ソードアート・オンライン パラダイス・ロスト   作:hirotani

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第15話 死者には棺桶を

「殺風景な部屋だナ。本当にここに住んでるのカ?」

 ベッドと椅子と小さい丸テーブルしか置かれていない部屋を見渡して、アルゴは皮肉る。普段は置かないテーブルと椅子をわざわざ買ってきたのだから、これでも少しは生活感があると、住人であるセツナは思う。買ってきたと言っても、エギルから在庫を抱えたものを格安で譲ってもらったのだが。

「ああ」

 素っ気なく答えながら、セツナはコーヒーを注いだカップを彼女の前に置いた。アルゴはカップを啜り、顔をしかめる。

「こんなマズいものよく飲めるナ。上位ランクの豆が手に入るクエストでも教えてやろうカ?」

「遠慮しておく。不味いなら水を飲め」

 セツナはオブジェクト化させた《クリスタル氷山の雪解け水》をテーブルに置いた。

「さて、本題に入らせてもらおう」

 その声に従って、セツナとアルゴはその男に視線を向けた。灰色のローブは、いつも赤い服を着た彼に似合っているとは思えない。

「団長がここに来るという事は、余程の事なんだろう」

「おや、まだ団長と呼んでくれるのか。君はギルドを抜けたというのに」

 彼は感慨深そうに言った。その妙な貫禄のある声は、まるで数十年来の友人と話すような声色だった。

「俺のミスが招いた事だ。それに、ギルドに入っていたのも形だけだったからな」

 先月の出来事から、セツナは血盟騎士団を除名された。彼女の追跡から逃れるためだった。晴れて自由の身となったわけだが、何も変化は起こっていない。任務の内容は、フレンド登録したヒースクリフから受け取っている。

「違いない。だがやはり不便はあるな。こうして重要な話をする時、君を本部に呼べないというのは」

 彼は苦笑する。落ち着きのある笑みだ。最強の剣士と謳われるプレイヤーとは思えないほどに、荒々しさというものが感じられない。だが彼を見ると理解できる。荒々しさと覇気というものは全くの別物であると。

「おいオイ、その重要な場にオレっちを忘れてもらっちゃ困ル。本題に入れてないゾ」

 瓶の水をカップに注いだアルゴが口を尖らせた。

「話が逸れてしまったな、済まないアルゴ君」

「で、話しってのは何ダ? まさかセツナの家でお茶しようってわけじゃないだロ、ヒースクリフ」

「ああ、とても重要な話だ。《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》の拠点が分かった」

 カップを持つセツナの手が止まる。セツナはヒースクリフの顔を凝視した。相変わらず、目に宿しているものが読み取れない。

「情報はどこから入った」

「それが、はっきりとしていない。私が聞いたのはギルドの仲間からだが、その仲間も人づてに聞いたらしい。攻略組の間で噂が蔓延していた故に、出所は特定できずにいる」

「それは信用できるのか」

「確かに信用に値するものではない。アルゴ君にも確認を取ったが、彼女の持つ情報も私と同じ内容だった」

「アルゴなら、信用できるか」

 コップの水を飲み干したアルゴはかぶりを振る。

「オレっちも攻略組から聞いタ。確かめるにも危なっかしいからナ。確かとは言えなイ」

「情報の真偽を確かめるのも兼ねて、先日拠点とされる場所にメッセンジャーを送り対話による解決を図った」

 こうしてセツナの家に集まっている時点で結果は予想できるが、一応聞いておくべきか。そう思いセツナは尋ねる。

「そのメッセンジャーは」

「死んだ。黒鉄宮で、死因がPKである事も確認している」

 当然だな。そう思いセツナはコーヒーを啜る。話が通じる相手なら、セツナを動かす必要はない。ヒースクリフもそれは分かっているはずだ。それでも対話を図ったのは、ギルドの参謀職達がそう提言したからだろう。

 あの命を尊ぶ副団長も、「場所が分かったのならすぐに襲撃しましょう」なんて物騒な事を言うはずがない。

「だがそれで、情報が確かであると分かった」

「その通りだ」

 ギルド結成が宣言されて8ヶ月。《笑う棺桶》による犠牲者は100の大台を超えた。連中は次々と新しいPK手口を開発し、プレイヤー達を手に掛けてきた。

 身勝手な犯罪集団らしく、連中の殺し方には取りまとめが無い。新しいPKを試す者もいれば、その辺のオレンジギルドと同じようにレアアイテムを狙った強盗を働く者もいる。

 傍から見れば狂信者の集団だ。だがセツナは思う。彼等もまた自分達と同じ人間であると。彼等の仲間と接触し、始末してきたセツナだからこそ分かる。

 彼等にも願いがある。

 彼等にも苦悩がある。

 彼等にもエゴがある。

 そして彼等にも罪がある。

「明日、我が血盟騎士団と聖竜連合を初めとして、攻略組による討伐隊を組む。目的は《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》メンバー及びリーダーであるPoHの捕縛だ」

「討伐隊の人数は」

「計50人だ。ボス攻略に臨む戦力で、我々は殺人ギルドを壊滅させる」

 「アルゴ君」と、ヒースクリフは頬杖をついているアルゴへと視線を向けた。

「君は《笑う棺桶》に関する情報を持っているかな?」

「ああ、持っていル。前からセツナに頼まれていたからナ」

「その情報を、私に譲って欲しい。準備はできるだけしておきたい」

「そのためにオレっちを呼んだわけカ。でもタダでやるわけにはいかなイ。こちらも商売なんでネ」

 ヒースクリフは苦笑する。ちらりとセツナを横目で見る彼の意図を汲み取って、セツナはアルゴに告げる。

「アルゴ、俺にギルドの情報を渡してくれ」

 アルゴは恨めしそうにヒースクリフを睨むが、オブジェクト化させた紙の束をセツナに渡してくれた。

「あんたがここにいる時点で、金を取るところだゾ」

「済まないね。感謝するよ、アルゴ君」

 セツナは紙束をめくる。《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》メンバーの名前と特徴、記録結晶で撮った写真。写真が無い者は似顔絵。軽く目を通し、セツナは紙束をヒースクリフに渡した。

「それで、その討伐作戦には俺も参加するのか」

「そうだ。だがセツナ君には、しんがりを務めてもらいたい」

「まさか、俺が隊を率いるのか」

「いや、そうではない。隊が拠点に向かうよりも一足先に、君には拠点を襲撃してもらう」

「俺1人で、奴らの戦力をできるだけ多く削いでおけと」

 ヒースクリフは首肯した。セツナの技量を認めているからこそ、その特攻じみた命令をする事ができる。セツナなら1人でギルドを襲撃し、生還できると。

「あのギルドがどれほどの規模か分かっていない。討伐隊よりも数が多ければ、我々にとっても分が悪い」

 彼の言葉を聞いたアルゴが口を挟んだ。

「《笑う棺桶》で手練れはPoHだけだと思ってるのか? 赤眼のザザにジョニー・ブラック。他にもハイレベルのプレイヤーがいるんだゾ」

「彼ならできると、私は信じている」

「あんたの口から、そんな非合理的な言葉が出るなんてナ」

「私だって、何かを信じたいと思うさ。私達が勝てる事も、このデスゲームが終わる事もね」

 ヒースクリフはセツナが淹れたコーヒーを飲む。その不味さに顔をしかめる事はなく、ひと時の安らぎを感じているかのように、ふっとため息を吐いた。

「さて、私はそろそろ行かせてもらうよ。これから討伐作戦の会議で、この資料を皆に配らなければならないのでね。セツナ君、場所と時刻は追って連絡する。今日はゆっくりと休んで、明日に備えてくれたまえ」

 椅子から立ち上がったヒースクリフは、フードを深々と被りドアの奥へと消えていく。有名人である彼が街を出歩くには、ああして顔を隠さなければならない。裏で死神と呼ばれるセツナと通じている事を隠すために。

 窓から見える灰色のローブを着たヒースクリフは、他の人々よりも圧倒的な緊張を感じさせる雰囲気を纏っていた。

「ったく聖騎士様メ。搾り取るだけ搾り取られタ……」

「で、あんたはいつ出ていくんだ」

「せっかく来てやったのニ、それは無いだロ。酒だサケ、酒でも飲まにゃやってらんなイ」

 テーブルにうなだれるアルゴの前に、セツナは紅い液体が入った瓶をオブジェクト化させる。

「おオ! これは上物じゃないカ。お前さんこんなモン持っておきながら飲まないとは勿体なイ」

「あんた、酒を飲むような年なのか」

「少なくとも、オレっちはお前さんよりもオネーサンだゾ」

「そうか」

 とても成人、それどころか17歳になったセツナよりも年上には見えない彼女の笑みを無視して、セツナはオブジェクト化したグラスに赤ワインを注ぐ。

「お前さんこそ酒を飲む年じゃないだロ。それとも若作りカ?」

「本当にアルコールが入っているわけじゃない」

 セツナは自分のワインを注いで、アルゴとグラスを合わせる。小さな音と共に、中身が振動で僅かに揺れた。

「明日の勝利を祈っテ」

 アルゴはそう言うと、グラスの中身を一気に煽った。ワインとはそういう飲み方をするものだろうかと、まだ酒の事を知らないセツナは思う。

 セツナは自分のグラスの中で揺れるワインを見つめる。その真紅の色はこの世界で流れない血によく似ている。一口だけ飲んでも、口の中には苦味が広がっていくばかりで、血の味はしなかった。

 喉が渇いたなと、セツナは思った。

 

 ♦

 

「セツナじゃねえか!」

 頭にバンダナを巻いた男に話しかけられたのは、第50層アルゲードの街を散歩していた時だった。

 アルゴとワインを1本開けた後、明日まで持て余した時間を潰す事にした。明日に備えてフィールドでレベル上げをするのもいいが、昨日鍛冶屋に研磨してもらった剣の切れ味は明日存分に発揮してもらいたい。

「久しぶりだなあ。元気してたか?」

 図々しく、武士然とした格好の男は自分より背が低いセツナの肩を叩く。

「あんたは……、クライン」

「おお、覚えててくれたか! あれから俺達も死に物狂いで戦って生き残ったぜ!」

 クラインの周囲を、彼と同じく戦国武将のような装備を整えたプレイヤーが囲っている。このファンタジー調の世界で、彼等のような出で立ちはアルゲードの猥雑な街でも目立つ。

 このような異彩を放つ装備はNPCショップで買えるような代物ではない。この世界で華美な装飾や個性豊かな装備品はプレイヤーメイドの証であり、それを持つ者はハイレベルである事を無言のまま主張している。

「なあ、これからメシ行かねえか? 前に助けてもらった礼によ」

 以前のように即断ろうと思ったが、セツナは「ああ」と、和風の集団に着いていった。暇潰しには丁度良い。それだけだった。

 中華風の店で、クライン達のギルド《風林火山》のメンバー達は運ばれてきた料理を貪り食った。次々と料理を注文し、まるで最後の晩餐を言わんばかりに無いはずの胃袋に納めていく。この世界ではいくら食べても嘔吐しないが、だからといって食べ過ぎというのはやはりよくないとセツナは思う。パン1個でも食べれば空腹は消えるのだから、食費を削って装備代に当てるのがベストだ。

「少しは落ち着いて食ったらどうだ」

 炒飯、に似た料理をレンゲで掬いながら、セツナはクラインに言った。クラインは口に肉まんらしき食べ物を入れたまま、もごもごと答える。

「何か、食わねえといけねえって思っちまうんだよ。データを食ってるって分かっちゃいるけどな」

 食べても胃が満たされるわけじゃないと分かっていても、やはり味覚まで再現されたSAOで食事は数少ない娯楽でもある。いくら環境に慣れたとはいえ、やはり誰しも娯楽は欲しいのだ。

「ぷはー、食った食った!」

 腹をさすりながら、《風林火山》の面々は満足した顔でお茶を飲む。

「いつもこんなに食っているのか」

「いや、今日は特別だ。明日でかい戦いがあるんでな、願掛けにたらふく食っとこうってこった」

 でかい戦い。

 そのクラインの言葉の意味を、セツナは汲み取った。ボス攻略をするなんて話は聞いていないし、クエスト攻略にわざわざ願掛けをする者もいない。

 《風林火山》も、明日の討伐戦に参加するのだ。

 メンバー6人の小規模ギルドだ。1人でも欠けてしまったら大きな痛手だろう。

「何かこういうのって、死亡フラグっぽいっすよ」

 メンバーの1人がクラインを茶化す。

「うっせ! 死んでたまるかってんだ。誰も死なせやしねえさ」

 他愛もないやり取りだが、クラインの顔は真剣そのものだった。

「俺たちゃあこの地獄みてえな世界で、ここまで生き残ってきてんだ。1人でも、死んだら許さねぇ」

 無精髭を生やした野武士のような顔つきを引き締め、クラインはメンバー全員に告げた。メンバー達も黙って頷く。この男は、今まで仲間を必死の思いで守り続けてきたのだろう。その強さをセツナは素直に尊敬する。セツナは守り抜くと誓った人1人すら守れなかったのだから。

「そういやエギルから聞いたんだけどよ。セツナ、お前ェ血盟騎士団なんだってな」

「いや、ギルドは抜けた。今はソロだ」

 クラインはばつが悪そうに顔をしかめた。このデスゲームで属した集団を抜けるのは自殺行為に等しい。仲間もなく、孤独に死線を潜っていく事を強いられる。無論すき好んでギルドを抜けるような物好きはいない。ギルドを抜けるのは余程の理由だ。実際、セツナは余程の理由があって除名された。

「これからソロでいくつもりか?」

「ああ」

 クラインは物苦しそうな視線をセツナに向ける。

「ソロプレイヤーは利己的だと、あんたは思うのか」

「いや、思わねえよ。1人でいける奴は1人でいけばいいさ。でもよ、どうしても見てらんねえんだよ。そういう奴は」

「ソロの知り合いがいるのか」

「ああ、キリトって奴なんだがよ」

 またキリトか。何となくだが、彼の名前が出てくるような気がした。

「無茶ばっかする奴でよ。まるで自分を罰してるみてえに、危ねえとこにホイホイ行きやがる」

「あんたのギルドに入れようとは思わなかったのか」

「思ったさ。思ったけどよ、あいつあ1人で全部抱え込むって決めたんだ。1人で強くなって、ゲームをクリアさせるってな。男の決めた事に口を出しちゃいけねえ」

 随分と古風な考えの持ち主だと思った。女性の社会進出が進んだ現代で、男の美学というものが嘲笑されるようになったのはいつからだろうか。だが、この男の決断をあざ笑うことは誰にもできはしまい。苦悩の末の決断なのだろう。

「攻略組が強さを求める理由はそれぞれだろうよ。現実に戻りてえとか、最強って名声が欲しいとか。俺だって、女の子にチヤホヤされてえ。でも俺は思うんだよ。攻略組の皆がゲームをクリアさせてえのは、この世界にいる皆を解放させてやりてえっていう善意だってよ」

「善意か……」

「ああ、俺もこいつらを守りてえ。家に帰ってアツアツのピザを食いまくりてえよ。俺はそのために戦ってる」

 そして、クラインは眉間に刻んだしわをより一層深くした。

「だから俺は、オレンジプレイヤー共は許せねえ。攻略の邪魔をして、人の命を軽く見る連中をな」

 攻略を目指す根源は善意。

 そう説くクラインは、紛れもなく善意に突き動かされているに違いない。だからこそ、メンバー達は彼に着いていけるのだろう。

 以前読んだ小説に、人間は善い行いをするために生まれると書いてあった。

 人間のみに限らず、生物とは利他的な行為を取るものである。

 他の生物の死骸を分解し、巣へ列を成して帰るアリ。

 巣を敵から守るために、毒針を刺して自らの生存を放棄するハチ。

 個のレベルを超えて、群れに貢献する昆虫の種は多い。人間ほど複雑な思考を持たない昆虫にとって、群れを守る事は純粋に主全体を守る事。

 人間の社会で利他行動を取る事は良い事。小学校の頃、学校で良い行いをしましょうと教わった。担任はなぜなのか理由を言わない。幼い生徒からしつこく問われれば、少しだけ悩んだ末に「相手が喜ぶから」と無理矢理に納得させて。

 自分達はその教えを本能として脳に組み込まれている。それに疑問を持つことなく、自分が損をする事になっても他者のために行動する事に喜びを感じ、幸福を感じる。

 それは、人間社会ではそうしなければ生きていけないから。

 純粋に自分のためだけに生きていれば、個の利益は膨らんでいく。だが数が増えてコミュニティが形成されれば、そこに属し自己を犠牲にした方が安定性を得られる。

 コミュニティは、利他行動は、善とは、生物の進化における適応の産物。

 なら、それを妨げる利己的行動はどうだろうか。

 自己のために他者を蹴落とし、殺すというのは、集団においては自分の立場を悪くして孤立する事。生物においては最も原始的で野蛮な本能だ。

 でも、その残虐性は確かに必要だった。いつの時代かは分からないが。

 膨れ上がった集団を維持するだけの食糧や資源を維持できなくなった時、種が生き残っていくには同族を殺して数を減らさなければならない。

 人間の古い機能は、人類がまだ食糧生産をコントロールできなかった時代の名残。

 利己的行動、暴力、強姦、殺人、虐殺。それらもまた、進化における適応の産物。

 コミュニティを、社会を形成し、維持し続けるために抑圧された本能。

 PoHは、仲間達の古い本能を刺激していたのだろうか。

 奪わなければ生きていけない。

 殺さなければ生きていけない。

 女を強姦して孕ませなければ、種は存続できない。

 人間の脳には、善と悪の両方が組み込まれている。

 一見矛盾しているその2つの本能は、どちらも生きていくため。種を存続させていくため。

 男女が愛し合って体を重ねても、男が嫌がる女を無理矢理犯しても、子供は生まれる。

 愛も、暴力も、本能に規定されているのだろうか。

 目の前にいるクラインの言葉は、本能によって規定されているのだろうか。

 だとしたら、自分はどちらの本能が表層に現れているのか。セツナは思考を巡らせる。

 

 俺が犯罪者を殺すのは、ナミエの無念を晴らすため。ナミエを愛しているから。

 ナミエを愛したのは、種を存続させたいという本能だったのか。

 俺はたくさんの物語を観て読んできたが、どうしても恋愛というジャンルだけは好きになれなかった。

 恋愛感情とは性欲によってもたらされるもので、画面や文字の中にいる登場人物達が本能に支配されていると思ってしまったから。

 俺はまだナミエを愛している。それは断言できる。

 でもそれは、決して本能だけで収まるものではないはずだ。俺が本能に突き動かされていたのなら、相手がナミエじゃなくても良かったはず。純粋に種を存続させたいと願うなら、その辺にいる女に見境なく欲情しているに違いない。

 ナミエじゃなくてはならなかったのだ。俺が愛という本能を向けるのは。

 でも、そのナミエはもういない。俺にはもう、殺戮の本能しか無いのだろうか。

 俺達は他者を慈しみ、愛するよう遺伝子にプログラミングされている。

 同時に、俺達は他者を傷付け、殺すようにも遺伝子にプログラミングされている。

 古い器官でも、現代では必要なくなっても、確かにそれは俺の中に存在している。

 血の味は、その本能の現れなのだろうか。

 

 ♦

 

 並べられた指輪。宝石が付いた豪華なものから飾り気のないシンプルなものまで。

「兄ちゃん、人生で一番大事な買い物だ。いっそのこと一番高いの買っちまいな」

 中年の露天商は大粒のダイヤモンドのような指輪を眼前に突き付けてくる。

「そんな金ありませんよ」

 背後から、彼女は呆れた声色で呟く。

「指輪なんていいのに……」

「いいや、買う! 絶対に!」

 半ば意地になって、テーブルの上に並べられた指輪の値札を吟味する。露天商はため息をつき、銀色の光沢を放つ飾り気のないペアリングを差し出す。

「新婚さんに意地悪はできねえや。一番安いもんだが、これでどうだ?」

「値段は?」

「ペアで5000コルな」

「か、買います! それ!」

 「お幸せに」という露天商の声が、路地の向こうから聞こえた。

 宿屋に戻ると、彼女が差し出す左手を持ち、その細い薬指に指輪をそっとはめる。

 彼女はそれを大事そうに、右手で包み込む。

「安物で、ごめんな」

「ううん、嬉しい」

 彼女はそう言って笑顔を向ける。

 俺はこの笑顔を忘れない。

 絶対に、忘れてなるものか。

「ありがとう、セツナ」

 

 ♦

 

 こつ、こつ、こつとブーツが湿った床を小さく鳴らす。底が見えない迷宮区に浮いた床を、セツナは歩く。

 底の見えない奈落へと伸びる柱が、内側からおぼろげな光を放っている。浮遊する床をタイミングに注意しながらジャンプして渡り、マップデータを頼りに進んでいく。

 セツナのスキルで索敵できる範囲に、今の所プレイヤーの反応は無い。万が一のために用意した結晶アイテムが入っているか、ポケットの中を探る。固い感触が指に伝わってきた。

 アルゴの情報によれば、あのケロイドの男は殺人ギルドに属している。だからといって、果たしてこの先に奴がいるという確証は無い。

 これは決戦だ。

 セツナとオレンジプレイヤー。その中で凶悪であると自称するレッドプレイヤー達との。

 望んでいた事のはずなのに、セツナの気分が高揚する事は無かった。今朝はいつも通りの時間に起床し、いつも通りのレストランで朝食を食べ、いつも通りの黒コートを着て、ヒースクリフからのメッセージに書かれていた層の迷宮区へと足を運んだ。

 ヒースクリフは今日の作戦には参加しないらしい。彼がいれば百人力だが、万が一という事もある。最強ギルドのリーダーでありプレイヤー達の希望であるヒースクリフが、薄汚い犯罪者に殺されるなんて事はあってはならない。

 セツナは至って冷静だ。冷静に目標を殺す事を思索し、そこに喜びも悲しみも介在していない。

 完全に普段通りだ。

 多分、この任務が最後とは思えないからだ。最凶最悪のレッドギルドを潰したとしても、セツナの仕事はこれからも続く。全てのオレンジプレイヤーを殺すまで、セツナの仕事は終わらない。

 この気持ちを形容するとしたら、どんな言葉が相応しいか。これまで観てきたどの映画のシーンに似ているか、セツナは見つけ出す事ができない。

 記憶を探っているうちに、目的地へと着いてしまった。迷宮区の最深部、ボスの間に。

 フロアボスは一度しか現れない。ボスが倒された後の部屋は寄る価値なしと放置される。

 情報通り、そこには数十人規模のプレイヤー達がいた。ある者はウィンドウを操作し、ある者はソードスキルを反復練習し、またある者は何もせず薄ら笑いを浮かべている。

 セツナは彼等の装備を見やる。殆どの者がフード付きのポンチョを身に着け、フードで顔を覆い、中には仮面や布袋を被る者もいる。それがホラー映画の真似事のように思えて仕方ない。

 布袋を被ったジョニー・ブラックは「13日の金曜日」の2作目でのジェイソンに見えるし、骸骨の仮面から赤い眼を覗かせる赤目のザザは「ターミネーター」のT-800に見える。

 ホームレスでもまだ清潔に思える彼等の手甲や靴に、笑みを浮かべる棺桶のエンブレムが見える。

 今年に入って8ヶ月で100人以上をPKした殺人ギルド。

 オレンジプレイヤーの中でも凶悪であると自称するレッドプレイヤー集団。

 笑う棺桶(ラフィン・コフィン)

 彼等は自分達の縄張りに入ってきたセツナに気付いた。

「なあ、こいつどうやって殺す?」

「この前のさあ、新しく見つけた技、あれ使おうよお!」

 セツナは広いボスの間にいる彼等をざっと見渡す。少なくとも50人以上はいる。全員のカーソルがオレンジのようだ。グリーンは見当たらない。

「聞きたい事がある」

 セツナの声がボスの間の壁に反響し響き渡る。この中にいるかもしれない、ケロイドの男に向けてセツナは問う。

「去年の2月、27層で少女を殺した事を覚えているか」

 訳が分からない。何を言っているんだ。無言のまま、彼等はそう言っているように見える。やがて、群衆の中から「知らねえよ!」という声が聞こえた。

 そうか、知らないか。

 セツナは震える。ボスの間に笑い声が響いた。《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》の面々はその音源に視線を向ける。困惑の視線なのか、軽蔑の視線なのか、それとも好奇の視線なのか。セツナにはどうでもいい。

 セツナは笑った。天井を仰ぎ、両手を広げ、喉が焼けそうな程に声を張り上げて。口が裂けそうな程に大きく開けて。笑い過ぎて吐き気がしたが、それでも笑い続けた。

 

 ナミエ、聞いたか。

 こいつらは、俺達の苦しみを知らないそうだ。

 そうだろうな。こいつらにとって、お前は100人以上殺した人間の1人なんだからな。

 俺が罪を自覚しているのに、こいつらは罪を自覚していないんだ。

 滑稽だろう。

 自分で勝手に背負っている俺が馬鹿馬鹿しいだろう。

 ああ、喉が渇いた。

 渇いて渇いて渇いて仕方ない。

 

 込み上げてくる笑いを空っぽになるまで吐き出して、セツナは頭を垂れる。そして、上目遣いに殺人鬼達に視線を向けて呟く。

「それでいい……」

 群衆の中から1人が剣を抜いて歩いてくる。それを視界に収めながら、セツナはフードを被る。対峙する彼等と同じように。

「それでこそ、俺は心おきなくお前達を殺せる………」

「何をゴチャゴチャ言ってんだ!」

 近付いてくる1人が、刃こぼれした剣を振り下ろしてくる。圏内に行けないから、殆ど手入れされていないのだろう。

 セツナはハーディスクラウンの柄を握り、目の前にいるポリゴン体の首に抜いた刀身を滑らせる。体から離れた顔が、「え?」と呟くのが聞こえた。一呼吸置いて、体と頭が砕け散る。

 ごくり。

 セツナは唾を飲み込む。口の中に広がる血の味が、喉を伝っていく。

 まだ足りない。まだ渇く。

 セツナは剣を左手に持ち替え、右手で鞘をホルダーから抜いた。鞘の先端に付いた刃が、ボスの間の松明の炎を反射して妖しげな光を放つ。

 右手に剣を、左手に鞘を。

 擬似的な二刀による剣技。

 エクストラスキル、《疑似二刀流(ぎじにとうりゅう)》。

「イッツ・ショーウ・タァーイム!」

 艶やかな美声が、オレンジカーソルの群れから聞こえてくる。

 それを開戦の合図とするように、《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》達は一斉に駆け出した。

 迫る剣。迫る斧。迫る槍。それらの目標はセツナ1人だけ。

 彼等の得物がセツナの体を突き刺す時、そこにセツナはいなかった。周囲を見渡す彼等に影が落ちる。

「上だ!」

 そう叫んだ男の口に、落下と共にセツナはふたつの刃を突き刺す。刃に両目から体を串刺しにされた男の絶叫が耳孔を震わせる。男がポリゴンを散らす前に、セツナは次の標的に向けて跳躍する。

 13、14、15。

 ボスの間にダイヤモンドダストが煌めく。セツナを中心として。

 消滅させた数を数えながら、セツナは彼等の顔を1人毎に見る。剣を折られた男の驚愕した顔に、鞘の刃を突き刺し腹まで捌く。

 違う。

 背後から迫るノコギリのような武器を鞘で防ぎ、がら空きになった胴に剣を一閃する。腹から内蔵が零れるわけでもなく、血の代わりに赤い光点が散る。その腹に、追撃として光を纏った蹴りを入れる。

 違う!

 目の前に現れる者を消していきながら、傷跡を持つ者を探す。

 メイス使いを消した時、背中に衝撃が走った。視界のHPバーが僅かに間隔を狭めていく。

 背後にいる大剣使いの得物を腕ごと斬り落とし、その顔を踏み台として跳躍した。筋力パラメータの補正によって高く飛び上がり、壁に着地しそのまま駆けていく。

「ヒール」

 壁を走りながら、回復結晶を使いHPバーの長さを戻す。走りながら敵の群衆を見ると、扉へと彼等が雪崩れ込んでいるのが見えた。

 セツナは壁を蹴り、落下の勢いに抵抗しながら剣を構える。着地と共に体をスピンさせ、赤いライトエフェクトを纏った2振りの刃を横薙ぎに振った。

 擬似二刀流剣技《クリムゾンサークル》が描いた紅色の円形模様に触れた者達が消滅する。持ちこたえた重装備の斧使いには片手剣技《斬鉄剣(ざんてつけん)》で消滅させた。

 半分以上は逃げられてしまったが、それは討伐隊が相手をしてくれるだろう。

 開け放たれた扉の前に立つ。退路を断たれた殺人鬼達の殺意を一斉に浴びながら、セツナは宣言した。彼等のリーダーと同じように。

「ショータイムだ」

 ボスの間には、その後も悲鳴と咆哮と、時に哄笑が響いていた。それらが止んだのは、セツナが最後の1人に15連撃のソードスキルを放った時だった。

 飛散するポリゴンがひとつ残らず消えていく様子を見届ける。結局、殺した中にケロイドの男は見つからなかった。

 こつ、と靴が床を叩く音が聞こえた。セツナは音が聞こえた扉を見やる。通路の光を背景に、コートをなびかせた男が立っていた。

 カーソルはグリーン。それ以上に、男の出で立ちの方に視線が向いてしまう。

 黒い髪。黒い瞳。体のシルエットを隠す黒いコート。右手で握られた黒い剣。

「お前……」

 男、というより少年というべきそのプレイヤーは、セツナの両手に握られた刃に驚愕の視線を向けている。

「ラフコフのメンバーか?」

 少年の問いにセツナは答えない。セツナもまた、少年に困惑を抑える事ができなかった。まるで鏡でも見ているようだった。

 街で見る建物の窓、湖の水面、結晶アイテムの表面。それらに映る自分の顔を見ているようだった。顔立ちは似ても似つかない。少年は少女と言っても通じる。だが彼の纏う雰囲気。暗闇を求めようとするその妖しさが、セツナに通じるものがある。セツナが犯罪者狩りを続けていくうちに身に着けていったものを、少年も身に着けていた。

 少年はウィンドウを素早く操作し、閉じると同時に走り出した。敏捷度が高いようで、離れていた距離を瞬く間に詰めていく。

 少年が振り上げた剣を、セツナは剣と鞘を交差させて防いだ。2人の間に火花が散り、黒光りする剣の奥に少年の闘志を宿した瞳が見える。その瞳を長く見る間もなく、追撃が来た。右手の剣で鍔迫り合いをしたまま、少年は左手で白亜の剣を振り下ろしてきた。

 戦慄が走ると同時に、咄嗟にセツナは少年の黒い剣を弾き、バックステップを踏んだ。少年の白い剣が空を切り、地面を叩く。

 地面を蹴った少年の二刀が迫り、接触する寸前でセツナは跳躍した。空振りした少年の背後に着地し、ハーディスクラウンの刃と鞘を振るも防がれる。その衝撃で、セツナのフードがはだけた。少年はセツナの露になった顔を見て目を剥く。相手をしているセツナが思いのほか若いからか。それともセツナと同じものを彼も感じたのか。

 数瞬の均衡の後、互いの剣を弾いた両者は剣をぶつけ合った。正に一進一退で、両者とも互いに攻撃をヒットさせる事ができない。

 防御と攻撃を繰り返しながら、セツナは混乱を押し殺そうと少年の剣戟に集中する。

 《疑似二刀流(ぎじにとうりゅう)》の出現条件は分かっていない。今年の4月、何気なくスキルウィンドウを見ていたら何故かあったのだ。その頃には片手剣系統のスキルをほぼ完全習得していたため、どのスキルを修行すれば習得できるのか分からなかった。

 セツナ以外このスキルを持つプレイヤーは、今のところ現れていない。だとしたらこのスキルは《ユニークスキル》と呼ばれるものだ。習得者が1人しかいない、全プレイヤーの注目で集めるスキル。

 下手に注目を集めるわけにもいかず、スキル修行は人目のない所で行ってきた。まだ完全習得には至っていないが、実戦で使いこなせるようになっても危機的状況に陥るまでは使わなかった。

 疑似と名前に付くのだから、もしかしたら本物の《二刀流》を持つ者がいるのではないかと予想はしていた。

 その本物を相手にして、自分の剣技の弱点が浮き彫りになっていく。

 《疑似二刀流(ぎじにとうりゅう)》はあくまで疑似的なものだ。《二刀流》を形だけで再現しているに過ぎない。革製の鞘は勿論武器として使えない。スキル発動に使える鞘は木製か金属製に限られる。しかも、鞘自体の攻撃力なんて《ひのきの棒》程度で、実際の使い道は防御くらいだ。ハーディスクラウン専用に作った鞘は武器カテゴリでは槍に属すようで、刃が無いよりはましだが扱い方に難がある。使いこなせるまでかなり労力を使った。

「うおおおおっ‼」

 雄叫びと共に振り下ろされた少年の重い一撃を受け止める。少年は攻撃重視のようで、一撃だけでも食らえば並のダメージでは済まない。防御できたとしても、剣と鞘の耐久値が削られていくのが分かる。先に悲鳴をあげたのは鞘の方で、何度も刃をぶつけて刃こぼれを起こし始めた。

 長期戦に持ち込まれると負ける。

 少年の剣を弾き、間合いをとったセツナはソードスキルの構えに入る。少年も両の剣を左右に広げる。

 計4本の刃が光を纏い、セツナと少年はシステムに体を委ねて駆け出した。

「キリト君!」

 その声がボスの間に届いた瞬間、両者の動きが止まった。システムに抗ったせいで動けなくなる。数秒の硬直時間が解けた瞬間、セツナは少年の腹めがけて右足を叩き込む。剣で防がれたが、衝撃までは防ぎ切れなかったようで少年の華奢な体が突き飛ばされた。

 数瞬だけ宙を舞い、本物の《二刀流》使いは咳き込みながら床に倒れる。

 

 キリト。

 聞き覚えのある声から出た名前。

 名前だけ俺の前に現れて、ずっとその影を感じていたプレイヤー。

 そうか、お前がキリトか。

 確かに、似ていると言われるのも納得できる。お前も罪を抱え、光を拒絶している身だろう。

 でも、お前は俺とは違う。剣を交えたからこそ分かる。

 お前はまだ希望を捨てていない。

 拒絶していても、お前は光を求めている。

 それを得るために、闇を斬り拓こうともがいている。

 

 声と共に聞こえた小刻みな足音が徐々に大きくなり、やがて扉に人影が現れた。

 セツナは剣を鞘に納めてホルダーに差すと、転移結晶をポケットから出して呟いた。

「転移、モレノ」

 視界が光に覆われる直前、セツナの目には栗色の髪をなびかせた少女の姿が映っていた。

 

 ♦

 

 アスナは地面に伏したキリトに駆け寄る。HPは減っていないようだ。何やらウィンドウを操作していたようだが、そんな事はどうでもいい。

「キリト君、大丈夫?」

「ああ………」

 鈍い動作で立ち上がるキリトはひどく疲れているように見えた。当然だ。さっきまで凄惨な戦いに明け暮れていたのだから。

 討伐隊が《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》の拠点に向かう途中、アスナ達を取り囲むように彼等は現れた。まるでアスナ達が来る事を知っていたかのように。彼等は問答無用で討伐隊に襲いかかり、その場で乱戦になった。

 一体何があったのか、彼等は半狂乱のようだった。がむしゃらに武器を振り回し、その気迫に押されて多くの仲間が犠牲になった。アスナも必死で戦った。仲間を気遣う余裕もなく、自分の身を守る事に精一杯だった。《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》側も討伐隊以上の犠牲を出し、その末に生き残ったメンバーを捕縛し戦いは終わった。

 捕縛が完了してすぐ、キリトが「悲鳴が聞こえる」とボスの間へと走り出したのだ。すぐに戻ると言っていたから待っていたのだが、やはり心配になって様子を見に来た。

 走っている間、アスナは妙な胸騒ぎを感じた。いや、この作戦が始まってからずっとだ。討伐隊の中に、彼の姿が無かったのだ。

 それは当然な事。彼はもう血盟騎士団のメンバーではない。ソロプレイヤーに転向したとしても無名だ。

 ただし、それは表向きでの事だ。

 彼は必ず現れる。殺人集団を壊滅させるために、この迷宮区に来るはずだと、アスナは確信していた。

 戦っている間、彼の姿が一瞬も無かったのがむしろ不安を煽った。《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》達のあの狂乱ぶり。まるで恐ろしい目に遭ったかのように、怯えている者もいた。

「キリト君、あの人と戦ったの?」

 キリトは剣を背中の鞘に納めながら答える。

「ああ、ラフコフのメンバーだと思ったけど、違うみたいだ」

「違うって?」

「多分、あいつはここでラフコフと戦っていた。あいつは……、死神だ」

 アスナは口を固く結んだ。開けば、嗚咽と涙が溢れそうだった。

 また、止められなかった。

 怖れていた事が起こってしまった。

 彼はまた、罪を重ねてしまったのだ。

「戦って、どうだった?」

 悲哀を悟られないよう、アスナは尋ねる。キリトは「うーん」と頭をかきながら、釈然としない様子で言った。

「強かったよ、とても。でも……」

「……でも?」

「悲しいなって、思った」




 やっぱキリト君は出した方がいいかなと思い、今回出しました。何か状況的に無理矢理な感じでしたが。
 良かった。今回出さなかったら完全に空気になるとこだった(汗)。

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