仮題・・・恋姫世界に幕末日本をぶち込んでみた。   作:3番目

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80話 袁公路の意思と孫仲謀の決断

琉球王国領台湾島基隆の迎賓館。

翌日到着した外国奉行栗本鋤雲ら外交官を加えた家茂ら徳川幕府と汝南袁家亡命政権代表の袁公路とその家臣、さらに協力国の一つとして琉球王国台湾代官具志堅椎らの間で会談が持たれた。

 

 

「家茂公は袁公路様の旧領回復に全面的に協力すると仰られております。幕府としてはそれらを踏まえて、袁公路様のお答えをお聞きしたい。」

栗本が美羽達に向けて質問する。

 栗本としては軍政の実権を握っている張勲に話しかけたつもりであったが意外にもそれに答えたのは美羽本人であった。

 

「妾の領地は汝南袁家と徳川の協力で豊かになった土地じゃ・・・、妾と新(家茂の真名)で創った地なのじゃ・・・。それを劉表や孫策の様な者達に民達が無暗に荒らされるのは嫌なのじゃ・・・。まるで、妾たちの思いが穢されたような気がしてすごく嫌なのじゃ・・・。妾の民は妾達で救ってやらねば・・・ならぬと思うのじゃ。」

 

 美羽はまだ本調子でないため途中で息が切れて途切れ途切れになってしまっていたが、 それを聞いた栗本は今まで年相応の子供として見ていたが、その評価を改めることにした。

自分の手で領地が潤っていく様子をその眼で見て理解し、その達成感が彼女を凡庸なれど良君へと成長させたのだろう。

 

「お嬢様の愛した領民の暮らしは、徳川と汝南袁家の貿易利益があってこそ維持できたものです。この貿易の流れが汝南袁家以外の支配者では維持できるとは思えません。領民達もきっと美羽様の御帰還を望んでいると確信しております。」

 七乃が美羽の言葉に付け加える。

栗本もそれに関しては同意見であった。

汝南袁家の領地で行われていた税制は二公八民、これは徳川と汝南袁家の間で行われる国家貿易による莫大な利益によって民から税を多く徴収する必要が無いからだ。さらに、民に多く財を持たせることで領内の市場に財を落とさせ、領内及び袁徳間の経済を循環させる効果もあり結果、汝南袁家は理想的な運営が行われていたのだ。

さらに、民の暮らしは旧来の日々をただ生きるだけで精一杯だった暮らしとは様変わりし、一般の民ですら多少の贅沢品を買えるくらいまで向上したのだ。さらに、袁公路が大方針として芸術文化都市化を推進していたために民達は趣味の領域で絵画や陶芸、音楽に親しんでいた。これは辺境の村にも最低一つの弦楽器が置いてあるほどに徹底されていた。

 

 栗本は手持ちの資料や本国から預かっている各種証文などを何度も見返して思考を回転させる。

「確かに、汝南袁家でなくてはこの流れは維持できないでしょうな。部外者の手によって我々が今まで積み上げてきたものを壊されぬように領土回復を急ぐべきと言う事ですかな?」

 

「はい、その通りです。ですが、それだけではありません・・・明命さん。」

栗本の問いに七乃は明命に情報を上げるように促す。

 

「はい!申し上げます!汝南や汝陰と言った劉表によって占領されている地域では反袁家的な政策を前面に押し出し、民草に本来の職務を全うさせる名目で税の引き上げから始まり、一部財産の没収。庶民の芸術文化を否定し絵筆や楽器類の没収が行われているとのことです。民草は劉表の政策に不満をあらわにしています。税の引き上げや財産の没収は孫策の占領下でも行われているようです。」

 

明命の報告が終わると同時に七乃が続けて話す。

 

「私達の統治していた時代が特に長い汝南に汝陰、それと蘆江の民達は汝南袁家の統治していた夢のような時代を忘れられない・・・。地獄の様な昔に引き戻した彼らに憎しみすら持つでしょう。いずれ民の不満は爆発し占領軍とこれらの民による戦いが起こってしまうことは必定です。」

 

彼女達の話を聞いた栗本は何度か頷いてから彼女達に言葉を掛ける。

 

「なるほど、袁公路様の領地回復が遅れれば遅れるほどに我々の貿易利益が損なわれることは理解しました。それに、汝南袁家に従順な民の減少は今後の我々の計画にも差しさわりが出る。徳川と汝南袁家の損害は計り知れないものがあることは承知しました。我々としましても可及的速やかに対処することをお約束しましょう。」

 

栗本の言葉に安堵の表情を浮かべた汝南袁家の一行。その間から不安そうに蓮華が声を上げる。

「このような時に、勝手なことを言う様で心苦しいが徳川からの孫家に対する処遇はどうなるのだろうか?」

 

「そうですな・・・・。孫家の孫伯符は恐れ多くも徳川将軍家茂公の御台袁公路様の御身に傷をつけた。このことは許されざる暴挙と言っても過言ではない・・・。しかし、その袁公路様の御命を救いここまで守り抜いたの孫家の孫仲謀。孫仲謀は孫伯符の妹であると同時に袁公路様も篤く信頼なさっている、これは非常に難しい事柄と言えましょう。この事実はあまりにも複雑・・・当事者のみが判断できる内容でしょう。故に孫家の存続及び処遇は徳川は一切関知しないものとします。すべて汝南袁家の差配次第とします。よろしいですか?」

 

栗本の言葉に七乃が美羽に目配せをする。

「うむ、妾はそれで構わんのじゃ。蓮華よ・・・悪いようにはせぬ故、今一度妾のために骨を折ってはくれぬかの・・・?」

 

「美羽・・・。」

 

美羽の言葉を聞いた蓮華はその場で膝をつく。彼女に付き従っていた思春と亞沙も同様に膝をつく。

 

「袁公路様の私達ひいては孫家に対する格別な御計らい誠に感謝の次第に絶えない限りでございます。しかし、孫家は姉の主導によって袁公路様の恩を仇で返したばかりか御命をも狙う始末・・・。孫家の次女として孫家の汚名を晴らしたうえで大恩に報いるためには、汝南袁家の下でお仕えし領土回復の一助となる事こそ正しき道と思い至りました。なにとぞ、我が剣を受け取っていただきたく思います。」

 

 蓮華としては美羽と共に台湾まで着いて行くと決めた時からこうするつもりであった。ただ今までそれを告げる機会に恵まれなかったのだ。孫家を守るためにも自分が正しいと思った道へ進むのだ。

 

「うむ、ありがとうなのじゃ。」

 

ある意味で大きく歴史が変わったと言っても差し支えない状況に立ち会うことが出来た栗本は感慨に浸っていた。

 

 

「あ、あの皆様・・・お話もまとまったようですので・・・続きは次回にでも・・・ささやかながら宴を用意させていただきましたので。」

 

あえて空気を壊したであろう具志堅の言葉で話し合いの席は終わりその後小宴会を皆で楽しみ、各々床に就くのであった。

 

 

 


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