辻さんの人には言えない事情   作:忍者小僧

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56 根回しの難しさ

山下が出て行った後、インターネット検索で熱政連のホームページにアクセスした。

そこには所属する議員のリストが掲載されていた。

各議員の中には自身の後援会のホームページへ飛ぶことができるようにリンクを貼っているものもあり、後援会のホームページでは後援会長の挨拶文が掲載されている場合もあった。

もちろん、後援会会長の肩書も載っている。

調べれば簡単にわかることだった。

そんなことにすら頭が回らなかった自分自身を恥じた。

それから、深夜でも電話に出てくれそうな部下を選んで、電話をかけた。

熱政連を知っているかと問いかけると、もちろん知っていますよという返事だった。

世間知らずなのは僕だけだったのかもしれない。

嫌な考えが浮かんだ。

ずっと教育畑にいて、教育の事しか興味を持たず、世間知らずな男。

そんな辻は、何もわからないまま言うことを聞くだろう。

篠崎代議士は、そう考えていたのではないか。

もしそうだとしたら僕は彼に良いように利用されていることになる。

いまさらながら、2,30年前の山下の言葉がリフレインした。

 

「お前、良いように利用はされるなよ」

 

僕は傍から見ればそんなに危なっかしかったのだろうか。

そして今も変わらないのだろうか。

 

「いまさら俯瞰で考えろと言われても、どうしろというんだ……」

 

唇をかんだ。

足元の地面が砂になってしまうような錯覚があった。

 

 

翌日、なるたけ他部署の情報収集を心がけようとした。

だがそれを一体どうするべきなのか見当がつかなかった。

局長室のソファに座り込み、考えた。

これまで庁内で出会った「社交的」といえる人物たちの行動を思いだす。

彼らは時折、さしたる理由もなく他部署にやってきて「やぁ、調子はどう?」というように話しかけてくる。

そして短い雑談をして去っていく。

時折、思わぬ長話になり、どこかの応接を使わせてもらうこともあった。

あるいは、定期的に飲み会のようなものにあれこれ理由をつけて誘う者。

研修会や勉強会を先導するもの。

やり方は様々だ。

僕も付き合ったことがある。

だが、自分からそうした行為をしたことがなかった。

今までろくに他部署のフロアをウロチョロしたことがない僕が急に訪ねて行っても、怪しまれるのがオチだろう。

根回しと同じだ。

長い年月をかけて形成された人間関係やキャラクター性が必要なのだ。

 

 

それからも僕は度々、熱政連に属する議員連中に呼びつけられ、統合案についての明確な数値目標や根拠を問い詰められた。

ひと月が経つ頃には、他のグループの議員からも疑問を呈されることがあるようになっていた。

彼らは口汚く僕をののしり、長時間拘束し、罵倒した。

強く机をたたき、拳を振り上げるふりをする者もいた。

 

「辻は持たないぞ。グロッキーだ」

 

そんな声が聞こえてくるような状況だった。

だが、運命はどう転ぶかわからない。

翌週の日曜日、大変な事件が起こった。

それは遠い海の向こうで起こった事件だったが、確実に日本の学園艦教育行政にも波紋を広げる出来事だった。

 

続く

 





ようやく、長い物語も最後の山場に突入致します。
頑張って書いてまいりますので、どうかお付き合い下さい。
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参考にして面白くできるよう努力いたします。

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