では第七話へ~。
ちょっとばかり時間軸がおかしなことになってますが、まあ細かいことは気にせず行きましょう。
それじゃ、行ってらっしゃい。
視点:あずさ
「私、中学生になったらちゃんと試験を受けてまた来るねー!」
「だってよ、カイザー」
笑いながら、亮さんをからかってる十代くん。けど、亮さんは笑ってる。
「その時には、俺はもう卒業しているがな」
それで十代くんは、あれ? ていう疑問の顔を見せた。
まあ、十代くんだったらそうなるかもね。だって、
「待っててね! 十代さまーーーーーーー!!」
「はいぃぃぃぃぃいいいいいいいいい!?」
やっぱりね。
わたしはポンと、十代くんの肩に手を置いた。
「君と決闘して、惚れられちゃったんだよきっと」
そして、万丈目くんも、わたしとは逆の肩に手を置いてる。
「良かったな十代。可愛い恋人ができたじゃないか」
お互い、完全に今の十代くんを楽しんでるってこと。わたし達だけじゃなくて、翔くんや隼人くんもそうみたい。
「……」
あれ? 何だか、後ろから殺気が……
ゆっくり振り返ると……
「あ、明日香……?」
何気に鈍感な十代くんも、さすがにそれには気付いたみたいで、震えながら後ろを向いた。
「もてるわねぇ、十代」
満面の笑顔なんだけど、体全体からおかしなオーラみたいなのが見えてる。気のせいかとも思ったけど、多分、気のせいじゃないよね。
「あ、あはは……」
十代くんは、理由は分かってないみたいだけど、完全にそんな明日香ちゃんに恐れおののいてるって感じで、引きつった笑いを見せた。
「じゃ、じゃあ、僕はもう帰るっス……」
「お、俺も……」
「またな。十代……」
翔くん、隼人くん、亮さんはそのまま笑顔で帰っていった。
「おい! お前らー!!」
「十代いぃ……」
と、明日香ちゃんは猫撫で声で十代くんの後ろに立つ。
「これからあなたのお部屋にお邪魔させてもらっていいかしら?」
「い、いや、それは、その……」
「ちなみに拒否権は無いから」
「はい明日香さん……」
諦めたみたい。
そんな感じで、十代くんは明日香ちゃんに引っ張られる形で寮へと戻っていった。
「天上院君は何を怒っていたんだ?」
万丈目くんは分かってないみたい。
「色々あるんだよ。きっと」
本当のこと知ったら、万丈目くん傷つくだろうからな……
「……まあ良い」
と、万丈目くんはまた目を船の方に戻した。
「どうかした?」
やけに思い詰めた感じだけど。
「いや、久しぶりだったからな。梓がいなくなってから、お前や、十代達が心から笑ったのを見たのは」
「……そうかな……」
「顔は笑っている。だが、心から笑えてはいなかった」
「……」
確かにね。
梓くんがいなくなって、わたしもそうだけど、みんなも、毎日どこか悲しそうにしてた。そりゃあ、梓くんのこと以外にも考えなきゃいけないことはたくさんある。だから普通に笑いもするし、話しをすれば明るく接する。
でも、特に何も考えることが無い時は、嫌でも梓くんの顔が浮かんじゃう。
第一、何かをしてても、頭の片隅にはいつも梓くんがいる。みんながそうなのかは分からない。でも、梓くんの笑顔、純粋さ、それが、忘れろって言う方が無理だって言えるくらい、目や頭に焼きついちゃってる。それだけみんなの心に残る存在だったんだ。
人によってその形は違う。
憧れ、敬愛、友情、尊敬、恩義、それに、恋愛……
「それだけの人だったってことだよね……」
「ああ。退学して、帰ってきて、そして今までずっと感じてきたことだ。一部の生徒にとっての、梓という存在の大きさを。誰からも憧れられ、恩義を受け、そして、愛される人間だった」
そう話す万丈目くんの顔も、ずっと悲しそうだった。
「それだけの存在がいなくなったんだ。普段通りに明るく振る舞うことはできても、心の底から明るい気持ちになるなど、その存在が再び現れない限り普通は無理だ」
「……それが、今日は違ったってこと?」
「今日と昨日の、二日間はな」
なるほどね……
「カイザー目当てにアカデミアまではるばるやってきた、破天荒な少女。『早乙女 レイ』の存在は、俺達に心から笑うという行為を思い出させてくれた。感謝している。まだ俺も、心から笑うことができるということを教えてくれたからな」
……うん。
「そうだね」
その通りだよ。
『早乙女 レイ』ちゃん。
昨日オシリスレッドにやってきた転校生。部屋は十代くんと同じ部屋になった。
けど、お風呂には入りたがらないし、十代くんの着替えを見るのを嫌がるしで、色々と変だったらしい。それで、そんなレイちゃんの様子がおかしくて、十代くんが後をつけると、オベリスクブルーの寮へ。そこで知っちゃった、
その後も色々あって、十代くんと決闘することになったんだけど、十代くんをあと一歩の所まで追いつめて、負けちゃった。
その後改めて亮さんに告白したけど、見事に玉砕。亮さんいわく、
「今の俺には決闘だけだ」
だって。
でも一番衝撃的だったのが、アカデミアでも指折りの実力者である十代くんを追い詰めたのが、小学校五年生の女の子だったってこと。それが原因で、その次の日、つまり今日、帰ることになったんだけどね。
それで、みんなで見送って、今に至るってこと。
「……わたしは、レイちゃんが羨ましい」
「……ああ。よく分かる。違う意味でだがな」
万丈目くんも同じ気持ちなんだ。
「自分の正直な気持ちに従って、例え周りから否定されようが、後悔しないためにと全力で今この瞬間を動く。言葉にする以上に、勇気がいることだ」
「……」
わたしも、できることなら今すぐアカデミアを飛び出したい。梓くんを探したい。でも、手掛かりも無ければ足取りさえ掴めない。
「間違っているとは分かっている。だが、今すぐにでも全てを放りだして、あいつを探しにいくことができれば、どれだけ楽になれるだろうな」
そこまで同じだなんてね。
けど……
「だが、自分に正直でいたいという気持ちも、自分勝手な行動を取って良いと言う理由にはならない」
そういうことなんだよね。
「何らかの行動を取るということは、そのための責任を持つことになるということだ。そのせいで誰かに対して、少なからずの迷惑が掛かることも覚悟しなければならない。仮に今ここを飛び出したとして、まず家族が心配するだろうな。あいつの家族がそう思っているように。そして、余計な心配を掛けて、結果多大な迷惑を掛ける。それでも構わずあいつを探しにいく……そんな覚悟、俺には持てない」
「……」
「弱虫とか意気地無しとか、そんな風に言われればそれまでだ。その通りだと認める。だが、自分のことならともかく、自分以外の人間のことを考えると……結局俺に持つことができる覚悟など、それが限界ということだ」
「……うん。分かるよ」
わたしだって、そうだもん。
「毎日梓くんのことばっかり考えて、心配して、今にもおかしくなりそうなのに、そのくせそのための行動を取ろうとはしないで、普通に授業を受けたり、しなきゃいけないことだけしてる。周りの人への迷惑とか、手掛かりが無いとか、色んな理由があるけど、結局、その行動を取ることが怖いだけだから……」
そう思う度に思うんだ。わたし自身本当は、梓くんのこと、そこまで思ってないんじゃないかなって。よく恋愛映画なんかじゃ、恋人のためならどんなことでもできるっていう描写があるけど、わたしには、そんな勇気持てない。
本当に、わたしって……
「お前はそれで良い」
突然、万丈目くんがそう話し掛けた。
「あいつのことを思い、そのために何もできない自分にも言い訳をせず、それでも一途にあいつのことを思っている。ただ思いやっているというだけで満足しているような人間に比べれば遥かにマシだ。何より……」
万丈目くんは一度目を閉じて、またわたしを見る。
「お前には、あいつをここで待つ義務がある」
「わたしに?」
「そうだ。あいつは今、人を捨てて仇を探している。だが、少なくともあいつが自分を人だと自覚していた間、あいつにとって誰よりも大きな存在が、お前だった。今その思いを不要だと考えているのだとしても、まだあいつの中にその気持ちが残っているのなら、きっと、あいつはお前に会いに来る。そしてお前は、それを迎えてやらねばならん。それが、愛し、愛される人間に対して持たなければならない責任だ」
「……」
……
「まさか、万丈目くんがそんなこと言うなんてね」
「む? 何がおかしい?」
「おかしくないよ。ただ、ちょっと意外だって感じただけ」
「ふん。俺は先に戻るぞ。授業には遅れんようにな」
万丈目くんはそっぽを向いて、歩いて行っちゃった。
ずっと疑問だったけど、梓くんが万丈目くんに憧れてた理由が、やっと分かった気がした。万丈目くんほど、誰かの気持ちを理解して、正しい言葉や行動を示してくれる人はいない。彼も梓くんとは違う意味で、とても純粋で、真っ直ぐで、不器用で、そして、強い人なんだ。その強さに、君は憧れたんだね。
ちょっとだけ羨ましいって感じたけど、その気持ちもすぐに無くなった。
だってわたしは、君に憧れられたくない。
君に、好きでいてほしいから。
「帰ろう。今日も授業だよ」
梓くん、今、どうしてる?
何してるのか、全然分かんないや。君はいつだって、わたし達の予想以上の行動を取ってたんだもん。
今でもやっぱり、怒ってるのかな?
それとも以外と笑ってたり、泣いてたりしてるのかな……
……
…………
………………
視点:外
「なぜ、こんな……」
「こんな仕打ち、あんまりです……」
目の前の光景に、二人の梓は打ちひしがれ、涙を流していた。それも……
「二人とも、目から血の涙を……」
「それほどまでに……」
「……」
「なぜ……」
「どうして……」
『納豆にネギが付いていないのですか……?』
その質問に、三人は困惑の表情を浮かべるばかり。
「その、ネギは今手元に無くて、その……」
「と言うより、俺達全員、納豆には醤油だけだからな……」
困惑しながら答えるカナエとハジメに対し、二人は顔を向けた。
「あまり偉そうなことを言えた身分ではありませんが、納豆に刻みネギを加えるのは、美味しいだけではなく栄養的にもかなり良いのです。納豆には疲労回復やダイエットに良いとされるビタミンB群が豊富です。特にビタミンB2は大豆である時の約四倍、ビタミンB6は約十倍も含まれていてペチャクチャペチャクチャペチャクチャペチャクチャ……」
「そしてネギに含まれるアリシンはそのビタミンB群のうちのビタミンB1の吸収率を高めてくれるので、納豆とは非常に相性が良いのです。更に納豆の粘り成分であるナットウキナーゼには血栓を溶かす働きがあり、ネギに血栓ができるのを予防する効果があるので、血液をサラサラにする効果が期待できてペチャクチャペチャクチャ……」
話す間、大量の赤い液体がその頬を伝い、二人のひざを赤く染めていく。
居候の身分としては、本来こんな発言をすべきではないと二人とも自覚はしている。同時に二人とも、普段は全く我がままを口にすることは無いうえ、そもそも食事も積極的に摂る人間ではない。
だが、そんな二人とは言え、元いた世界で培ってきた習慣やこだわりを払拭することは難しい。どうしてもこれだけは譲れないという物。それは誰もが共通して持つ物。
そして二人にとってのそれが、「納豆にネギを加えて食べる」、という習慣だった。
「ペチャクチャ言わずに落ち着いて下さい。この次は必ずネギも用意しておきますから」
「(ぐすんっ)本当ですか……?」
「はい」
「良かった……(ぐすんっ)」
「刻む時は、白い部分も忘れずにお願いします……」
「納豆には無いビタミンCが、ネギの白い部分には豊富に含まれていますから……」
カナエに話し掛けることで、二人の頬の光は徐々に赤色から、透明色へと変わっていき、やがて涙も止まった。
「納豆、ネギ抜きでもやはり美味しいです」
「ええ。大豆本来の味がご飯によく合いますね」
『……』
(『この人達って……』)
そうして、二人が笑顔で会話しながら、その日の食事も終わっていった。
お疲れ~。
納豆、美味しいよね。ネギ、外せないよね。無い時は仕方ないけどある時は必ず入れます。
皆さん、納豆にはネギ入れる方でしょうか?
まあどちらでも良いのですが。
てなわけで、次話まで待ってて。