遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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やぁ~ぉお~。

そんじゃら、決闘の続きだで~。
前半より遥かに長いからな~。

行ってらっしゃい。



    この夜のできごと

視点:外

 

 勉強は全然できない。腕力は強いが、スポーツが得意なわけじゃない。

 喧嘩っ早くて素行も悪くて、成績も合わせて、学校からの評価は下の下。

 当然、一人の友人も無く、周りの奴らは関わりたくないと遠ざかっていった。教師達からはとっくに見捨てられて、親ですら将来を諦めている。

 そんな椛に残されたことと言ったら、惰性で通う学校の授業と、買ったは良いが、ほとんど触らず、遊んだことも一度もない、今流行りのカードゲームくらいだった。

 

 そんなふうに、何も無かったからだろうか?

 最後尾の席から見える、同じ教室の、窓際の席。そこで、一日中誰にも気付かれずに、ただ座っているだけの男子生徒のことだけは、どういうわけか気になった。

 誰とも喋らず、何もしない。確かにそこにいるくせに、誰もソイツを気にも留めない。

 そんな男子生徒を見て、何となく感じていた。

 ああ……アイツはオレと同じ。なんにも無い奴なんだな、と。

 

 もっとも、オレとアイツでは、種類が全然違う。

 二人とも、確かにそこにいる。ただ、そこにいるだけで誰もが離れる小火(ボヤ)がオレなら、アイツは、どれだけ通り過ぎて、ぶつかったとしても、見向きもされないそよ風だ。

 そんな、種類の違う同類だと思っていたからか、通っていてもすることのない学校で、ソイツを見ることが日課になっていった。

 

 こんな眠くなる授業を、よく真面目に聞いてられるな、とか……

 あれだけ真面目なくせに、オレと同じで勉強は嫌いなんだな、とか……

 今日はいつにも増して嬉しそうだ。何か良いことでもあったか? とか……

 

 だからだろう――

 

 その日は明らかに、いつもと様子が違っていた。

 今まで、誰かと関わりたくても話しかける勇気がない、そんな奴だったくせに、その日突然、隣で決闘しているクラスメイト達に話しかけた。

 それで決闘をしたら勝って、周りはそれに喜び、盛り上がり、もてはやした。

 次の日も。そのまた次の日も。

 誰にも話しかけられない、孤独なそよ風だったソイツは、たった数日で、クラスの人気者に変わってしまった。

 

 だからだろう――

 

 裏切られた……

 仲間でも、友達でもなければ、話したことすら無い。

 そんな仲でしかなかったくせに、勝手に同類だと思っていたソイツが変わったことが、許せないと感じてしまった。

 そよ風だったお前を最初に見つけたのは、オレなのに……

 

 だからだろう――

 

 つい、ソイツに絡んでしまった。

 当たり前だが、ソイツはオレのことなんか知らなくて、ただ怖がっていた。

 そんな怖がるソイツのことを、友達になった周りの生徒たちが庇った。それが余計に許せないと思った。

 

 ああ……

 結局、一人なのは、オレ一人だ……

 仲間も、同類も、誰もいない……

 オレはずっと、一人のままなんだ……

 

 

 そんな喪失感と、悔しさを感じながら家に帰っている時。怖がっていたはずのソイツは、オレに話しかけてきた。

 一緒に決闘しよう? まだ怖がってるくせに、そう誘ってきた。

 ムカついていたはずなのに、そんな言葉に誘われるまま、家で完全に死蔵状態だったカードを手に取った。

 

 それからはほぼ毎日、放課後になると、誰もいない教室やら、空き地やらで決闘を教えてくれた。決闘なんかほとんどしたことがない、下手くそなオレへの楓の説明は、とても丁寧で優しかった。

 けど何より、ずっと、教室で見てたのに、そんなオレも見たことのない、楽しそうで、希望に満ちてる、そんな顔を浮かべていた。

 こいつは、こんな顔もできるのか……特別格好いいわけじゃない、だけど可愛くて綺麗なその顔に、思わず見惚れてしまっていた。

 

 

 ――「……なんで、オレなんかに、カードのことを……?」

 

 カードの説明を聞きながら、そう尋ねていた。

 これだけカードに詳しくて、これだけ優しい性格だったら、こんな不良より、よっぽど良いヤツと友達になれるだろうに。

 そう考えると、聞かずにはいられなかった。

 

 ……そんなオレの質問への答えが、オレのしたいことを決定づけた。

 

 ――「何ていうか、その……炎城さんも、僕と同じ、に、見えたから……」

 

 楓は、気まずそうにしながら、驚くべき言葉を語った。

 

 ――「僕は、こんな性格だったから、誰にも話しかけられずに、いつも一人ぼっちで……だから、なんていうか、同じように、一人ぼっちな人のことは分かるっていうか、気になっちゃって……炎城さんも、後ろの席で、ずっと一人ぼっちでしたから……」

 ――「……!」

 

 それを聞いた時は驚いた。

 オレのことなんか知らない。そう思っていた楓はずっと、オレが楓のことを見ていたのと同じように、オレのことを、同類として見ていたというのだから。

 

 ――「だから、僕は勇気を出して、隣の人たちに話しかけて、一人じゃなくなったから、だから……炎城さんも、僕が話しかけたら、一人ぼっちじゃなくなるかなって、思って……」

 ――「……それで話しかけてくれたってのか?」

 ――「えっと……余計なお世話、でした?」

 

 

 ……その時は、何も言い返せなかった。

 だが、その答えは今なら言える。

 

 嬉しかった……

 本当に嬉しかった……

 同じように、オレのことを見てくれていたことが。

 一人だったオレに話しかけて、こうして一緒にいてくれるようになったことが。

 楓が、今オレの目の前にいることさえ……

 

 コイツにもっと、決闘を教わりたい。

 コイツともっと、仲良くなりたい。

 コイツとずっと、一緒にいたい。

 

 楓の言葉が嬉しいと感じてから、そんなことばかり考えるようになっていった。

 それで、ただの同類意識だと思っていた気持ちが、いつからか知らないが、とっくに別物に変わっていたんだと自覚した。

 

 

 楓は、決闘を通してオレと接することができると思っていたらしいけど、ならオレも、楓と一緒にいるために、もっともっと、決闘で強くなりたい。そう思った。

 楓は、オレとは全然違う。いつか、楓にとって、今よりずっとふさわしい場所に行けるだろう。

 オレも、一緒にそこへ行けるだなんて思っちゃいない。それでも、決闘さえしていれば、楓とは繋がっていられると思ったから。

 

 だから、楓と友達のままでいられるように、強くなりたい。

 そのために、決闘に真剣に取り組もうと思った。

 こんなに誰かに、何かに夢中になるなんて初めてだったし、多分、これから先も一生ないだろう。そんな楓と、ずっと仲良くいるためなら……

 

 

 手元に買った覚えのない、炎のカード達が突然現れたのは、そう決めたころのことだった……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 そうして手に入れたカードを、楓と一緒に研究して、練習して、今くらいの強さになった。

 口うるさく指図してくる精霊のジジィだけは今でもムカつくが、それでも、下手なプロ決闘者くらいなら倒せるくらいの実力は身に着けることができた。

 

 それで自信が出て、このデッキが会いたがっているヤツに挑んで、その結果が、ほとんど敗けも同じなこの状況だ……

 

 コイツの実力がずば抜けてることは、陰から楓の決闘を覗いて分かっていた。

 分かった、つもりでいた。どんな決闘をするか分かっているから、そこに勝機がある。そう、頭が悪いくせに思っちまった。そんなチャンス、どこにもないっていうのに。

 決闘者としての、レベルが違うとか、格が違うとか、そんな単純な話じゃない。

 コイツはまさに、次元が違う。生きた世界が違う。

 素人に毛が生えたようなオレなんかと違って……最近になって結果を出すようになったばかりの楓と違って、数えきれないくらいの強敵と闘って、想像もできないような修羅場をくぐってきた。それが、否応なしに分かっちまった。

 こんなヤツを相手に、楓の仇を討とうだなんて、なんて無謀なことを言っちまったんだ。

 オレは楓にだって、一度も勝ったことがないのに……

 

「どうしました? あなたのターンですが?」

 

 相変わらず、冷たい声が聞こえてきた。

 オレはもちろん、フレムベルの炎だって簡単に凍らせちまいそうな、そんな冷たさだ。

 完全に、オレのことなんか眼中になくなっちまった。そんな声だ。

 

 もう、決闘する意味なんかない。

 フレムベル達には悪いが、このままサレンダーしちまった方が……

 

 

『オゥラァ!!』

 

 ガンッ

 

「痛ってぇ!!」

 デッキに手を置こうとした瞬間、ジジィの声が聞こえた。

 かと思ったら、頭頂部に激痛が走った。

「ってぇっ……なにしやがるクソジジィ!?」

『ああん……?』

 愛用の燃える杖を、主の頭頂部目掛けて振り下ろした『フレムベル・マジカル』は、声を上げながら、その顔を椛と突き合わせた。

『なにしやがるは、こっちのセリフだバカ野郎……』

「ああん?」

『おう、椛ぃ……テメェ、いつからそんな殊勝な良い子ちゃんになったんだよ?』

「あ?」

 聞き返した椛に向かって、直前以上に声を張り上げる。

『いつもいつもただカードを振り回してただけのバカ女が、いつからそんなふうに考えて決闘するようになったんだって聞いてんだよ? 考える頭なんざねーくせによぉ!』

「なにをぉ!?」

 今にもつかみ合いの喧嘩が始まりそうな険悪さを、(アズサ)は静観し、ファルコンは微笑み、楓は、あわわわと見守っていた。

 

『よぉ、椛よぉ。俺たちは最初(ハナ)っから、テメェが俺達のことを使いこなせるなんざ、思っちゃいねぇんだよ』

「はぁ? なんだそりゃ? だったらなんだって、楓みたいなヤツじゃなくて、オレなんかの前に現れたってんだ?」

 今日まで聞かされず、大して興味もなかった、彼らが現れた理由。

 それを切り出されて、椛も一人称が素に戻りながら尋ねた。

『理由だぁ? テメェが一番面白そうだと思ったからに決まってんだろう』

「面白そうだぁ?」

 なんの比喩や迷いもなく、魔術師はそう返した。

『そうだよぉ……確かにな、ただ決闘が上手ぇヤツなら腐るほどいらぁ。楓みてーに、メンタルはともかく技も腕も立つヤツの前に現れりゃあ、俺達も何の不自由もなく活躍できただろうさ。少なくとも水瀬梓を相手に、ここまで酷ぇ醜態さらすことにゃあならなかったろうなぁ……』

「くぅ……」

 事実な以上、言い返すことはできない。そんな椛に対して、更に続ける。

 

『だがな、ただ活躍しただけじゃあ面白くねぇ。俺達フレムベルは炎の一族だ。求めてるのは鮮やかに勝つことじゃねぇ。激しく燃え盛って戦った上での勝利なんだよぉ』

「ああ? なんだそれ、わけ分かんねーぞ? もっと分かり易くいいやがれ」

 当然の疑問を、椛は聞き返した。

 それに対して魔術師は、また怒り出したようだった。

『なんだってそれで分かんねーんだ!? テメェそれでも俺たちの主か!?』

「精霊の感覚で話されても理解できるかってんだ!? 人間にも分かるよう説明しやがれクソジジィ!?」

 普通に会話していたのに、少し話したらこの始末。

 それでも、(アズサ)は静観し、成り行きを見守っていた。

 止めようととっさに足を踏み出した楓は、ファルが制した。

 

『テメェはもっと強くなりてーんだろうが!?』

「ったりめーだ! 強くなりたくねぇ決闘者がいるってのかよ?」

『理由は!?』

「理由だぁ?」

 楓のそばにいたいからだ!

 叫びそうになったが、とっさに口ごもり、無言を貫いた。

『まぁ、理由なんざどうだっていい……少なくとも俺達は、テメェの中に、強くなりてーって激しく燃え盛る決闘者としての炎を見た。それが面白れぇと思ったからテメェの前に現れた』

「なんだよ、そりゃ……」

 

『テメェの言った通り。それに、さっき言った通りだ。強くなりてーヤツ、ある程度強いヤツなんざ、腐るほどいる。だがな、そいつらだって、真剣に強くなりてーと思ってるわけじゃねーヤツもいりゃあ、ある程度の強さで満足しちまってるヤツだっている。むしろ、世の中そんな甘ちゃん決闘者ばっかりだ。それでも上手くいっちまうから、今の世の中甘いもんだがよぉ……』

「そりゃあ……まあ、そうだろうけどよ……」

『そんなヤツらに使われたところで、勝とうが敗けようが不完全燃焼で終わっちまうだけだ。俺たちは炎だ。真っ白になるまで完全燃焼してーんだよ。残念だが、それほどの決闘ができるヤツは少ねぇ……そう思ってた時、見つけたのがテメェだった』

 杖の先を椛に向けて、言い放った。

『決闘はまだまだ覚えたて。戦略も知識も甘すぎて成っちゃいねぇ。粗削りで見てられねー場面ばっかだし、その度に、楓のヤツに迷惑ばっかかけてやがる』

「くぅ……」

 

「迷惑だなんて……」

 自分の名前を出されて、楓はそう呟いた。

 

『だがなぁ、いくら下手くそだろうがミスしまくろうが、それでもテメェは止まりゃしねぇ。ボロボロんなろうがぶっ倒されようが、強くなりてーって燃えてただろうが。違うか?』

「……」

 言葉にされると恥じる気持ちもあるものの、実際、このジジィの言った通り。

 椛はずっと、決闘に対して、燃えていた。

 当たり前だが、最初のころは下手くそだった。正直、今でもそうだ。

 酷い敗け方をしたことは何度もある。思わず目を覆いたくなる惨状に遭ったこともある。

 それでも、次は必ず勝ってやると奮起して。次は絶対、同じ間違いはしないと誓って。

 生まれつきのバカな頭で、次のことばかり考えて、燃えていた。

 

 なぜか……楓がいつもそばにいて、いつも励ましてくれたから。

 楓が教えてくれた決闘で、勝ちたいと思ったから。

 そうして何度も戦い続けて、初めて勝った時の喜びは、今でも忘れない。

 それで調子に乗って、またすぐ敗けたが、それでも勝つ回数は確実に増えていった。

 

『いくら敗けようが倒されようが、テメーはテメーん中の、決闘者としての炎を消さなかった。最初はほんのボヤだったもんが、山火事レベルのデカさまで育った。それを感じたから、俺達はテメーの前に現れたんだよ。テメーん中で燃えてる炎が、俺達に熱く燃え滾る決闘をさせるって確信したからよぉ!』

「……」

『それをテメー! いくら化け物レベルの決闘者を相手にして、敗けそうだからってよぉ! その炎を簡単に消しちまうのかよ? せっかく俺達が惹かれるくれぇデケー炎を宿しておいて、ここで終わりだってのか? 俺たちはまだまだ、燃えたりねーぞぉ!!』

「……」

『テメーのデッキだ。俺みてーにいらねーと思ったカードは外せばいい。決闘もテメーが嫌になったなら、辞めちまうのは自由だ。だがなぁ、俺達が選んだ決闘者として、一度始めた決闘を、燃え尽きもせずに中途半端にくすぶったまま終わるなんざ、俺たちゃあ許さねーぞ! ああーん!?』

「……」

 

 今まで、聞かされたこともなかった、精霊の本心。

 それを言葉にされて、ぶつけられた椛は……

 

「……やっぱり、何言ってんのか分かんねーな……」

 その言葉通りの、理解不能という顔を浮かべていた。

「けど要は、オレに決闘続けろってんだろ? クソジジィ……」

 それでも、彼の言いたいことの要点は、いくら椛でも理解はできた。

 自分たちは、お前という決闘者を選んだ。だったら、それにふさわしい決闘者として、決闘を続けろと。自分達を使って、最後まで戦い続けろと。

 

「正直、テメーに言われたってムカつくだけだ……ムカつくだけなんだがよぉ……」

 たとえムカつこうが、頭に来ようが、少なくとも、こいつらはオレと違って諦めていない。

 たかが、決闘者に使われるカードの分際で……

 デッキから外された役立たずなジジィのくせに……

 そう考えるうち、心を支配していた諦めの気持ち以上に、こんなヤツらに、決闘者として嘗められるのは、余計にムカつくだけだとムカついてきて……

 

「分ぁーったよ! やりゃあいいんだろうが、やりゃあ! 精霊のくせに生意気言いやがって……決闘者、炎城椛を嘗めんじゃねー!!」

 

『はん! 諦めようとしてた雑魚がよく言うな!』

「うるせー! 続けてやるんだからちったぁ感謝でもしやがれクソジジィ!」

『感謝してやるからさっさとしやがれクソガキ! これ以上相手を待たせんじゃねーよ!』

「分かってるってんだよ!!」

 

 

「……」

 立ち上がり、ディスクを構えなおす。

 今にもサレンダーしようとしていた姿がウソのように、見事に復活を果たした。

『楓?』

 それを、ジッと見つめている楓に、ファルが声をかけた時……

「『フレムベル・マジカル』……すごいなぁ。椛ちゃんのこと、あんな簡単に元気づけて。僕には、掛ける言葉なんて思いつかなかったのに……」

 その声色には、自信の喪失と、椛への罪悪感、そして、椛のそばにある精霊への、嫉妬の気持ちが表れていた。

「僕も……決闘を教えるだけじゃなくて、椛ちゃんのこと、元気づけたり、勇気づけたりしてあげたいのに……」

『……』

 そんなふうに落ち込む楓を、ファルは、ニヤニヤしたいのをこらえつつ、黙って見つめていた。

 

『……にしても、梓も優しいよね』

(なんのことですか?)

 アズサの言葉に対して、梓はそう返している。

 だがいくらとぼけようとも、アズサはフィールドを見ながら、梓の真正な優しさを痛感していた。

 

 

LP:1000

手札:3枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    フィールド魔法『バーニングブラッド』

 

LP:4000

手札:5枚

場 :モンスター

   『青氷の白夜龍』攻撃力3000

   『氷結界の虎将 ガンターラ』攻撃力2700

   『氷結界の大僧正』守備力2200

   『氷結界の軍師』守備力1600

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

    セット

 

 

(『相手の残りライフは1000。守備表示の大僧正を攻撃表示にしたら、1600のダイレクトアタックで終わってた……おまけに、別に使う必要のなかった『壺の中の魔術書』で、わざわざ相手の手札まで増やしてあげて……ガンターラと宝札の効果で、カードをドローしたかったように見せかけて、軍師なんて的まで用意してあげてさ……』)

 

 

「さぁ! 決闘再開だぜ!」

「ええ……来なさい」

 

「……オレのターン、ドロー!」

 

手札:3→4

 

 ちょっとでも楓の気を引けるよう、せめて少しは女の子らしく見えるように、まずは一人称を変えてみた。

 だが、それさえも今は捨てて、目の前の決闘に全てを懸ける……

 

「……一つ言っとくぜ。今のオレは、フレムベルだけじゃねーんだぜ」

「ほう……? フレムベル以外に、何があるというのです?」

「今見せてやんよ! オレの出すカードは、こいつだ! 来な『ジュラック・グアイバ』!」

 何度目かは分からない、炎がフィールドに燃え盛った。

 なのにその炎は、今までとは明らかに違っていた。

 炎そのものが生命だった、フレムベル。

 だがそれは、その炎の中に生き、その炎を身にまとう。

 炎と共にあって、強く熱く大きく育った、太古に生きた生命の息吹……

 

『ジュラック・グアイバ』

 レベル4

 攻撃力1700+500

 

「それは……『ジュラック』!?」

「へへ……やっと驚いた顔が見れたぜ」

 まさに狙い通りの反応が見られて、椛も満足そうに微笑んだ。

「バトルだ! 『ジュラック・グアイバ』で、『氷結界の軍師』を攻撃だ!」

 未だ、驚きの中にいる梓を無視し、燃え盛る恐竜がひざ立ちの老人へ走る。

 炎の牙に、老人はあっけなく破壊された。

「この瞬間、『ジュラック・グアイバ』の効果! コイツが相手モンスターを戦闘破壊した時、デッキから攻撃力1700以下のジュラックを特殊召喚できるぜ。オレが呼ぶのは、チューナーモンスター『ジュラック・ディノ』だ!」

 

 同じように炎が燃え盛り、そこから一匹の恐竜が立ち上がる。手足が燃え、硬いウロコに覆われて、鼻には短い角の生えた、二足歩行の恐竜だった。

 

『ジュラック・ディノ』チューナー

 レベル3

 攻撃力1700+500

 

「『ジュラック・グアイバ』の効果で特殊召喚したモンスターはこのターン、攻撃できねぇ。これでバトルは終了だ……いくぜ」

 

「レベル4の『ジュラック・グアイバ』に、レベル3の『ジュラック・ディノ』をチューニング!」

 それは、竜崎が行っていた時に比べれば、いささかの不満はあるようだった。

 だが少なくとも、クズが使っていた時に比べれば、遥かに嬉しげだった。

 そんな姿を見せながら、新たな姿に生まれ変わる……

 

「燃え上がれ! 誇り高き竜の魂! 熱き魂は一つとなりて、全てを踏みしだく暴君となる……」

「シンクロ召喚! 現れろ『ジュラック・ギガノト』!!」

 

 燃え盛る炎とは対照的な、青い身体が浮かび上がった。

 その身体から、強靭なる手足、長い尾、狂暴な貌が伸びた。

 巨体で大地を踏みしめる姿は、まさしく、恐竜という名の『暴君』だった。

 

『ジュラック・ギガノト』シンクロ

 レベル7

 攻撃力2500+500

 

「シンクロモンスターまでも……」

「『ジュラック・ギガノト』の効果! コイツが場にある限り、コイツを含むフィールドのジュラックは、墓地のジュラック一体につき、攻撃力を200アップさせる。オレの墓地のジュラックは二体、攻撃力は、えっと……400アップだ!」

 

『ジュラック・ギガノト』

 攻撃力2500+500+200×2

 

「こちらのモンスター全ての攻撃力を上回りましたか……」

「カードを二枚伏せるぜ。これでターンエンド!」

 

 

LP:1000

手札:1枚

場 :モンスター

   『ジュラック・ギガノト』攻撃力2500+500+200×2

   魔法・罠

    セット

    セット

    フィールド魔法『バーニングブラッド』

 

LP:4000

手札:5枚

場 :モンスター

   『青氷の白夜龍』攻撃力3000

   『氷結界の虎将 ガンターラ』攻撃力2700

   『氷結界の大僧正』守備力2200

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

    セット

 

 

「……私のターン」

 

手札:5→6

 

「……ジュラックには驚かされましたが、それだけです。フィールド魔法『ウォーターワールド』発動」

 梓がカードを発動させる。と同時に、熱く燃え滾る火山地帯の向こうから、大量の津波が流れ込んだ。その津波は火山を、足もとのマグマを全て飲み込み、急激に冷やされた大地は白い蒸気を発する。

 その蒸気が止んだころ、周囲は巨大な海に姿を変えた。

「『バーニングブラッド』が……」

 

『ジュラック・ギガノト』

 攻撃力2500+200×2

 

「これで『ジュラック・ギガノト』の攻撃力は2900。更に『ウォーターワールド』の効果で、全ての水属性モンスターの攻撃力は500ポイント上昇し、守備力は400下がります」

 

『青氷の白夜龍』

 攻撃力3000+500

『氷結界の虎将 ガンターラ』

 攻撃力2700+500

『氷結界の大僧正』

 守備力2200-400

 

「……大僧正を攻撃表示に変更しておきます」

 

『氷結界の大僧正』

 攻撃力1600+500

 

「更に装備魔法『白のヴェール』をガンターラに装備します」

 ガンターラの頭上に、白の光が輝いた。

 それがガンターラに被さり、褐色の肌に白の輝きを加える。

「楓にトドメを刺したカードか……」

「分かっているなら話は早い。このカードを装備したモンスターが攻撃する間、相手は魔法・罠を発動できず、更に相手の場の表側表示の魔法・罠カードの効果を無効にします」

「こっちにはもう、表側の魔法も罠もねーけどな」

「ええ……更に装備モンスターが相手を戦闘破壊した際、相手の場の魔法・罠カードを全て破壊します」

 

「そんな効果まで!?」

 

 楓の驚愕、そして焦り。それを無視して、梓は椛にもトドメを刺すために、宣言する。

「では、バトルです!」

「……今、バトルっつったよな?」

「……? それがなにか?」

「んじゃ、バトルフェイズに移行したこのタイミングで発動だ! 罠カード『ジュラック・インパクト』発動!」

 

 カードが表になった時、椛の場の『ジュラック・ギガノト』が咆哮を上げる。

 その咆哮が天へと轟いた時……夜空の彼方に、一つの光……否、炎が煌めいた。

「自分フィールドに攻撃力2500以上の恐竜族がいる時発動! フィールドのカード全部を破壊するぜ!」

 

「おお! ……いや、それじゃダメだ……!」

 

「お忘れか? 大僧正が場にある限り、私の場の氷結界は魔法・罠では破壊されません。この場合、大僧正とガンターラの二体は生き残ります」

「んなこたぁ分かってんだよ! もう一枚の伏せカード『月の書』発動!」

「まさか……!」

「こいつの効果で、テメーの場の『氷結界の大僧正』を裏守備表示にセットする。さっきのお返しだ!」

 立ち上がり、構えていた大僧正が、裏側のカードに変わる。その結果……

「これで大僧正の効果は無効、テメーの場は全滅だぜ!」

 その言葉の通り、防ぎようのなくなった巨大な隕石は、フィールドの中心に激突した。

 海は一瞬で蒸発し、発生した衝撃はモンスター達を飲み込み、魔法も罠も吹き飛ばした。

 

「やった! 椛ちゃん!」

 

「へへ……」

「……『白のヴェール』の更なる効果」

 梓の言葉に、破顔していた二人にまた緊張が走る。

「なんだよ……まだ効果があるってのか?」

 と、椛が絶望の声を上げた、その直後のこと、

「ぐぅ……!」

 梓もまた、白い光に包まれて、苦悶の声を上げることになった。

 

LP:4000→1000

 

「ライフが、減った?」

「……表側表示で存在する『白のヴェール』がフィールドを離れた時、私は3000ポイントのライフダメージを受けるのです」

「3000ポイント!? そんなバカでかいデメリットがあったのかよ……」

「……強力な効果には、大抵何かしらの代償があるものですよ」

 ダメージにふらつきつつ、体制を立て直し、手札を見る。

「……」

「言っとくが、テメーはメインフェイズ1の終了を宣言せずにバトルフェイズに移行してる。メインフェイズ1に戻ることはできねーからな」

「……」

 

「そんな細かいルール、よく覚えてたね」

 

「楓が教えてくれたこと、オレが忘れるわけねーだろう?」

 

「う、うん……////」

 

『ウソつけ。さっき魔法カードの効果忘れてたばっかだろうが』

「うるっせーぞジジィ!!」

「……メインフェイズ2に移行します」

 また喧嘩が始まる前に、続きを行う。

「永続魔法『ウォーターハザード』発動。自分フィールドにモンスターが存在しない場合、手札からレベル4以下の水属性モンスター一体を特殊召喚します。私はレベル3の『氷結界の守護陣』を、守備表示で特殊召喚します」

 

『氷結界の守護陣』チューナー

 レベル3

 守備力1600

 

「そして通常召喚。来なさい、アズサ……『氷結界の舞姫』を攻撃表示です」

 

『氷結界の舞姫』

 レベル4

 攻撃力1700

 

「……そいつがテメーの相棒ってわけか」

『そ。よろしく……ついでに言うと、僕ら恋人同士だよー』

 言いながら、梓に抱き着いた。

「決闘中にイチャついてんじゃねー!」

「決闘中に喧嘩をするのは、許されることですか?」

「うぐぅ……っ」

 

「まあまあ、椛ちゃん……」

 

「……守護陣と他の氷結界が場に存在する限り、あなたは守護陣の守備力を超える攻撃力のモンスターで攻撃することはできません。カードを一枚伏せて、ターンエンドです」

 

 

LP:1000

手札:0枚

場 :モンスター

   『氷結界の舞姫』攻撃力1700

   『氷結界の守護陣』守備力1600

   魔法・罠

    永続魔法『ウォーターハザード』

    セット

 

LP:1000

手札:1枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「……それにしても、なぜあなたがジュラックのカードを?」

「テメーがあの二人組を殺ってしばらくした後、気付いたらデッキに入ってたんだよ。やっぱ、あんな連中に使われたのは不本意だったんだろうな。おかげで一からデッキ調整するハメになっちまった」

「それでこんな時間にわざわざ……?」

「おお……また楓に迷惑かけちまったよ」

 

「椛ちゃん……」

 

「ということは、『ナチュル』達も……」

「多分な……もっとも、使ってて分かったが、やっぱオレより元の持ち主の方がいいみてぇだから、この決闘が終わったら、そこに帰っていくだろうぜ」

「……それを聞いて、安心しました……」

 

 

「決闘を続けて下さい」

「……」

 

「椛ちゃんの手札は、残り一枚。次のドローで決まる……」

 

「……」

 相手の場は一掃できた。が、すぐまた場を整えられた。

 楓の言った通り、手札が一枚しかないこの状況。次のドローに懸けるしかない……

「……いくぜ」

 それでも、椛はもう、恐れはしない。

 最後まで、決闘に燃えて燃えて、燃え尽きるまで。

 何より、楓がオレを見てくれているかぎり……

「オレのターン……ドロー!」

 

手札:1→2

 

「……まだ可能性はある。魔法カード『貪欲な壺』! 墓地のモンスター五枚をデッキに戻して、カードを二枚ドローするぜ」

 

『逆巻く炎の精霊』

『フレムベル・ウルキサス』

『ジュラック・グアイバ』

『ジュラック・ディノ』

『ジュラック・ギガノト』

 

手札:1→3

 

「……よし、イケる!」

 ドローしたカードを手に、声を上げ、勝利のための行動に出る……

「二枚目の『真炎の爆発』発動! オレの墓地から、守備力200の炎属性モンスターを、可能な限り特殊召喚する。来い! フレムベルども!!」

 椛の叫びに答えるように、フィールドの中心に巨大な炎が生まれる。

 それが爆発した時、その炎は三つに分かれた。

 

『ネオフレムベル・オリジン』チューナー

 レベル2

 守備力200

『ネオフレムベル・シャーマン』

 レベル3

 攻撃力1700

『エンシェント・ゴッド・フレムベル』シンクロ

 レベル7

 攻撃力2500

 

「モンスターを展開しましたか……ですが、守護陣が場にある限り、あなたはそれらのモンスターで攻撃はできませんよ」

「分かってるっての! オレは『エンシェント・ゴッド・フレムベル』をリリースして、速攻魔法『エネミーコントローラー』を発動だ!」

 炎の巨神が光と消えた。と同時に、梓の場の『氷結界の守護陣』が椛の場へと移動した。

「強力な『エンシェント・ゴッド・フレムベル』をリリースして、守護陣を……」

「放っておいたら除外されちまうからな。そうなると勿体ねーだろう?」

「確かに……」

「更に、『ジュラック・プティラ』を通常召喚!」

 

『ジュラック・プティラ』

 レベル3

 攻撃力800

 

「レベル3の恐竜族『ジュラック・プティラ』に、レベル2の『ネオフレムベル・オリジン』をチューニング!」

 炎の翼竜が飛翔する。と同時に、青白く燃える小さな炎が星へと変わり、翼竜の周囲を回る……

 

「燃え上がれ! 誇り高き竜の魂! 熱き魂は一つとなりて、全てを切り裂く剣となる……」

「シンクロ召喚! 現れろ『ジュラック・ヴェルヒプト』!!」

 

 二つの光が夜闇に閃いた。巨大な刃……否、爪の輝きだった。

 全てを切り裂く刃を突き立て、現れたのは、小さな体ながらも、身軽さ、素早さ、そして、剣士の風格に溢れた炎竜。

 

『ジュラック・ヴェルヒプト』シンクロ

 レベル5

 攻撃力?

 

「ヴェルヒプトの攻撃力と守備力は、シンクロ素材にしたモンスター達の元々の攻撃力を合計した数値になる。500と800で、1300だ!」

 

『ジュラック・ヴェルヒプト』

 攻撃力?→500+800

 守備力?→500+800

 

「更に、ヴェルヒプトは裏守備モンスターを攻撃した時、ダメージ計算を行わずに裏側のまま破壊できる。今は意味ねーけど……そして、テメーから奪った『氷結界の守護陣』もチューナーだ……」

「ふ……」

 

「レベル3の『ネオフレムベル・オリジン』に、レベル3の『氷結界の守護陣』をチューニング!」

「シンクロ召喚! もう一度来な! 『フレムベル・ウルキサス』!」

 

 彼女の最初のターンと同じ。

 フィールドに炎が燃え上がる。それを突き破り、再び現れる。燃える両拳を振るう、紅き闘将。

 

『フレムベル・ウルキサス』シンクロ

 レベル6

 攻撃力2100

 

「すごい! すごいよ椛ちゃん!」

 

「楓が鍛えたくれたおかげだ。迷惑ばっかかけて、この先も迷惑かけることになるだろうけど、これからもずっと一緒にいてくれよな!」

 

「え……う、うん! もちろん////」

 

(『君らだって、イチャついてんじゃん……』)

 

「さあ、バトルだ! 『フレムベル・ウルキサス』で、『氷結界の舞姫』を攻撃だ!」

「……」

 

「あ……」

 

「……あれ?」

 宣言したにも関わらず、ウルキサスは攻撃どころか、その場を動かない。

「あれ? なんで……て、え?」

 ウルキサスから、梓のフィールドに目を移す。

 その時ようやく、変化に気付いた。

 

『氷結界の守護陣』チューナー

 レベル3

 守備力1600

 

「守護陣が、どうして……?」

「私はバトルフェイズに入った瞬間、罠カード『戦線復帰』を発動させました。自分の墓地に眠るモンスター一体を、守備表示で特殊召喚します。守護陣の効果が再び適用されたことで、守護陣の守備力を超える『フレムベル・ウルキサス』の攻撃宣言は許されません」

「そんな……っ」

 楓に比べて弱い頭と実力で、必死に考えた上で行った、最高の一手のはずだった。

 それがこんな簡単に、あっけなく、否定されることになってしまった……

「『ジュラック・ヴェルヒプト』の攻撃力は1300……攻撃はできるけど、どっちも倒せない……ターンエンドだ……」

 

 

LP:1000

手札:0枚

場 :モンスター

   『フレムベル・ウルキサス』攻撃力2100

   『ジュラック・ヴェルヒプト』攻撃力500+800

   魔法・罠

    無し

 

LP:1000

手札:0枚

場 :モンスター

   『氷結界の舞姫』攻撃力1700

   『氷結界の守護陣』守備力1600

   魔法・罠

    永続魔法『ウォーターハザード』

 

 

「私のターン、ドロー」

 

手札:0→1

 

「……私も見せましょう。レベル4の水属性『氷結界の舞姫』に、レベル3の『氷結界の守護陣』をチューニング」

 梓にとっては、既にやり慣れ、見慣れたこと。だがこの二人が見たのは、これがたったの二度目。

 使う必要さえなかったそれを今、目の前で行う。

 

「冷たき結界(ろうごく)にて研磨されし剣の汝。仇なす形の全てを砕く、冷刃災禍(れいじんさいか)の刃文龍」

「シンクロ召喚! 狩れ、『氷結界の龍 グングニール』!」

 

 フィールドを、炎よりも強い吹雪が包み込む。

 雪が積もり、凍り付いた大地が大きくひび割れた。

 と同時に、その大地を突き破り、巨大な青い体躯はフィールドを踏みしだく。

 

『氷結界の龍 グングニール』シンクロ

 レベル7

 攻撃力2500

 

「こいつが、『氷結界の龍』……」

 

「ブリューナクもそうだったけど、桁違いの迫力だ……」

 

「魔法カード『強欲な壺』を発動。カードを二枚ドロー」

 

手札:0→2

 

「そして、グングニールの効果。一ターンに一度、手札を二枚まで墓地へ捨てることで、相手フィールドのカードを捨てた枚数だけ選択し、破壊します」

 

手札:2→0

 

 梓が二枚の手札を掲げ、それがグングニールの翼に吸収される。

 光り輝くそれをグングニールが振るった時、椛の場に並ぶ二体のシンクロモンスターは、真っ二つに切り裂かれた。

 

「ちくしょう……ちくしょう……っ」

 全力を出し尽くした。打てる手は全て打った。

 それでも、全てを否定され、覆されて、逆転されて……

 決闘を始める前から分かっていたことだ。

 強すぎる……別格すぎる……次元が違いすぎる……

 だとしても……

 

「これで終わりじゃねえ……これで終わってたまるかよ! 次はこうはいかねえ! 絶対に強くなってやる! 強くなって、今度こそテメーをぶっ倒してやる! 覚えときやがれ!」

 

「……バトル」

 返事はしない。

 梓はただ、静かに宣言する。この決闘を終わらせるための宣言を……

 

「『氷結界の龍 グングニール』の直接攻撃……崩落のブリザード・フォース」

 

LP:1000→0

 

 

「……」

 攻撃を受けて、椛は地面に大の字に倒れた。

「良き決闘を、感謝いたします」

 そんな椛に向かって、梓は一言言った後、背中を向けて歩き出した。

 

「……おい!」

 楓が椛に近寄った瞬間、大声を出す。去っていく梓に向かって、大声を上げた。

「さっきも言ったけど、これで終わりじゃねえ! オレは再来年、楓と一緒に決闘アカデミアに入る!」

「え……!」

「その時まで待ってやがれ! 今度こそぶっ倒してやるからな!」

 

「再来年?」

 

「おう! オレも楓も、今は中二だからな」

 

「……再来年には、私は卒業してアカデミアを去っておりますが?」

 

「な……そんなことどうだっていい! 絶対にリベンジしてやる! アカデミアだろうがプロだろうが、すぐテメーのところまで行ってやるよ! その時を待ってやがれ!」

 

「……」

 やはり、返事はしないまま、梓は歩いていった。

 

 

「あの野郎、格好つけやがって……」

(とりあえず、『フレムベル・マジカル』のカードをデッキに入れるか……)

 

「椛ちゃん……」

 去っていく梓を睨みつける椛に、楓は、恐る恐るという声で尋ねた。

「今、言ったことって……本気?」

「え? それはその……悪い。つい、勢いで、楓と一緒にって、言っちまったけど……すまん。お前には、お前の進路があるよな……」

「ううん! 嬉しい!」

 気まずそうにしている椛に対して、楓は満面の笑みを向けた。

「本当は僕も、椛ちゃんのこと、一緒にアカデミアへ行こうって誘いたかったんだ」

「え……そう、だったのか? てかお前、決闘アカデミアへ行く気だったのか?」

「うん。でも、中々言い出せなかったんだ。アカデミアに入学したら、椛ちゃんとは会えなくなっちゃうし……それに、一緒に行こうって誘っても、嫌だって断られるのが、怖くて……」

「ば……バカ野郎! オレ……アタシが、楓の誘いを嫌がるわけねーだろう!////」

 顔を真っ赤にしながら、相変わらずの大声を上げた。

「楓がアカデミアへ行くのも、アタシのこと誘うのも、嫌がらねーから、だから、その……ちゃんと、誘ってくれよ……////」

「あ、うん……椛ちゃん。中学を卒業したら、僕と一緒に、決闘アカデミアに入ろう?」

「……おう////」

 お互いにぎこちなく、恥じらいつつなやり取りをして、そしてお互い、笑いあった。

「……じゃあ、帰ろうか」

「そうだな」

 

 

「それにしても、やっぱ椛ちゃんはすごいよ。僕なんか、精いっぱいやって、やっとライフを100減らしただけだったのに、ライフを3000も削っちゃうんだもん」

「よせやい。アイツが勝手に自滅しただけじゃねーか。オレ自身は1ポイントもライフを削れてねーんだから。ジュラックの力まで借りたってのによぉ……」

 自然と手を繋いで、港までの道を歩きながら、話すのは、先ほどの決闘の話や、別の決闘に関する話題、ちょっとした世間話。

 楓の従兄の走一兄ちゃんが、念願の白バイ隊員になったとか……

 少し前に、椛の親戚の家に生まれた男の子の名前が、椛が適当に考えた『ムクロ』に決定したらしいとか……

 大事なことも、下らないことも、楽しく会話しながら歩いていく。

 

「椛ちゃん」

「ん?」

「椛ちゃんはさっき、ああ言ってたけど……僕は、椛ちゃんのこと、迷惑だって、思ったことないよ」

「え?」

「確かに、椛ちゃんにはまだ、教えなきゃいけないこととか、たくさんある。けど、僕が教えて、椛ちゃんが強くなっていくのは嬉しかったし……それに、僕自身、椛ちゃんと一緒にいるの、とっても楽しいから」

「楓……」

「だから……だからさ、もう、自分のこと、迷惑だなんて、言わないで、欲しい……僕は全然、椛ちゃんのこと、迷惑だなんて思ってないから」

「お、おう……ありがとう////」

 

 

 そして、港の船着き場まで、目と鼻の先まで歩いた時……

 

「楓」

 立ち止まり、その手を引く。

「なに? 椛ちゃん」

「……」

 

 今しかない……

 そう思った。

 今、椛はずっと秘めてきた思いを、楓に打ち明ける決心をした。

 

「オレ……いや、アタシ……////////」

 

 ――アタシは楓のことが……!

 

 ……

 …………

 ………………

 

「……にしても、今回は梓、完全に悪役だったね」

「私は最初(ハナ)から悪役です。私はもちろん、氷結界自体が悪役のようなものでしょう」

「まあね……世界を滅ぼしたのだって、結局、僕ら氷結界だし……」

 二人もまた、会話をしながら手を繋いで、家路に着いていた。

 

「にしてもさ、『エネミーコントローラー』でリリースされたのが『エンシェント・ゴッド・フレムベル』じゃなかったり、『氷結界の守護陣』をシンクロ素材にされてなかったら、敗けてたんじゃない?」

「そんなことはありません」

 アズサの疑問に対して、梓は平然と答える。

「私の墓地には、『青氷の白夜龍』がいました。守備力は『エンシェント・ゴッド・フレムベル』の攻撃力と同じ、2500です。なにかしら攻撃力を上げる手段がなければ、『戦線復帰』の効果で蘇生して守ることができました」

「ああ、そっか……」

「ついでに言えば、私の場には永続魔法『ウォーターハザード』がありました。白夜龍には、自身を除く表側表示のモンスターが攻撃された時、私の場の魔法・罠カードを墓地へ送ることで攻撃対象を自身に移し替える効果があります。ですので、アズサを守ることもできました」

「……つまり、結局のところ、どう転んだって梓が勝ってたわけね」

 

 アズサが苦笑しているのをよそに、梓は後ろを振り返り、二人のことを思う。

「二人とも、まだまだこれからです。更に強くなる……」

 今はまだ、梓の足もとにすら届かない実力だとしても。

 彼らには、お互いを支え合う相手がいる。

 無限の可能性と、確かな情熱に満ち満ちている。

 今日敗北していった若者たちの力を思い、梓もまた、自身にとっての最高のパートナーと共に、夜の道を歩いていった。

 

 

(それにしても……)

 歩きながら、二人とは別のことが頭をよぎる

(どうやら、最初に考えていた以上の、覚悟が必要のようだ……『最強のターミナルシリーズ』。そのデッキの『完成形』を相手にする、その覚悟が……)

 

(いずれにせよ、これであと三つ……)

 

 

 

 




お疲れ~。

今回の二人はちと、ベタすぎたかなぁ?

まいーや。とりあえず、書いてて一番思ったこと……


なんでターミナル第一期の内の、水属性は『氷結界』一つだけなんだよぉ!


てなわけで、なんだかんだ出せなかった『ジュラック』の残りのシンクロをここで出してやったぜ。
これで思い残すこたぁねーやな……

あと、ずっと気に入らなんだグングの口上も、地味に変更しちょるからやぁ。
また変えることになったりして……

そんなこんなで、次話まで待ってて。

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