転がり落ちてきたプラスチックのカードを手に取る。
「なんだ、これは?」
それはホテルなどで使用されるカード型のルームキーに見えた。
レコードはただのレコードだった。
となると、篠崎代議士が僕に渡したかったのはレコードではなく、これではないだろうか。
だが、カードだけがあっても何もわからない。
何かメッセージのようなものがないとどうしようもない。
僕は再びレコードジャケットを手に取った。
中に入っていたライナーノートを取り出す。
だが、そこにはそれらしいメッセージは何も書かれていない。
空になったレコードジャケットの内部に、何かが見えた。
内側に、薄いメモ用紙がセロテープで張り付けてあった。
これだ。
僕はメモ用紙をそっと指ではがした。
予想通り、それは篠崎代議士からの伝言が書かれた紙だった。
『辻君。覚えているか?
俺の所有しているマンションの一室を。
このカードは、マンションのカギだ』
篠崎代議士らしい丁寧な筆致でそのように書かれている。
僕は、以前、篠崎代議士にマンションの一室に呼ばれたことを思い出した。
あれはどこだっただろうか。
そして、いつのことだったか。
このところ、目まぐるしく色々なことが起こりすぎて、記憶が混乱していた。
マンションの一室に招かれたことはずっと遠い昔の出来事のように感じられた。
だがよく思い出してみると、それはほんの数か月前のことだった。
フィリピンの学園艦事故の直後に呼び出されたのだ。
あれはたしか……杉並区だった。
だが、マンションの名前まではうまく思い出せない。
僕はこめかみを撫でた。
○○エステートだったような記憶はある。
パソコンを起動させ、インターネットを開く。
≪杉並区/マンション/エステート≫で検索をかける。
大量の物件が検索画面に出てくる。
エステートという名前を冠したマンションはあまりにもありふれたもののようだ。
エステートの意味は、地所や団地、動産だ。
マンションの名前としては、あまりにもありふれている。
僕は舌打ちをした。
唯一の手がかりは、エステート○○ではなく、○○エステートだったという記憶だ。
そして、確か、杉並という言葉は入っていなかった。
地名が入っていないな、と思った記憶がある。
検索の上位に挙がってくる名前のほとんどは例えばエステート高円寺のようにエステート○○だ。
これらを除外していくと、おのずと限られてくる。
それと同時に、画像検索も利用した。
外見はぼんやりとだが覚えている。
15階建ての高層マンションだったはずだ。
低層や団地のようなものは除外できる。
そうしていくと、残ったものは、外ノ池エステート杉並という、外見の出てこなかったマンションと、シャイン・エステート・セガミというマンションだった。
ほぼシャイン・エステート・セガミの方だと思った。
が、一応、確認はしておきたい。
僕は、時計を見た。
まだ夜の22時だ。
一応、薄手のジャケットを身にまとい、外に出た。
駅前でタクシーに乗る。
まずは外ノ池の方をあたった。
明らかに外見も方向も、記憶と違っている。
そのまま通り過ごし、今度はシャイン・エステート・セガミの方へと向かった。
ビンゴだ。
数か月前、篠崎代議士に連れられて訪問した、マンションにたどり着いた。
続く