そんなこんなで長く間を開けちまった、六日目。
内容的には、まだ五日目じゃねーかとも思うけども、日付は変わってるってことで……
そんだらことで、行ってらっしゃい。
視点:外
「エド・フェニックスー!!」
舞い上がる黒煙。
乱舞する炎。
弾け飛ぶ床、窓、船体。
それらの光に照らされた、夜の中。
エド・フェニックスは海上の、正に火の海と化した船の上にいた。
彼が復讐を決めた、父を殺し、『究極のD』のカードを奪い取った男。
それを打ち倒し、カードを奪い返し、そして、真なる復讐の対象たる『破滅の光』の力。それを宿す存在を知った矢先、決闘の衝撃で、決闘の舞台となった個人所有の船が引火、爆発してしまった。
海上では逃げ場もなく、ここまでかと思われた時。
空からは爆炎よりも巨大な、ヘリの音が響き、そこに乗っているのは、鮫島校長。
ヘリから縄ばしごを落とされ、それにつかまることで、無事に脱出することができた。
(それにしても……)
はしごを上り、ヘリに乗り込み、アカデミアへ向かいながら、エドは一応の安堵を感じながら、直前の決闘、そして、直後のことを思い出した。
(復讐を成した後……終わってみれば、後にも先にも、何も残るものは無いな)
復讐を果たさなければ、止まった時間は進まない。ゆえに、前に進むこともできない。
そう思い、感じ続けて、何日も何年も、父を殺した犯人を捜し続けてきた。
そして、ようやく見つけ出し、積年の恨みと怒りと憎しみをぶつけた。
そして今日、やっと終わったというのに、心に残ったのは達成感ではなく、ただ、追い続けてきたものが失せたことでの喪失感だけ。
達成感も、歓喜も、興奮も、熱狂も、何もない。
積もり積もった、恨み、怒り、悲しみ、憎しみ。ここまで積み上げてきた、技術、精神、決意、そして時間。
それらが一気に意味を無くしてしまったことへの、どうしようもない虚無感だけ。
心にぽっかり穴が開く。
ちょっと適当な悲劇小説でも開けば出てきそうな、ありふれた陳腐な言葉。
それがたった今、エドの胸に去来し、そしてそれが虚しさとなって、体中へ広がっていく。
(お前も、もし復讐を成したとしたら、こんなふうになっていたのか……?)
頭に浮かんだのは、自分と同じく、父を殺され、復讐に取りつかれ暴走したという、アカデミアにいる少年の顔だった。
相手が誰だったかは忘れたが、その少年は、あと一歩のところまで迫っておきながら、最後は愛情に負け、相手を許すこともできないまま、復讐を成すことは叶わなかった。
だから少なくとも、エドが今感じている虚無感と、そこからくるある種の哀しみは、彼には無かったことだろう。
……もっとも、彼が最終的に望んでいたのは、自分が死ぬこと。
だから、もしかしたら、そんなことを感じる暇もなく、自分自身を殺していたかもしれない。
改めて理解する。僕は、あいつとは全く違うんだということを。
(それでも、父の仇は打った……)
過去は変えられない。失ったものは戻らない。そして時間は、進むしかない。
一方的に進む時間の流れの中で、それに従って生きていくことしかできない者たちにとって、できることは、二つだけだ。
そこで、ジッとしているか。
少しずつでも、前に進んでいくか。
(僕の中の時間は、たった今動き出したんだ。僕自身も、前に進んでいける。そして、まずはお前を倒す。真に倒すべき敵、破滅の光……)
――斎王!
……
…………
………………
「ほぅ……わざわざそちらから出向いてくれるとはな」
日付が変わった深夜。ホワイト寮から現れた決闘者、オージーン。
斎王の命を受け、十代の持つ鍵を決闘で奪い返すためにホワイト寮から出てきた。
だがそこに待っていたのが、他ならぬ十代自身だった。
「そうか、リンドにでも言われてきたな」
それを見たオージーンは、自身に付き従ってきた秘書の女の姿を思いついた。
いつもそばで彼のことを見てきて、彼のことを誰よりも理解してくれている女性だった。だが、それももはや、彼にとっては過去でしかない。
今のオージーンにとって、真なる理解者はただ一人。斎王琢磨であり、信じられるものは、彼と、彼の言葉だけなのだから。
「決闘だ、オージーン王子。アンタが勝ったら、この鍵は返してやる」
「良かろう。ワンターンキルの餌食にしてくれる」
オージーンが言った通り。十代は、彼の秘書であるリンドの話を思い出しながら、彼との決闘へと臨んだ。
彼を元に戻すために。そして、倒すべき敵である男を止めるために。
――待ってろよ、斎王!
……
…………
………………
一つの決闘が終わり、新たな決闘が始まろうとするのと同じころ……
「あそこに奴がいるというわけだな」
「ああ。それがターゲットだ」
オージーンと十代が相対している、正面玄関とは真逆の場所。
生徒達が宿泊する寮の、その個室の窓を捉えながら、二人の男が会話をしていた。
黒色のコートを着た男と、桃色のジャケットを羽織る男。
黒色の男は、身長はスラリと高く、背中まで伸ばした緑髪をなびかせている。だがそんな髪の下からは、日本人らしい端正な顔つきと、だが切れ長の鋭い視線を覗かせていた。
桃色の男は……
同じ。身長も、体格も、髪色も、髪型も、顔つきさえも。
黒色と同じ髪の下から、黒色と同じ顔、同じ視線を覗かせ、同じ場所を見ている。
それもそのはず。
兄、『
「奴を決闘で倒すことができれば、ミスターマッケンジーの願いは果たされる」
「ああ。それを果たすことこそ、我らが宿願」
そんな二人の、同じ形をした左耳には、今までと同じ、石ころがぶら下がっていた。
それは、今までの者たちと同じ。二人もまた、彼らを操る者に操られている、ということ。二人が今までの者たち以上に心酔しているのは、二人が最も長く古く、彼がおかしくなる遥か前から、彼を信じ、従ってきたからだろう。
操られているのは間違いない。だが、今までの者たちがそうであったように、操られる以前の、自身の意識ははっきりと持っている。心象はどうあれ、彼ら本来の人格と、彼ら本来の意思でこの島に来て、決闘した。
この二人も同じように、自分らの意思で彼に従い、自分らの意思でここまで来た。決闘をするのも、あの人のためにという、自分らの意思でだ。
時間は深夜であり、標的はすでに眠っているかもしれない。
だが、標的の事情など、二人にとって知ったことではない。
敵を倒す。自分たちはそんな彼の望みを叶えるだけなのだから。
そのために、二人は同じように、決闘ディスクを起動させた。
「さあ、行くぞ夜光」
「もちろんだ、月光」
「ちょっと待ってほしいかな~……」
そんな二人の耳に、そんな言葉が聞こえてきた。
若く、のんびりとした少女の声だった。
二人とも、同じように視線をホワイト寮から、そちらへ向ける。
「なんだ?」
「……?」
「彼今、大切な決闘の後で疲れてるだろうから、休ませてあげてほしいな」
「……何者か知らんが、貴様には関係のないことだ」
「もちろん、標的の状態もな。我々にも、我々の都合というものがある」
「だよね~。相手の都合なんかお構いなしって顔してるものね~。だからさ、彼と決闘する前にさ、決闘の相手してよ」
「貴様と、決闘を?」
「そんな決闘、我々が受けると思っているのか?」
「あれあれ~? 仮にもジェネックスの参加者だったら、その日の最初に挑まれた決闘は断れないってルール、知らないわけじゃないでしょ~?」
「……」
「……」
「お二人のことは、上陸したのを見つけた時から見てたけど、誰とも決闘してないよね? それでも断るの? わたし自身、断ったらどうなるかは知らないけど、もし偉い人に見つかったら怒られちゃうかもよ? そしたら、彼を狙うどころじゃなくなっちゃうかもね~」
「……ちっ」
「ふん……」
二人とも、標的を前に納得しかねる様子でありながら、それでも今は、標的を寮の中ではなく、寮の外へと切り替えた。
「良いだろう。その決闘受けてやる」
「だから、貴様もさっさと姿を見せろ」
「……」
声に向かって、二人は同じ声を上げ、そして、その声の主も、二人と言葉を交わした。
『決闘!!』
……
…………
………………
――Dad!?
――Seika! Run!!
BLAM BLAM BLAM
――Guh……
――Dad? Dad!?
――Seika……Run……You are existing……And please have a nice life……
――Dad……Ahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!
「Dad!?」
絶叫し、目が覚めて、ようやく眠ってしまっていたことに気が付いた。
「Shit……」
眠っていたことに対して、更に、直前まで母国語を喋っていたこともあって、悪態まで英語になってしまう。
今日は梓のために、彼を狙う敵を倒そうと、こうして梓の元へ戻るのも我慢して、徹夜も覚悟で出歩いていたというのに。
だが、そんな失態ももちろん腹立たしい事実ではある物の、それ以上に今の星華の胸を包み込む感情は……
「まさか今になって、昔の夢を見ることになるとは……」
随分と忘れていた……忘れようと努めていた過去だった。それがどうやら、昔馴染みに二人も再開したことで、嫌でも思い出してしまったらしい。
アメリカを出ざるを得なくなった理由……
日本まで逃げる以外になくなった理由……
(もっとも、この国に来たことに、後悔は無いのだがな)
それだけは、間違いなく言える事実だ。
母方の実家である祖父母の家に預けられた。ほとんど面識のない、アメリカの足元にも及ばない田舎町だった。だが、心優しい祖父母や近所の人たち、静かで豊かな自然に囲まれたおかげで、血生臭い過去を乗り越えることに苦労せずに済んだ。
何より、この決闘アカデミアに入学したことで、他の誰にも代えがたい、最愛の人に出会い、形はどうあれ結ばれることができた。
彼のためなら命すら惜しくはない、そう思えるほど愛しい人だ……
「……あの時、父も、私に対してそんな風に思ってくれていたのだろうか……」
今でも夢に出るほど鮮明に覚えている。
社会的には決して褒められた人間じゃない。恨みを持つ人間も少なくない。それを知ったのは、あれから随分と後になってのことだ。
それでも、何も知らぬ娘は、優しくて偉大な、世界一強い男。そんな風に思っていた。
そんな男と結ばれた、優しい日本人女性との間に生まれたことに、幼いながらも感謝していた。
そんな大好きの父の役に立ちたいと思ったから、下手くそな決闘を必死に覚えて、誰にも勝てないにも関わらず、父の経営する施設で決闘した。
何度負けて、何度ベソを掻くことになって、相手や、時に父にさえ怒られることになったとしても、それでも、頑張ることはやめなかった。
今思えば、あの頃の自分は、種類は全く違うが、父に対して、梓と同じ系統の感情を抱いていたんだろう。
この人のために頑張りたい。
この人のために役に立ちたい。
この人のことが大好きだから……
「……つまり、私はあの頃から、全く変わっていない、ということになるのか?」
考えた後で、そんな結論が口を突いてしまう。
だが、感情や気持ち心持ちはどうあれ、少なくとも、あの頃に比べれば違うものは持っている。
「あの頃にはなかった……力なら、手に入れた」
日本に来てから今日まで、ただ遊んでいたわけじゃない。
成長を諦め、迷走していた時期もあった。だが、今はもう迷わない。
「あの時は逃げるしかなかった……だが、過去は過去。とっくに乗り越えた。今は、今だ」
今、愛する人のために、手に入れた力を振う。足りなければ、もっと強くなる。そう既に決めている。
改めて、決意を口にした後で、星華は座っていた腰を上げて歩き始めた。
……だが、その足を、すぐに止めることになった。
――うわあああああああああああ!!
――ぐああああああああああああ!!
どこからか、二人分の悲鳴。同時に、決闘のエフェクトによる爆発音が響く。
「あれは……男子寮の方か?」
今はジェネックス中。どこで決闘が行われていようと不思議ではない。
だが、時計を見ると、深夜をとうに回っている。こんな時間になってまで決闘をするというのも不自然な話ではある。まして、悲鳴が二人分というのは……
「まさか……」
嫌な予感を抱きつつ、歩きだった足を、男子寮の方へと走らせた。
「……」
男が二人、男子寮が見える程度に離れた場所に倒れていた。
決闘ディスクは起動していて、辺りには、カードが散らばっている。
それだけなら、決闘で敗北した後の状況として、特に不自然には感じない。
それと同時に、彼らの左耳に着いたイヤリングは、不自然な砕け方をしていた。
まるで、今まで自分がそうしてきたように……
「……」
「遅かったか?」
その声に、あずさは振り返ると、茂みの中から星華が現れた。
「あ、星華さん。こんばんは」
「こんばんは」
挨拶を済ませ、星華も、あずさに並んで二人を見た。
「……これは、お前が?」
「いいえ……わたしも、悲鳴を聞いてたった今来た所で、相手の決闘者はいなくなってました」
「ふむ……」
あずさが嘘をついている様子はない。もっとも、そんな嘘をつく理由は、あずさには無いだろう。
「あ」
と、あずさが声を上げながら、地面に落ちている何かを拾い上げる。それは二つとも、二枚に破かれたカードだった。
「それは……」
星華が声を出した時、慌てて後ろに隠そうとするが、隠す前に、星華は言った。
「邪神のカードか?」
「……ふえ?」
背中に隠そうとする寸前の、中途半端な姿勢のまま、あずさも間の抜けた声を出してしまう。
そんなあずさの様子に、星華も事情を察したらしい。
「どうやらお互い、図らずも同じ敵を狙っていたようだな」
言いながら、散らばったカードをあさる。そこから、二枚のカードを見つけだしていた。
「
「星華さんも、惑星のカードを持った決闘者を?」
カードを懐にしまいながら、立ち上がり、堂々とあずさと向かい合う。
「こいつらが梓の敵だというなら、それはイコール私の敵というわけだ……貴様もそうだろう?」
「はい……」
悩みながらも、同じ気持ちを感じたあずさは、そう返した。
「……星華さん、惑星のカード集めてるんですか?」
「ああ。仮にも手掛かりだからな。なんの情報も得られはせんが、決闘の武器にもなる。なら、使えるものは奪い取ってでも使うまでだ」
「……」
それを聞いて、あずさはポケットからデッキケースを取り出した。
「じゃあ、これもあげます。わたしは使わないですし」
決闘で倒した後、明らかに普通でないことから、念のためにと回収しておいた。そんな、差し出された二枚のカードを、星華は素直に受け取った。
「
星華も、自身のデッキに入れていたものを含む、
そんな星華の姿に、あずさは苦笑しつつ……
「あ、えっと……すいません。実は、わたしも三人と戦ったんですけど、一人目は回収し忘れちゃって」
「なに? ということは、相手は
「はぁ……」
「貴様! 何気に地球という母星かつ重要なカードを回収せんとは何事か!?」
決闘者以前のゲーマー脳でそんなことを語り迫ってくる星華の姿に、あずさは思わず怯んでしまう。
「そんなこと言われても……最初に戦って、まさかそんな重要なカードだなんて思いませんでしたし、決闘の後すぐ友達とも話してましたし……」
「ぬぅ……そのカード、今は所在不明か?」
「はい。ごめんなさい……」
「……仕方がない。一枚、それも地球だけ無いのは悔しいが、残りで我慢するとしよう」
「星華さん……まさか、惑星のカード、全部集めたいだけなんじゃ……」
「こんなカードに興味などない。だが、ある程度手元に種類が集まってきたら、コンプリートしたくなるのが心理というものだろう。ポケモンと同じだ」
「……?」
アニメはともかく、遊んだことのないあずさには、よく分からない例えではあるが、それでも全部集めたくなるということには一応の共感を覚えた。
「まあいい。破かれている邪神のカード、二枚とも既に知っているカードだ。最後の一枚の正体に期待もしたが、それが無い以上、もうこいつらには用はない」
「ですね」
お互いに意見が一致して、拾った邪神はどちらも燃やした。倒れた二人は警備に回収を依頼して、そのまま離れることにした。
「さて……惑星のカードが七枚。貴様が回収し忘れたという地球も合わせると、太陽系の八惑星は出揃ったわけだ。都合よく考えれば、これで敵は打ち止めということになるはずだが……」
手元に集まった七枚のカードを眺めつつ、そうあってほしいという願いも込めてそう言った。
だが、あずさは怪訝な表情を見せていた。
「わたしはそれより、あの二人を倒した決闘者の方が気になります」
あの二人以外の六人は、ここにいる二人が倒した。
理由は、連中が梓を狙っていて、二人は梓の味方だからだ。
そして、そんな二人とは違う誰か。それも、惑星や邪神を持つ二人掛かりを相手に、勝ってしまうほどの実力を持った誰か。
「わたし達以外に、梓くんを守ってくれる決闘者がいるってこと、ですかね?」
「もしくは、自分の獲物を横取りされたくない誰か、か……」
あずさも同じように、そうあってほしいと願ったことを言うが、星華もまた、それを否定し怪訝な表情を浮かべる。
もっとも、この場でどれだけ仮説を立てようが、所詮、仮説でしかない。これ以上は水掛け論であることは二人とも理解していた。
「まあ、別に何でも構わんさ。結果的に、梓の敵がいなくなってくれたということだ」
「ですね……いなくなってると、いいですよね」
そして二人とも、最後は同じように、そうあってほしい、そう願う表情を見せる。
散々苦しんで、散々過酷な目に遭ってきて、それでも、自分たちのことを心から思いやり、愛してくれる。そんなただ一人の男が、これ以上辛い目に遭いませんように。
それだけを願って……
「今日はこれで帰るか?」
「いいえ……まだ、敵がいないとも限りませんから」
「だな。ではこの際だ。ここからは二人で行動するとするか」
「え……星華さんと?」
思わず声を上げ、聞き返してしまった。
「そうだ。嫌か?」
「嫌ってわけじゃ……でも……」
星華からすれば、あずさは、恋敵の一人でしかない。同じ立場にあるアズサもそうではあるが、なんだかんだ、一緒に住んでそれなりに仲良くやっていることは見て分かる。
そんなアズサちゃんと違って、わたしは、一緒にも暮らしてもないし、一度決闘したことはあるけど、仲が良いだなんてとても言えない仲なのに。
そんな星華からの誘いに対して、あずさとしては躊躇してしまっていた。
そして、そんなあずさの肩に、星華は手を置いた。
「お前の気持ちは分からんでもない……だがな、私にとって、最も重要なのは、梓の安全と、梓の安心だけだ」
語りかけて、目を合わせる。
「互いの利害も……梓への思いも、一致している。私にとって、お前は恋敵ではあるが、敵ではない。少なくともな……」
「……」
「お前はどうだ?」
そう問われて、あずさもまた、考えた。そして、結論はすぐに出た。
「わたしも、同じです」
「だろうな……ならば、一人ずつ動くよりは、二人で動いた方が確実性は増す。さっきの二人のように、固まって動くことも考えられる。ひとまずは協力するとしよう」
「はい」
意見が一致したことで、二人は並んで歩き始めた。
「ところで、敵はどうやって探すんですか?」
「さぁな……一応、全員が同じなら、耳に下げた石ころが目印にはなるが」
「やっぱそれしかないですよね。わたしも、とりあえず怪しく見える決闘者に声かけたりしてましたけど、ほとんどは関係ないただの決闘者でしたし」
「まあ、そんなものだろう。むしろ大群で攻めてこんだけありがたいと思うべきかもな」
「雑魚をいくら集めたって、足止めにしかなりませんしね」
二人とも、特に行先は決まっていない。敵の数も、正体も、そして居場所すら、分かりはしないのだから。
目指すものはただ一つ。梓の平和を守ること。ただそれだけなのだから。
「なぁ」
「はい?」
「このまま本当に、梓の元に来る気はないのか?」
「……」
「本当は言いたくないのだがな……梓にとって、一番はお前であると、私も、舞姫も、既に認めている。梓は、私も舞姫も同じだけ愛してくれている。だがそれでも、誰より求めているのは、お前だ」
「……」
「まあ、お前が嫌と言うのなら構わん。お前のいない間に、梓の一番になるための時間はたっぷりある。決闘者としてはともかく、女としてははっきり言って、バストサイズ以外で貴様に負ける要素も思いつかんしな」
「バっ……星華さん、ごはんは作れるんですか?」
「む?」
「わたしは……梓くんがわたしを忘れる前ですけど、梓くんに手作りのお弁当、作ったこと何度もあります。星華さんは、作れるんですか?」
「……っ、ふ、ふふぅん、私は梓と一緒に風呂に入った仲だ」
「ぬ……!」
「昨夜は耳掃除もしてもらった……中々のテクだったぞ////」
「うぬぬぅ……! わ、わたしだって、梓くんの裸くらい見たことあるんですからね!」
「何度だ?」
「い……一回……////」
「その程度か。私はすでに何度も見ている。何なら、舞姫と共に裸エプロンもしてもらった」
「裸エプロンッッッッッッ!?」
「あまりの色っぽさに、思わず襲いそうなったが、それも今ではいい思い出だ。あれは見ないとは、惜しいことをしたものよ」
「~~~~っ……特別編に出たこともないくせにぃ」
「それは言うな」
それは言うな。
……
…………
………………
こうして、梓の敵を捜索するために手を組んでいたはずが、いつの間にやら、いがみ合いつつ梓の惚気話を語り合っている。
愛しい恋人二人がそんなことをしている間、
「ブルー……チェダー……パルメザン……モッツァレラ……カマンベール……サケル……おのれチーズ……っ」
(梓……どんな夢見てんのさ?)
少なくとも、梓は夢の中にいた。
お疲れ~。
ちなみに、今までの敵のランキングは、こんな感じ。
イシュ≧キース>紅葉>>リッチー≧デプレ>>デイビット
書きつつ、原作見ながらも思ってたけど、絶対ぇデプレのがリッチーより強いだろうがよ。
デプレはちゃんとしたデッキ使ってたけど、リッチーは統一性の無い単純なビートダウンだし。
原作読んだ時も、ぶっちゃけ感想は……「紙束?」だったしや(それに負ける月光も酷かったが……)
それでも一応、ランクはリッチーのが上ってことだから? リッチーを上にしといたけどや。
キースとイシュは、実力はほぼ互角なつもりで書きましたわ。
それでも最強は、イシュ。
だって、本人もそう言ってたし……
つ~わけで、エド十代、あずさ星華、アズサ梓、どの勢力も、そろそろ最後の戦いだわ。
ようやっと終わりが見えたけど、これもいつ終わることかは、大海の気力と体力次第なのよなぁ。
それでも、読んでくれる人らがいるなれば、楽しんでもらえるものを書くだけさね。
そんなわけで、ちょっと待ってて。