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「なんてこった! なんてこった!」
芹澤が狂ったように声を上げる。
彼はノートパソコンが置いてあった机を拳で叩き、それから髪をわしゃわしゃと掻いた。
「なんだ、この文書は!? ほとんど無意味じゃないか!! 俺は勘違いをしていたのか!!」
僕は椅子にくくりつけられたまま、芹澤を睨みつけて言った。
「だから言っただろう、お前の求めているようなものではないと。お前の行動はむしろ藪蛇だったんだ」
「くそっ!」
「もう大体察しはついているぞ。文書に書かれていた古い友人とは、お前の事だろう芹澤?」
芹澤が黙り込む。
今度は彼の目線が僕を睨みつけた。
冷たい、乾いた目線だった。
「否定をしないんだな。あの文書を読んだ時、古い友人とは誰なのかが気になった。高田や蓮田さんじゃないのは確かだ。
彼らは何も知らない。高田に関してはこの件に関わることを躊躇してさえいた。
そこで思い出したのがお前だ。お前は、若い頃に篠崎代議士とかなり仲が良かった。
その上に、お前は戦車道や学園艦利権と繋がりがある。篠崎代議士を撃ったのは、おそらくは学園艦利権に絡んだ反社会的勢力だ。
そしてそれは、10年前に私の携帯を撃ち抜いたのと同じか近しい団体だ」
「黙れ、このくそが」
「黙らないぞ。これは私の推測だ。私は刑事でもなんでもない。だから、考えたときはまさかそんなと思った。
だが、実際にお前がこうしてやってきた。ビンゴだった。
お前は、篠崎代議士に忠告した。だが篠崎代議士は忠告を聞かなかった。そして殺された。問題はそのあとだ。
お前は篠崎代議士がメッセージを残していることを知った。そこに告発文が書かれていると思ったんだ。それが表に出ると、お前の立場が危うくなる。
もともとは篠崎代議士を助けるために事態を教えたのだろうが、篠崎代議士が死んでしまった今となっては、お前にとっては全く無意味だ。それどころか自分が危険になるだけだ。
それでメッセージを消しに来た。そうなんだろう?」
「…………」
芹澤は黙っていた。
僕は声を荒げた。
「そうだと言えよ!!」
僕の声に対応するかのように芹澤がもう一度強く机を拳で殴った。
「あぁ、そうだよ、その通りだ! 俺が篠崎に情報をリークした。
なのにあいつは俺の忠告を聞かなかったばかりか、勝手にメッセージを残しやがった!最低な卑怯者だと思った。俺を殺す気なのかと思った。
このマンションのことは知っていた。俺が篠崎に情報を伝えたのもここでのことだ。
なんとかしてメッセージを消そうと思った。それが……くそっ! 俺の危険を想ってだと!? メッセージをすべて消して書き直しただと!?」
「お前は馬鹿だ。お前の行動はかえってお前が関係者だと知らせることになったんだ」
「くそっ!」
僕は芹澤の顔を見据えて言った。
「お前が関わっていること、そして与党である熱政連も学園艦利権と根が深いこと。お前が与党の議員に陳情に来ていたこと。
これらを考えれば、大方予想がついてきた。
お前ら国家刷新党あるいは『新しくする会』は、政府与党と同じ政治グループだ。
お前らは、表向き威勢のいいことを言って政府を批判して改革派を気取っているが、 法案審議ベースで見てみると、ほとんどの与党案に賛成だ。
さらには、政府が表だって提案しにくいようなダーティな案件を自ら法案として提出し、政府がそれに乗る形で採決に持ち込んでいる。
お前らは、野党よりも先に政府批判をしてガス抜きをするプロレス的役目と、政府が口に出しにくい利権がらみの提案を外部から出た形で法案審議に乗せることが目的のトンネル政党だ。
上ではすべて与党と話がついているんだ」
「そんなもの、お前の妄想だ」
「妄想じゃない。真実だ」
僕がはっきりと彼の瞳を見据えると、芹澤はあきらめたかのように盛大にため息をついた。そして、口元に小さな笑みを浮かべた。
「…………廉太君、やるじゃないか。正解だ。思ったよりも頭が冴えてるじゃないか」
ゆっくりと僕に近づいてくる。
「篠崎の奴は、馬鹿なんだ。党内で敵ばかり作るから、横の繋がりが見えていなかった。彼は裸の王様だったんだ。
彼は学園艦および戦車道の利権を潰そうとしたが、それは手を出すべき分野ではなかった。それは熱政連の一部の連中の利権ではない。国を挙げての大きな利権なんだ。
中途半端な正義や自分の発言力の補強のために手を突っ込んでいい分野じゃなかったんだ。
なぁ。篠崎がなぜ、死を受け入れたかわかっているか?」
「それは……わからないが」
「篠崎を殺せと命令した連中。それは彼の対立陣営ではないぞ」
「え?」
「むしろ、彼の派閥の幹事長だ」
続く