仮題・・・恋姫世界に幕末日本をぶち込んでみた。   作:3番目

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39話 家茂の野望

 秋深くなり冬の寒さが少し見えてきた時期、家茂がすべての日程を終えて戻ってきた。

 数日後、江戸城白書院にて幕府重鎮及び大老、大政参与、老中衆、参与衆、幕府重臣、藩主議会の大物議員・国内有力商社会頭による食事会兼会議が催された。

 

「どうも、これはこれは・・・」

「本日はよろしく頼みます。」

「舟遊び以来でしたか?」

「このたびの行幸は大変だったようで・・・」

 等と各々好き勝手に話していた。

 

 小姓達が御先附を持ってくる。

 全員の席に運び終えるとそそくさと部屋の隅へ、もしくは退席する。

 家茂がまずは音頭を取る。

「このたびは、お集まりいただき大儀!!まずは飲んでくれ!!乾杯!!」

 家茂が酒を飲んだのを皮切りに皆が猪口に入った日本酒を飲み干す。

「食しながらで構わんので聞いてくれ、この度のパルティア出兵は非常に重要な意味合いがある。国家の共同軍を編成したことは余の悲願である国家間共同体の創設の第一歩となるものであり       ・・・・・略・・・・       である。」

 

 一通りの演説が終わると雑談タイムである。

 再び思い思いに会話を始める。

 家茂の周りには小栗忠道、栗本鋤雲、勝海舟、岩瀬忠震、村垣範正、井上清直、水野忠徳、永井尚志と言った比較的若手が集まっていた。

 先進的で自由な発想を持った家茂は長年続いていた慣習や伝統の大半を形骸化させた。

 以前ならば、会食の席で会議など行わなかったし、席の移動などもってのほかだった。それに彼らのような若手が政権上役になることもあり得なかった。

 この思い切った大改革がこの日本を安定化させたのだ。維新戦争で過激な尊王攘夷派をせん滅した家茂であったが、その直後に起こった。転移と言う天災によって早急に国をひとつにまとめる必要が発生した。

 家茂は国の安定のために尊王攘夷派の掃討ではなく、隠れ尊王攘夷派を含む尊王攘夷派の抱き込みを図ったのだ。

 まず、家茂は転移後の世界で、天皇陛下の呼び出しに速攻で応じて彼女の願いを聞き届けたことで朝廷と幕府の蜜月関係をアピール、自身の両翼である松平容保、松平定敬とも謁見させ、親藩及び幕府の信認篤い藩を京都守護関係職に就けることで親密なる関係と歴代将軍誰もがなせなかった禁忌である天皇家の完全なる掌握を成し遂げたのだ。

 また公式な場にて天皇の言葉、文書ではあったが家茂を信頼していると発言させて公開したことが尊王派の幕府への帰順を誓わせたのであった。

 家茂は攘夷派に対しては井伊直弼大老就任以後対立関係となっており、思想も攘夷思想に偏っていた四賢候福井藩藩主松平春嶽、土佐藩藩主山内容堂、薩摩藩藩主島津斉彬、宇和島藩藩主伊達宗城と自身の両翼である会津藩藩主松平容保、桑名藩藩主松平定敬と他雄藩藩主(福岡藩藩主黒田長知、熊本藩藩主細川護久、加賀藩藩主前田慶寧、仙台藩藩主伊達慶邦、彦名藩藩主代行井伊直憲、佐賀藩藩主鍋島直正)による雄藩賢人会議を開催。

 家茂はこの雄藩賢人会議にて日本は神国であるというナショナリズムを語り勤皇思想に理解を示しつつも外国勢力の脅威がなくなった転移後世界において自分達の以外の異人を全て打ち払う攘夷論はいかに時代にそぐわないかを熱弁し、国を開くことの重要性を語ったのである。無論賢候と呼ばれる彼らがその状況を家茂に語られるまでもなく理解していなかったわけがない。彼らとてわかってはいたが井伊直弼らガチガチの佐幕派が固めていた政権に歩み寄れなかったのである。それを察した家茂が雄藩賢人会議の開催を行い、彼らを軍事官僚・政治官僚・議会議員など重要な役職に就けることによって彼らに歩み寄り、庶民含めた日本に住むすべての人間にすべての大名が再び徳川家茂の名のもとに一つに纏まったことを宣伝したのだ。

 家茂は維新戦争中及び戦争後、幕府内の組織を大改編した。当時すでに歴史の勝者として、対立するものが全くいなかった故に家茂の慶長末期の大改革として大成功を収めた行いは歴史に名を残すことになる。

 

 

 話を戻す

 食事会の懐石は進み、北方の蟹の真蒸の御椀盛り、御造り膳には土佐の垢穢(クエ)・蝦夷地の鮭児・伊豆諸島の浜鯛・琉球の石垣鯛、大間の本鮪、明石の蛸の刺身がのせられていた。

 続いて御八寸、相模関鯖酢〆と焼き、八戸の煽り烏賊生唐墨和え、胡桃かすてら、松葉牛蒡、蓮根煎餅、北方の鱈白子揚、菊葉天ぷら、琵琶湖の子持ち鮎煮浸し。

 御焼物には周防の甘鯛松笠焼きと伊勢志摩の石焼鮑。

 御煮物に海老芋と伊勢海老煮が饗される。

 終盤の御食事には釜炊きにて、紀州の真鯛と松茸の飯、香の物、赤出汁。

 

 家茂は周囲の者達に語る。

曰く、神国日本を絶対のものとすると・・・

曰く、世界の国々を結びつけるのは徳川日本の役割であると・・・

曰く、世界の海運を握るのは徳川日本ではなくてはならないと・・・

曰く、世界の中心となるのは欧州ローマのような白色人種ではなく、アジア地域・蓬莱大陸・上都大陸の黄色人種が支配するべきであると・・・

※北新大陸→蓬莱(ほうらい)大陸へ改称

※南新大陸→上都(ザナドゥ)大陸改称

※アフリカ大陸→希望(きぼう)大陸へ改称

曰く、その牽引者こそが徳川日本なのだと・・・

曰く、自分達には世界の導き手として、よき未来を創るために世界の構築者達を選ばなくてはならないと・・・

 

 

 私人、徳川家茂は一途で、心優しい男。

 公人、徳川家茂は後の世で今の世界の骨格を作った名君、神君と称えられる徳川家茂にも欠点はある。

 

 

 

 

 

 彼は白人嫌いの黄色人種至上主義者の過激な愛国者だったのだ。

 

 

 

 

 

 最後に御水菓子には南蛮産の果物。御甘味に和菓子職人が腕によりをかけた甘味・御抹茶がならんだ。

 その頃には、大老、大政参与、老中衆、参与衆、幕府重臣、藩主議会の大物議員・国内有力商社会頭たちは家茂の演説に顔を興奮に紅潮させ完全に飲まれ聞き惚れていた。

 武士としての誇りを刺激されたのか・・・

 自身が莫大な財の上で胡坐をかく姿を妄想したのか・・・

 各地のモフっ子たちとのキャッキャウフフ妄想したのか・・・

 そのいずれでもない、何かを思い描いたのか・・・

 それは、わからない。

 

 この会席での演説でこの徳川日本と言う国の官軍民が一枚岩になったのは間違いないのだ。

 

 

 

 

 この瞬間

 一方にとっては神にも劣らない英雄が・・・

 一方にとっては史上最悪のとんでもない悪魔のが・・・

 誕生したのだ。

 

 

 

 

 家茂は誰にも聞こえないような小さな声でつぶやく

「さて、この国を途中で投げ出さない強い世界の警察にして見せよう。」

 

 





そろそろ、批判とかが怖い頃です・・・

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