ウルル(エアーズロック)が、今年の10月から登頂全面禁止になると聞いて、隼人は何を思ったかな……
ちなみに本編には全く関係ない。
てなことで、決闘の方、行ってらっしゃい。
視点:外
『決闘!!』
アズサ(氷結界の舞姫)
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
梓(魔轟神レイヴン)
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
「僕から行くよ……僕のターン!」
アズサ
手札:5→6
「……魔法カード発動『融合』!」
「いきなり融合召喚か!」
「手札の『E・HERO オーシャン』と、『氷結界の虎将 ライホウ』を融合! 来い『E・HERO アブソルートZero』!」
『E・HERO アブソルートZero』融合
レベル8
攻撃力2500
「続けて、魔法カード『死者蘇生』! 墓地から『氷結界の虎将 ライホウ』を蘇生!」
『氷結界の虎将 ライホウ』
レベル6
攻撃力2100
「僕はカードを一枚伏せる。そして魔法カード『命削りの宝札』! デッキから、手札が五枚になるようカードをドローして、五ターン後、手札全部を墓地へ捨てる」
アズサ
手札:0→5
「通常召喚、チューナーモンスター『氷結界の守護陣』! 守備表示!」
『氷結界の守護陣』チューナー
レベル3
守備力1600
「アブソルートZeroの攻撃力は、Zero以外の水属性モンスター一体につき、500アップする。これでターンエンド」
アズサ
LP:4000
手札:4枚
場 :モンスター
『E・HERO アブソルートZero』攻撃力2500+500×2
『氷結界の虎将 ライホウ』攻撃力2100
『氷結界の守護陣』守備力1600
魔法・罠
セット
「一ターン目からアブソルートZeroの召喚に加えて、相手モンスターの効果を制限するライホウと、攻撃をロックする守護陣。そして伏せカード……先行一ターン目ながら、ほぼ完璧に近い防御とロック、更には攻撃も可能な布陣だな」
「……アズサちゃん、そのデッキ、梓くんの?」
「そう……あいつに引っ張られる直前、とっさに僕に託してくれてたんだ。このデッキで、レイヴン、お前を倒して、梓を取り戻す!」
「ふふん……」
三人のやり取りを聞きながら、レイヴンに憑りつかれた決闘者、梓は、鼻息を鳴らした。
「確かに、中々厄介な布陣だな……私のターン」
梓
手札:5→6
「そのモンスターどもが存在するかぎり、私は自由に動けない……ならば、早々に排除させてもらうとしよう。魔法カード発動『サンダー・ボルト』!」
その宣言に、あずさも星華も耳を疑った。
だが、直後に表示されたカード、そして、すぐさま轟いた落雷により、アズサの場のモンスターが全滅したことで、空耳でも何でもないことを理解させられた。
「おい待て! それは禁止カードのはずだ!!」
「……私は更に、魔法カード『ハーピィの羽根箒』。お前の場の魔法・罠カード全てを破壊してもらう」
星華の声を無視しながら、平然と新たなカードを発動する。
新たに現れた純白の羽根箒が、アズサの場に残った伏せカードを掃きとってしまった。
「これでお前の場はがら空きだな」
「なに平然と言ってるのさ! 禁止カード二枚も使っておいて!?」
「まったく、さっきからごちゃごちゃと……何を勘違いしているのやら?」
「勘違い?」
あずさが問いかけた瞬間……梓は身震いしそうなほどに、表情を歪め、三人を見下す態度を見せた。
「タカが下らんカードゲームとは言え、私は自らの命と存在意義を懸けてここに立っているのだ。それほどの戦いに、手段など選んでいられるものか? 禁止されていようがいまいが、勝つためなら利用できるものは利用するまで。何の問題があるというのだね?」
「そんなことは誰もが同じだ! 私も、平家あずさも、舞姫も、梓も、全ての決闘者がだ! それでも全員、決められたルールの内で戦っているのだ。貴様の勝手な理屈で、決闘者の矜持を汚すな!!」
「カードゲームごときに矜持だと? 随分と安っぽい矜持もあったものだ」
「何だと、貴様……!!」
「では、そんなご立派な矜持を持つ君に聞こう……君は、私が送り込んだ決闘者を破った後、プラネットシリーズを強奪し、あまつさえそれを自分自身で使っていたな?」
「な、それは……っ」
「人間の決まり事に興味は無いのだがね、これは決闘以前の犯罪……窃盗罪、というやつだろう? 加えて、マッケンジーが一生懸命作った三邪神のカード、それを燃やすか破りさえした。器物破損、だったか……カードの窃盗・破損と禁止カードの使用、どちらがより悪だと言うのだろうな? 決闘者として……人として?」
「ぐ、うぅ……!」
「屁理屈言わないで! 盗むか壊すかしなきゃ危ないカードをアンタが作ってみんなに持たせたんでしょう!? それ以前に、そのカードを作らせるためにその人に憑りついて、その家族や、イシュさん達のことまで、散々メチャクチャになるまで利用して……それこそ犯罪がどうとか以前の問題だよ!!」
「そうなのかね? それはそんなに悪いことなのかね? それは知らなかった。何せ、決闘者でも、人でもない私は、この世界の道徳など知ったことではないのでねー」
あずさの決死の批判も馬耳東風。相手の行った悪行はネチネチと突いておいて、自らやったことに対しては罪悪感は皆無。むしろ、悪事だったのかと、ただ開き直る。
そんな態度と、そんな言葉を、よりにもよって、梓の顔と姿で行っていることに、激怒している二人のことなど目もくれず……
「これ以上、タカが決闘者と話をしていても、時間の無駄だ……続けよう。魔法カード『強引な番兵』! 相手の手札を確認し、その中から一枚をデッキに戻す」
「……」
三枚目の禁止カード。それを使われながらも、アズサは何も言わず、手札を見せる。
『フィッシュボーグ-ランチャー』
『バトルフェーダー』
『エネミーコントローラー』
『氷結界の交霊師』
「ほぅ……母親のカードを引き当てていたか」
「……」
「だが、面倒なカードは一枚だけだな。『バトルフェーダー』をデッキに戻してもらおう」
「……」
アズサ
手札:4→3
「くくく……手札は消費したが、残るこの三枚なら問題は無いな。さぁ……初陣といこう。チューナーモンスター『魔轟神レイヴン』を召喚!」
梓がカードをセットした瞬間、すぐに、ソレはフィールドに現れる。
異様なほど長い腕。不気味なほど白い肌。そんな腕や、背中、脚にさえ生える、赤色の入り混じった黒い翼。鎧を思わせる黒い装束と、顔を隠すメットの隙間からは、真っ赤な両眼を覗かせる。
ついさっき、マッケンジーから出てきた存在。そして今、梓に憑りついている存在。
全ての始まりにして、最後の敵……『魔轟神レイヴン』の、真の姿。
『魔轟神レイヴン』チューナー
レベル2
攻撃力1300
「チューナーモンスター……それが、貴様自身のカードか……!」
「そう。もっとも、正直なところ、必須カードと言えるかは微妙な性能だがね。それでも、この手札ならば、効果を遺憾なく発揮できそうだ……『魔轟神レイヴン』の効果! 一ターンに一度、手札を任意の枚数捨てることで、捨てた枚数だけレベルを上げ、加えて、このカード自身の攻撃力を400アップさせる。私は、二枚のカードを捨てる」
梓
手札:2→0
『魔轟神レイヴン』
レベル2+2
攻撃力1300+400×2
「そして、今手札に捨てた二枚のカード効果が発動する。『魔轟神ルリー』、『魔轟神獣ガナシア』は、どちらも手札から墓地へ捨てられた時、墓地から特殊召喚できる効果を持つ。さあ、蘇るがいい!」
梓の目の前、レイヴンの左右に、新たに二体のモンスターが復活する。
悪魔を思わせる大きな翼を広げる、子供の『魔轟神』。レイヴンに比べれば遥かに小さいながら、それでも魔轟神の特徴をハッキリ備えている、そんな子供。
そのすぐ後は、全身が紫色な皮膚の、二足歩行を行う像。それが、像の鳴き声を上げながら仁王立ちしていた。
『魔轟神ルリー』
レベル1
攻撃力200
『魔轟神獣ガナシア』
レベル3
攻撃力1600+200
「自身の効果で特殊召喚された『魔轟神獣ガナシア』は、攻撃力を200アップさせ、フィールドを離れた時ゲームから除外される」
「『魔轟神獣』……そんなモンスターもいるのか?」
「そうとも。我々『魔轟神』の忠実なしもべたちだ。カード以外に取り柄の無い駒どもより、遥かに価値ある命だよ」
声を上げる度に決闘者を、人間を否定し、侮辱する。そんな梓の姿に不快になっている星華には目もくれず、フィールドを見渡す。
『魔轟神レイヴン』
攻撃力1300+400×2
『魔轟神ルリー』
攻撃力200
『魔轟神獣ガナシア』
攻撃力1600+200
「うむ……攻撃力の合計は4100。どうやら、この三体の攻撃で終わりのようだ」
平然と語られたその事実に、星華もあずさも戦慄した。
アズサの場に、カードは一枚も残っておらず、加えて、手札にあった『バトルフェーダー』も、今はデッキに戻り、眠っている。
「では、バトルだ! レイヴン、ルリー、ガナシア、三体の魔轟神で、ダイレクトアタック!!」
主人の命に従い、その主人を含めた、三体の光の神々が向かっていく。
レイヴンのかぎ爪、ルリーの頭突き、ガナシアの突進、その全てが、アズサの身に……
「ハハハハハ!! 散々偉そうなことを語っていた割に、最後は実に呆気ないじゃないか!! ククク、傑作だ……傑作だなこれは! フハハハハハハハ!!」
「傑作はどっちだか」
アズサの声が、工場に響く。それはすぐさま、梓の笑いを止ませ、笑い声をかき消した。
「なに?」
そこで初めて、レイヴンは、アズサを護るようにそこに立つ、青い修道女たちの存在に気付いた。
アズサ
LP:4000
「バカな……ライフが減っていないだと!?」
「お前が『ハーピィの羽根箒』を使った瞬間、破壊される前に発動させといたんだよ。罠カード『和睦の使者』をね。このターン、僕への戦闘ダメージは、全てゼロになる」
「発動、していた、だと? 発動の宣言をしていないのか貴様!? 卑怯な!!」
「堂々と禁止カード使ってる奴に言われたくないね」
「アズサちゃん、やるー!」
「ふぅ……冷や冷やさせる」
「くぅ……バトルは終了だ!」
自分のしたことなど棚上げにしながら、目の前で行われた不正には悪態をついて、すぐさま次の手を打った。
「メインフェイズだ。レベル1の『魔轟神ルリー』に、レベル4となった『魔轟神レイヴン』をチューニング」
「シンクロ召喚。従え、『魔轟神レイジオン』」
何の飾り気もなく、感情もやる気も感じない。そんな事務的な口上と命令のもと、召喚と共に広がる翼。
両翼の中心に光る、黒と、赤と、そして黄金。輝きと共に腰に携えた剣以て、堂々と立ち上がる魔神の騎士……
『魔轟神レイジオン』シンクロ
レベル5
攻撃力2300
「レイジオンのモンスター効果! 私の手札が1枚以下の時にこのカードをシンクロ召喚した時、手札が二枚になるよう、カードをドローする!」
梓
手札:0→2
「手札を回復したか……」
「ふむ……カードを一枚伏せる。これでターンエンド」
梓
LP:4000
手札:1枚
場 :モンスター
『魔轟神レイジオン』攻撃力2300
『魔轟神獣ガナシア』攻撃力1600+200
魔法・罠
セット
アズサ
LP:4000
手札:3枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
無し
「奴のフィールドは三枚……しっかり『氷結界の交霊師』の特殊召喚効果を警戒している」
「アズサちゃんの手札はバレちゃってる。次のドロー次第だよ……」
「ドロー」
アズサ
手札:3→4
「よし……魔法カード『天使の施し』! カードを三枚ドローして、二枚捨てる……魔法カード『クロス・ソウル』! このターン、バトルフェイズを放棄する代わりに、相手フィールドのモンスター一体をリリースできる。更に速攻魔法『エネミーコントローラー』! 第二の効果を選択して発動。お前の場の『魔轟神獣ガナシア』をリリースして、『魔轟神レイジオン』のコントロールを得る!」
「くぅ……!」
アズサの宣言の通り、梓の前に立つ紫色の像が姿を消し、代わりに黄金の騎士がアズサの目の前まで移動した。
「ちぃっ、フィールドを離れたガナシアは、ゲームから除外される……」
「僕は更にチューナーモンスター『フィッシュボーグ-ランチャー』召喚!」
『フィッシュボーグ-ランチャー』チューナー
レベル1
守備力100
「『フィッシュボーグ-ランチャー』を素材にシンクロ召喚する時、水属性のシンクロモンスターの素材にしか使えない。レベル5の『魔轟神レイジオン』に、レベル1の『フィッシュボーグ-ランチャー』をチューニング!」
いつもなら、ここでの口上は目の前に立っている少年が行うはずだった。
だが、それは今、彼にはできそうにないから。だから今は、代わりに僕が……
「凍てつく
「シンクロ召喚! 舞え、『氷結界の龍 ブリューナク』!」
薄暗い工場内であろうと、その美しさは陰ることを知らず。
工場の闇、荷物の陰、そこを縫うように現れ、輝き、氷を散らす氷龍は、その身をうねらせ螺旋を描き、真なる主と相対する。
『氷結界の龍 ブリューナク』シンクロ
レベル6
攻撃力2300
「出た! アズサちゃんもシンクロ召喚だ!」
「だが、モンスターは除去できたが、手札は残り一枚な上、『クロス・ソウル』の効果でこのターン攻撃はできない。となれば当然……」
「……カードを一枚伏せる。ターンエンド」
アズサ
LP:4000
手札:0枚
場 :モンスター
『氷結界の龍 ブリューナク』攻撃力2300
魔法・罠
セット
梓
LP:4000
手札:1枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
セット
(むぅ……相手の手札はゼロ。この局面で最もふさわしいモンスターがいるのだがな……)
「……私のターン!」
梓
手札:1→2
「うむ……魔法カード『強欲な壺』! カードを二枚ドローする」
梓
手札:1→3
「さすがに、そう易々とは引けんか……ではもう一度、『強欲な壺』発動!」
「な……おい!!」
梓
手札:2→4
「『強欲な壺』はデッキに一枚しか入れられない制限カードのはずだぞ!! なぜ二枚も入っている!?」
「さっきからいちいち、うるさい娘だな……心配せずとも、ルールにのっとり三枚までしかデッキには入っていない」
「なっ……!!」
「星華姉さん。気持ちは分かるけど、もう黙っといた方がいいよ。こいつには、何言ったって無駄だからさ」
星華の怒りも、レイヴンの開き直りも、もはや時間の無駄にしかならない。
それを知っているアズサは、冷静に星華を落ち着かせ、決闘に目を戻す。
「さすが精霊、人間よりも物分かりが良いな……望みのカードも引くことができた。魔法カード『魔獣の懐柔』! 自分フィールドにモンスターが存在しない時、デッキからレベル2以下の、カード名が異なる獣族モンスターを三体、特殊召喚する。さあ、現れろ!」
『魔轟神獣キャシー』チューナー
レベル1
守備力600
『魔轟神獣ケルベラル』チューナー
レベル2
守備力400
『魔轟神獣ノズチ』
レベル2
守備力800
昆虫のような尻尾を持つ黒猫。赤色の三つ首犬。青い冠を戴くツチノコ。
呼び出され、懐柔される三体ともが、身体は小さく、力も弱い。
そんな獣たちの使い道など、より巨大な獣を呼び出すための供物以外になく……
「『魔獣の懐柔』によって特殊召喚されたモンスターの効果は無効化され、このターンの終わりに破壊される……」
「レベル2のノズチに、レベル2のケルベラルをチューニング……」
「シンクロ召喚! 服従しろ、『魔轟神獣ユニコール』!」
蹄の音が、遠くから響いてくる。
フィールドを走り抜け、二人の間に止まった白い巨体。
それは、純白の身に鎧を着こみ、頭に鋭利な角を伸ばした、雄々しくも飼い馴らされし、力強さに溢れた神なる戦場馬。
悪魔の鎖を纏うと共に、そのいななきをフィールドに響かせた。
『魔轟神獣ユニコール』シンクロ
レベル4
攻撃力2300
「レベル4……新しいシンクロモンスター!」
「カードを二枚セット。『魔獣の懐柔』を発動したターン、私は獣族以外のモンスターは特殊召喚できない。だが、通常召喚は別だ。こいつは魔轟神一体をリリースしてアドバンス召喚できる。『魔轟神獣キャシー』をリリース……『魔轟神ディアネイラ』をアドバンス召喚!」
再び巨大な翼が広がり、だがその翼に劣らない、巨体が現れた。
体温が急上昇したかのように高揚した上半身と、それを包む鋼鉄の筋肉。それらを大いに強調しながらも、爪、腕、腰、脚には、黒と黄金から成る装飾に身を包み。
顔さえも黄金の仮面で隠している様は、神というよりも、巨漢レスラーの様相を呈しているような。それは神なる巨人だった。
『魔轟神ディアネイラ』
レベル8
攻撃力2800
「レベル8のモンスターを、リリース一体で!?」
「攻撃力2800だと……!」
「それだけではない。私の手札は、お前と同じ0枚……『魔轟神獣ユニコール』の効果! このカードが場にある限り、私と相手、お互いの手札の枚数が同じ枚数である限り、相手が発動した魔法・罠・モンスター効果の全ては無効化され、破壊される!」
「そんな……! じゃあ、アズサちゃんは、あいつと同じ手札が0枚でいる限り、一切のカード効果が使えないってこと!?」
「まずいぞ……カード効果も満足に使えない状態で、ブリューナクまでやられたら……!!」
「くくく……バトルだ! ディアネイラで、『氷結界の龍 ブリューナク』を攻撃!」
赤色の巨体が翼を広げ、拳を握る。空中に浮遊し、螺旋描きし氷龍へと向かう……
「……墓地の『キラー・ラブカ』の効果、発動」
アズサの墓地から、黄色の長いものが飛んでいった。それがディアネイラの身に巻き付き、動きを封じた。
「『天使の施し』で捨てておいた……このカードをゲームから除外することで、僕のモンスターへの攻撃を無効にして、次の僕のターンまで攻撃力を500下げる」
『魔轟神ディアネイラ』
攻撃力2800-500
「なんだと……バカな! ユニコールの支配下で、なぜ効果が発動できる!?」
「学習しないね……ユニコールを見てご覧よ」
アズサに言われ、ユニコールを見てみる。
そこには、純白の体毛と、それとは対照的な、黒く輝く悪魔の鎖に縛られた、無力感しか感じられないユニコールの姿があった。
「ユニコールのシンクロ召喚時、永続罠『デモンズ・チェーン』を発動させといたんだ。これで、ユニコールは攻撃できず、効果も無効になる」
「また宣言もなく、勝手にカードの発動を……だが、ディアネイラが私の場に存在する限り、一ターンに一度、お前が発動した通常魔法カードの効果は全て、『相手は手札を1枚選んで捨てる』効果となる。この効果は、私の手札がゼロであろうが適用し続ける。ターンエンドだ!」
梓
LP:4000
手札:0枚
場 :モンスター
『魔轟神獣ユニコール』攻撃力2300
『魔轟獣ディアネイラ』攻撃力2800-500
魔法・罠
セット
セット
セット
アズサ
LP:4000
手札:0枚
場 :モンスター
『氷結界の龍 ブリューナク』攻撃力2300
魔法・罠
永続罠『デモンズ・チェーン』
「奴の使う魔轟神……手札から捨てられることで力を発揮するカード達ということか」
「梓くんも、よくやってた戦術ですね。用途は全然違うけど」
「僕のターン!」
アズサ
手札:0→1
「……永続魔法『生還の宝札』発動。僕の墓地のモンスターが水属性のみの場合、墓地の『フィッシュボーグ-ランチャー』は特殊召喚できる!」
『フィッシュボーグ-ランチャー』チューナー
レベル1
守備力100
「『生還の宝札』の効果で、一枚ドロー」
アズサ
手札:0→1
「レベル6の水属性、ブリューナクに、レベル1の『フィッシュボーグ-ランチャー』をチューニング!」
「冷たき
「シンクロ召喚! 狩れ、『氷結界の龍 グングニール』!」
『氷結界の龍 グングニール』シンクロ
レベル7
攻撃力2500
「自身の効果で特殊召喚した『フィッシュボーグ-ランチャー』は、ゲームから除外する。そして……チューナーモンスター『アンノウン・シンクロン』召喚!」
『アンノウン・シンクロン』チューナー
レベル1
守備力0
「あれは……!」
「闇属性の、チューナーモンスター?」
「ふふふ……レベル7のグングニールに、レベル1の闇属性『アンノウン・シンクロン』をチューニング!」
今までとは違うチューナー。加えて、二人の知るものとは違う光景が広がる。
闇属性の小さなチューナーが一つの星となり、それを受け入れる刃の氷龍、その全身に亀裂が広がり……
「地獄と極楽、虚無を願いし時。無間に拡がる嘆きと共に狭間の界より
「シンクロ召喚!
『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』シンクロ
レベル8
攻撃力3000
氷龍の身を突き破り、現れたるは鬼の龍。その姿に、あずさも、星華も、目を奪われた。
「こいつは……! グングニールの、真の姿、ということか?」
「見たことのないドラゴン……梓くん、こんなカードいつの間に……!」
二人が驚愕を露わにする中、アズサは、煉獄龍の力を振った。
「バトル! まずは『魔轟神ディアネイラ』を攻撃、死滅の
鬼の龍の口に、暗黒の炎がたまり、巨大化する。それが一気に放出され、巨神のもとへ飛んでいった。
「くくく……罠発動『聖なるバリア-ミラーフォース』! こいつの効果で、お前の煉獄龍は破壊だ!」
「無駄。
平然と宣言される効果と、伸びる煉獄龍の尻尾。それが梓の発動させた罠カードを貫き、砕いた。
「なんだと? なにが起きた……!」
「……どうやら、他人を操ったり、体を奪ったりできるだけで、記憶までは共有できないっぽね。オーガ・ドラグーンは僕の手札がゼロである限り、一ターンに一度、相手の魔法・罠カードの発動を無効にして破壊する効果がある」
「なんだと……!」
カードは砕かれ、放たれた煉獄龍の獄炎は、問題なく巨神の身を焼き尽くした。
梓
LP:4000→3300
「ちぃ……!!」
「ターンエンド」
アズサ
LP:4000
手札:0枚
場 :モンスター
『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』攻撃力3000
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
永続罠『デモンズ・チェーン』
梓
LP:3300
手札:0枚
場 :モンスター
『魔轟神獣ユニコール』攻撃力2300
魔法・罠
セット
セット
「まったく……正直、ガッカリだよ。アレコレ暗躍して壮大な計画を立てて、それを実行して、それをした全部の黒幕の実力が、こんな程度だなんてさ」
「なんだと?」
「まだ二ターンしかお前のプレイングは見てない。けど、二ターンで分かった。お前、とんでもない雑魚だよ」
「禁止カードを使っているからか? 強がりにしても見苦しいぞ」
「むしろ、禁止カード使わなきゃ勝てないのがよく分かるくらい、下手くそだって言ってんだよ」
「……確かにな。禁止カードや制限カードの三枚積みには驚かされたが……」
「それとシンクロモンスターが強いだけで、それ以外は、ねぇ……」
星華にあずさすら、顔を引きつらせながらそんなことを言っている。
アズサはそんな二人の、後ろを見た。
「佐倉君、教えてあげなよ。どこがどう悪いか」
「は? 俺? そうだな……最初のターン、『サンダー・ボルト』に、『ハーピィの羽根箒』の順に発動して彼女のフィールドを空にしたが、普通、羽根箒の方を最初に発動させるべきだ。今回は防がれなかったが、カウンター罠で無効にされる恐れもある。羽根箒を先に撃てば、それを除去できるし、仮に妨害札だったとしても、それを使わせることだってできる。今回はどっち道、一枚しか伏せられていなかったしな」
「うんうん……二ターン目は?」
「えっと……『魔轟神獣ユニコール』は、互いの手札の枚数が同じ時に、相手のカード効果の発動を無効にできるんだよな? だったら、手札の枚数が全然違うあんなタイミングじゃなくて、手札がゼロになるタイミング……一番最後に呼び出すべきだった。場に出た時点で効果が適用される永続効果な以上、召喚を無効にするくらいしか相手に防ぐすべは無い。そうせず中途半端なタイミングで呼び出してちゃ、手札が同じ枚数になるまでの間に対策されたって文句は言えない」
「大正解! さすが佐倉君」
「ハハハ、どうもありがとう……あと、俺の名前は――」
「まったく……梓の体奪っといて、梓の姿でこんなド下手な決闘してさ。こっちとしては、すっごいムカつくから、今すぐサレンダーしてほしいくらいなんだけど?」
「……ククク」
佐倉の言葉を遮りながらの、アズサからの問いかけに、梓はほくそ笑んだ。
「確かに……私はあまり、このゲームが上手いとは言い難い。何せ、タカがカードゲームなどより、行うべき大事はいくつもあるのだからな。時間を無駄使いできる人間どもと違って、こんな下らんことに、貴重な時間を費やす余裕などないのだよ」
「その下らんことの精霊に生まれ変わっておいて、よく言うね」
「ああ……真に心外だ。このカードゲームに宿る不可思議な力、神秘的な力には十分な利用価値があった。だから使う分には抵抗が無かった。だが、自分が使われる側にされるとなれば話は別だ。虫唾が走る思いだよ、我がことながら」
「下手くその言い訳にしか聞こえないね。生まれ変わる前から、自力はちっとも鍛えないで、セコイことや卑怯なこと、他人を利用することばっか考えるから、そんなことになるんだよ……」
呆れ口調でそう言った後……レイヴンから、倉庫の出口へ視線を移した。
「一つアドバイスするなら、あそこに座ってる、レジーって娘に決闘してもらった方が、まだマシだったと思うよ。彼女なら、卑怯なことしなくたって、お前たち魔轟神の力を最大限に発揮して――」
「黙れ」
アズサの親切なアドバイスを、レイヴンは、怒りの形相で遮った。
「私が、人間に使われろだと? この私が、人間に従い闘えと……ふざけるな!!」
「私のターン!!」
レイヴン
手札:0→1
「伏せておいた魔法カード『天よりの宝札』を発動! 互いのプレイヤーは、手札が六枚になるよう、カードをドローする!」
「ちょっともったいないけど……オーガ・ドラグーン、虚無裁!」
発動された魔法カードを、再び煉獄龍の尾が貫いた。
「では、次はこれだ。魔法カード『壺の中の魔術書』! 互いのプレイヤーは、カードを三枚ドローする」
「引き当てたのか……っ」
梓
手札:0→3
アズサ
手札:0→3
「どちらを先に発動させるか迷ったのだがね、確実に効果を使わせるために、より強力な効果を持つ方を使った。これは、下手くそかね?」
「ふんっ……」
「続けてこれだ。ライフを800払い、伏せておいた装備魔法『早すぎた埋葬』を発動!」
梓
LP:3300→2500
「私の墓地に眠るモンスター一体を蘇生させ、このカードを装備する。このカードが破壊された時、装備モンスターは破壊される。『魔轟神レイジオン』を特殊召喚!」
『魔轟神レイジオン』シンクロ
レベル5
攻撃力2300
「そして、魔法カード『ハリケーン』! フィールド上の魔法・罠カード全てを手札に戻す!」
「『ハリケーン』……あれも確か、今は禁止カードでしたよね?」
「ああ……」
二人の言葉と同時に発生した巨大な風が、互いの場にある魔法・罠全てを巻き上げた。
アズサ
手札:3→5
梓
手札:2→3
「これでユニコールの効果が復活する。今は使えんがな……更に、『早すぎた埋葬』は破壊ではなく、手札に戻ったことで、レイジオンは破壊されない」
「……」
「更に魔法カード『バラエティ・アウト』! 自分フィールドに存在するシンクロモンスター、レイジオンをエクストラデッキに戻し、そのレベルの合計が等しくなるよう、私の墓地に眠るチューナーモンスターを特殊召喚する。来い、我がチューナーモンスターども!」
『魔轟神獣キャシー』チューナー
レベル1
守備力600
『魔轟神獣ケルベラル』チューナー
レベル2
守備力400
『魔轟神レイヴン』チューナー
レベル2
守備力1000
「このカードを発動したターン、私はシンクロ召喚ができなくなるが、構わない。キャシー、ケルベラルの二体をリリース……」
二体の獣が光に変わり、最後の手札を、梓は掲げた。
「忘れ去られし暗闇の星よ、存在を奪われし恨みを糧に、忌むべき敵の全てを奪いつくすがいい……アドバンス召喚! 『
頭上に発生した暗闇の中から、星ではなく、赤い瞳がいくつも輝いた。
その瞳を持つ眼の周囲に、太く、獰猛で、闇よりも暗い肢体が伸びた。
太い両腕、太い両足、更には背中から、鎧にも、骨にも見える鋭利が飛び出し。
更にはその背中から、先端に刃を備えし、長い触手が三本、揺らめいている。
いくつもの眼で全てを見通し、全身の凶器で全てを壊し、暗闇として全てを奪う。
宇宙の闇より降り立ったソレは、否定されしものの名を持つ悪魔……
『
レベル8
攻撃力2600
「プルート……冥王星、だと?」
「そうだった……冥王星も、昨日までは惑星だったんだ。それに、さっきハッキリ言ってた。
「そう……私たち魔轟神と同じ、人間どもの勝手な都合で、存在を否定された悲劇の
「僕も梓も知らないカード……それが隠し玉?」
「そうだ……『The suppression PLUTO』! 一ターンに一度、カード名を一つ宣言し発動する。私は『生還の宝札』を宣言する」
「『生還の宝札』……たった今、『ハリケーン』の効果で手札に戻ったカード」
「その後、相手の手札を全て確認する」
「なっ! うぅ……」
『フィッシュボーグ-ガンナー』
『バトルフェーダー』
『月の書』
『生還の宝札』
『デモンズ・チェーン』
「そして、この効果で宣言したカードが相手の手札にあった場合、相手フィールドのカード一枚のコントロールを得る」
「なんだと!?」
「アズサちゃんの手札には、今宣言した『生還の宝札』。それに、アズサちゃんの場のカードは一枚、て、ことは……」
「レイジオンの仕返しだ。貴様の場の、『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』を貰うぞ!」
冥王星の背中で揺らめく、三本の触手。先端の刃を向けながら、煉獄龍の身へ伸び、突き刺した。
そこから邪悪な力を流し込み、煉獄龍を従わせた。
「カードを一枚伏せる……バトルだ! オーガ・ドラグーンで、ダイレクトアタック!!」
前のターンと同じように、煉獄龍の口に炎が燃え上がる。
前のターンとは違うのは、そのコントロールを奪われていること。
本来の主が使っているようで、その主は体を奪われ、その攻撃を向けているのは、主にとっての最愛の一人であるという矛盾……
……だが、
「手札の『バトルフェーダー』の効果! こいつを特殊召喚して、バトルフェイズを終了させる!」
『バトルフェーダー』
レベル1
守備力0
そんな矛盾になど負けはしない。それを報せるように鐘の音が鳴り、バトルは終了した。
「もちろん、分かっていたとも……ターンエンドだ」
梓
LP:2500
手札:0枚
場 :モンスター
『The suppression PLUTO』攻撃力2600
『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』攻撃力3000
『魔轟神獣ユニコール』攻撃力2300
『魔轟神レイヴン』守備力1000
魔法・罠
セット
アズサ
LP:4000
手札:4枚
場 :モンスター
『バトルフェーダー』守備力0
魔法・罠
無し
「まずいですよ、これ……手札は増えたけど、相手の場にはオーガ・ドラグーンがある。梓くん……レイヴンの手札はゼロ。一ターンに一度だけとは言っても、魔法も罠も無効化されちゃう」
「どうする? 舞姫……」
「……僕のターン!」
アズサ
手札:4→5
「……速攻魔法『月の書』! オーガ・ドラグーンを守備表示にする!」
「これは、無効にしても仕方がない……このドラゴンの守備力は、攻撃力と同じく3000か。ここは守りを固めるとしよう」
セット(『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』守備力3000)
(この状況……次のターンには、煉獄龍は表側になって、また魔法も罠も防がれる。レベルを変えられるレイヴンだっているから、それを素材に新しくシンクロ召喚だって狙える。何より、あいつは昔の梓みたく、デッキに禁止カードや制限カードを何枚も採用してる。早く決着をつけなきゃ、大変なことになる……)
今の目の前の状況。そして、それを打破するための対策を、考え……
「『強欲な壺』発動! カードを二枚、ドローする」
カードの発動。そして、デッキの上に、指を置く……
(この状況を、一発で逆転するには……引き当てて、何とかして使うしかない。あのカードを……!)
「ドロー!」
――ん? 昔の、梓みたく……?
アズサ
手札:3→5
「……」
「……」
「……」
「……」
「……さすがに、梓みたく、都合よく引けないよね」
「……ククク、フフハハハハハ!!」
アズサの独白に、レイヴンは高笑いを決め込み、星華とあずさは顔を青ざめた。
この場で笑っているのは、レイヴン一人……
では、ない――
「だったら、引くまで何度もドローする。魔法カード『魔法石の採掘』! 手札を二枚捨てて、墓地の魔法カード『命削りの宝札』を手札に加える」
アズサ
手札:4→2→3
「何だと……?」
「永続魔法『生還の宝札』! カードをセット。そして、魔法カード『命削りの宝札』! 手札が五枚になるまで、カードをドロー!」
アズサ
手札:0→5
「ちぃ……っ」
「続けて、たった今墓地に送った『フィッシュボーグ-プランター』の効果! このカードが墓地にある時、一度だけデッキの一番上のカードを墓地へ送る。そして、それが水属性モンスターだった時、墓地のこのカードを蘇生できる!」
『E・HERO アイスエッジ』
水属性モンスター
「アイスエッジは水属性、よって、墓地から特殊召喚! 更に、『生還の宝札』の効果で、一枚ドロー!」
『フィッシュボーグ-プランター』
レベル2
守備力200
アズサ
手札:5→6
「更に、墓地の『フィッシュボーグ-ガンナー』の効果! 自分フィールドにレベル3以下の水属性モンスターがいる時、手札を一枚捨てることで、墓地から特殊召喚する!」
アズサ
手札:6→5
『フィッシュボーグ-ガンナー』チューナー
レベル1
守備力200
「当然、宝札の効果で、一枚ドロー!」
アズサ
手札:5→6
「すごい……墓地からのモンスター展開に合わせての連続ドロー」
「梓の決闘をそばで見てきたというだけはあるな。まるで梓を見ているようだ」
「……っ」
後ろの少女二人とは対照的に、レイヴンは苦虫を噛み潰したような顔になる。
自身がこの世界へ来る前。最期に行った、娘との決闘。
あの時も、目の前の少女と同じ姿で、一ターンの内に、計十枚ものカードをドローした。
それで大逆転を許し、敗北を喫した。
目の前の光景はまさに、自分が見た最期の光景と被る……
(もっとも、今回はどうあろうとも、あの時と同じにはなるまいがな……)
「『フィッシュボーグ-ガンナー』はチューナーモンスター。それでシンクロ召喚を狙うかね?」
「いいや。そんなことしたって逆転はできない……けど、たくさんドローしたおかげで、やっと来てくれたよ。フィールドの準備もできたしね」
「なに……?」
「僕は『バトルフェーダー』、『フィッシュボーグ-プランター』、『フィッシュボーグ-ガンナー』の三体をリリース……」
「三体のリリースだと!? だが、貴様が神のカードを持っているはずが――ハッ……!」
そこまで言って、レイヴンは思い出す。
神の複製。三邪神。レイヴンの知る限り、それ以外でこの島に存在している、召喚に三体のリリースを要求するモンスター。決闘の直前、アズサが後ろに立つ少女の一人から受け取っていたカードを……
「アドバンス召喚! 『
頭上に拡がる一瞬の銀河の後、輝きを発したのは、鉤型の光から成る青白い二本の剣。
それを握る、小さく、細身の女性的な、なのに力強さに溢れた蒼き両腕。
両腕と同じく、白きマントを翻らせる肢体は、青く、藍く、どこまでも深い、蒼色の鎧。
強さと美しさを兼ね備えし、水星の名を冠す輝誕の女騎士……
『
レベル8
攻撃力2000
「『The tripping MERCURY』の効果! このカードが召喚に成功した時、フィールド上のモンスター全てを表側攻撃表示に変える!」
蒼き女騎士の君臨と共に、彼女を中心に大気が揺れる。それに煽られるように、横向きになっていたカードが全て、縦向きに変化した。
『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』
攻撃力3000
『魔轟神レイヴン』
攻撃力1300
「このカードが三体のリリースでアドバンス召喚に成功した時、相手フィールドのモンスターの攻撃力を、その元々の攻撃力分ダウンさせる。
立ち上がったモンスター達に向かって、蒼い騎士の両肩の突起が飛び出した。
瞬間、その突起に挟まれたフィールドに、風が起き……否、大気自体が躍動を始めた。
巻き起こる急激な環境変化に対応できない、水星を除いた生物たちは、全てがその力を吸い取られる。
『The suppression PLUTO』
攻撃力2600-2600
『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』
攻撃力3000-3000
『魔轟神獣ユニコール』
攻撃力2300-2300
『魔轟神レイヴン』
攻撃力1300-1300
「すごい! これでどのモンスターも倒せる!」
「……星華姉さん?」
「む……なんだ?」
「この水星のカードさ、借りるだけのつもりだったけど、このまま貰っちゃダメかな? 気に入っちゃった」
「うむ……好きにしろ。元より私のカードではない。それに、お前……お前たちなら、信頼して託せる」
「あ……じゃあわたしも、木星のカード欲しいです」
「ああ、持っていけ。むしろ、最初からそのつもりでお前に渡したカードだ」
「ありがと。星華姉さん」
会話を済ませ、決闘に目を戻す。
「バトル! 『The tripping MERCURY』は、一度のバトルフェイズ中に二回の攻撃ができる」
「ちぃ……っ!」
「『The tripping MERCURY』で、『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』を攻撃!」
アズサが叫んだ瞬間、再び彼女を中心に、大気の流れが生じた。
急激な気温の上昇、それに伴う上昇気流が、マントを纏いし騎士の身を空中へ押し上げる。
頂点に達したと同時に、両の剣を構えしその身を急降下させ、鬼の龍へと突撃する……
「
十分すぎる高さ、速度に達した女騎士の斬撃を、力を奪われし煉獄龍には防ぐすべなどなく、真っ二つに切り裂かれることとなった。
「ぐぅ……くぅ……!」
梓
LP:2500→500
「く……ここまでか」
もはや、攻撃を防ぐすべは無い。それを悟った梓は、体から力が抜けた。
「よし! あと一撃だ!!」
「もう一体を攻撃したら、それで勝てるよ!!」
そう。二人の言った通り。レイヴンも悟っている通り。
あと一撃。それでアズサは、勝利を掴める。
あと、一撃で、勝利を……
「……アズサちゃん?」
「どうした? 舞姫?」
あと一撃。それで、何人もの人間を巻き込み、傷つけたあの精霊を倒すことができる。それで、あの男のバカげた計画も終わらせられる。
だというのに、アズサはその一撃を、一向に放つ気配が無い……
「……レイヴン」
「なにかね?」
「この決闘ってさ……闇の決闘、だよね?」
「そうだ」
「敗けた方が消える、闇の決闘、だよね?」
「もちろん。敗けた決闘者が存在を抹消される、闇の決闘だ」
「敗けた、決闘者、がね……」
「……ッ!! お前ッッ!!」
「な、なんだ……?」
二人の会話。そして、アズサの絶叫。叫んだ理由は、すぐに分かった。
「それじゃあ、最初から……自分が敗けた時の身代わりにするために、梓に憑りついたっての!? 敗けたら自分じゃなくて、梓を消滅させるために!?」
「え……えっ!?」
「なんだと!?」
「ククク……ハハハハハハハハ!!」
返事はしない。だが、顔に手を当てながらの笑い声が、それが正しいことの何よりの証だった。
「……いや、だが待て。いくら敗けたと言っても、消滅だと? 私とて、普通でない決闘は何度か経験し、勝ってきたが、消滅した者など一人も……」
「その人たちは、禁止カードを使ってましたか?」
星華の言葉を遮りながらの、あずさの問いかけに、星華は答えられなかった。
「わたしが決闘した時と同じです。梓くんもレイヴンみたいに、禁止カードを使ってきました。レイヴンと違って、最初から命を捨てるつもりで、何枚も。禁止カードを……決闘の禁を破った決闘者を、闇の決闘は絶対に許さない。ルールにのっとって必ず消滅させる。現に、梓くんは一度、わたしの手の中で消えました」
そこまで梓を決闘に駆り立てた理由は、なぜか思い出せない。だが、その時の感触は、今でもハッキリ覚えている。
確かにそこにいたはずなのに、重さが、温かさが、そして存在そのものが、手の中から完全に消え失せた、あの、絶望という以外にない、あの時の感触を……
「だ、だが、梓は今、あの通り生きて……」
「僕の話聞いてなかったの? 消滅した梓を救ったのは、グリムロの力。グリムロの生まれ変わりのあずさちゃんが僕を召喚して、僕の中の心と魂を引き換えにして、ようやく梓は生き返ったんだ。もう、グリムロはどこにもいない。力だって使えない」
「そんな……では、この決闘に舞姫が勝利したその瞬間、どう足掻いても、梓は……っ」
あの時のあずさと同じ、絶望が、星華の表情に表れる。
直後に表れた感情は、怒りだ。
「レイヴン……貴様!! そこまでしてっ、梓のことが憎いというのか!?」
「当たり前だろう」
あっけらかんと、星華を、人間たちを小バカにした声を上げ、ふてぶてしい態度を隠そうともしない。
「私は、この男が憎くてたまらない。私から最愛の娘を奪ったから……いいや、それ以前の問題だ」
それまでは、卑しい微笑の表情だった。それが急激に、今までにないほどの……星華やアズサにも負けないだけの、怒りに変化した。
「初めて見た時から……この男の顔、姿、存在を認識した瞬間から、私はこの男、水瀬梓のことが憎たらしくて仕方がないのだよ。人間であることは関係ない、同じ魔轟神と知ってからも変わらない――なぜこれほどまでに憎いのか、自分自身でさえ理解できんほどにな! 叶うものなら、私自らの手で八つ裂きにでもしてやりたい……そう思うほど、この男が許せない! この男が存在すること、それ自体が許せんのだ!!」
隠すことのできない激情のままに叫びながら、梓の手で、梓の顔に爪を立て、深い傷を抉っていく。
だが、いくら抉ったところで、内に眠る虎王の力で、すぐさま再生させられる。
その再生した綺麗な顔を邪悪に染め、再びほくそ笑んだ。
「だが、それは私には叶いそうにない。だからこうして、闇の決闘を実行したのだ。この男には最も苦痛だろう。愛する者の手により、我が身を抹消させられること。その逆もまた然りだ」
「貴様ぁ……!!」
「話は終わりだ……さぁ、どうするね? 氷結界の舞姫?」
『The suppression PLUTO』
攻撃力2600-2600
『魔轟神獣ユニコール』
攻撃力2300-2300
『魔轟神レイヴン』
攻撃力1300-1300
「『The tripping MERCURY』の効果で、私の場のモンスターは全て、攻撃力が0になっている。そして、MERCURYはあと一度、攻撃の権利が残っているぞ。さあ、攻撃するかね? 勝利を得るかね? 水瀬梓を犠牲にして」
「……メインフェイズ2に移行」
「そうだ! お前はそうするしかないのだ! この男が大切だからな! 愛する男を犠牲になどできないのだからな! フフ、フフフフ、フフハハハハハハハ!!」
「あの男、よくも……!」
「許せない……許せない!!」
「いい加減、ギャラリーは黙っていてくれないか? 特にお前だ。大切な我が娘の魂、傷つけたくはないからな。そこでジッとして、水瀬梓か舞姫か、どちらが消えるかジックリ見ておきたまえよ」
「く、ぅぅ……っ」
最初から最後まで、卑劣なことしかしていない。
それなのに、何もできないことで、拳を握る総身が震えた。
あずさも星華も、とにかく、許せない。
決闘している梓――その中に図々しく入り込んで、体を使って、好き勝手喋って、あげく人質、どころか身代わりにして……
そんなことを、自分達の最愛の人に行っている、そんな存在が……
魔轟神レイヴンが、許せない……
もちろん、それは決闘中のアズサも同じ。
今にもレイヴンへ殴りかかりたいほどの怒りに駆られ……
敢えてそれを抑え込み、手札を、決闘を見る……
(こうなったら……どうにかして、梓自身の意志で、レイヴンを体から引きはがさせるしかない)
弱りきっていたところを狙われて、おまけにあそこまで体も意識も浸食されてしまっては、梓へ呼びかけること自体が、もはや難しい。
それでも、梓をこの決闘から解放する方法は、それ以外にない。
(そのために、必要なのは……)
「カードを二枚セットする。ターンエンド」
アズサ
LP:4000
手札:3枚
場 :モンスター
『The tripping MERCURY』攻撃力2000
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
セット
セット
セット
梓
LP:500
手札:0枚
場 :モンスター
『The suppression PLUTO』攻撃力2600-2600
『魔轟神獣ユニコール』攻撃力2300-2300
『魔轟神レイヴン』攻撃力1300-1300
魔法・罠
セット
(僕の場にMERCURYがある限り、少なくともあいつは攻撃できない。こいつで時間を稼いで、その間に何とかするしかない!)
「私のターン!!」
お疲れ~。
サンボルに羽根箒……
この小説を書いてた当初にゃあ、制限復帰するだなんて夢にも思わなんだわ。
だからせめて、サンボル解禁前に書きたかったな。インパクト的な問題で……
そんじゃあ、ラスボス戦恒例(?)、使用禁止カードを羅列。
ついでに、少ないからリミレギュ破りも書いときまさ。
禁止カード
『サンダー・ボルト』
『ハーピィの羽根帚』
『強引な番兵』
『ハリケーン』
制限カード
『強欲な壺』
『強欲な壺』
うーむ……枚数が少ないのもそうだが、ぶっちゃけ、一年目の梓に比べりゃ可愛く見える不思議。
まあ、作中の通り、レイヴン弱いからなぁ。だから敗ける前提で人質取ってるわけだし。
ただ、このころ『ハリケーン』て禁止だったっけ……?
つ~ことで、次で決闘は完結さす予定なんで、それまでどうか、ちょっと待ってて。