仮題・・・恋姫世界に幕末日本をぶち込んでみた。   作:3番目

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84話 徳川大日本帝国ダークサイド④ 黒い太陽計画②

「ところで、家茂さん。この黒い太陽計画って何ですか?」

 

七乃が家茂にそれを聞いた瞬間、家茂は周囲の温度が変わったかのように思えるほどに冷え切った声で口を開く。

 

「余の臣の中に病や薬に詳しいものがおって、この度の戦でこれらの実証実験しておきたいと言うのでな・・・・・。許可することにした。」

 

まさか、疫病を武器にするとは思ってもみなかった七乃は家茂の言ったことが一瞬理解できなかった。

それを察した家茂が少しかみ砕いて説明をする。

 

「揚州の農村部に病の種をばら撒かせた。しばらくすれば農村部で病死者がでるだろう・・・・・・飢餓で苦しむ中、疫病まで発生すれば揚州は大いに混乱する。その間に我らは力を蓄えればよい。」

 

「はは、あははは・・・・・・・・・・・・家茂さん、怖すぎ・・・・・・」

 

家茂の発言にさすがに七乃も乾いた笑いを浮かべるのが限界だった。

 

「揚州の敵を減らす一助になるだろう。感染条件から見てもそう広がりはしまいて・・・・・・。君や美羽が早く大陸に戻りたいと思っているのは理解している。」

 

 

しかし、家茂の予想に反して揚州では飢餓と相乗し大感染を引き起こす。

周辺領主は病気の感染経緯など分かりはしないがこう言った疫病に対する昔からの対応なのか該当地域の人間を領内に絶対に入れないようにするというのは大昔から変わらない。

 

徳川幕府経由でチフスの脅威を知った蘆陵袁術軍や越国は当然として、帝を預かる曹操はその責を全うする大義があるため徹底して国境を封鎖、先の領地争奪戦で孫策に恨みを持った劉表も暴力を持って封鎖した。この結果揚州だけがひどい目に合う事となった。南揚州は飢餓輸出を行った為に干殺し状態に、北揚州は飢饉こそ被害を抑えられたが防疫に失敗(そもそも手段がない)し疫病に喘ぎ苦しむ状態であった。揚州は総じて阿鼻叫喚の地獄絵図であった。

 

 

しかし、ここまでの悲劇によって旧袁術領の領民達は我慢の限界を超えてしまった。旧袁術領柴桑では悲鳴に近い叫びで袁公路の帰還を望む声が上がり、それにつられて他の旧袁術領も含めた地域で反乱が発生した。これが鎮圧されると民が美羽の帰還を声高に叫び今後の孫策軍に手を貸してくれることはないだろう。

美羽自身もそれを望んだこともあり、台湾袁術軍より蘆陵袁術軍及び各地に潜伏する袁術軍残党に決起を促す檄文を飛ばし遂に台湾袁術軍が旧領奪還に動いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、この出来事を誰よりも喜んでいるのはこの男、加賀藩藩主前田慶寧である。

富山藩藩主前田利同、大聖寺藩藩主前田利鬯、他重臣達を集まっている加賀藩金沢城表情の間では、彼は実に誇らしげに今後の事を語るのであった。

 

「上様も、大政参与様も我らの疫病兵器や毒薬兵器の真価を認めて下さった。我々は研究を進めて一刻も早く大量の生産に入らなければならない。帝国では漢王朝をはじめ、西方のローマもいまだに勢力を保っている。他にも有象無象の不逞の輩も多い。我らの帝国の覇権の為に皆にはより一層の努力をしてもらいたい。」

 

「「「「はい!」」」」

 

「では、さっそく我々は各部署に戻り部下たちに叱咤激励をして参ります。」

利鬯と重臣らが慶寧に答えて退席する。それを慶寧は満足げに見送った。

 

慶寧と利同がその場に残される。

「ローマでの痘瘡のばら撒きは上手くいったようですね。」

「ああ、だが我々の予想以上に広がったようで、幕府の上層部では人の手で制御が可能なのかと疑問視する声が上がっているそうだ。だから、我々は次の揚州の騒乱で多くの捕虜を手に入れて人体実験を早く実施してだな、兵器の大量生産を軌道に乗せねばならん。これまでは蓬莱や南天の非文明人の罪人を使っていたが、最近の実験は口外出来ん物も多い。一応彼らは友好勢力なのだ。これ以上彼らを使う訳にはいかん、それに比べて戦争捕虜なら人権等あって無き者、西方ローマ人がこれにあたるがいかんせん距離があり過ぎて輸送中に体を壊してよい品質のものが少ない。だが、隣の大陸ならばこれまでの検体の不足を補えるはずだ。」

「しかし、袁公路様・・・御台様の陣営には孫仲謀が居ますよ。」

「それは、上様達がうまくやってくださるだろう。ただ、検体の確保は自分たちでやるようになるようだ。今回の派兵も揚州防疫給水本部付きの兵としてらしい。南方の南天防疫給水本部創設以来、これは我々の仕事だ。それは今後も変わらんだろう。」

「手間ですが、仕方ないですね。」

 

 

二人は、そのまま富山藩内の地下施設へ移動する。

施設では大聖寺藩の藩主前田利鬯がすでに到着しており二人を出迎えた。

 

施設では加賀藩・富山藩・大聖寺藩の出兵が決まり、武器の生産製造が始まっていた。

大聖寺藩から動員された作業員たちが、生産された青酸を小瓶に詰めている。これは自決用ではなく、戦場での武器の殺傷力を高めるために刀や銃剣に塗るためのものである。

 

彼らは作業を指導する藩士達から説明を聞きながら次の部屋へと向かう。

 

 

次の部屋では大量の鉄製の容器、つまりガスボンベが並べられている。それを指さして富山藩士の一人が解説をする。どうやら彼がこれの研究開発の担当者の様だ。

「えぇ、右から青剤・赤剤・黄色剤・緑剤・茶剤です。赤剤はジフェニルクロロアルシンとジフェニルシアノアルシンの2種類ですが特に区分けはしてません。黄色剤も同様です。あと茶剤は塗布毒薬として使うことが決まりましたので今後はすべて武器工廠へ送られます。」

 

「ルンサイトは即効性、マスタードは遅効性です。この二つはきちんと区分けしておいてください。使うときに困りますので。それとケイ素ゴム製の防護服はどうなりました?これは浸透性が高いので従来の防護服では対応できないはずですが?」

利同が説明役の富山藩士に話しかける。

 

「ケイ素ゴムは発見されてから日が浅く、研究も手探りなのですが・・・試作段階のものがいくつか・・・」

「仕方ありませんね。我々用に少数で構いませんから作るように。そういえば、白剤もありませんね。」

そこに関しては慶寧が補足する。

「白剤は定敬様を通して幕府の航空艦隊へ送った。紺久利威武(コンクリーブ)弾以外の面制圧可能な弾薬と言うことで焼夷性で発煙性も高い白燐弾を使いたいとのことで、そちらに融通することになった。なんでも、西方統監府軍がアナトリア戦線で持ち出すとのことだ。・・・・・・?」

 

慶寧の耳に少々やかましい声が聞こえてくる。

 

「これはなんだ!!」

「人間です!!」

「馬鹿者!!」

 

声が大きいため扉越しにも聞こえて来る。

 

「なんなんです?あれは?」

利同が困惑気味にドアの方を指さす。

「利同様、覗かれますか?」

利同が慶寧の方を見て彼が頷いたのを見てから通す様に利同が扉の前の加賀藩士に開けるように指示する。

扉を開けると様子が見えてくる。

 

「これはなんだ!!」

「悪い人間です!!」

「違う!!これは丸太だ!!薪に使ったり、木箱の材料にする木の丸太の事だ!!ここでの実験材料だ!!これはなんだ!!」

 

「ま、丸太です。」

「声が小さい!!」

「丸太です!!」

「全員で!!」

「「「「「丸太です!!」」」」」

慶寧は興味なさげに無表情で、利同は呆れ混じりで、利鬯はうんうんと頷きながらその様子を眺め、感想を述べる。

 

「しかし、面倒な作業です。科学の進歩には犠牲はつきものなのに・・・。変な道徳観で躊躇するなんて・・・。」

「しかたあるまい、凡夫にはそれが理解できんのだ。」

「ですが、彼らも凡夫なりによくやってると思いますがね。」

 


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