さてさ~て、今回は、大会に戻って決闘しますら。
見てやって~。
行ってらっしゃい。
視点:外
「よりによって、決闘モンスターズの一番偉い人にばれちゃうなんて……これからどうなるのかなぁ……」
大会の中断が解除されたのは、空がオレンジ色になり始めた時間帯。
そこから、あまり期待せず対戦者を求め歩いていた時、突然梓は目の前に現れた。
いきなりどうしたのか尋ねると、シンクロモンスターの存在が、外部の人間にばれた、とのことだった。
それも、決闘モンスターズの生みの親『ペガサス・J・クロフォード』に対してだ。
「……て、わたしがどうこうできる問題でもないか。幸い、て言っていいのか分からないけど……ばれてるのは梓くんのカードだけみたいだし……」
『えー? まだ私のこと使ってくれねーのー?』
「だから使えないっての。時代を考えなさい時代を」
『ばれたなら良いじゃねえか。この際開き直って俺のことバンバン使っちまえよ』
「はいはい、その時が来たら使ってあげるから、静かにしておいて」
『はー……退屈だぁ……』
溜め息を吐くシエンを諌めつつ、今日も、対戦相手を探しに歩いていた。
「おい」
すると、進行方向から男の声が聞こえた。
赤色の強い茶髪に、ラフな服装ながらもどこかだらしなさを感じる身なり。
顔の掘りの深さもそう見せているのかもしれない。
そんな、いかにもがさつに見える男は、あずさに向かって決闘ディスクを展開した。
「決闘しようぜ。お嬢ちゃん」
「良いよー」
『決闘!』
テッド・バニアス
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
あずさ
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
「先行は俺だな。ドロー」
テッド・バニアス
手札:5→6
「……モンスターをセット。カードを三枚セット。これでターンエンドだ」
テッド・バニアス
LP:4000
手札:2枚
場 :モンスター
セット
魔法・罠
セット
セット
セット
(結構伏せたな……モンスターも伏せ状態か……)
「私のターン、ドロー」
あずさ
手札:5→6
(イロウが欲しかったけど……今は手札に無いか)
「わたしは永続魔法『六武衆の結束』と『六武の門』を発動。そして、『六武衆-ヤイチ』を召喚。『六武衆』の召喚、特殊召喚に成功したことで、二枚の永続魔法に武士道カウンターが乗る」
『六武衆-ヤイチ』
レベル3
攻撃力1300
『六武衆の結束』
武士道カウンター:0→1
『六武の門』
武士道カウンター:0→2
「フィールドに六武衆がいる時、手札の『真六武衆-キザン』を特殊召喚」
『真六武衆-キザン』
レベル4
攻撃力1800
『六武衆の結束』
武士道カウンター:1→2
『六武の門』
武士道カウンター:2→4
(わたしが使っておいてなんだけど……大丈夫? 最近過労ぎみな気がするけど……)
『気にするな……お前の役に立てるなら、私はそれが嬉しい……』
(そう? ありがと……)
「まずヤイチの効果。場にヤイチ以外の六武衆がいる時、相手の場の伏せカード一枚を破壊できる。えっと……真ん中のカードを破壊」
「ちっ……なら、破壊される前に発動しとくかな。罠発動『砂塵の大竜巻』! こいつで……よし。門の方を破壊しとくか」
「うわー……当たりだよ、まったく……」
あずさが溜め息を吐いている間に、輝く門は竜巻に吹き飛んだ。
「……まあいいや。結束の効果。このカードを墓地へ送って、武士道カウンターの数だけカードをドロー」
あずさ
手札:2→4
「バトル。キザンでセットモンスターを攻撃! 漆鎧の剣勢!」
キザンが刀を構え、セットされたモンスターに走る。刃が振り下ろされると同時に、灰色のモンスターは姿を現し、その巨大な腕で刃を受け止めた。
『
レベル4
守備力2100
「ホプロムスの守備力は2100。キザンじゃあ届かねえ。残念だったな」
「うぅ……」
あずさ
LP:4000→3700
「……バトルフェイズは終了するよ」
「ならこの瞬間、『剣闘獣ホプロムス』の効果。このカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時、こいつをデッキに戻すことで、デッキからホプロムス以外の『剣闘獣』一体を特殊召喚する」
「バトルして発動できる効果ってことか……」
「そういうこと。ホプロムスをデッキに戻し、デッキから『剣闘獣セクトル』を特殊召喚」
巨大な重装備のサイが光と変わり、同時にデッキから取り出された、トカゲのような緑色の闘士が現れた。
『剣闘獣セクトル』
レベル4
攻撃力400
「え? えらく攻撃力が低い……永続魔法『紫炎の道場』。更にカードを二枚伏せて、ターンエンド」
あずさ
LP:3700
手札:1枚
場 :モンスター
『真六武衆-キザン』攻撃力1800
『六武衆-ヤイチ』攻撃力1300
魔法・罠
永続魔法『紫炎の道場』武士道カウンター:0
セット
セット
テッド・バニアス
LP:4000
手札:2枚
場 :モンスター
『剣闘獣セクトル』攻撃力400
魔法・罠
セット
「俺のターン、ドロー」
テッド・バニアス
手札:2→3
「『剣闘獣ダリウス』を召喚」
『剣闘獣ダリウス』
レベル4
攻撃力1700
「さあいくぜ。セクトルで『六武衆-ヤイチ』を攻撃だ」
赤い鎧姿の馬が、矢を構える武将へ向かい、手に持つ鞭を振るった。
「このダメージステップ、速攻魔法『禁じられた聖槍』発動! モンスター一体の攻撃力を800ダウンして、このターン、そのモンスターはこのカード以外の魔法・罠の効果を受けなくなる」
「なに!」
鞭を振るったダリウスの頭上に、白く光る槍が現れる。それが、ダリウスの身を貫いた。
『剣闘獣ダリウス』
攻撃力1700-800
「くそっ、ダメージステップを狙われたか……」
テッドが舌打ちをする間に、振るわれた鞭を避けたヤイチは矢を構え、ダリウスを仕留めた。
テッド・バニアス
LP:4000→3600
「だが……セクトルで、『真六武衆-キザン』を攻撃!」
「えぇ? 攻撃力はキザンのが上だよ……」
「罠発動『和睦の使者』。このターン、俺のモンスターは破壊されず、戦闘ダメージもゼロとなる」
青色の修道女がセクトルの前に降り立ち、その身を光で包み込む。
と同時に、セクトルが振るった拳は、キザンの刀に受け止められた。
「バトル終了。そしてこの瞬間、セクトルの効果。剣闘獣の効果で特殊召喚されたこいつが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時、こいつをデッキに戻すことで、デッキからセクトル以外の剣闘獣を二体、特殊召喚する」
「二体!?」
その強力な効果に、あずさが絶叫し、テッドはデッキに手を伸ばした。
「さあ来な! 『剣闘獣ムルミロ』! 『剣闘獣アウグストル』!」
青色の小さな魚、そして、黒色の巨大な鳥が姿を現した。
『剣闘獣ムルミロ』
レベル3
攻撃力800
『剣闘獣アウグストル』
レベル8
攻撃力2600
「まずはムルミロの効果! こいつが剣闘獣の効果で特殊召喚された時、フィールド上の表側表示のモンスター一体を破壊する。俺はお前のヤイチを破壊するぜ!」
青色の魚が手に持つ槍を振りかぶり、ヤイチに向かって投げる。
それはヤイチの身を貫き、破壊させた。
「続いて! アウグストルの効果! こいつが剣闘獣の効果で特殊召喚された時、手札の剣闘獣一体を特殊召喚できる。来な! 『剣闘獣ベストロウリィ』!」
続いて、緑色の細身な鳥が、彼の前に現れた。
『剣闘獣ベストロウリィ』
レベル4
攻撃力1500
「こいつが剣闘獣の効果での特殊召喚に成功した時、フィールド上の魔法・罠カード一枚を破壊できる。俺が破壊するのは、『紫炎の道場』!」
「あ……!」
ベストロウリィが緑色の翼を振い、強烈な風を起こす。それが、あずさの場の永続魔法を吹き飛ばした。
「まだまだ。フィールドのベストロウリィと剣闘獣一体をデッキに戻すことでのみ、融合デッキに眠るこいつは融合召喚できる。ベストロウリィと、ムルミロをデッキに戻し、融合召喚! 来い! 『剣闘獣ガイザレス』!」
緑色の鳥と、青色の魚が空中へと消えていく。そんな空中の奥から、新たに巨大なモンスターが姿を現した。
顔の見た目はベストロウリィとよく似ていた。だが、着ている鎧も、何よりその図体は、ベストロウリィとはけた違いのサイズだった。
『剣闘獣ガイザレス』融合
レベル6
攻撃力2600
「ガイザレスの効果! こいつが特殊召喚に成功した時、フィールド上のカードを二枚まで選択して破壊できる!」
「うえええ!?」
現れて、再び振るわれる凶悪な効果。さしものあすさもそれを良しとはしなかった。
「それだけは断る! カウンター罠『
翼を広げたガイザレスの目の前に、緑色に輝く勾玉が現れ、それ以上の動作を封じた。
「わたしの場に六武衆がいる時、相手の発動した、カードを破壊する魔法、罠、モンスター効果のどれかを無効にして破壊できる。ガイザレスの効果は無効だよ!」
それと同時に、勾玉は輝きを放ち、ガイザレスを消滅させた。
「く、俺の必殺のモンスターが……俺はカードを一枚伏せる。これでターンエンドだ」
テッド・バニアス
LP:3600
手札:0枚
場 :モンスター
『剣闘獣アウグストル』攻撃力2600
魔法・罠
セット
あずさ
LP:3700
手札:1枚
場 :モンスター
『真六武衆-キザン』攻撃力1800
魔法・罠
無し
(さぁ~て、どうにかキザンだけは守ったけど……ていうか、キザンしか守れなかったんだけど……)
ライフもフィールドもお互いに似たようなものながら、モンスターの攻撃力という点で圧倒的に不利な状況。
「まあ、何とかするしかないか……わたしのターン、ドロー!」
あずさ
手札:1→2
「『強欲な壺』発動。カードを二枚ドロー」
あずさ
手札:1→3
「……よし。二枚目の『六武衆の結束』発動。そして、『真六武衆-ミズホ』召喚!」
『真六武衆-ミズホ』
レベル3
攻撃力1600
『六武衆の結束』
武士道カウンター:0→1
「ミズホが場にいることで、手札の『真六武衆-シナイ』は特殊召喚できる。場に二体の六武衆がいることで、キザンの攻撃力は300アップ!」
『真六武衆-シナイ』
レベル3
攻撃力1500
『真六武衆-キザン』
攻撃力1800+300
『六武衆の結束』
武士道カウンター:1→2
「結束を墓地へ送って、カードを二枚ドロー」
あずさ
手札:0→2
「……『真六武衆-ミズホ』の効果。フィールド上のミズホ以外の六武衆を生贄に捧げることで、フィールド上のカード一枚を破壊できる。シナイを生贄に捧げて、アウグストルを破壊!」
青色の鎧を纏った武将が光と変わり、ミズホが武器を手に走る。
その刃が、アウグストルに届こうとした瞬間……
「……え!?」
ミズホの目前に、巨大な馬車が現れた。
「ミズホの効果に対して、カウンター罠『
向かっていったミズホに対し、向かい合った戦車が走り出す。
ミズホは成すすべなく、戦車の下敷きとなった。
「うぅ……一枚伏せて、ターンエンド」
あずさ
LP:3700
手札:1枚
場 :モンスター
『真六武衆-キザン』攻撃力1800
魔法・罠
セット
テッド・バニアス
LP:3600
手札:0枚
場 :モンスター
『剣闘獣アウグストル』攻撃力2600
魔法・罠
無し
「俺のターンだ。ドロー!」
テッド・バニアス
手札:0→1
「俺も使うぜ。『強欲な壺』」
テッド・バニアス
手札:0→2
「こいつか……『レスキューキャット』召喚」
『レスキューキャット』
レベル2
攻撃力300
「こいつを墓地へ送ることで、デッキからレベル3以下の獣族二体を特殊召喚できる。俺はこいつの効果で、二体の『スレイブ・エイプ』を特殊召喚だ!」
『スレイブ・エイプ』
レベル2
攻撃力700
『スレイブ・エイプ』
レベル2
攻撃力700
「うわ……低レベルとは言え、一気に二体……シンクロで悪用できそう……」
「何か言ったか?」
「ううん! なんでもないよ!」
「そうか……バトルだ。二体の『スレイブ・エイプ』で、『真六武衆-キザン』を攻撃!」
「……て、攻撃力はこっちが上だよ!」
あずさが喚くのも聞かず、体の一部が機械でできている二体の猿は、漆黒の武将に襲い掛かるが、呆気なく返り討ちにされた。
テッド・バニアス
LP:3600→1400
「……そして、『スレイブ・エイプ』が戦闘破壊されたこの瞬間、デッキからレベル4以下の剣闘獣を特殊召喚できる」
『剣闘獣ラニスタ』
レベル4
攻撃力1800
『剣闘獣ラクエル』
レベル4
攻撃力1800
「ぬおぉ……!」
新たに緑色の鳥と、燃え盛る赤獅子に、あずさはその身を引かせた。
「バトルの続きだ! アウグストルで……」
「待ったー! 罠発動『威嚇する咆哮』! これでこれ以上攻撃はできない!」
攻撃の構えを取ったアウグストルが、その動きを止め、構えていた武器を下ろした。
「くそ、ライフ減らしちまっただけか……まあいい。バトルは終了だ。メインフェイズ」
宣言したテッドはディスクにセットされた、三体のモンスターを手に取った。
「ラクエルを含む剣闘獣三体をデッキに戻すことで、こいつは融合召喚できる」
言葉の通り、三枚のカードをデッキに戻し、代わりに、融合デッキに手を伸ばした。
「血と戦いに飢えし百獣の本能よ。支配の力をその身に宿し、全ての獣の頂点となれ」
「融合召喚! 『剣闘獣ヘラクレイノス』!」
まず目を引いたのは、人間と同じ形をした両手に構える、巨大な盾と、巨大な斧だった。
そんな巨武を握る巨雄の頭には、獅子のタテガミが逆立っていた。
背中には、緑色の輝く翼を広げ、その下には、魚類のたおやかな尾を振っていた。
人を含めた、あらゆる獣の特徴をその身に宿したその姿は、正しく最強の剣闘獣だった。
『剣闘獣ヘラクレイノス』融合
レベル8
攻撃力3000
「こいつが場にある限り、手札を一枚捨てることで、お前の発動した魔法、罠の発動を無効にして破壊できる。もっとも、一枚だけだから無効にできるのも一度だけだがな。ターンエンド」
テッド・バニアス
LP:1400
手札:1枚
場 :モンスター
『剣闘獣ヘラクレイノス』攻撃力3000
魔法・罠
無し
あずさ
LP:3700
手札:1枚
場 :モンスター
『真六武衆-キザン』攻撃力1800
魔法・罠
無し
「どうやら、このまま俺の勝ちのようだなあ!」
「……いやぁ、そうでもないよ。ドロー」
あずさ
手札:1→2
「六武衆を相手に、そんなにライフを減らしちゃったのはまずかった……」
「なに?」
「速攻魔法『六武衆の荒行』。自分の場の六武衆一体を選んで、選んだモンスターと同じ攻撃力を持つ六武衆をデッキから特殊召喚できる」
「それで新たにモンスターを呼び出そうってか? させねえよ。手札一枚を捨て、ヘラクレイノスの効果で無効!」
テッド・バニアス
手札:1→0
残り一枚の手札を捨てた時、ヘラクレイノスの右手に握られた槍が放たれる。
それがあずさの発動した速攻魔法を貫き、消滅させた。
「万策尽きたな。俺の勝ちだぜ」
「ううん。狙い通りだよ」
「……あ?」
「こっちは囮。わたしが本当に発動させたかったのは、こっち。魔法カード『増援』。デッキからレベル4以下の戦士族を一枚、手札に加える。私はデッキから、『真六武衆-エニシ』を手札に加える。レベル4の『真六武衆-エニシ』を手札に」
あずさ
手札:0→1
「そして、エニシを召喚」
『真六武衆-エニシ』
レベル4
攻撃力1700
「そんな雑魚呼び出して、どうする気だ?」
「雑魚じゃない。六武衆には雑魚なんて一人もいないよ。エニシの効果。墓地から六武衆二体をゲームから除外することで、フィールド上のモンスター一体を手札に戻せる」
「何だと!?」
「わたしは墓地から、ミズホとシナイを除外!」
あずさが墓地のカードを取り出した瞬間、エニシは刀を抜く。
それを天に掲げた時、光り輝く刀身が更に強い光を発した。
その光に飲み込まれ、ヘラクレイノスは消滅した。
「ヘラクレイノスが……最強の剣闘獣が……」
(……まあ、本当言うと、仮に『増援』の方を無効にされても勝ててたんだけどね。キザンと同じ攻撃力のザンジが呼べたし……でも、欲しがってた出番はどう? エニシ?)
『おうよ! 真六武衆はシエンやキザンだけじゃねえんだからなー! たまにでいいから俺のことも忘れるなよ!』
(たまにでいいって……出たがりなのか謙虚なのか……)
あずさが苦笑しつつ、視線を精霊から、テッドに戻した。
「バトル! 『真六武衆-エニシ』で、ダイレクトアタック!」
「どわーっ!!」
テッド・バニアス
LP:1400→0
「おつかれさまー」
「今日はこのくらいかなー」
メダルを受け取り、微笑みながらブルー女子寮へと歩き始める。
そんなあずさの耳に、それは聞こえてきた。
「……うえぇ!?」
……
…………
………………
「どけ!! 『マシンナーズ・フォートレス』で、『ハイテック・マリオネット』を攻撃!!」
「うわああぁ……!!」
シーダー・ミール
LP:1000→0
「瞬殺……俺が……すまねぇ、マスター・シェルダン……」
ひざを着きながら、ブツブツ漏らしている男には目もくれず、星華は再び歩き始める。
「もっと手応えのある相手はいないものか……」
倒した相手の弱さから、そんな独り言を呟いた時だった。
「なら、私が相手をしようか?」
通りがかった木の陰から、そんな声が聞こえてきた。
現れた男は、フードに顔を隠していた。
そんなフード付きのものと合わせ、いくつものシャツを重ね着し、その上には袖の無い白のロングコートを羽織っている。
「私なら、さっきの男よりは楽しませられると思うぜ」
丁寧語と慇懃さの混じった言葉遣いで、顔を隠すフードを取る。
そこから、先端の跳ねた長い白髪と、真っ赤に充血した鋭い目が現れた。
「お前は……!」
その特徴的な顔つきの男に、星華は声を上げた。
「私のことを知っているのか?」
「裏の世界では有名だ。百のデッキを持つ決闘者『
「……だったらどうするね……?」
「良かろう。決闘だ」
「では、あなたが敗けた場合、あなたのデッキをいただく」
「アンティルールか……」
シンクロモンスターも入っているデッキを賭ける。それで敗けてしまっては大変なことになるだろう。
だとしても……
「良かろう。だがこのデッキには、少々特別なカードも入っている。それを賭けろというなら、お前にはそのコートの下に隠れている『百のデッキ』を賭けてもらうぞ」
「お互いの等価を賭けてか……良いだろう」
『決闘!!』
真澄
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
星華
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
「いくぜお嬢さん。先行ドロー」
真澄
手札:5→6
(雑魚の『マリオネット』使いとの決闘で、貴様のデッキは大よそ把握した。貴様のデッキの
「まずは小手調べといこう。手札の『サンダー・ドラゴン』の効果。このカードを墓地へ捨てることで、デッキから二枚までの『サンダー・ドラゴン』を手札に加える」
真澄
手札:6→5→7
「そして、魔法カード『融合』! 手札に加えた二枚の『サンダー・ドラゴン』で、『双頭の
二体の龍が、真澄の頭上で円を描き、交わった時。
そんな二体の龍とは似ても似つかない、鳥のような両足と、腕も翼も無い痩せ細った桃色の肉体。
髑髏にも見える不気味な丸い頭部に、鼻の部分には太く鋭く長い角を生やした生物が、背中と顔、二つある口の牙を光らせながら地を蹴った。
『双頭の
レベル7
攻撃力2800
「……いつ見ても、ドラゴンにも双頭にも見えんな……」
「雷族だからな。何の問題も無い。私は更にモンスターをセット。カードを一枚伏せ、ターンエンド」
真澄
LP:4000
手札:2枚
場 :モンスター
『双頭の雷龍』攻撃力2800
セット
魔法・罠
セット
「私のターンだ。ドロー」
星華
手札:5→6
「……こいつは手札からレベルの合計が8以上になるよう機械族モンスターを捨てることで、手札または墓地から特殊召喚できる。手札のレベル7の『マシンナーズ・フォートレス』と、レベル1の『バスター・ショットマン』を捨て、『マシンナーズ・フォートレス』を特殊召喚」
星華
手札:6→4
『マシンナーズ・フォートレス』
レベル7
攻撃力2500
「早速エースのお出ましか……」
「続いて、『A・O・J コアデストロイ』を召喚」
『A・O・J コアデストロイ』
レベル3
攻撃力1200
「……そして、お前の場の『双頭の雷龍』を生贄に、手札のこいつを、お前の場に守備表示で特殊召喚する」
「なんだと!?」
星華が宣言しながら投げたカードを、真澄は受け取る。
その瞬間、彼の場に佇んでいた痩せ細った雷龍は、その姿を消した。
(くぅ、破壊や攻撃ならともかく、生贄では、この伏せカードの発動は間に合わん……)
表情を歪めながら、『双頭の雷龍』を墓地へ送り、そこへ代わりに受け取ったカードを守備表示でセットする。
白い布袋を担ぐ、真っ赤で鋭利な、凶悪な外見のその悪魔は、ふてぶてしく胡坐を掻いた。
『サタンクロース』
レベル6
守備力2500
「バトルだ。コアデストロイは光属性モンスターを攻撃する時、ダメージ計算を行わず破壊できる。コアデストロイで『サタンクロース』を攻撃」
コアデストロイの頭部の中心から、レーザーが発射される。
それが『サタンクロース』を貫き、破壊した。
「く……だが、『双頭の雷龍』自身も光属性。なぜわざわざこんな遠まわしな手段を……?」
「さてな。こうした方が確実だと思っただけだ」
(まさか……私の伏せたカード『融合解除』を読んだとでも言うのか……?)
「続いて、『マシンナーズ・フォートレス』で、そのセットモンスターを攻撃する」
続けて青色の要塞が、体中の機銃全てを伏せモンスターに向ける。
そこから一斉に発射された銃弾は、裏から表になり現れた、いくつもの基盤でできたモンスターを貫いた。
「……少々計算は狂ったが、この瞬間、『
「……構わんが、フォートレスが相手の効果モンスターの効果の対象にされた時、私はお前の手札を確認して一枚捨てさせる効果が発動する。さあ、手札を見せろ」
「ちっ……」
舌打ちしながらも、その言葉には従った。
『エレクトリック・ワーム』
『システム・ダウン』
「ふむ……予想通り、徹底的に機械族を対策したアンチデッキだな」
「……」
「どちらを選んでもこの状況では同じだな。とりあえず、『システム・ダウン』を選ぼう」
「……」
真澄
手札:2→1
「更に、『電磁ミノ虫』を破壊したモンスターは攻守が500ダウンさせられるのだったな」
「……どうでも良いことをよく知っているな……」
『マシンナーズ・フォートレス』
攻撃力2500-500
守備力1600-500
「カードを二枚伏せる。これでターンエンドだ」
星華
LP:4000
手札:0枚
場 :モンスター
『A・O・J コアデストロイ』攻撃力1200
魔法・罠
セット
セット
真澄
LP:4000
手札:1枚
場 :モンスター
『マシンナーズ・フォートレス』攻撃力2500-500
魔法・罠
セット
「私のターン、ドロー」
真澄
手札:1→2
「魔法カード『壺の中の魔術書』。互いのプレイヤーは、カードを三枚ドローできる」
真澄
手札:1→4
星華
手札:0→3
「もう一枚だ。『強欲な壺』。カードを二枚ドロー」
真澄
手札:3→5
「手札の『エレクトリック・ワーム』の効果! 機械族を使うなら知っているな。こいつを手札から墓地へ捨てることで、このターン、相手フィールドのドラゴン族、または機械族モンスター一体のコントロールを得ることができる。コアデストロイをもらう」
真澄
手札:5→4
真澄が手札のカードを捨てたと同時に、捨てられた墓地から電流が流れる。
その電流は巨大な網となり、星華の場のコアデストロイにまとわりつき、彼の前まで引っ張っていった。
「これで二体のモンスターが揃った。更に、『ライオウ』を通常召喚」
『ライオウ』
レベル4
攻撃力1900
「このモンスターも、お前にとっては天敵のはずだな」
「……」
「どの道、この三体の攻撃が通ればお前の敗北だ。覚悟はいいか? アカデミアの女帝」
「……」
「バトルだ! 三体のモンスターで、ダイレクトアタック!」
星華のモンスターを含む、三体のモンスターが攻撃を仕掛ける。
だが、星華は慌てることは無かった。
「カウンター罠『攻撃の無力化』。バトルは終了だ」
向かっていった三体のモンスターは動きを止め、真澄の前まで戻っていった。
「さすがに一筋縄ではいかないか。まあいいさ。だが、このままターンを終えると同時に、お前から奪ったモンスターのコントロールはお前に戻る」
「……」
「それはさすがに許容できない。魔法カード『
真澄がカードを天に掲げる。と同時に、彼らの頭上の、快晴の空一面を、真っ黒な暗雲が包み込んだ。
その雷雲の切れ目から、青白い光が雷鳴と共にいくつも光る。
そして、そこから地上へと伸びた、いくつもの稲妻が一つに集まり、そこに、巨大で、鋭利で、荘厳な、稲妻を纏った漆黒は姿を現した。
『
レベル7
攻撃力2500
「カードを伏せる。これでターンエンド」
真澄
LP:4000
手札:0枚
場 :モンスター
『大狼雷鳴』攻撃力2500
『ライオウ』攻撃力1900
魔法・罠
セット
セット
星華
LP:4000
手札:3枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
セット
「お前の反応を見る限り知っているようだが、一応教えてやる。『ライオウ』が場にある限り、私達はドロー以外でカードを手札に加えることはできなくなる。そして、こいつを墓地へ送ることで、相手のモンスターの特殊召喚を無効にし破壊することができる」
「……」
「確か、お前はモンスターを召喚することでのリクルートも戦術の一つだったはずだ。手札は増えたが、それも封じられた。さあ、特殊召喚も封じられたこの状況で、打つ手はあるか?」
「……ドロー」
星華
手札:3→4
「……どうやら、お前は私のデッキの一側面しか見ることができなかったようだな。経験から来る余裕なのだろうが、どうせ対策できるだろうと、迂闊に私の手札まで増やしたのがアダとなった」
「なに?」
「お前と同じことをする。お前の場の、二体のモンスターを生贄に、『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム』を特殊召喚」
「なっ!?」
再び星華がカードを投げ、真澄がそれを受け取りながら声を上げた瞬間、二体の雷族モンスターは、巨大で真っ赤に燃える手に握り潰されていた。
モンスターを握りつぶしたその魔神は、姿を現すと共に、首に下げた檻に真澄を閉じ込め、その身に灼熱の高温を浴びせた。
『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム』
レベル8
攻撃力3000
「私のモンスターを生贄に、機械族でなく、悪魔族モンスターを特殊召喚だと……!」
「なにを驚く? 一ターン目からやっていたことだ。私のデッキを対策しているなら、当然分かっていたことだろう?」
「くぅ……!」
「だが、お前に攻撃力3000のモンスターを渡しておくわけにもいかん。私は更に魔法カード『所有者の刻印』を発動。全てのモンスターのコントロールは本来の持ち主に戻る」
「なぁっ!!」
魔法の発動と共に、檻に閉じ込められていた真澄は外に放り出される。
直後、思い出したかのように星華の後ろへ走り、その顔を近づける。星華がその顔に手を添えると、小動物のように甘え始めた。
「こいつを特殊召喚したターン、通常召喚は行えない。バトルだ。ラヴァ・ゴーレムで、ダイレクトアタック。ええっと……城之内ファイヤー!」
巨大な魔神の無機質な口に、真っ赤な灼熱が溜まる。それが真澄目掛け、一気に放出された。
「まだだ! 永続罠『リビングデッドの呼び声』!」
カードを発動させ、真澄は墓地のカードを天に掲げた。
「私の
『大狼雷鳴』
レベル7
攻撃力2500
「この瞬間! 『大狼雷鳴』の効果! このカードが墓地から特殊召喚に成功した時、そのターンのバトルフェイズを破棄する代わりに、相手フィールドに存在する表側表示のモンスター全てを破壊する! やれ! 『大狼雷鳴』!」
復活した『大狼雷鳴』が、高らかに咆哮する。
全身から稲妻が溢れ、荒ぶり、広がり、それが星華の場を覆い尽くす。
「雷豪轟来!!」
その稲妻が、ラヴァ・ゴーレムを飲み込んだ。
「……罠発動『ゲットライド!』」
星華がカードを発動させる。その瞬間、墓地から一体の機械が飛び出した。
「墓地のユニオンモンスター一体を、フィールドのモンスターに装備できる。『バスター・ショットマン』をラヴァ・ゴーレムに装備。攻守を500下げる」
人型だった機械が、巨大な銃に姿を変える。それが魔神の手に握られた。
『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム』
攻撃力3000-500
守備力2500-500
その直後、星華の場を包んでいた稲妻が、その銃へ集まった。
「装備モンスターが破壊される時、ユニオンモンスターを身代りにできる」
「なん……だと……」
真澄が絶句している間に、巨大な魔神を破壊するはずだった巨大な稲妻は、直前の光景が嘘のように小さくなり、魔神よりも遥かに小さな銃を破壊することしかできなくなった。
『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム』
攻撃力3000
守備力2500
「こんな……バカな……」
「バトル再開だ。ラヴァ・ゴーレムで、『大狼雷鳴』を攻撃。ゴーレム・ボルケーノ!」
溶岩魔神本来の攻撃名を叫び、口から再び火の球が飛び出す。
それが、漆黒の狼を燃やし尽くした。
真澄
LP:4000→3500
「ターンエンド」
星華
LP:4000
手札:2枚
場 :モンスター
『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム』攻撃力3000
魔法・罠
無し
真澄
LP:3500
手札:0枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
セット
「あ……ああ……」
自身を見下ろす魔神を前に、真澄は言葉を失っていた。
「さあ、お前のターンだ」
「……」
「お前がカード達に愛されて、本気で私に勝とうとしているなら、そのデッキはお前に応えるだろうな。たとえ、他人から奪ったカードで作り上げたデッキだとしても……さあ、カードを引け」
「……」
真澄
手札:0→1
「……くぅ……!」
引いたカードを見て、そのまま目を固く閉じる。
無言の敗北宣言だった。
真澄
LP:3500
手札:1枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
セット
星華
LP:4000
手札:2枚
場 :モンスター
『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム』攻撃力3000
魔法・罠
無し
「お前の目、くすんでいるな。私のターン」
星華
手札:2→3
「この瞬間、ラヴァ・ゴーレムの効果で私は1000ポイントのダメージを受ける」
溶岩魔神の体が熔けだし、流れ出たマグマが星華の身に滴り落ちる。
星華
LP:4000→3000
だが、それに星華が動じることは無く、手札のカードを取った。
「『ジェネクス・コントローラー』召喚」
『ジェネクス・コントローラー』チューナー
レベル3
攻撃力1400
「お前では、私を倒すことは無理なようだ。バトル! 二体のモンスターで、ダイレクトアタック」
真澄
LP:3500→0
「……」
ひざを着き、項垂れる真澄に近づき、星華は手を伸ばす。
「約束通り、お前の『百のデッキ』はもらうぞ」
「……」
真澄は上半身を持ち上げ、脱いだ白のコートを差し出す。その裏側には、いくつものデッキが収まっていた。
「うむ……」
それに、手を伸ばした。だが、すぐその手を引っ込め、背を向けた。
(アンティルールでデッキを奪ったと梓が聞いたら、嫌いにはならんかもしれんが、きっと悲しむだろう。そんなことはしたくない)
「……」
一人残された真澄は、溶岩魔神の攻撃を思い出しながら、呟いていた。
「……日焼けサロンにでも行くか……決闘者やめて宝石商始めようかな……」
「今回も、相手の魔法で手札が増えなければ危なかった……だが、まあいい。今日はこのくらいか」
言いながら、その足をホワイト寮へと向ける。
(途中で大会が中断したり、あのペガサスにシンクロの存在がばれたりとアクシデントはあったが、それでも、それなりにメダルは集まった……梓は今日は、なにをしてくれる?////)
昨夜の梓との入浴を思い出し、またいかがわしい妄想にふけりながら、鼻の下を伸ばし歩いていく。
そんな星華の耳に、それは聞こえてきた。
『生徒の呼び出しを致します。えー……『ショウ子ちゃん応援団』及び、ショウ子ちゃんは、今すぐ校長室へ来て下さい。繰り返します……』
「……なんだと!?」
再び聞こえた鮫島校長の声に、星華は表情が元に戻るほど驚愕した。
「校長室……まさか、シンクロのことでペガサスに呼び出された? いや、それなら浜口ももえや丸藤翔まで呼び出す理由は無い……一体、何が目的だ……?」
……
…………
………………
「うわあああああああああああ!?」
放送のしばらく後で、校長室から響いた声だった。
お疲れ~。
ARC-V見てて、こりゃあいよいよ『三頭の雷龍』が来るんじゃあねーかと期待してたのって大海だけかしら……
まいーや。オリカ行こうオリカ。
『ハイテック・マリオネット』
レベル不明
属性不明 種族不明
攻撃力不明 守備力不明
遊戯王Rにて、シーダー・ミールが使用。
本人が登場と共に瞬殺されて本編での出番なし。
ただ、描きおろしのデザイン見た限り、中々無機質で格好良さげだから、いつしかOCG化したりしねえかなぁ。
コズミック・ブレイザーがなったんだから、こいつにもワンチャン……
つ~わけで、校長室の様子は次話でやるから。
それまで待ってて。