第二部行きま~す。
なお、第二部ではちょっとしたチャレンジをしたいと思っています。
どんなかは、まあ読んでやって下さい。
じゃ、行ってらっしゃい。
第一話 異なる世、花の出会い
視点:十代
部屋に戻って、気が付けばあいつのことばかり考えてる。
結局、対抗決闘が終わってから今日まで、梓の手掛かりは全く無い。あの後万丈目から聞いたけど、梓は、もうここには用は無いって言ったらしい。だから、最後の希望だった、梓が最後にここへ来るかもしれないっていう可能性も無くなった。梓を探すための手掛かりもゼロになっちまったんだ。今でも先生達が八方手を尽くして、色んな所を探してる。
けど、良いこともあった。
あの時の万丈目の訴えを聞いて、もう一度梓に会いたいって言い出す生徒が増えたんだ。ほとんどの梓のファンは、あいつの変わり様に引いちまったうえ、いなくなって時間が経ち過ぎたから、あいつのことは忘れたみたいだった。けどあいつは、三つの寮で差別無く色んな奴と接してきた。あいつが開くお茶会で、ブルーの生徒とレッドの生徒が同席するなんてことは普通のことだったらしい。どんな寮の生徒にも、優しくして、絶対差別なんかせずに、大勢の生徒と笑い合って、友達になった。
そんな、あいつの友達になれた生徒達が、梓の優しさを思い出した。だから今ではみんなが梓に帰ってきて欲しいって思ってて、今じゃ先生達だけじゃなくて、生徒達の間でも、梓を探し始めた奴らがいる。ブルーなんかには万丈目みたいな金持ちも何人かいるからな。
全員、梓のことが好きなんだ。もちろん俺だって。
梓。俺が万丈目との決闘で言った言葉に嘘は一つも無い。
お前が自分を許せないって言うなら、俺が許すから。俺だけじゃない。アカデミアには、お前のことを許してやれる奴がたくさんいるんだ。
だから、いつまでも意固地になってないで、帰ってこいよ。
またみんなと笑いあおうぜ、梓。
視点:明日香
今でも時々思い出す。
梓の凶王化は、あの日以外にも見たことはあった。初めてあの状態の梓を見た時、とにかく怖かったのは今でも覚えてる。本気で殺されるって思った。途中であずさが現われなかったらどうなってたか、今でも考えただけでゾッとする。
それからも何度か、梓の凶王化は見てきた。その度に梓の変わり様に呆れて、同時に梓の力を怖いと感じた。
けど、あの時の梓の凶王化は、怖いとは思わなかった。初めて見た人からすれば怖かっただろうけど、私にはむしろ、とにかく悲しい、そう感じた。いつも通り、怒って凶王化して、それで暴れて。最初はそう思ったけど、けど何度もあの人に斬り掛かってる姿は、いつもの怖い梓じゃなくて、まるで本当はそんなことはしたくないけど、それでも他に何もできないから斬り掛かる。そんなふうに見えた。
それでも、梓があの人に恨みを持っていることは確実よね。どんな恨みなのか、どれだけの恨みなのか、そして、どんなことをされたのか。
それは分からないけど、あんなに悲しそうに襲い掛かるくらいだから、よほど悲しくて、そして激しい怒りを生んだ何かがあったのね。
正直、私には梓の気持ちは分からない。誰かをそこまで恨んだ経験が無いから。殺したくなるほど相手を憎むことなんて、一生に何度あることなのかしら。
そして、梓は今、そんな感情に襲われてる。
梓、あなたならそれがどれだけ辛い現実なのか分かっているはずよ。
だから、帰ってきなさいよ。みんなあなたを待ってるんだから。
一番待ってる人だって、いるんだから。
早く戻ってきなさい。梓。
視点:翔
梓さん、聞いて下さい。
この間の月一試験の結果、筆記も実技も凄く良かったんだ。相手はラーイエローの生徒を当てられたんだけど、毎日勉強してることを思い出して、冷静にカードをプレイしたら、勝っちゃった。
筆記も今までは下から数えた方が早かったのに、初めて一年全体で二十位以内だった。もし次の月一試験でこの成績をキープすることができたら、ラーイエローに昇格させてくれるって、あのクロノス先生が約束してくれた。僕は今まさに、波に乗ってる状態だよ。
これもみんな、梓さんのお陰なんすよ。きっと梓さんのことだから、そんなこと言っても否定するだろうな。そりゃ、僕だって僕なりに努力をしてきたから今みたいになることができた。けど、そのキッカケを作ってくれたのは、梓さんなんだよ。
僕は毎日、自分にはできないことが当たり前なんだって自分に言い聞かせて、そう思い込んできた。しょうがない。僕にはできない。初めから無理だった。才能が無い。心の中でそんな言い訳ばかりを繰り返して、そのくせそれをいつも何かのせいにして、頑張らなきゃいけない場所から逃げてきたんだ。頑張ってもどうせダメなんだって、そこでも言い訳をして、ただ自分のダメさ加減に甘えて、今を精一杯生きることを諦めてた。
だけど、梓さんは、僕以上にずっと頑張ってきたんだよね。僕が今してる努力の何十倍、何百倍、千倍万倍、努力してきたんだよね。いつも見せてくれる綺麗さでそれを必死に隠して、今の自分になるために、頑張って、頑張って頑張って。
そんな、誰にも見せたくないはずの自分を、あの日、僕のために見せてくれた。自分にもできたんだから、僕にもできるんだってことを教えてくれるために。自分のことをダメだって諦めるのは簡単だけど、諦めないから自分はここにいるんだってことを教えてくれるために。
だから、僕も頑張ることにしたんだ。僕も、梓さんほどは無理でも、僕なんかでも頑張ることはできるんだって。ずっと否定と言い訳ばかりしてきた自分を、変えることができるんだって、信じて頑張ってきた。
そして、僕は変わることができた。その成果を自覚できるくらい、ここまで頑張って、変わることができた。
みんなみんな、頑張るってことを教えてくれた、梓さんのお陰なんス。
なのに……
梓さんは、その努力を否定するんスか?
万丈目くんが言ってた、何かを求めることは許されない存在だったって言葉。
それはつまり、ずっとゴミだって思ってて、やっと人に変わった自分が、またゴミに戻っちゃったって言いたいんスか? 今まで頑張って変えてきた自分を、否定するんスか? そんな梓さんが過ごしてきた毎日を、無かったことにする気っスか?
そんなのずるい。
まだ、僕はあなたにお礼だって言ってない。
僕はあなたに友達だって言ってもらえて、すごく嬉しかった。そして、あなたの友達は、ここまで強くなったんだよ。それを見もしないでいなくなる。そんなのって無いよ。
だから、帰ってきてよ、梓さん。
視点:万丈目
デッキから二枚のカードを取り出し、それをずっと眺めていた。
あの時……
(「絶対に戻ってこい!!」)
(「たとえお前がお前自身を許せなくとも、俺も、あいつらも、お前を許す!! だから、戻ってこい!! 梓!!」)
あの時は目の前の梓に夢中で、気付くことは無かった。
だが叫んだ直後、懐に違和感を覚え、探ってみると、そこには見覚えの無い、そして、今まで見たことの無い二枚のカードが入っていた。
すぐに梓だと直感した。俺が叫ぶ前、梓に胸倉を掴まれた時だ。俺も全く気付かないうちに、あいつは俺の懐にカードを忍ばせたんだ。それ以外に考えられない。
なぜそんなことをしたのか、それは分からない。だが、これほど強力なカードを俺に託した以上、何かの理由があるはず。でなければ、わざわざ手放すわけがない。あいつは確かに俺を尊敬していたし、優しい性格だったが、少なくとも理由も無しに一方的な施しを与える人間でも無い。カードをよこせと言ったところで簡単に渡す人間でもない。あいつは何も言わなかったが、普段のたたずまいなどからもそれはうかがえた。
だとすれば、どうしてあいつは、あの時無様に負けた俺なんかに、これらのカードを託したのだ。俺に、今のお前を止めて欲しいとでも言うつもりか。
だが俺は、お前から貰ったこの二枚を使っておきながら、遊城十代に敗れた。そんな俺に、お前を止めることができようか……
違う。
そうだ。お前を許す。そう言ったのは俺ではないか。
梓の境遇は、あの決闘の後で十代達から聞かされた。なるほど自分をそんな風に思い込むのも頷ける、ひどい境遇だろう。俺なんかには、分かれと言われても無理だ。
だが理解できないなりにも、お前のことは考えてやれるつもりだ。取るに足りない思いやりであることも自覚している。だが、それでも、思わずにはいられないんだ。お前のことを。
お前がどんな理由で俺にこの二枚のカードを託したのかは分からん。だが、託された以上、俺にはこの二枚のカードに見合う力を手に入れる義務がある。俺自身のためにも、そしてお前のためにも。
『禁じられた聖槍』と『禁じられた聖杯』。この二枚のカードを使いこなし、そして今以上に強くなり、必ずお前を止める。そして、笑って迎えてやる。
だから、戻ってこいよ。梓。
「……」
む?
視点:あずさ
もう何度目になるかな。ベッドに寝転がる度に、毎晩やってる作業。
あの時返しそびれちゃった、梓くんの、紫のケースに入ったデッキ。それをわたしは、毎晩のように眺めてる。
もちろんデッキの内容は覗かない。決闘者の魂が籠った、大切なデッキなんだから。簡単に見ていいものじゃないからね。ただデッキケースを眺めて、時々開いて中身があるか確認するだけ。
『六武衆』デッキを使うわたしとしては、一度じっくり見てみたい気もするけど、でも、梓くんがいない今、そんなことはしたくないもん。
最初にこのデッキを使ってるのを見た時は、すごく驚いた。けど、同じくらい嬉しかった。それまでずっと使ってた氷結界じゃなくて、わたしのデッキと同じ、六武衆を使ってたんだから。
けど、そのすぐ後に出てきた、今まで見たことの無い『真六武衆』を見て、喜びの驚きが、純粋な驚きに変わった。何度思い出しても、あの時はびっくりしたなぁ。
今思えば、梓くんにはびっくりさせられっぱなしだよ。
第一印象なんて最悪だったもん。わたしの友達の前で、刀を持って脅すみたいに構えて、今にも斬り掛かりそうだった。だからわたしが割って入って、それで女子寮を全壊させかねない大喧嘩に発展して、途中止められるまでお互いに本気で殺し合ってたよね。
その後十代くんと明日香ちゃんの決闘の後で、わたしと決闘した。君はずっと『氷結界』を使ってて、わたしは君をあと一歩って所まで追いつめた。
けど、最後には氷結界じゃない、本当に予想外な『E・HERO』を呼び出して、君は見事に逆転してみせた。あれは今でも忘れられないよ。負けちゃったけど、すごく清々しい決闘だった。
でも一番驚いたのがその後だよね。いきなりわたしを呼んだかと思うと、手を握って、
「私とお付き合いして下さい!!」
だもん。誰かに告白されるなんて、初めての経験だった。しかも、相手は完全にアカデミアのアイドルになっちゃってた梓くんだもん。わたしには高嶺の花にも程があるし、第一、初対面で、直前まで殺し合いしてた相手からそんなこと言われても、混乱するだけだよ。
けど返事をもたもたしてる間に、君は振られたと思っちゃった。一方的に告白してきて、一方的に振られたって思い込んで、今思えば、ちょっと傲慢じゃないかな。相手の気持ちをはっきりと聞かないうちに自分一人で割り切って、結論づけるなんて。ずっと返事ができなかったわたしも悪かったけど、自分の気持ちを知って欲しかったら、相手の気持ちも知るようにしなきゃダメだよ。
そして、ずっとできなかったあの時の返事、今ならできるよ。君がわたしにそう言ってくれたように、こんなわたしにそう感じてくれたように、わたしも君のこと、大好きだよ。
梓くん、わたしは君のこと、ずっと待ってる。
あの時も言ったから。何があっても、わたしは梓くんの味方だって。
梓くんのこと、このデッキと一緒に待ってるから。だから……
お願いだから帰ってきて、梓くん……
「……」
え?
……
…………
………………
視点:梓
……
…………
………………
「うぅ……」
地面の感触、空気の冷たさ、それらを感じながら、虚ろな思考を巡らせ、自分の手足に意識を飛ばす。冷え切ってはいますが、両手足は動く。体も動く。
そして地面に手を着き、体を起こし、周囲を見渡した。
「……」
一面の銀世界。地面も、道の両脇に生えている木々も、全てが雪の白に染まっている。
さて、ここは一体どこなのでしょう。
私は確か、決闘アカデミアにいたはず。多くの友達と一緒に……
友達? はて、何のことでしょう……
と、今はそんなことを考えている場合ではない。ここがどこだか分からない以上、歩かないことには何も始まらない。
歩きながら何度も周囲を見渡す。先程からほとんど風景は変わらない。どこを見渡しても、まさに一面の銀世界だ。
本当にここはどこなのか。いや、そもそも、ここは私のよく知る世界なのでしょうか。
私のいた決闘アカデミアとは、随分と場の空気と言うか、雰囲気と言うか、とにかく空間自体が違っているように感じる。まるで、私を除いた全てのものが変わってしまったように。
そんなバカな話しがあるはずが無い。無いはずですが、実際にはどうなのか分からない。
とにかく、視界に映る、五感に感じるもの全て得体が知れない。例えば今すぐにでも、後ろから何かが襲い掛かってくるような……
ほら来た!
ガンッ
刀で叩くと、それは草むらへと消えていった。
猪か何かでしょうか。正面を向いたまま叩いたせいで見えませんでした。そして、動かない。のびてしまいましたか。まあ、とにかく危険は無くなったようですね。
その後もしばらく歩きましたが、別段危険が襲ってくる気配は無い。代わりに何も、変わることは無いのですが。
「どうしたものか……」
そう、呟いた直後でした。
「わぁー!!」
「!!」
悲鳴?
間違いない、これは人の声だ。
体の向きを変え、大急ぎで声のした方へと走ります。
視点:外
一人の少女が、森の中を駆けていた。紫色の服に身を包み、ツインテールに縛った青色の髪をなびかせ、振り返る間も無く必死で走っている。
そして、そんな少女の後ろには、巻き上げられた雪によって、姿を隠した何者か。それが、少女と一定の距離を保ちながら、しかし徐々にその距離を詰めつつある。
「ヤバいヤバいヤバいヤバい……」
走りながら少女は繰り返し呟いていた。誰の目に見てもそれは明らか。追いつかれれば、まず無傷でいられる保証は無い。
だがそれは分かっていても、早く走ったところで既にそこまでやってきている。少女との距離にして、およそ一.五メートル。
そして、
「うわっ!!」
最悪なタイミングで少女は転んでしまった。
これ幸いとばかりに、
ガァンッ
「っ!!」
その驚愕が、それを見たことによって起きたものなのか、目の前の光景によって起きたものなのか、少女は混乱し、判断できなかった。
『おケガはありませんか?』
こちらに顔を向け、尋ねてくる。少女は目をパチクリとさせながら、礼を言うべきところを、質問で返してしまった。
「ご兄弟ですか?」
その質問に、二人は初めて顔を見合わせた。
視点:梓
目の前の、紫色の光景に、困惑するやら混乱するやら。
「あなたの名前は?」
「私は、水瀬梓。あなたの名前は?」
「私は、水瀬梓」
お疲れ~。
次もなるべく早く書けるようにするよ。
待っててね~。