遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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ぇぇえぇぁぁぁああぁぁ……

そんじゃら後半~。

行ってらっしゃい。



    最後の最高

視点:星華

 特に話すようなことでもないから、人に話したことはないのだが……

 

 私は元々、アメリカ生まれのアメリカ育ちだ。

 父がアメリカ人。母が日本人。今はこの国の、母方の祖父母の家に世話になっている。

 日本人の母は、多くの日本人女性としてのイメージ通り、心優しく美しい女性だった。アメリカ人である父のハートを射抜いたのも道理だと、子供心に感じたものよ。

 

 そんな、父はというとだ……

 マフィア、と言うと大げさだが、日本で言う反社会勢力を従える人間だった。と言っても、そこまで大きな規模でもない。

 父の仕事は、カードプロフェッサーの育成……

 カードプロフェッサーというのは、アメリカ各地で行われる決闘大会の大会主催者に金で雇われて、大会を裏から操作する決闘者たちのことだ。

 特定の決闘者とぶつかり、ギリギリの勝負を演出して決闘を盛り上げる。用意した賞金が惜しくなった主催者の意向で、大会に優勝してみせる。主な仕事はそんなところだな。

 そんなの聞いたことがない? 当然だ。アカデミアの授業では習わんことだし、アメリカに比べれば、規模も小さく、賞金の額も少ない日本には必要のない連中だからな。

 

 そして、今言った通り、そんな奴らを育成すること。それが父の仕事だった。

 メンバーは様々だ。単純にストリート決闘の腕自慢やら、ショップ大会荒らし。他はテンでダメだが決闘だけは光る物を持っている社会不適合者。ホームレス。スネに傷持つ大人たちが主だが、中にはどこからか連れてきた、私と歳の変わらない孤児達もいた。

 そんな連中を集め、カードを与え、衣食住を保証する。代わりに、大会に出場させて、主催者の依頼を実行させて、その報酬をこちらが受け取る。そうやってその施設――『カードプロフェッサーギルド』を運営していたわけだな。

 

 そんな、社会的には決して褒められたものじゃない父の仕事だったが、当時の私はそんなことは気付かず、むしろ、大好きな父のことを盲目的に尊敬し、信じていたこともあって、そんな父に育てられ、そして決闘で勝利を重ねていくカードプロフェッサーたちのことは、父の次くらいには格好いいと思っていた。

 だから私も、愚かにもそんなカードプロフェッサーになり、父の役に立ちたいと夢見て彼らに混ざり、決闘をしていた。

 結果は当然、勝てなかった。

 昔から……今でもそうだが、決闘の才能はまるでなく、デッキもプレイングも、今以上に未熟で拙い。決闘の相手を頼んだ端から敗北し続けて、勝てたのは、相手が手札事故を起こした時か、よっぽど運が良かった時だけ。

 幼稚だった私とは違い、真面目な仕事として決闘に打ち込んでいた者達からは敬遠されていた。私との決闘など、なんの励みにもならない、時間の無駄でしかなかったのだからな。

 父にも何度も、もうやめろと言われ続けて、父からも他の奴らからも怒られた。それでも、私はやめることはせず、何度も敗けてベソを掻きながら、決闘を毎日続けてきた。いつか絶対、父の役に立つ決闘者、カードプロフェッサーになるんだ、とな。

 

 

 そんなことを毎日続けてきた、ある日の夜だった。

 私と両親が住んでいた屋敷、そして、カードプロフェッサーギルド、それらが同時に襲撃を受けた。

 カードプロフェッサー達は、運よく施設から離れていたことで、全員が無事だった。後で分かったが、誰かが引き継いで活動は続けていたようだ。

 だが、自宅にいた私達は違う。黒づくめの武装した兵士(アーミー)どもが屋敷に押し入って、私達の住んでいた家を破壊していきながら、私達のことを執拗に探し出そうとしていた。

 私達は裏口まで逃げ、そのまま脱出するはずだった。

 だが、私と母を先に外へ逃がした後、まだ屋敷の中にいた父が、凶弾に倒れた。

 

 

 ――パパ!?

 

 ――星華! 逃げろ!!

 

 ダンッ ダンッ ダンッ

 

 ――ぐぅ……っ

 

 ――パパ? パパ!?

 

 ――逃げるんだ……星華……お前は生きろ……幸せに、生きるんだ……

 

 ――パパ……ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!

 

 

 その後は、アメリカの各地を、母と二人で点々とした。

 父が死んだ後も、奴らの追跡はしつこく続いていた。奴らに見つかるわけにはいかない。だから、長い間自由にいかなかったのだ。

 あの時は、目の前で死んだ父のことばかり考えてしまっていたが、今思えば、幼い娘一人を抱えての、広いアメリカでの逃亡生活を強いられた、母の苦労も相当なものだったはずだ。

 どうにか敵から逃げきれたと確信し、この国の、母の生まれ故郷にたどり着いた直後、心労がたたってそのまま倒れ、帰らぬ人となってしまうくらいにはな……

 

 

 

視点:外

 

「私の昔話は、ここまでだ」

 

「……」

「……」

 

 あの場に残った、星華と、(あずさ)の三人で、軍用ヘリは三機とも沈め、乗組員は全員縛り上げ、今は気絶させている。

 その後は援軍も覚悟していたものの、それ以上の追撃が来る様子もない。

 教師と生徒らは全員、校内に避難したことだし。この三人は、オベリスクブルー女子寮の、星華の部屋を訪ねていた。

「いつかは、こんな日が来ると、この国に来た時点で、覚悟はしていたのだ……」

 こんな日のために星華が集め、用意してきた武器の回収のため。

 そして、星華から、狙われている理由と事情を聞き出すために……

 

「あなた方家族が命を狙われた理由は?」

「具体的には分からん。だが、さっきも言った通り、父のやっていた仕事は決闘界に、そして、社会的な道徳に反する行為だ。実際、カードプロフェッサーに恨みを持つ者も大勢いる。そんな奴らの元締めである父が狙われる理由など、いくらでも想像はつく」

「……でも、それなら、星華さんのお父さんだけ始末しちゃえばいい話でしょう? その後も、カードプロフェッサー達は無事だったのに、星華さんやお母さんだけは、ずっと追いかけられてたんですよね?」

「うむ……」

 あずさからの指摘に、星華も顎に手をやり、考える。

 子供の時には難しいことなど分からなかったし、むしろ忘れたいと、考えないように努めてきたのだが……

 考えてみれば、今更ながら確かにおかしなことだ。

 カードプロフェッサーギルドを潰すだけが目的なら、父を殺した時点でそれは成した。母に、まして星華にも、ギルドを運営するだけの力など、ありはしないのだから。

 だが、育てられたカードプロフェッサー達は、施設に一人もいない時を狙われたことで全員無事。施設も他の誰かが引き継いで、それ以降、狙われたという話は聞いたことがない。

 代わりに、自分と、母の二人だけがずっと狙われてきた。

 最初から、狙いは父だけでなく、ましてカードプロフェッサーギルドでは決してない、私達、家族全員だった、というように……

「父だけでなく、家族ぐるみで狙われる理由……そんなものに心当たりはない。あるとしたら……」

 そこで星華は、かつて父から聞いた、我が家に古くから伝わる昔話を思い出した。

「私や父の遠い遠いご先祖様は、不思議な力を持っていた男らしい。その男は、宇宙からやってきた荒ぶる巨大な邪神を封じるべく、この星の神である、巨大な赤き竜神の力を借り、共にその邪神を封印することに成功した、と……」

「……それ、今関係あるんですか?」

「あるわけがない。気にするな。こんなよくあるおとぎ話のために殺されていたのでは、命がいくつあっても足りん」

 無駄話をやめて、また考えてみたものの……

「……どれだけ考えても、心当たりはない。分かっているのは……私と母が二人で逃げていた時、母がふと言った、だが今も覚えている言葉……敵組織の名前だけだ」

「名前が分かっているのですか?」

「ああ。正直、確信はないが、母は追ってくる連中を睨みながら、こう言っていた」

 

「イリアステル」

 

「いり、あすてる?」

「イリアスは病気の腸閉塞(Ileus)、テルは話す(tell)という意味があるが……」

「腸閉塞の話をする人たち?」

「そんな奴らに、腸閉塞でもないのに狙われていると考えると、死にたくなるがな」

「とは言え、腸閉塞よりも、よほどタチの悪い連中には違いありません」

 梓の言葉には、腸閉塞がどんな病気だか具体的に知らない二人も、頷くしかない。

 様々な原因で起こりうる急性疾患であり、症状によっては緊急手術も要するほど厄介な腸閉塞ではあるが、それも、正しい検査と適切な治療を行えば快方の余地は十分にある病気である。

 一方、外部から大勢で、病気にするまでもなく即死させられる重火器と人数に物を言わせて殺しに来る。どこにいようと追いかけてきて、どこに逃げようと捜索される……

 そんな連中と急性疾患を比べれば、いつどこからやってくるか分からないことは同じでも、どちらがより最悪かは子供でも理解できるだろう。

 

「……よし、これで全部だな」

 昔の話、敵の話、病気の話をしていきながら、梓の部屋、星華の部屋から全ての重火器を外へ運び出し、女子寮から離れたその場所に並べていった。

「わぁ~……運びながら思ってたけど、こんなの映画でしか見たこと無い」

 星華が普段持ち歩いているような、拳銃の山はもちろんのこと。

 機関銃に突撃銃。狙撃銃に散弾銃。

 拳銃に機関銃以外、小型のものを除けば、数はそれぞれ一、二丁と最低限だが、各用途に合わせて種類は一通りそろっている。各銃に使用される弾丸ももちろん用意され、それが山のようにある。

 加えて、大量の手榴弾、爆薬・火薬の粉も袋詰めにされたものがいくつもある。

 更には、過去に修学旅行行きのフェリーの上で使用されたバズーカ砲。それに詰め込むミサイルが数発。

 その他、少なくとも(あずさ)には名前も用途も全く分からない、だが危険物なことだけは見て分かる、そんな物体がいくつも転がっている。

 

 あずさの言った通り、普通なら、特にガンショップなど無い日本では、大き目のミリタリーショップにでも行かなければ決して見ることのない光景である。

「今まで改造空気銃だと言い張ってきたが……実は、全て本物だ」

「な、なんですってー」

「そ、そんなバカなー」

 二人への告白と、返事を聞いた後で、星華は並べた武器から、必要なものを手に取っていく。

「これ、全て持っていくのですか?」

「そうしたいのは山々だが……とても全部は持っていけない。今更ながら、少し集めすぎた。メンテナンスも一苦労だ」

 言いながら、自分が持てるものだけ身に着けると、二人を伴いながら、武器から下がっていった。

「余った武器は、どうするんですか?」

「燃やす」

 あずさの質問に、返した言葉はたったの一言。

 それをあずさが聞き返すよりも早く、星華が取り出したのは、黒い二丁の拳銃。

「それ、さっきも使ってた、闇の銃、ですか?」

「ああ……本格的に使ったのは、さっきが初めてだが、ここまで便利なものだったとはな」

 答えながら、二丁拳銃を一つに重ねる……

 その瞬間、梓の刀、あずさの手甲と同じように、形の無い闇に変化した。

 それが再び形を変え、大きさを変えて、梓には見覚えのある、巨大なバズーカに変化した。

「これ一つあれば、今まで苦労して集めてきた武器、全ての代用となる。おまけに弾数は無限。アクションゲーム二週目以降に手に入るクリア特典のようだな」

 引き金に手を引いて、そこから、おそらくは同じ闇から成るミサイルが打ち出された。

 それが、並べられた重火器、兵器に直撃。巨大な爆音を上げ、粉々に吹き飛ばした。

「こんな便利なものがある以上、お荷物でしかない危険物は、廃棄するさ。それこそ、ゲームのようにいくらでも持っていけるわけではないからな」

「……何だか勿体ないですね」

「第一、その武器にも弱点はあるでしょう?」

 あずさが裏拳の風圧で炎を鎮火させ、梓の冷気で消火する。

「確かに……望みの兵器が巨大であればあるほど、数は作れなくなる。拳銃や、機関銃のような小さいものなら二つ三つ作れるようだが、バズーカ砲や、その他デカ物を一つ作って使っている間、他は何も作れなくなる。そこは、回収した通常兵器で代用すればいい」

「通常兵器が弾切れを起こせば?」

「この身が朽ちるまで戦う。それだけだ」

 爆炎は消え、会話をして、それはそうだと笑い声を上げて……

 

 そうして、この島に隠されていた危険物の全てを処分し終えた三人は、海岸線へ歩いていった。

「すまない……お前たちにまで付き合わせることになって」

「全然大丈夫です!」

「こんな時くらい、私どもを頼って下さい」

 あずさは満面の笑みで返事を返して、梓は優しい笑顔で頷いて。

 二人とも、自分以上の力を持っていながら、その優しさでいつだって助けてくれる。

 そんな仲間に恵まれて……

 星華の心に、感慨深さと、申し訳ない気持ちが満ちていく……

 

「さーて……わたしのテツ子ちゃんの力、見せちゃうよ~」

「て、つこちゃん?」

 梓が聞き返すと、あずさは両手の手甲を掲げて見せて……

「わたしの可愛い武器の、『闇ノ テツ子』ちゃんです」

「……『闇の手甲』」だから?

「そう!」

 分かってもらえて、嬉しそうに頷くあずさに、星華も梓も、苦笑した。

「では、私は……うむ、『タナカ (ヒカル)』と名付けましょう」

「たなか?」

「ひかる?」

「刀刀刀刀刀カタナカタナカタナカタナカタナカ……」

「それで、光の、タナカか……」

「梓くん面白いねぇ~」

 星華は苦笑するものの、あずさは無邪気に喜んでいた。

(うむ……『A・ジェネクス』……AとJ……)

「よし! では私はこの二丁拳銃に、それぞれ『ジャック』と『アトラス』と名付けよう」

「ジャックとアトラス?」

「そうだ。『ジェネクス』のJに、『A・O・J』のAだ」

「おぉー!」

 あずさは、格好いいーとはしゃいでいた。だが、梓は一人、顎に手をやり考え込んで……

「……あの、星華さん?」

「なんだ、梓? あまりのネーミングセンスの良さに脱帽したか?」

「その、非常に言いにくいのですが……」

 

「ジェネクスの頭文字は、JではなくGですよ?」

 

『……』

「諸説ありますが、発電機を意味するジェネレーター(Generator)が語源であるとされております。真の語源は私も覚えていませんが、少なくとも、ジェネクスの頭文字は間違いなくGです」

『……』

 星華もあずさも、フリーズしてしまった。

 

「も//// もももも//// もちろん分かっているとも//// 私はアメリカ出身だぞ//// 英語もペラペラだ//// そんな私が、そんなことにも気付かんはずが無かろう//// 敢えてだ。Gは個人的に苦手な発音だから、仕方なくJにしただけにすぎん!」

「で、ですよねー//// 星華さんが、そんな間違いするわけないですよねー////」

(英語がペラペラでGが苦手……?)

 顔を真っ赤にしている二人とも、その言葉は本気だか真実だか……

 とりあえず、梓はそれ以上は言わなかった。

 

(それにしても、『ジャック』に、『アトラス』……)

 むしろ、そんな可愛らしい勘違い以上に梓が気になったのは、星華が愛用の銃に名付けた名前の方。

(こんな偶然もあるものか……)

 

「う~む、我ながら良い名を付けたものだ……将来、子供を産んだら、実際に名前として付けるのも良いかも知れんな」

「ですね! わたしも格好いいと思います。息子さんもきっと喜んでくれますよ~」

「……」

 

(こんな偶然もあるものか……)

 

 

「さて……」

 お喋りを楽しんだ後で、視線をお互いから、海岸線、海へと戻した……

 

 日没の近い海の向こうからは、先ほど沈めた軍用ヘリと同じ機体が、十機、二十機……三人の目から見ても、いちいち数えきれないだけの数が、こちらへ向かってきているのが見える。

 狙いはたった一人。小日向星華という、少女のために……

「あの数……武器はあるが、正直、厄介だな」

「大丈夫です! わたし達もいますから。腸閉塞なんかに負けません!」

「……それに、仕込みは既に終えています」

 梓の冷静な声に、二人とも疑問を感じた瞬間……

 梓の前、梓の周囲、自分達の目の前、自分達の目の周囲。

 全ての景色に、それは見えた。

「え、なにこれ……なんで?」

「これは、雪? この南海の孤島のアカデミアに、雪だと?」

 二人の言った通り。

 空から深々と降り注ぎ、目前の視界を白くし、世界を冷たく変えるもの。

 星華の言った通り。年中温暖で、今も雲一つない南海に位置する島。そこに建てられたアカデミアでは、決して見るはずのないそれは、徐々に多く、徐々に濃く、徐々に激しく、徐々に強く……

「冷たい……けど、全然寒くない」

「ただ雪を降らせているだけですからね。気候も天候も同じだから、気温の変化もありません」

「……凍らせるだけでなく、雪まで降らせられるのか?」

「ただ凍らせるより、十倍近くの時間と手間がかかりますがね……殺傷力はありませんが、視界を奪うには十分だ」

 

 梓の言った通り……

 三機もあれば十分だと送り出した軍用ヘリの、三機ともが落とされた。乗組員との連絡も取れなくなり、敵が強敵だということも理解した。

 であれば、三機どころではない、数に物を言わせて攻め入ればいい。

 味方にも敵にも、犠牲が何人出ようとも、たった一人の少女を仕留めるなどわけないだろう。

 あまりに無茶苦茶で不合理、非現実的な作戦を、実行することができて、それが許される、そんな奴らに飼われ、従いここまでやってきた者達。

 子飼いの使いパシリとは言え、彼らの全員がそれなりの軍歴と実戦経験を持ち、相手がどんな人間であれ消すことなど簡単なこと。そのはずだった。

 だから今回も、いつも通り、奴ら(・・)にとって邪魔になった人間を消すためにここまで来た。

 ヘリで来るという都合上、天候や風向き等は常に、天気予報や計器はもちろん、目視でも確認、把握していた。

 だからこそ、雲一つ無い空から突然降ってきた雪には混乱し、フロントガラスに積もり、目の前の視界を白く埋め尽くす雪に二の足を踏まされていた。

「うわああ!!」

 そんなヘリの乗組員の絶叫と、機体の絶叫は同時に起こった……

 

「視界さえ奪ってしまえば、後は適当な障害物があれば、それで終わりだ」

 ヘリに乗る者達は、何が起きたかは分かっていない。だが、三人の目にはそれがハッキリ見えた。

 二十を超えるヘリの大群。それらの進行方向に、いくつもの見えない壁――梓の結界が並び、それにぶつかり、バランスを崩し、故障して、海の上へ墜落していく……

「玉突きも特に起こしておりませんし、軍用ヘリに乗っているくらいなのだから、脱出の訓練くらいしているでしょう。島も、少々遠いですが目の前にありますし、武器武装は全て捨てることになるでしょうが、どうにか生きて、ここにたどり着くのではないですか?」

 その場から一歩も動くことなく、向かってくるヘリの全てを落としてしまいながら、そう冷静な声を出す……

「……あの結界って、もしかして、枚数とか距離に制限ないの?」

「さあ……ためしたことはありませんが、一応、見える範囲なら何枚でも出せるようです」

 一度戦い、そして、その身に受けた梓の力。

 それの、改めて知ることになった底の知れなさに、あずさは降りしきる雪とは別の理由で身震いさせられた。

 

「……よし。移動するぞ」

 のんびり会話している二人に、星華が声を掛ける。

 声を掛けた後で、手に握っていた二丁拳銃、ジャックとアトラスを地面へ投げる。

 直後、小さな二丁の拳銃は瞬時に一つとなり、形を変え大きくなって、人一人が乗れる、スノーボードの形を象った。

 その上に、星華が乗ると、大方のイメージ通りに宙へ浮き、舞い踊る。

「気分はさながら、グ○ーンゴブリンだな!」

 言いながら上昇し、下にいる二人に声を送る。

「ここは島の東の端だ! 次は南端、時計回りに順に対処していくぞ! 二人ともついてこい!」

 指示を送って、そのまま飛んでいった……

 

「ついて来いって……わたし、二人と違って、空飛べないんだけど」

「私が運びます」

 梓が言いながら、足元に、空中に、いくつもの結界を出現させた。

 あずさを背中に背負うと、それに順々に飛び移り、星華を追いかけていった……

 

「それにしても、すごいよね、星華さん……」

「何がですか?」

「だって……ご両親二人とも死んじゃって、自分まで、得体の知れない奴らに命を狙われてるのに、あんなふうに冷静で、なんの迷いもなく戦えるなんてさ。あんなに強くて格好良くて、さすがはアカデミアの女帝だよ」

「……本気で言っています?」

「へ?」

「……早く行きましょう」

 それ以上、あずさの言葉には応えず、梓は足を速め、移動の速度も増していった……

 

 

 それからは、最初の東の端でしたことの繰り返し。

 目の前から、数十単位の軍用ヘリがやってきているものの、その全てが、豪雪によって身動きが取れなくなり、その間に、見えない壁にぶつかり、コントロールを失い、海上に落下した。

 中には武器を撃ったヘリもあったが、それは逆に、味方を沈めてしまう結果となってしまった。

 それら諸々のトラップを潜り抜け、三人の目と鼻の先まで接近できたヘリは、合計百ほどの機体のうちの、五機か六機か。

 それも全て、梓の冷気とタナカ光に、あずさの火炎と闇ノテツ子に、星華のジャックとアトラスに、それぞれ撃ち落とされていき……

 

 それらを繰り返し、日が沈む寸前のころには、もはやヘリの姿は一機も見えなくなっていた。

「……やっつけたの? 全部」

「そのようですね」

「うむ……」

 そこで、あずさは張り詰めていた全身から力が抜けて、その場に尻餅を着いた。

「びっくりしたけど……でも良かった。お腹空いた~」

「帰って夕飯にしますか……星華さん、今日は何が食べたいですか?」

「……」

「星華さん?」

 (あずさ)は二人とも、いつも通りでいる。

 これほどの非日常に突然襲われて、この二人でも、命を落としてもおかしくはなかった。

 それなのに、あずさはただ疲労を声に出すだけ。梓は、相変わらず私のことを気にかけて。

「……」

 

 いくら、私より遥かに強い力を持つ二人でも……

 いくら、味方でいて、そばにいてくれれば頼もしいことこの上ない二人でも……

 いくら、愛おしくてたまらない、誰にも渡したくないと思い続けてきた男でも……

 

「……すまんが、ここでお別れだ」

 そんな星華の一言に、二人ともが言葉を失った。

「え……お別れ?」

「どうして? 敵は全部やっつけたのに?」

「あれで終わるわけがない……私の居場所が敵に知られた。であれば、また別の奴らがここに来る。私を仕留めるまで、それは決して終わらない」

「ならば、全て退けます」

「そうですよ! わたし達三人なら、今日みたいに全部やっつけて――」

「その間、お前たち二人に……このアカデミアや他の生徒達を危険に晒せというのか?」

『……』

 それを言われると、二人ともが押し黙ってしまう。

 ただ自分達二人が例外なだけ。星華は特別。そして、この島にいる他の人間は全員が、普通の人たちだ。

 今日は梓が護ったことで、一人のケガ人も出さなかった。けど、梓でも、いつでも護れるわけじゃない。護れない時は、いつだってある……

 

「それに、これは元々、私個人の問題だ。お前たちまで付き合う必要はない」

「そんな……」

「第一、私が生きている以上、いつかこんな日が来ることは分かっていた。だから両親の遺産で武器を集め、戦い方を学び培ってきたのだ。果てしない戦いになるだろうが、簡単に倒されはせん」

「星華さん……」

「それに、あの腸閉塞どもが普通のゲリラでないことは分かった。私がこの島から消えた時点で、奴らもここから手を引くだろう」

『……』

 

「二人とも、今まで世話になったな」

 

 改めて、二人と向かい合って、星華は、笑顔を浮かべた。

 強く気高く美しい、唯一にして絶対の美女。

 アカデミアの女帝の名に相応しい、輝きに満ち満ちた笑顔を……

 

「……やっぱ、強いですね、星華さん……たった一人でも、戦うこと決めちゃうなんて……わたしには、怖くて無理だ……」

 

(違う……)

 あずさの、敬意を込めた物言いに、梓は一人、憤慨する。

(平気なわけ無いだろう……!)

 

「平家あずさ」

「は、はい……!」

「私が言えた義理ではないが……梓のこと、よろしく頼む。こいつの強さは、この島の全員が知っていることだが、こいつの弱さを知る人間は、私以外には、お前しかいないからな」

「……」

「梓のことを、守ってやってくれ」

「……分かり、ました……」

 

「梓」

「はい……ん……っ」

 梓が返事をするなり、その唇を強引に奪った。

 長い口づけだった。

 いつもなら動揺の一つも見せるあずさも、最後になる二人の口づけを、ただジッと見つめていた。

「……」

「……お前に会えた幸運に、心から感謝する」

 

 別れのキスと、お礼の言葉。

 それを最後に、二人のもとを離れて、ジャックとアトラスを、空飛ぶボードに変化させ、その上に乗り、上昇し……

 

「星華さん……!」

 すぐにでも、梓は後を追いかけたかった。だが、すぐ隣のあずさと目が合って、動けなくなった。

 大切な星華さんが、いなくなってしまう。

 けど、愛しいあずささんと、離れたくない……

 

 

「私の名は、小日向星華!」

 

 

 ――刮目しろ――

 

 

 ――これが私の生き様だ!!

 

 

 日が完全に隠れた空の上からの、女帝の名乗りが聞こえた時……

 

 あずさは遠くから、何かが向かってくるのを感じた。

 具体的な何なのかは、ちっとも分からない。

 ただ、まるで世界の全部を飲み込むような、世界の全部を変えちゃってるような。

 そんな、得体の知れない、不気味な、けどもの凄く、強い何かが、ここに……

 

 そして、夢中で星華を見上げる梓は、それに気付くことができず――

 

「星華さん!!」

 

 

 

      A.星華と一緒に最後まで戦う

 

    ➡ B.あずさと彼女の意志を見守る

 

 

 

 




お疲れ~。

梓とかあずさがいるせいで目立たんが、星華姉さんも強いんだからね!

まあ、そんなところで、この回も終わりさ。

次回まで、ちょっと待ってて。

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