遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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うらぁ~。
今回は短いです。
タイトルは変わったけど前話の続きです。
んじゃ説明はこのくらいで、行ってらっしゃい。



第十五話 決着、そして終幕へ

視点:あずさ

 十代くんと万丈目くん、代表に選ばれただけあってすごい決闘だった。

 佐倉くんの決闘を見た直後だったけど、それでも納得した。万丈目くん、デッキが変わったことを差し引いても本当に強い。間違いなくノース校のナンバーワンだって納得させてくれた。

 

 けど何より驚いたのが、万丈目くんが強くなった理由だった。

 

 梓くんと決闘して、梓くんの苦しみを知って、そんな、自分のことを許せない梓くんのことを許すために強くなるって。

 梓くんと仲の良かったことも意外だったし、周りもそう思ってるみたい。けど、梓くんのことをよく知ってる、わたしや、十代くん、翔くん、明日香ちゃん達には、すごく感じるものがある言葉だった。

 

 梓くんはいつだって、自分のことよりも、誰かのことばかり気に掛けて、そのために怒ったり泣いたりしてくれる、とっても優しくて、純粋な人。

 けど、その純粋さも、多分人になりたいっていう思いからだったんだと思う。自分をゴミだって思うくらい、ずっとゴミの中で生きてきた人が、必死で人になりたいって考えて、周りは自分を邪魔者扱いする敵ばかりだったけど、それでも頑張るしか無くて、誰も信じられない中、一人でずっと頑張ってきた。けど、そんな中で誰かを大切に思うって感情を思い出して、それで、今みたいになれた。

 なのに、あの時の人に出会った途端、多分色々なことを思い出したんだね。あの人への恨み事とか、思い出したくない過去とか色々。それがキッカケで、自分がそんな存在だって、思い出したんじゃなくて思い込んで、結局、復讐だけを求める気持ちに変わっちゃったんだ。

 

 でも、万丈目くんの言った通りだ。

 梓くんが自分を許せないって言うのなら、わたし達が、梓くんを許してあげれば良いんだ。だってみんな、梓くんのこと待ってるんだから。

 当然梓くんのことだから、自分を許さないためにも、すごく強いんだって思う。梓くん不器用な人だけど、一途な人だから。けど、それ以上に強くなって、梓くんを倒せるくらい強くなって、それで梓くんに勝つことができれば、梓くんのこと、許してあげられるってことになるよね。

 

 

 そのことに納得しながら、決闘に目を戻した。

 そして、序盤でかなり押してた万丈目くんが段々と押し返されて、十代くんが有利になっていってる。

 

「次だ! 次のターンで、俺は貴様を倒してみせる! 遊城十代!!」

「その前に、俺がこのターンで決着を付けてやるぜ! 万丈目サンダー!!」

 

 その会話の後で、ふと思った。

 これって今、万丈目くんのお兄さん達の力で全国放送されてる。てことは、万丈目くんが負ける時は……

 そう判断して、こっそり決闘場へ下りた。

 案の定、万丈目くんの『アームド・ドラゴンLV7』が破壊された辺りからテレビスタッフ達は慌て始めた。そして、万丈目くんが『レベル調整』で『アームド・ドラゴンLV7』呼び出した返しのターン、十代くんがフレイム・ウィングマンを呼び出した時にはそれもピークに達して、そして、

 

「全力で応えるぜ、万丈目!!」

「さあ来い!! 十代!!」

「いくぜ!!」

 

 

「ちょ! まずい!!」

「カメラ! ストップストップ!!」

 

 万丈目くんの覚悟を無駄にしちゃいけない。

 そう考えて、

 

 ドゴォ!!

 

 とっさに地面を殴ったら、

 

「おわぁ! 何だ、地震!?」

 

 スタッフ全員がよろめいて、カメラは止められずに済んだ。

 万丈目くんは最初から最後まで、自分の力を梓くんに見せつけるために、負けることも覚悟の上で決闘してる。たとえお兄さん達でもその覚悟は邪魔しちゃいけない。そう思った。

 そして、万丈目くんのライフがゼロになる瞬間まで、撮影は続いたみたいだった。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 それからがちょっと大変だった。

 負けたことに怒った万丈目くんのお兄さん達が、万丈目くんに掴みかかって、文句を撒き散らしてた。何でも決闘前、買い集めたレアカードを渡しておいたけど、それを万丈目くんは一枚も使わなかったらしい。

 けどそれは、決闘者に対して一番やっちゃいけない行為だ。この日のために、万丈目くんは色々と試行錯誤してデッキを組んだはずだよ。そこに一、二枚ならともかく、大量のカードを与えてデッキを組めっていうことは、そんな万丈目くんの努力とデッキ、決闘者としての全部を全否定するってことなんだから!

 黙って万丈目くん達のこと見てた十代くんも、最後には怒って、お兄さん達に怒鳴ってた。

 

「確かに、万丈目は負けた。けど、万丈目は勝ったんだ。勝たなきゃいけないっていう、あんたらが与えた下らないプレッシャーと必死に戦った。苦しみながらも、あんたらには勝ったんだ!!」

「そうナノーネ! そのトオーリ! カキゴオーリ! あら……お呼びでないノーネ……」

 

 何だかよく分からないこと言ってるクロノス先生をジト目で見た後で、万丈目くんは、その場の全員にそれ以上は言わないよう促した。

 そして、お兄さん達を追い返したんだけど、その直後、また万丈目くんを称える歓声が起こった。

 

 負けたけど、今の万丈目くんの姿は、過去に見てきたどの姿よりも、格好良く見えた。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 その後、夕方にはノース校が帰ることになったんだけど、

 

「悪いが、やり残したことがある。俺はこのまま本校に戻るぜ」

 その発言に、ノース校の生徒も、本校の生徒も全員が驚いてた。

「佐倉、キングの座はお前に返すぜ」

「……そうか。分かった」

 最後に佐倉くんと、そう笑顔で会話した。そして、

「万丈目」

 佐倉くんが名前を呼びながら、一枚のカードを万丈目くんに投げてよこした。

「選別だ」

 それを聞きながら、万丈目くんはカードを見て、

「良いのか? お前のデッキのキーカードだろう」

「心配はいらない。あと十枚ほどストックしてある」

「そ、そうか……」

 少しだけ引きつってる。まあ梓くんとの決闘の時からだけど、佐倉くんのデッキってほとんどが手に入りやすいノーマルカードでの構築だもんね。

 

(……だが、万丈目が使った、見たことのない二枚のカード……あれはどこで、いつの間に手に入れた……?)

 

 こうして対抗決闘は、本校の十代くんの勝利と、万丈目くんの帰還という形で幕を閉じた。ただ、万丈目くんは欠席が重なって、前みたいにブルーじゃなくて、レッドからになっちゃったけど。最初は渋っていた万丈目くんも、一応は納得したみたい。

 

「よーし、いくぞ!」

 最後に、みんなであれをやることになった。

 皆さんもご一緒に。

 

「一!」

 

『十!』

『百!』

『千!』

 

「万丈目サンダー!!」

 

『サンダー!』

 

『サンダー!!』

 

『万丈目サンダー!!』

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:外

 誰一人としていない暗闇。

 そんな空間で、ぼんやりと光る炎の赤。そして、その赤に照らし出された、鮮やかな青。少年は炎を眺めながら、何をするでもなく座り込んでいた。

 だが、何もしなくとも、彼の頭には、振り払おうとも消すことのできない、言葉が堂々巡りを続けていた。

 

(「たとえお前がお前自身を許せなくとも、俺も、あいつらも、お前を許す!! だから、戻ってこい!! 梓!!」)

 

(『自分を許せないのなら、俺だけでもあいつを許してやる。あいつがどれだけ振り払おうと、力ずくで押さえ込められるほど強くなり、奴を受け入れてやる!』)

 

(『水瀬梓! もし今この決闘を見ているなら、俺の姿を見ていろ!!』)

 

(『お前がかつて目標としていた男の姿を見ていろ!!』)

 

(『お前が否定したものは、決して間違いではなかったということを俺が証明してやる!!』)

 

 ドガァ!!

 

 それらの言葉に歓喜してしまっている自分。そんな自分へのあまりの愚かしさと腹立たしさに、力の限り地面に拳を振り下ろす。焚火は揺れ、同時に大地も振動した。

「何が許すだ……何を満たされているのだ私は……奴一人が許したからどうなる? 私の何が変わった……?」

「誰が許そうと同じだ……私は変わらない……存在することも、生きることも、求めることも、全てが許されない……」

「私にあるのは復讐だけだ……それだけが私の存在理由、生存理由だ……それ以上は求めるな……人ですらない私が、それ以上……」

 

(間違ってるよ……)

 

「!!」

 一人で呟いていた時、突然そんな、自分以外の声を、梓は確かに聞いた。

 

(間違ってる。キミは、そんなに否定されるほど、終わった人間じゃない)

 

「誰だ、何を言っている?」

 

(否定することばかり考えないで。キミのこと、必死で肯定してくれる人達がいたじゃない。キミは生きても良いんだ。ここにいたって良い人なんだよ)

 

「黙れ!! 何物かは知らんが貴様に何が分かる!?」

 

(全部分かる。ずっと見てたから。キミのこと)

 

「何を!? ……そうか、貴様か、あの人に、私のカードを授けたのは!!」

 

(あの人はキミを、否定しなかったよ。キミのこと、好きでいてくれたよ。キミことを、人としてずっと愛してくれたよ)

 

「ふざけるな!! 私が人としてあろうとしたことで、どれほどの人間が苦しんだ!? 命を落とした!? 私の存在が、どれほどの損害を人々に与えた!?」

 

(苦しんだ人々以上に、笑顔になった人達もたくさんいたよ。みんなが君に感謝して、みんなが君を肯定した)

 

「そのために苦しませた人間に対しては目を閉じろというのか!? ふざけるな、それは怠惰だ! 見ろ!! 今の私を!! 復讐に取り憑かれた醜い姿を!! 人々が求めた梓が今どこにいる!? もう貴様や、多くの人間が求めた水瀬梓はどこにもいない!! ここにあるのは、本来持つべきではない、憎悪と言う感情に支配された、人の形をした醜いゴミだ!! 復讐以外は何も求めない!! 復讐以外は許されない!! そんなゴミが一つあるだけだ!!」

 

(……そんな悲しいこと、言わないで。キミはゴミなんかじゃない。誰かを憎んだっていい。みんながそう思ってる。ボクも、そう思ってるのに……)

 

「黙れ! 貴様も私である以上私に従え!! 反論は許さない!!」

 

 謎の声と会話しながら、徐々にではあるが、その正体に気付いていた。

 ずっと長い時間、その存在を見いだしながら、明確に確信したのはつい最近のこと。そんな存在に対し、声を張り上げ、言葉の全てを否定する。

 例えゴミである自分の言葉の全てが偽りでも、相手が自分自身ならば意見する権利があると信じ、ただ叫ぶ。

 この燃え上がる憎しみ。それだけは絶対に偽りでは無い。

 そう信じて。

 

(……キミは真っ直ぐだ。けど、そんな真っ直ぐなキミが、ボクは怖い……)

 

 

(思い出してよ)

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、梓の体を、強烈な痛みが襲った。

「何だ……何をしている!?」

 

(ずっと一緒にいたけど、ボクはキミから離れるよ。ボクがいない間に、キミは思い出して。キミ自身のこと……)

 

 そして、体から何かが千切れ飛ぶ感覚と、体がふわりと浮く感覚は同時に起こった。

 

「貴様何をしたぁあああああああああああああああああああ!!」

 

(キミは絶対、ゴミなんかじゃない。そのことを、思い出して。また戻ってくるまで、待ってるから。梓のこと……)

 

 その言葉を最後に、反論の余地は愚か、その暇さえ与えられず、梓の体は消えていった。

 その目には、純粋な憎悪と、復讐心だけが、まざまざと輝いていた。

 

 

 

第一部 完

 

 

 

 




お疲れ様~。
つ~わけで、第一部完。
ここまで読んでくれた人、感謝~。

にしてもギャグ満載のこっちとシリアス全開のあっちってどっちのが好評なのだろうか。
まあUA数見たら一目瞭然だろうけれども。
まあいいや。
第二部まで待っててくれる? 
くれるなら、ちょっと待っててね。

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