四話目いくでよ~。
まだ一日目だからな~。
そんじゃ、行ってらっしゃい。
視点:あずさ
地面に生い茂る草……
香ってくる緑の香り……
背の高い木々の森……
木々の隙間から見えるオレンジ色の空と、そこから漏れる赤い木漏れ日……
「いやぁ~……森の中でのんびりするのも、たまにはいいよねぇ~。みんなもそう思わない?」
そう、真六武衆達に話しかけてみたんだけど、六人とも顔をしかめてた。
『……まあ、確かに気持ちがいいわな』
『時々聞こえてくる鳥の声も耳に心地良いし……』
『遠くからは水の音も聞こえてくる……』
『天気は良いし、気温も丁度いいから、昼寝にはもってこいかもな……』
『……そう……悪くない……』
『……ここが檻の中でなければ、何も悪いことはない……』
キザンが最後にそう言って、わたしも今の状況を振り返った。
ホワイト寮の男子三人倒して、その後で外部の人を倒した後も、どんどん決闘しようと思って相手を探してたんだけど、みんなわたしの実力を知ってるもんで、誰も相手にしてもらえず、夕方になったところで今日はもう無理かなって思って、一休みしようかと森の中に入った。
それで、入口からちょっと入ったところに、カードが落ちてた。
「へー。罠カード『ブービートラップ』かぁ……」
で、そのカードの効果を読もうと思った、次の瞬間……
『上から突然、手作り感に溢れた木製の檻が降ってきて、まんま閉じ込められたと……』
最後はシエンが説明してくれた。
確かに手作りみたいだけど、結構頑丈に作られてる。で、出入口っぽい場所には、普通の金属製の鎖が錠前で繋がれてる。
普通の人は出られそうにないよ、これ……
「誰のいたずら……? まさか、またわたしが嫌いな人達とか?」
……て、今更残ってる連中でわざわざこんな手の込んだことするようなのはいないよね。
そう思った、その時……
「ケッケケケケ」
森の奥から、そんな笑い声が聞こえてきた。
「こんな森の中にまで入ってくる奴がいるなんて思わなかったぜ」
そっちを見てみると、左右に尖ってる変な髪形で、ちょっとサイズが大きめな服を着た、わたしより小さな男の子がいた。
「あのダンナのチンケな罠にハマる奴なんて、大したことなさそうだな」
「む……」
突然現れたかと思ったら、一方的にそんなことを言ってる。
「アカデミア行きの船に乗り遅れちまった時はもう戦えないと思ったぜ。けど実際、会ってみりゃ相手は弱っちそうなガキンチョだし、まだオレにも運があったんだなぁ……」
そう言う男の子は、ポケットから小さな鍵を取り出してみせた。
「そこから出たけりゃ、俺との決闘を受けるんだな。受けると言えば、鍵を開けてやるよ」
自分の目の前に鍵をかざして、プラプラさせてる……
「……いや、いいよ。普通に出るから」
そう言いながら、わたしは目の前で格子になってる木を、普通に広げて出て行った。
「ゲゲ!? マジかよ!? いくら手作りって言っても頑丈にできてんだぞ!?」
甘いなぁ。わたしを閉じ込めたいなら、核シェルターにでも連れていきなさいっての。それでも普通に出られる自信あるけど。
「安心しなよ。逃げないから。要するに、決闘したいんだよね?」
決闘ディスクを構えながら言ってやると、男の子も動揺しながらディスクを構えた。
「ケッ! やってやるぜ。オレの名は『クラマス・オースラー』だ。さあ、やるぜ!」
『決闘!!』
クラマス・オースラー
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
あずさ
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
「オレのターン!」
クラマス・オースラー
手札:5→6
「ケケケ! いきなり良いカードを引いたぞ! ついてる。オレはついてる!」
「『アリジゴク』召喚!」
「……ん?」
確かに、召喚って言ったのに、彼の前にモンスターは出てこない。
「……ねえ、君今、モンスターを召喚したんだよね」
「ケケケ! ああ。確かに召喚したぜ。これで良いんだよ」
「……ああ、そう……」
「更にカードを一枚伏せるぜ。ターンエンド!」
クラマス・オースラー
LP:4000
手札:4枚
場 :モンスター
『アリジゴク』
魔法・罠
セット
モンスターは召喚されてるのか……
「わたしのターン」
あずさ
手札:5→6
……どんなモンスターか分からない以上、迂闊に展開するのはまずいかな……
「……永続魔法『六武衆の結束』発動。更に、『六武衆-ザンジ』を通常召喚」
『六武衆-ザンジ』
レベル4
攻撃力1800
「六武衆が召喚、特殊召喚されたこの瞬間、結束に一つ武士道カウンターが乗る」
『六武衆の結束』
武士道カウンター:0→1
「自分の場に六武衆がいる時、手札の『真六武衆-キザン』は特殊召喚できる」
『真六武衆-キザン』
レベル4
攻撃力1800
『六武衆の結束』
武士道カウンター:1→2
「結束の更なる効果。このカードを墓地へ送って、最大二つまで乗せられる武士道カウンターの数だけカードをドロー」
あずさ
手札:3→5
「バトル。『六武衆-ザンジ』で、えっと……『アリジゴク』を攻撃!」
何がいるのか分からないから、とりあえず彼の言ってたモンスターの名前を言ってみたけど、そんな曖昧な攻撃宣言にも、ザンジは忠実に従ってくれた。
男の子のいる方へ向かって、光る薙刀を構えながら走って……
「……えっ!?」
その瞬間、ザンジが突然姿を消した。
「……て、なにこの穴!? ザンジが滑り落ちてく!」
突然フィールドに、でっかい穴が現れた。その中は底なしの流砂になってて、そこに腰まで嵌まってるザンジがどんどん沈んでいく。
そんな流砂の中心を見てみると、
「なにかいる……!」
「こいつがアリジゴクだー!!」
いきなり叫んだと思ったら、そこから現れた、大っきな顎を持った虫が、ザンジに噛みついて姿を見せた。
『アリジゴク』
レベル4
攻撃力1500
『六武衆-ザンジ』
攻撃力1800-500
「アリジゴクに攻撃したモンスターは攻撃力が500下がるんだ。迂闊にアリジゴクの領域に踏み込むと痛い目見るぞ!」
そんな説明をしてくれてる間に、顎に挟まれたザンジは、腰から真っ二つに割れちゃった。
「うぅ……!」
あずさ
LP:4000→3800
「残った奴の攻撃力も1800。攻撃したら餌食にしてやるぜ!」
「……じゃあ、ザンジのモンスター効果」
「は?」
そこで、やっと異変に気付いたみたい。
男の子が『アリジゴク』を見た時、アリジゴクのお腹を、ザンジの薙刀が貫いてた。
「なぁ! どういうことだ!?」
「わたしの場にザンジ以外の六武衆がいる時、ザンジが攻撃したモンスターをダメージステップ終了時に破壊できる。まあ、ダメージは受けちゃうんだけど」
「んなぁ! き、汚ねえぞ! 確かに『アリジゴク』が勝ってたのに!」
「汚いって……こういう効果なんだからさ。てことで、残ったキザンで直接攻撃!」
ザンジが刀を構えて、彼に向かって走っていく。
「ケケケ……罠発動『サンダー・ブレイク』! 手札一枚を捨て、フィールドのカード一枚を破壊する! 対象は当然、その侍だ!」
クラマス・オースラー
手札:4→3
「うぅ……!」
彼の掲げた手札一枚が雷に変わって、それがキザンの頭の上から降ってくる。
それが、キザンを蒸発させちゃった。
「……カードを二枚伏せて、ターンエンド」
あずさ
LP:3800
手札:3枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
セット
セット
クラマス・オースラー
LP:4000
手札:3枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
無し
「オレのターン!」
クラマス・オースラー
手札:3→4
(ケケケ……きてるきてる)
「オレは『ワームドレイク』を召喚!」
『ワームドレイク』
レベル4
攻撃力1400
「更に、魔法カード『孵化』! こいつで『ワームドレイク』を生贄に捧げ、デッキからレベルが一つ高い昆虫を特殊召喚するぜ! レベル5の『ミレニアム・スコーピオン』特殊召喚!」
『ミレニアム・スコーピオン』
レベル5
攻撃力2000
「更に、魔法カード『死者蘇生』! こいつで墓地から、『サンダー・ブレイク』の効果で捨てた『
『
レベル8
攻撃力2800
昆虫族デッキか……
あれ? 『ワームドレイク』って昆虫族だっけ……?
「ケケケ、バトルだ! 二体のモンスターで攻撃!」
二体のモンスターの攻撃力の合計は4800。
普通に受けたらひとたまりもない……
「カウンター罠『攻撃の無力化』。攻撃を無効にして、バトルフェイズを終了するよ」
カードを発動させると、二体の虫は動きを止めて、戻っていった。
「ちぃ……仕方ない。ならメインフェイズで、装備魔法『
『ミレニアム・スコーピオン』
攻撃力2000+700
エジプトっぽい見た目の蠍の背中に、大っきな大砲が着いたけど……
あの装備魔法って、読み方ああだっけ……?
「ターンエンドだ!」
クラマス・オースラー
LP:4000
手札:0枚
場 :モンスター
『鉄鋼装甲虫』攻撃力2800
『ミレニアム・スコーピオン』攻撃力2000+700
魔法・罠
装備魔法『火器付機甲鎧』
あずさ
LP:3800
手札:3枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
セット
二体の攻撃力はほぼ同じ。単純に攻め込むのは難しくなったわけか。
「わたしのターン」
あずさ
手札:3→4
「……永続魔法『六武の門』発動。更に、『真六武衆-カゲキ』を召喚。カゲキの召喚に成功した瞬間、手札のレベル4以下の六武衆を特殊召喚できる。『真六武衆-エニシ』を特殊召喚。場にカゲキ以外の六武衆がいる時、カゲキの攻撃力は1500アップ。更に、六武衆が召喚、特殊召喚される度、『六武の門』に武士道カウンターが二つ乗る」
『真六武衆-カゲキ』
レベル3
攻撃力200+1500
『真六武衆-エニシ』
レベル4
攻撃力1700
『六武の門』
武士道カウンター:0→2→4
「ここで、罠発動『諸刃の活人剣術』! 墓地にいる六武衆二体を攻撃表示で特殊召喚できる。『六武衆-ザンジ』、『真六武衆-キザン』の二体を特殊召喚。この時、場に二体以上の六武衆がいることで、エニシとキザンは攻撃力がアップする」
『六武衆-ザンジ』
レベル4
攻撃力1800
『真六武衆-キザン』
レベル4
攻撃力1800+300
『真六武衆-エニシ』
攻撃力1700+500
『六武の門』
武士道カウンター:4→6
「いきなり二体が特殊召喚だとぉ!?」
「けど、この効果で特殊召喚されたモンスターはターンエンドしたら破壊されるうえに、わたしは特殊召喚した二体のモンスターの攻撃力分、ライフダメージを受けるんだけどね」
「な……なんだよそれ。第一、いくら並べたって、オレの場のモンスターには敵わねえじゃねーか」
「それが敵うんだなー」
「なに?」
「わたしは二体の六武衆、ザンジとキザンを生贄に、速攻魔法『六武ノ書』発動! デッキから、『大将軍 紫炎』を特殊召喚!」
『大将軍 紫炎』
レベル7
攻撃力2500
『真六武衆-エニシ』
攻撃力1700
「……ちっ、上級モンスターを呼んだか……」
「しかも、特殊召喚したモンスターが二体とも墓地に置かれたから、わたしへのダメージも無くなったしね」
「……だが! そいつでもオレのモンスターには敵わない!」
「敵わないなら、戦わなきゃいいんだよ」
「は?」
「エニシの効果発動。自分の場にエニシ以外の六武衆がいる時、墓地から二体の六武衆を除外して、フィールド上の表側表示のモンスター一体を手札に戻せる。墓地のザンジとキザンを除外。『鉄鋼装甲虫』を手札に」
エニシが刀を掲げて、その刃が光りを発した。
その瞬間、彼の場のでっかい虫は姿を消した。
クラマス・オースラー
手札:0→1
「くぅ……だが! 残った『ミレニアム・スコーピオン』の攻撃力は、装備魔法を着けて2700にまで上がってるんだぞ!」
「ここで、『六武の門』の第一の効果。このカードに乗ってる武士道カウンターを二つ取り除くごとに、六武衆か紫炎の名前を持つモンスターの攻撃力を500アップさせる。わたしはこの効果を三回使って、紫炎の攻撃力を1500アップ」
『大将軍 紫炎』
攻撃力2500+500×3
「攻撃力4000だと!?」
「バトル! 『大将軍 紫炎』で『ミレニアム・スコーピオン』を攻撃! 獄炎・紫の太刀!」
紫炎が燃える刀を振るって走る。
それに向かって、蠍は背中の大砲を撃ってきたけど、その砲弾を真っ二つに斬って、そのまま突撃。
蠍は真っ二つに斬られて、そのまま燃えて破壊された。
クラマス・オースラー
LP:4000→2700
「とどめ! エニシとカゲキの二体で、ダイレクトアタック!」
「うわー!!」
クラマス・オースラー
LP:2700→0
(一人目と比べてだいぶ弱かったな……)
……なんて、ちょっと失礼なこと考えてる間に、彼は思いっきりひざを着いてうなだれてた。
「そ、そんな……初戦敗退……ちくしょう。ここに来る前に、日本一のラッキーガイと呼ばれる『リューイチ・フワ』に会って祈願までしたのに……」
「うわー……懐かしいな、『
ちょっと前に、『あの人は今……』で見たっけ?
天賦の強運っていうのでパチプロになって生活には困ってないって話しだけど……
今もギャンブルだけで生計立ててんのかな……?
そんなことを考えながら、彼からメダルを受け取って別れた。
さて、ちょうど陽も沈んじゃったし、今日はもう帰ろっかな。
……
…………
………………
視点:星華
「私は『カーク・ディクソン』であります」
夕方になり、今日のところは頃合いだと帰ろうかと思った時だった。
目の前に軍服を着た、眼鏡を掛けた長身の男が現れた。
「決闘アカデミアの生徒ですね。私との決闘、ぜひ受けて頂きたいのであります」
「……そう思うのなら、まずはその口笛を止めろ。学生相手でもさすがに失礼だ」
「……口笛?」
私が指摘すると、男は疑問を顔に出した。
「口笛など、吹いていませんが……」
「いやいや。吹いていませんが、ピュ……」
「……吹いていませんよ」
「吹いていませんよ、ピュー」
「……吹いてなどいません!」
「吹いてな、ビュー!」
「……しつこいですね。吹いていないと言っているでしょう」
「……? 吹いていない?」
「見れば分かるでしょう!」
「……すまん。一度吹いてみてくれ」
「ヒュー」
「やめろ」
「……」
「一緒だ!!」
「うるさいです!!」
「おかしいと思ったらただ唇が厚いだけか」
「唇のことを言うのはやめなさい!」
ふむ……私も日に日に、梓に毒されてきたか……
「まあどうでも良い。決闘をするというなら受けて立とう。かかってこい、唇」
「私はカーク・ディクソンであります! 唇と呼ぶのはやめなさい!」
怒鳴りつつも、しっかり決闘ディスクを構えた。
『決闘!!』
星華
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
カーク・ディクソン
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
「先行は私か。ドロー」
星華
手札:5→6
この手札は……よし。
「『A・ジェネクス・ソリッド』を召喚」
『A・ジェネクス・ソリッド』
レベル2
攻撃力500
私の前に、三頭身ほどの青い機械人間が立った。
「更に魔法カード『機械複製術』。こいつで攻撃力500の『A・ジェネクス・ソリッド』を、更に二体、デッキから特殊召喚する」
『A・ジェネクス・ソリッド』
レベル2
攻撃力500
『A・ジェネクス・ソリッド』
レベル2
攻撃力500
「攻撃力500の機械を攻撃表示で並べるなど、一体なんのために?」
「慌てるな。更に魔法カード『エレメント・チェンジ』。こいつでこのターンの間、フィールド上のモンスターの属性を私が指定したものに統一する。宣言は水属性。三体のソリッドの属性を、闇から水属性へ変更する」
「属性を変える? なんのために?」
「ここでソリッドの効果。こいつは一ターンに一度、フィールドの水属性の『ジェネクス』を墓地へ送ることで、カードを二枚ドローする効果を持つ。そしてそれは、自身を対象にすることも可能だ」
「ということは、まさか……」
「私は三体のソリッドを墓地へ送り、カードを六枚ドローする」
星華
手札:3→9
「六枚!? そんなに手札を……!」
「私はカードを三枚伏せる。ターンエンド」
星華
LP:4000
手札:6枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
セット
セット
セット
「……少々驚きましたが、フィールドにモンスターも無い状態でターンエンドとは。では、このまま決着を着けさせていただきましょう。私のターン」
カーク・ディクソン
手札;5→6
「私は『マシンナーズ・ソルジャー』を召喚」
『マシンナーズ・ソルジャー』
レベル4
攻撃力1600
「『マシンナーズ・ソルジャー』……」
「『マシンナーズ・ソルジャー』の効果。自分フィールドにモンスターが無い時にこのカードの召喚に成功した時、手札の『マシンナーズ』一体を特殊召喚できます。『マシンナーズ・スナイパー』を特殊召喚します」
『マシンナーズ・スナイパー』
レベル4
攻撃力1800
マシンナーズか……懐かしいカード達だな。
「更に魔法カード『
『マシンナーズ・ディフェンダー』
レベル4
攻撃力1200
この三体は……おいおい、まさか……
「更に速攻魔法『速攻召喚』! 手札のモンスター一体を通常召喚いたします。さあ、最強の機甲部隊の編成です! 『督戦官コヴィントン』を召喚!」
『督戦官コヴィントン』
レベル4
攻撃力1000
おいおい、正気か……
「コヴィントンの指揮のもと、マシンナーズ連携合体!」
唇が叫び、コヴィントンが手を上げた瞬間、三体のマシンナーズ達はその形を変えた。
それぞれが各パーツに分離し、それが組み合わさり、やがて巨大な一つとなる。
「攻撃力、守備力は各モンスターの和! これぞ最強合体『マシンナーズ・フォース』!」
『マシンナーズ・フォース』
レベル10
攻撃力4600
「……凄まじいな……」
「そうでしょう。この巨大なモンスターの前では、どんな決闘者も決闘を捨てるしか……」
「出し辛い割に攻撃力以外の魅力は無い。おまけに攻撃には1000ポイントのライフコストを要する。そんなデカいだけのモンスターを、手札全てを使い切ってまで特殊召喚しようとは。大した物好きだな、お前は」
「……」
正直に感想を述べたのだが、唇はなぜか下を向き、デカい唇をワナワナと震わせていた。
「……ならば、そのデカいだけのモンスターの攻撃に沈みなさい! 『マシンナーズ・フォース』の攻撃!」
カーク・ディクソン
LP:4000→3000
「マシンナックル!」
『マシンナーズ・フォース』の腕……肩? からの攻撃が、私に向かってきた。
攻撃力が4000オーバーなだけに、中々の迫力と威力を感じる。
感じるが……
「……罠発動『
「……え?」
「効果は知っているな。相手モンスターの攻撃を、相手へのライフダメージとして跳ね返す」
「と、いうことは……」
向かってきた『マシンナーズ・フォース』が、目の前の筒の中へ吸い込まれる。
やがて、もう一つの筒から再び『マシンナーズ・フォース』が飛び出し、その攻撃を、唇に向けていた。
「わ……私の……最強の……連携の……」
簡単すぎる……呆気なさすぎる……
「うわあああああああああああああ!!」
カーク・ディクソン
LP:3000→0
「まさか……この私が……はは……あああ……」
両手に顔を向け、ふら付きながらもメダルを落としたので、拾った後はその場を離れることにした。
……一言声でもかけてやるか。
「その口笛はやめろ」
「……」
「ヒュー」
(せっかくドローして良い手札が揃っていたのに……)
勝つためとは言え……他のカードを発動させた方が良かったろうか……
そんなことを考えている間に、ちょうど夕日も沈んだことだし、今日はもう帰ることにした。
……
…………
………………
視点:外
「ただいま」
「おかえりなさい」
「おかえりなさい」
星華がドアを開けた時、奥から二人分の声が聞こえた。
愛しい男の声と、その男にいつも寄り添う少女の声だった。
ブーツを脱いでいると、美味そうな匂いが漂ってくる。よく知っている、梓の料理の匂いだった。
その匂いを辿って、台所へ行ってみると……
(梓……)
そこにはいつも通り、流し台に向かって包丁を握る梓の後ろ姿があった。
いつも愛用している青い着物。その上に着る白のエプロンと三角巾。
そんな服装をしていても、細身と分かるスリムな体型。
縛られた流麗な黒髪と、白く光るうなじ。
包丁を握った手の甲、着物の隙間から見えるくるぶし……
「梓……」
「きゃっ……!」
そんな梓の色気に火照らされた星華はたまらなくなり、その背中に抱き着いてしまった。
「ちょっと、星華さん、料理中にいきなり抱き着いてこないでとあれほど……」
「色っぽいお前が悪い……////」
「ああーん、もう……せっかく綺麗に切っていたのに、変な形になってしまった」
「そのくらい、私が食べれば問題あるまいよ……////」
「そういう問題では……というか、男子のそんなところ揉んでも面白くないでしょうに」
「そんなことはない//// 梓の全身は私にとって全て宝だ////」
「そう言いつつ徐々に下へ下へ手をずらさないでいただきたいのですが……」
(スーハー//// スーハー////)
「髪の毛の匂いを嗅がないで下さい。まだお風呂にも入っていないのに……」
「なに!? それは良いことを聞いた。ではこのまま、梓の全身の香りを余すことなく……」
「アズサー」
梓が相棒の名を呼んだ時、星華の襟首が、相棒によって掴まれた。
「はいはい、星華姉さん、こっちに来ようね」
「おい、舞姫、離せ、HA・NA・SE!」
「僕だって抱き着いたり頬擦りしたり舐めたり舐められたりしたいの我慢してるんだから、梓の神聖な料理の邪魔しないの」
そう言いながら、無理やり星華を引き離し、台所の隣の部屋へ消えていき……
「おぎゃああああああああああああああ!!」
そこから、星華の阿鼻叫喚が轟いた。
「装備が無い状態だと、星華さん自身の攻撃力は1600以下ということか……」
梓が料理を終え、それをテーブルに並べる。
肩と指を鳴らすアズサと、関節痛に苦しむ星華はそこへ座り、いただきますの挨拶をした。
「……美味い」
「いやー、やっぱ梓の料理は邪魔させちゃダメだわなー」
そんなことを言う二人を、微笑みながら見る梓は、いつもの通り、水の一杯さえ食してはいなかった。
「それは良かった……明日以降も大会は続きますし、十分食して下さい」
「うむ! 梓の料理のおかげで百人力だ。現に今日も、これだけのメダルが集まったからな」
星華はポケットから、バラバラとメダルを取り出して見せた。
「おおー……これはすごい」
「そうだろう、すごいだろう。ちなみに梓、お前は?」
「……」
梓もまた、懐からメダルを取り出す。自身の物と、決闘で勝ち取った物。
「……一枚だけか?」
「誰もが私の姿を見た途端、逃げてしまって……」
「ははは、それは仕方ないな……そこでだ梓。私としては、これだけ集めたご褒美をお前からもらいたい」
「ご褒美、ですか?」
「うむ。その方が明日からもやる気が出る」
「ご褒美……」
梓はしばし、顔に手を当てて考える。そして……
「……では、今日は、私と一緒にお風呂に入りましょうか?」
「ふぁっ……!?」
星華にとって、予想以上に魅力的、且つ、刺激的なご褒美に、思考が停止した。
「あれ? 星華姉さん、梓とずっといたくせにお風呂入ってないの?」
「ええ。一度も」
「……ほ、本当に良いのか?」
しばらく呆けていたのが、ようやく復活し、聞き返した。
「ええ。夕食を終えて洗い物が終わったら、一緒に入りましょう」
「……凝視してもいいのか?」
「……なにを、とは敢えて聞きませんが、構いませんよ」
「触ってもいいか?」
「普段からベタベタ触ってきているくせに、今更なぜそんなことを尋ねるのです?」
「舐めたりしゃぶったりはめたりは?」
「氷漬けになるお覚悟がおありで?」
最後の質問には、笑顔のままそう答える。その答えが明確な線引きだった。
「仮にも学生なのだから、そこは節度を持つべきです」
「……せめて、抱き着いてもいいか?」
「構いませんよ。というか、毎日抱き着いてきているのだから、服を着ていようがいまいが同じでしょう」
「……ていうか梓、お風呂は僕と入るのが日課でしょう?」
「あなたとは毎日入っているではありませんか。と言うか、あなたはいい加減自分で自分の体を洗いなさい」
「だって、梓にしてもらった方が気持ちいいんだもん」
「そんなことばかり続けていては、いずれ自分のことは何もできなくなります。今日は星華さんのお背中を流しますから、あなたもたまには自分で全部洗いなさい」
「ぶー……はいはい」
「はいは一回」
「はーい」
……と、
(梓と風呂……夢にまで見た梓との風呂……背中を流し合って、お互いの体を余すことなく見つめ合って、あんなことやこんなことを……)
――「あ//// ダメ梓!//// そんなところ……いや、そんな、胸ばっかり……もっと、もっと優しく……//// ひゃあ! い、いきなり、そんな所まで……濡れているのは、お前、だからだ……//// 私も、お前のを触りたい////」
(グゥヘヘヘヘヘヘヘヘヘェ……////////)
「星華さん……大丈夫ですか?」
「さすがに顔が気持ち悪いね。気持ちはものすごくよく分かるけど……」
……
…………
………………
ホワイト寮で、三人が楽しく会話している頃……
「……ただいま」
女子ブルー寮にて、あずさが、返事の無いそんな言葉を掛けながら自室に入った。
大勢の女子生徒が一度に退学したこともあり、あの火事から二日後には、既に新しい部屋があてがわれた。
そこに私物の全てを運び、引っ越しも完了。
以前のように、ドアへの落書きや、窓ガラスに石を投げ入れられたり、いたずら電話が掛かってくることも無くなり、昔のように窓を開けて、新鮮な空気に満ちた部屋でのんびり過ごすことができるようになった。
不満があるとすれば……
(引っ越すって言った時は明日香ちゃん、ちょっと寂しそうだったな……)
とは言え、いつまでも部屋を借りておくのも悪いと思っていたので、あずさとしても、引っ越したことは良かった。
「ま、いーや……今日はあんまり決闘できなかったな……」
「まあ、そう落ち込むことねえって」
ベッドに座り、愚痴をこぼしたあずさに、シエンが声を掛けていた。
「明日以降は外部の人間も増えることだろうし、そいつらに決闘を申し込みゃ良いんだ」
「……そうだね」
「……誰とでも決闘をしろ。私がついている……」
「……ありがとう、キザン」
シエンの隣に現れた、キザンの言葉に、あずさは笑い、シエンは、驚愕していた。
「どうした、キザン? お前がそんなこと言うなんてよ……」
「……お前は戦えない。私がやるしかないだろう……」
「まあ、確かに今日の決闘も、お前が大活躍だったけど……」
「こらこら、俺らもいるぞ」
「君だけが真六武衆じゃないんだからさ」
「私だって、頑張ります!」
「サポートは影の薄い男の役目だ」
「あはは……みんなありがとう」
いつも通り、賑やかな精霊達を前に、あずさは立ち上がり、今日の夕飯はどうしようか、そんなことを考えていた。
(……夕飯て言えば……)
「そう言えば梓、気になっていたのだが……」
夕飯を食べ終え、興奮しつつもようやく正気に戻った星華は、梓に問い掛けた。
「なんでしょう?」
「以前お前が、ホワイト寮……元、ホワイト寮の生徒どもを追い詰めた時、あいつらが逃げ出していたとしたら、本気であいつら全員を食うつもりだったのか?」
なぜか、今になって思い出し、気になったので尋ねることにした。
その質問に対して梓は、笑っていた。
「まさか。そんなことはしません」
「そうか。それはそうだろうな」
「ええ。積極的に人を食べようなどと思いません。量は多いですが石鹸臭くて不味いですし」
「……ん?」
最後に何か、聞き捨てならない言葉を聞いた気がしたが、梓は既に、食器を片づけに台所へ向かっていた。
「……」
「……」
隣に座るアズサを見ると、無言で目を背けるだけだった。
「……」
これ以上、このことを考えるのはやめた。
そして、星華が待ちに待った梓との入浴。
詳しい状況は省く物の、仮にこの時の星華の顔を絵にしたとしたら、作者は世の小日向星華ファンの方々に土下座して回らなければならない、それだけの表情を終始浮かべていたということだけを、ここに記しておく……
「梓……」
「はい?」
「……最高だ」
「……それはよかった」
お疲れ~。
彼を思い浮かべた時、真っ先に唇が思いつく大海って変かな?
……なに? 決闘が手抜き?
良いじゃねーか! たまにはアッサリ決闘が書きたい時だってあるんじゃい!
つーかフォース呼び出すぐらいしか原作の見せ場無いんだから仕方ねえだろう!
そもそもR自体、大体の決闘が短めだしや!
……そんなこんなで、オリカ~。
『ブービートラップ』
通常罠
テキスト不明
遊戯王Rにて、カーク・ディクソンが使用(?)。
未使用だし効果も書いてない。
ていうか、てっきり城之内が途中で使うのかと思ったらそんなこともなかった。
いつしかOCGで同名カードが出たりしねえかなぁ……
え? E? 違げえよ……
『アリジゴク』
レベル4
地属性 昆虫族
攻撃力1500 守備力1000
このカードが攻撃対象に選択された時、攻撃モンスターの攻撃力は500ポイントダウンする。
遊戯王Rにて、クラマス・オースラーが使用。
原作じゃ姿消してたけど、普通にやっててわざわざ攻撃してくれる人なんて、まぁおらんわな。
自分から攻撃しても仕方ないし、自の攻撃力も低すぎるし……
こんな感じで、今回の二人は、割とアッサリ目で終わらしてみました。
次はもうちょい凝った決闘書くよ。多分……
ほんじゃ、次話も待ってて。