学園艦の恋愛事情   作:阿良良木歴

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忙しくて遅くなったのにクオリティ低いです……。

2016.12.23
ご指摘を受け、訂正しました。


黒森峰学園艦
柔らかい堅物


「会長、これはどうすればいいと思いますか?」

 

「どれだ?……ああ、これは風紀委員と合同でやるから後で大丈夫だ」

 

「わかりました」

 

「会長~!さようなら~」

 

「おう、気を付けて帰れよ」

 

黒森峰学園の放課後、俺は移動しながら生徒会の仕事に目を通す。同時に、一緒に歩いている副会長の話やすれ違う生徒と挨拶を交わし、生徒会室への道を歩む。

 

今の時期、球技大会が近いというだけあって俺に回ってくる仕事の量は多い。学園艦での生徒会の権限は大きく、それ故に仕事量も膨大だ。行儀が悪いのは承知の上で書類に目を通さなければ間に合わない。実際、一年生の頃から生徒会役員として学園艦運営に携わっていなければ、もっと時間を奪われていたことだろう。最も、黒森峰学園の気風は真面目で責任感のある人ばかりなので、イベントごとの手順書等が生徒会室に残されていた為そこまで苦労はしなかっただろうが。むしろ心配すべきは、

 

「お、会長!次の球技大会でのサプライズ、期待してます!」

 

「あ、ああ」

 

「会長さん!前回のダンスカッコよかったです!次は何をなさるんですか!?」

 

「そ、それは当日のお楽しみ、というやつだ」

 

「了解です!楽しみにしてますね!!」

 

「……善処する」

 

すれ違う生徒からかけられる期待の声。それに俺は苦笑いしか返せない。

 

元々、俺の性格は真面目で責任感があるとは程遠い、ちゃらんぽらんでその時が楽しければ良いと生きていた。どちらかと言えば、ノリと勢いのアンツィオ高校に行くような人間だったのだ。それを変えたくて黒森峰に来た訳なのだが、如何せん元がお祭り好きな性格が災いしイベントごとで色々とパフォーマンスをしてしまったのだ。それはマジックだったり、漫談だったりブレイクダンスだったり。いつもを真面目に生活している反動なのか、ハッチャケてしまうのだ。そのせいで前生徒会長からは毎度の様に怒られていた。……逆にいつもとのギャップとイベントごとではハメを外しやすくした俺の雰囲気を買われてか賛成多数で生徒会長になった訳だが。付いたあだ名は"柔らかい堅物"。親しまれていることを良しとすべきなのか悩むところではある。

 

「会長」

 

「ん?ああ、西住か」

 

思考の渦に呑み込まれていた俺に声がかかり、振り向く。ダークブラウンのボブカット、凛とした瞳。黒森峰学園の看板とも言える戦車道の隊長、西住まほの姿があった。頭一つ分背が低い為にこちらを見上げてくるが、背筋が伸びているからかそこまで差を感じない。

 

「この間打診を受けていた話について。今、時間を取れるか?」

 

「問題ない。むしろこちらから持ち掛けた話だ、そちらの都合に合わせる。だが詳しい話は生徒会室でいいか?内密にしておきたい事もある」

 

「了解した。ではこの間貰った書類を持って行く」

 

踵を返し、去っていく西住。少しだけ息を吐く。西住と一緒にいると力が入ってしまう。それが苦だという訳では無いが、色々な事情によりいつもより肩肘を張ってしまう。

 

生徒会室に到着した時、別件の用事を思い出した俺は副会長にそちらを頼む。少し時間が掛かる事を頼んだのでそれが終われば帰っても良いことも伝えた。元気の良い返事をし、元来た道を戻っていく副会長。他の役員も色んな所で動き回っている為、ここからは俺1人の作業となる。生徒会室の扉を開けて窓の側の生徒会長の席に腰掛け、一息吐く。と、

 

「おい、ちょっと匿ってくれ」

 

「比留間……、また悪さしたのか。それと、窓から入るのをやめろ」

 

「固いこと言うなよ。オレとお前の仲だろ」

 

そう言いながら窓から生徒会室に侵入した男。染めたのがわかる傷んだ金髪に両耳には無数のピアス、着崩された制服から覗く首元や手首からはジャラジャラと金属系のアクセサリーが軽快な音で存在感を露わにしていた。

 

「毎度の事だが、ここ3階なんだが」

 

「屋上から逃げるのに丁度いい」

 

「はぁ。……まあ程々にな」

 

この男ーー比留間と俺は小学生からの付き合いだ。中学の時は一緒にバカをやって、何度生徒指導室のお世話になったことか。中学の時から変わらず我が道を行く此奴の行動は黒森峰の生徒からしてみれば不良に値し、風紀委員とのいざこざが絶えない。それ故、生徒会長となった俺の所にいつも転がり込んでくる。……根はいい奴なのだが、見た目と言動で大分損しているんだよな、此奴は。ため息をひとつ零し、生徒会室に置いてある比留間の外履きを投げ渡す。

 

「じき西住も来る。戦車道の副隊長との諍いが多々目撃されている今、顔を合わせるのは拙いだろう。揉めないうちに退散しろよ」

 

「さんきゅ!今度また飯奢る」

 

「それは有り難いが、まずは追われなくなってから言ってくれ」

 

「そいつは出来ねぇ相談だな」

 

ニヤリと笑い、再び窓から身を踊らせる比留間を見送ってから椅子の背もたれに寄りかかる。少しだけ休もう、そう思い目を閉じる。寝ている訳では無い半分意識が沈んだ微睡みの中、静かなノックの音が俺の意識を現実へと呼び戻す。

 

「西住だ。入ってもいいだろうか?」

 

「ああ、問題ない」

 

扉の前からの呼びかけに応えつつ、少しだらけていた姿勢を正す。入ってきた西住の片手には先日渡したファイルが、逆の手にはスクールバッグが下げられていた。西住をソファへと案内し俺もその向かいのソファに腰掛け長テーブルの上に書類を広げる。

 

「それでは早速打ち合わせをしよう。西住の方から見て、今回の案ーー戦車を使ってのエキシビションはどう思う?」

 

そう、今回俺が発案したのは戦車を使ったパフォーマンスだ。それは戦車でサッカーゴールにシュートを撃つことだったり、超遠距離からバスケのリングを狙い撃つことだったり。後は球技大会終了後に戦車で花火を打ち上げて貰えれば等を考えている。素人考え故、無理難題を言っていることは承知で西住に相談を持ち掛けた。

 

「特に大きい問題はない。ボールを放つ用に少しいじる事は必要だが、全国大会も終わった今の時期ならばさほど障害にもならないだろう」

 

「そうか。そう言って貰えると助かる」

 

「それに戦車道の良いアピールにもなる。うちの学園は強豪だから、格式高いと思われているらしい」

 

「やる気のある者でも尻込みしてしまうというわけか」

 

実際、戦車道の受講者は全体的に減っているらしい。戦車道の盛んな学園艦ではそんな感じは無いのだが、そう出ないところでは減少傾向が強いらしい。だからこういったパフォーマンスも必要だと言うことか。その後も内容を煮詰めて、だいたいの目処が経った頃西住はふと顔を上げ、

 

「ところで、他の役員は?」

 

「ん?ああ、今忙しくてな。全員出払ってる。仕事量も多いから、今日は終わったらそのまま帰る様に言って、あ……る」

 

「そう、か……」

 

「う、む……」

 

「「……」」

 

言ってる途中で現状への考えが至り、尻すぼみに声が小さくなる。放課後、誰も来ない部屋、2人きり。自然と沈黙が降りる。別に気まずいとか、そういう事ではない。ただ、

 

「……隣、座ってもいいか?」

 

「あ、ああ」

 

緊張するのだ、恋人とーー西住まほと2人きりという状況が。

 

西住が……いや、まほが隣にちょこんと座る。スクールバッグ一つ分の隙間が間に横たわっている。近過ぎず、遠過ぎない距離。これがいつもの距離感で、これ以上もこれ以下も無い。付き合い始めて半年くらいだが、この距離が変わることは無い。告白したのはまほの方からだったが、キスやハグなんかは以ての外で手を繋ぐ事すらしていない。それが不満という訳では無い。相手は西住流の長女で連綿と続く西住流の跡取りだ。不純異性交遊を疑われる様な事は避けるべきだ。そうとはわかっているが……まあ、俺も男だ。多くは願わないが、手くらいは繋いでみたい。交際している事を公表していない時点で叶わぬ夢だと分かりきってはいるのだが。

 

チラリと横に目をやる。こちらをじっと見つめていたまほと視線がかち合う。いつもの鉄壁の無表情には僅かに朱が指し、何か欲しているような顔をしていた。どうかしたのか?と口を開いた時、

 

「すみません、カバン忘れました!」

 

「「ビクッ!?」」

 

扉が開け放たれ、元気の良い声が生徒会室に響いた。慌てて扉に目を向けると、一年生女子の生徒会役員が頭を掻きながら部屋に入ってきていた。動揺を悟られぬよう、表情を固くする。

 

「あれ?会長と……西住先輩?居たんですね」

 

「中に入る時はノックしろといつも言っているだろ。中に居る者が驚いてしまうだろう」

 

「やはは、すみません。でもなんで西住先輩がここに?しかも隣同士で」

 

「西住とは打ち合わせだ。隣に座って貰ったのは、逆からだと文字が読み辛いからだよ」

 

「なるほどー!りょーかいしました!」

 

こちらに向かって敬礼するこの後輩女子、入学して日が経っているはずなのだが少々落ち着きが無い。ついでに言わせて貰えれば、頭もちょっと足りてない。まあ、今回はそのお陰で助かったとも言えるが。

 

「てっきり会長と西住先輩が逢い引きしてるのかと思いましたよ~」

 

「……馬鹿な事言って無いで、仕事に戻るなり帰るなりしろ」

 

……前言撤回。この後輩、変なところで鋭いな。

 

「はーい!じゃあ私は仕事終わったんで帰りますね~。あ、先生が下校時間が近いから会長が居たら帰り支度する様に言ってましたよ」

 

「了解。西住、とりあえずさっきまでの内容で大丈夫か?」

 

「問題ない。後はうちの整備士との話し合いで目処が立ったら、また打ち合わせするとしよう」

 

「そうか、では今日はもう帰るとしよう」

 

ソファから立ち上がり、書類を会長席の引き出しにしまう。筆記用具だけ鞄にしまい込んだ西住も帰り支度が整ったようだ。一応生徒会室の中をグルッと見渡し、役員の鞄等が無いことを確認し生徒会室を施錠しようと部屋を出る。と、生徒会室を出たところで後輩が鞄を持ったまま待っていた。

 

「どうした?何か忘れ物か?」

 

「いやぁ忘れ物では無いんですけど、ちょっと会長に伝言がありまして」

 

「俺に?」

 

「はい、私の友達からなんですが。この後、少しお時間頂けます?」

 

「……大丈夫だ。西住、職員室に鍵を返してその用事を済ませる。すまないが、先に帰っていてくれ」

 

「了解した。それでは、また明日」

 

「ああ、また明日」

 

姿勢を崩さぬまま立ち去っていく西住を見送り、後輩の方を見る。少し驚いた様な顔をした後輩。

 

「西住先輩と一緒に帰る予定だったんですか?」

 

「遅い時間だからな。送るのは当然だと思ったのだが?」

 

実際、今は最終下校時刻の七時ちょっと前。夏が近付いて陽が長くなったとはいえ、女子の独り歩きを許容するには遅い時間だ。……まあ、登下校を共にするチャンスがなかなか無いので、遅くなる時は一緒に帰ると約束を取り付けていただけなのだが。

 

「本当に律儀というか真面目というか。……この後の用事、予想はついてますよね?」

 

「……ああ」

 

「だったらいつも通り、真面目に、誠実に答えて下さいね。柔らかい堅物さん?」

 

そう言った後輩の表情は、ふざけた呼び方とは裏腹に真剣で俺を見透かすのだった。

 

 

***

 

 

「……いつまでたっても慣れんな、こればかりは」

 

校門までの短い道のりを時間をかけて歩く。理由は、自分が泣かせてしまった女の子と顔を合わせ辛いからだ。泣きながら駆け出した女の子を見送る俺に後輩は、フォローするからあまり気にするなと言われたが、そういう訳にもいかない。

 

自分ではわからないが、どうやら女子からの人気があるらしい。自慢に聞こえてしまうかもしれないが、特に女子に声をかけているとかチャラチャラした雰囲気ではないはずなのだが。勿論、最低限女子への気配りはしているし、身だしなみも会長という立場上模範となるくらいには気を使っている。容姿に関しても、可も無く不可もないくらいだと自負している。だが、高校二年生に上がったくらいから女子からの呼び出しが増え、告白されることが多くなった。悪い事では無いのかもしれないが、自分が傷付けてしまうことに慣れることは出来ない。それに昔の俺の想い人であり、現在恋人のまほに変な罪悪感を感じてしまう。

 

校門を出て立ち止まりため息を吐き出しながら空を見上げる。太陽の光は隠れ、夜の帳が静かに降りてきていた。随分時間をかけて帰路についていたのだとぼんやり考えていた。

 

「遅かったな、会長」

 

「!?西住っ?帰ったのではなかったのか!?」

 

突然の声に驚き、目を見張る。校門から少し離れた所からまほがこちらに歩み寄ってきていた。

 

「お前を待っていた。一緒に帰ると約束していたからな」

 

「先に帰っていいと言ったじゃないか……」

 

「一緒に帰りたい気分だったんだ。……嫌だったか?」

 

「そ、そんなことはないが……」

 

「なら、帰るとしよう」

 

そのままスタスタと歩き出すまほの横に並び、街路灯の灯りの中を進む。何故待っていたのかという疑問とか、さっき告白されたばかりで少し気まずい気持ちがごちゃ混ぜになり、俺は口を開けずにいた。元々そんなに話しながら帰るわけでは無かった為、無言の雰囲気が気まずくならないのは幸いだった。ふと、いつも一緒に帰る時のルートとは違う道を通っていることに気付く。灯りの少ない、海沿いの通りへ向かう道筋で、まほの家に向かうにはかなり遠回りになる道だ。

 

「なあ西住、この道だと……ッ!?」

 

俺の疑問の声は右手を包む柔らかい感触によって遮られた。目線だけで手元を確認すると俺の右手をまほの左手がしっかりと握っていた。今までに無い行動の数々に目を白黒させながらまほに問いかける。

 

「に、西住。これは一体……」

 

「2人きりの時は名前で呼ぶ。そう決めたのはお前だぞ、幸(こう)」

 

こちらに視線を向けず、少し俯きながら俺の名前を呼ぶまほ。更に動揺する俺の手を強く握り、ポツポツとまほは言葉を零した。

 

「お前が呼び出されて告白されている事は知っていた」

 

「それを断り続けているのも知っている」

 

「だが、それでも不安なんだ。私から離れて行ってしまうんじゃないかと」

 

「……まほ」

 

まほの独白に俺の心は酷く傷んだ。まほの不安に気付かなかった、相手への思いやりが足りてない自分に腹が立つ。表情の変化に乏しく完璧に見える彼女とて、俺と同じ高校生なのだ。不安も悩みもある筈なのだ。西住流という大きな重荷を背負っているなら尚更。なのに、何もせず、ただ漠然と隣にいた俺は何をしていたんだ。何を見ていたのだ。後悔が幾つも膨らんで、自責の念で潰されそうになる。

 

「私にはユーモアや多くの趣味は無い。笑顔とかも得意ではないと思う。それでも、一緒にいてくれるか?」

 

「……当たり前だ!」

 

即座に言い切り、まほの手を強く握り返す。ビクッとしたまほがこちらを見返す。その瞳の凛々しさは鳴りを潜め、不安げに揺れていた。ここまで不安にさせてしまった後悔を胸に刻み、新たな決意を口にする。

 

「もう、まほを不安にさせない。不安だと思われる様な事も、しない。それでも不安だと思う事があったら言ってくれ。すぐに改善する」

 

 

「……ふふ、ああ、了解だ」

 

鈍い俺が出来る、精一杯の約束。不器用な俺の言葉に、まほは優しく微笑み返してくれるのだった。

 

いつもより遠回りの道を、いつもより時間をかけて歩く。それだけで、俺の心は満たされていくようだった。願わくば、繋がったこの手からまほにこの思いが伝わって欲しい。そう思った。

 

 

ーー後日、

球技大会の終了時、テンションが振り切った俺はつい口を滑らせ、まほとの交際が公になってしまった。まほからお叱りの言葉を受けたが、どことなく嬉しそうに見えた。




個人的にまほは不器用デレだと思います!
なので不器用×不器用を書きたかったのですが。作者も不器用な為、不器用どころか不格好になってしまい申し訳ございません。

年末年始は忙しいですね。社会人になってより一層そう感じます。

……え?クリスマス?仏教徒の自分には関係ないです(血涙)

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