次の部行く前に、特別編はさみます~。
ちょい短めです~。
行ってらっしゃい。
会話ってやつは、とても大切な習慣だと思う。
日常生活。家族やご近所さん。友人知人。赤の他人。とまあ、例を挙げていけばキリが無いが、互いに言葉を交わし、意見の交換や意思疎通を図るには、会話ってやつは必須であり、大切なことだってことは、今さら私が言うことじゃあないよなぁ?
決闘モンスターズだってそうだ。お互いのターンにお互いどんなカードを使い、どんなプレイを行うか。それは、言葉のやり取りなくして成立しえない。
仮にお互いに声を交わせない状況にあっても、現代社会じゃあ、電話一本で声を、パソコン一つあれば、文章という会話を交わすことだってできる。便利な世の中だよ、まったく。
まあ、その便利さを悪用して、顔が見えないのをいいことに、文章という罵詈雑言で赤の他人を傷つけ、不快な思いをさせることに満足を覚えるような連中のことは気に入らないが……
そして、ここからが大事なことだが……
会話ってやつが大事なのは、何も人間相手に限った話じゃあないってことだ。
何が言いたいかっていうと、会話は時に、身の危険、果ては、命の危険にすら直結する。
今日、君たちに話すのは、そんな話だ……
episode2. 『かなしばりの湯』
……
…………
………………
わたしの名は天上院明日香!
年齢は十四歳、決闘者をやっている。決闘アカデミア中等部に通う中学二年生だ。
自分で言うのも何だが、成績は優秀。決闘の腕はトップクラス。三年生にだって勝っている。
人望もそれなりにあることを自負している。友人もたくさんいるし、強くて人気者。そんな優等生のことを誰が呼んだか、アカデミアの女王!
大げさに感じつつ満足している、そんな私の、家庭の方はと言えば……
「兄さん! また着替え出し忘れて、脱いだ服は脱ぎっぱなしにしないでってば!」
決闘は強くてイケメン、だがキャラクターにやや問題ありの兄のことを注意する。
両親がいない時には、家事全般わたしがこなしているし、怠慢ぎみな兄の面倒だって見てやっている。
「もう……明日から特待生寮での決闘の研究で、何日も泊まりになるんでしょう? しっかりして!」
いつもの調子で、笑ってゴメンと謝るばかりの、愛おしくも恥ずべき兄の姿には頭を抱えつつ……
まあ、何だかんだ、学校でもそうだが、家でもしっかり者の娘で通っている。
宿題は忘れたことがないし、部屋は毎日掃除して散らかしたことがない。食事も好き嫌いは特にないし、親からも信頼を得ている。生まれ持った素養に加えて、立派な両親の教育の賜物と言えるだろうなぁ。
まぁ、そういうしっかり者でいるべき生活に、やや息苦しさを感じていることも否定はしないが……
そして翌日。
先に話していた通り、兄の吹雪は特待生寮での研究とやらで、せっかくの冬休みにも関わらず、アカデミア高等部へ戻っていった。兄だけでなく、兄の親友の一人である、誰といったか……まあとにかく、二人で研究をするそうだ。何日も泊まりになるらしい。
加えて、わたしは今、おめかしをしてスーツケースを握る両親を玄関で見送っている。
知り合いの結婚式に夫婦そろってお呼ばれされたらしい。帰ってくるのは明日の昼頃になる。
わたしも来ないかと誘われはしたが、家のことをしたいし、宿題もあるからと断った。
そういった経緯で今、この家には、兄も両親もおらず、わたし一人だ。
そう……
家に、たった一人……
「ナーーーーーーーーイス!!」
最高に「ハイ!」ってやつだアアアアアアハハハハハハハハハハハーッ!!
家では優等生の女王、学校ではしっかり者の娘として過ごしてきた! あ、逆か。
そんなわたしが、誰に気兼ねすることなく羽を伸ばし、くつろぐことが許される時!
今ッ!
家族のいないこの状況で感じた!
わたしを押し上げてくれたのは天上院の血統だったッ!
色んな遊びをしてやるぜ!
お菓子とコーラを用意、リビングのテレビにテレビゲームをセットッ!
自室にもテレビはあるが、広いリビングのフカフカのソファ、それに座りながらの大きなテレビを使う。
これがッ! 家に一人しかいない状況での醍醐味よ!!
『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!』
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」
ゲームキャラの声に合わせ、わたしも大声で叫ぶ! これも親や兄がいる状況じゃあできない芸当! もちろんご近所さんに聞かれない程度の声量に抑えるが……
『服をぬがせないでッ! 感じるうああああ!』
『ダメ もう ダメ~ッ!』
「はぁ……はぁ……」
今の目の前のセリフと光景が、そういう場面でないことは分かってはいる。普通はギャグだと笑う場面だが、声優の迫真の演技と合わせてそういう場面を想像するに難くはない。
特にわたし自身、腐女子である自覚は無いが、この声と場面を何度おかずに、ゲッフッ……
更に思うのは、わたしにもいずれ、そういう人との出会いがあるのだろうかという、漠然とした憧れだ。今は決闘第一だが、色恋に興味が無いと言えばウソになる。
この次の、次のステージにて通信してくる男も言っていたことだ。
富や名声より愛だぜッ!(力説)
『真実から出た「真の行動」は、
「
あれよあれよと時間も経って最終ステージ……
ここの
『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!』
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」
『無駄アァァァァ!!』
「無駄アァァァァ!!」
ゲームクリア……
そしてエンディング……
何十回と見てきた光景ながら、どんなゲームであれクリアし、終わりを迎えた時には、確かな達成感に満たされる。
お菓子も食べつくしコーラも飲み干して、気がつけば外は暗くなっている。
そろそろ風呂に入り、夕飯の準備をするとしよう。
いつもなら、ちゃんとしたメシを作るところだが、今日は何せ一人なんだ。
こんな時は独り者の定番……カップ麺三昧といこう!
何せ今日は誰もいないんだ。一つとは言わず二個、いいや、三個作ってやる。
どうせ、家族も買ってくるだけで、食べるのは基本、わたしや母の作る夕飯なんだ。
三個四個なくなったところで、兄が食べたと思ってそれまでだ。
フフフ……さあ、どれにしよう?
カップラーメン『青眼の白鶏』か、『真紅眼の黒豚』か……
それとも、カップ焼きそば『エーリアン』か、『ユーフォー』も捨てがたい……
どれにするか悩みつつ、風呂場の洗面台で服を脱いでいく。
下着だけになって鏡を見つつ……
また胸が一段とデカくなってきたなぁ、とか。それでも親友の平家あずさに比べたら、だいぶマシではあるなぁ、とか……
おいそこのお前、変な想像してるんじゃあないぞ。
まあどっち道、残った下着も外して、風呂に入る。
いつもならキチンとお湯を溜めるが、フフフ……シャワーのみ。さっさと出てのんびりするのだ。これくらいバチは当たるまい。
シャワーのみで体を流し髪を濡らしていき、わきの下、胸の谷間、下半身……
おいそこのお前! 変な想像してるんじゃあないぞッ!
とまあ、順番に汗を流していき、椅子に座ってまずはシャンプー。そして洗髪。
洗い終われば今度は体だ。首、肩、手、胸、腹、下半身……
最後の顔は洗顔剤を着けて、綺麗に洗う。
総じて普段ならもう少し時間をかけるところだが、今日はわたし一人しかいないのだ。風呂の後にもやりたいことは色々とある。
パパっと終わらせて、明日の昼まで徹底的に、一人でしかできないことをさせてもらうぞッ!
そう誰に言うでもなく宣言し、最後は残った泡と、残った汗を全て流すため、高い所にシャワーをセット……
「最後は熱くして、じっくり浴びなきゃ……」
十分に浴びたところで、お湯を止め……
お湯を、止め……
「な、なに……?」
う、動かない……
手が、動かない、足も……?
理由は分からないが、シャワーを浴びるために立ち上がったその状態のまま、体が全く動かない。
それに……
ゴ
ゴ
ゴ
ゴ
ゴ
なんだ……
直前までは何も感じなかったのに、シャワーの音と蒸気に混ざり感じる、この気配と、この悪寒は……
まさか……幽霊?
ということは、これは、金縛り、か……
キュ
キュ
お湯の音に混じって、そんな音が聞こえてきた。と同時に、出しているお湯の温度が上がり……
「熱っ……」
お湯の温度も上がっている。
「まさか……!」
眼球は……動かすことができる。それを精一杯横へ動かし、蛇口を見る。
すると、案の定、キュッキュと蛇口がひとりでに、お湯を回しているのが見える!
「あ、ああ……!」
マズいぞ!
この家は水温の自動調整が無いオール電化。そのためお湯の温度調整は、お湯と水の両方を出すことで調節している。
蛇口から出るお湯の温度は、最大で70度から80度にもなる! 1キュッキュでお湯の温度がどの程度上がるか分からないし水で薄めているとは言え、人間の皮膚は45度のお湯を一時間浴びれば皮膚組織の破壊が始まり、火傷を負う。70度以上ともなれば一発だ!
このままキュッキュが続けば、わたしの体は……
キュ
キュ
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「やめろッ!! 温度を上げるんじゃあないッ!! 下げろおおおおお!!」
キュ……
と、叫んだ途端、蛇口はキュッキュするのを停止した。そして……
キュ
キュ
今度は逆、お湯を減らすことで水温もまた下がっていく。
ホッと一息つく。正直、現段階でもかなり熱いが、今すぐ火傷するほどでもないので、これで一安心だ。とにかく今は、この金縛りから脱することを考えなければ……
「冷たっ……!」
と、一息ついて考えていたら感じた。確かにお湯の温度は下がっている。だが、キュッキュは止まることなく、お湯の蛇口を締めていく。
「そ、そんな……」
このままお湯を完全に止められれば、シャワーから出てくるのは完全な水のみ!
今は冬休み、十二月の冬真っ盛り。そんな季節の水道の水の温度は、おおよそ6度から7度前後。そんな低温の水を、仮に長時間浴びることになったりしたら……
いくら暖房の効いた室内にいるとは言え、余裕で低体温症、行きつく先は、凍死……
キュ
キュ
「ああああああああああああああああああああああ!!」
「お湯を止めるな!! もっと出せえええええええええ!!」
キュ……
今にも止まりそうだった蛇口のお湯が、またキュッキュ鳴りだし、水温が上がっていく。
どうする……
このままこいつに、お湯の出し入れを指示し続けなければならないのか? だがそうしなければ、火傷か凍死か、どちらかを選ぶ羽目に……
いいや、待て? もしかしたら……
「そこで止めろ! 水温はそこでいい! 蛇口にそれ以上触るな!」
キュ……
……やはり、そうだ。
ちょうどいいと感じる水温のタイミングで私が声を上げた瞬間、蛇口は止まってくれた。
思えばわたしがシャワーを浴びる前、声に出していた。
―「最後は熱くして、じっくり浴びなきゃ……」
今の指示と言い、コイツがわたしの言葉に従い、動いているのだとしたら……
「わたしの拘束を解き、この家から出ていけ! そして二度と、わたしと家族とこの家に近づくなッ!」
ド
ド
ド
ド
誰も答えはしない。だが、さっきまで確かに感じていた、何物かの気配は消えた。
と同時に、まるで動かすことができなかったわたしの体も、問題なく動かせるようになった……
その後、風呂から出てカップ麺を作ろうとしたが、どうにも食欲が湧かず、結局一個しか食べられなかった。そして、体が重く、ダルイと感じ、ゲームだけどうにか片づけ、そのまま部屋で眠った。
翌朝、あまりの気だるさに体温計を使うと、38.7度。
どうやら、昨夜シャワーを長時間、激しい温度調節のもと浴びすぎてしまったせいで、物の見事に隊長を崩し、風邪を引いてしまったらしい。
「頭痛がする……吐き気もだ……この明日香が、気分が悪いだと……!」
結局、その後両親が帰ってくるまで何もする気が起きず、わたしの優雅な一日は、呆気なく幕を下ろしたわけだ……
……
…………
………………
一体、アレはなんだったのやら。今でも分からないし、今となっては確かめようもない。
前々からあそこにいたのか。それとも、若かった私の裸見たさに入ってきた変態の幽霊だったのか。
いずれにせよ、私が叫んだ通り、あれ以来、あの現象は一度も起きおらず、私はもちろん、家族にも遭遇した様子はない。
わたしの休日を台無しにした、アレがなんだったにせよ、君たちも覚えておくことだ。
人間同士、時には人間ではない何物かと相対した際にも、「会話する」というのは、何よりも基本のコミュニケーション手段だということを。
でなければ、大変な目に遭いかねないし、最悪、命すら失いかねないのだから……
お疲れ~。
次話で次の部書きますら~。
いつになるかは分からんが……
ちょっと待ってて。