仮題・・・恋姫世界に幕末日本をぶち込んでみた。 作:3番目
外交団の隊列の前方で恒興と朶思が越族側の代表と何やら話し合いをしている。
越族側の方を見てみると後ろの方で我々に対して不安そうな、あるいは不審そうにこちらの様子をうかがっている。
そちらの方に耳を立てると何やら「モフモフじゃない。」「あやしい」「ウキ」などの言葉が聞こえている。東南アジアことに大陸側の民にとってモフモフしていないというのはかなり大きい足かせになっているようだ。南方開拓団の規模がまだ小さかった頃に扶南国と交渉した幕臣が完全に信用されるまでだいぶ苦労したと言っていたのを思い出す。
ついでに言うと越族は猿っぽい獣人少女だった。
少々ピリピリした空気を感じた。
しかし、そんな空気などものともせず正質は突き進む。
「危険です!」
「こういう時は大将が先陣きって話を進めねばならないでしょう。」
近侍の制止を振り払い彼らの中に割って入る。
「これは失礼します。あ、どうも、ちょっと通りますよ。」
「なんだ、お前は?」
越族の少女が不審気に正質を見てくる。
「これは度々失礼を・・・、我々は別にあなた方に害意があるわけではありませんよ。それと、これをどうぞ。」
そう言って袋包みを渡す。
受け取った包み紙を開くと、そこにはまるで空から色とりどりの星が落ちてきたかのような不思議な形をしたものが入っていた。そう、我が国で金平糖と呼ばれる砂糖菓子であった。
「こ、これは!?」
越族の少女が驚きの声を上げる。おそらく、天の星を連想しているのだろう。未開の人は良くこの発想をする。
「これは食べ物です、甘くて美味しいですよ。」
そう言って正質は金平糖をひとつ摘まみ口に放り込む。
それを見た、越族の少女も一つ口に入れる。
「あ、甘い。」
そのまま、ポリポリと音を立てて、もう一つ、もう一つと口に入れていく。
「うっきー!潘臨(はんりん)様!あたしたちも!!」ガヤガヤ
そう言って越族の他の少女たちが集まってきて横合いから金平糖をつまんでいく。
そして、しばらくして潘臨と呼ばれる少女が他の越族の少女達に分配し終えて、こちらに向き直る。咳払いなどして、ほんの少しだけを顔を赤くしている。
「コホン!まあ、このようなものを貰ったからには無下に返すわけにはいかないな。ついてこい、5人までだ。・・・・・・・ところで、それはまだあるのか?」
「もちろん、まだありますよ。」
賄賂を渡す形になってしまったが、越族の王に会えるのだから良しとしよう。
潘臨について越族の城に案内される、松平正質・新見恒興・朶思と大多喜藩の近侍二人の5人は越族の城に入っていく。越族の城は石材の城ではなく、木材を使用したどちらかと言えば大きな砦と言った感じだが・・・
装飾品なのだろうかきれいな色の石が埋め込まれた土器や形の良い石器が並べられている貴賓室なのだろうか?
話し合いの席を設けてもらえたのだろう、ひとまずはうまく行った。
20分ほど待たされた後、金色の毛並みに覆われた越族の少女が入ってきた。
「お前達が私に会いに来たという。モフモフしてない奴らか?」
正質達を見てどこか訝しげにこちらをうかがう、金色の毛並みの越族の少女。
「日本国、あなた方が蓬莱と呼ぶ海の向こうの国より参りました、松平正質と申します。このたびの交渉における長です。」
「新見恒興と申します。このたびの交渉に置いて正質の補佐を務めております。」
「扶南国の朶思だにゃ!」
「ああ、それは知っているからな。」
金色毛並みの越族少女が突っ込みを入れる。
見た目から何となく察していたが南蛮族が10代前半の見た目で見た目どりの内面、越族は10代真ん中14・5歳くらいの見た目であった。やはり、わずかに内面が南蛮より年上な感じのようだ。
朶思のおかげで少しこの場の空気が和んだのを感じた。
「わたしは越族の王、黄乱(こうらん)だ。今回は南蛮王孟獲の親書があった故に会うことにしたが、わたし達はモフモフしていない連中は基本的に信用できない。が、話だけは聞いてやる。」
あまり、歓迎されていないようだが、ここは貢物攻撃だ。
「黄乱様、まずはお近づきの印にこちらを、我が国の菓子、つまり食べ物です。どうぞお納めください。」
「う、うむ。お前たちはモフモフじゃないのに北の連中と違って、ずいぶんと偉そうじゃないというか謙虚なんだな。」
我々の態度に妙な感情を抱いているようだ。と言うより、北の連中、ようするに漢王朝・・・どんだけ交渉下手なんだ。
自分たちは普通に接しているつもりだったが、彼女たちの比較対象があまりにも悪すぎたために我々に好感を抱いてくれているようだった。
彼女たちは私たちを侵略者か何かと思っていたようで土地を奪いに来たと思って警戒していたようだ。私たちと対話を行っていくうちに最初に見えていた素っ気なさや敵愾心はなくなったようで国交樹立に関しては快諾してくれた。通商条約も関税などの利率を理解していないようだったので恒興が丁寧に説明していくと、やはり黄乱殿は「お前たちは親切だな」等と驚いていた。さらに相互保障に話を進めると「なんと!私たちが敵に攻められたら、わたし達と一緒に戦ってくれるのか!?」等と正質の話にさらに驚いていた。そして、これらの条約を書類に記し、将軍より預かった印を押そうとすると「こ、刻印まで押すのか!?」と非常に驚いていた。
条約の調印が終わると、式典記念の宴を開くと言うことで黄乱殿に泊まっていくように言われた、すごい高待遇だ。扶南国で饗された時以上だ、良質な木材でできた卓の上には沢山の果物と動物の丸焼きがならんでいた。宴には外交団の随行者全員が招かれた。
動物の丸焼きはこういった民族にとって大切な客人や重要な客に出す料理だったはず、牛や猪などの大きな動物が出てきているところから、越族、国名は山越国側が我が国にどれだけ重きを置いたかが察することができた。
だが、それと同時に正質は越族がモフモフしていない者達に対してどれだけ信用を失っていたかが推察できた。我が国の誠実な対応が彼らに受け入れられたというのもあるだろうが、何かの拍子で我が国に対して評価が下がることもあり得る。
ここはもうひと押しか。
正質は宴が終わり締めのあいさつということで演台に立つ。
「えー、このたびは山越国の皆様に格別のお計らいを受けまして大変うれしく思います。
~~~~中略~~~~
っと、いう訳でして私、南方開拓団の外交団長であり、大垣藩藩主であります私、松平正質は最初の取引が公正に行われるのを確認するためにこの国にとどまらせていただければと思います。」
その瞬間、会場は静まり返った。外交団側からは何を勝手なことをと・・・
一方の越族側は・・・・
「日本国はそこまでわたし達に心を砕いてくれると言うのですか!?・・・・ここまで、されては我々も誓わねばなるまい!日本と山越の永久なる友好を!!」
黄乱が盃を掲げて宣言した。
それに対して山越人達は「おおおおお!!!」と言う雄たけびで返答した。