高まった気持ちを一気にまくしたてる。
もう止めることはできなかった。
本来、議員に対して使うべきでない強い口調で、憶測による糾弾のようなものをしてしまっている。
僕は気が飛んでしまいそうだった。
だが、篠崎代議士は笑っていた。
「なんだ、辻君。ちゃんと想像力を働かせることができるんじゃないか」
彼は心の底から面白いというように笑っていた。
「俺は君のことを、もっと人形みたいなやつだと思っていたよ。いいね。血の通った怒りの声だ」
「ご、ごまかさないでください!」
「ごまかしてなんていないさ。君の想像通りだよ。ほとんどそのままだ。そうだよ、今回の件は煎じ詰めていえば怨恨だ」
「そんな……」
僕は首を振る。
嘘だと否定してほしかった。
「だが、政治の世界なんてそんなもんだ。前に教えただろ? 情と利で動くんだ。そこに理はほとんど介入してこない。これまでずっとそうだったんだぞ?」
「代議士は、ずっとそうだったというんですか?」
「いいや」
篠崎代議士が首を振った。
「君と仲良くなった頃はそうじゃなかった。俺は若く、使命に燃えていた。
いったい何をすべきかもわかっていなかったがね。とにかく何かをやりたかったんだ。だが、そう言った直情と正義感のおかげでこれまで何度も失敗してきた。俺は学んできたんだ。何かを成し遂げるには、理なんて必要ない。情と利だ、と」
「代議士、でも、それでは政治はおかしくなってしまいます」
「違う。政治は前からそうなんだ。そういうシステムなんだ。例えば俺一人がいくら正義感面をして、正論を振りかざしたって、何一つ通らないんだ。
政治の世界で、何か大きいプロジェクトをしようと思えば、多数決をとらなければならない。そのためには、清濁飲み込んだ人間になる必要があるんだ」
僕は首を振った。
「そんな。それは違います。今回の案件。それのどこが正しいことなんですか? 多数決をとったとしても、怨恨に過ぎないじゃないですか」
「馬鹿にするなよ!」
篠崎代議士が語気を強めた。
「俺はただ単に玉田に復讐をしたいのとは違う! いいか、これは権力闘争なんだ! 俺が玉田を蹴落として、要職に就くことができれば、俺は発言力を増す。そうすれば、俺はもっと、自分の正しいと思う施策を打つことができる。
俺はその地位にのぼりつめたいんだ。学園艦削減案が正しいかどうかじゃないんだ! わからないのか!?」
「そんな、でも……」
「辻君。君は大人のふりをした子供だ。典型的な役人のタイプの一つだ。役人は2種類に大別できる。
小賢しく世渡りをするタイプと、楽をして世間を見ずに自分の甘えた正義感の世界に浸っている奴だ。民間で働いてみろ。君みたいな人間はすぐに淘汰されるぞ」
その言葉に、僕の中の何かがはじけた。
「馬鹿にしないでください!」
僕は声を荒げた。
「僕だって、苦労してきました! 幾つも嫌なことを体験してきた! それなのに!」
「ふざけるなっ!!!」
篠崎代議士が応接セットを蹴り上げた。
「騙し騙されの政治の世界にいる俺の何がわかる! お前みたいな役人に!」
彼は僕のシャツをつかむ。
「馬鹿にしているのはお前だ! 誰のおかげで今の地位にいると思っている? 自分でものを考えないお前なんて、俺が引き上げていなかったらとっくに左遷組だぞ!!」
「そ、そんな……」
シャツから手を放すと、篠崎代議士が吐き捨てるように言った。
「本当だ。君は局長どころか、もっと前に出世ルートから外されている予定だった。40代で天下りという形で企業に配属させられるのがオチだったんだ。
正直に言おう。何年も前の義務教育施設統廃合プロジェクト。君の評価は本当はチームで低いものだった」
「え?」
そんな?
僕はあのプロジェクトチームで評価されて、こうして出世コースを歩んできたのではなかったのか。
続く