遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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いやぁ~おぉ~……

次の話いくべ~……

行ってらっしゃい。



    過去からの闇

視点:外

 

「……」

 

「はぁ……はぁ……イイ……」

 

「……」

 

「すごくイイ……すごく……あぁ……」

 

「……」

 

「そう、そのまま……そのまま、ジッとして……あっ」

 

「……」

 

「そう、それ……すごくイイ! そのまま!」

 

 カシャ カシャ カシャ カシャ

 カシャ カシャ カシャ カシャ

 

「イイよー、ああー、その角度最高よー」

「……」

「ああー、その表情イイねー! モンスターの感じ出てるわよー。もっと視線下げてみようかー」

「……」

「じゃあ、一枚脱いでみようか」

「全裸になるじゃん。てか、脱いでどうするのさ、モンスターが」

 生徒全員が出払ったレッド寮の前で、可愛い魔女っ娘のコスプレをしたショウ子ちゃんは、カメラを構えるカミューラに向かって話していた。

「やっぱダメかー……ま、いいけど。これで撮影は終わりよー」

「お疲れさまー」

『お疲れさまですー!』

 カミューラの声を合図に、見物していたももえと、魔法で背景を合成していたマナが声を上げる。そして、そんな美女三人とも、ショウ子ちゃん……翔の前に集結した。

「あんた達も、戻っておいで」

 続いてカミューラは、空に向かって声を掛ける。

 すると、カメラを持った何匹ものコウモリが、カミューラのもとへと集まった。

「さて……じゃ、早速どの写真が良いか、品定めの時間ね」

「はい!」

『はい!』

 マナとももえが、同時に満面の笑みで頷いた。

 三人の内、かなり昔の時代に生まれたカミューラがカメラの撮影係に任命されたのは、単純に三人の中で写真撮影が一番上手かったのと、コウモリという空飛ぶ(しもべ)たちを使い、様々な角度から撮影することができたからだった。

 

 そして、そんなカミューラ自身を含め多く撮られた写真の中から、ベストと思える角度の写真を選ぶのは三人で行う作業だった。

「この写真なんかどうですか? いい具合にチラリズムが……」

「見えそうで見えない……これは良いわね。上から見下ろす視線がまたエロいわ……」

『はうわ! これ、乳首が出ちゃってる……ぶふっ、これは、勿体ないけどボツですね……とりあえず、これは私の方で処分……』

「くぉら!! ズルいですよ!! 私にもよこしなさい!!」

「写真を撮ったのは私よ!! 私にこそ所有権はあるわ!!」

『角度的にどう見たってコウモリさんの写真じゃないですか!! 権利を言わないで下さい!!』

 

「……焼き増ししたら良くない?」

『それだ!!』

「……」

 そんな三人の光景を、制服に着替えたショウ子ちゃんこと、翔は、真顔な笑顔ながら、目だけを急逝させつつ眺めていた。

(……でもまあ、悪いことばかりじゃなかったんだけどね……)

 愛用のデッキに手を添えつつ、昨日の夕方のことを振り返っていた。

 

 ……

 …………

 ………………

 

「早く! 早くショウ子ガールに会わせて下サーイ!」

「……気付いていないのですか? 私を一目見て男子だと見抜いたあなたが?」

 そんな二人の会話から、話しは始まった。

「What?」

「とうの昔に、この部屋の中にショウ子ちゃんはいる。その事実が分かりませんか?」

 梓からそんなことを言われたペガサスは、改めて、部屋を見渡した。

 見渡した後も言葉の意味が理解できず、とっさに、懐にしまっていた『ショウ子ちゃん写真集』を取り出した。

 それを見ながら、再び部屋を見渡し、そしてようやく……

「ま、まさか……!」

「……どうもー」

 

 ショウ子ちゃんの正体に心底驚きつつ、それでも憧れの『アカデミアのアイドル』に出会えたことに感激していた。

 持参していた写真集にサインをねだり、翔は書いたことも無いサインを慣れない手つきで書いてやった。

 それに歓喜したペガサスに対して、せっかくだからと、ヤケになって自室から持ってきておいた、ペガサスもまだ持っていない写真集の第二弾にも同じようにサインをしてプレゼントした所、ペガサスの感激と感動は最高潮に達したようだった。

「何かお礼がしたいのデース! 欲しいカードがあれば特別にプレゼントしマース!」

「えぇ!? いや、それは……」

 最初こそ、その申し出に怯んだ翔ではあったが、そのすぐ後で、ずっと欲しかったカードがあったことを思い出した。

「えっと……じゃあ……」

 ペガサスからの申し出とは言え、それを口にすることにはかなりの抵抗があった。

 それはこの世で、ペガサスくらいしか持っていないレアカードだったからだ。

 それを何枚も要求するなど……

「お安い御用デース!」

 ペガサスはその申し出を、満面の笑顔で受け入れた。

 そして、すぐさま懐からカードの束を取り出すと、そこにある複数枚のカードを、あっさり翔に手渡してしまったのである。

「えぇー!? 良いんですか!?」

「どうか気にしないデ。全て九枚ずつ作ってありマース」

「そ、そうですか……」

 それなら心配は無いだろうと、翔は抵抗を感じつつ、早速デッキに加えることにした。

 

 その後、話題はショウ子ちゃんの今後の活動のことになり、ペガサスと、ショウ子ちゃん応援団の五人で、翔や十代らを置いてけぼりにしながら会話は弾んだ。

 写真集の第三弾では、ももえが密かに、独自にデザインしていた、完全オリジナルのモンスターをテーマにしようとしていたこと。

 そして、そのデザインを見たペガサスがそのデザインを気に入り、せっかくだからカード化しようと提案した。

 ももえは歓喜し、最初、自分達に内緒でズルいと怒っていたカミューラやマナも、最終的には喜んでいた。

 一人、急逝した目で微笑む翔を置き去りにして……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 なんやかんやあって、ペガサスがデザインをより洗練したものに変え、朝には梓の手によって夜鍋された六着のコスプレ衣装が届いた。

 そして、翔とももえが日に一回の決闘をさっさと済ませた後で、写真集第三弾の写真撮影が、レッド寮を舞台に行われていたのである。

(結局カミューラは、正式なアカデミアの職員じゃないからって、大会に出場してないんだよね……それにしても、ももえさんがデザインした『占い魔女』シリーズ。それを見た時の梓さん、何だか難しい顔してたけど、どうしたんだろう……?)

 

 そんなことを翔が考えている間も、三人は、撮影した写真を吟味していた。

 

「楽しそうねぇー」

 

 そんな様子の四人に、掛けられた声があった。透き通るような、美しい女の声だった。

 四人同時に、そちらを振り返る。三人は、誰だ、という顔を見せた。

「な……あんたは……!」

 一人だけ、そう声を上げた。そんな声を上げたのは……

「久しぶりねぇ、カミューラ。何百年ぶりかしら?」

 かなり驚いている様子のカミューラに対して、女は嬉しそうな声を出していた。

 声の通り、美しい女だった。

 輝く金色のショートヘアーと、澄んだ青い瞳、太陽に艶めく純白の肌。

 そんな顔とは対照的な、黒いゴシックスタイルの服装。頭に光るカチューシャまで黒色だった。

「カミューラ、知り合い?」

 翔の問い掛けに対して、カミューラは、答えることができずにいた。

「ティラ……『ティラ・ムーク』。何であんたがここに……?」

 驚いた顔のまま、そう声を出したカミューラに対して、ティラと呼ばれた女は、笑顔のまま答えた。

「あんたを迎えにきたのよ。同じ吸血鬼の仲間じゃない」

 話しながら、右手を上げた瞬間、どこに隠れていたのか、何羽ものコウモリが羽ばたいた。

「迎えにって……なんのために?」

「なんのためって、あんた、まさか忘れたわけじゃないでしょうね? 人間達が、私達に対して行った仕打ちの数々を」

 その言葉を受けたカミューラは、つい目を逸らしてしまっていた。

「人間よりも遥かに優れた知性と力を持っていた私達を、勝手に恐れた人間共によって、一族は根絶やしにされた。私の目の前で、私の家族も含む大勢の同胞たちが人間の手によって殺されていったわ。あんたも同じでしょう? そんな連中から逃げるために、私達は二人とも、棺の中で眠っていたってわけね」

 過去を振り返り、口に出す。それをする顔は静かながら、嫌悪と憎悪と、怒りにまみれているのが見て取れた。

 それを聞いているカミューラの顔にも、暗い影が差していた。

「私が目覚めたのは、今から数年前。そして最近になって、私以外にもう一人、吸血鬼が生きているという情報を得た。まさかそれがあんただったとは驚いたけど。これもめぐり合わせってやつかしらね……」

「……」

 嬉しそうなティラに対して、カミューラの表情は終始、歪んでいた。

「にしても……しばらく見ない間に、随分と貧弱になったものね」

「貧弱?」

「そうよ。そもそもなに? その貧層な格好は……」

 三人で集まり、写真を眺めているカミューラを指差し、そう言った。

 安物の白のワイシャツに、青色のジーパン。歩き易い運動靴。

 顔は化粧もしておらず、長い髪の毛は一本のポニーテールにまとめている。

 確かに、翔が最初に会った頃の姿に比べれば、その姿は身軽な代わりに貧層に見えた。

「おまけに人間と……人間じゃないのも一人交じってるわね? なにか分からないけど、そんな、恨みなんて抱いたことありません、なんて甘い顔した連中と戯れて。牙が抜けきってるにも程があるじゃない」

(この人、マナのことが見えて……)

「ええ。そうね」

 翔が驚いているところに、カミューラの声が聞こえた。

「確かに私の、吸血鬼としての牙はとっくに抜け落ちてるわ。私はもう、復讐なんてものに興味が無いもの」

「は?」

 終始微笑んでいた女の顔が、初めて歪んだ。

「確かに、正直今でも、昔のこと夢に見ることもあるし、それで辛い気持ちにもなる。けどそんな時にも、私のことを心配してくれて、慰めてくれる仲間がいる。そんな仲間と一緒にいる方が、人間を憎んで復讐を考えるよりよっぽど楽しいもの」

「……」

「人間に復讐したいってんなら、一人で勝手にやってれば? 別に止めはしないわよ。私は手伝わないけど……」

「そんなことが許されると思ってんの?」

 その声に、カミューラが目を向けた時……ティラ・ムークの顔は、激情に歪んでいた。

「同じ吸血鬼のくせに、よりにもよって、一族の仇なはずの人間と仲良くするなんて……見下げ果てたわね、カミューラ」

 大きく見開かれた、青くも虚ろなその目には、人間らしい光が無かった。

 そんな目にカミューラを映しながら、ゆっくりと、カミューラに向かって歩いていった。

「良いわ。そんな腑抜けに用は無い。久しぶりに会えると思ってわざわざ立ち寄ってはみたけど、こんな島すぐに出ていってやるわ。けどその前に……同じ吸血鬼として、裏切り者のあんたのこと、粛清しとかないとね」

「粛清……?」

 その言葉に、翔が反応した。その言葉の直後、ティラは背中から、鋭利に削られた木の杭を取り出した。

「必要無いと思ってたけど、こんな時のために用意しといたのよ。裏切り者、あんたはここで……」

 

「死にな!」

 

 声を出したと同時に、女の姿がコウモリの群れに変わる。

 群れはそこから飛び上がると、その一角へ広がった。

 そして、思わず逃げ出したももえやマナを尻目に、木の杭をカミューラに向けて、コウモリ達は急降下を始め……

 

「危ない!」

 

 そんなコウモリ達が襲い掛かる寸前、翔が、カミューラを押し出し、コウモリ達の前に出た。

「翔!」

 カミューラの絶叫の直後、杭を構えたコウモリの群れは、翔へと襲い掛かり……

 

「なによ、あんた……」

 

 コウモリ達は一羽残らず制止し、木の杭は、翔のすぐ目の前で停止していた。

 

「なんであんたが、カミューラを庇うわけ? 見るからにひ弱な人間のあんたが……」

 

 どこからか……おそらく目の前のコウモリ達の群れから聞こえる声に、翔は……

 

「僕は……僕の名前は丸藤翔! カミューラの……カミューラは僕の! 未来のお嫁さんだ!!」

「……!!」

 

 カミューラが目を見開き、マナとももえも、同じように驚愕した

「カミューラのこと殺すなんて僕が許さない! 殺すなら、僕を殺せ!!」

「翔!!」

 カミューラが悲鳴を上げるも、翔は、目の前の木の杭を、自らの首にあてがって見せた。

 

「……ぷっ、ぶははははははははははは!!」

 

 吹き出す声が聞こえた瞬間、コウモリ達は、再び一箇所に集まる。

 そこから、元の一人の美女が姿を現した。

「あんたがカミューラの恋人? バッカじゃないの!? ウソつくならもっともっともらしい嘘にしなさいよ……」

 そう言いつつ、カミューラを見てみる。

 翔を見つめるその顔には、単純な心配だけではない。翔のことを失う恐怖と心からの思いやり。ただの仲間でなく、紛れもない恋人に向けられた感情が、その顔には宿っている。

「……マジで?」

 聞き返しても、返事はしない。それでも、表情は変わらない。

「ふーん……そう。カミューラを腑抜けにしたのはあんたか……」

 何かに納得し、理解しながら、ティラ・ムークは握っていた木の杭を投げ捨て、代わりに決闘ディスクを取り出した。

「ちょっとあんたって男に興味が出てきたわ。あんた、今から私と決闘なさい」

「決闘?」

「そ。それであんたが勝つことができたなら、私は黙って消えてあげる。カミューラにも、一生近づかないって約束してあげるわ」

「僕が敗けたら?」

「今あんたが言った通り、カミューラの代わりに、あんたの命を貰う」

『……!!』

 ティラが宣言したタイミングで、翔の周囲を、いくつもの木の杭を向けたコウモリ達が囲んだ。

「分かった」

 三人が驚愕している間に、頷いた翔も、決闘ディスクを取り出した。

「翔、ダメよ! そいつ、私でさえ一度も勝ったことない決闘者よ」

「なら大丈夫だよ。僕だって、カミューラには勝ってるんだから」

「私だけじゃない! 決闘でそいつに勝てた決闘者なんて、吸血鬼の中には一人もいなかったんだから!」

「だったら余計に、僕が闘わなきゃ。こんな奴に、カミューラは指一本触れさせないよ」

「翔……」

 その言葉に、カミューラは震えそうなほどの嬉しさを感じた。

 だがそれ以上に感じるのは、翔の命が失われるかもしれない、そんな恐怖だった。

 

「待ってください! 翔君!!」

「翔! ダメ!!」

『翔さん!!』

 

『決闘!!』

 

 

ティラ・ムーク

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

「私の先行、ドロー」

 

ティラ・ムーク

手札:5→6

 

「まずは……『ヴァンパイア・ソーサラー』を召喚。守備表示」

 

『ヴァンパイア・ソーサラー』

 レベル4

 守備力1500

 

「これでターンエンド」

 

 

ティラ・ムーク

LP:4000

手札:5枚

場 :モンスター

   『ヴァンパイア・ソーサラー』守備力1500

   魔法・罠

    無し

 

(やっぱり、昔のカミューラと同じ、アンデット族……『ヴァンパイア』デッキ)

「僕のターン」

 

手札:5→6

 

(相手の場には、レベル4のモンスターが一体だけ。攻めるべきか……いや、まずは様子見だね)

 

「『魔導戦士 ブレイカー』を召喚」

 

『魔導戦士 ブレイカー』

 レベル4

 攻撃力1600

 

「ブレイカーの召喚に成功した時、このカードに魔力カウンターを一つ置く。魔力カウンター一つにつき、ブレイカーの攻撃力は300ポイントアップする」

 

『魔導戦士 ブレイカー』

 攻撃力1600+300

 

「更に、永続魔法『魔法族の結界』を発動。バトル! 『魔導戦士 ブレイカー』で、『ヴァンパイア・ソーサラー』を攻撃!」

 四つの球体に囲まれたフィールドで、魔導戦士は魔法の剣を振るった。

 それが、魔法使いの姿をした邪悪な吸血鬼を切り裂くが、ティラは、笑っていた。

「『ヴァンパイア・ソーサラー』のモンスター効果。この子が相手の手で墓地へ送られた時、デッキから、『ヴァンパイア』の名を持つ闇属性モンスター、もしくは魔法・罠一枚を手札に加えることができる。私はデッキから、フィールド魔法『ヴァンパイア帝国(エンパイア)』を手札に加える」

 

ティラ・ムーク

手札:5→6

 

「フィールド魔法……? 僕は二枚のカードを伏せる。ターンエンド」

 

 

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『魔導戦士 ブレイカー』攻撃力1600+300

   魔法・罠

    永続魔法『魔法族の結界』魔力カウンター:0

    セット

    セット

 

ティラ・ムーク

LP:4000

手札:6枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「私のターン。ドロー」

 

ティラ・ムーク

手札:6→7

 

「永続魔法『ミイラの呼び声』。自分の場にモンスターが無い時、手札のアンデット族モンスター一体を特殊召喚できる。来なさい『ヴァンパイア・ロード』!」

 

『ヴァンパイア・ロード』

 レベル5

 攻撃力2000

 

(カミューラも使ってたモンスター……)

「更に、墓地に眠る『ヴァンパイア・ソーサラー』を除外することで、このターンに一度、ヴァンパイアの召喚に必要な生贄を無くすことができる」

「てことは、上級モンスターを生贄無しで呼べるってこと……?」

「その通り。私は墓地のソーサラーを除外して、『カース・オブ・ヴァンパイア』を召喚!」

 

『カース・オブ・ヴァンパイア』

 レベル6

 攻撃力2000

 

「上級ヴァンパイアが二体……」

「まだよ。フィールド魔法『ヴァンパイア帝国』発動!」

 フィールド魔法がセットされた時、いつもの如く、レッド寮だったフィールドが変化した。

 午後の明るい時間だった空は夜に変わり、黒雲が漂う空には、真っ赤に輝く満月が輝いている。

 そんな月の真下の木立には、妖しい古城が建ち、その古城の麓には、古く、しかし不気味に霞掛かった石造りの町が広がっている。

 彼らはそんな、霞掛かった町中に相対していた。

「このカードが場にある限り、フィールド上のアンデット族の攻撃力は、ダメージ計算時のみ500ポイントアップする」

「てことは、戦闘の時は、攻撃力は実質2500……!」

「そういうこと。さあ、バトルよ! 『ヴァンパイア・ロード』で、『魔導戦士 ブレイカー』に攻撃! 暗黒の使徒!」

 

『ヴァンパイア・ロード』

 攻撃力2000+500

 

 自身の身を覆うマントを広げ、そこから何匹ものコウモリが飛んでいく。

 それがブレイカーの身に纏わりつき、牙を立て、破壊した。

 

LP:4000→3400

 

 魔導戦士が破壊され、翔のライフが減少したその時、翔の周囲を飛び回るコウモリが、木の杭を向ける距離を縮めた。

 

「翔! ダメよ! 今すぐ逃げなさい! 私はどうなったっていいから!」

 

「奥さんは黙って守られてて!」

 カミューラの悲鳴に対して、そう一括する。

「魔法使い族モンスターが破壊されたこの瞬間、『魔法族の結界』に魔力カウンターが一つ乗る」

 

『魔法族の結界』

 魔力カウンター:0→1

 

 そんな怒声と、変わらぬ冷静なプレイング。カミューラは怯みつつもキュンとなり、だがそれ以上の、不安と焦躁に駆られた。

「かっくいー……この瞬間、『ヴァンパイア・ロード』の効果。こいつが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、モンスター、魔法、罠の内一つを宣言する。相手は宣言された種類のカードを一枚、デッキから捨てる。私が選ぶのは、モンスターカード」

 翔は無言でデッキを取り出すと、その中から『ブラック・マジシャン』を捨てた。

「更にこの瞬間、『ヴァンパイア帝国』の効果!」

「フィールド魔法の効果……!」

「一ターンに一度、相手のデッキからカードが墓地へ送られた時、手札またはデッキの闇属性ヴァンパイアを墓地へ送ることで、フィールド上のカード一枚を選択して破壊する。私はデッキから『ヴァンパイア・グレイス』を墓地へ送り、そうね……その伏せカードを破壊するわ」

 翔の場の、伏せカードの一枚を指差す。永続罠『漆黒のパワーストーン』が破壊された。

「バトルの続き。『カース・オブ・ヴァンパイア』でダイレクトアタック! ネイルファングブロー!」

 自身の両手に伸びる爪を更に長く、鋭く伸ばし、翔の身を切り裂いた。

 

LP:3400→1400

 

「直接攻撃にダメージ計算は無いから、攻撃力は変化しないけどね」

 それでもライフが減ったことで、木の杭は余計に翔に近づいた。だが、翔に狼狽える様子は無かった。

「……罠発動『ダーク・ホライズン』! 戦闘・効果ダメージを受けた時、受けたダメージ以下の攻撃力を持つ、闇属性、魔法使い族モンスターを特殊召喚する。僕が呼び出すのは……」

 その効果を聞き、見ていたマナは、すぐに駆けつけようと立ち上がった。

 

「攻撃力2000の『魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)』!」

 

 そのカード名を聞き、走っていたマナは思わず地面を転げまわる。

 それにも構わず、翔の頭上に、赤いマントを翻す、仮面を被った魔術師が現れる。

 彼か彼女か、それが両手の指を動かした時、その指に光の糸で繋がれた、大きな剣を両手に持った操り人形(マリオネット)は立ち上がった。

 

魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)

 レベル5

 攻撃力2000

 

『翔さん……なんで私じゃないんですか?』

 

「マナを呼んだってこの状況じゃ仕様がないよ。出番が来たら呼ぶから、大人しくしてて」

 冷たい言葉にマナは落ち込むが、それも翔は無視し、ティラを睨んでいた。

「ちっ……私はカードを一枚伏せる。これでターンエンドよ」

 

 

ティラ・ムーク

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『ヴァンパイア・ロード』攻撃力2000

   『カース・オブ・ヴァンパイア』攻撃力2000

   魔法・罠

    永続魔法『ミイラの呼び声』

    セット

    フィールド魔法『ヴァンパイア帝国』

 

LP:1400

手札:2枚

場 :モンスター

   『魔法の操り人形』攻撃力2000

   魔法・罠

    永続魔法『魔法族の結界』魔力カウンター:1

 

 

「僕のターン、ドロー」

 

手札:2→3

 

「よし……『見習い魔術師』を召喚」

 

『見習い魔術師』

 レベル2

 守備力800

 

「『見習い魔術師』の召喚に成功したことで、フィールド上のカード一枚に魔力カウンターを一つ置く。対象は『魔法族の結界』」

 

『魔法族の結界』

 魔力カウンター:1→2

 

「『魔法族の結界』の効果。このカードと自分フィールドの魔法使い族モンスター、『見習い魔術師』を墓地へ送ることで、このカードに乗った魔力カウンターの数だけ、カードをドローする」

 

手札:2→4

 

(……早速使わせてもらうよ)

「……魔法カード『トゥーンのもくじ』。デッキから、『トゥーン』と名の付くカード一枚を手札に加える」

 

「『トゥーン』て……ペガサス会長しか持っていない幻のシリーズ!?」

『昨日もらってたカードですね……』

 

「このカードの効果により、デッキから二枚目の『トゥーンのもくじ』を手札に加える」

「二枚目? わざわざ同じカードなんか手札に加えて、何の意味があるのよ?」

「大有りだよ。魔法カードが発動したことで、『魔法の操り人形』に魔力カウンターを一つ乗せる。魔力カウンター一つにつき、攻撃力を200ポイントアップさせる」

 

『魔法の操り人形』魔力カウンター:0→1

 攻撃力2000+200

 

「あ、なるほど!」

 

 ももえが気付きの声を上げた中で、翔は再び手札のカードを取る。

「二枚目の『トゥーンのもくじ』。デッキから三枚目の『トゥーンのもくじ』を手札に加えて、『魔法の操り人形』に魔力カウンターを乗せる」

 

『魔法の操り人形』魔力カウンター:1→2

 攻撃力2000+200×2

 

「中々面白いコンボだけど、『トゥーンのもくじ』も残りはその一枚。何を手札に加える気か知らないけど、ここまでのようね」

「……『強欲な壺』発動。カードを二枚ドロー」

 

手札:3→5

 

『魔法の操り人形』魔力カウンター:2→3

 攻撃力2000+200×3

 

「来た……魔法カード『無欲な壺』発動。互いの墓地にあるカードを二枚選択して、持ち主のデッキに戻す。僕はこの効果で、墓地にある二枚の『トゥーンのもくじ』をデッキに戻す」

「何ですって!? て、ことは……」

「『無欲な壺』は一ターンに一度しか発動できずに、発動後、墓地へは送らずゲームから除外される。そして、『魔法の操り人形』に魔力カウンターを乗せる」

 

『魔法の操り人形』魔力カウンター:3→4

 攻撃力2000+200×4

 

「そして三枚目の『トゥーンのもくじ』! デッキから『トゥーンのもくじ』を手札に。そしてもう一度、『トゥーンのもくじ』の効果で『トゥーンのもくじ』。そして最後に、『トゥーンのもくじ』を発動して、デッキから『トゥーン・仮面魔道士』を手札に」

 

『魔法の操り人形』魔力カウンター:4→7

 攻撃力2000+200×7

 

(このコンボに気付いた時から、ずっと欲しいカードだったんだよね。似たようなことができる『精神統一』のカードは、一ターンに一度しか発動できないし、三枚目は無駄になっちゃうし……)

 

「攻撃力が3400まで上昇したか……でも、攻撃力だけ上げたところで意味は無いわよ」

「だろうね。僕は更に、魔法カード『闇の誘惑』を発動。カードを二枚ドローして、手札の闇属性モンスター一体を除外する。『トゥーン・仮面魔導士』を除外」

 

『魔法の操り人形』魔力カウンター:7→8

 攻撃力2000+200×8

 

「そしてこの瞬間、『魔法の操り人形』の効果! このカードに乗った魔力カウンターを二つ取り除くことで、フィールド上に存在するモンスター一体を破壊できる。僕はこの効果で、『カース・オブ・ヴァンパイア』を破壊。マジカルストリングベール!」

 フィールドに立つマリオネットの身から、二つの魔力が消失する。その魔力が、後ろの魔術師の両手に納まり、そこからマリオネットとは別の糸が飛び出す。

 それが、『カース・オブ・ヴァンパイア』の身に纏わり、縛りつけ、そしてその身を全て隠し、遂には押し潰してしまった。

 

『魔法の操り人形』魔力カウンター:8→6

 攻撃力2000+200×6

 

「ちぃ……魔力カウンターはまだ五つもある。その効果で『ヴァンパイア・ロード』も破壊する気?」

「そうはいかないよ。バトル! 『魔法の操り人形』で、『ヴァンパイア・ロード』を攻撃! マリオネット・スライスショー!」

 フィールドに立つマリオネットが、両手の巨大な剣を振い、剣の舞を演じた。

「ぐぅ……『ヴァンパイア帝国』の効果で、ダメージ計算時に攻撃力を500上げる!」

 

『ヴァンパイア・ロード』

 攻撃力2000+500

 

 凶暴化し、反撃を試みた『ヴァンパイア・ロード』だったが、その不気味ながらも華麗な演舞に逆らえず、細切れにされた。

 

ティラ・ムーク

LP:4000→3300

 

「『ヴァンパイア・ロード』は効果破壊で、『カース・オブ・ヴァンパイア』は戦闘破壊でそれぞれ復活の効果が発動することは分かってるよ。僕は三枚のカードを伏せて、ターンエンド」

 

 

LP:1400

手札:0枚

場 :モンスター

   『魔法の操り人形』攻撃力2000+200×6

   魔法・罠

    セット

    セット

    セット

 

ティラ・ムーク

LP:3300

手札:2枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『ミイラの呼び声』

    セット

    フィールド魔法『ヴァンパイア帝国』

 

 

「やるじゃん……私のターン!」

 

ティラ・ムーク

手札:2→3

 

「決闘の腕は認めてあげる。けどそれだけで、カミューラが惚れるもんかなぁ……私も魔法カード『強欲な壺』を発動。二枚ドロー」

 

ティラ・ムーク

手札:2→4

 

「魔法カード『生者の書-禁断の呪術-』を発動。この効果で、私の墓地の『ヴァンパイア・ロード』を特殊召喚し、あんたの墓地からは、さっきロードの効果で捨てた『ブラック・マジシャン』を除外するわ」

「させない。永続罠『リビングデッドの呼び声』! 墓地に眠るモンスター『ブラック・マジシャン』を蘇生!」

 

『ブラック・マジシャン』

 レベル7

 攻撃力2500

 

「そんな……!」

「生者の書の効果は、互いの墓地から選択したカードの内、どちらかがいなくなれば不発になる。除外の対象になった『ブラック・マジシャン』が蘇生されて墓地からいなくなったことで、蘇生効果も不発だよ」

「ちぃ……」

「更に、不発とは言え魔法カードが発動されたことで、更に一つ、マリオネットに魔力カウンターが乗るよ」

 

『魔法の操り人形』魔力カウンター:6→7

 攻撃力2000+200×7

 

「……予定が狂った。『リビングデッドの呼び声』。対象は『ヴァンパイア・ロード』」

 

『ヴァンパイア・ロード』

 レベル5

 攻撃力2000

 

「そして、こいつをゲームから除外して、『ヴァンパイア・ジェネシス』を特殊召喚!」

 

『ヴァンパイア・ジェネシス』

 レベル8

 攻撃力3000

 

「昔のカミューラの切り札……!」

「カミューラのこと知ってるなら、当然こいつの効果も知ってるわよね。私は手札から、レベル8の『闇より出でし絶望』を捨て、効果発動。墓地から『ヴァンパイア・グレイス』を特殊召喚!」

 巨大な『ヴァンパイア・ジェネシス』が咆哮を上げた瞬間、地面の底から現れたのは、冷たい白い肌ながら、豪奢なドレスに身を包んだ、正しく貴婦人(グレイス)然としたヴァンパイアの女性。

 

『ヴァンパイア・グレイス』

 レベル6

 攻撃力2000

 

「『ヴァンパイア・グレイス』の効果。一ターンに一度、モンスター、魔法、罠のうち一つを宣言し、宣言した種類のカードを相手のデッキから墓地に捨てさせる」

「自由に発動できる『ヴァンパイア・ロード』の効果ってことか……」

「私が宣言するのは、罠カード」

 翔は言われた通り、デッキからカウンター罠『対抗魔術』を捨てた。

「相手のデッキからカードが墓地へ送られたこの瞬間、『ヴァンパイア帝国』の効果! 『魔法の操り人形』を破壊!」

「させない。速攻魔法『サイクロン』! この効果で、『ヴァンパイア帝国』を破壊!」

「な……!」

 グレイスが手元の杖を振るった瞬間、発生したつむじ風が空間を揺らす。

 揺れた空間は風に反応するように、揺れ、崩れ、元いたレッド寮前に姿を戻した。

 

『魔法の操り人形』魔力カウンター:7→8

 攻撃力2000+200×8

 

「ぐぅ……」

 

(マリオネットの攻撃力は3600まで上がってる。『ヴァンパイア帝国』も消えた今、ジェネシスじゃ倒せない。となると……)

「バトルよ! 『ヴァンパイア・ジェネシス』で、『ブラック・マジシャン』を攻撃!」

 圧倒的な巨体を誇るヴァンパイアの始祖が、その拳をマジシャンに振った。

 さしもの最上級魔術師も、その単純な腕力には敵わず、砕かれてしまった。

 

LP:1400→900

 

 更にライフが減り、コウモリ達の木の杭の距離が縮む。だが、相変わらず悲鳴を上げる女子三人にも構わず、翔は冷静そのもの。

「バトルは終わり。メインフェイズ……」

 そんな翔の余裕を打ち砕いてやろうと、ティラは最後の手札を取った。

「私は『ヴァンパイア・ジェネシス』と、『ヴァンパイア・グレイス』の二体を生贄に捧げる」

「生贄召喚?」

 

「来るわよ翔! ティラのエースモンスター……究極のヴァンパイアが!」

 

 カミューラの悲鳴のもと、ティラはそのモンスターをディスクにセットした。

 

「悠久の刻、崇高なる闇より生まれし妖艶の乙女よ……純血の証たる艶牙煌めかせ、紅き月光の世界より、降臨せよ! 『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』!」

 

 最初、ももえやマナは、随分と小さいモンスターだと思った。だが、そのモンスターの姿がはっきり見えていくにつれ、その認識が誤りだということを思い知らされた。

 他のヴァンパイアと同じ、白い肌と、白い髪。背中には、透けた翼を広げている。

 そんな肌を強調するような、青い衣装と銀色の装飾。一見すれば、ただの少女だった。

 そして、そんな少女がフィールドに立った瞬間、フィールド魔法が消えたはずのフィールドは闇に包まれ、空には紅い月が輝いた。

「あれが、究極のヴァンパイア……」

 

『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』

 レベル7

 攻撃力2000

 

「『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』、効果発動」

 ティラが宣言し、ももえとマナは身構え、カミューラは、その身を震わせた。

「この子の召喚に成功した時、または自分フィールドにヴァンパイアが召喚された時発動する。相手の場の、攻撃力がこの子よりも高いモンスター一体を、この子に装備する」

 

「えぇ!?」

 

「そして、装備したモンスターの元々の攻撃力分、この子の攻撃力はアップする。しかも、モンスターを装備したこの子が墓地へ送られたら、その瞬間この子は復活するわ」

 そんな説明をする間に、ヴァンプはその紅い目に、翔の場のマリオネットを映した。

 その瞬間、マリオネットは、そして、その後ろの魔術士もまた、脱力し、ヴァンプに目を奪われていた。

「さあ、こっちへ来なさい。ヴァンプに全て、身を委ねなさい」

 そんなティラの声に、そして、ヴァンプが常に見せる妖艶に、魅せられたマリオネットたちが、フラフラとフィールドを移動する……

 

「罠発動! 『黒魔族復活の棺』!」

 

「え……?」

 翔の目の前から、黒い棺が姿を現す。

 と同時に、翔の場のマリオネット、ティラの場のヴァンプの二体が光に変わり、棺に飾られた宝石に吸い込まれた。

「相手がモンスターを召喚、特殊召喚した時、そのモンスター一体と、僕の場の魔法使い族モンスター一体を対象にして発動。その二体を墓地へ送って、自分のデッキまたは墓地から、闇属性の魔法使い族モンスターを呼び出す」

「あ、ああ……」

「僕はデッキから、二体目の『ブラック・マジシャン』を特殊召喚!」

 

『ブラック・マジシャン』

 レベル7

 攻撃力2500

 

 棺から新たに現れた最上級魔術師の姿に、ティラは、言葉を失うしかなかった。

「……ターンエンド」

 

 

ティラ・ムーク

LP:3200

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『ミイラの呼び声』

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

 

LP:900

手札:0枚

場 :モンスター

   『ブラック・マジシャン』攻撃力2500

   魔法・罠

    無し

 

 

「僕のターン!」

 

手札:0→1

 

「バトル! 『ブラック・マジシャン』でダイレクトアタック! 黒・魔・導(ブラック・マジック)!」

「うううううぅぅぅぅ……!」

 

ティラ・ムーク

LP:3300→800

 

「モンスターを裏守備表示でセット。これでターンエンド」

 

 

LP:900

手札:0枚

場 :モンスター

   『ブラック・マジシャン』攻撃力2500

    セット

   魔法・罠

    無し

 

ティラ・ムーク

LP:800

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『ミイラの呼び声』

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

 

 

「ライフが並んだ!」

『相手の場にモンスターはいない。一方、翔さんの場には最強の『ブラック・マジシャン』。勝負合いました!』

「翔……」

 

「……フフ……」

 三人の女子達が声を上げる。そんな中、ティラは、笑みをこぼしていた。

「なるほどね。カミューラが惚れるわけだわ……まさか、私の究極のヴァンパイアまであっさりかわされた挙句、ここまでライフを削られるなんて……」

 そんなことをぼやきながら、デッキに手を添える。

「やってみなきゃ分かんないもんね……でも、それもここまでね」

 

ティラ・ムーク

手札:0→1

 

「……?」

 ティラが新たに引いたカード。その正体は分からないが、それがただのカードでないことを、翔も感じ取っていた。

 

「見せてあげるわ。私の、正真正銘の最終兵器……『ゾンビマスター』召喚!」

 

(『ゾンビ・マスター』って、確か、手札を一枚捨てて、墓地からレベル4以下のアンデット族を蘇生するモンスター……召喚したところで、手札はゼロ。しかもそんなカードが最終兵器って……)

「……て、なにそのモンスター!?」

 ティラの場に現れたモンスターは、翔が記憶していたものとは、似ても似つかない姿をしていた。

 緑の装束に身を包み、皺だらけの細い両手には、右手に髑髏の杖を、左手には金の杯を握っている。

 長い白髪の頭には二股の帽子を被り、顔には、白く、目元口元を隠す長い白髭を蓄えている。

 名前を聞かなければ、仙人では、と誰もが思う風貌だった。

 

『ゾンビマスター』

 レベル4

 攻撃力500

 

「な、なんですの? あんなカード、見たことありません」

『あれは、確か……』

 

「もしかして……まだ生贄のルールも無かった、最初期に出たカード?」

「さあ……その辺のことは知らないわ。手に入れたのは偶然だったからね」

「偶然?」

 翔が聞き返すと、ティラは、遠い目になった。

 

 

 

視点:ティラ・ムーク

 私が目を覚ましたのは、今から数年前……

 棺を開いて見回すと、周りは怪物だらけだった。

 後で知ったけど、そこはどこかの遊園地の、モンスターハウス? みたいなアトラクション施設の中だったみたい。そこに飾るオブジェの一つとして、私の棺が運び込まれたんでしょうね。

 そんなことも知らないまま目を覚まして、辺りを見回してみると、作り物のモンスター達の向こうで決闘が始まってた。今みたいに決闘ディスクなんて無かった時代、普通の仮想立体映像でのテーブル決闘でね。

 一人は、もみじみたいな頭した子供。もう一人は、今にも死にそうな……いいや、むしろ、とっくの昔に死んでるはずの、眼鏡を掛けたよぼよぼの老人が、キャベツみたいな頭した少年の前で座ってた。

 二人とも、ほぼ互角の戦いを繰り広げたけど、最後には、もみじ頭の子供が勝って、老人はその場に吹っ飛んで、倒れてしまった。

 それを見たキャベツ頭は怒って帰っていったけど、もみじ頭が寄り添った時にはもう、老人は虫の息だったわ……

 

 

 

視点;外

「そして、その老人が吹っ飛んだ衝撃で、私のもとまで飛んできたカード。それが、その老人の切り札でもあった、この『ゾンビマスター』のカードだったってわけ。返そうかとも思ったけど、返す前にどこかに消えちゃって。あの様子からして、多分あの後すぐ死んでしまったのでしょうね」

「そんなことが……」

 

『もみじみたいな頭の子供に、キャベツ頭の少年……それって、やっぱり……』

 

「さあ、お喋りはお終い! 『ゾンビマスター』は死者を自由に操ることのできる、屍人の支配者。その効果を見せてあげるわ!」

 ティラが叫んだ瞬間だった。ティラの決闘ディスクにある墓地から、三枚のカードがフィールドに並ぶ。そこから、『ヴァンパイア・グレイス』、『ヴァンパイア・ジェネシス』、『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』の三体が姿を現した。

「『ゾンビマスター』の召喚に成功した時、私の墓地から、一番上にある三枚のカードを対象に、効果発動! その中のモンスターの数に応じて、ゾンビマスターは新たな能力を得る」

「能力?」

「第一の効果。モンスターが一体以上なら、モンスターの攻撃力の合計分、『ゾンビマスター』は攻撃力をアップさせる」

「なんだって!?」

 『ゾンビマスター』が杖を掲げた時、三体のヴァンパイアの形が崩れた。

 それはグニャリと形を変え、やがて『ゾンビマスター』が望んだのであろう、巨大で不気味で、そして凶悪なモンスターに姿を変えた。

 

『ゾンビマスター』

 攻撃力500+2000+5000+2000

 

「攻撃力、9500……!」

「そして、モンスターが二体以上なら、こいつは戦闘及びカード効果では破壊されない」

「うそ……!」

「まだ効果はあるわよ。バトル! 『ゾンビマスター』で、『ブラック・マジシャン』を攻撃!」

 再び『ゾンビマスター』が杖を掲げ、翔の場の黒魔術師を差す。

 それを合図に、不気味な塊となったモンスターは、不気味で素早い動きを見せた。

 その一撃が、『ブラック・マジシャン』を一撃で粉砕してしまった。

「そんな……て、あれ?」

 『ブラック・マジシャン』は破壊された。なのに、何も起こらない。そんな翔の疑問に、ティラは解説を加える。

「安心なさい。『ゾンビマスター』が相手に与える戦闘ダメージはゼロになっちゃうから」

「え……じゃあ、せっかくの攻撃力アップも意味ないじゃん」

「そんなことは無いわよ。『ゾンビマスター』で、そのセットモンスターを攻撃!」

「え……!?」

 再び不気味な塊が、今度は裏守備表示のモンスターを飲み込んだ。

「モンスターが三体いたなら、こいつは相手モンスター全てに攻撃できるのよ!」

「そんな……破壊された『聖なる魔術師(セイント・マジシャン)』の効果。墓地の魔法カード『強欲な壺』を手札に加える」

 

手札:0→1

 

「ターン終了よ」

 

 

ティラ・ムーク

LP:800

手札:0枚

場 :モンスター

   『ゾンビマスター』500+2000+5000+2000

   魔法・罠

    永続魔法『ミイラの呼び声』

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

 

LP:900

手札:1枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「さあ、どうするのかしら? 絶対に破壊できない上に、いくら防御を固めようが全部破壊する。私が新しくモンスターを召喚する前に、何とかしないと大変よぉ……」

「……」

 ティラの言葉と、周囲を舞うコウモリの群れ。彼らが向ける鋭利な木の杭。

 だが翔に、命の危険に対する恐怖は無かった。

(どうしよう……このままじゃ、カミューラが……)

 過去には敵対し、心の底から死を願いさえした。互いに互いを憎み、決闘とは言え全力で殺し合った。そして今は、互いに掛け替えのない存在となった……

(ああ、そうか……)

 そんな過去を振り返り、目の前のティラを見て、翔は気付いた。

(彼女は昔の、カミューラなんだ……)

 今更ながら、そんなことに気付いた。

(じゃあ……カミューラとの決闘の時にはあって、今の僕に無い物って……)

 勝つために、そのことを考えてみた。だが、考えたところで、思いつく物は一つしか無い。

(やっぱ、相手を心底憎んで、殺す気で掛からないと、勝てないってこと? 僕の実力じゃ、それだけしなきゃ無駄ってことなのかな……)

 そんな姿の果てにどうなるか、翔は見て、よく知っている。

 何より、カミューラの命を狙ったことはもちろん許せないが、ティラのことをそれだけ強く憎んではいない。

 ティラが憎いんじゃない。カミューラのことが大切だから、この決闘を受けた。

 それなのに……

「うぅ……」

 目の前で不気味に歪む、老人に操られた巨大なモンスター。

 見ているだけで手先が震えて、心の底から恐怖が込み上げてくる。

 戦闘は元より、効果でも、破壊することはできない……

「どうしたら……」

 

「がんばって! 翔君!!」

 

 手が止まり、目の前の光景にジッとしていた翔の耳に、そんな声が届いた。

 それは、自分がよく知る人の声。振り返った時、ももえが拳を握っていた。

 

「翔君は、そんな気持ち悪いモンスターに負ける人じゃありません! だから、諦めないで! 最後まで闘って下さい!」

 

「ももえさん……」

 拳を握り、目に涙を滲ませて、体は震えているのに、それでも、翔のことを信じ、真っ直ぐ見据えて……

「……」

 そんな目を見ていると、恐怖に震えている体の底に、僅かながら、力が湧き出た。

 それでも、目の前のモンスターは怖い……

「怖いなら、見えない方が良い……」

 翔は呟きながら、眼鏡を外した。髪を掻き分け、細めた目を上げる。

「あら、イケメン……」

 

「ドロー」

 

手札:1→2

 

「『強欲な壺』発動。カードを二枚、ドローする」

 

手札:1→3

 

「……『ジェスター・コンフィ』は、手札から表側表示で、特殊召喚できる」

 

『ジェスター・コンフィ』

 レベル1

 攻撃力0

 

「マナ!」

 

『は、はい!』

 

「『ジェスター・コンフィ』を生贄に捧げ、『ブラック・マジシャン・ガール』召喚!」

 翔がカードを掲げた時、横で見ているだけだった魔術師の娘は、彼の前へ移動した。

 主と共にあるモンスターの一柱として、何より最愛のパートナーとして、主を守り、共に闘うために、自らの戦意を、目の前の相手に向ける。

 

『ブラック・マジシャン・ガール』

 レベル6

 攻撃力2000+300×2

 

(マナ……ももえさん……カミューラ……)

 目の前に立つ、共に闘ってくれる精霊。

 自分を信じ、声を上げてくれる同級生。

 失いたくない、守りたいと思える女性。

(ああ、そうだよ……憎しみなんかより、よっぽど強い力を、僕はとっくに持ってたんじゃないか……)

 どうして忘れていたんだろう……

 けど、思い出すことができたから、もう、敗ける気はしない……

 

「そいつで守りを固めるつもり?」

 思いを馳せる翔に、水を差す声が掛けられた。

「無駄よ。どんなモンスターを呼ぼうが、攻撃力9500の『ゾンビマスター』で、すぐに葬ってあげるわ」

「葬られるのは、あなたの方だ。魔法カード『魂の解放』。互いの墓地から、カードを五枚まで選択してゲームから除外できる」

「え……」

 最終兵器を呼び出し、終始余裕を見せていたティラが、呆けたような表情になった。

「さっき言ってたよね? 『ゾンビマスター』は死者を操るって。なら、操るべき死者がいなくなったら、どうなるのかな?」

「まさか……」

 外した眼鏡を再び掛け、はっきり見えた視界の先にある、ティラの墓地を指差した。

「僕は相手の墓地から、『ヴァンパイア・グレイス』、『ヴァンパイア・ジェネシス』、『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』、あと、『カース・オブ・ヴァンパイア』、『ヴァンパイア帝国』の五枚を除外する!」

 翔が宣言した瞬間、『ゾンビマスター』の目の前で歪んでいた巨大なモンスターは、その姿を三体のヴァンパイアに分裂させた。そして、更に指定された墓地のカードと共に、天へと昇っていった。

「あ……ああ……」

 

『ゾンビマスター』

 攻撃力500

 

「ヴァンパイアの魂は解放された……今度は君だ」

「え……」

「君を倒して、カミューラを本当の意味で解放させてもらう。バトル! 『ブラック・マジシャン・ガール』で、『ゾンビマスター』に攻撃! 黒・魔・導・爆・裂・波(ブラック・バーニング)!!」

 『ブラック・マジシャン・ガール』……マナが杖を掲げ、そこに魔力が込められる。

 巨大に膨れ上がったそれが、死者の仙人に振われた。

 

ティラ・ムーク

LP:800→0

 

 

「翔!」

 ライフがゼロになり、全てのコウモリが消えたそこへ、カミューラが飛び込み、抱き着いた。

「翔、ありがとう……」

「カミューラ……」

 涙ながらに、礼を言うカミューラを、翔も抱き締めた。

 そんな二人に、ももえとマナも近づいて、カミューラに声を上げていた。

 

「やるじゃない……」

 そんな三人に、再びティラは近づく。マナとももえは分かり易く威嚇し、カミューラも、さっきまでとは裏腹に、ティラを睨みつけていた。

「こりゃあ、カミューラでなくても、大抵の女はイチコロかもね。ま、私を除いて、だけど……」

 そんなことを言った瞬間、ひざに手を着き、背の低い翔に視線を合わせた。

「なーんか、楽しかったし、満足したから復讐はやめるわ。私も、カミューラみたく、自由に生きてみることにする」

「そ、そう……」

「……ああ、大丈夫。約束通り、もう二度と、カミューラの前には現れないから。必然的に、アンタの前にもね」

「……そっか」

 そんな約束を言われて、翔は少しだけ、寂しげな顔を見せた。

 理由はどうあれ、決闘で死力を尽くしあった者同士。そんな彼女との永遠の別れを聞いて、寂しがるべきか悲しむべきか、何とも言い難い感情が心に沸いた。

「んじゃ、そういうことだから……」

「……て、おい!」

 カミューラが声を上げた瞬間には、ティラは翔の顔に手を当てて、その唇を奪っていた。

 女子三人が声を上げる間も無く翔から離れ、手を振り笑う。

「じゃね、色男。彼女達のこと、大切にしてやんなよ」

「……」

 その言葉を最後に、ティラはその姿を何匹ものコウモリに変え、飛び立っていった。

 

「おんのれぇえええ、あの女ぁぁ……!」

『よくも、翔さんの唇をぉぉぉ……!』

「……」

「ちょっと翔! まさかあんた、ティラに惚れたってんじゃないでしょうね!」

 ぼんやりしている翔に、カミューラが声を上げた時……

「……!」

 その強い視線は、カミューラを、ももえとマナを、同時に怯ませた。

「そんなわけないじゃん……あんなこと、三人以外からされたって、嬉しいわけないじゃん……」

「え?」

 ももえが聞き返したのも構わず、翔は、三人に背中を向けて、歩いていく。途中、その足を止めた。

「あのさ……」

 そして、振り返りざまに見せたのは、とても苦しげで、儚い顔だった。

 

「やっぱり……最後には、誰か一人を選ばなきゃいけない、のかな……?」

 

「え……?」

 そんな質問に、三人とも、何も返事を返すことができなかった。

「……あはは! ごめんね、変な質問して。気にしないで……あと、マナ、少しの間、一人にしてくれる?」

『……』

 マナの返事を待たず、翔は再び背中を向ける。

 背中が見えなくなるまで、翔が、三人に振り返ることはなかった。

 

 ……

 …………

 ………………

 

「おーい! 翔ー!」

 

 決闘の相手にも出会うことなく、ただ歩いている翔に、十代の声が響く。

 十代は手を振りながら、剣山を伴って翔のもとへ走った。

「兄貴……」

「どうした? なんか、元気ねーぞ?」

「何かあったザウルス?」

「……なんにもないよ。さっきも、決闘に勝ったとこだし……」

「そっかー! さすが翔だなー!」

「相変わらず強いドン」

「……ありがとう」

 

 

 そんな三人を、陰から覗く者がいた……

 

                         ゴ

                         ゴ

 

                         ゴ

               ゴ

               ゴ

               ゴ

 

(くそっ! あの右側のおん……男に、この天上院明日香の『本性』を打ち明けてやりたい…あの男にこの『心の底』を聞いてもらいたい。おまえのその細い首を、この手で締め殺してみたいってことをな………)

 

    ゴ ゴ ゴ ゴ

 

 

 十代と気軽に会話しつつ、気に掛けてもらっている翔を、明日香は、かじっている爪がヒビ割れ、血が出るのも構わず睨みつけていた。

 

(だが……まだガマンするんだ……)

 そんな三人から目を逸らし、隠れている木にもたれ掛け、デッキを取る。

(まだ真の力にも目覚めていない。次の新月が来るのを待つんだ……遊城十代め……あいつがロリショタ(無自覚)なおかげでこんな……ッ!)

 

 

 その十代が、とっくに翔や剣山と別れ、一人歩いている時だった。

「……え?」

 

 

 そして、そのすぐ後には、エドの元にも……

「斎王?」

 

 

 

 




お疲れ~。
何気にこの話書いて、初めて今のカミューラの見た目に関して全然描写してなかったことに気付いた……
そのうち適当に追加しとくよ。多分……

そんじゃらオリカ。



『ゾンビマスター』
 レベル4
 闇属性 アンデット族
 攻撃力500 守備力1500
 このカードが召喚に成功した場合、自分の墓地の一番上から3枚のカードを対象に発動する。
 この効果で対象にしたカードが墓地に存在するかぎり、対象にしたモンスターの数によって、このカードは以下の効果を得る。
 1枚以上:このカードの攻撃力は、対象にしたモンスターの攻撃力の合計分アップする。
 2枚以上:このカードは戦闘、効果では破壊されない。
 3枚  :このカードは相手モンスター全てに1回ずつ攻撃できる。
 このカードの戦闘によって相手に与える戦闘ダメージは0になる。

 『遊☆戯☆王』20話にて、大門が使用。
 最初期特有の、ご都合効果および抽象的説明を大海なりに解釈した結果こうなった。
 こんな時代から、墓地対象や全体攻撃が存在してたんだなー……
 現実にあればまず間違いなく最強の下級アタッカーだわな。
 戦闘ダメージは与えられないけど、全滅させりゃどの道別のモンスターの攻撃で直接狙えるわけだし。
 作中の墓地メタやらバウンスやらの弱点もあるが、どっち道対処が間に合わなきゃ相当にヤバいモンスターではないかと……



初代の再放送かDVD発売しないかなぁ……
どうでもいいけど、『ティラ・ムーク』って名前を長いこと『ティム・ラーク』と間違って覚えてたのって、大海だけやろうか……

そんな感じで、次話も書いてくでよー。
それまで待ってて。

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