遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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いえ~い。
つ~ことで、第三部は終わってないよ~。
第3部はどうか知らんが、第三部はまだまだ続くよ~。
そんなこんなで、行ってらっしゃい。



    上城の奇妙な決闘

視点:外

 

「へぇー……それで誰がこの遊城十代の代わりを務めるんだ?」

 

「なぁ!?」

 

 確かに、十代はロードローラーの下敷きになったはずだった。だが、当の十代は、ピンピンした状態でそこに立っていた。

 

十代

LP:1200

 

「ひょっとして、お前が代わりになってくれるのか? 明日香?」

 

『……』

「なぜそこで私を見るのです? 皆さん……」

 

『……』

「なに真六武衆のみんなして、わたしを見てんの……?」

 

「そんな……下敷きになったはずなのに、どうして……?」

「おれが時を止めた……それで脱出できた……」

「……!」

「なんてな。さっき、ホープ・ザ・ライトニングの攻撃の時に使えなかった罠カード『攻撃の無力化』を発動させた。それだけだ」

「十代……あなた……」

 時間停止も、いともたやすく行われるえげつない行為も、絶対に殺すという漆黒の意志も、間髪入れない最後の時間停止も、タンクローリーと思わせてのロードローラーも……

 全ての攻撃が無駄となり、手札もフィールドも、力を失ったホープ以外に、カードは残っていない。

 それでも明日香の表情は、満たされた輝きに満ちていた。

 

 

明日香

LP:1200

手札:0枚

場 :モンスター

   『No.39 希望皇ホープ』攻撃力2500

   魔法・罠

    無し

 

十代

LP:1200

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

(3部だけちょっぴり読んだことがあって助かったぜ……)

 

「俺のターン」

 そして、この場の全員が理解した。

 このターンが、この決闘のラストターンになると。

「ドロー!」

 

十代

手札:0→1

 

「魔法カード『O‐オーバーソウル』! 墓地に眠る通常モンスターのE・HERO一体を特殊召喚する。来い! 『E・HERO ネオス』!」

 

『E・HERO ネオス』

 レベル7

 攻撃力2500

 

「十代……////」

 

「このまま攻撃すれば灰になる……バトル! ネオスで、ホープに攻撃!」

 ネオスが走り出すが、オーバーレイユニットを失ったホープには、時を止める力も、そして、攻撃に耐える力すら無い。ネオスの攻撃がぶつかるまでも無く、灰となって崩れ落ちた。

「トドメだ。明日香にダイレクトアタック!」

 そして、最後の一撃は、明日香を思う者達全員の心を、その攻撃に託して……

 

「ラス・オブ・ネオス!」

 

「……」

 

明日香

LP:1200→0

 

 

「イヒヒ……イヒ……イヒ」

「ポヘェーッ イヒイヒイヒイヒ イヒヒヒヒ フヘホハホ ヒホホホ イヒヒヒヒ……」

 

 ライフがゼロとなり、その場に倒れた明日香は、なぜか顔をニヤつかせ、体をピクピクと動かしながら、やたら奇妙な声を上げていた。

 

「イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」

「そおーれ! みんな~~~~~~いっしょにカプモンやろーよおー。雷神牌も楽しいし、DEATH-Tもスリルあるよ~~~ぼくが一番だろーけどさぁー」

 

「……なんだこれ……」

 明日香の様子に、十代が思わずそう声を上げてしまった。

「敗けたのがよっぽどショックだったんだろうね。完全に正気を失ってるよ……」

「そんな……どうにかならねえのか? 吹雪さん……」

「ふぅむ……」

 吹雪は顎に手をやりつつ、明日香の前にひざまずいた。

「あー……館の場所はどこかな?」

「ゴールドカイロの娼館跡さ……フヘフフフフ……」

「斎王の決闘の秘密は?」

 

「うわあああああああああぅぅ……」

 

「うん……僕にできるのはここまでだ」

 

『なんでだ!?』

 

 全員の声が唱和し、吹雪が怯む者の、吹雪としても、苦笑するしかなかった。

「そんなこと言われたって……こんな状態になってしまった相手を戻すなんて、原作にも無かった以上、僕にどうにかできるわけないじゃないか……」

「なんだ、原作って……」

 万丈目の疑問の中、明日香は頭に手をやりながら、小さくなり、脅え、震えていた。

「梓、お前の力でなんとかならんか?」

 そんな明日香の姿を見ていられず、万丈目が梓に呼び掛けた。

「私の力?」

「そうだ。確か……そう、スパイスの力」

虎将(コショウ)です」

「そう。それだ」

 申し出に対して梓の返事は、首を横に振ることだった。

「残念ですが、私の力はヒーラーではなく、ヒーリングファクターですので……」

「そっか。じゃあ、無理か……」

「……いや、どういう意味だ!」

 ヒーロー好きな十代や、そんな言葉を教えた星華に、アズサを除いたメンバーは、一様に首を傾げていた。

「つまり、私自身の傷なら治せますが、他人の傷を治すのは不可能ということです」

「そうなのか……」

「そもそも、体の傷は治せますが、こう言った精神に負った傷を治す力などありません」

 梓が言葉を紡いでいる間にも、正気を失い脅える明日香。そんな姿に、手の施しようのないという現実に、全員が押し黙ってしまう。

 そんな空間の中で……

「……一つだけ、彼女を元に戻せる可能性に、心当たりがあります」

 そう声を出したのは、梓である。

「本当か、梓!? 明日香を元に戻せるのか?」

「断言はできません。それに……」

「それに?」

「この方法を試すには……十代さんの協力が必須です」

 十代を見ながら、真剣な表情で言う。そんな申し出に対する、十代の返事は決まっている。

「いいぜ。明日香が元に戻るかもしれないっていうなら、なんでもするぜ!」

「……ん? 今なんでもするって言ったよね?」

「おう! 明日香のためだ。なんでもやってやる!」

「……」

 そんな十代の返事を聞いた途端、梓は、満面の笑みを浮かばせた。

 かと思えば、十代の頭と、明日香の頭をわし掴んだ。

「……へ?」

「古来より、姫君の正気を取り戻すことができるものはただ一つ。それすなわち……」

「それすなわち?」

 

「運命の相手との接吻」

 

 そう宣言したと同時に、満面の笑みのまま、明日香の頭を上げ、そこに目掛けて十代の頭を押し出す。

「おいおいおいおい、待て待て待て待て!! いくらなんでもするって言ったって、いきなりこんな、ちょ……!」

 

 ズキュウウウウウウウウウウウウウウン……

 

 

「……あ、あら?」

 目を覚ますと、明日香は混乱した様子で周囲を見渡した。

「梓? 万丈目君に、十代……?」

 彼女の周囲に集まった者達。友人達に囲まれながら、明日香は、混乱を隠せない様子で彼らを見回していた。

「おおー! 元に戻ったな、明日香」

「戻った?」

 喜びの声を上げた十代が、手を伸ばす。納得できないながらも、明日香は、その手を取って立ち上がった。

「十代にみんな……一体、どうしたのよ?」

「覚えてねえのか? さっきまですっげぇ決闘してたってのに」

「決闘って、私が?」

「おう。見たことの無いモンスター出して……あれ?」

 突然、話していた十代が、そう声を上げた。

「えっと……吹雪さん、明日香、どんなデッキ使ってたっけか?」

「やだなぁ、十代君。直前のことなのに、もう忘れたのかい? 確か、えっと……」

 問われた吹雪も、万丈目や梓ら他のメンバーも、その疑問を考えた。

 だが、それを言葉にできる者は、一人もいない。

「……明日香、今、どんなデッキ持ってんだ?」

「どんなって……」

 そう問われた明日香も、いつもの決闘ディスク(・・・・・・・・・・)からデッキを取り出し見てみるが……

「いつも通り、『サイバー・エンジェル』だけど……」

(……てことは、俺はいつものデッキを使った明日香と決闘したってことか……?)

 他に合いそうな辻褄は無い。だが、納得できる答えでも無い。それでも、考え続けてもこれ以上の答えは期待できない……

「……まあ、元の明日香に戻ったなら良かったけどな」

「だから、元のってなに?」

「気にすんなって」

 いまいち納得できないながら、笑う十代の顔を見る。何かをごまかしているように見えるのは、気のせいではあるまい。

 そんな顔も気になった。だがそれ以上に、明日香は気になっていた。

(あぁ……やっぱり、癒される。十代の笑顔。ずっと見ていたい……)

 いつも見てきた、いつも心にチラついていたその笑顔。

 今までも癒される気持ちはあった。十代が他の誰かを見ていて、モヤモヤする時もあった。それでも、それがはっきり言葉になることはなかった。

 それが今日に限って、心の中とは言え、十代に対する気持ちがはっきり言葉になる。

(うん……やっぱり私、十代のこと……)

「おい、明日香?」

「……へ?」

「いつまで握ってんだ?」

「……ああ、ごめんなさい」

 恥じらいつつ、急いで十代の手を離す。ずっと握っていたことに、夢中になって気付かずにいた様子だった。

「えっと……じゃあ私、なんだか疲れちゃったし、部屋に戻るわね」

 そう言って、きびすを返し立ち去ろうとする。だが、何歩か歩いた直後、

「そうだ……はい、十代」

 ポケットをまさぐり、それを、十代へ投げ渡した。

「これ……メダル?」

「何だかよく覚えてないけど、それは十代が持つべきものだと思うから。私はこれで脱落だけど、十代は頑張ってね」

「あ……ああ!」

 納得できないながらも、勝利には違いない。

 何か言う前に去っていく明日香の背中に向かって、十代は、頷く以外に無かった。

「……」

 

「……////////」

 明日香の姿が見えなくなったところで、十代は、直前の行為を思い出した。

「兄貴……おめでとうドン」

「十代君……妹は任せた」

 真っ赤になりながら、顔を伏せる十代に対して、吹雪と剣山は、両肩に手を置きつつそう声を掛けた。

「うるせー! どうしろってんだよ俺に!!」

「どうするもこうするも、兄貴、明日香先輩に結婚申し込めって言ってたザウルス」

「受けるなんて言ってねーだろう! 決闘にも勝ったし……て言うか、あんなことした後で、明日から明日香とどんな顔して会えばいいんだー!?」

「どうもこうも、いつも通り、明日香が好きな十代君の姿で接してあげることが一番の愛情さ」

「全然意味分かんねーし!」

「今日から僕のことは、義兄(にい)さんと呼んでくれて構わないよ」

「誰が呼ぶかー! 勝手なこと言うなー!!」

 絶叫する十代に、ももえらが近づいた。

「十代……明日香様のこと嫌いなの?」

「はぁ? 嫌い、なわねーだろう……」

「じゃあ、好きなわけ?」

「それは……」

 ももえとカミューラからの、そんな質問を受け、考えた時……

 

「……////////////」

 

 再び、十代の顔が真っ赤になった。

『なら何の問題もありません。おめでとうです、十代さん!』

「黙ってろマナ! て言うか、明日香はなんにも覚えてないのに、そんなことで盛り上がっても仕方ねーだろー!!」

 

 真っ赤になり、恥じらう十代を、メンバー達がからかっていた。

 そんなメンバーを、一人、無言で見つめる者が一人。

 

 ポン……

 

 そんな万丈目の背中に、優しく手が置かれる。

「梓……」

「……」

 ただ、背中に手を当て、それ以上はしない。ただ、一緒になって、十代達を見守っている。

 そんな梓の気持ちは、万丈目にも伝わった。

「……」

 万丈目も、梓も、その左右に立つ星華とアズサも、無言のまま、盛り上がる十代達を見つめていた。

 

 

「お疲れさま~」

 決闘を終えて、廊下まで歩いてきた明日香に、あずさが労いの言葉を掛けた。

「あずさ……て、その格好なに?」

「なにって……格好なら、明日香ちゃんもだけど……」

「……あら、本当」

 明日香も、自身の服装を見て、決闘ディスク以外いつもとは違うことに気付いた。

 そんな服装を見ながら、同時に、右手が目に入る。

 ついさっきまで、十代の手を握っていた、自身の右手。それを、ジッと見つめる。

「明日香ちゃん?」

「……」

 

「フウウウウウウ~~~~~~~~……」

 

「……!?」

 突然、奇妙な息を吐いた。かと思えば、また口を動かし始めた。

「……わたしは……ついさっき……オシリスレッドの『遊城十代』っていますよね……」

「……うん、いるね」

「あいつ……床から見上げた時ですね……その『遊城十代』が、わたしに向かって伸ばしてくれた「手」……あれ……握った時……なんていうか……その……下品なんですが……フフ……」

 

「勃起……しちゃいましてね……」

 

「……」

「すぐ離してしまうのが惜しくて、しばらく握ってました……手以外も、触りたい……」

「頼めば触らせてくれるんじゃないかな? 十代くん、優しいし……」

 そう、無難な返事を返しておいた。

(あれ~? 洗脳、解けてない……?)

 そんな疑問を感じている間に、明日香はニヤついたまま、既に廊下の向こうへと歩いていっていた。

「……でもまあ、明日香ちゃんから白い力は消えてるし。だよね、シエン?」

『……ああ。今のあの子からは、何も感じねえ。元通りの彼女だ』

「そっか」

 それを聞いたあずさも、晴れ晴れとした表情を浮かべていた。

「万丈目君に、明日香ちゃんも元に戻ったことだし……わたしも、白の結社やーめた」

 元々、斎王に洗脳などされていなかった。仮に洗脳されようとしても、精霊の力を宿しているあずさに通じるはずもない。

 ただ、梓のことを守りたくて白の結社に入り、明日香や万丈目のことが心配だから、梓が元気になった後も残り続けた。

 その二人がいなくなった以上、もはやとどまる理由は無い。

 今まで自分のことを、虐めはせずとも笑っていた者達も含む、見ず知らずの美白生徒達のことまで心配してやるほど、あずさもお人好しではない。

 残った生徒達が洗脳され続けてどうなろうと、知ったことではなかった。

「……あれ? もう一人いたような……ま、いっか」

 そう結論付けつつ、白の制服を脱ぎ捨て、隠し持っていた青の制服に着替える。

 元の格好に戻りつつ、思うのは、明日香と、十代の二人だった。

(二人とも……このまま上手くいったらいいな……)

 

 お互い、まだまだ気まずさや、ぎこちなさや、様々な障害はある。

 それでも今日、二人が互いに感じている気持ちは表面化することができた。

 不器用ながら、本来の主人公とヒロインの二人は、こうして始まったのだった。

 

(……にしても、おかしいなぁ。十代君が明日香ちゃんに勝ったって分かってるのに……なんで、決闘の内容とか、明日香ちゃんの使ったカード、全然思い出せないんだろう……)

 

(……それにしても、明日香さんから頂いたこのデッキ、どうしましょう……)

『もらっちゃえばいいじゃん。ちょうど、梓好みのカード揃ってるし。梓も、そろそろデッキ、改造したいって言ってたじゃん』

「ふむ……」

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 だが、明日香や、他の者達は知らなかった。

 明日香が何度も時を加速させたことで世界が一巡し、結果、新たな世界が誕生してしまったことを。

 その世界は、時の加速は関係無しに、元より存在していたのか……

 それとも、明日香の持つイメージ、モンスターエクシーズ、それらに加え、愛しい十代の性格と好物、そして、約束の地に辿り着く前に関わったカップルの男の声を元にして、鍵となる人物を生み出したことによって、時が動き出し誕生した世界なのか……

 はたまた、元々あった、似てはいるが全く別の運命を辿る世界を元に、明日香の抱いたそれらが重なって生まれてしまった平行世界なのか……

 今となっては、それは誰にも分からない。

 ただ少なくとも、彼らが笑い合い、何も知らずに生きているこの世界の、すぐ隣か、はたまた遥か遠くか。

 そんな場所に、彼らとは全く違う世界が少なくとも二つ存在し、どちらか一つか、もしくは両方が新たに生まれ、物語が始まる……

 そのことを、明日香も、他の誰も、知ることは無かった。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:斎王

 天上院明日香。そして、平家あずさ……やはり、私の元を離れたか……

 まあいい。いなくなったのなら、新たに手駒を増やせばいいだけのことだ。

 次の手駒は……

 

 

 

 




お疲れ~。

ヒーリングファクターの対義語って、ヒーラーで合ってるやろうか?

まあ、それはともかく……

久々に……しんどかった……
でもまあ、明日香にさせたいことは大体させられたから悔いは無えや……
とりあえず、この二人の決闘はここまで。
そんで、新たな二人の始まりってぇことで。

ちなみに作中の通り、時を加速させて世界が一巡したからか、はたまた明日香が目的を遂げて、満足したからなのか……
モンスターエクシーズはデッキごと消滅して、そのこと覚えてる人はおりません。
だので、今後明日香が、また使うことは、多分無いから、そのおつもりでね。
多分……

こんな感じで、また次話に続きますじゃ。
それまで待ってて。

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