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翌日、仕事の合間を縫って、シャッターに書いてあったステレオ・ジャックの電話番号をコールしたが、無駄だった。
誰も出ない。
コール音だけが空しく鳴り響いていた。
まるでかたちのない闇に向かって電話をかけているような気分だった。
僕は昨日よりも早く仕事を切り上げ、省庁を出た。
僕はもはや仕事の上ではレームダックだ。
さっさと退庁しようと咎める者はいなかった。
再び八王子駅に着いた時、今度は18時45分だった。
昨日よりも少し早い。
それに今回は店までの道をきっちりと頭に叩き込んでいる。
確実に19時30分よりも早くつける自信があった。
そして事実、僕はステレオ・ジャックに19時10分にたどり着いた。
だが、またしてもシャッターは閉まっていた。
シャッターに、定休日毎週月曜日と書いてあった。
明らかに今日は木曜日だった。
僕は舌打ちしながら、シャッターに書かれている電話番号をまたコールした。
相変わらず誰も出なかった。
ほんの少し。
ほんの少しでいいから、心を落ち着けたかった。
隣にある、昨日のケーキ屋が目に入った。
僕はほとんど条件反射のように、ケーキ屋のドアをくぐっていた。
「あ、昨日のお客様」
例の女の子が少し驚いたように声を上げた。
「今日も来てくださったんですね。ありがとうございます。近くにお住まいなんですか?」
僕は首を振った。
「いいや。僕が住んでいるのは都内だよ。昨日と同じで、今日も空振りだったんだ。何度来ても目的が達成できない」
女の子が不思議そうに首をかしげた。
「お客様はいつも背広ですから、お仕事でどこかを尋ねているんですよね? アポイントメントをとっているのに会えないということですか?」
僕は苦笑いした。
「いいや。急いでいるから、職場からそのまま来ているだけなんだ。仕事じゃなく、プライベート。極めて個人的な用事だ。約束は取り付けていない。ただ、そこにいるはずの人に会えないだけさ」
女の子が、僕に尋ねる。
「こんなこと聞いていいのかわかりませんけど。この近くの方ですか? 町会の付き合いとかで、私、知っているかも」
そうか。
考えてみれば、彼女からすればステレオ・ジャックは隣の店舗だ。
何か知っているかもしれない。
「ステレオ・ジャックというレコード店だよ。ここのすぐ隣の。店主さんに用事があるんだけど、いつも閉まっているんだ」
「え?」
女の子が素っ頓狂な声を上げる。
「うちのお父さんに何か御用なんですか?」
今度は僕が間抜けな声を出す番だった。
「お父さん?」
「はい。隣のレコード店は、父がやっていた店なんです。今はほとんど開店休業状態ですけど。呼んできましょうか?」
思わぬ収穫だった。
まさかこんな偶然があるとは。
僕はぜひ呼んできてほしいと言った。
続く