仮題・・・恋姫世界に幕末日本をぶち込んでみた。 作:3番目
袁術軍南進軍にも『袁公路死す』の報が流れる。
揚州南部で孫策軍及び王朗軍などの反袁術勢力と戦っていた紀霊の軍や劉備軍にも袁術死亡の情報が流れる。
袁術死亡の報を聞いた仕士は聞いた瞬間に表情が消え、終いには完全に目が死んでいた。
報告を告げる風としても次々と入ってくる情報を伝えるたびに目のハイライトが消える上官を見ているのは辛いものがあったが、職務上伝えて指示を出してもらわなければならない。
風が一通り報告を終えると仕士がようやっと口を開く。
「私は今まで汝南袁家に御仕えして今の立場にまで昇進したのであります・・・。それが、それが・・・使えるべき主を失ってしまったのであります・・・私は・・・何のために・・・」
そう言うと仕士が視線を落とした。
「仕士様・・・。美羽様が亡くなられ、七乃様の安否もわからない今、貴女が袁術軍の最高位です。本隊・東進軍が壊滅し、寿春・汝南が劉表軍によって攻め落とされたとのことです。蘆江と柴桑にて再編中とのことですが、兵力は殆どありません。ですので、纏まった兵力を保有している我が南下軍のみが唯一無二の袁術軍となります。仕士様・・・ご命令を・・・」
完全に肩を落とした仕士が口を開く。
「劉備殿が落とした蘆陵の城まで撤退・・・・・・・・あとは、風に任せるのであります。私は・・・なんだか・・・すごく疲れたのであります。もう、休ませてもらいたい・・・・」
「お疲れ様なのですよ~。ゆっくり休んでください、あとは風が頑張ってみます。」
風が退室するために扉を開けると楽就や雷薄ら親衛隊の将がこちらを心配そうに伺っていた。そんな彼女達に風はただ首を横に振った。
袁術軍南下軍の士気は最低の状態であった。
一方の劉備軍は、風より交換条件を持って劉備軍は南下軍より離脱して益州へ向かっても良いと言い渡された。
その交換条件とは・・・
風は蘆陵の自分の執務室に劉備軍の総大将格の劉備と北郷一刀、筆頭軍師の諸葛亮と龐統、さらに武将の筆頭である関羽を呼び出し伝えた。
「劉備軍の皆さん・・・衰退の憂いに合っている袁術軍に付き合う必要もないでしょう。」
「そ、そんなことないよ!皆で頑張ればきっと良い方向に!!」
「そうだ、我ら桃香様の下に集った武人は皆、一騎当千の兵揃い。紀霊殿の軍と我らの軍が力を合わせれば。敵は退けられます!」
風の言葉に形式的な物もあるのだろうが風の言葉を否定する劉備と関羽。
そんな二人の言葉を聞いても心動くことなく風は二人にそれは無理だと告げる。
「確かに劉備さんの所の将は一流の武の天才ばかりです。確かにこのまま継戦すればしばらくは戦えるでしょう。ですが、皆さんの忠誠は私達の主、袁術様ではなく劉備殿に向けられているもの・・・劉備殿がそう決断したのですから劉備軍の将の方々も従うでしょう。ですが、本来の忠誠を向けていない相手のためにいつまでも戦えるものではありませんよ。ですので、早いうちに袁術軍から離脱されてはどうでしょう?」
諸葛亮と龐統は風が何を考えているのか目と耳を向けて頭を回転させているのであろう。風から一切視線を動かさない。
一方の三人は図星を突かれ、後ろめたさもあるのか、しどろもどろになっている様だ。
そんな三人に代わり諸葛亮が風に話しかける。
「程昱さん、私達の軍は確かに袁術軍の皆さんにとっては別の軍に違いありません。ですが、極めて友好的な存在であり、強力な味方のはず。正直なところ不利な戦いをしなくてはならない袁術軍から離脱できるのはこちらにとって悪い話ではありません。むしろいい話ですがそちらには利はないはず。離脱するのには何か条件があるのでは?」
諸葛亮に言い寄られ、その横にいる龐統にも不審な目を向けられた風は手元に置いてあった棒付き飴を舐め始め、そのまま話し出す。
「・・・・・・はぁ、相変わらず軍師のお二人は鋭いですねぇ。本当は劉備さんあたりが私達に何かできる事は~とか言い出してから切り出そうと思っていたのですが・・・・。そうですねぇ、離脱する条件は交州制圧中の越族の制圧完了まで彼らを手助けして欲しいのですよ。」
諸葛亮と龐統はやはりと言いたげな表情と態度で風を見た。
「なんで、窮地に立たされている袁術軍が他国の心配などしているのだ?」
「????」
等と劉備と関羽はあまり理解できていない様だ。
そこに北郷一刀が手をポンと叩き声を上げる。
「なるほど、完全に繋げるのか蘆陵の袁術領と交州の越国を!!」
北郷の言葉を聞いて劉備はまだピンと来ていないが関羽の方は理解したようで表情がキリリとしている。
「えぇ、その通り。我々蘆陵の袁術軍が敗れれば次は交州の越国、彼等とて直接孫策軍とは戦いたくないでしょう。ですので彼らは自分達と孫策の間の障壁に私達の存在は必要不可欠なのですよー。劉備さん、そう言うことなのでよろしいでしょうか?別に交州にずっといろとは言いません、ただ益州へ行くついでに越の不穏分子を潰して回って欲しいのですよ。」
それを聞いた劉備達はそれを了承して、蘆陵を後にした。
風は蘆陵の外壁から出立していく劉備軍を見送る。
「袁術軍が何らかの形で再興することは間違いありません、時間は私達の味方・・・。美羽様がご存命なのが最善、次善は七乃様が再興を宣言されること・・・。最悪は台湾島にいる婿殿が怒り狂って大陸に侵攻してくること・・・。」
風は遠くを見つめながら独り言をつぶやいた。