そんじゃら、続き、いってみよ~。
行ってらっしゃい。
視点:翔
「愛情とは尊きもの……それは誰もが認めるところでしょう。だが同時に、ひどく残酷なものでもある。人に限らず、全ての生き物は、自身とは違う誰かに愛情を抱くものだ。それが、異性であるのならなおのこと。その愛情が大きいほどに、その相手は自身にとって尊く、大きなものに変わる。当然のことです。そして、そんな愛情の残酷な部分が、その愛情は、ことに人であれば何物にでも向けることができてしまうこと。そして、そのそれぞれの大きさを推し計ることは、容易ではないということです……」
突然、目の前に現れた時は、何も聞かず、何も言わずに、ただ倒してやろうって思ってた。それができるくらいの自信はあったし、それで美白したみんなが元に戻るかもしれないなら、ここで闘って倒す価値は十分にあるって思った。
それに……怖かった。
こいつをこのまま放っておいたら、僕じゃなくて、あの三人に何かするんじゃないかって。そのくらいのことはしそうだって思った。
だから、今すぐ会いに行きたいと思ったのを我慢して、決闘に応じた……
「大勢の人間に愛情を向けることは、決して悪ではないはずだ。子供達への愛情、自らのファンや信望者への愛情、大衆への愛情……だが、そこに恋愛という要素が加わったが最後、それは一気に悪とされてしまう。それがどれだけ純粋な心持ちであろうとも、人は、それは一個人に向ける一道たるべきものと見なし、考え、信じ、定め、そして、価値観として定着させてきた。誰もがそれを正義とし、それができぬなら悪とした……正しくないとはとても言えない。が、愛する存在が多数いる者からすれば、それはひどく残酷な定めと言えます……」
決闘自体は、互角に進んでいった。けど、段々押し返されていって、敗けそうだってところまで追い詰められた。
それでもこっちも押し返して、あと一撃で勝てる! そんな所まで追い詰めた。
なのに、それ以上は、できなくなった。
決闘して、相手の話を聞いてるうち、思い知ったから。
三人のこと。三人にとって、今の僕が、どれだけの奴なのかを……
「それだけの
「あなたには最初から、彼女らを愛する資格などない……」
……そんなこと、知ってる。僕自身が、一番分かってる。
僕以外にも、同じ立場にいる人も知ってる。けど、彼はそれだけの力を持ってた。
大切な人達を、守って、支えて、そばにいて、そのことを、周りに文句なんて言わせない。それだけの強い力と、深い愛情を持った人。
彼に比べれば、僕には何の力も無い。
喧嘩なんてしても、こんな小さな体と貧弱な腕力で、勝てる人なんていない。
勉強は今でも苦手。
決闘だって、強くなってると言っても、昔に比べたら、だ。僕より強い決闘者なんていくらでもいる。
取り柄なんて、彼と、三人がいるから活かすことができる、コスプレくらいしかない。
そんな僕には、三人のことを守る資格も……まして、愛する資格なんて、最初からあるわけが無かったんだ……
「そう。あなたはひ弱な存在だ……今までのあなたのままであれば」
落胆して、絶望して、三人に対して、諦めと、申し訳ない気持ちでいっぱいになった時、そんな、斎王の優しい声が聞こえた。
「力が無いのなら手に入れればいい……足りないのであれば、これから身に着けていけばいい。それは、今からでも決して遅すぎることはない。あなたはまだ、その力を見つけられていないだけなのだから」
「私が、そのお手伝いをしてあげよう……その力を、私が見つけてあげよう……その力を、私が君に授けよう……」
「君はただ、彼女らを、そして、君を慕う全ての者達を、愛するだけでいい……君に必要なものは、全ての者達を愛し、守り、幸せにするための、愛情の強さと、その覚悟だけだ」
「私の元へ来るのだ。丸藤翔、純白なる愛の戦士よ……」
それが、洗脳だってことくらい分かってた。
万丈目君や三沢君も、こんなふうにやられたんだなって、理解した。
けど……
「……ターン……エンド」
逆らうことが、できなかった。
だって、彼の言葉を聞いた時、はっきり見えたから。
僕と、ももえさんと、カミューラと、マナと……
四人で集まって、幸せそうに笑って、ずっとずっと一緒にいる……
そんな、あっちゃいけない……けど、本当に僕が望んでる、そんな場面が……
「私のターン……『アルカナフォース
黒くて不気味な悪魔の身から溢れた、真っ白な光がフィールドを包んだ。
そんな真っ白な世界の中へ、『ブラック・マジシャン』が飲み込まれるのが見えた。
そんな光景を見て、確信したんだ……
斎王様を信じていれば、僕の願いも、叶うんだって……
みんなと、一緒にいられるんだって……いていいんだって……
……
…………
………………
視点:外
「つまらん男になったな」
そばにいたい……守りたい……
そんな三人を切り捨てることになって、その苦しさをどうにか紛らわせたいと、集まってきた女子たちと会話していた。
斎王の力もあって、女子たちの喜ぶ仕草や笑える話、そんなコミュニケーション能力まで身についたようで、集まってくれた女の子たちに退屈をさせることなく話すことができた。
それでも、頭から三人の姿は離れてくれず、切り捨てたはずの気持ちは消えてはくれない。
それでも無理をして笑顔を作る。そうして会話している翔の耳に、その声は聞こえた。
低く強く、凛とした声。プロの世界へ旅立ち、戦ってきたことで、過去よりも更に増した凄みと迫力。
それでも誰だかすぐに分かる、過去からそばでずっと聞いてきた声に、振り返る。
「あなたは……」
「あれは……カイザー亮様!」
翔ではなく、集まっている女子の一人が名前を呼んだ。
黒のコートを着た長身の少年。カイザー亮……否、ヘルカイザー亮。
「俺が送ったカードを使って、大層活躍をしていると聞いていたから、どの程度の実力を身につけたかと期待していたのだが……今のお前は、期待外れも甚だしい」
「……」
「え……亮様、彼と友達なの?」
集まった女子たちは、相変わらず分かっていない翔の正体に対して疑問の声を上げているが、そんな女子を無視しながら、今度は翔が声を上げた。
「あなたには言われたくないな。力だけを求めて、今までの決闘を……リスペクト決闘を捨てておいて。今のあなたは、僕が尊敬し憧れてきた姿とは全く違う」
「確かにな……今の俺には、勝利以外に興味はない。そのためだけに、俺は力を求め、そして戦い、勝ってきた。それで、お前はどうだ?」
「僕?」
「そうだ。そんな制服を着て何者かの下僕になりはててまで、お前は一体何を求めた?」
「……」
一瞬、言葉に詰まるも、すぐに爽やかな笑顔を見せて、爽やかに返答してみせる。
「僕が求めたものは一つ……僕のことを愛してくれる、彼女たちのことを愛して、守り、幸せにする。そのための力だよ」
左右に立つ女子生徒を抱き寄せて、そう宣言する。
抱き寄せられた女子生徒はもちろん、他の女子生徒達はまた喜声を上げて、その他の男子達は落ち込んだ。
「なるほどな……心底つまらん男になったものだ」
そして、そんな翔の言葉と行動を、亮は、一言で切り捨ててしまう。
「動機も目的も見失い、残されたものは手段のみ……」
心底呆れ果て、失望している。そんな様子ながら、それでも、決闘ディスクを構えた。
「その手段の使い道すら、つまらんこと以外に思いつかないというのなら、その手段、せいぜい俺の勝利の糧として捧げろ」
「糧……?」
「構えろ」
聞き返した翔の声には答えずに、そう返した。
特に叫んだわけでも、とりわけ大きな声でもない。なのに、静かながらも凄みのある、重苦しい声と雰囲気に、翔の周りに集まっていた女子生徒らは怯み、下がってしまう。
だが、翔は怯むことも、怖気ることもなく、前に出た。
「いいよ。けど、糧になるのはあなたの方だ……僕の決闘で、ヘルカイザー亮を倒してあげるよ」
「ヘルカイザーを倒すか……」
「梓さん……」
これから始まろうとしている、兄弟の決闘を前に、ももえらは一様に、梓へ視線を向けていた。
「ここは、彼を信じましょう」
梓は二人から目を離さず、そう短く答えただけだった。
そして始まる。互いに別れた後で、変わり果てた姿で再開した、兄と、弟の……
『決闘!!』
翔
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
亮
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
「先行は僕だ。ドロー」
翔
手札:5→6
「早速いくよ。『マジカル・コンダクター』を召喚」
『マジカル・コンダクター』
レベル4
攻撃力1700
「そして、フィールド魔法、光り輝く魔法世界、『魔法都市エンディミオン』発動!」
先ほどの決闘と同じように、二人の立つフィールドが、光り輝く幻想的な都市へと変化する。
同時に、翔の前に立つ黒髪の聖女の周囲には、淡く白い光が二つ、浮かび上がった。
『マジカル・コンダクター』
魔力カウンター:0→2
「さあ、ここからだよ……魔法カード『天使の施し』。カードを三枚ドローして、二枚を捨てる」
『マジカル・コンダクター』
魔力カウンター:2→4
『魔法都市エンディミオン』
魔力カウンター:0→1
「続けて魔法カード『速攻召喚』! 手札のモンスター一体を通常召喚する。僕が召喚するのは、『魔導騎士 ディフェンダー』」
『魔導騎士 ディフェンダー』
レベル4
守備力2000
「このカードの召喚時、このカードに魔力カウンターを一つ乗せる。更に、魔法カードが発動されたことで、二枚のカードに魔力カウンターが乗る」
『魔導騎士 ディフェンダー』
魔力カウンター:0→1(MAX)
『マジカル・コンダクター』
魔力カウンター:4→6
『魔法都市エンディミオン』
魔力カウンター:1→2
「更に魔法カード発動『強欲な壺』! カードを二枚ドロー」
翔
手札:1→3
『マジカル・コンダクター』
魔力カウンター:6→8
『魔法都市エンディミオン』
魔力カウンター:2→3
「『マジカル・コンダクター』の効果発動! このカードの魔力カウンターを八つ取り除き、手札から、レベル8の『氷の女王』を特殊召喚!」
『マジカル・コンダクター』
魔力カウンター:8→0
『氷の女王』
レベル8
攻撃力2900
「まだまだ……魔法カード『精神統一』! デッキから『精神統一』のカードを手札に加える」
『マジカル・コンダクター』
魔力カウンター:0→2
『魔法都市エンディミオン』
魔力カウンター:3→4
「魔法カード『魔力掌握』! 『魔法都市エンディミオン』に魔力カウンターを一つ乗せ、その後、デッキから『魔力掌握』一枚を手札に加える。」
『マジカル・コンダクター』
魔力カウンター:2→4
『魔法都市エンディミオン』
魔力カウンター:4→5→6
「ここで墓地の『神聖魔導王 エンディミオン』の効果! このカードに乗った魔力カウンターを六つ取り除くことで、墓地に眠るこのカードを特殊召喚する!」
『魔法都市エンディミオン』
魔力カウンター:6→0
光に包まれる魔法都市が、一層強い光に包まれる。
その光が再び、翔の後ろ、魔法都市の中央に建つ、一際高い塔の頂点へ集結していく。
その光が凝縮したのち、そこには、魔法都市を統べる王が立っていた。
『神聖魔導王 エンディミオン』
レベル7
攻撃力2700
「エンディミオンがこの効果で特殊召喚に成功したことで、墓地に眠る魔法カード『強欲な壺』を手札に加える。そしてそのまま、発動!」
翔
手札:2→4
『マジカル・コンダクター』
魔力カウンター:4→6
『魔法都市エンディミオン』
魔力カウンター:0→1
「カードを一枚伏せる。最後に永続魔法『フィールドバリア』を発動。これでお互い、フィールド魔法カードを破壊できず、フィールド魔法の発動もできなくなる」
「……」
『マジカル・コンダクター』
魔力カウンター:6→8
『魔法都市エンディミオン』
魔力カウンター:1→2
「……え? 『魔法都市エンディミオン』て確か、魔力カウンターを取り除くことで破壊されない効果があったのでは……?」
「そんなことは翔さん自身が一番よく分かっております。あのカードを発動させた真意は、そんなことではない」
「え……?」
「確か、あなたのデッキにもフィールド魔法カードが入っていたよね?」
「……」
「エンディミオンが自身の効果で防げる破壊は、あくまで効果破壊によるものだ。新たにフィールド魔法が発動されることで破壊されるのはルール効果。だからいくら魔力カウンターが乗っていようと、一枚のフィールド魔法ですぐに張り替えられ、破壊される」
「……」
「もっとも、仮に『フィールドバリア』を除去したとして、フィールド魔法が使えるだなんて思わないことだ」
「……」
「ターンエンド」
翔
LP:4000
手札:2枚
場 :モンスター
『神聖魔導王 エンディミオン』攻撃力2700
『氷の女王』攻撃力2900
『マジカル・コンダクター』攻撃力1700
『魔導騎士 ディフェンダー』守備力2000
魔法・罠
永続魔法『フィールドバリア』
セット
フィールド魔法『魔法都市エンディミオン』魔力カウンター:2
「すげぇ……」
「たった一ターンで、最上級モンスターが二体……」
「おまけに永続魔法と、あの騎士のモンスターで、守りまで万全かよ……」
「どうするんだ? カイザー……」
翔が展開した布陣に、男子生徒らは呆然と眺めていた。
女子生徒らは、うっとりとしながら変わらぬ黄色い声援を送っていた。
そんな、様々な声の中で……
「そこまでこの豪奢な都市が大事というなら……良かろう。俺はこの決闘、フィールド魔法は使わない」
「……?」
「せいぜい、お前の大好きな光の世界とやらで、お前という存在を葬ってくれる」
「……!」
その瞬間、光に包まれた都市の中で、確かに翔は感じた。
直前まで無かったはずの、強烈な力の風……
「俺のターン」
亮
手札:5→6
そして始まる。
ヘルカイザーの、地獄の決闘……
「カードを一枚伏せ、魔法カード『手札抹殺』発動! 互いに全ての手札を捨て、捨てた枚数、カードをドローする」
「……!」
亮は四枚のカード、そして翔は二枚、『精神統一』と『魔力掌握』のカードを捨て、その枚数新たにドローした。
『マジカル・コンダクター』
魔力カウンター:8→10
『魔法都市エンディミオン』
魔力カウンター:2→3
「続けて、チューナーモンスター『ドラグニティ-アキュリス』を召喚」
『ドラグニティ-アキュリス』チューナー
レベル2
攻撃力1000
「……え? チューナー?」
「チューナーモンスターって……」
頭から刃を生やした、赤色の仔竜の登場に、おなじみのそんな声が聞こえてくる。
だが、翔に動揺はない。
「やっぱり……あの時、梓さんから受け取ったデッキって……」
「アキュリスが召喚に成功した時、手札の『ドラグニティ』一体を特殊召喚できる。俺は手札から『ドラグニティ-レギオン』を特殊召喚。その後、このカードに『ドラグニティ-アキュリス』を装備」
『ドラグニティ-レギオン』
レベル3
攻撃力1200
巨大な拳を構える鳥人。その登場と同時に、佇んでいた赤き仔竜が彼のもとへ舞い、その肩に乗った。
「『ドラグニティ-レギオン』の効果。自分の魔法・罠ゾーンに表側表示で存在するドラグニティの名を持つカード一枚を墓地へ送ることで、相手フィールドのモンスター一体を破壊できる。俺はこの効果で、そうだな……貴様の場の『氷の女王』を破壊する」
「く……!」
レギオンが拳を振りかぶり、その上にアキュリスが乗り、構える。
レギオンが拳を突き出した。その上のアキュリスが飛び出した。
それが翔の場の、『氷の女王』を貫いた。
「くぅ……『氷の女王』の効果! このカードが破壊され墓地へ送られた時、自分の墓地の魔法使い族が三体以上の場合、墓地の魔法カード一枚を手札に加える。僕の墓地には、『氷の女王』に加えて、『天使の施し』で捨てた魔法使い族が二体。墓地から『強欲な壺』を手札に加える!」
翔
手札:2→3
「……ではこちらも、アキュリスの効果発動。モンスターに装備されたこのカードが墓地へ送られた時、フィールド上に存在するカード一枚を破壊できる。俺が破壊するのは、お前の伏せカード一枚だ」
『氷の女王』を貫き、空を舞っていたはずのアキュリスが再び戻ってきた。そして、その刃を翔の前に伏せられた、裏側のカードに突き立てた。
「『神の宣告』……こちらのフィールド魔法の対策の一つだったのだろうが、アキュリスの召喚時に使うべきだったな」
「うぅ……」
「続けていくぞ。自分フィールドに存在するドラグニティモンスターを墓地へ送ることで、手札の『ドラグニティアームズ-ミスティル』を特殊召喚する」
残された鉄拳の鳥人が光と変わる。
そこから新たに、巨大な羽を広げ、長くのびる歪刀を構える、黄色に輝く竜の騎士が立った。
『ドラグニティアームズ-ミスティル』
レベル6
攻撃力2100
「ミスティルの効果。手札から、召喚または特殊召喚に成功した時、墓地に眠るドラゴン族のドラグニティ一体をこいつ自身に装備できる。俺は再び、『ドラグニティ-アキュリス』を装備」
再び舞い上がる赤色の仔竜。直後、亮の手が、再び墓地に伸ばされた。
「自分フィールドのドラグニティを装備したモンスター一体を除外することで、手札または墓地に眠るこいつを特殊召喚することができる。俺はアキュリスを装備したミスティルを除外……舞い上がれ! 『ドラグニティアームズ-レヴァテイン』!」
黄色のミスティルが天へと昇る。それと交代するかのように、ミスティルと交差する形で地上へと急降下してきた者。
オレンジ色の羽根を散らしたその竜は、その巨大な異形の刀を構え、低く唸り威嚇した。
『ドラグニティアームズ-レヴァテイン』
レベル8
攻撃力2600
「レヴァテインが召喚・特殊召喚に成功した時、墓地に眠るドラゴン族一体をこいつに装備することができる。俺が装備するのは、『ドラグニティ-ブランディストック』」
アキュリスよりも小ぶりな刃を生やした、水色の仔竜。それと同時に、フィールドにはもう一体、仔竜が残っている。
「ミスティルが除外されたことで、墓地へ送られたアキュリスの効果が再び発動。破壊するのは、『魔導騎士 ディフェンダー』だ」
「え、ディフェンダー……?」
再び舞い上がった仔竜が、魔導騎士へと飛んでいく。
疑問に思いつつも、翔はそれを否定する。
「ディフェンダーの効果! 『マジカル・コンダクター』自身の魔力カウンターを一つ取り除くことで、破壊から守る!」
『マジカル・コンダクター』
魔力カウンター:10→9
「マナ・ウォール!」
翔が叫び、消えた魔力カウンターが見えない壁と化す。
それがアキュリスの突進を弾き返した。
「だが、これでもう、ディフェンダーの効果は使えない……」
「……っ」
淡々と言いながら、亮はディスクに手を伸ばす……
「……?」
と、不意に視線を翔から、梓へ向け、目を合わせた。
「特別だ。お前には今から、このデッキの切り札の一つを拝ませてやろう」
「切り、札……?」
「伏せカード発動!」
叫び、カードが表になった瞬間。
先ほど呼び出されたアキュリス、今もフィールドに舞うブランディストック。
彼らを含めた、ドラグニティの仔竜、計八体。
その八体が、亮の頭上に集結した。
それが輝きを発すると同時に、一つと重なり、それは、フィールドに舞い降りた。
広がる六つの翼。長尾を思わせる強靭な柄。そこから伸びる黄金の刃。
荘厳で、強靭で、頑強で、堅牢で……
あらゆる強さと、あらゆる神聖さを表す単語が浮かんでは当てはまる。
そんな神々しくも巨大な槍が、レヴァテインの目の前の大地に突き刺さった。
「装備魔法『ドラグニティの神槍』。こいつをレヴァテインに装備。これにより、レヴァテインは罠カードの効果を受けなくなり、攻撃力は自身のレベルの100倍アップする。レヴァテインのレベルは8。よって攻撃力は800アップ」
『ドラグニティアームズ-レヴァテイン』
攻撃力2600+100×8
『マジカル・コンダクター』
魔力カウンター:9→11
『魔法都市エンディミオン』
魔力カウンター:3→4
「攻撃力3400……! けど、その程度なら……」
「そしてこいつだ」
「最後の手札?」
「魔法カード『フォース』! フィールド上のモンスター二体を選択。このターン、一体の攻撃力を半分とし、残りの一体にその数値分の攻撃力を加える。俺が指定するのは、レヴァテイン、そして『神聖魔導王 エンディミオン』!」
亮が、最後の手札を切った時。
指定された二体のモンスターに、明らかな変化が生じた。
翔の場のエンディミオンは、その身からエネルギーを吸い取られて脱力し、そこから漏れ出たエネルギーが、亮の場のレヴァテインの身へと吸収されていく……
『神聖魔導王 エンディミオン』
攻撃力2700/2
『ドラグニティアームズ-レヴァテイン』
攻撃力2600+100×8+1350
『マジカル・コンダクター』
魔力カウンター:11→13
『魔法都市エンディミオン』
魔力カウンター:4→5
「攻撃力、4750!?」
「バトルだ! レヴァテインで、『神聖魔導王 エンディミオン』を攻撃! ヘブンスフォール・レーヴァテイン!」
空中で踊る水色の仔竜と共に、神槍を装備したレヴァテインが急上昇……かと思えば、かなりの高さから一気に急降下。
ただでさえ圧倒的な突進力な上、力を吸い取られた身で耐えられるはずもなく、神槍による急降下を受けた魔導王は、跡形もなく消し飛んだ。
「うわああああああああ!!」
翔
LP:4000→600
「うぅ……けど、これくらい……次のターンで、エンディミオンはまた蘇る! この光の世界を守るために、何度だって……!」
「『ドラグニティ-ブランディストック』を装備したモンスターは、一度のバトルフェイズで二度の攻撃が可能となる」
「うそ……!」
その効果に呆然となり、また自分のフィールドを見る。
自分の場には、攻撃表示の『マジカル・コンダクター』が……
「お前ごとき、このデッキの真の力を見せるまでもない! この光の世界の中で眠っていろ! レヴァテインで、『マジカル・コンダクター』を攻撃! ヘブンスフォール・レーヴァテイン第二打ァア!!」
再びその光景が繰り返される。
急上昇し、頂点から急降下を始めるオレンジ色の竜戦士。
その先にいる、緑色の聖女に対し、巨大な神槍を向けて……
「あ……ああ……」
葬られた女王……
立ち上がらない王……
立ちすくむ騎士……
そして、破壊される聖女……
女王の献身は無駄と化し、世界を守るはずの王は死に、そして、誰かを守るために存在する騎士さえ、隣に立つ女を守ることもできず、ただ立ち尽くしている。
これだけの光の中にいながら。これだけの光に包まれながら。
これだけの力を受け取っておきながら、何もできず。何も成しえず。
王も、騎士も、そして僕も……
一人の女も、何も、守ることができず……
――消える……
――僕の、光の世界が……
――僕の願いが、消える……
翔
LP:600→0
「翔君!」
亮の攻撃の結果、元に戻ったフィールド。
そこで倒れた翔を、すぐさま駆けつけたももえが抱きかかえ、左右からカミューラとマナが支えた。
「ああ! そんな……」
「いやぁ!!」
ギャラリーの女子たちも、すぐさま翔のもとへ走ろうとした。だが、その足を……
「……え?」
「あ、梓、さん……?」
梓が、刀を片手に制した。
「……すみませんが、今は、四人だけにしてあげて下さい」
ギャラリー全員にそう言いながら、翔を抱えながら、ショウ子ちゃん応援団の三人は去っていった……
「あの……梓さん?」
「はい?」
女子生徒の一人が、梓に問いかける。
質問の内容は、検討がついている。
「……さっき、あなたや、ももえさん達が、あの人の名前を、その……」
「……そうです。彼は翔さんです」
もはや、これ以上隠すことはできまい。それを理解したからこそ、暴露することにした。
「それじゃあ、まさか、彼が、ショウ子ちゃん応援団の……」
「そう。翔さんこそが、私達が支える、ショウ子ちゃんの正体です」
更なる暴露を重ねた。そんな梓の答えに、ギャラリー達全員が、同時に驚愕の声を上げた。
(これで、翔さんの日常はより大変なものとなるでしょうね……)
「彼が、ショウ子ちゃんの正体……ショウ子ちゃんの正体は男だった。ショウさんという名前のイケメン男子が、ショウ子ちゃんでしたのね!」
「……ん?」
聞こえてきた女子生徒の声に、疑問が浮かんだ。
「いやいや、逆だろう。あのショウっていうイケメン男子が、ショウ子ちゃんのコスプレの一つだろう。コスプレに加えて男装までできる本当の美少女だったんだ!」
「……ん?」
男子生徒の声も聞こえた。また、疑問が浮かんだ。
「なに言っているのですの? ショウ子ちゃんは男子です! さっきのイケメンっぷりを見たら一目瞭然ですわ!」
「いやいや! ショウ子ちゃんは女子だって。普段あれだけモンスターになりきってるんだから、男子になるのだって、彼女にならわけ無いだろう!」
「ショウ子ちゃんの正体は美男子です!」
「いいや! 絶対に美少女だ!」
「男子です!」
「女子だ!」
「男子ですわ!」
「女子だって!」
「男子に決まってんだろう!」
「女子に間違いありませんわ!」
「……」
翌日以降、翔の日常に、特に変化が起こることは無かった。
ただ、以前までに比べて、ショウ子ちゃんのファンに、女子生徒の比率が急激に、突然増えたこと。そして、ショウ子ちゃんの性別が、女子だ、男子だ、と、ファンの間で意見が真っ二つに別れてしまったこと。
起きた変化は、それだけだった。
「……まあ、いいか」
そう……
梓にとっては、大切ないもう……友達さえ無事なら、周囲の変化などどうでもいいこと。
ギャラリーらの喧騒鳴りやまぬそんな空間で……
「……」
「……」
竜鳥を統べる者と、氷結を司る世界。
二人の視線が、重なった。
お疲れ~。
まずはオリカ行こっかー。一枚だけだけど。
『アルカナフォースXV_THE DEVIL』
レベル7
光属性 天使族
攻撃力2500 守備力2500
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、コイントスを1回行い、その裏表によって以下の効果を得る。
●表:このカードの攻撃宣言時、フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して破壊する。
破壊しない場合、このカードを破壊する。
この効果で破壊されたモンスターのコントローラーは500ポイントのダメージを受ける。
●裏:このカードの攻撃宣言時、フィールド上のモンスターを全て破壊する。
当然、斎王が使用。
正位置なら単純に便利だし、逆位置でも確実に相手モンスターは破壊できる。
単体で直接攻撃するには不便ではあるけど、上手いことカードを組み合わせりゃ色々できそうな便利な効果だと思うよ。
以上。
この話書いてて思い出したけど、そう言やアニメ版『アルカナフォース』って、カード名はハイフン(-)でなしにアンダーバー(_)だったのすっかり忘れてた……
にしても、難しいとは思うがOCG化しないかな、THE DEVIL。結構ストライクなんよね、あの禍々しいデザイン。あの見た目と名前で天使族なんだぜ?
んなこと思いつつ、さすがにアッサリしすぎたかな、今回の決闘……
てなことで、次の決闘は濃くなる予定。
それができるまで、ちょっと待ってて。