今回はリアルファイトのみ。
それ程でもないけど血が苦手な人は読まない方がいいかも。
というわけで、いってらっしゃい。
視点:外
一瞬の出来事だった。
一瞬で現れ、一瞬の一撃を受け、一瞬に空に向かって持ち上げられ、そして、その手を離される。人間ならまず助かりそうもない、その高さに。
そして読んで字の如く、真っ逆さまの状態で地面に落ちていく。
「梓!!」
「梓さん!!」
「っ!!」
その一瞬の出来事に、アズサら三人は目を奪われていたが、
「ハジメ、結界!!」
「なっ……あ!!」
アズサの言葉でハジメは我に帰り、腕を空に向ける。
「青紫いいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
『っ!』
ハジメの声に、梓は二人ともハジメに目を向ける。
「使え!!」
その声と同時に梓らの周囲に現れたのは、イリダンとの戦いで見せた、半透明の小さな円形の結界。大きさは同じだが、水平、垂直の二通りの形で宙に浮いている。
『っ……』
二人同時にその意図に気付き、その結界に手を伸ばす。言わば円形の鉄板のような物質となっているそれは、空中に完全に固定されており、少し殴ったくらいではビクともしない。
その結界を、二人ともが強く蹴り、体を斜め上へ向けて飛ばす。やがてその先にある結界に到達し、その結界をまた蹴る。その動作を繰り返すことで浮力を得、水平の結界の上に降り立った。
視点:梓
どうにか落下は免れました。しかしこの高さで、足場は人一人が立てるだけの結界のみ。いくつもあるとは言え、空の戦いとなると不利になることには違いない。
「面白い」
先程聞いたものと同じ声。そしてそれは、私達の目の前に降り立ちました。
体格は細身に見えますが、軽く私達の倍近くの長身。全身を黒と金の甲冑で身を包み、腰には剣、背中には大きな翼。
醸し出す雰囲気から、間違いない。
初めてこの世界で出会った者達と同じ。彼が魔轟神。それも、レイヴンとやらや、彼が率いていた者達とは、格が違う。
「仲間の力を借りたとはいえ、あの状態から生き残るとはな。大した生命力だ」
「……」
「お褒めの言葉、光栄です」
何も言えない私とは違って、梓さんは余裕ですね。
「だが私と違って、空の上ではお前達も戦えまい。何なら地上に降りてやっても構わないぞ」
く……
「お気遣いなく。私達が直接、地上まであなたの手を引いて差し上げましょう」
梓さん……
格好良い……
「本当に面白い……私の名はレイジオン。『魔轟神レイジオン』」
「これはご丁寧に。水瀬紫と申します」
「わ、私は弟の、水瀬青です」
なぜこの人は、ここまで余裕でいられるのでしょう。その姿がまぶしい。
「見せてもらうぞ。レイヴンの言っていた、お前達の力っ……!!」
来た!!
視点:アズサ
レイジオン。
あいつは飛ぶのも走るのも早い、『超速の騎士』って仲間から呼ばれてた奴だ。さっきの攻撃も、不意打ちとは言えあの二人が避けられないくらい、やたら早い攻撃だったし。
そんな、結界の上に上手いこと着地した二人に、レイジオンは襲い掛かった。けど、二人はまたジャンプして、他の結界に跳び移って空中を移動して、レイジオンを翻弄してる。
あれだけ自分の周り、上下左右前後をちょこまかされたら、いくら超速の騎士だって捉えられないよね。
けど、問題は、あの二人もだけど、
「ハジメ、あの結界ってどのくらい出してられるんだっけ?」
ハジメを見てみると、両手を構えながら集中してる。けど、顔には汗が光ってる。
「結界は距離が遠のくほど、そして数が多いほど出しておくのに力がいる。それをあの距離であの数だ。せいぜい保って……三分」
三分……
「梓さん達にこのこと……」
「よせ!」
カナエの言葉を、ハジメは叫んで否定する。
「今余計な口を挟んでも、あいつらに余計な気を持たせるだけだ。安心しろ。仮に保たなくなっても、あいつらを無事に地上に降ろすだけの結界は出していられる。それに……」
「それに?」
「不思議だが、確信できる。あいつらには、三分もあれば十分だ」
ハジメ……
「……」
すると、カナエがそんなハジメの肩を支えた。
「ならせめて、私があなたを支えます。倒れそうになったら、構わず倒れて下さい。私が受け止めますから」
「……悪いな」
二人とも、梓達を信じてる。
二人が信じてるんだから、僕だって信じなきゃいけないよね。僕は、あんなに強い二人と同じ名前を持って生まれたんだから。
視点:梓
「どうした? 逃げてばかりでは勝てないぞ」
確かに。しかし、こんな場所では動き回るのが限界だ。攻撃を仕掛けようにも、踏み台が小さ過ぎる。
「ええ、分かっています」
と、梓さんは微笑みながら、レイジオンを見据え、
「そろそろ参ります!!」
「……!」
垂直の結界を両足で蹴り上げ、レイジオンに向かって跳んでいった!
「ふん……」
しかし、レイジオンは簡単に避けてしまう。
避けられた後で、梓さんは上手く結界の上に着地しました。
「判断は面白かったが、それだけではな」
それだけ……
その言葉がなぜか、一人だけでは無理、と聞こえました。
「では、それが増えたならどうです!?」
私も梓さんと同じように、縦の結界を蹴り、レイジオンに向かって跳ぶ。避けられたので着地。向こう側では梓さんも同じことを。
「……」
しかし、レイジオンは二人とも避けてしまう。
ですが……
「これなら……」
いけます!!
視点:外
梓は二人とも、互いにこの場所には慣れたようで、先程以上の速度と動きで結界の上を渡り歩く。
「動きが早くなった……」
二人が共に、常に一歩踏み込めば次の結界へ跳び移り、更に一歩踏み込めば垂直の結界を蹴り上げる。そして、その動きが徐々に早くなっていき、遂にはレイジオンの目では捉えることができない速度となっていく。そんな二人がレイジオンの四方八方を飛び交う姿は、まさに二人の梓による結界と言えた。
「まさか、これほどとは……見事だ!!」
その言葉の直後、二人の梓は同時にレイジオンへと跳んだ。そして、互いに別側の翼に、手刀を放つ。
「くっ!」
ギリギリの所で身をかわすが、手刀は翼に、普通に飛んではいられなくなるだけの傷をつけた。
その翼で現在の浮力を維持することは不可能と判断し、地面へと降りる。
「私達も」
「ええ」
二人の梓も、結界を渡り地面へと降り立った。
視点:アズサ
レイジオンが墜落した後で、梓達も地上に降りてきた。
「ハジメさん!」
ここに来て、梓が最初に叫んだのがそんな声。
振り返ると、ハジメは結界を消して、その直後にカナエに倒れ掛かった。
「……少し疲れた……悪いが、後は頼んで良いか……」
青と紫は、無言で頷く。
「くくく……」
僕らの見てるのと反対方向から、レイジオンの声が聞こえる。
「まさか、空中で私が、人間に遅れを取るとは思わなかったぞ」
墜落しておいて、かなり偉そうなこと言ってる。
「……一つだけ解せない」
と、青梓が急に声を出した。
「私達に不意打ちを当てた後、なぜすぐアズサ達に向かわなかったのですか? あなたなら、ずっと棒立ちしていたアズサ達を殺すことなど造作もなかったはずだ」
『!!』
その質問で、僕らは三人とも氷ついた。
そうだよ。二人が空に浮いた時、僕らはジッとしちゃってたけど、あんなの、殺して下さいって言ってるようなもんだったじゃん(て言うか、殴られたそばからそれをちゃんと見てた二人もすごいけど)。
なのに、レイジオンは手出ししなかった……
「理由は一つ。それではつまらんからだ」
「つまらん?」
つまらん……?
「お前達を殺すのは確かに簡単だ。だが、私は舞姫を手に入れるよりも、お前達双子との、戦いにだけ興味があった。だからここまで来た。戦争が終わってからというもの、血沸き肉躍る、そんな戦いは全くできなかったのだから」
こいつ……
「戦いこそが私の生き甲斐。そして、生きる証。私はそれを感じに来たのだ。舞姫など、所詮はそれのついでに過ぎない」
こいつ、ただの戦闘狂だったのか……
「戦いの中で感じる快楽……」
「他者を蹂躙し自己陶酔……」
「もはや救いようは無い。しかし、戦うことだけがあなたへの救いなら!」
「私達があなたを倒し、あなたをも救ってみせましょう!」
レイジオンを救う? 倒すことが救うって、なに……?
「私を救う、か……やってみろ!!」
……っ!!
視点:外
レイジオンは叫ぶと同時に、姿を消し、梓の懐へ入った。そして不意打ちした時と同じように、両手を二人の体へ。
だが、梓もそれを当たる寸前で受け止める。しかしその表情は、明らかな動揺と驚愕が浮かんでいた。
「地上なら私に勝てると思ったか? だが残念だ。私は、翼以上に己の肉体を信じている」
『くぅ……!!』
そんな言葉の直後、二人の梓は後ろへと飛ばされた。それでも地面を両足で抉りながら、どうにかブレーキを掛ける。
止まったと同時に一瞬で後ろへと下がる。だがそれは、はたから見れば後ろへの瞬間移動に見える速度。
そして、
ヒュッ!
また姿を消し、レイジオンの懐へ。
ガァアアン!!
「うぅぐ……!!」
レイジオンの、人間で言えば鳩尾となる部分を全力で殴りつけた。レイジオンは苦痛の声を上げながら、後ろへと後ずさった。
「……予想以上だ。速さだけなら私以上だな。人間とは思えない強さだ。甲冑が無ければ死んでいただろう。お前達のその拳のように……」
「っ!! 青紫!!」
レイジオンの言葉に、アズサは悲鳴を上げた。
レイジオンを殴った拳。青梓の左手と、紫梓の右手。それぞれの手が小刻みに震え、拳の皮は剥がれ、所々が赤く腫れ青く染まり、赤い液体が地面にポタポタと落ちている。
「……この程度で、私達の拳が死んでしまったと」
「……見た目以上に、とんだロマンチストですね」
二人とも、余裕だという笑顔を浮かべながら、構える。
「最高だ、お前達……」
レイジオンが言い切る前に、また二人の梓は姿を消した。
ガッ
ガッガッガッ
ガッ
姿を消すと同時に、打撃による金属音が森に響く。レイジオンはそれらの打撃を黙って受けているが、その度に体が大きくのけ反る。だが、それ以上のダメージはほとんど受けていない。
「一撃一撃が、速度によって威力を増している。だが、それだけだ……」
見えない兜の下の顔は、間違いなく笑っていた。森に響く金属音も、徐々に早くなっていくが、それに比例するように、その音に重さは無くなっていく。
「どうした? 直前よりも弱くなっているぞ?」
レイジオンも、攻撃を受けている当人として当然気付いている。
「まあいい。ここまでだ」
そう呟くと同時に両手を動かす。その瞬間、姿を消していた二人の梓が現れ、アズサの元へ殴り飛ばされた。
「ぐぅ!」
「がぁ!」
「うおっ!!」
飛ばされた梓を受け止めながら、アズサは息を呑む。先程のそれぞれの拳と同じく、二人とも両手の拳、また両足までもが真っ赤に腫れ、出血している。
二人が消えている間気付かなかったが、レイジオンの甲冑が、そしてその足下及び周囲の雪が、所々赤く染まっていた。
「恐ろしい力だ。さっきも言ったが、甲冑が無ければ死んでいただろう。だが、それではもう攻撃はできないなっ!」
その言葉に、反射的にアズサは二人の前に立ち、輪刀を手に身構えた。
だが、そのアズサの襟元を何かに掴まれ、引っ張り出される。
「ちょっ!」
ドォッ!!
そして、それが紫梓によるものだと分かった瞬間には、二人はレイジオンの攻撃を受けていた。
『っ……!!』
二人共が、別方向に吹き飛ばされ、地面に引きずられる。二人とも同時に止まり、立ち上がってレイジオンに向かったが、
ドォッ!!
また殴り飛ばされた。
「それ以上は無駄だ」
そんなレイジオンの言葉も、梓は聞こえていない。何度もレイジオンに向かっては、その都度殴り飛ばされてしまう。
そして、そんな二人の梓の姿を、アズサは、ハジメとカナエは、何もできず見ていた。
(あの二人でも勝てないなんて……僕らには、何もできること無いじゃん……)
とてつもない無力感。
今までも、数々のワームを三人で撃退してきた。戦争でもそれなりの戦果を上げ、自分は強いと、自分に自信を持てるだけの力を持っていた。
それが今はどうだ。そもそも、今では『コウ』として梓達に手懐けられている、『ワーム・キング』に臆していた時点で、そんな物は無意味だったのだろう。二人の梓のような、度胸も無ければ、諦めの悪さも無い。そんな自分は今、とてつもなく無力だった。
目の前でボロボロに、血だらけになっていく梓達の姿。
それ以上見ることができず、目を逸らした。
「しっかりしろ!!」
耳元で、その叫びが響く。直前までボロボロだったハジメがアズサの肩を取り、叫んでいた。
「お前が見届けなくてどうする……? お前だけじゃない、あの二人を戦いに巻き込んだのは、俺達だぞ……!!」
息も絶え絶えになりながらも、力強く叫ぶその目には、今のアズサには無い輝きが灯っていた。
「あの二人を見ろ。今のお前のように、諦めているか……?」
背けた目を、もう一度梓達に向けた。
二人の梓は、あれだけ発していた美しさが嘘ではないかと思える程、ボロボロになっていた。髪や着物は土と傷と血で汚れ、体の節々からは血を流し、息は乱れ、いつ倒れてしまってもおかしくはない。だが、その目だけは、レイジオンと対峙した時と全く変わらない。
二人とも、ただ自分の勝利のみを信じ、それを目指し、立ち上がっている。
「諦めの悪さも一級だ。だが、終わりだっ!」
また姿を消し、アズサ達に迫る。
『っ!!』
だが二人は、姿を消して見えないその拳を、確かにかわした。そして、その腕を捕まえ、レイジオンとは逆方向へ跳び、その勢いのまま背中から倒れ、そして、
ガコッ
その鈍い音は、二つが同時に響いた。
レイジオンの両手が後ろへ伸びあがり、そのままうつ伏せに倒れたと同時に、両肩が外れた。
「……なるほどな。初めから打撃での決着を捨て、これを狙っていたのか……」
地面に伏せながら、レイジオンは苦痛に歪んだ声で、二人に話し掛ける。
「……そんな腕になるまで攻撃をやめなかったのは、私に間接への狙いを悟らせないため。そして、攻撃を受け続けたのは、このチャンスを掴むため……」
「だが」
最後の言葉を聞いた瞬間、二人の体は上へ持ち上げられる。そして、その体を大きく振り払われ、二人は手を離し、飛んでいった。
「狙いは良かった。だが、甘い。それだけで私を倒すことはできない」
そう言いつつ身近に立つ木に右肩をぶつける。嫌な音が響くと同時に、右肩がはまる。左の肩は直接右手ではめ、何事も無かったかのように回してみせる。
「翼を傷つけられ、鎧の上からでも響く打撃を受け、両肩を外される……」
「これだ! 私が求めていたものは、まさにこれだ!!」
「もっと楽しませてくれ!! 私を!!」
そしてもう一度姿を消す。
『く!!』
だが梓も、共に何度も受けた攻撃を受けることは無く、その身をかわす。そして先程と同じようにその両腕に手を伸ばし、
ガコッ
今度はひじを外した。
「いいぞ!! その調子だ!!」
平然とひじを戻すと、もう一度向かっていく。
二人の梓も、それ以上は無駄だと判断したのか、走った。
互いに二対一で向かい合い、その場で立ち止まり、殴り合う。三人ともに両腕が消えていた。
「ふははははははは!!」
「うおおおおおおお!!」
「ああああああああ!!」
だが、傷ついていく梓達とは違い、レイジオンは攻撃を受けても全く効いていない。鎧で守られたその体には、傷どころか、ダメージさえほとんど与えられていない。
「もっと!! もっとだ!!」
打撃音と同時に、レイジオンの歓喜がこだまする。
「これだ!! これこそが!! 生きているということだ!!」
「ふはははははははははははは!!」
「あいつ、自分が傷つかないのを良いことに……」
「けど、私達には、できることは……」
「あそこに割り込んでも、二人の足手まといになってしまうだけだ……」
そして、遂に二人は、また後ろへと吹き飛ばされた。
「二人とも、大したものだ。ここまでよく戦った」
急に、レイジオンは力を抜き、そう語り掛ける。
「十分だ。これほどの快感は戦争ですら滅多に無かった。お前達に褒美を与えよう」
最後にそう言いながら、腰の剣を抜く。
「この
『……っ!』
「まずい!!」
遂に沈黙していた三人が動いた。アズサが輪刀を投げ、ハジメが突撃し、カナエが氷を飛ばす。
「邪魔だ」
だが、それは全て、剣の一振りで防がれてしまい、一人突撃したハジメも吹っ飛んだ。
「うわ!!」
それをアズサが受け止めた。
先程の結界と今の一撃で、既に限界が近い。
「終わりだ」
もう一度剣を構え、二人の梓に向かい、そして、走った。
『っ!!』
ガッキッ!!
「……」
「……」
「……お前……」
目の前の光景に、レイジオンは感嘆の声を上げる。
仕留めたと思った二人、その内の青梓が、刀を手に、その剣による一撃を受け止めていた。
「そうか。お前も刀を……」
「……」
「まだそんな物を隠していたとは、何という……最高だ!!」
叫ぶと同時に剣に力を籠め、青梓は、そしてそれを受け止めた紫梓も同時に後ろへ。
後ろの木にぶつかったことで止まった。
「梓、刀を使うのか!?」
声を上げたのは、二人と同じく刀を使うハジメ。
「うん。けど、事情があって、刀はもう使えなかったんだ」
「なに?」
「だが惜しむらくは、その刀、既に死んでいるな」
「!!」
ハジメもようやく気付いた。青梓の持つ刀にある、刀としては致命的な刃こぼれに。
「そのせいで今まで使えなかった。そして、私が剣を抜いたことで使わざるを得なくなったというわけだ。残念だ。よければその腕、見てみたかったがな」
当然、刀に刃こぼれがあろうとレイジオンの攻撃が緩むことは無い。剣を次々に振りかざし、受け止めることしかできない梓を攻める。そして、そうしているうちに刀への刃こぼれは増え、状態はますます酷くなっていく。
そして、
「これがとどめだ!!」
キィィィィィィィィィィィィン……
その音はまるで、刀の悲鳴だった。
金属音と共に、青梓が愛用していた刀が、遂に折れてしまった。
「死ね!」
青梓に、その剣が迫る。
ガッ!!
だが、レイジオンの剣は青梓から逸れ、その足下の地面を抉る。
「ほぅ、そんな芸当までできるか」
ずっと、二人の攻防を黙って見ていた紫梓が、二人の間に入り、拳を握っていた。そして、レイジオンの剣のふちには赤い液体。
紫梓が、高速で振られる剣の縁を殴り、その起動を変えたのである。
「ふん……」
しかし、すぐに左手で殴られ、後ろへ吹き飛ぶ。
「どうやら、もはやこれ以上は求めるだけ無駄らしいな」
今度は青梓の胸倉を掴み、紫梓と同じ方向に投げ飛ばす。
「残念だ」
そして、また剣を二人に向けた。
「これで終わりだ……」
「梓!!」
「梓さん!!」
「……まだだ、梓!!」
「な、ハジメ!!」
カナエが叫んだ時、ハジメはレイジオンに向かって走った。
「ダメだ、ハジメさん……」
「来てはいけない……」
そんな二人の声も、ハジメには聞こえていない。腰に手を添え、レイジオンに向かっていく。
「バカが……」
しかし、梓と同じように、腕ではらわれただけで吹き飛び、木に激突する。
「ハジメ!!」
カナエの悲鳴が響く中、レイジオンの笑い声も響いた。
「刀を抜く暇さえ無いとはな。二人とは違い、弱過ぎる」
ハジメは地面に降り立ち、そこへカナエが走り寄った。既に立っているのが限界だった。
だが、顔は笑っていた。
「……いや、これで、良い……」
「なに?」
疑問に感じた時、レイジオンは初めて気付いた。
(腰にあった刀が、二本とも消えているだと?)
そして、ハッと気付き、二人に視線を戻した時、
キンッ
キンッ
二つの音が響くと同時に、二人の梓はレイジオンの横を通り過ぎる。
ピシィッ
「ぐぁあはぁあ!!」
金属に亀裂が入る音、そして、レイジオンの断末魔が同時にこだました。
「バカな……甲冑ごと、切り裂いただと……この、私を……」
甲冑の胸には、十字型に切り裂かれた跡があり、そこから出血している。
そして、振り返った時、二人の梓は、鞘に納まった刀を掲げていた。
「ふ、ふふふふ……嬉しいぞ、人間が、これほどの傷を私に与えるとは……人間と対峙し、ここまで楽しめたのは、奴との戦い以来だ……」
「奴?」
「これが互いに最後か……互いに、生きるか、死ぬか!!」
胸の傷を押さえながら、二人の梓へ、姿を消した。
『刃に咎を!! 鞘に贖いを!!』
キィィィィィィィィィン!!
ガガガガガガガ!!
ズバァアアア!!
三人が交わった、一瞬の出来事だった。
二人の剣撃に、レイジオンの剣は折れ、甲冑は砕かれ、そして、肉を切り裂いた。
そして、そのまま後ろへと吹き飛び、うつ伏せに倒れる。
「……そうか……始めから……私は、負けていたのか……」
微笑と共に呟きながら、自らの末路と、その過程に自嘲する。
「刀を持った途端、これだけの力とは……レイヴンごときが勝てないはずだ……何者だ、お前達……」
『……』
『私の名は、水瀬梓……』
「あなた方四人の悪魔、そして、三匹の龍を狩る者……」
「そして、どこにでもいる、平凡な双子の兄弟です……」
「……」
「……私も、お前の元へいくぞ……ライホ……ゥ……」
最後に呟いたと同時に、レイジオンは、息絶えた。
視点:アズサ
「梓!!」
すごい!! 本当に、三神将の一人のレイジオンを倒しちゃった!!
そんなレイジオンを前に、立ってる梓達に近づいた。
「すごい!! 二人とも、すごい!!」
木にもたれ掛かってるハジメも、それを看てるカナエも二人を見て、驚いて、笑ってる。
「正直ダメだって思ったけど、すごいよ二人とも!!」
『……』
けど、これだけ話し掛けてるのに、二人は全然反応しない。
「梓?」
バタッ
「梓!!」
話し掛けた直後、二人とも倒れた!!
「まずい、もうとっくに限界だったんだ!!」
「急いで里に戻りましょう!!」
「俺は良い、二人を支えてやれ!!」
そうやり取りしながら、僕らは二人を抱き抱えて、里に引き返した。
……
…………
………………
視点:外
「レイジオン……逝ったのか……」
「……」
暗い空間に、二人の男がいた。二人が共に感じた。仲間の、死を……
……
…………
………………
「まさか、これほどとは……」
そして、その戦いと、五人の姿を、森の上から見つめる者が一人。
「レイジオンの言った通り、素晴らしい力だ。特に……色の男」
「手に入れたい……」
お疲れ~。
本当に決闘は次いつになるだろう。
大海にも全く見当がつきませぬ。
けどまあいずれ、話しの中で必ず書きますゆえ。
まずは次話まで、ちょっと待ってて。