遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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決闘後編~。

てなわけで、行ってらっしゃい。



    闘うべき人 ~決着~

視点:外

 

(さて、これは困りましたね)

 手札を見ながら、梓はそう思っていた。

 現在の手札は、前のターンにフィールドから戻した二枚。一枚目の『生還の宝札』はまだ使い道もあるかもしれないが、現時点で墓地から蘇生できるモンスターはいない。

 二枚目はドゥローレン専用カードと言ってもいい『継承の印』。そのドゥローレンの一枚が除外された今、完全に死に札と化している。

 つまり、今手札に使えるカードは、無いということ。

 

(私の手札もそうですが、それ以上に、亮さん、実に強くなった……『ドラグニティ』。私の元を去り、真にふさわしい人に巡り合うことができたのですね……)

 今でもたまに思い出す。

 なぜか氷結界と共にあった、三つのデッキ。

 常にパートナーを欲していて、自分と闘う氷結界達を羨ましがっていて、だが、梓が落ち込んだ時は、そんな梓を気にかけてくれていた。

 彼らを亮ら三人に渡した後はそれも無くなり、代わりにアズサが来てくれたが、それでも別れの寂しさは否定できなかった。

 

 そんな三つのデッキのうちの、真に満足に満ちたデッキとの決闘。

 心が弾む。興奮する。もっと続けたいと、心の奥底で声が聞こえる。

 

(とは言え、既に終わりは見えていますがね……)

『もうギブアップ?』

(アズサ……)

『もう、ここでおしまい?』

(愚問ですね。以前も言ったでしょう? 決闘は劣勢なくらいが最も面白い)

『だよね!』

 

「続けます。私のターン!」

 

手札:2→3

 

「まずはこの手札をどうにかせねば……魔法カード『天使の施し』! カードを三枚ドローして……二枚を捨てます」

 新たに引いた三枚と、捨てるべき二枚。それらを見て、選んで、捨てる。

(この選択が、吉と出るか凶と出るか……)

 そう考えた時、思わずフッと、笑みがこぼれた。

(いいや、違う……私は凶王。私の選択はいつでも凶を呼ぶ。吉か凶ではない。勝利するための凶か、敗北となりし凶か、それだけだ)

 

「私はモンスターをセット。これでターンを終了します」

 

 

LP:700

手札:2枚

場 :モンスター

   『バトルフェーダー』守備力0

    セット

   魔法・罠

    セット

 

LP:800

手札:0枚

場 :モンスター

   『ドラグニティナイト-アスカロン』攻撃力3300+500+1000

   『サイバー・ダーク・ホーン』攻撃力800+2000

   魔法・罠

    永続罠『ドラグニティ・ドライブ』

    効果モンスター『ドラグニティナイト-ハールーン』

    効果モンスター『グランド・ドラゴン』

    セット

    フィールド魔法『デザートストーム』

 

 

「この局面で、モンスターを裏守備表示でセット……『スノーマンイーター』か」

「……」

「だが、たとえ破壊効果を持つモンスターであろうと、アスカロンの効果で、俺の墓地にドラグニティが存在する限り、お前の場のモンスターは例外なく除外できる。それにもう一つ教えてやる。俺の場の『サイバー・ダーク・ホーン』は、守備表示のモンスターを攻撃した時、攻撃力が守備力を超えていれば、その差のダメージを相手に与える貫通効果を備えている。貴様のライフは残り700。どちらに攻撃したとしても終わりだ」

「ご自由に。どうするか決めるのは、現在ターンを迎えているあなたの権利だ」

「その余裕がいつまでもつか……俺のターン!」

 

手札:0→1

 

(モンスターを増やして盤面を有利にしておきたかったが……まあいい)

「アスカロンの効果! 墓地に眠る『ドラグニティ-ミリトゥム』をゲームから除外、そのセットモンスターを除外する!」

 浮かび上がる緑色の戦士。それが裏側のカードへ向かい、そのままさらっていく。

 亮の言った通り、姿を現した雪だるまが天へと消えていった。

「バトルだ! アスカロンで、『バトルフェーダー』を攻撃! 閃貴琉霊-アスカロン!!」

 再び輝く黄金の槍。その刃を小さな悪魔へ向け、突撃し、飛んでいく……

「墓地の『キラー・ラブカ』、効果発動!」

 そこへ、黄金の輝きに巻き付く、黄色の長物の姿があった。

 黄金の巨体にはまるで届かない小さな体で、目一杯その身にしがみつき、縛りつき、噛みついていた。

「『キラー・ラブカ』……墓地へ落ちていたか」

「効果はご存知ですね。モンスターへの攻撃を無効にし、次の私のターンのエンドフェイズまで攻撃力を500ポイント下げる」

 

『ドラグニティナイト-アスカロン』

 攻撃力3300+500+1000-500

 

「どの道、この瞬間でなければ効果は使えなかったわけだ。だが所詮、フィールド魔法で増えた分が元通りになっただけにすぎん。いずれにせよ、ここまでだ。『サイバー・ダーク・ホーン』は貫通効果を備えている。『サイバー・ダーク・ホーン』で、『バトルフェーダー』を攻撃! ダーク・スピア!!」

「速攻魔法発動『禁じられた聖杯』! モンスター一体の攻撃力を400ポイントアップさせ、効果を無効にします!」

「なに!?」

 攻撃を開始した『サイバー・ダーク・ホーン』の頭上に、聖なる杯が出現した。

 そこから流れ落ちた水が、『サイバー・ダーク・ホーン』に浸透していく。

 その水に包まれた闇の角は新たな力を得るも、代わりに本来あったはずの能力は消え失せた。

 

『サイバー・ダーク・ホーン』

 攻撃力800+400

 

「ちぃ……っ」

 装備したドラゴンの攻撃力が失せても、貫通効果が失せても、攻撃は問題なく続行される。聖杯の力で自力だけが増した闇の牙は、小さな悪魔を問題なく貫いた。

「自身の効果で特殊召喚された『バトルフェーダー』は、墓地へは行かずゲームから除外される」

「凌いだか……ターンエンド。この瞬間、『禁じられた聖杯』の効果は切れ、『サイバー・ダーク・ホーン』の効果と攻撃力も元に戻る」

 

 

LP:800

手札:1枚

場 :モンスター

   『ドラグニティナイト-アスカロン』攻撃力3300+500+1000-500

   『サイバー・ダーク・ホーン』攻撃力800+2000

   魔法・罠

    永続罠『ドラグニティ・ドライブ』

    効果モンスター『ドラグニティナイト-ハールーン』

    効果モンスター『グランド・ドラゴン』

    セット

    フィールド魔法『デザートストーム』

 

LP:700

手札:2枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「私のターン!」

 

手札:2→3

 

「魔法カード『強欲な壺』。カードを二枚ドロー」

 

手札:2→4

 

「カードを三枚伏せ、魔法カード『命削りの宝札』! カードを五枚ドローし、五ターン後、全ての手札を墓地へ捨てます」

 

手札:0→5

 

「これは……!」

『へっへーん……』

 梓がドローしたカードを見た時、隣のアズサは、悪戯な笑みを浮かべていた。

「アズサ……あなたの仕業ですね?」

 そう、追及する梓だが、その声色に怒りは無い。アズサと同じ、楽しそうなものを見ている、そんな顔を向けている。

『ビックリさせたくて、こっそり混ぜといたんだ』

「まったく、相変わらず仕方のない子だ……良いでしょう。あなたの力、存分に振るわせていただく!」

『うん! やっちゃって!』

 

「セットした永続魔法『ウォーターハザード』を発動。自分フィールドにモンスターが存在しない時、手札のレベル4以下の水属性モンスター一体を特殊召喚できる。私が特殊召喚するのは……『氷結界の舞姫』!」

 

『うっしゃー! いっくよー!!』

 

『氷結界の舞姫』

 レベル4

 攻撃力1700

 

「『氷結界の舞姫』……だがいくら精霊のカードでも、そんなモンスター一体でなにができる?」

「確かに、はっきり言ってこの子は弱いです。他の『氷結界』が場にいなければ効果は使用できませんし、効果が適用されるかも不確実。氷結界としても、魅力と言えば攻撃力くらい。正直、かなり微妙なカードです」

 

『ハッキリ言いすぎじゃね……?』

 

「ただそれでも、私にとっては唯一無二のカード……断言します。ブリューナクでも、アブソルートZeroでもない。『氷結界の舞姫』、アズサこそが、私のデッキのエースカードであると!」

『エース……え、ホント?』

「ホント」

『エース……僕が……梓のデッキのエース……!』

「感動して下さっているところ悪いですが、そろそろ宜しいか?」

『よろしいよろしい! いつでも僕はよろしい! 梓のためならいつだって!!』

 

「うむ……では、このデッキの、新たな仲間を紹介しましょう。魔法使い族である『氷結界の舞姫』一体をリリースし、アドバンス召喚!」

 粉雪をチラつかせながら、フィールドに降り立った舞姫が、そのフィールドで舞いを見せる。

 その舞いは、新たな北風を呼んだ。

 冷たい風はやがて雪を装い、粉雪どころか、淡雪どころか、大雪をも超え、猛吹雪へと変化する。

 

(そう。僕はいつだって……梓のためならいつだって、どこまでも強くなって、闘うから……!)

 

 吹雪の中で踊っていたアズサが一瞬、青から白へと変化した。

 それは、梓がお土産に買ってやった、あの白のワンピース姿だった。

 だがやがて、その白が、本来の青と交じり合い、冷たくも美しい銀色をも装う。

 青と、白と、銀色と……

 そんな青色の頭には、金の冠を戴き、やがて止む吹雪の中から現れし者。

 

「吹雪と共に、この世界へ……ここに君臨『ブリザード・プリンセス』!!」

 

 青と白のドレスは一見、きらびやかで上品でありながら、それを身に着ける少女の笑顔は、そんな厳粛さなど無縁に思え、あらゆる絢爛を笑い飛ばすかのよう。

 そんな爛漫な少女が握る、銀色に光る鎖の先には、氷でできた巨大な鉄球。

 それを転がす無邪気な様は、この鉄球で、この巨大なボールを使って、このフィールドの中で、みんなで何をして遊ぼうか。まるでそう考えているかのよう。

 

『ブリザード・プリンセス』

 レベル8

 攻撃力2800

 

「レベル8のモンスターを、生贄一体で……!」

「『ブリザード・プリンセス』はアドバンス召喚する際、リリースを魔法使い族一体のみで行うことができる効果があります」

「ほう……」

 

「『ブリザード・プリンセス』……また聞いたことのないモンスターだドン」

「……けど、今まで使ってた、未来のカードとは違う雰囲気を感じる……」

「アズサ!」

 疑問に思う二人をよそに、十代が呼びかけた。

 梓ではなく、フィールドに立つ『ブリザード・プリンセス』に向かって。

「お前、もしかしてアズサか!?」

 

『よく分かったねー。そうだよ。わたくし『氷結界の舞姫』、この度『ブリザード・プリンセス』に進化しました』

 

「マジか! 進化しちまったのかよお前?」

 

「の、ようですね……毎日修行してあげた甲斐がありましたよ」

 

「梓さんの修行って……」

「あまり想像したくないわね……」

 

 もっとも、以前アズサが星華に対して言ったように、ただ鍛えたくらいでは、所詮カードであるモンスターが強くなるわけはない。だからこのような現象は、奇跡でも起きなければ本来、あり得ない。そして、そのあり得ないことが、こうして現実に起こっている。

 本当に、梓に毎朝鍛えられたことで、精霊としての力が増し、それがカード化という形で体現されたのか。もしかしたら、梓が偶然手に入れたデッキに宿っていた斎王の力が、精霊のアズサに何かしらの作用を与えて新たなカードを生んだのかもしれない。もしくは、その両方が作用した起きた奇跡なのか……

 今となっては、朝起きたら突然新たなカードが生まれていた上、アズサ自身の兼ねての願いの通り、カードとしても、精霊としても強くなっていた理由の真相は、誰にも分からない。

 そんな奇跡を前に、梓が微笑み、アズサは満面の笑み。十代は笑って、後の二人は引きつっている。

 そんな中で、亮が声を出した。

「大した進化だが、そんな最上級モンスター一体が何だというのだ?」

「まずはアズサ……いいえ、『ブリザード・プリンセス』の効果。このカードの召喚に成功したターン、相手は魔法・罠カードを発動できません」

 吹雪の姫君が手をかざす。その瞬間、亮の場に伏せられていた一枚のカードが凍り付いた。

「……これだけか?」

「ええ。これだけのようです」

「こんなことをしても、既に発動されている永続罠にフィールド魔法、装備されたモンスターの効果まで無効になるわけではない……これに一体何の意味がある?」

「この状況ではほぼ無意味です……進化しても、効果が微妙なのは相変わらずのようですね」

『あははは……』

「これが、相手の魔法・罠カードの全てを破壊できる、というような効果であれば、この先の展開を考えるのも楽なのにと、作者も頭を抱えておりましたよ」

『知るか……不満なら別のモンスターにすりゃよかったじゃん』

「他にあなたや斎王さんのイメージに合ったモンスターがいなかったのだから、仕方ないでしょう……だがそれで良い。それでこそ、アズサです。後のことは私に全て任せなさい」

『うん! 任せる。僕は、僕の主の梓を信じる!』

 

「参ります。フィールド魔法『ウォーターワールド』!」

 フィールドに吹き荒れていた風に、突然、雪が混ざり始めた。

 雪と共に吹き荒れていた風に惹かれるように、地面からは水が湧き、地上の全てを飲み込み包む。

 猛吹雪の中で揺らめく、冷たい波の踊る大海原。

 竜鳥のための風の空間が、文字通り、水と吹雪の世界へ姿を変えた。

「水属性モンスターの攻撃力は500ポイントアップし、守備力は400下がる。更にフィールド魔法が新たに発動されたことで、亮さんの発動した『デザートストーム』は破壊される」

「ちっ……」

 

『ブリザード・プリンセス』

 攻撃力2800+500

 

『ドラグニティナイト-アスカロン』

 攻撃力3300+1000-500

 

「だが、アスカロンの攻撃力は未だ3800。仮に『サイバー・ダーク・ホーン』を攻撃したとしても、俺のライフは削り切れない」

「削り切る必要はない……バトルです! 『ブリザード・プリンセス』で、『ドラグニティナイト-アスカロン』に攻撃!」

「なに?」

 吹雪の姫君が氷の鉄球を振り上げた。か細くも力強いその腕に振るわれた重氷は、彼女の両手の思うままに動き、舞い踊る。

 彼女の思うままに振るわれたそれは、勢いそのままに、天空を舞う黄金の竜騎士へ飛んでいく。

「この瞬間、速攻魔法『月の書』発動! 『ドラグニティナイト-アスカロン』を、裏守備表示に変更!」

「なんだと!?」

 亮が声を上げた瞬間、構えていた黄金の竜騎士は消え、同時に彼のそばにいた紫の竜騎士も消し去る。代わりにそこには、裏側となった、横向きのカードだけが残った。

 

 セット(『ドラグニティナイト-アスカロン』守備力3200)

 

雪丸舞荒衝(せつがんぶこうしょう)!!」

 

 振るわれた鉄球の、黄金の守備力を上回った攻撃力の差は、わずか100。その100という数値の差が、裏側のカードを砕き、墓地送りにしてしまった。

「十代さん! 明日香さん! 剣山さん!」

 

『はい!』

 

「亮さんにも、この際はっきり言っておきます。確かに、私もこのデッキも、得意とする戦術はシンクロ召喚およびシンクロモンスターが主です。ですが……」

 

 

「シンクロばかりが能ではない!」

 

 

「いや、まあ、それはよく分かってるけど……」

「梓は、シンクロが無くたって十分すぎるほど強いわ……」

「むしろ、使わずに活躍してる所の方が、記憶に新しいザウルス……」

 

「……だがこの瞬間、アスカロンの効果が発動する! シンクロ召喚されたアスカロンが相手によって破壊された場合、エクストラデッキから攻撃力3000以下のドラグニティシンクロモンスターのシンクロ召喚を行う。シンクロ素材を抜きにしてな!!」

「シンクロ素材無しに……!」

 破壊され、墓地へと向かうアスカロン。だが、その黄金に輝く身から、六つの光が飛んでいく。その光は星へと変わり、フィールドで瞬き、輪となり、仲間を呼ぶ……

 

「風に舞いし竜鳥よ。魂の刃を一つに重ね、雷となりて世界を貫け……」

「シンクロ召喚! 『ドラグニティナイト-ヴァジュランダ』!!」

 

 吹雪の空に暗雲が混ざる。黒雲からは雷光が煌めき、雷鳴が轟き地上へ落ちる。

 その落雷の中から、オレンジ色に輝く最後の竜騎士は姿を現した。

 

『ドラグニティナイト-ヴァジュランダ』シンクロ

 レベル6

 攻撃力1900

 

「ヴァジュランダのシンクロ召喚に成功した時、墓地に眠るレベル3以下のドラグニティ一体を装備できる。俺は墓地からレベル2の『ドラグニティ-クーゼ』を装備」

「……カードを一枚伏せます。ターンエンドです」

「なら、エンドフェイズに永続罠『ドラグニティ・ドライブ』の効果! 墓地に眠る『ドラグニティナイト-アスカロン』をヴァジュランダに装備する!」

 

 

LP:700

手札:0枚

場 :モンスター

   『ブリザード・プリンセス』攻撃力2800+500

   魔法・罠

    永続魔法『ウォーターハザード』

    セット

    セット

    セット

    フィールド魔法『ウォーターワールド』

 

LP:800

手札:1枚

場 :モンスター

   『ドラグニティナイト-ヴァジュランダ』攻撃力1900

   『サイバー・ダーク・ホーン』攻撃力800+2000

   魔法・罠

    永続罠『ドラグニティ・ドライブ』

    効果モンスター『ドラグニティナイト-アスカロン』

    効果モンスター『ドラグニティ-クーゼ』

    効果モンスター『グランド・ドラゴン』

    セット

 

 

「俺のターン!」

 

手札:1→2

 

「……」

「……」

 梓も、亮も、そしてこの決闘を見る三人も、全員が感じていた。

 このターンが、亮にとってのラストターンになると……

 

「『サイバー・ヴァリー』を召喚!」

 

『サイバー・ヴァリー』

 レベル1

 守備力0

 

「『サイバー・ヴァリー』の効果。こいつ自身と、自分フィールドの表側表示のカード二枚を除外することで、カードを二枚ドローする。俺は『サイバー・ヴァリー』と、永続罠『ドラグニティ・ドライブ』をゲームから除外、カードを二枚ドローする!」

 

手札:1→3

 

「来たか……魔法カード『融合』!」

「『融合』……!」

「さっき言っていたな? シンクロばかりが能ではないと。それは俺も同じだ。ヘルカイザーの決闘はシンクロだけではない! フィールドの『サイバー・ダーク・ホーン』、手札の『サイバー・ダーク・エッジ』、『サイバー・ダーク・キール』の三体を融合……」

 たった今宣言した三体のモンスター。

 三体が三体とも、機械でできた体で、かろうじてドラゴンをイメージさせる、異形の姿形。そんな三体の闇の異形が、フィールドで交わり、一つと重なり、巨大な竜へと変貌する……

 

「現れよ! 『鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン』!!」

 

『鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン』融合

 レベル8

 攻撃力1000

 

「サイバー・ダーク・ドラゴン! これが、ヘルカイザーの象徴たる、新たなドラゴン……」

 咆哮を上げる機械の黒竜を見上げながら、その姿に、その迫力に、梓も目を見開いた。

「サイバー・ダーク・ドラゴンの効果! こいつの特殊召喚に成功した時、互いの墓地に眠るドラゴン族一体を選択、このカードに装備する。俺が選択するのは、貴様の墓地の『氷結界の龍 トリシューラ』!」

「……っ!」

「もらうぞ。貴様の切り札、最強最古の龍、トリシューラを!」

 機械竜が咆哮を上げたと同時に、梓の墓地に眠っていた、最強最古の龍が引きづり出された。

 白く冷たいその身をケーブルで繋がれ、固定される。そしてその力は、抜け殻にも見える機械の龍の力と変わる。

「サイバー・ダーク・ドラゴンの攻撃力は、この効果で装備したモンスターの攻撃力分、アップする」

 

『鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン』

 攻撃力1000+2700

 

「まだだ! サイバー・ダーク・ドラゴンの攻撃力は、自分の墓地に存在するカード一枚に付き、100アップする! 俺の墓地のカードは18枚、攻撃力1800アップ!」

 

『鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン』

 攻撃力1000+2700+100×18

 

「更に、ヴァジュランダの効果! 一ターンに一度、こいつに装備されたカード一枚を墓地へ送ることで、こいつの攻撃力をこのターンの間二倍にする。装備された『ドラグニティ-クーゼ』を墓地へ送り、攻撃力を倍にする!」

 

『ドラグニティナイト-ヴァジュランダ』

 攻撃力1900×2

『鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン』

 攻撃力1000+2700+100×19

 

「攻撃力3800に、5600……!」

 

「すっげぇ……」

「これが、ヘルカイザーの力……」

「恐竜さん以上の超パワーザウルス……」

 

「アズサ……覚悟はよろしいか?」

『僕はいつだって、覚悟も準備もできてるよ。梓が一緒なんだからさ!』

「……」

 

「バトルだ! ヴァジュランダで、『ブリザード・プリンセス』に攻撃!」

 

 オレンジ色の最後の竜騎士が宙を舞う。

 その全身から、いくつもの雷の光を溢れさせ、その槍に、その身に、力を加える。

 雷撃のエネルギーをため込んだオレンジ色の身で、黄金の竜騎士と共に天へと上り、そこから、雷霆の光と共に地上へ落とす。

 

雷世隆輝(ライセイリュウキ)-ヴァジュランダ!!」

 

「速攻魔法発動『収縮』!!」

 放たれた烈襲の一撃、だが、吹雪の姫君の上に落ちる直前、雷撃の勢いが弱まった。その威力は、純白のその身を燃やし尽くすには至らない。

 

『ドラグニティナイト-ヴァジュランダ』

 攻撃力1900×2/2

 

「これでヴァジュランダの攻撃力は元通り。迎撃です! 『ブリザード・プリンセス』、雪丸舞荒衝!!」

 雷撃を耐え抜き、再び氷の鉄球を振るう。それが収縮した竜騎士にぶつかり、その身を砕いた。

「これであなたのライフはゼロだ!」

「喰らわぬ! 罠発動『パワー・ウォール』! 戦闘ダメージを受ける瞬間、デッキからカードを一枚墓地へ送るごとに、そのダメージを100ポイント無効にする! 俺はデッキから十四枚のカードを墓地へ送る!」

 宣言した通り、デッキから器用に十四枚のカードをドローし、それを空中にばらまく。

 そのカード達から生まれた見えない壁が、亮へのダメージを無効化した。

「カード使いの荒いことだ……」

 

「これでいい……ヴァジュランダの攻撃が通らないことは分かっていた。俺の場には、サイバー・ダークが残っている!」

 

『鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン』

 攻撃力1000+2700+100×34

 

「サイバー・ダーク・ドラゴンで、『ブリザード・プリンセス』に攻撃!」

 トリシューラを取り込み、死したカード達の力を得た闇の機械竜が、エネルギーをその身に貯めていく。

 全身に、黒い闇の輝きと、走る機械の電流が合わさり、強大なエネルギーに変換される……

 

「フル・ダークネス・バースト!!」

 

 限界まで膨れ上がったエネルギーが、機械竜の牙へ収束し、放たれた。

 

「速攻魔法『エネミー・コントローラー』!」

 

 その瞬間、機械竜の目の前に、ゲームのコントローラーが現れる。そこから伸びたケーブルが機械竜の身に繋がり、縛りつけ、拘束し、固定した。

「第一の効果により、サイバー・ダーク・ドラゴンを守備表示に変更します」

「ちぃ……っ」

 

『鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン』

 守備力1000

 

「どうやら、守備力だけは元々の数値のままのようですね」

「……ターンエンド」

 

 

LP:800

手札:0枚

場 :モンスター

   『鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン』守備力1000

   魔法・罠

    効果モンスター『氷結界の龍 トリシューラ』

 

LP:700

手札:0枚

場 :モンスター

   『ブリザード・プリンセス』攻撃力2800+500

   魔法・罠

    永続魔法『ウォーターハザード』

    セット

    フィールド魔法『ウォーターワールド』

 

 

「私のターン!」

 ターンを迎え、デッキに手を添える……

 

「アズサ……」

『梓……』

「ここまでの道程……私はあなたに、心から感謝します」

『……こちらこそ、ありがとう……そして、これからも、ずっとずっと、よろしくね!』

「はい……ドロー!」

 

手札:0→1

 

「……」

 引いたカードを見て、梓は、微笑んだ。

「魔法カード発動『死者蘇生』! 墓地に眠るモンスター一体を蘇生する。私が呼び出すのは当然、我がデッキのエースカード……『氷結界の舞姫』!」

 

『またまた! 今度は進化前の僕、参上!!』

 

『氷結界の舞姫』

 レベル4

 攻撃力1700+500

 

『氷結界の舞姫』

 攻撃力1700+500

『ブリザード・プリンセス』

 攻撃力2800+500

 

「……あれ? 今はどっちがアズサだ?」

 

『はいはーい! 僕だよ僕。『氷結界の舞姫』の方!』

 

「バトルです! 『ブリザード・プリンセス』で、『鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン』に攻撃!」

 再び放たれる氷の鉄球。それにぶつかる闇の機械竜。

 だが、それを受けたのは、捕らえられた氷の龍。

「サイバー・ダーク・ドラゴンが戦闘で破壊される時、代わりにこいつに装備されたモンスターを破壊することで、破壊から守る!」

 身代わりとなった氷の龍が鉄球にぶつかり、飛んでいく。

 結果、機械竜は無傷に終わった。

「これでサイバー・ダークを破壊しようと、それ以上攻撃はできない。次のターン、必ず貴様を倒すカードをドローする!」

 

「……残念ですが、あなたに次のターンは無い」

 語り掛けた梓は、最後の伏せカードに手を伸ばした。

「相手フィールドに存在するシンクロモンスターが、相手のカード効果によって墓地へ送られたこの瞬間、永続罠『リスペクト・シンクロン』発動!」

 

「なんだって!?」

「うそ……うそでしょ……!!」

「まさか、そんな………!!」

 

『『リスペクト』って言ったああああああ!?』

 

 ギャラリー達の絶叫を無視しながら、梓はその効果を行使した。

「たった今破壊された『氷結界の龍 トリシューラ』を、召喚条件を無視して特殊召喚します!」

「なんだと!?」

 

(いにしえ)結界(ろうごく)において、慟哭せし激情の汝。永久(とわ)に拒むは命の全て、滅涯輪廻(めつがいりんね)の無間龍」

「墓地より蘇り、世界に刻め、『氷結界の龍 トリシューラ』!!」

 

『氷結界の龍 トリシューラ』シンクロ

 レベル9

 攻撃力2700+500

 

「シンクロだけが能ではない……そう言っておきながら、最後はやはり、シンクロモンスターに帰結してしまいました……トリシューラがフィールドを離れた時、『リスペクト・シンクロン』もまた破壊され、このカードがフィールドを離れた場合、トリシューラは破壊される」

 

「……」

 敗北……

 それを察し、受け入れた亮は、静かに目を閉じ、決闘ディスクを下ろした。

 

「さあ、来るがいい! 『氷結界の主』、凶王、水瀬梓!!」

「……参ります。『ドラグニティの先導者』、ヘルカイザー亮さん!!」

 

「『氷結界の龍 トリシューラ』で、『鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン』を攻撃!!」

 最後の龍の三つの口に、冷たいエネルギーがたまっていく。

 やがて溢れ、収束したエネルギーは、まるで拘束された恨みを晴らすように、機械竜を狙い据え、放たれた。

 

「終幕のブリザード・ディナイアル!!」

 

「……」

 

「これが最後です。『氷結界の舞姫』で、ダイレクトアタック!」

 

『ありがと。ヘルカイザー、楽しかったよ!』

 

「フ……」

 

 

「雪斬舞踏宴!!」

 

 

LP:800→0

 

 

「……」

 敗北した亮は、何も言わず、懐からメダルを取り出すと、梓へ投げ渡した。

「亮さん」

「……」

 

「次は必ず奪い取る。貴様への勝利を……」

 

 それだけ言い残し、ヘルカイザー亮は、去っていった。

「これで、あと二人……」

 

 

「梓!」

「梓!」

「梓先輩!!」

 

 残された梓に、ギャラリーの三人が近づいた。

「すごかったなぁ、梓! なんつーか、もう本当……ああ! すごすぎて言葉が出てこねーよ!」

「本当にすごかった……あんな決闘、もう見られないかも」

「ドン!」

「そうですか……ところで、剣山さん、十代さんに用があったのでは?」

 興奮冷めやらぬ三人に向かって、梓はそう剣山に問いかけた。

 剣山はそこで、思い出したという顔で十代の方へ向き直った。

「そうだったドン! 兄貴、今日は決闘世界チャンピオンのDDのタイトルマッチの日ザウルス!」

「ああー! そういえば忘れてた!」

「DD……あ、本当だ!」

 剣山に十代、梓も、その事実に声を上げた。

「それで、せっかくだから一緒にテレビ観ようって、誘いに来たんだドン!」

「そうだな! せっかくだし、デッカイテレビで観ようぜ!」

「私も、ご一緒させていただいてもよろしいですか?」

「もちろんだぜ!」

「じゅ、十代! 私も!」

「ああ! みんなで見に行こうぜ!!」

『よーし、みんなで行こー!!』

 

 直前の激しい熱戦の次は、別の熱戦へ。

 彼らの決闘に対する熱は、梓の氷結界とは逆に、冷めることを知らないようである……

 

 

 

 




お疲れ~。

いや~……別に必要も無いのに一カテゴリのシンクロ全部出すって、大変なんだよなぁ……


そんなこと感じつつ、原作効果~。



『サイバー・ヴァリー』
 以下の効果から1つを選択して発動できる。
 ●相手が攻撃してきた時、このカードを除外して発動できる。
  デッキからカードを1枚ドローし、バトルフェイズを終了する。
 ●自分のメインフェイズ時に発動できる。
  このカードと自分フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を選択して除外し、その後デッキからカードを2枚ドローする。

第一の効果は攻撃対象でなく、とにかく攻撃してきた時。
第二の効果は、自身と、モンスターに限らず表側のカードなら何でも可。
第三の効果は知らん。
特殊召喚も制限無いし、かなり便利だから弱体化も仕方がねーやな、これは。


『鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン』融合
 このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
 このカードが特殊召喚に成功した場合、自分か相手の墓地のドラゴン族モンスター1体を対象として発動する。
 そのドラゴン族モンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する。
 このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの元々の攻撃力分、及び自分の墓地のカードの数×100アップする。
 このカードが戦闘で破壊される場合、代わりに装備したそのモンスターを破壊する。

下級『サイバー・ダーク』と一緒で、墓地のドラゴン族は自分か相手かを選べる。
で、攻撃力アップはモンスターのみでなく、自分の墓地のカード全部を参照できる。
アニメ版はかなり強いよね。


『パワー・ウォール』
 永続罠
 モンスターからの戦闘ダメージを受けた時に発動。
 デッキからカードを1枚墓地に送るごとにダメージを100ポイント低減する。

戦闘ダメージの軽減値が、一枚ごとに100ポイント。
あと、地味にOCGでは相手からの攻撃限定だったのが、原作効果だと、作中みたいな迎撃でも戦闘ダメージなら無効にできるっぽい。
どっち道強すぎるから弱体化は仕方ないわな。



以上。ヴァリー以外の二枚に、下級サイダーも二回目の紹介だからこれで最後ね。
そんじゃ次、オリカだべ~。



『リスペクト・シンクロン』
 永続罠
 相手フィールド上に存在するシンクロモンスター1体が相手のカード効果によって墓地へ送られた時、そのシンクロモンスター1体を召喚条件を無視して自分フィールド上に特殊召喚する。
 そのシンクロモンスターがフィールド上から離れた時、このカードを破壊する。
 このカードがフィールド上から離れた時、そのシンクロモンスターを破壊する。

遊戯王5D'sにて、龍亜のカードを龍可が使用。
発動タイミングが限定的すぎる上に完全蘇生でもない。
これなら普通にコントロール奪取使った方が無難だぁな。
アニメや今回みたいに、奪われたシンクロモンスターを奪い返す、くらいしか使い道は思いつかん……
あと、何気にイラストがブリューナクだったりする。



以上。
つ~わけで、ぶっちゃけ最後のがやりたいがための決闘でした~。
蘇生制限的にどうかとは思ったが、アニメでも無理やりエクストラデッキから特殊召喚する『呪縛牢』なんて使ってたし、多少はね……
多少無理があっても勢いでごまかせるのが遊戯王の素晴らしいところよ(白目)。


んじゃ、次で五日目ラストの予定。
それまで待ってて。

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