学園艦の恋愛事情   作:阿良良木歴

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今回から書き方変えてみました。


年末年始の風物詩

ーー無礼講も程々にーー

 

「皆、今年一年ご苦労だった。今日は上級生も下級生も関係なく仲良く楽しもう。それでは、乾杯!」

 

『乾杯ッ!!』

 

 カチンと、グラスがぶつかり合う高らかな音がそこかしこで響き合う。知波単学園の一年で最後の登校日、その放課後は生徒だけで集まる忘年会が伝統的に開催されている。勿論、主催者側の生徒会及び戦車道隊長の西と軍事訓練教官の五十六が会場の設営や司会進行を務めていた。

 

「今年ももうすぐ終わりですね、五十六殿」

 

「そうだな。長いようで、あっという間だったな」

 

 会場である体育館の片隅、西と五十六は静かにグラスを傾けていた。勿論、中身はお茶や果汁100%ジュースなのだが、会場は酒が入っているんじゃないかと疑うくらいに盛り上がっている。規律厳しく真面目な知波単学園故の盛り上がりなのか、はたまた日本人の血がハメを外させるのか。しかし、去年よりも騒がしい様子に五十六はソワソワし始め壁から少し離れようとする。

 

「少し煩すぎではないか?注意を促してくる」

 

「良いではないですか。今年一年の締めくくり、無礼講であります。五十六殿も力を抜いたらいかがですか?……ね?」

 

「……そう、だな。多少の事は大目に見るとしよう」

 

 他の人からは見えない様に五十六の左手に指を絡ませた説得により、五十六は再び壁にもたれ掛かり西の手を優しく握り返した。騒がしい中で、そこだけ静かなピンク色のオーラに包まれていた。

 

「隊長呑んでるでありまふか~!」

 

「五十六殿も呑みが足りてないでありまふ!」

 

「お、お前らどうしたのだ?」

 

「どうもしてないれす!むむ!やはり五十六殿の腹筋はカチカチでありまふ!」

 

「!?」

 

 しかし、そんな雰囲気をぶち壊す様に呂律の回っていない福田と寺本が西と五十六に絡み始めた。上気した顔と過度なスキンシップに五十六は目を白黒させた。そこでふと、鼻につくアルコールの匂いに気づく。

 

「な、何故酒が混じっておるのだ!?」

 

「飲み物の調達は確か、幸徳殿と福田にお願いした筈だが……」

 

 福田は既にへべれけ。原因の解明の為、引っ付いてくる福田と寺本を押し退け幸徳をキョロキョロと探して回る。すると、案の定申し訳無さそうな顔の幸徳がグラス片手に立っていた。

 

「幸徳!どういうことだ!説明しろッ!!」

 

「それがねぇ。福田さん、水を入れた一升瓶と日本酒の一升瓶。間違えて持ってきてたみたいなんだよねぇ」

 

「……は?」

 

「ほら家、酒屋だろう?だから用意したジュースと水、一升瓶に入れてたんだけど、間違えちゃったみたいなんだよねぇ。あっははは」

 

「笑えるか!?どうするのだこの状況!学校で高校生の集団飲酒なんて!!」

 

「普通に考えたら警察沙汰だよね。まあ起きちゃった事だし、しょーがない」

 

「……幸徳、貴様も酔っているな?」

 

「酔ってないよ~。あれ、五十六。君いつの間に影分身なんて覚えたんだい?」

 

「戻ってこい!」

 

 原因はわかったが、事態の収集をつける目処は立ちそうになかった。周りを見れば、「この水おいしい~」と既に酔い潰れている者ばかりで役に立ちそうにない。西に助けを求めるのも男としてどうかと思った五十六だったが、背に腹は変えられぬと思い西の元へと戻る。と、

 

「西さん俺と休暇中遊びに行きませんか!」「いや僕と一緒に初詣に!!」「いやいや僕と大晦日を共にいましょう!」

 

「い、いや!私には五十六殿が……」

 

「……」

 

 酔いが回りに回って、西に言い寄る男の群れがそこにはあった。戦車道隊長で美人の西に男子生徒が群がって仕舞うのは当然の事だと認識し、怒りを周りに見せないよう押し殺す五十六。しかしそれとこれとは話は別、と無言のまま額に青筋を浮かべた五十六はズンズンと西の元へと歩みを進める。だが、

 

「い、五十六先輩休暇中の予定は決まっていますか?」「よろしければ一緒に初詣等如何でしょうか?」「私の実家が料亭なのですが、おせち料理を食べに来ませんか?」

 

「なっ!はあ!?」

 

 五十六の方にも女子生徒が詰めかけ、身動きが取れなくなっていた。五十六は自分の学園内での人気に疎く、こんなことになるとは思ってもいなかったようだ。常に無表情だが顔立ちは悪くなく真面目で寡黙、その上女性への気配りを忘れない五十六がモテないというのもおかしな話なのだ。

 

「待て!お前らは酔っていてだな……」

 

「そんなの関係ありません!私は五十六先輩とデートに行きたいんです!」

 

「あ、ダメよ!抜け駆けは禁止よ!」

 

 今まで経験のない唐突なモテ期に動揺を隠せない五十六。身を固くしながらも、体に触れる柔らかい感触と今まで嗅いだことのない甘い香りに少し顔が緩む。

 

(ま、まあ。一年の終わりだし少しくらい良い思いをしても良いのではーー「ひゃあぁ!い、今誰か私のお尻を触らなかったか!?」……)

 

ーートンッ。

 

 と、なんの予備動作も無く五十六は飛び上がり女子生徒の包囲を抜ける。そのままの勢いで男の群れに突っ込み西の救助にも成功する。そのまま体育館のステージへと無言で足を運ぶ。

 

「い、五十六殿?」

 

「……すぅぅ」

 

 戸惑う西とざわつく生徒を尻目にステージ上に立った五十六は息を吸い込み、

 

「注目ッッ!!」

 

『ビクッ!?』

 

 マイクで言うよりも大きい声を張り上げた。その声に生徒の大多数が背筋を伸ばし直立していた。

 

「まず言っておくが、俺と西隊長は恋仲だ。生徒諸君は周知のことだろう?」

 

「……(こくこく)」

 

 いつもと変わらない無表情の筈なのに、体から溢れ出す怒気に当てられ誰1人声を上げる事が出来ず頷くばかりだった。それを確認し、俯きながら頭を掻き言葉を探す五十六。

 

「まあ何が言いたいかと言えば……」

 

 そこで言葉を区切り顔を上げた五十六の眼光は怒りを伝えるには十分過ぎるほど鋭くなっていた。

 

「俺の女に手ぇ出してんじゃねぇ!!!!

 

男子全員、酔いが覚めるまで外入ってこいッ!!」

 

『は、はいッ!!!』

 

 既に酔いが覚めてしまってはいるが、逆らえる訳もない無力な男子生徒達は駆け足で外へと消えていった。

 

「い、五十六殿。助けていただきありがとうございます」

 

「気にするな。むしろ助けに行くのが遅れて申し訳ない」

 

「そう、でありますね」

 

「いつっ!?」

 

 隣に立つ西が五十六の背中を抓る。何故!?と驚いた五十六の目に飛び込んできたのは、笑顔なのに全く目の笑っていない西の顔だった。

 

「さっき女の子に囲まれていた時、随分嬉しそうでしたね?」

 

「あ……いや、それはだな」

 

「言い訳は後でじっくり聞かせて貰います」

 

「……はい」

 

 案外、尻に敷かれるタイプなのか。五十六は諦めたように肩を落とすのだった。

 

 

 

ーー酒ッ!呑まずにはいられない!ーー

 

 

『乾杯ッ!!』

 

 紫や白色の液体が入ったジョッキを高々と掲げ、周りにいる奴らとぶつけ合う。そのまま一気に煽り、ジョッキの中身を無くし机に叩きつけて一言。

 

「酒だコレ!?」

 

 アンツィオ高校年末恒例、屋台総出でのお疲れ様会。コロッセオもどきの中で一年から三年まで入り乱れてのこの会は、毎年何かしらの問題が起きる。去年は屋台に火がついて、そのままそれでキャンプファイヤーしちゃってたし。先輩に聞いた話じゃテンション上げすぎた先輩方が先生に喧嘩売りに行ってそのまま返り討ちに合ったとか、誰が一番ナンパ成功するか競ったとか。流石、ノリと勢いのアンツィオ高校。俺も見習いたい。そんでもって今年はのっけから酒、正確にはワインか。を、みんな一気に呑んじゃってるし。

 これ、警察沙汰とか大丈夫か?と、そんな不安を知ってか知らずか、愛しのペパロニがこっちに駆けて来ていた。

 

「おーいラザニア~!」

 

「あ、ペパロニ!お前は平気――っぶ!?」

 

「えへへ~。ラザニア~」

 

 あ、ありのまま今起こった事を話すぜ!

 顔を赤らめたペパロニがこっちに来たと思ったら、いつの間にか飛び付かれて俺の顔がペパロニの胸元に埋もれていた。

 な、何を言っているのかわからねーと思うが俺も何をされたのか分からなかった。頭がどうにかなりそうだった。柔らかいだとか良い香りだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。

 ⋯⋯まあ、何が言いたいかっていうと。嬉しい通り越して、脳のキャパオーバーっすわ。

 

「ペ、ペパロニ!おち、落ち着け!!」

 

「んん?ラザニアは頭からもラザニアの匂いしてんだな~」

 

「ぎゃあぁぁあ!頭の匂いかぐなぁ!?」

 

「なんでだ?私はこの匂い好きだぞ?」

 

「そのコメントは嬉しいが、そうじゃねぇ!!むがっ!?」

 

 さっきよりも強く抱き締め俺の頭に顔を埋めるペパロニ。そのせいで余計にペパロニの豊かな胸が俺の顔を包み込む。あぁ、幸せ⋯⋯って、そうじゃない!あ、でもこの柔らかい感触は忘れない様にもう少し堪能⋯⋯してちゃダメだろ!?酔いが醒めた後に何が起きるか、俺の出来の悪い頭じゃ想像できないが良い方向に行くことは無いと思う。名残惜しいが、無理矢理抜け出しペパロニの肩を掴む。

 

「いいかペパロニ、お前は酔ってるんだ。このままだとアンチョビの姉御の言うことに反するぞ?」

 

「?でも、姐さんもカルパッチョもあんな感じだぞ?」

 

「え?」

 

 そう言われ視線を巡らせる。そして見つけた。顔を真っ赤にしながらカッチャトーレの兄貴に抱き寄せられてる姉御と椅子に座るドルチェの上に座り幸せそうにドルチェの胸に頭を預けるカルパッチョの姿を。その他の連中もなんかイチャイチャしてるし。⋯⋯酒の力って怖いな。

 

「い、いやでも。アンチョビの姉御はどっちかって言うとカッチャトーレの兄貴が酔っててされるがままって感じだし。ドルチェに至っては仕方ないって諦めてる顔だぞ?」

 

「外は外、うちはうちだ」

 

「さっきと言ってること真逆じゃね?!」

 

 肩を押さえてるはずなのに頭をフラフラさせているペパロニ。ふと手元を見ると半分ほど中身のなくなったワインの瓶。

 

「ペパロニ!ワインはラッパ飲みするもんじゃねぇ!?」

 

「固い事言うなよ、ほら、ラザニアも飲もうぜ!」

 

「がぼっ!!」

 

 口の中に瓶を突っ込まれなすすべなく中身を飲み干す。ジョッキとは比べ物にならない熱が頭を焼き尽くす。世界が歪み、真っ直ぐに立っていられなくなる。ぐらつく足下を気合で立て直し、ペパロニに向き直る。

 

「何するんだペパロニ!」

 

「それ、壁だぞ?」

 

「⋯⋯ちょっとしたジョークだ」

 

 やばい。酔いの回りが思ってたよりやばい。ぼやける視界でようやくペパロニを捉えて、

 

「ペパロニ⋯⋯」

 

「んっ!⋯⋯えへへ~」

 

 抱き着いた。⋯⋯ってあれ?理性さん?仕事放棄!?

 そんなことを頭では考えられるのに、体は思ったように動かず俺はそのまま――

 

 

 

――冬の最終兵器――

 

 

 

「⋯⋯なあ」

 

「なんですの?」

 

「この部屋、寒くね?」

 

 大晦日の聖グロリア―ナ。その戦車道のお茶会の場所にいつもの面子が集まっていた。その中で肩を震わせたスミスが呟いた。実際、部屋には暖炉しかなく他の暖房器具は見当たらない。暖炉から一番遠い席に座るスミスはあまりその恩恵を受けてはいなかった。

 

「そうかしら?私は暖かいわよ」

 

「そりゃ田尻が一番近い席だからな」

 

「私も問題無いですね」

 

「そりゃ橙はお湯沸してるとこのすぐ傍だからな」

 

「私は少し熱いくらいですね」

 

「朝海は暖炉から離れろ」

 

 三者三様の反応を見せる中、腕を組み何か物足りないと悩むスミス。その袖をクイクイと引っ張り不機嫌そうな顔で睨むローズヒップ。

 

「あん?なんだよ?」

 

「何故私には聞きませんの?」

 

「んなもん、決まってんだろ。バカは風邪引かないって」

 

「バカでも寒さは感じますわ!!」

 

「まず馬鹿にされてることを怒りましょうよ⋯⋯」

 

 呆れた声を上げるオレンジペコを無視したスミスは閃いた。

 

「おお!そうだそうだ、あれがねぇんだ!」

 

 一人で納得し、部屋を飛び出していくスミス。静寂の満ちる室内でダージリンだけ、我関せずと言った具合に紅茶を飲んでいた。

 そして、数分後、

 

「帰ったぜ!」

 

「スミス?その抱えてる物は何?」

 

「何っておめぇ、見りゃわかんだろ。炬燵だよ」

 

 炬燵を抱え、部屋の真ん中に置いたスミスは早々にスイッチを入れ、どこから取り出したのかどてらに袖を通し蜜柑をセット。そのまま炬燵に潜り込み、大きく息を吐いてリラックスモードに入っていた。セバスチャンやローズヒップは見たことがあるのだろう、炬燵に入るスミスに続き、炬燵へと潜り込む。しかし、見たことがないダージリンやオレンジペコは興味津々といった様子でそれを眺めていた。

 

「なんでぇ田尻。炬燵しらねぇのか?」

 

「ええ。初めて見たわ⋯⋯」

 

「だったら入りな。おら、野薔薇。お前はこっちに入れ」

 

「ローズヒップですわ!⋯⋯って、スミスの隣にですの!?」

 

「流石に野郎と一緒に入るのは暑苦しいだろ?お前なら気ぃ使わねぇしな」

 

「⋯⋯少しくらい気にして下さいまし」

 

「ん?なんか言ったか?」

 

「なんでもありませんわ!」

 

「では、私はセバスチャンの隣に入りますわ」

 

「ダージリン様のお気に召すままに」

 

 そうして、全員が炬燵に入った。四面あるうちの一角にスミスとローズヒップ、対面にセバスチャンとダージリン。そしてその左右にアッサムとオレンジペコという形で何とか収まっていた。ダージリンやアッサム、オレンジペコは最初はおっかなびっくりといった様子だったが、すぐに炬燵の魔力に犯され天板にもたれ掛り幸せそうな顔をしていた。慣れているスミスとセバスチャンは天板の上に紅茶のセットを置き、ミカンの皮を剥いていた。

 

「ほれ、野薔薇。口開けろ」

 

「なんですの?ーーんぐ!?」

 

「この蜜柑、甘いだろ?だからお裾分けだ。ほら橙も食え」

 

「じ、自分で食べます!」

 

 放心状態で顔を赤くしているローズヒップと奪うように受け取るオレンジペコ、そして面白いものを見る目のダージリン。いつもの日常と化した光景が繰り広げられていた。

 

「ス、スミスにも食べさせて上げますわ!」

 

「おお、ありがてぇ」

 

「ひゃぁ!?」

 

 仕返ししようとしたのだろう、ローズヒップの指先にあった蜜柑をスミスは指ごと口の中に入れ、食べた。当然、ローズヒップの復讐は失敗に終わり、生暖かい感触が残った指先を見つめ固まっていた。

 

「そいや、そろそろ紅白の時間じゃねぇか。テレビつけようぜ」

 

「私も紅白見たいですわ!」

 

「嫌よ。今日は笑ってはいけないを見るのよ。ねぇアッサム?」

 

「もちろんです」

 

「ええ~、私は紅白のほうが良いと思うんですが⋯⋯」

 

「私はダージリン様の御心のままに」

 

「⋯⋯ねぇセバスチャン。今日はやけに素直だけどどうしたの?」

 

「いえ。ただダージリン様が笑ったら私が僭越ながら叩かせて頂こうと思いまして」

 

「!?」

 

 騒がしくリモコンの奪い合いが始まり、そのまま夜が更けていく。

 聖グロリア―ナの戦車道のいつもの場所のいつもの面子。ここのメンバーは自分たちが思っている以上に仲が良い。




おまけ(超短め)

ーー知波単学園ーー

「くどくどくど⋯⋯」

(いつまで続くんだろう、この説教)


ーーアンツィオ高校ーー

――チュンチュン

「⋯⋯うっ。頭いてぇ⋯⋯ってあれ?」

「⋯⋯すぅ。⋯⋯すぅ」

(抱き締めたままに寝ちゃってたぁ!?)


ーー聖グロリア―ナーー

「ダージリン様!年越しの瞬間ジャンプしませんこと!?」

「あら、面白そうね」

「アッサム様がお休みになられているので、静かなほうがよろしいかと」

「⋯⋯すやぁ」

「お蕎麦出来ましたよ~」

(⋯⋯纏まりねぇな、俺たち)


というわけで、二つだけ。

年明け前に投稿するべきだったw

そして

お酒は二十歳になってから!!


というか、恋愛ってタグ付けてるのに聖グロはただの日常っていう⋯⋯。

それでも楽しんでいただけたのでしたら、また次回。

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