学園艦の恋愛事情   作:阿良良木歴

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ハッピーハロウィン!(大遅刻)

遅刻した上、クオリティ低めです。申し訳ございません。


番外編
ハロウィン


ーー大洗学園艦の場合ーー

 

『トリックオアトリート!!』

 

「おお~!みんな似合ってんよ!!」

 

ハロウィン、今日はそう呼ばれる日らしい。元々アメリカの方のお盆みたいなもので、お化けや魔女なんかに仮装した子供がお菓子を貰ったりするらしい。又聞きの上うろ覚えの知識だから正確では無いとは思うが。重要なのは、お化けの仮装だ。目の前にいる西住達、武部のミニスカ小悪魔や五十鈴の白装束はまだいい。秋山の額に札を貼ったキョンシーも、まあいいんだろう。ただ、

 

西住のクマ耳を付け両腕包帯グルグル巻きで左手を吊っている右目眼帯はお化けの類なのか?

 

「金城、お前もそう思うだろ!」

 

「う、ん。そうだな、全員似合ってると思う」

 

意識が完全に西住に持っていかれているため適当に答えたが、全員嬉しそうにはにかんでいる。西住に至っては顔を赤くしながらモジモジしている。可愛い……ではなく!

 

「なあ宮本、西住のアレってーー「それ以上言ってはいけない」

 

「……」

 

近年、ハロウィンの仮装がコスプレっぽくなっているというニュースを見たことがある。つまりは、そういう事なんだろう。

 

「生徒会がハロウィンやるって言い出した時は恥ずかしいかも、って思ってたけど」

 

「やってみると案外楽しいものですね!あ、西住殿のボコの衣装とっても似合ってます!」

 

「ありがとう、優花里さん」

 

ボコって言うのか、アレ。……ともあれ、イベント事は楽しむべきだ。お菓子の用意は、一応してある。

 

「ふっふっふ~。オレはイタズラされたいからお菓子用意してないぜ!」

 

「バカなのか、お前」

 

武部がやだもーと言いながら、捻りの効いた良い腹パンを宮本に打ち込んでる。青い顔してオレに助けを求めてくるが、宮本、自業自得だぞ。

 

「……はあ。オレのから宮本の分も出す。剣道部の後輩に配ろうと思ってたから余分にはある」

 

「よろしいのですか?」

 

「ああ、どうせイタズラと称して竹刀持って襲いかかって来るだけだからな」

 

「それって大丈夫なの!?」

 

西住が心配そうな表情で顔をずいっとオレに近づける。ち、近い!

 

「……問題ない。いい鍛錬になる」

 

冷静に取り繕い、鞄からお菓子を取り出す。持って来たお菓子はクッキーだ、透明な袋に入ってデフォルメされた蝙蝠が袋の口を閉じている。それをひとりひとりに配る。

 

「わぁ~。美味しそう!」

 

「包装も可愛いです。もしかして、手作りですか?」

 

「ん?まあそうだな。中学の時の友達がお菓子作りが得意でな、よく教えて貰ってたんだ」

 

腕を鈍らせない為に今回作ってみたが、上手くいったと思う。

 

「意外な趣味をお持ちなんですね!」

 

「自分でもそう思う」

 

クッキーを頬張り幸せそうな表情を浮かべる西住達を見ていると、作ったかいがあるというものだ。

 

「……トリックオア、トリート」

 

「うおっ!れ、冷泉か。」

 

「……お化けだ。だからクッキー……くれ」

 

「あ、ああ」

 

後ろから声を掛けられ振り向くと布団が動いていた。というか、冷泉だった。西住のコスプレもどうかと思うが、布団被ってお化けと言い張る冷泉もそうとうだな。

 

「コラ麻子!そんなんじゃ仮装じゃねぇだろ!オレの期待を返せ!!」

 

「……もぐもぐ、知らん」

 

「いいからそれ脱げ!」

 

布団から器用に顔と手だけを出しクッキーを食べる冷泉。宮本はそこに近づき、前の方で布団を縛っている紐を解き放ちそのまま布団を剥ぎ取る。

 

『……』

 

「……」

 

何故か宮本はそのまま冷泉に布団を掛け直す。西住達は顔を真っ赤にしながら口をパクパクさせていた。オレの角度からじゃ何も見えなかったが、何かあったのか?

 

「……なんで下着なんだよ」

 

「……暑かった」

 

「じゃあ仮装してこいよ!?」

 

「面倒だ」

 

「演劇部が貸衣装やってるからそこ行くぞ!わりぃ、金城。席外す!」

 

「行ってこい」

 

顔を林檎みたいに染め上げた宮本は冷泉を脇に抱え、風のように去っていった。……あいつ、意外に苦労人なのかもしれない。

 

「金城君、見た?」

 

「何も見えなかったが?」

 

「……そう」

 

西住がちょっと頬を膨らませジト目でオレに聞いてきた。友達の下着姿を男に見られるのは嫌なのだろう。ただ、それは宮本に言うべきじゃないか?ーーっと、冷たい秋風がオレと西住の間で強く吹いた。

 

『ーーッ!?』

 

西住が暴れたスカートの裾を急いで抑える。しかし、剣道で鍛えた動体視力が隠された部分を捉えてしまった。

 

「……見た?」

 

「……見てない」

 

「……」

 

「……」

 

西住が涙目になりながらオレを睨む。風のイタズラかなんだか知らないが、いい迷惑だ。……少しだけいい思いをしたとか思っては、いけない。

 

オレは視線を外しながら熱く火照る頬が冷めるのを願っていた。

 

 

 

ーープラウダ高校学園艦の場合ーー

 

 

「トリックオアトリートよ!さあ、カチューシャにお菓子を献上しなさい!」

 

「いきなり呼び出したかと思えば、そんなことかよ」

 

ハロウィンパーティも兼ねた文化祭の終わり、いつもの空き教室に呼び出されたオレは溜め息を吐かずにはいられなかった。学校中のお化けの格好をした奴らと同様にオレとカチューシャも仮装をしている。オレは犬耳と尻尾をつけた狼男。カチューシャはフリルがあしらわれた服の上に黒いマント、背中から蝙蝠っぽい羽根を生やした吸血鬼の姿だ。八重歯気味のカチューシャにピッタリだと思う。ノンナ辺りが拘ったのだろう、衣装が凝っていて凄く可愛いく仕上がっていた。

 

「良いからお菓子!」

 

「はいはい、えっとどこに仕舞ったっけな」

 

今日も飽きずに教壇の上に立ちお菓子を催促するカチューシャから目を離し、鞄を漁る。しかし、

 

可愛い過ぎんだろ!?何、オレを殺しに来てんの!?それとも今日オレ死ぬの!?

 

さっきはガン見したら怪しまれそうだったけど、ゴスロリって言うんだっけ、ああいう服。赤がメインでフリフリの服が最高です。ノンナ、グッジョブ。……って、あれ?

 

「おかしいな、お菓子が無い」

 

「……寒いわね」

 

「ダジャレじゃねぇよ!」

 

鞄いっぱいに詰めていたお菓子が全く無い。多少風紀委員の後輩やお菓子くれって強請る女子に配ったりしたけど……あ。

 

「そういやニーナとアリーナに残り全部渡したんだっけ」

 

「お菓子無いの!?」

 

「そ〜なるな」

 

「ダメ!今すぐ持ってきなさい!!」

 

「ねぇのに持ってこれるか!」

 

「カチューシャに歯向かう気!粛清……じゃなかった。イタズラするわよ!」

 

「や、やってみろコラ!!」

 

イタズラという単語にちょっと反応してしまった。下心は無い、多分、きっと。

 

「いい度胸ね。……明日からシベリア送りよ!」

 

「いつもと変わんねぇじゃねぇか!」

 

いや、まあカチューシャと2人きりってのはオレ的には嬉しいけど。

 

「確かにこれじゃ粛清ね。……ボルシチ、ちょっとコッチ来なさい」

 

「あん?まあ別にいいけどよ」

 

教室の入口辺りから教壇の傍まで距離を詰める。と、カチューシャの右脚が振り上げられる。咄嗟に屈んだオレの頭上をカチューシャの蹴りが掠めた。

 

「おまっ!何やってんだよ!?」

 

「何ってイタズラよ!」

 

「んなモン、イタズラじゃねぇよ!!不意打ちっつうんだよ!!」

 

「うるさい!良いから黙って蹴られなさい!」

 

「理不尽過ぎだろうが!!」

 

再び足を振り上げたカチューシャだったが、バランスの悪い教壇の上でそんなことをすれば危ないのは当然で。

 

「わ、きゃあ!?」

 

「ーーッ!あぶねぇ!!」

 

教壇から落下するカチューシャを必死に手を伸ばし抱きとめる。しかし、勢いは殺し切れずカチューシャを抱き締めたまま床に倒れ込む。背中から倒れたから、鈍い痛みが走る。が、柔らかい感触がオレの右頬に当たって印象に残る。

 

「「……」」

 

オレとカチューシャの距離がゼロになっていた。見開かれた目にカチューシャの顔が至近距離で映る。まつ毛長いとか、いい香りするなとか現実逃避ばかりが浮かんでは消える。ただ、オレの右頬にくっつくカチューシャの柔らかい唇はオレの頭をパンクさせるのに十分だった。

 

「……!」

 

「いたっ!?」

 

フリーズして何秒経っただろう。オレと同じ様に固まっていたカチューシャがオレの頬に噛み付いた。そのまま飛び跳ねる様に距離をとる。

 

「い、今のは!……吸血鬼、そう今の私は吸血鬼だから!!だから噛み付いたの!イタズラ、今のイタズラだから!!」

 

「お、おう」

 

「あ、後でちゃんとお菓子持ってきなさいよ!!」

 

「あ、ちょっと待てよ!……ってもういねぇし」

 

顔を真っ赤にしたカチューシャがオレを指差しながら言い訳を羅列して逃げるように教室を出ていった。噛まれた頬がヒリヒリする。けど、それ以上にカチューシャの唇の感触が忘れられない。

 

「つーか、噛むんなら頬じゃなくて首だっての」

 

独りごちるが胸の内側がやかましい。こんなに良いことがあっていいのか?本当にオレ今日死ぬんじゃなかろうか。体を起こし胡座をかいて座っていると後頭部に冷たい鉄の何かが突き付けられる。

 

「デッド・オア・ダイ?」

 

あ、今日本当に死ぬわ。

 

 

 

ーー聖グロリアーナ学園艦ーー

 

 

 

「トリックオアトリートですわ!」

 

「なんでぇ、藪から棒に」

 

聖グロリアーナの戦車道チームのいつものお茶会。そこで珍しくゆっくりと紅茶を飲むスミスに赤い犬耳をつけたローズヒップが扉をけたたましく開け放ち満面の笑みでスミスに手を差し出した。

 

「ですから、トリックオアトリートですの!」

 

「とりっくおあ……?日本語で喋れよ」

 

「ここの生徒なら英語くらい理解しておきなさい。今のはハロウィンで使われるもので、お菓子をくれないとイタズラする。という意味ですわ」

 

「へぇ~」

 

「理解したのならお菓子をくださいまし!!」

 

疑問符を頭上に浮かべたスミスにダージリンが説明、ローズヒップはお菓子を今か今かと待ちわびていた。犬耳と同じ赤い尻尾が、ローズヒップのテンションに呼応する様に左右に揺れる。

 

「お菓子、ねぇ……。これで良いならやるよ」

 

「本当ですの!ありがとうございますわ!」

 

そう言ってスミスは目の前の皿に置かれたアップルパイをローズヒップに渡す。ローズヒップは立ったままフォークでアップルパイを突き刺し、上品とは言い難い大口を開けて食べ始めた。その様子にオレンジペコは呆れ返ったように溜め息を吐いた。

 

「まあオレの食いかけなんだけどな」

 

「ぶっ!?」

 

「うわっ!どうした!?」

 

スミス自身は何の気なしに言った言葉。しかし、ローズヒップにとっては別の意味が浮上し噎せてしまった。心配するスミスを余所にアップルパイを確認する。元は綺麗な三角形だったはずのアップルパイに虫食いは1箇所。それが意味するものはつまり、

 

(か、間接キスですの!?)

 

顔に登ってくる熱を認識し、それでも止めることも出来ずローズヒップの顔が自身の髪と同じ色に染まる。それに気付かないスミスを恨めしげに睨み、ローズヒップは気を落ち着けようとする。

 

「ローズヒップティーでございます」

 

「ありがとうですの、セバスチャン」

 

スッと差し出されたカップを手に取り、一気に呷るローズヒップにセバスチャンがわざとらしい声で話しかける。

 

「ああ、申し訳ございません、ローズヒップ様。今お出しした紅茶ですが、スミス殿がお飲みになられていたものでした」

 

「ぶっぅ!!」

 

「おい野薔薇!本当に大丈夫か!?」

 

むせ返るローズヒップの姿をいつもの笑みで見つめるセバスチャンの表情はどこか愉しそうだった。

 

改めて新しい紅茶が注がれたティーカップを手に冷静な素振りのローズヒップ。手の震えや朱に染まる頬も隠せていれば、それなりに動揺を隠せそうだった。

 

「そういや、その頭の耳はなんなんだ?」

 

「これですの?ハロウィンは仮装するのが習わしですのよ」

 

「ああ、だから田尻や橙も頭に変なの乗っけてんのか」

 

そう言ってスミスはダージリンとオレンジペコに目を向ける。ダージリンは魔女が被るようなトンガリ帽子、オレンジペコは角の付いたカチューシャを着けていた。

 

「てっきり本当に犬耳が生えてきたのかと思ったぜ。ほら野薔薇、田尻の忠犬っぽいし」

 

「人間に犬耳は生えませんわ!」

 

ダージリンの忠犬という言葉は否定しないローズヒップにスミスは苦笑を零す。

 

「しかしまあアレだな」

 

「?なんですの?」

 

「良く似合ってんよ、犬耳」

 

「ッ!?」

 

「犬耳付けた女がどうなるか、あんま考えたことねぇけど。やっぱ素材がいいと可愛くなるな」

 

「~っ!!」

 

突然の褒め殺しにようやく引きはじめた熱が再燃し、頭から湯気を出すローズヒップ。そのまま勢い良く立ち上がると、無言で部屋を飛び出していった。

 

「……は?野薔薇の奴、急にどうしたんだ?便所か?」

 

「追い掛けなさいスミス」

 

「え?いや別に良いだろ追い掛けなくて」

 

「こんな言葉を知ってる?

こんなことをしたら嫌われるのではないかと、何もしない男が一番嫌われる」

 

「……はぁ、追い掛けりゃいいんだろう」

 

「分かればいいのよ」

 

しぶしぶと言った様子でスミスは立ち上がり、足早に部屋を出ていった。残された3人は静かに紅茶を啜った。

 

 

 

ーーアンツィオ高校学園艦の場合ーー

 

 

「なあシーコ、はろうぃんってなんだ?」

 

「ん~と、仮装してイタズラするとお菓子が貰えるイベント?」

 

「いや、お菓子が貰えないとイタズラするイベントな?イタズラされた上にお菓子までカツアゲされたら可哀想だろ」

 

アンツィオ高校の放課後、いつものお祭り騒ぎの露店は仮装した人々で混沌としていた。ハロウィンに便乗した食べ物を販売している露店も多い。そんな中ペパロニの店はいつもと変わらず営業していた。コックコート姿のペパロニと制服姿のシーコとアンチョビが店の前で談笑している。

 

「でも姐さん、私達オヤツは一日一回ッスよ?」

 

「他の人から貰うなら良いんだよ!」

 

「いいんすか!じゃあ早速ラザニアの所に行かないと!」

 

「まあ待てペパロニ。その前に準備しないとねぇ~」

 

「?……な、なんか怖いぞ、シーコ」

 

「ふっふっふ~」

 

シーコはニヤケ面で悪巧みしてますと言わんばかりの表情でペパロニに襲い掛かった。

 

そして、

 

「さあ行け!ペパロニ!!」

 

「イヤだよ!なんでこんな格好で行かなきゃ行けないんだよ!」

 

「言っただろペパロニ。"仮装"してお菓子を貰いに行くんだって」

 

「けど姐さん、これ足元スースーするんすけど!」

 

ペパロニはシーコの毒牙にかかり、魔女の姿になっていた。黒い膝上までのワンピースに黒のトンガリ帽子。いつもの耳脇の三つ編みの先が赤いリボンで縛ってあった。恥ずかしさを堪えてラザニアの店の傍まで来たはいいもののペパロニはそこから動けなくなっていた。

 

「何言ってんだ、いつもスカートだってスースーすんだろ?」

 

「腹までスースーするのは苦手なんだよ!スカートだってあんまり好きじゃないし……」

 

恥ずかしそうに顔を赤らめるペパロニに痺れを切らしたのか、シーコはどこから取り出したのか黒い猫耳を装着。

 

「焦れったい!いつもの勢いで行くよ!」

 

「ちょ!?シーコ!」

 

「ペパロニ、私はここから応援してるぞ!」

 

シーコにグイグイ引っ張られ、あれよあれよという間にラザニアの店の前についてしまった。

 

「おいっす~ラザニア。トリックオアトリート!」

 

「ようシーコ。やっぱお菓子たかりに来たか!」

 

いつも通りにラザニアに絡むシーコの隣でペパロニは帽子を深く被り顔を見られないように隠していた。しかし、ラザニアとシーコの楽しげな会話にだんだんとむかっ腹が立ってきたのか横目でシーコを睨む。

 

「っと、悪い。そういや、そっちの子は?」

 

「ふふふ、見ても鼻血出すんじゃないよ?」

 

「は?」

 

「じゃじゃーん!ペパロニなのでした!」

 

「こ、こらシーコ!」

 

帽子を剥ぎ取られ、顔を赤くしたペパロニがラザニアの前に姿を現す。ちらっとラザニアを見ると、呆然としたまま微動だにしない。が、

 

「がはぁっ!!」

 

「吐血!?」

 

いきなり口から血を吐き出し膝をつくラザニア。突然の出来事にオロオロするペパロニとシーコの側にドルチェがやってきた。

 

「どうしたんだ?」

 

「ど、ドルチェ!大変だ、ラザニアが血を吐いて倒れた!」

 

「うん?……ああ、興奮して口から血を吐いただけだろ」

 

「ごめん、意味わかんない!」

 

「コイツ、テンション上がりすぎると吐血するから」

 

「それ大丈夫なのか!?」

 

「だ、大丈夫だぜペパロニ。ちょっと致命傷だっただけだ」

 

「致命傷ってもうダメだよな!?」

 

膝をガクガク言わせながら立ち上がるラザニアを心配そうに見つめるペパロニ。微笑ましいと思いながらも、リア充爆発しろ、といった視線を向ける二人。見ていられなくなったのか、シーコはペパロニの肩を叩き、お菓子を貰うよう促す。

 

「あ、あのな。ラザニア」

 

「おう、なんだペパロニ」

 

僅かな時間で顔色が元に戻ったラザニアに、モジモジしながら上目遣いで見つめるペパロニはいつもの溌剌とした表情は鳴りを潜め、乙女の様に顔を染めていた。

 

「お、お菓子をくれないとイタズラするぞ!」

 

「ーーッ!」

 

ワンピースの裾をぎゅっと握り叫んだペパロニに、しかし返答が全く来ない。恐る恐るラザニアの顔を伺うと白目を剥いたラザニアが立ち尽くしていた。

 

「え、ちょ!ラザニア!?」

 

「駄目だな、気絶してる」

 

「ラザニアァ!!」

 

焦りながらラザニアを揺らすペパロニを見て、ラザニアがイタズラという言葉から何を妄想し、気絶したのかを理解したドルチェは男の尊厳の為、口を固く閉ざしたのだった。

 

 

 

ーー継続高校学園艦の場合ーー

 

 

 

「はい、カイ先輩!お菓子あげますね!」

 

「あ、ありがとね」

 

「いえいえ!それじゃあまた!!」

 

「うん、ばいばい」

 

後輩の女の子にお菓子を手渡された僕は、他の子からも貰ったお菓子と一緒に紙袋の中に仕舞う。

 

今日はハロウィン。放任主義なこの学校で学校全体を巻き込んだ珍しい行事だ。かく言う僕も生徒会長に犬耳を着けられ、学校を回ってこいと命令されている。なんでも僕のためのイベントだとか。別に今日が誕生日という理由でもないのに、僕のためとはこれ如何に。

 

それでも学校を回っていると、みんなからお菓子がプレゼントされる。どっちかって言うと女子からの方が多い気がする。みんな魔女の格好や悪魔の羽根をつけたりしている。周りを見ると、男の方が女の子にお菓子をあげている光景が目に付く。女の子同士もちらほら。……僕が男扱いされてないとは思わない様にする。

 

「お、カイ見っけ」

 

「こんな所にいたんだ。探しちゃったよ」

 

「ミッコにアキ。どうしたの?」

 

体育館に向かう渡り廊下、その途中で後ろから声を掛けられた。アキは魔女の帽子、ミッコは悪魔っぽい角を頭に着けていた。アキはともかく、ミッコに悪魔はお似合いだと思う。

 

「今、失礼なこと考えなかった?」

 

「……そんなこと無いよ?それより二人とも何かよう?」

 

妙に鋭いミッコはスルーして用件へと話題転換。ジトーとした目で見られるけど気にしない。

 

「そうそう、はいこれ。お菓子」

 

「私からも一応ね」

 

「ありがとう。でもなんで?」

 

「日頃色々やって貰ってるから、そのお礼」

 

「会長がお礼したい奴はお菓子渡しとけって言ってたしさ」

 

「ああ、なるほど。それで……」

 

だから僕のためのイベントなのか。生徒会長にはいつもこき使われているけど、優しい一面を垣間見た気がする。……生徒会長のことだから打算が混じってそうだけど。

 

「そういえばミカは?一緒じゃないの?」

 

「今日はまだ会ってないよ。どこに行っちゃったんだろう?」

 

「そのうちひょっこり顔出すでしょ」

 

いつも一緒の2人も知らないとなると、どこか静かな所でカンテレでも引いているんだろう。こういった騒がしいのはあんまり好きじゃ無さそうだし。でも、ミカの仮装は見てみたかったな。

 

「ところでさ。それ全部貰ったお菓子?」

 

「そうだよ。僕が作った分はもう売り切れちゃった」

 

「相変わらずなんでも出来るんだね」

 

「それが取り柄みたいなものだしね」

 

紙袋を少し持ち上げ、困ったように笑う。貰うこと自体は嬉しいけど1人で食べ切れるかな?

 

「ふぅん。ま、ミカにバレない様に気をつけなね」

 

「?うん、わかった」

 

「それじゃあまたね、カイ!」

 

最後のミッコの言葉の意味がわからなかったけど、とりあえず言われた通りお菓子を処理しようかな。僕は体育館に行くのをやめ、戦車道の倉庫の裏手に向かった。案の定人気がなく1人でいるのにはちょうど良さそうだった。クッキーやマカロン、ドーナツを平らげていく。途中でコーヒーでも買えば良かったかも、そう思った頃ポロロンとカンテレの音が僕の耳を叩いた。

 

「ミカ?いるの?」

 

音のした方に顔を向けるけど誰もいない。確認しようと立ち上がった僕のシャツが引っ張られそのまま尻もちをついてしまった。引っ張られた方を見るといつの間にかミカがそこにいた。しかも髪と同じ色合いの猫耳を着けていた。二つの意味で似合ってる。

 

「君はやっぱり鈍いんだね」

 

「ーーってミカ!?いつからそこに?」

 

「携帯のアラームをセットして君が気を取られてるうちにね」

 

「回りくどくない!?」

 

「ハロウィンだからね。ちょっとしたイタズラだよ……ところで」

 

ミカと向かい合って座る僕の耳をミカが引っ張り始めた。

 

「ミカ、痛い」

 

「君が反省しないからね」

 

「僕悪いことしてないよね?……いてて!」

 

「あんなに女の子からお菓子を貰っておいて?」

 

「見てたの!?でもあれは日頃のお礼だってさ。っててて!!さっきより強いよ!?」

 

「ただのお礼で女の子の手作りお菓子を貰えると思ってる君は凄い楽天家だね」

 

「痛いって!ごめん、僕が悪かった!よくわかんないけど!」

 

必死の謝罪が通じたのか、溜め息をつきながら耳から手を離してくれた。それでも少し起こった様子のミカはポケットから小さな箱を取り出した。

 

「君には私もお世話になっているからね。君には特別にお菓子をあげるよ」

 

「ほんと!?ありがとう!!」

 

箱の中身はトリュフチョコだった。市販のやつみたいだけど、ミカに貰えるんだったらなんだって嬉しい。

 

「それじゃあ口を開けて。あ〜ん」

 

「うぇ!?」

 

箱から1つチョコを取り出したミカはそのまま僕にチョコを差し出した。恥ずかしいやら照れるやらで躊躇った僕だけど、周りに誰もいないことを確認して口を大きく開けた。

 

「あ、あ〜ん」

 

「いや、やっぱりやめよう」

 

「ああ!!」

 

僕の口に収まる寸前で手を引っ込めてミカは自分の口にチョコを投げ入れた。文句を言おうと口を開いた瞬間、ミカの口が僕の口を塞いだ。

 

「んぅ……」

 

ミカの口から吐息が零れる。前の触れるだけのキスとは違いミカの舌が僕の中に入ってくる。同時に流れ込むチョコの甘み。まだ溶けきっていない丸いチョコが僕の口に収まる。それを追いかけてやってくるミカの舌が僕の口で暴れ、ミカの口に戻っていく。僕も負けじとミカの口の中に舌を這わせる。お互いの口の温度だけで溶かすように、ゆっくりとチョコを味わった。

 

「……ぷはぁ!」

 

「……ふぅ」

 

何分、そうしていただろう。チョコの形がなくなり、甘さも共有しあった後僕らの唇は離れた。ずっと口付けをしていたせいで、息が荒い。けど、それ以上に心臓が脈打ち頭がクラクラする。

 

「ミ、ミカ?今のは?」

 

「ふふ、トリックオアトリート。それを同時にやっただけさ」

 

ミカは得意気に語るけど、白い肌に差す朱色がミカの心情を教えてくれた。愛おしい気持ちが抑えきれず、ミカをギュッと抱きしめた。

 

「苦しいよ」

 

「嫌だった?」

 

「そんなことないさ。むしろ嬉しい」

 

僕の背中に手を回し抱きしめ返してくれるミカ。言いようのない幸福感で胸がいっぱいになっていく。

 

「ところで」

 

「?」

 

「チョコはまだあるけど、どうする?」

 

「!?」

 

僕の頭を沸騰させる熱が引くのはまだ先になりそうだ。




ーー大洗のオマケーー

「……白」

「?」

「水色」

「……(ピクッ)」

「……見たんだ」

「!!」

「……えっち」

「ッ!?」


ーープラウダのオマケーー

「ノンナ、クラーラ!トリックオアトリーー「トリック」

「え?あの……ノンn「トリック」

「ク、クラー「トリック」

「……」

「「……」」

「……ご、ごめんなさい」


ーー聖グロのオマケーー

「そういえばセバスチャン、私だけのお菓子は無いのかしら?」

「こちらに御用意してあります」

「ありがとう、いただくわ。……んっ!?」

「今回はダージリン様の苦手なコーヒーを使いお菓子とイタズラ、両方を表現してみました」

「……いい性格になったわね、セバスチャン」

「ダージリン様程ではございません」

「……」

「……」

「「ふふふ……」」

(どっちもどっちですね)


ーーアンツィオのオマケーー

「やっぱいつもの格好が落ち着くぜ」

「その方がオレも安心出来るな」

「あ~、んでなんて言えばお菓子貰えんだっけ?」

「ん~知らん。そんなことよりパスタ茹でようぜ!」

「それもそうだな!よっしゃ!パスタ茹でるぜ~!!」

「おい誰かコイツらにハロウィン教えてやれ!」


ーー継続のオマケーー

「うっひゃ~。あの2人ってば大胆だねぇ。アキもそう思うだろ?」

「……」

「?アキ?」

「……うにゅ~」

「ありゃ。アキには刺激、強すぎたみたいだね」



***



ハロウィン大遅刻です。本当にごめんなさい。しかもキャラ崩壊の雨あられ……。

今回初めて超短編に挑戦したんですが、難しいですね。もっと書いてみたいですけど笑

今後も時期ネタは番外編で出してくと思います。

良ければ、また次の機会に。

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