遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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新テーマ登場!
その名は……


『影六武衆』


やっべっ、どうしよ……

そんなこんなで、行ってらっしゃい。



    魔法の言葉

視点:外

 

「もう終わりかな?」

 

「おのれぇ……ターンエンド」

 

 時刻はまだ午後だというのに、光を木々に遮られた森の中は、薄暗く、不気味な静寂に包まれている。

 まるで夕方か、或いは日の入り直後だと言われても信じてしまえるほどのそんな空間の中で、彼らは対峙していた。

 

 

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

   『ブラック・マジシャン』攻撃力2500

   『ブラック・マジシャン』攻撃力2500

   『ブラック・マジシャン』攻撃力2500

   魔法・罠

    永続魔法『魔法族の結界』魔力カウンター:1

 

影山リサ

LP:1700

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

影山次女

LP:800

手札:1枚

場 :モンスター

   『イエローヘカテー』攻撃力2500

   魔法・罠

    無し

 

影山三女

LP:1200

手札:0枚

場 :モンスター

   『レッドヘカテー』攻撃力2500

   魔法・罠

    無し

 

 

 翔の目の前には、長く生えた美しい紫髪を揺らす、三人の女が立っていた。

 髪の色もそうだが、美しい顔も、細身ですらりとした体格も、服装まで、見た目の全てがまるで同じ。そして、憎しみと邪悪に満ちた、瞳もまた同じ。

 そんな美女の三つ子へ向ける翔の顔には、三人を見下し、呆れる、失望が浮かんでいた。

「影山三姉妹……噂で聞いてたほどじゃないね」

「なんだと!?」

 翔の挑発に、三人の中心に立つ長女のリサが声を上げる。

 翔は、顔を変えることなく言葉を続けた。

「アンティ決闘はもちろん、色仕掛けだったり詐欺だったり、欲しいカードはどんな手段を使ってでも手に入れる。そうやって、伝説のレアカードの『三姉妹の魔女』カードも揃えたんだろうけど……三人掛かりで、学生相手にこれじゃあね……」

 仕舞いには、嘲笑さえ浮かべ、三人へ言葉を吐いていた。

「どの道、君達みたいな悪人が、こんな大会に呼ばれてること自体不自然だし。大方、メダルは他の出場するはずだった決闘者から奪ったんでしょう? もっとも、決闘はこのザマだし、僕をここへ誘い出した時みたいに、色仕掛けで、かな?」

「黙れ!」

 絶叫し、それ以上の言葉を制する。その顔には、分かり易い怒りを宿らせて……

「ならば見ておけ。必ず後悔させてやる……私のターン!!」

 

影山リサ

手札:0→1

 

「……ふふふ。ふはははは!」

 ドローしたカードを見た途端、顔の怒りをそのままに、高らかに、笑い声を上げていた。

 しばらく笑った後で、再び翔に視線を戻して……

 

「いつにしよう……再び三人がまみえるのは?」

「騒ぎが静まり……」

「戦いに勝って敗けて……」

「その後で……」

 

「……ならば、日暮れ前に片付こう?」

 三つ子が突然語り出したセリフに、翔が、最後の一節を被せる。

「マクベスだっけ? 友達に本物の魔女とか吸血鬼がいてさ、そういうの色々聞かされたことあるんだ」

 声と共に、薄ら笑いを浮かべる三姉妹にも劣らない、薄ら笑いを向けていた。

「いきなり何でそんなこと言い出したか分からないけど……切り札でも引いたってことかな?」

「そういうことだ……魔法カード『死者蘇生』! 墓地のモンスター一体を特殊召喚する」

「とうとう、あれが来るのか」

「そう……墓地より甦れ『ヴァイオレットヘカテー』!」

 

『ヴァイオレットヘカテー』

 レベル7

 攻撃力2500

 

「そして、これは三対一の変則デュエル。二人のフィールドのモンスターも、私のモンスターとして使用することができる。フィールドの『レッドヘカテー』、『イエローヘカテー』、『ヴァイオレットヘカテー』、三姉妹の魔女カードを墓地へ送り、融合デッキより融合召喚!」

 赤色の老婆。黄色の婦人。紫色の聖女。三姉妹とは違い、顔も服装も年の頃もバラバラな三人の魔女。

 その三人が一つと重なり、歪んだ空間から、新たな命を呼び起こす。

 

「今こそ降臨せよ! 『ゴーゴン』!!」

 

 白く大きな帽子の下の、深い皺が刻まれたその顔と肌は、病的なほどに白かった。

 そんな蒼白な顔の後ろには、太い赤髪が揺れていた。

 だがそれは、髪の毛ではなく、一本一本が生命を持ち、意志を持ち、不気味に蠢き獲物を睨む、一匹一匹の蛇だった。

 筋肉質な両腕に巨大な杖を携える、青色の聖衣を纏ったその女は、魔女であり、怪物であり、深い深い闇だった。

 

『ゴーゴン』

 レベル8

 攻撃力3000

 

「バトルだ! 『ゴーゴン』は一度のバトルフェイズ中に三回の攻撃が可能! 奴の場の『ブラック・マジシャン』を焼き尽くせぇえええ!!」

 『ゴーゴン』が巨大な杖をかざし、そこから杖以上に巨大な炎が生まれる。

 それが彼女の髪と同じく、蛇のようにのたうち暴れ、フィールドを、そして、三体の『ブラック・マジシャン』を飲み込んだ。

 

LP:4000→2500

 

『魔法族の結界』

 魔力カウンター:1→4

 

「これでターンエンド。さあ、我らが最強の魔女、倒せるものなら倒してみるがいい!」

 

 

影山リサ

LP:1700

手札:0枚

場 :モンスター

   『ゴーゴン』攻撃力3000

   魔法・罠

    無し

 

影山次女

LP:800

手札:1枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

影山三女

LP:1200

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

LP:2500

手札:3枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『魔法族の結界』魔力カウンター:4

 

 

「どうしてみんな、切り札一体呼んだくらいでそんなに浮かれてられるんだろう……」

 翔の呟きは、三人には聞こえなかった。

 切り札を前に薄ら笑いを浮かべられる三姉妹とは対照的な、呆れ果て、つまらなそうな……

 だが、それ以上に、重い悩み、苦しみ、挙句、疲れ果てたような……

 そんな顔のまま、デッキに指を置く。

「ドロー」

 

手札:3→4

 

「『ジェスター・コンフィ』を、手札から特殊召喚」

 

『ジェスター・コンフィ』

 レベル1

 攻撃力0

 

「この瞬間、『魔法族の結界』の効果。このカードと、場の魔法使い族モンスター一体を墓地へ送ることで、このカードに乗った魔力カウンター一つにつき一枚、カードをドローできる」

 

手札:3→7

 

「一気に手札を増やしたか……」

「だが、その中に『ゴーゴン』を倒す手段があるのか?」

「……別に、倒す必要なんてないよ」

「なに?」

「ライフを800ポイント支払い、魔法カード『洗脳-ブレインコントロール』発動」

 

LP:2500→1700

 

「洗脳だと!? まさか、『ゴーゴン』のコントロールを……!」

 その言葉の通り、ライフを払った瞬間、彼女らの前に立つ魔女は、正気を失いながらも翔の前へと歩いていった。

「『ゴーゴン』の効果は、一度のバトルで三回の攻撃、だったよね?」

「ぐうぅ……」

「バカな……!」

「おのれぇえ!!」

 三姉妹が三姉妹とも、悲痛な表情を浮かべ、できることは喚くだけ。

 そんなものを聞く気も無い翔は、三姉妹に向かって、最後の審判を下した。

 

「『ゴーゴン』で、影山三姉妹を攻撃」

 

影山リサ

LP:1700→0

 

影山次女

LP:800→0

 

影山三女

LP:1200→0

 

 

「約束通り、この『三姉妹』と『ゴーゴン』のカードは、アンティとしてメダルと一緒にもらっておくからね」

 決闘前に、一方的に取り決められたアンティ決闘のルール。

 そして、それに勝利したことで手に入れた、三姉妹の象徴であった魔女達。

 それをメダルと共にしまって、真っ直ぐ森を後にした。

 後には項垂れ、言葉を失うばかりの三姉妹が、森の闇にひざまづいているだけだった。

 

 ……

 …………

 ………………

 

「はぁ……」

 森を抜けた先にあった岸壁に腰掛けながら、溜め息を吐く。

 寄せては返す波の動きと、岸壁を叩く波の音。

 単純な動作しかしないそんな海が、今では羨ましいとさえ感じてしまう。

「マナ……」

 デッキから取り出した、『ブラック・マジシャン・ガール』のカード。

 先程の決闘の時、既に手札に引いていた。あの局面で呼び出すカードも揃っていたし、それで『ゴーゴン』を倒しつつ、三人を仕留めることもできた。

 昨日までの自分なら……困惑しつつ、それでも何の疑問も持たず、彼女らを受け入れることができていた自分だったなら、迷わずマナを呼び、勝負を決めていた。そして、なにも考えず、ただ勝利に歓喜し、マナに抱き着かれていただろう。

 

 ……そのマナは、今はいない。そして、マナだけじゃない。

「ももえさん……カミューラ……」

 自分のことを思ってくれた、三人の女性達。

 ただ、彼女達が積極的に関わってきてくれて、抵抗はありながらも嫌な気はしなくて、流されるまま、されるがままに、ただ受け入れてきた。

 そんな彼女達との、騒がしくも楽しい日常の中で、いつからかはもう覚えていない。

 三人が同じように、翔のことを思ってくれているように、翔もまた、彼女達のことを思ってしまった。

 そのことに気が付いて、同時に、その気持ちは、翔にとってあまりに重すぎる感情だった。

 決闘を続けながらも、三人のことが頭から離れず、そんな感情に押し潰されそうになりそうなほど、三人のことが愛おしい。

 だが、そんな気持ちを懐くことになった三人に、僕は今まで何をしてやれた?

 ただ、彼女達の望み通りに女装して、たくさんスキンシップして、そんな、楽しい毎日を、ただ三人から貰うばっかりで……

(そんな僕なんかが、最後には三人から、誰か一人を選ばなきゃいけないの……?)

 何もしてあげられない、何一つ返してあげられない、ただ顔が可愛いだけのチビ助と、そんなチビ助を好きになってくれた美女達。

 

 どうして、そんなことが許されるんだろう……?

 どうして、そんな男になっちゃったんだろう……?

 どうして、一人を選ぶことなんてできるんだろう……?

 

 三人ともが愛おしい。だから、三人のうちの一人を選ぶ……

 そんな、当然ながらも矛盾する、残酷な現実に、胸が締め付けられ、気持ちは沈む。

 それが辛かったから、精霊であるマナにも離れてもらった。

 そんな辛さを少しの間で良いから忘れたくて、罠だとバレバレな色仕掛けにも乗ってやって、森の奥まで歩いていった。

 そこで出会った三姉妹の美女達に、一方的にアンティ決闘を要求された時も、むしろ、気を紛らわせるために三人一度に相手をした。

 そして、ものの見事に打ち破った後も、翔の心が晴れることは無かった。

(どうすればいいの……僕は、三人のために、何がしてあげられる……?)

 誰も答えることの無いそんな自問に、一日中悩まされ、そんな悩みの中で得たものは、答えなど無いという答えと、嬉しくもない決闘の勝利と、欲しくもない四枚のレアカードだった。

 

「ももえさん……カミューラ……マナ……」

 何度繰り返したか分からない、三人の愛しい彼女達の名前を呟いた時……

 風が一つ、翔の身を叩いた。

「あ……!」

 その風に打たれたことで、手に持っていたカード、『ブラック・マジシャン・ガール』が手を離れ、空を舞ってしまった。

「そんな……待って、マナ!」

 今は精霊が宿っていない。それでも、大切な彼女との繋がりのカード。

 どのカードよりも信頼し、どのカードよりも大切なカードが飛んでいく。

 急いで立ち上がり、夢中になって追いかけていた。

 

 やがて、カードだけを見て、どこを走っているかも分からなくなった時。

 吹いていた風は弱まり、舞っていたカードは下へと落ちていく。

 幸いなことに、下は海ではなく、陸の海岸、砂浜だった。

「マナ……!」

 

「……え?」

 

 と、ようやくカードに追いついたと思ったら、そんな女性の声。

 空を舞い、下に落ちたカードは、たまたまそこにいた女性が掴んでいた。

「あ、あの……」

「……これ、君のカード?」

 その女性は、カードを差し出しながら尋ねてくる。翔は頷くと、彼女は笑顔でカードを渡してきた。

「ちゃんと持っていないとダメよ」

 透き通るような優しい声の響き。年齢を重ねているようだが、若々しく、美しく整った顔は、翔でなければ誰もが見惚れてしまっていただろう。

 そんな女性に笑顔を向けられながらも、翔は無難に礼を言う。カードが間違いなく『ブラック・マジシャン・ガール』だと確認して、立ち去ろうとした。

「……ねえ、君、決闘アカデミアの生徒、よね?」

「へ? はい……」

「私、ジェネックスの参加者なの。良かったら決闘しない?」

「……」

 ついさっき、三対一の決闘を終えたばかり。ついでに言えば、必死にカードを追い掛けて走ってきたばかり。

 随分と体力も使った。はっきり言って疲れているが……

「……良いですよ」

 どれだけ決闘に勝っても、どれだけ走って息切れしても、悩みは何一つ消えてはくれない。

 欲しいのは、そんな悩みを少しでも紛らわせてくれるもの。そのための、決闘の相手だった。

 

「君、名前は?」

「丸藤翔、ラーイエロー二年です」

「カトリーヌよ。さあ……」

 

『決闘!!』

 

 

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

カトリーヌ

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

「僕の先行、ドロー」

 

手札:5→6

 

「永続魔法『魔法族の結界』発動。更に、『見習い魔術師』を召喚、守備表示」

 

『見習い魔術師』

 レベル2

 守備力800

 

「このカードの召喚、反転召喚、特殊召喚に成功した時、フィールドのカード一枚に魔力カウンターを置く。僕は、『魔法族の結界』に魔力カウンターを乗せる」

 

『魔法族の結界』

 魔力カウンター:0→1

 

「カードを二枚伏せて、ターンエンド」

 

 

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『見習い魔術師』守備力800

   魔法・罠

    永続魔法『魔法族の結界』魔力カウンター:1

    セット

    セット

 

 

「ふーん、魔法使い族デッキか……私のターン、ドロー」

 

カトリーヌ

手札:5→6

 

「そうね……『魔道化リジョン』を召喚」

 

『魔道化リジョン』

 レベル4

 攻撃力1300

 

「『魔道化リジョン』……てことは、カトリーヌさんも……?」

「そう。魔法使い族デッキよ。それじゃあ、バトル! 『魔道化リジョン』で、『見習い魔術師』を攻撃!」

 黄色の道化師が走り、その拳を振う。結果、非力な魔術師はアッサリ倒された。

「……魔法使い族が破壊されたことで、『魔法族の結界』に一つ、魔力カウンターが乗る」

 

『魔法族の結界』

 魔力カウンター:1→2

 

「更に、戦闘破壊された『見習い魔術師』の効果。デッキから、レベル2以下の魔法使い族モンスターを自分フィールドにセットできる。僕は二体目の『見習い魔術師』をセット」

 

 セット(『見習い魔術師』守備力800)

 

「さすがに隙が無いわね……『魔道化リジョン』の効果。この子が場に存在する限り、私は通常召喚に加えて一度だけ、メインフェイズに魔法使い族モンスターを生贄召喚できる。私は『魔道化リジョン』を生贄に捧げて……『サイバネティック・マジシャン』を召喚!」

 

『サイバネティック・マジシャン』

 レベル6

 攻撃力2400

 

「一ターン目でもう上級モンスターが……」

「それだけでは終わらないわよ。『魔道化リジョン』がフィールドから墓地へ送られた場合、デッキ、墓地から、魔法使い族の通常モンスター一体を手札に加える。私が手札に加えるのは……」

 

カトリーヌ

手札:4→5

 

「『ブラック・マジシャン』……!」

 奇しくも自身のデッキの主力モンスターが、相手のデッキからも現れたことで、思わず目を見開いてしまった。

「そんなに珍しい?」

「あ……いえ、ごめんなさい。続けて下さい」

「じゃあ、カードを三枚伏せて、ターンエンド」

「ならこの瞬間、永続罠『漆黒のパワーストーン』を発動して、このカード自身に魔力カウンターを三つ置きます」

 

 

カトリーヌ

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『サイバネティック・マジシャン』攻撃力2400

   魔法・罠

    セット

    セット

    セット

 

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

    セット

   魔法・罠

    永続魔法『魔法族の結界』魔力カウンター:2

    永続罠『漆黒のパワーストーン』魔力カウンター:3

    セット

 

 

「なるほど……君のデッキは魔力カウンター主体のデッキか。私とはタイプが違うみたいね」

「……でも、切り札は同じみたいです」

「ん? どういうこと?」

「僕のターン」

 

手札:2→3

 

 カトリーヌの疑問に答えるために、プレイを再開した。

「まずは、『見習い魔術師』を反転召喚」

 

『見習い魔術師』

 レベル2

 攻撃力400

 

「反転召喚に成功したことで、『魔法族の結界』に魔力カウンターを乗せる」

 

『魔法族の結界』

 魔力カウンター:2→3

 

「更に、『漆黒のパワーストーン』の効果。自分のターンに一度、このカードの魔力カウンターを別のカードに一つ乗せることができる。僕はこの効果で、『魔法族の結界』に魔力カウンターを乗せる」

 

『漆黒のパワーストーン』

 魔力カウンター:3→2

『魔法族の結界』

 魔力カウンター:3→4

 

「これで結界に乗った魔力カウンターは最大……『魔法族の結界』の効果! 最大四つまで魔力カウンターの乗ったこのカードと、自分フィールドの表側表示の魔法使い族モンスター、『見習い魔術師』を墓地へ送ることで、このカードに乗った魔力カウンターの数だけデッキからカードをドローできる。この二枚を墓地へ送って、カードを四枚、ドロー」

 

手札:3→7

 

「おー、一気に手札補充……」

「驚くのはまだ早いです。『熟練の黒魔術師』を召喚」

 

『熟練の黒魔術師』

 レベル4

 攻撃力1900

 

「『熟練の黒魔術師』! て、ことは……」

「そういうことです。更に僕は、ライフ1000ポイントを糧として、魔法カード『黒魔術のヴェール』発動!」

 

LP:4000→3000

 

「手札または墓地に存在する、闇属性、魔法使い族モンスター一体を特殊召喚できる。来い『ブラック・マジシャン』!」

 

『ブラック・マジシャン』

 レベル7

 攻撃力2500

 

「……君も『ブラック・マジシャン』使い……」

「はい。けど、あなたが呼び出すのを待つ気はないです……まずは魔法カードが発動されたことで、『熟練の黒魔術師』に魔力カウンターを乗せます」

 

『熟練の黒魔術師』

 魔力カウンター:0→1

 

「更に魔法カード『千本(サウザンド)ナイフ』! 場に『ブラック・マジシャン』がいることで、相手モンスター一体を破壊できる。対象はもちろん、『サイバネティック・マジシャン!』」

 『ブラック・マジシャン』の周囲に、千本ものナイフが現れる。それが彼女の場の、機械の魔術師へ降り注いだ。

 

『熟練の黒魔術師』

 魔力カウンター:1→2

 

「そして、速攻魔法『サイクロン』! あなたの場の、真ん中の伏せカードを破壊」

 発生したつむじ風によって、彼女の場の伏せカードが巻き上げられた。だが……

「だったら、破壊される前に発動するわ。罠カード『徴兵令』!」

「『徴兵令』って……」

「相手のデッキの、一番上のカードをめくって、それが通常召喚可能なモンスターなら私のフィールドに特殊召喚して、違った場合は君の手札に加える罠カード」

「そんな使い辛いカード……賭けじゃないか」

「そう。賭けだけど……奇跡を起こしてみんなを驚かすのが、マジシャンだからね」

「マジシャン?」

「さあ、君のデッキトップのカードをめくって」

「……」

 翔は言われた通り、デッキの一番上のカードを引く。そこにあったのは……

「……モンスターカード『魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)』です」

「なら、そのカードは私の場に特殊召喚するわ」

 不本意ながらも、翔はカードを投げてよこした。

「ありがと」

 

魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)

 レベル5

 守備力1000

 

「……でも、これで『熟練の黒魔術師』の魔力カウンターは三つです」

 

『熟練の黒魔術師』

 魔力カウンター:2→3

 

「魔力カウンターが三つ乗った『熟練の黒魔術師』を墓地へ送ることで、手札、デッキ、墓地に存在する『ブラック・マジシャン』一体を特殊召喚できる。来い『ブラック・マジシャン』!」

 

『ブラック・マジシャン』

 レベル7

 攻撃力2500

 

「まさかと思ってたけど……もしかして、『ブラック・マジシャン』はデッキに三枚?」

「はい。今場に出てる、『病院へ行け(グリーン)』と『昭和の遺影(ホワイト)』、それに、あなたと同じ、『サロン帰り(コムギ)』も入ってます」

「すごいなぁ……私なんて、デッキに一枚入れてやっと回すのが限界なのに……」

「……このターンじゃ決められなくなったけど、バトルです! 『ブラック・マジシャン』で、『魔法の操り人形』を攻撃!」

 宣言されたことで、二人の内の一体の黒魔術師が走った。だが、

「……ちょっと、勝負を焦り過ぎよ。速攻魔法発動『ディメンション・マジック』!」

「え……!」

 カードが発動された瞬間、フィールドに人型の棺が現れた。翔自身もよく知る、見慣れた魔法の棺だった。

「自分フィールド上に魔法使い族モンスターがいる時、自分の場のモンスター一体を生贄に捧げて、手札から、魔法使い族モンスター一体を特殊召喚する。私は『魔法の操り人形』を生贄に捧げて、手札の『ブラック・マジシャン』を特殊召喚!」

 場に存在していたマリオネットが、棺に納まる。と同時に、その棺が再び開かれ、そこから一人の黒魔術師が飛び出した。

 

『ブラック・マジシャン』

 レベル7

 攻撃力2500

 

「『ブラック・マジシャン』……!」

「そして、これで終わりじゃないのは、君も分かってるよね」

 その言葉を受け、自分のフィールドに目を戻す。

 だがその時には、攻撃を仕掛けていた『ブラック・マジシャン』が、棺の中へ消えていた。

「モンスターを特殊召喚した後、相手の場のモンスター一体を破壊する効果……けど、僕の場には、もう一体『ブラック・マジシャン』が残ってる。『ブラック・マジシャン』、攻撃!」

 翔、そして、カトリーヌの場の黒魔術師が、同時に動いた。同時に杖を振い、同時に魔法のエネルギーを飛ばす。

 

黒・魔・導(ブラック・マジック)!」

黒・魔・導(ブラック・マジック)!」

 

 タイミングが同じなら、攻撃力もまた同じ。二人は同時に攻撃を受け、消滅した。

 

「互いの『ブラック・マジシャン』が消滅……『リビングデッドの呼び声』!」

「互いの『ブラック・マジシャン』が消滅……『リビングデッドの呼び声』!」

 

 同じように宣言し、同じようにカードを発動する。

 結果、同じように、二人の場に『ブラック・マジシャン』が蘇生された。

 

『ブラック・マジシャン』

 レベル7

 攻撃力2500

 

『ブラック・マジシャン』

 レベル7

 攻撃力2500

 

「これ以上は危ないかな……カードを一枚伏せて、ターンエンドです」

 

 

LP:4000

手札:1枚

場 :モンスター

   『ブラック・マジシャン』攻撃力2500

   魔法・罠

    永続罠『漆黒のパワーストーン』魔力カウンター:2

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

    セット

 

カトリーヌ

LP:4000

手札:1枚

場 :モンスター

   『ブラック・マジシャン』攻撃力2500

   魔法・罠

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

 

 

 大量にカードをドローし、大量のカードを使って勝負を決めに行った。

 だが、終わってみれば互いのフィールドは、『ブラック・マジシャン』が一体と同じ状況。

「こんなはずじゃあ……」

「なに焦ってるの?」

 項垂れている翔の耳に、相変わらずの優しい声が届いた。

「焦ってる?」

「気のせいだったら謝るけど、今の君は、決闘もそうだけど、何かに焦ってて、何かの問題の答えを必死に探してる。そんなふうに見えるな」

「それは……いや、そんなことは……」

「……私のターン」

 

カトリーヌ

手札:1→2

 

「私は、魔法カード『死者蘇生』を発動。この効果で、墓地の『サイバネティック・マジシャン』を特殊召喚」

 前のターンの黒魔術師と同じく、機械の体を持つ光の魔術師が、墓場からその姿を現した。

 

『サイバネティック・マジシャン』

 レベル6

 攻撃力2400

 

「『サイバネティック・マジシャン』の効果。手札を一枚捨てることで、フィールド上のモンスター一体の攻撃力を、エンドフェイズまで2000にできる。私はこの手札を捨てる。対象はもちろん、君の場の『ブラック・マジシャン』!」

 

カトリーヌ

手札:1→0

 

「パルス・オブ・マナ!」

 彼女が手札を捨てた時、機械の魔術師の杖から、電流を纏った魔力が溢れる。それを振い、放たれた時、それをもろに受けた『ブラック・マジシャン』は身を固めた。

 

『ブラック・マジシャン』

 攻撃力2500→2000

 

「バトル! 『サイバネティック・マジシャン』で、『ブラック・マジシャン』を攻撃! 電・魔・導(サイバー・マジック)!」

 魔力と電子、二つの力が合わさったエネルギーが、白の魔術師の杖から放たれ、翔の場の黒魔術師を飲み込んだ。

 

LP:4000→3600

 

「そして、『ブラック・マジシャン』で攻撃! 黒・魔・導(ブラック・マジック)!」

「うわぁああああ……!」

 

LP:3600→1100

 

「うぅ……罠発動『ダーク・ホライズン』! ダメージを受けた時、受けたダメージの数値以下の攻撃力を持つ黒魔族を、デッキから特殊召喚できる」

「ということは……」

「僕はデッキから、攻撃力2500、最後の『ブラック・マジシャン』を特殊召喚!」

 

『ブラック・マジシャン』

 レベル7

 攻撃力2500

 

「パンドラ……」

「……へ?」

 翔のデッキに眠る、最後の『ブラック・マジシャン』。今、カトリーヌの場に存在する者と同じ、『サロン帰り(コムギ)』と呼ばれる姿を見たカトリーヌが呟いていた。

「……ううん。なんでもない。モンスターが残っちゃったか……どの道手札もゼロだし、これでターンエンドよ」

 

 

カトリーヌ

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

   『ブラック・マジシャン』攻撃力2500

   『サイバネティック・マジシャン』攻撃力2400

   魔法・罠

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

 

LP:1100

手札:1枚

場 :モンスター

   『ブラック・マジシャン』攻撃力2500

   魔法・罠

    永続罠『漆黒のパワーストーン』魔力カウンター:2

 

 

(何とか『ブラック・マジシャン』が残ったけど、このままじゃ……)

 ついさっきの決闘なら、相手が思っていたよりも弱かったことを差し引いても、速攻で一気に勝負をつけることができた。

 だが、この人は同じ魔法使い族の使い手ながら、翔とはまるでタイプの違うデッキを巧みに操り、劣勢を一気に優勢へと変えてしまった。

 残りのライフも僅か。ピンチの状態……

(……僕って本当、ダメな男だよ……こんな時ばっかり、三人の顔思い出すなんて……)

 思い出したのは、昨日の、ティラとの決闘。

(カミューラに見ててほしい……ももえさんの声が聞きたい……マナと一緒に戦いたい……)

 強大な力に屈しかけた自分に、力をくれた三人。

 あの三人がそばにいてくれたなら、自分はもっと、強くなれる。

 迷信だとかジンクスだとか、驕りだとかでは決してない。常にそこにあって、今はどこにも見えないからこそ、それは確かな確信だった。

 

「やっぱり、悩んでるね」

 その時また、カトリーヌが声を掛けてきた。

「あ……ごめんなさい、決闘中にボーっとしちゃって」

「……君の悩みって、恋の悩みでしょう?」

「え……?」

 核心を見事に突いた言葉に、思わず固まってしまう。

「……えっと、どうして……?」

「分かるよ。今の君、昔の私にそっくりだから」

「へ……?」

 そう言いながら、語り出したその顔は、本人の言った通り、今に思い悩む翔と同じ種類の顔だった。

 

 

 

視点:カトリーヌ

 私、昔から決闘やってたわけじゃなくて、元々は、ある奇術師のアシスタントをしていたの。その人は、どんなに難しくて危険な奇術も、見事に成功させては、見てる人、世界中の人々を驚かせて熱狂させる、最高の奇術士だった。私はそんな彼のアシスタントであること……そして、彼の恋人であることが、とても誇らしかった。

 けどある日、彼が脱出マジックのリハーサルをしていた時だった。

 今まで起こしたことも無かった、事故を起こしたの。そのせいで、彼は顔に大火傷を負って、人前に出られる姿では無くなってしまった。

 そんな彼のこと、私は必死に支えたわ。けど、自暴自棄になってた彼はとっくに絶望しきっていて、いくら慰めても駆け寄っても、それを押しのけて、私のことは見てくれない。酷い言葉を掛けられたことは何度もあった。

 そんな彼のそばにずっとい続けて、私も、とうとう耐えられなくなった。

 彼のことを精一杯支えるって決めたはずなのに、彼の心を変えることもできないまま、逃げ出してしまった。

 その後、彼が姿を消したって聞いて後悔したけど、彼はもう、どこにいるのかも分からなくなってた。

 

 それから何年かした後、風の噂で、彼は今、決闘をしているって聞いた。

 彼は奇術の腕も凄かったけど、決闘の腕もとても強かったわ。

 まだ今ほどカードが充実してなかった時代から、今の君みたいに、『ブラック・マジシャン』をデッキに三枚入れて、それを巧みに操って。私は一度も勝てなかった。

 彼のことは、とっくに吹っ切れてると思って……いいえ、そう思い込んでたけど、気が付くと、私も決闘を始めてた。

 ただ、彼が使っていた、彼と同じ、『ブラック・マジシャン』を使って、決闘をしていれば、いつか、彼に会えるんじゃないかって……

 そう思いながら決闘してるうちに、大きな大会で成績を残したりして、気が付いたらそれなりに有名なセミプロになってた。

 そして、今じゃこの、ジェネックス大会に呼ばれるくらいの実力を身に付けてた……

 

 

 

視点:外

「……けど実際、決闘の強さなんてどうでも良いの。私はただ、彼にもう一度だけ、一目会いたいだけ。会ってどうしたいのかは分からない。もう一度会って、やり直したいのか。それとも、今度こそ、最後にしたいのか……分からないけど、それでもまだ、彼のこと、忘れられないから」

「……」

「君が何に悩んでるのかは分からない。けどせめて、後悔だけはしないでほしいんだ。今の私みたいに、いつまでも昔の未練引きずって、それにしがみ付くような生き方、しないで欲しいんだよね」

「……」

「……あはは。ごめんね、こんなおばさんの長話なんて、聞きたくないよね」

「……いいえ」

 翔とは違って、大人ゆえにとても複雑で、だが悲しくて、切ない話だった。

 少なくとも、今の翔の置かれた立場など、比べるべくもない。

 それでも、そんな彼女の気持ちを聞いて思う。

(僕にとって、三人は……)

 

「さあ、君のターンだよ」

 そして、その声をキッカケに、再び決闘に目を戻した。

 

 

LP:1100

手札:1枚

場 :モンスター

   『ブラック・マジシャン』攻撃力2500

   魔法・罠

    永続罠『漆黒のパワーストーン』魔力カウンター:2

 

カトリーヌ

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

   『ブラック・マジシャン』攻撃力2500

   『サイバネティック・マジシャン』攻撃力2400

   魔法・罠

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

 

 

「僕のターン」

 

手札:1→2

 

(……君はいつだって、僕のもとへ来てくれたよね)

 昨日の出来事以来、使うことを躊躇っていたカード。

 それを今、彼女に勝つために、使うことにした。

「僕は『ブラック・マジシャン』を生贄に捧げる。来て……『ブラック・マジシャン・ガール』!」

 

『ブラック・マジシャン・ガール』

 レベル6

 攻撃力2000

 

「『ブラック・マジシャン・ガール』……! 見間違いかとも思ったけど、やっぱりさっきのカードはそれだったんだね。伝説のレアカード……」

「はい。僕のデッキで、一番大切なカードです……『ブラック・マジシャン・ガール』の攻撃力は、墓地に眠る『ブラック・マジシャン』一体につき、300ポイントアップします」

 

『ブラック・マジシャン・ガール』

 攻撃力2000+300×3

 

「攻撃力2900……」

「バトルです。『ブラック・マジシャン・ガール』で、『ブラック・マジシャン』を攻撃。黒・魔・導・爆・裂・波(ブラック・バーニング)!」

 眠る師の魂を受け、攻撃力を上げた弟子の一撃。

 それは既に、師の能力を超え、相対する師を撃破した。

 

カトリーヌ

LP:4000→3600

 

「そして、墓地に『ブラック・マジシャン』が増えたことで、攻撃力は更にアップします」

 

『ブラック・マジシャン・ガール』

 攻撃力2000+300×4

 

「わーお……」

「カードを伏せます。ターンエンドです」

 

 

LP:1100

手札:0枚

場 :モンスター

   『ブラック・マジシャン・ガール』攻撃力2000+300×4

   魔法・罠

    永続罠『漆黒のパワーストーン』魔力カウンター:2

    セット

 

カトリーヌ

LP:3600

手札:0枚

場 :モンスター

   『サイバネティック・マジシャン』攻撃力2400

   魔法・罠

    無し

 

 

「……『サイバネティック・マジシャン』の方を狙わなかったのは、マジシャン・ガールの攻撃力を上げるためだけじゃない。マジシャン・ガールに対して『サイバネティック・マジシャン』の効果を使ったところで意味が無いってこと、分かってるからだね」

「そうです。『サイバネティック・マジシャン』の効果は、モンスター一体の攻撃力を2000に変える能力。けど、『ブラック・マジシャン・ガール』の攻撃力は元々2000。それに、攻撃力がアップする効果は、ステータスが変動しても変わらず適応されるので、どの道攻撃力は変化しません」

「その通りだけど、一つだけ補足。そもそも攻撃力が2000のモンスターは、このカードの効果の対象には選べないんだよ」

「へぇー……」

 説明に頷いたのを見て、カトリーヌもまた、デッキに目を戻した。

「いずれにせよ、このままじゃ、私の敗けだね……けど……」

 悟りながらもデッキに指を添えるその目は、直前の翔と同じ。

 勝利を、デッキを、カード達を、そして、ここまで来ることになった、そのキッカケとなった人への思いを信じた、強い目だった。

「ドロー!」

 

カトリーヌ

手札:0→1

 

「魔法カード『強欲な壺』。カードを二枚、ドローする」

 

カトリーヌ

手札:0→2

 

「……来たよ。逆転の切り札」

「切り札……!」

「さあ、出ておいで……召喚『魔法のランプ』!」

 宣言と共に、彼女の前に、モクモクと白煙が立ちのぼった。

 それは徐々に小さくなっていき、何かに吸い込まれるように消えていく。

 全ての白煙が消え、それを吸いとったのは、光り輝く、小さな小さな、とても小さな、黄金のランプだった。

 

『魔法のランプ』

 レベル1

 攻撃力400

 

「……」

 低ステータス。小さな姿。切り札と言いながら召喚された、脆弱なモンスターを見た翔は、言葉を失っていた。

 だがそれは、三流の決闘者が見せるような、落胆や、拍子抜けなどでは決してない。そのモンスターを油断なく凝視し、睨み据えていた。

「それは確か……初期の頃にたくさん登場した『直接攻撃モンスター』……」

「さすがに勉強してるわね。まあ、有名なカードだものね……」

「それに、あなたの手札は残り一枚……、て、ことは……」

「さすがによく分かってる。とっても優秀なんだね、君……『サイバネティック・マジシャン』、効果発動!」

 

カトリーヌ

手札:1→0

 

「パルス・オブ・マナ!」

 再び手札を一枚捨てる。と同時に、機械の魔術師の杖から電磁波が発生する。その杖を、隣に置かれたランプへと向けたことで、電磁波がランプを包み込む。

 その瞬間、黄金に輝くランプが新たに、白銀の輝きを発した。

 

『魔法のランプ』

 攻撃力400→2000

 

「これが私のデッキの、最強コンボだよ! ……もっとも、トドメを差す時くらいしか使えないんだけどね」

 苦笑しつつも、自身の場に立つモンスターを見つめた。

 翔にとって、最も信頼し、愛したモンスターが『ブラック・マジシャン・ガール』なら、カトリーヌにとってのそれは、『サイバネティック・マジシャン』だった。

 『ブラック・マジシャン』も愛するカードではあったが、それはあくまで、『彼』のカードだから。

 そんな『彼』のカードと比べて、同じ種族で名前も似ているが、属性も見た目もまるで違ううえ、名前からして、魔法じゃなくて電気を使う。何もかも対照的に見えた。

 だからこそなのか、決闘を始めようと思った時、たまたま入ったカードショップで、たまたま見つけたそのカードを、何となく手に取ってみた。

 相手や自分を弱くもできれば、強くもできる。

 そんな効果を駆使して、『ブラック・マジシャン』と並んで戦う姿を見る度、かつて、『彼』と一緒に、世界中の人々を熱狂させた日々を思い出した。

 いつか、この二人みたいに、見つけたあなたとこうして向かい合う、その日まで……

(今はまだ、私一人の力で……)

 

「バトル!」

 その思いを胸に、声を上げた。

「『魔法のランプ』の効果で、翔君に、ダイレクトアタックできる」

 叫んだ瞬間、再びランプの吸い口から、白煙が立ちのぼった。

 だが先程と違って、その白煙は立ちのぼりながら、徐々に形を成していった。

 やがて、はっきりした姿をかたどったそれは、隣に立つ『サイバネティック・マジシャン』と同じ形だった。

 実体が無ければ、色も無い。なのに、そこから溢れる魔力は本物だった。

「さあ行って! 『サイバネティック・マジシャン』!」

 そんな、煙でできた機械のマジシャンが走り抜く。途中、目の前に立ちはだかった『ブラック・マジシャン・ガール』にぶつかるも、煙に触れられるはずも無く、形を崩しながらすり抜ける。

 すり抜けた先で、再び元の姿を取り戻し、翔と、向かい合った。

 

夢・電・魔・導(サイバー・ミラージュ・マジック)!」

 

 本物と比べれば明らかに威力は落ちる。それでも十分過ぎるエネルギーが、翔へ向かって放たれた。

 そんなエネルギーを前に、翔は……

 

「罠発動『魔法の筒(マジック・シリンダー)』!」

 

 不敵な笑みと共にカードが発動された時、翔と、煙の魔術師の間に、二本の筒が現れた。

 煙の魔術師の攻撃は止まることなく放たれ、その魔力が、筒の中へと吸い込まれる。

 そうして吸収されたエネルギーは、もう一本の筒から、カトリーヌ目掛け放たれた。

 

カトリーヌ

LP:3600→1600

 

「あっちゃあ。伏せカードは警戒してたんだけどな……ターンエンド。この時、『サイバネティック・マジシャン』の効果は終了して、『魔法のランプ』の攻撃力は元に戻る」

 

 

カトリーヌ

LP:1600

手札:0枚

場 :モンスター

   『サイバネティック・マジシャン』攻撃力2400

   『魔法のランプ』攻撃力400

   魔法・罠

    無し

 

LP:1100

手札:0枚

場 :モンスター

   『ブラック・マジシャン・ガール』攻撃力2000+300×4

   魔法・罠

    永続罠『漆黒のパワーストーン』魔力カウンター:2

 

 

「僕のターン!」

 

手札:0→1

 

「バトル! 『ブラック・マジシャン・ガール』で、『魔法のランプ』を攻撃! 黒・魔・導・爆・裂・波(ブラック・バーニング)

 自身の、同時に相手の墓地に眠る師の命さえ、力に変えた弟子の魔力。 

 それをまともに受けた小さなランプは、呆気なく、儚く、粉々に砕かれた。

 後に残ったのは、二人のマジシャン使いが、互いに最も愛した、二人のマジシャンだけだった。

 

カトリーヌ

LP:1600→0

 

 

「ありがとうございました」

「こちらこそ。君みたいな最高のマジシャン使いと決闘ができて、敗けても悔いは無いわ」

 微笑みながらメダルを渡す彼女の顔は、本人の言った通り、一切の悔いも残らず満ち足りていた。

「……なんとなく、分かりました」

「ん?」

 翔もまた、微笑みながら、彼女の顔を見上げた。

「好きな気持ちは間違いなくて、けど、そんな気持ちを感じながら迷っちゃう、そんな弱い自分が嫌だから、何となく、相手とも会っちゃいけない。そんな気がして、逃げ出して、ずっと、一人で必死になって、正しいと思える答えを探してました」

 大いに悩んで、大いに考えて、なのに何も見つからなくて……

 今もまだ、正しい答え見つけられない。それでも、答えとは違うけど、答えへの道筋として見出すことができた、一つの事実……

「僕、もう一度会ってみます。そうすれば、もしかしたら、分かるかもしれないから。どうすれば良いのか……自分が本当はどうしたいのか。それが、分かると思うから」

「……そっか」

 そんな答えを聞いて、カトリーヌも、優しい微笑みを見せた。

「じゃあ、そんな君に、魔法の言葉を送ろう」

「魔法の言葉?」

 翔と目を真っ直ぐ見据えながら、カトリーヌは、その言葉を送った。

 

「『友達は信用すべし。だが、カードだけはカットせよ』」

 

「……え?」

 それを聞いた翔は、わけが分からず声を上げていた。

 そんな翔に対して、カトリーヌは笑い掛けながら言葉を続けた。

「まあ、元々はギャンブラーの間で交わされた言葉なんだけどね」

「……それのどこが魔法の言葉なんですか?」

「これは何も、ギャンブルだけに限った話じゃないよ。信じるべき相手のことは信用しなきゃいけない。けど、自分がすべき準備や心構えは自分自身がするしか無い。この言葉はそう言ってるんだから」

「な、なるほど……」

「だから、君にはこう言う」

 そして、これから送るのが、翔にとっての、本当の魔法の言葉……

 

「『恋人は信じるべし。だが、本心だけは強く持て』」

 

「本心だけは、強く持て……」

「君の本心が何なのか、それは君自身が見つけるしかない。その本心を見つけて、君が本気で大切に思えて、信じられる気持ちなら、それはきっと、恋人にだって伝わるよ。だから君は、恋人と、君の本心を信じて、がんばって」

「……」

 その言葉に、返すことはできなかった。

 最後にカトリーヌは、翔の頭を優しくなでながら、優しい笑顔を残して、去っていった。

 

「……」

 残された翔は、足もとを見つめながら、ただ思う。

「恋人は信じるべし……だが、本心だけは、強く……」

 翔にとっての本心……

 翔が今、彼女達を思い、したいこと……

「僕は……」

 そんな本心を見つけるために……何より、彼女達に今すぐ会いたい。

 そう強く感じたから、翔は彼女らに会うために、振り返った。

 

「……」

 

「さ、斎王!?」

 

 

 

 




お疲れ~。

wiki調べてもよく分かんなかったんだけど、『サイバネティック・マジシャン』の効果の説明、合ってんのかなこれで……

ちなみにカトリーヌだけど、アニメじゃ生きてるようだが、原作じゃ奇術の事故で亡くなってるらしいんだよね。
そう考えると、たとえ夢の中であれ彼女と再会できただけ、アニメ版の『彼』にはまだ救いがあったのかな……

そんなこんなで、とりあえずオリカ。



『レッドヘカテー』
 レベル7
 闇属性 魔法使い族
 攻撃力2500 守備力2300

『イエローヘカテー』
 レベル7
 闇属性 魔法使い族
 攻撃力2500 守備力2300

『ヴァイオレットヘカテー』
 レベル7
 闇属性 魔法使い族
 攻撃力2500 守備力2300

『ゴーゴン』融合
 レベル10
 闇属性 魔法使い族
 攻撃力3000 守備力3500
 「レッドヘカテー」+「イエローヘカテー」+「ヴァイオレットヘカテー」
 自分フィールド上の上記のカードを墓地ヘ送った場合のみ、融合デッキから特殊召喚できる(「融合」魔法カードは必要としない)。 
 このカードは1度のバトルフェイズ中に3回攻撃する事ができる。


『遊☆戯☆王』15話にて、影山リサが使用。
三姉妹のステータスはアニメから、『ゴーゴン』は、攻撃力はアニメ、守備力と効果はアニメで出なかったからバンダイ版を採用。レベルと融合は独断と偏見。
生贄が無かった当時ならともかく、今じゃ重いだけなんだよなぁ。
通常モンスター、闇属性、魔法使い族って時点で色々サポートもあるろうけど、それならブラマジ使った方が早いし。
ちなみに、『ゴーゴン』はフィールドが森の時は力が高まって、戦闘では破壊されない、らしいよ。ブルーアイズ二体に負けちまったからターン1っぽいけど……



以上。
時代が時代だし通常モンスターなんだろうけど、ヘカテーはお互いが場にいれば力は倍増する、らしいよ。
いっそのこと、せっかく翔君が手に入れたことだし、思い切って効果付きに魔改造してやろうか……ファンの皆さんの怒りを買いそう?
ちなみに『ヘカテ』っていうのは魔女じゃなしに、夜と闇と魔術の女神のことだそう。
三姉妹ってわけでもなくて、三つの体を持って、三叉路や十字路に現れるって言われてるそうな。
ただ、『ゴルゴン』とはどんな関係があるかは不明。名前がヘカテなだけで、実際には『ゴルゴン三姉妹』だったのかなぁ……
それ以上のことは、頭痛がするから聞かないどくれ。

こんな感じで、次話まで待ってて。

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