 

 

 地面に落下し、飛ぶことができなくなりながら、ブリューナクはどうにか体を起こす。

 だが、目を開いた時、

『ッ!!』

 目の前には既に、先程と同じ人間が立ち、こちらを見つめていた。

『グオオオオオオオオオオオ』

 このまま無様に死ぬくらいなら。

 そう決意し、最後の攻撃を加えるため、口を開く。

 

 キン

 

 だが、その痛みは前からでは無く、後ろから、自分の上から来た。

 だが、その事実を確かめる前に、ブリューナクは、体を地面へと落とした。

 

 

 

視点:梓

 さて、まずは一体目だ。

「梓さん?」

 この声……

 そちらを向くと、

「……もう一人の、私……」

 私はこちらを無言で見つめているだけ。

「……そこで見ていろ」

 私はその存在を無視し、ブリューナクに右手を添える。貴様の力を私のものとする。そのために、ブリューナクの力、存在、全てを奪う。

 ブリューナクの体から生まれた光が、右手に吸い込まれていく。

 やがて、ブリューナクの体が単なる抜け殻と化したところで、地面へと降り立った。

 

「……」

「……」

 

 今更、この男と交わす言葉は持ち合わせていない。だが、

「戻る気は、ありませんか?」

「……」

 答える代わりに、雪の結晶の髪飾りを外し、目の前にかざす。長年愛用してきたものだが、別段未練はない。

 

 バキッ

 

 それを握り潰し、破片が地面へと落ちる光景を眺めながら、どうやら理解したらしい。

「……分かりました」

 目を閉じながら、背中を向ける。

「これだけは言っておきます」

 背中を向けた状態で、私に語り掛けてきた。

「彼女は私が守る。彼女を狙うのなら、例え相手があなたであろうと、絶対に許しはしない」

「……」

 そんなこと、今更言われるまでも無い。

「貴様に私が殺せるか?」

「……」

 その質問に対する返事は無かった。そして、そのまま歩いていった。

 

 今更、あんな女に興味はない。あの女を狙っているのは、レイヴンだけなのだから。

 残る龍は二体。そして、それを確実に手に入れるための力を得るためには……

 

 

 

 




お疲れ~。
梓の行動理念はあくまで力です。
三匹の龍を手に入れて、その力を手に入れて、それで目的を果たすために動いております。
その結果がどうなろうと何にも気にしておりません。全ては目的を果たすためだけの必要な行動です。
まあそげな当たり前のことここで言ってても仕方ないけどね。
んじゃ、次話も待ってて。

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