仮題・・・恋姫世界に幕末日本をぶち込んでみた。 作:3番目
開会式の後、孫権は徳川家茂の演説についていろいろ考えさせられるものであった。
ただの人間の理想のなら、それは妄言だ。
だが、このような場であれだけの称賛を受けた人物の理想なら、実現性も十分にある。
彼女自身の気質も孫家の中では異質ともいえるほどに武力ではなく政治や外交の力で物事を解決しようとする気質があった。
もともと、漢の者達が持つ差別意識と孫呉の武に対する執着に近い強すぎる自信が外敵を作りやすい傾向にあることを彼女は理解してきた。
その結果、自分の母は劉表の部下黄祖によって越との対立で地盤が安定していないところを狙われて謀殺された。
あの時、地盤を安定させることができていれば結果は違っていただろう。
そもそも、劉表が怪しい動きをしていたことも孫呉の優秀な軍師達はある程度察知していた。その時の母、孫堅の判断は武をもって退ける事を表明し越への攻撃を継続した。姉の孫策もこれを支持した。
孫権は、当時母に越との和議を進言し、地盤を固めて劉表に備えるべきだと訴えたが退けられた。彼女は和議を結んでいたらと思うことが今でもあった。だが、姉の孫策はあの時もっと積極的に越を潰しておけば、母は死ななかったと思っている所がある。
そう言った経緯もあって、孫策と孫権はことあるごとに意見が食い違うことがあった。
姉と意見を戦わせると彼女は押しの弱い性格から折れることが多かった。
だが、徳川家茂の演説を聞いて確信した。
孫呉は変わらなくてはならないと・・・
「袁術殿、張勲殿。お願いしたいことがある。」
「はい?なんでしょうか?」
突然声をかけられた張勲は少々驚いたようだ。普段の彼女なら嫌味や軽口の一つや二つ出てくるはずだ。
「孫呉の頭首の妹として、越との会見の場を設けたい。つきましては汝南袁家に仲介をお願いしたい。」
「蓮華様!?なりません!そのような勝手な行動は!?」
孫権の行動に甘寧は待ったを掛けた。だが、孫権は毅然とした態度で甘寧を制した。
「思春、貴女も聞いたでしょう。徳川家茂の演説を?彼の言葉の意味が分からないとは言わせないわ。もし、孫呉がこのまま強硬な手段に訴え続けるようなら、気づいた時には周りの全てが敵になってしまう。そうならないためにも必要なことなの。」
それを聞いた甘寧は伏して一歩下がった。
「わたしは蓮華様の臣、蓮華様に従います。」
こうして、袁術と張勲の取り持ちで亜細亜館の1室で越との会見の機会が設けられた。張勲の同席で、袁術は体調不良でこの場に立つことはなかったが・・・
越側の交渉席には費桟将軍と立会人として室利仏逝の室利仏逝王国宰相グワン・サンフサイと徳川日本国大多喜藩藩主松平正質の二人が付いた。
「今回の関係改善はあなた個人の意思としか受け取らない。だとしたら孫呉の正式な意思としては戦闘継続なのではないか?」
費桟将軍の突き放す様な言葉が刺さる。
室利仏逝王国宰相グワン・サンフサイは黙って事の成り行きを見守るばかり、徳川日本国大多喜藩藩主松平正質に関しては孫呉を非難する言葉が出ている。
「現在の孫呉は、汝南袁家の傘下にあります。袁術様の代理である私の意見を述べさせていただくと、袁術様は越並びに南方諸国との関係には徳川日本国に次いで非常に重きを置いています。その、袁術様の傘下の孫呉の意見の決定権も袁術様が握っております。つまり、今の孫呉の意見は、こちらの孫仲謀が言う内容で間違いないとお考え下さい。」
「なるほど、汝南袁家が孫呉の言葉に責任を持つという事か?」
「はい」
「費桟殿、これは・・・」
松平正質が何やら費桟に耳打ちをする。
「わかりました、張勲殿、孫仲謀殿。越の全権大使として孫仲謀の和議の提案をお受けします。ですが、条件があります。」
「それは?」
孫権が息をのみ費桟の答えを待つ。
「越国は孫仲謀殿個人を信じます。つまり、この和議の履行条件は孫仲謀殿、貴女が孫呉の実権を握った時、もしくはそれに類する権力を持った時に限ります。これ以上の譲歩はできません。」
「室利仏逝王国は越国側が最大限の譲歩をしたと判断しましたぞ。孫仲謀殿はどう返される。」
「わかりました。私はそれで構いません。」
孫呉と越の和議は成った。
だが、それは孫策と孫権の明確な対立と言う事を意味していた。孫権自身は孫策を説得するつもりなのだろうが、孫策は孫権の説得に耳を貸す人物でもない。この時、孫権は孫策と道を違える事は運命付けられたことなのであった。
この会談が後に徳川日本国、汝南袁家、越国他近隣諸国を巻き込む騒乱の原因になるとは誰が予想できたであろうか。
一方、袁術は心ここにあらずであった。
己の恋した男が、天下に名を轟かせる大国徳川日本国の国家元首であったのだ。
自分より下の男を愛してしまった身分違いの恋だと思っていたら、真逆も真逆相手の方がはるか天上の存在であった。
「妾は・・・どうすればよいのじゃ・・・。嫌じゃ・・・嫌じゃ・・・妾は新と別れとうないのじゃ・・・。」
自分の読んだことのある書物には身分違いの恋をした場合、下の者があきらめて、別れると言う悲しい結末を・・・
たまに、駆け落ちと言う結末もあるが、自分も家茂も責任ある身で下りれば困る人があまりにも多すぎる。
「新・・・新・・・妾はぁ・・・」
ギィ・・・
扉の開く音がする。
「七乃か?今は一人にしておいて欲しいのじゃ・・・」
「美羽、泣いているのか?」
家茂の姿を見て、その胸に泣きながら飛び込む
「し、新!?わ、妾は主と別れとうない!!別れとうないのじゃぁ・・・」
「美羽・・・、俺はお前と別れようだなんて思ったことは一度もないぞ。」
「新・・・」
涙を拭って家茂の方を見る美羽。
「美羽、これを・・・」
家茂が美羽の首に首飾りを掛ける。
「新、これは・・・」
「美羽、この首飾りをどうか。婚約の証として受け取ってくれないだろうか。」
「も、もちろんじゃ。新の方こそ、妾で良いのかや?」
「ああ、美羽。お前しかいない、お前じゃなきゃダメなんだ。」
「新、いえ旦那様。美羽は、旦那様の事をずっとお慕いしております。これからもずっと・・・」
ヒュ~ ドン!!! パラパラパラ ヒュ~ ドン!!! パラパラパラ
窓の外では、花火が打ち上げられ夜空を美しく彩っていた。
「そういえば、これを二人で見ようと思って来たんだったな。」
「旦那様・・・」
美羽はうっとりと花火に彩られる夜空を見つめていた。
そんな、彼女の頭を愛おしそうになでる家茂の姿は、愛し合う夫婦の姿であった。
また、この婚姻の証のネックレスは以前希望大陸に派遣した調査隊が持ち帰ったもので約3100カラットのダイヤモンド(これを超えるダイヤモンドは発見されていない)の原石を夫婦二等分してそれぞれ約1500カラット(300グラム)にしたうちの一つを中央の胸の位置に配し、その画に翡翠を使い、それ以外の部分を国産の1センチを超える大粒の真珠玉で飾った現在の額でも鑑定不能な金額になるであろう狂気的なネックレスであった。ひもの部分も金箔ではなく金そのものを糸状にした金糸を使うキチガイぶり。この後もこれを超える宝飾品は存在していない。
文醜はと言うと、様々な展示館を回り、他の国の民族と一緒になって踊ったり、出店している屋台で大量に買い食いしたりしていた。
夜は広場の宴会場で10合にも及ぶ複数の種類の酒をチャンポンして酔いつぶれていた。
ちなみに、式典の時は寝ていた。
こうして、長い様で短い国際万国博覧会は幕を閉じた。
おまけ
日本館のもうひとつの展示会場鳳凰殿で上映されたシネマトグラフの様子。
大きな布に映し出される映像。
大型の蓄音機から流れる音楽。
弁士の雄弁な語りが耳に入ってくる。
「かくして徳川日本国は世界の海運を担っているのです!!そして、軍は各地の港湾維持、情勢不安地の治安維持、同盟国への支援と世界各地で活躍しているのであります!これにて徳川日本国世界への飛翔編は終了とさせて頂きます!ご静聴ありがとうございました!」
このシネマトグラフの講壇は多くの来場者が見られた。
今度こそ、次回からは反董卓連合編です。
万博編結構長かった。