決闘は無いよ~。
一応、この話で梓の性格が大体分かるんじゃないかなと。楽しんでくれるかな。
それでは、行ってらっしゃい。
視点:梓
今私は、大海原を渡る船の上にいます。肌には風が心地よく吹き、耳にはカモメの声や波の音が心地よく響きます。
(それにしても、視線を感じますね)
まあ、それも自業自得と言えましょう。全員が制服でいる中、私一人が試験の日と同じ、青色の着物を着ているのですから。
「やあ、1-B番」
突然、そんな声が聞こえました。振り返ると、あの時とは違い、黄色の制服を着た少年。
「あなたは、『三沢大地』さん」
「覚えてくれていたか?」
彼は笑顔で返事をして下さいました。なので私も笑顔を作ります。
「私のことは梓で構いません。大地さん」
「そ、そうか/// じゃあそう呼ばせてもらうよ /// 梓///」
なぜだか顔を赤くしながら、大地さんはまた笑顔を見せて下さいました。良き友達となれそうです。
視点:三沢
やれやれ。男だと分かっているものの、やはり見惚れてしまう美しさだ。彼の笑顔を見た瞬間、思わず抱き締めてしまいそうになった。
「それにしても、随分目立っているようだな」
「ええ。制服は落ち着かないので着物で来ましたが、失敗でした」
彼は服装のことを気にしているが、それだけじゃないだろう。
「それだけじゃない。君は入学でいきなりブルーだからな。まあ、君の決闘を見れば納得だが」
「え? 何のことですか?」
梓は顔に疑問を浮かべながら、俺の顔を見ている。く、いちいち可愛い仕草だ。
「もしかして、寮のことは知らなかったのか?」
その質問に、梓は困ったように頷く。どうやら本当に知らないようだ。
仕方が無い。俺は梓に、成績と寮について説明を始めた。
決闘アカデミアの高等部には、全部で三つの色に別れた寮が存在する。生徒はそれぞれ試験時の成績で区分けされ、在籍する寮がそのままその生徒のステータスとなる。
アカデミア中等部で成績優秀だった者が在籍する寮、『オベリスクブルー』。
入学試験で優秀な成績だった者が在籍する寮、『ラーイエロー』。
劣等生の集まる『オシリスレッド』。
ちなみに女子は全員ブルーに入れられる。そして男子で、中等部に在籍しておらず、高等部からアカデミアに入学した者は、どんなに優秀な成績でもラーイエローとなる。筆記の成績が梓と同率一位だった俺がイエローであるのが証拠だ。まあ、実技の内容は比べるべくも無いが。
つまり、高等部入学でいきなりブルーである梓の存在は異例中の異例と言える。そんな異例だからこそ、既にこの船にいる人間は全員それを知っている。
「では、私は私と共に学年一位であった大地さんを差し置いて、トップであるブルーに……」
説明を終えると、急に梓は哀しげな表情を浮かばせた。
「お、おい梓、どうかしたか?」
泣きだしそうな顔がかなり可愛いが、そんな思いを抑えながら話し掛ける。
「私は、正規の手順を踏まずに、たった一度の試験でブルーとなってしまった。これでは、私以外にアカデミアに入学した方々にあまりにも失礼だ。すぐに校長先生に頼んで、私をレッドにして貰わなければ……」
「いや待て、落ち着け! 確かに正規の手順とは言えないが、実際こうなることにはあの場にいた全員が納得しているんだ。でなければ入学からブルーなどにするわけが無い」
しかし、そんな俺の言葉にも、梓は頭を横に振った。
「アカデミアという学び舎に入学したのは、決闘に強くなりたいから。その思いは全員が同じ。順位や成績で決めて良いものではありません。私はたまたま、運に恵まれていたというだけのこと。それだけでブルーという、皆さんが目指す場所へ直行するなど、あまりにも、皆さんを冒涜してしまっている。その事実を思うと、私は……私は……」
そして梓は目に両手を当て、泣きだしてしまった。
……おい、これは
いや、実際周りにいる生徒は俺をそんな目で見ているじゃないか!
見るな! そんな目で俺を見るな!!
「おいお前!! 何してるんだよ!!」
!!
視点:十代
甲板で出会った翔と仲良くなった俺は、二人で歩きながら色々なことを話し合っていた。そんな時、周りにいる生徒達がざわめき始めた。そしてみんなの目線の先を見ると、黄色の制服を着た男子の前で泣いてる、青い着物を着た男子。
ありゃ梓じゃねーか!
「おいお前! 何してるんだよ!!」
そう叫んだ時、黄色の男子はこっちを見た。あれは確か、
「三沢! 何で梓を泣かせてるんだ!?」
「ち、違う! 俺じゃない!!」
三沢は否定してるが、こんな状況じゃどう見てもお前が泣かしてるじゃねーか!
「大地さんではありませんよ……」
三沢を睨んでいる俺に、梓が涙ながらにそう訴えてきた。
「お気になさらず。私がただ、一人で泣いていただけですから……」
「梓……」
梓は最後に目を拭い、目が赤い状態で笑顔を浮かべた。
「十代さん、無事合格できたようで、嬉しいです」
一応は元気になった、のか?
「お、おう。これからよろしくな」
「はい」
笑顔で返事をしてくれた。まあ、とりあえず元気になったみたいで良かったぜ。
あと、何で三沢と翔は顔が赤いんだよ……
視点:梓
決闘アカデミアに到着した後、私は早速寮の自室に足を運びます。
とても広く贅沢で、おまけに一人部屋。確かイエローは一人部屋でもここまで広くなく、レッドは古い建物の部屋に一人から三人の部屋だと聞きました。
その話しを思い出しただけで、まだ出会ってすらいない方々に比べ、自分がどれだけ恵まれた身分なのかを思い知らされます。
やはり、今からでも校長先生にお願いし、私をレッドにして頂くべきでしょうか。
しかし、同時に大地さんの言ったように、それだけ私の力を高く評価して下さっているというのもまた事実。そこでレッドに入れろというのも、ある意味で言えばこれからお世話になる先生方に失礼かもしれません。
私はどうすればいいのでしょう。
部屋にいるだけでは答えはいつまで経っても出ませんね。
少し、外を歩くとしましょうか。
……
…………
………………
……迷いました。
広いアカデミアの中を無作為に歩いているうち、迷子になってしまったようです。
ここはどこなのでしょう。考えても分からないのでひたすら歩くしかありません。そうすればいずれ、人のいる場所に辿り着くかもしれませんし……
そう思った時でした。
「ダメだ……!」
そんな声が聞こえ、私はそちらへ走りました。
視点:万丈目
「別に良いじゃねえか、減るもんじゃなし」
「ここはオベリスクブルー専用の決闘場だ。落ちこぼれのオシリスレッドが立ち入っていい場所じゃない!」
決闘場に入ってきたレッドの二人に、取巻きの二人が出ていくよう言っている。俺自身も、レッドがこんな場所に居座られるのは気分が悪いし目障りだ。
「兄貴、もういいから、移動しよう」
小さい方が遊城十代にそう言って、決闘場から出ようとした、その時だった。
「あの、申し訳ありません」
聞き覚えのある声だ。その声がした方を見ると、意外な人物がそこにいた。
「ああ!! あなたは!!」
「水瀬梓さん!!」
二人はレッドの存在など忘れたように、水瀬梓に駆け寄っていく。
「私のことを知っているのですか?」
「もちろんです! 入学でいきなりブルーなんて、さすがですね」
「それにしても、今日は一段とお美しい」
今日はって、入学試験の時に一度見ただけだろうが。
こいつらは二人とも、あいつが男子だと分かった後も、あいつの決闘の後で見せた姿に酔いしれてしまったらしく、完全に奴の虜となっていた。おかげで今日までも、何かあれば水瀬梓の名前を出していた。所詮は筆記と実技の成績が最高だっただけの男だというのに、二人とも惚気過ぎだ。
「おーい、梓!」
「あ、十代さん!」
水瀬梓は遊城十代の名を呼びながら、そのまま近づいていった。そう言えば今思い出した。あの試験の最後、遊城十代は突然現れたかと思うと、水瀬梓を押し倒していた。そのせいで二人してクロノス教諭からかなり文句を言われていた。
あの時何かを話していたし、どうやらその時に仲良くなったらしいな。
「お前もデュエルしに来たのか?」
「いえ、恥ずかしながら、歩いているうちに道に迷ってしまって……」
「何だ、迷子かよ」
まるで俺達の存在を忘れたように、普通に会話をしている。
そんな二人に俺達を思い出させる意味も込め、俺は水瀬梓に対し、思っていた疑問を問うことにした。
「水瀬梓」
「はい、何ですか? 万丈目準さん?」
なに?
「俺の名を知っているのか?」
「ええ。ブルー一年生のエリートであると評判ですから」
ほう、ブルーで入学したものだからどこか生けすかない奴かと思えば、中々しっかりしている部分もあるらしいな。
「まあ良い。それより……何だ! お前のその格好は!!」
水瀬梓は自分の服装を見て、もう一度俺に顔を向けた。
「ここは決闘アカデミアだ! なぜ制服を着ていない!?」
そう叫んだ時、一気に困ったような表情を見せる。
「すみません。制服は落ち着かなかったものですから。しかし、既にクロノス先生から許可は頂いておりますよ」
『許可?』
全員が疑問の声を上げ、それが重なる。
「はい。先程、ここに来る前にクロノス先生に出会ったのですが……」
視点:外
「マンマミーヤ! あなたはセニョーラ……いやセニョール梓!?」
「ああ、クロノス先生」
「何なんでスーノ、その格好は!! 制服はどうしたノーネ」
「す、すみません。制服は着てみたのですが落ちつかなくて……」
「ダメでしたか?」
「ンニョ! /////」
「ダメ、ですか?」
「ンン~~~~~~~……//////」
「ダメ……ですか……?」
「ンガ~~~~~~~~~//////////」
「……」
「し、仕方がないノーネ。特別に許可して差し上げルーノ」
「クロノス先生……」
「といった感じで」
『(クロノス教諭……)』
「とても優しい先生で、安心致しました」
『(いや、違うから……)』
「へえ、良かったじゃねえか」
一人分かっていない十代に言われながら、無垢なる表情を浮かべる梓に対し、全員何も言えずにいた。
だが、一人だけ言える人間がいた。
「ふん。どうせ全てはお前の外見からだろうな」
万丈目のその一言に、全員の視線が一気に集まる。
「ちょ、万丈目さん……」
「お前達は黙っていろ。誰かが言わねばならんことだ」
そして、万丈目は梓の前に立ち、指差し、叫ぶように言う。
「試験の結果は確かに優れていたが、ブルーに所属できたのは明らかに見た目が良いからだろうよ。でなければ、いくら何でも、入学時点でいきなりブルーなど普通はあり得んからな。所詮貴様など、見た目だけで地位を約束されただけの裸の王様だということだ!」
その発言に、当然怒りを露わにする人間もいた。
「万丈目!!」
「さんだ!」
「おい、いくら何でもそれは無えだろう! 梓の決闘を見てなかったのか!? 梓には実力があったんだ! 見た目だけでブルーに入れるかよ!!」
「そうっすよ! いくら何でも梓さんをバカにし過ぎっす!!」
怒りを露わにする翔と十代。そして、
「万丈目さん、俺もそれは無いと思います!」
「梓さんが可哀想だ!」
取巻きであったはずの二人も、万丈目に向かって叫んでいた。
だがそんな中でも、万丈目は平然としていた。言うべきことを言い、何よりエリートである自分に、何を誰から言われようとも気にはならなかった。
だが、例外もあった。
「やめて下さい、皆さん」
文句を言う四人をそうなだめたのは、誰あろう、否定された梓本人。
「良いのです。彼の言ったことは事実なのですから」
笑いながらそう言い、全員を見据えるが、その目には、哀しみを浮かべていた。
「その通りです。私は昔からそうでした。私と出会った大抵の人は、外見ばかりを見ました。自分で言うのも何ですが、何かを成し遂げるために、時には人並み以上の努力をしたこともあります。なのに、皆さんは私ではなく、私の外見を見るのです」
「あなたの言ったように、きっと今回も同じでしょう。おそらく私の外見が華やかだから、ブルーに置くことにしたのでしょうね。一応、アカデミアに入学するため、私なりの努力をしてきました。ですが、やはり今回も同じようです……」
「……何か、ひどい話だな」
そう十代が言った後で、梓に誰も、何も話し掛けることができなくなってしまった。そして、そんな中でも、梓は笑顔を浮かべた。
「今の言葉で、やっと気持ちの整理がつきました。実は、このままではあまりにも他の生徒の皆さんに失礼なので、レッド寮に入寮させて下さるようお願いしようと思っていたのです」
『え!? 』
十代と万丈目以外の声が唱和した。
それも当然だろう。成績の悪化、問題を起こす、寮を降格されるとしたら大抵はこれらだが、それらによる降格ならばいざ知らず、入学したてにも関わらず、自分から進んで寮を、それもブルーの生徒がレッドへ降格させて貰おうなど、前代未聞の事態だった。
「そうだな。貴様のような愚か者、レッドに行くべきだろうな」
そんな事態にも、万丈目は冷静な声で声を掛けた。
「はい、その通り……」
「そうやって周囲ばかりに目を向け、簡単に楽な場所へ逃げようとする愚か者はな!」
梓が全てを言い切る前に、万丈目がその言葉を遮った。
「逃げるなど……私はただ、このままではあまりにも不公平であると……」
「それを逃げていると言っているのだ!!」
また梓の言葉を遮り、そして叫ぶ。
「ブルーに入れたのは確かに外見が主な要因だろうが、少なくともそれ以外の実力は、そこのレッドが言ったように本物だった! 決闘の後で貴様の放った輝きは、決闘に愛されている者だからこそ放つことができる輝きだ! それだけで貴様には、悔しいが、ブルー寮に入れるだけの力がある。例え貴様が定石どおりイエローに入ったとしても、ブルーに入るのは時間の問題だったろう」
「それをだ! たかだか外見での優遇ごときで恐れ慄き、あまつさえレッドへの降格を願う! そうやって今の自分の在り方を否定することを逃げと言わずして何と言う!? 裸の王であることが恥ずかしいのなら、家に隠れるのではなく、そこから一着ずつでも服を探していこうとなぜ考えん! そんな心構えこそが、周囲の生徒への侮辱だということが分からんのか!!」
「万丈目……」
「さんだ!」
『万丈目さん……』
十代も、翔も、取巻き二人も、全員がその話しに聞き入っていた。
そして、誰よりもその話しに目を輝かせているのが、
「私は……」
視点:万丈目
水瀬梓は突然俺様の手を取り、顔を近づけてきた。
「そうでした。私は大切なことを忘れていました。周囲への慎みばかりを考え、なぜ今の自分があるのかを忘れていました。慎みを理由に逃げる。それは、慎み以上に侮辱でしかない。そうなのですね」
「ま、まあな……」
俺の左手を両手で握り締め、顔をずいっと近づけてくる。俺はただ、エリートとして言うべきことを言っただけなのだが……
「決めました。私はこのままブルーにいます。そして、本物のブルーとして、自分で自分を認められる人間を目指します!」
「そ、そうか……////」
どうやら悩みは吹っ切れたようだ。だが、それ以上顔を近づけるな。
くそっ、何度見ても美しい顔だ。止めろ! そっちの趣味は無いがおかしな気分になる!
「だから、今後とも同じ寮の仲間として、よろしくお願いします。準さん」
まあ、そのくらいは……ん?
「準、さん?」
「ええ。万丈目準さんという名前ではありませんでしたか?」
いや、そうだが、俺のことは万丈目さんと……
あぁー!! そんな上目遣いで俺を見るなー!!
「ま、まあ良い……////」
「私のことは、ぜひ梓と」
「あ、ああ……////」
「良かったなあ、梓!」
「さすが万丈目さん!」
レッドの二人が梓に近づき、取巻きの二人もいつものように俺の左右に立つ。
水瀬梓、何となくやりづらい男だ。
「梓、早速俺と決闘しないか?」
「な、だからレッドのお前らは……!」
「何をやっているの!?」
また別の、女子の声。しかも、この声は……
「て、天上院君……////」
「もうすぐ歓迎会が始まるわよ。遅れない方が良いんじゃない?」
く、レッドに身の程を教えてやろうと思ったが、仕方が無い。
「お前達、行くぞ」
『はい!』
何やら二人の態度が今まで以上に明るくなった気がするが、気にせず俺は歩いた。
視点:外
「あなた達も早く自分の寮に戻りなさい」
「あっ!?」
明日香が言った直後、急に梓が声を上げた。
「どうしたの?」
「私、迷子になっていたのでした。男子寮までの道のりが分かりません」
「はぁ……ちょっと待ってなさい」
明日香は呆れたように生徒手帳を取り出し、しばらくいじった後でもう一度梓と向き合った。
「今万丈目君達に連絡したわ。すぐに迎えが来るだろうから、待ってなさい」
「ほぉ、そんな機能があったのですね」
「て、知らなかったの?」
「機械はあまり得意ではなくて……」
「おぉ! 俺と一緒だな!」
「兄貴、それ喜ぶ所じゃないっす」
呆れている明日香と、それに困る梓、そして十代と翔。
そこに、取巻きの片割れが笑顔で走ってきた。
「それでは、またお会いしましょう」
「おう!」
「ばいばーい」
「やれやれ」
梓が笑顔で手を振り、後の三人も手を振り、それぞれの寮へと戻っていった。
お疲れ様です。
決闘は次話になります。上手いこと書けるかな~。
けどこれだけは言わせて欲しいんだ。
ちょっと待ってね。